タイトル:【決戦】おかえりなさいマスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/11/16 06:07

●オープニング本文


●『成層圏プラットフォーム』プロジェクト・チーム
 ドイツ南部、ボーデン湖に浮かぶリンダウという小さな街。その隅っこでは、成層圏プラットフォームのプロジェクト・チームが研究施設を構えている。
 プロジェクトはあくまでも民間人の手によるものであり、UPCと直接の関係はない。
 機器も民間に対して優先的に提供されている‥‥が、要請があればUPCに協力し、新たな中継局の打ち上げだけでなく、携帯型で短期間仕様の無線中継局の提供も行っていた。
 プロジェクトの中心人物は、ティラン・フリーデンなるドイツの青年。
 木製玩具を作るマイスターの家系にあって『本業』はおもちゃの設計をしたり、作ったりする事だ。家系のフリーデン社は上の兄が継いでいるため、商業的な部分を気にする必要はなく。気ままな職人気質一直線なプロジェクトは、フリーデン社の後援を受ける形で進められていた。

●世界の隅っこで、こっそりと。
「最近は、何やら流れ星が多いようであるな」
 夜空を見上げながら、ほげらっとティランが呟いた。
「あまりぽいぽいと流れては、願い事を頼む方も忙しいのである」
「あのさ‥‥もしかして、見つける流れ星全部に願い事をしてるとか?」
 パソコンのキーボードを叩いていたドナートが怪訝そうに訊ねれば、大真面目な顔で相手は頷く。
「当然である。何故か流れ星の大バーゲンセール中であるが故、この間にありったけの願い事をするのだっ」
「‥‥あ、そう」
 かくんと脱力気味に、ドナートは肩を落とした。
「この場合、ちゃんと説明をしておいた方がいいのでしょうか?」
 微妙に困った表情のアイネイアスに、頭痛を覚えつつもチェザーレが肩を竦める。
「どうだろう‥‥このまま『神様のサービス』にしておくのも、夢があっていいと思うがね」

 軍とは無関係な民間プロジェクトであるが故に、成層圏プラットフォームのプロジェクト・チームは戦争の直接的な影響を即座に受けるような事はない。
 上空に無線局を飛ばす時など、必要に応じて能力者達に協力を要請したり、局所的な通信状況の改善に無線局の技術提供に応じる事もあるが、その程度だった。
 だから彼らは、宇宙で何があったかの仔細は知らない。
 UPCの勢力下で比較的平穏無事に暮らしていた民間人からすれば、「人類がバグアに勝利し、終戦が近い」という実感もまだ薄い。
 趣味でいろいろと情報の入手方法を持っているドナートはともかく、世間と少しずれたティランからすると、空の向こうの出来事はUPCの発表――例えば「赤い月をどうにかするために、沢山の能力者達が頑張った」といった内容以上は、知る由もなかった。

