タイトル:【BV】迷子の迷子の‥‥マスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/26 02:46

●オープニング本文


●奇妙な依頼

※ これらの依頼は、依頼主の依頼を文字通りに成功しない方がULTの評価が高まる場合があります。

 ――ラスト・ホープ内、商業施設エリア付近にて、不審者を発見。
 素性を問いただしたところ、逃走した模様。
 対象は『銀狐の耳がついたパーカーのフードを被り、銀狐の尻尾風アクセサリーを腰からぶら下げた青年』、一名。
 時おり何かを口走っているが、意味は不明である。
 至急、確保されたし――。

「‥‥あれ? これ、いいのかな」
 依頼の情報に目を通した受付担当は、首を傾げた。普段ならばULTの依頼掲示板に来る前にはねられるレベルの妙な依頼に思えたのだ。しかも、これが唯一と言う訳ではない。そして、問題になるかどうかのライン引きは慎重に行われている気配があった。明らかに作為を感じる動きだ。
「どうしたんだろう。何か上で起きて‥‥あ、こんにちは。申し込みはこの任務ですね?」
 職員は内心で首を傾げつつ、今日も笑顔で職務を遂行するのであった。

●ティラン、追っかけられる
 植え込みの影から、ひょこんと黒く狐っぽい耳が覗いた。
 右と左を窺ってから、耳はコソコソと植え込みの影にそって移動する。
「不審人物、発見!」
「あそこですー!」
 あがる声に振り返れば、数人の少年少女達が彼を指差しながら追ってきた。
 制服、私服は混ざっているが、いずれもカンパネラ学園の生徒である。
 もっとも、追われている側はそんな事など全く知らないが。
「ちょ、まwせdrftgyふじこlp;@!? 何故、こうなったのであるかーッ!!」
 あわあわとティラン・フリーデンは人ごみを分け、ラスト・ホープにあるショッピングモールへと逃げ込んだ。

   ○

 事の発端は、一通のクリスマスカードだった。
 差出人は、能力者の間では別名『鉄くず博士』とも呼ばれる、ジョン・ブレスト博士。
 どういう由縁か、かのブレスト博士はラスト・ホープにあるフリーデン社の出張店をたまーに訪れるらしい。
 そのうち商品を設計・制作するティランへ興味を持ったらしく、カードは「是非にも一度ラスト・ホープへ顔を出してみないか」という『招待状』も兼ねていた。
 去年は何かと慌ただしかったティランの身辺も、年が明ければひと段落し。
 ブレスト博士に不都合がなければ、こちらこそぜひお目にかかりたい‥‥と、ビクビクしながら返事を出したのが、一月の真ん中あたりの事。
 ならば二月の上旬にでもという連絡が来て、ティランはラスト・ホープへ向かったのだが。
 当の本人が、いなかった。
 民間人のティランにはあずかり知らぬ話で当然なのだが、重要な案件でブレスト博士はラスト・ホープを離れていたのだ。
 すっかり不在の連絡を忘れていたとしても、多忙かつ胃痛持ちの博士を誰が責められよう。

 ‥‥ともあれ、ブレスト博士の事情は置いて。
 ラスト・ホープへ来たもののブレスト博士の不在を聞き、ちょっとティランは困った。
 困ったが、困りっぱなしもしょうがないので、開き直る。
「来てしまったものはしょうがないのであるし、折角なので島を見学していくのだよ」
 狐耳がついたパーカーのフードをひょいと頭にかけ、腰からぶら下げた狐尻尾のアクセサリーをゆらゆら揺らし、ひょこひょこと人がいそうな場所へと歩き出した。
 ‥‥最近になって「島内に、スパイと思われる不審な人物が潜んでいる」と噂されるラスト・ホープの現状も、島へ繰り出した結果がどうなるかも、今は知らずに。

   ○

 そんな訳で、『銀狐の耳がついたパーカーのフードを被り、銀狐の尻尾風アクセサリーを腰からぶら下げた青年』――つまりティランは、晴れて『スパイと思われる不審な人物』に認定され、追っかけられていた。
「と、当方は、別に不法侵入などしておらぬのだよぉぉぉぉ!?」
 届かぬ弁明を叫びつつ、人ごみの中をティランは逃げる。
「おかーさん、あの人なぁに?」
「しーっ、目を合わせちゃいけません」
 そんな母子の会話が聞こえてくるあたり、どこからどう見ても不審者であるのだが。
 幸い、混雑するショッピングモールならば、周囲への『被害』を恐れて能力者達も派手に行動できないらしい。
 トイレや試着室、階段の死角などに身を隠しつつ、鬼ごっこさながらでティランは逃げていた。
 全くの見知らぬ土地で、頼る先も行く宛もなく‥‥当の本人は、割と大変そうな緊張感など、一切ないまま。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
潮彩 ろまん(ga3425
14歳・♀・GP
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
ベラルーシ・リャホフ(gc0049
18歳・♀・EP
クイック(gc0731
20歳・♀・GP

●リプレイ本文

●接近遭遇
「この手配は、何の冗談でしょうか?」
 それは、フォル=アヴィン(ga6258)が怪訝な顔でぼやくのも当然の依頼だった。
 不審人物の情報を元に聞き込みをすれば、不審者とやらは『銀狐の耳がついたパーカーのフードを被り、銀狐の尻尾風アクセサリーを腰からぶら下げた青年』で、『奇声を発しながら逃げている』らしい。
 怪しい、怪し過ぎる。
 そんなあからさまな風体で、この島を逃げ回る不審者など、いる訳が――。
「ちょわのひょおぉぉ〜っ!?」
「‥‥いましたね」
 しかも、聞き覚えのある声な気がする。
「というか、変わった方なのは知ってますが‥‥何してるんでしょう」
 呆れながら奇声の発生源へ行くと彼同様に声を聞きとめたのか、知った顔がちらほらしていた。

 軽い頭痛と目眩を覚えたが、断じて風邪などではない。
「尻尾生えてるが、あの奇声は間違いねぇよな‥‥なーにやってんだ、アイツ」
 最初に捕まえた顔見知り――アンドレアス・ラーセン(ga6523)の反応は、フォルと同じだった。
 彼の指す「アイツ」とは、他でもないティラン・フリーデンの事である。
「でも、ティランさんがココにいる訳ないし‥‥でも、よく似てるなって‥‥あれっ?」
 知り合いの会話に、考え中の潮彩 ろまん(ga3425)がぽむと手を打った。
「やっぱり、間違いなかったんだね。あれ、ティランさんなんだー!」
「まぁ、待て待て」
 慌てて探しに行く少女の首根っこを、ひょいとホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が掴む。
「何か、トラブルを起こしたみたいだからな」
「だけど、ちょっと面白変わってるけどいい人だもん、ティランさん。スパイだなんて、絶対ないから」
 弁解しながら、むしろ変わっている部分を肯定するろまん。
「追っているのは、カンパネラの生徒のようですから、先にこちらがティランさんを確保しないと」
「カンパネラ‥‥ねぇ」
 フォルの言葉に嫌な予感を覚えて、アンドレアスは苦笑いを濃くした。
「ともあれ! ほんのりカオスな香りを嗅ぎつけて、ファンキーなオッサンも登★場!」
 何故か無性に楽しげに、大泰司 慈海(ga0173)がずびしっと親指を立てて自己主張。
「‥‥心なしか、本人がカオスな気がするが気のせいでしょうか」
「気のせい気のせい! でも、何で学園の生徒が追っかけて?」
「‥‥もふ」
 フォルの指摘を軽く流した大泰司の疑問に、シンプルな答えっぽいものをアグレアーブル(ga0095)が呟く。
「もふ?」
「狐さんみたいに、もふもふしてるからだよ。きっと!」
 思わず大泰司は聞き返すが、ろまんには通じたらしい。
 親しいせいか別の理由かは、オッサンにはちょっと分からない。これが、ジェネレーションギャップというものか。たぶんきっと絶対に違うけど。
「狐ならば、任せて下さい。田舎育ちですから、獣を追うのは超・得意です」
 拳を握ったベラルーシ・リャホフ(gc0049)が、黒曜の瞳をきらりと輝かせた。
「いや、獣ぽいけど、獣じゃないから。一応は人間で一般人だから、手加減してくれ」
 脱力するアンドレアスが、意欲満々なベラルーシの肩をぽむと叩いた。
「でも、どうせもふもふするなら女の子がいいな、野郎をもふもふしてもねぇ。‥‥ねぇ?」
 オッサン‥‥もとい、ポセエロンな男の性への賛同者を求めて大泰司が見やれば、口元に浮かんだ笑みをホアキンはそれとなく手で隠す。
「聞いた格好では、もふもふされても仕方ないだろう。それに、意外と楽しそうだ‥‥狐狩り」
 若人のぽそりとこぼした呟きに、何となく大泰司は納得し、認識した‥‥相手はどうやら、すこぶる弄られタイプだと。
 そんな会話の傍らで、どんっと器がテーブルに置かれる。
「ご馳走様でした。これで、あと12ラウンドは戦えそうです」
 完食した丼の器x3を前に、クイック(gc0731)はずずーっとお茶を飲み干した。
 三杯分の中身が、長身ながらほっそりとした身体の、ドコに入ったかは分からない。
「話を聞いて、何となく状況は分かりました。捕まった時のためにも、身分証くらいは必要ですね」
 そして先に銀狐を確保すべく、八人はチームを組んでショッピングモール内へ散った。

●銀狐を捕獲せよ
「オープンカフェに二人、玩具屋さんに二人か。こっちは、軽く聞き込みでもしてみる?」
 指折り数えた大泰司が、同行する二人を見やる。
 勘定的に一人足りないが、ベラルーシは『GooDLuck』に『探査の眼』という名の野生の勘で、独自の捜索に向かった。
 何だか狩人の瞳でくつくつと素敵な笑みを浮かべていた辺り、きっと捜索意欲に燃えているのであろう。そう考えた方が、平和な気がする。
「カンパネラ組は、ウィリアムくんを中心に捕獲班が動いているようだから、客のフリして違う場所を教えようか」
「そうですね」
 大泰司のプランに、フォルが一つ頷いた。
 これまでの情報をまとめると、カンパネラ学園の文化部連合長ウィリアム・シュナイプを中心とする数人が、ティランを追っているらしい。
「で、目撃情報を集めると、探している相手はこういう感じか」
 メモした特徴を元にクイックは似顔絵を作り、二人へ見せるが。
「象形文字ですか?」
「ちが‥‥ッ!」
 壊滅的な絵心による怪作にフォルが尋ね、何だかクイックの脳裏で試合終了のゴングが聞こえた気がした。

「さて、獲物はドコでしょうか」
 鋭い視線を走らせて、ベラルーシは『違和感』を探していた。
 足跡を探すように廊下でしゃがみ、視界を確保する為に手すりへひょいと上る。
 そんな捜索を続けていた彼女は、自分への怪訝そうな視線や避けて歩く人々といった『違和感』に気付いた。
「‥‥はッ! コレではむしろ、私が不審者!?」
 自分へ向けられる『違和感』の理由が分からぬまま、ベラルーシはあわあわと場所を変える。

「迷子を探しています。捜索を気付かれると逃げてしまうので、偽装に協力願えませんか?」
 ビラを分けてほしいとホアキンが頼めば、突然の『協力要請』に店員は戸惑いながらも奥から紙束を持ってきた。
 展示ケージの仔犬や仔猫の姿に癒されながらペットショップを出ると、アンドレアスが買い物客に聞き込みをしている。
「狐の耳と尻尾が生えてて、奇声あげながら走ってる中背の若い男。見なかったか?」
「そういえば」「何か、変な人がいたよねー」と、学生らしい少女達が顔を見合わせ。
 テンションの高い会話に付き合ってから、げんなり顔で『相方』の元へ戻ってきた。
「なぁ。説明してたら、やっぱ不審者な気がしてきたんだが」
 冗談か本気か、真剣な表情のアンドレアスに、ホアキンはくつくつと笑う。
「その不審者が、興味を引かれるとすれば‥‥玩具屋が本命だろうな。ただ、逃げ回れば喉が渇くから、珈琲店の可能性もあるか」
「甘い物の匂いに、釣られてるかもな。なんでココにいるのか知らねぇが、困ってるなら助けてやらねぇと」
 ちぃとばかし借りもあると独り言ちながら、アンドレアスはホアキンと共にオープンカフェへ向かった。

 ポップな音楽に、カラフルな色彩。
 視界一面にひしめく如何にも愛らしい造形の物体の群れに、耳に障る高い声。
 いつもは絶対に近付かない玩具屋で、アグレアーブルは苛立ちを隠さずにいた。
 ――小さな子供も、その親も、自分が与えられる事のなかった玩具達も、何もかも苛立ちの元でしかなく。
 そして、心乱す要因がもう一つ。
「迷子の迷子の、ティランさんやーい」
 ろまんが玩具箱などを開いては中を覗き、探す相手の名を呼んでいる。
 手分けして、協力している訳ではない。
「彼なら、このファンシーな空間と物音に引き寄せられるだろう」と予想し、単独行動を取った結果が被っただけ。
 それだけだが、募るイライラをアグレアーブルは持て余し。
 手近なもふっとしたモノをぎゅっと掴むと、「むぎゃっ」と奇妙な声がした。
 眉根を寄せ、声のした方を見やれば、もふもふとしたナニカがしゃがみ込んでいる。
「‥‥」
 もふもふもふもふもふもf‥‥。
「ちょまっうぎゃふ〜っ!?」
 無言で背後から力一杯もふれば、耳慣れた奇声が響いた。

●れっつ逃走劇
「ティランさん‥‥幾つ、でしたっけ」
「28なのだよ。永遠の」
 じと。と目が据わったアグレアーブルは、後半を聞き流す。
「良い大人が、何をすればこんな事態に‥‥」
 言いかけて、ティランとほぼ同年齢な長髪のギタリストを見、連鎖的に彼の親友が思い浮かび。
「実年齢と中身が、伴わない事は‥‥ままありますか」
「俺を見ながら、言うな」
 生温い諦め顔なアグレアーブルへ、アンドレアスが抗議した。
「ところで、何故に狐なの?」
 感触が気に入ったのか、尻尾をさわさわしながらホアキンが尋ねる。
「やや毛色の変わったモノを、狙ったのであるよ。だが何故か皆、当方を見ると追っかけてくるのである」
 答えるティランは気付いていない様子ながら、もそもそ逃げる。
「そりゃ、災難だったな」
 仕草にアンドレアスが苦笑して、ベラルーシは嘆息を一つ。
「やましい事はないのですから、堂々とされれば良いと思います。むしろ、コソコソするから怪しまれるのだと思いますが」
「うんうん。逃げると追いかけたくなるのが、人間ってもんだよ、ティランくん。堂々と、胸を張って歩くといいよ!」
 にこやかに大泰司がアドバイスし、思案顔でフォルはティランを見た。
「とにかく、手配対象がアレですし、ティランさんのパーカーと尻尾風のアクセサリーを借りれば、誤魔化す事は簡単でしょう」
「これであるか?」
 まだ不思議そうなティランに、呆れ顔のアンドレアスが額へ手をやる。
「そんな格好だから、追っかけられるんだよ」
「ならば、貸すまでもない。皆、『こんな格好』になってしまえばよいのだよ」
 相変わらずの謎論法で、ティランは無邪気に笑み。
 仲間達の意味ありげな視線が、フォルへ向けられた。

 ――間もなく。
「確かに、年や背格好はティランさんと同じくらいですが‥‥俺ですか」
 人身御供もとい、囮の銀狐一号となったフォルが、狐尻尾を揺らして脱力する。
「‥‥お似合いですね」
 微妙な距離を取ったアグレアーブルに、ティランもこくと頷いた。
「似合っているのだよ」
「感想はいいです。とにかく、一つ貸しですからね、ティランさん。それと‥‥」
 ちらと友人が投げた視線に、アンドレアスは身の危険を感じたが。
 逃げる前に、しっかとフォルは『道連れ』を確保する。
「‥‥て、俺も? なんでだ! 意味わかんねぇぞ!?」
「別に背格好が違っても、良いんじゃないですか? それに意味なんて、ねぇ」
 抵抗する友人へ、フォルはとてもとても『いい笑顔』を返した。

 作戦会議を終えた能力者達は、ホアキンが提供した補給物資(紙コップ入り珈琲)を打ち合わせて揃って飲み干し、一時的に接収したボールハウスをゴソゴソと出る。
「のへうひょへ〜!?」
 そして最後に、ティランの奇声がした。

   ○

 ――かくして。
「そこの狐、待てー」
 銀狐二号なアンドレアスを、声を張ってホアキンが追いかけていた。
 何故かうふふあははという効果音が似合う気がするが、気のせい。きっと気のせい。
 そんな、わざとらしい追跡行で注意を引く作戦に、学園の生徒が引っかかった。
「不審者です! 道を空けてください!」
 生徒の一人が警告し、モールの一角は騒然となる。
「ちょうど良い、手伝ってくれ」
「勿論です!」
 足を引っ張るつもりでホアキンが声をかければ、力の入った応えが返ってきた。
 が、捕縛用ネットをブン投げる姿に、ちょっと後悔を覚える。
 そしてネットを避けた拍子に、兄弟は互いの顔を認識し。
「アンディ!? 何やってんだ、恥ずかしすぎる‥‥!」
「やっべぇッのが来たッ!?」
 慌ててアンドレアスが逃げ出せば、背後で響く発砲音。
「下手に誤魔化すと悪化するか、これは。にしても‥‥アンドレアス狐、意外と似合うね」
 壮絶な兄弟喧嘩に、傍観を決め込んだホアキンが煙草へ火を点けた。

「時間稼ぎが、私達の仕事ですけれど‥‥結局の所、どうしましょうか?」
「騒ぎに乗じて、ここを出ましょう」
 某所の凄い騒ぎにクイックが問えば、フォルがエスカレーターを示す。
「でも、ティランくんはメイド服も似合うね★ メイド服も十分、不審者だと思うけど!」
「木を隠すなら森、エロ本を隠すなら本棚‥‥ここでは、目立たないはずです」
 共に逃げる大泰司がティランを見やれば、無駄に颯爽とベラルーシが胸を張った。
「なにせ、石を投げれば男の娘か芸人に当たるといっても、過言ではありません。大丈夫、絶対に気付かれませんよ。渾身の出来ですから!」
 何だかよく判らないが、とにかく凄い自信で確約したベラルーシは、「幸運を」と言葉を残し、特定されぬうちに離脱する。
 続いて、メイドさんなティランを姫抱っこしたろまんと、アグレアーブルの三人も、別行動を取り。
「よし。このまま、俺達も逃げ切れば‥‥ってっ!?」
「悪いけど、ティランは戴いてく、よ‥‥っ!?」
 淡いフォルの希望は、猛ダッシュで急襲した顔見知りに打ち砕かれた。
 ‥‥女性に姫抱っこされるという、(さっき見たけど)類を見ない経験と共に。

「お姫様抱っこ♪ お姫様抱っこ♪」
 嬉しそうにティランを抱いたろまんに、アグレアーブルは不機嫌顔で続いていた。
 ろまんの行動は、先日コルシカ島に行った時の影響だろう。
 でも14歳に姫抱っこされてる28歳の青年もどうだろうと、頭痛を覚える。
 ともあれ尊い犠牲と騒ぎに乗じて、公園まで逃げたものの、そこで三人は威嚇射撃に出くわした。
「そこの不審者っ、止まりなさいっ!」
「そこのメイドさんっ、おとなしく捕まって下さいっ!」
「逃げるよ、ティランさん!」
「qあwせdrftgyふじこlp;@っ!?」
 ドップラーぽい悲鳴を残し、覚醒した二人のグラップラーは瞬天速で一気に駆け抜ける。
 そして後ろの方から、自爆っぽい騒ぎが聞こえてきた。

「これだけ引き離せば、もう追ってこないかな」
 満足げなろまんが、やっとティランを降ろす。
 スピードで目を回した相手の額に、アグレアーブルは人差し指をぐりぐりと押し当てた。
「‥‥この私が認めているのだから、堂々とすればいいのです‥‥それから、次、LHへ来る際は‥‥事前に連絡」
「わ、解ったのだよ。というか、ブレスト博士に連絡はしていたのであるが、不在であったのだ」
「そうですか‥‥また、お会いしたいですね」
 その名を聞いた少女の表情が、ふっと柔らかになる。
「今日は、鬼ごっこみたいで楽しかったね!」
 はしゃぐろまんが明るく笑えば、騒いでいたワリに本人も楽しかったのか。
「うむ。諸氏には礼をせねばならぬ故、合流するのだよ」
 嬉しそうなティランは、ひょいひょいと待ち合わせの場所へと駆け出した。
 ‥‥おそらく、自分がメイドな格好をしている事を、まるっと忘れて。