「幸い、この付近に『流星警報』は出ていませんですしね」
 気象情報を集め、必要な天候の予測を行うアイネイアスがくすりと笑う。
 いま各地で観測されている『流れ星』は、ほとんどが『赤い月』と呼ばれるバグア本星が破壊された破片だ。
 本星の破片が地表へ落下する危険は残り、地域によっては今も必要に応じて住民の避難も行われているのだが。
「それに関しては、確かに『神様のサービス』といってもいいかもな」
 一方のチェザーレは苦笑いを返し、プロジェクトが始まった時から変わらない窓の風景へ目をやる。
 内陸にあるリンダウは秋も深まり、既に紅葉した木々は湖に映えて美しい。
「せっかくなのであるから、流れ星が出ている間に能力者諸氏と流星見物を楽しむのも良いかもなのだ」
「‥‥呼ぶんだ」
 ドナートの顔に浮かぶ「やっぱり」てな感じの脱力気味な表情に気付かず、胸を張ってティランは頷いた。
「残念ながら、ミュンヘンのオクトーバー・フェストなどは終わってしまったのであるが。秋はやはり、飲んで食べて楽しむべきなのだよ。実を言えばトマト投げもしたいところであるが、投げた後で洗い流す際に風邪を引いてしまいかねないので、残念ながら目処がつくまでお預けなのであるっ」
「実に‥‥やりたい時に、やりたい事をやるよな。ティランって」
 経験的に止めても無駄と知るチェザーレが呆れながら嘆息し、微笑しながらアイネイアスは楽しげなプロジェクトのメンバー達を眺める。
「でも、きっと能力者の人達も大変だったでしょうし‥‥たまには、いいでしょうね」
「そうと決まれば早急に、必要な食料を揃えねばなるまいて!」
「‥‥全部、お菓子とか止めてよね」
「ふふふ、心配するでないドナート君! ここは余裕を持って、半分くらいにっ」
「チェザーレっ。能力者の人達に『食べられる物も持ってきて』って、一緒に頼んでよ!」
 ドナートの訴えをよそに、今から既に楽しそうなティランは『買い出しメモ』と称し、あれこれと自分が食べたいモノを紙に書き連ねていた。

●参加者一覧

鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN

●リプレイ本文

●流星に誘われ
「Hi,ティランさん。お招きありがとう♪」
「お疲れさま会、お邪魔しますね」
 両手に荷物を抱えたシャロン・エイヴァリー(ga1843)に続き、彼女の為にドアを開いた鏑木 硯(ga0280)が顔を出す。
「いらっしゃいなのだ!」
 研究施設に訪れた客人をティラン・フリーデンは両手を広げて迎え、買い物満載な紙袋を抱えるシャロンへチェザーレが手を貸した。
「随分と買い込んだな」
「途中リンダウの市場に寄って、色々と仕入れてきたんです。いろいろと美味しそうな物が沢山あって、やっぱり秋だなぁって感じでしたよ」
 荷物を片腕で抱えた硯が頷き、奥からアイネイアスがカップのトレーを持ってきた。
「暖かい物、用意しますね」
「お手伝いします‥‥キッチン、私も貸してもらっていますから」
 ソファから朧 幸乃(ga3078)が立ち上がり、紅茶を淹れるアイネイアスを手伝う。
「こっちは、すっかり秋か」
 膝に頬杖をついた赤崎羽矢子(gb2140)は、窓の光景を眺めた。
「そういえば、あそこはこの先も『ラスト・ホープ』であろうか?」
 かくんとティランが小首を傾げ、同じように羽矢子も首を傾ける。
「この先って?」
「なにやら皆、肩の力が抜けたというか。大きな仕事を一つ、成し遂げた後という感がしたのだ」
「本当に、聡いんだか鈍いんだか‥‥」
 感心というより呆れ半分の羽矢子が額に手をやり、やれやれと束ねた髪を揺らした。
「こんにちは。皆、揃っているのね」
「遅くなりました」
「ちっとも遅くなんかないよ。とっ散らかってるけど、のんびりしてってね」
 最後に訪れた二人――百地・悠季(ga8270)と赤宮 リア(ga9958)へ、ドナートが手招きをする。
「ちょうど良かった。お茶を淹れましたので‥‥あら、妊婦さんですか?」
 ポットを手に出てきたアイネイアスが、友人を気遣う悠季とリアの仕草に訊ねた。
「はい、お邪魔します。そういえば悠季さん、お子さんは?」
「旦那が見てくれているわ。他にも色々手伝ってくれるし、良い旦那よ」
「ふふっ♪ そちらも相変わらずお盛ん‥‥いえ、仲睦まじい様で何よりですね」
「お茶が入りましたので‥‥暖まって下さい」
 惚気る悠季と微笑ましげなリアに、幸乃がソファをすすめる。
「さぁて‥‥リンダウで、色々用意してきたからね」
 ひと息ついたシャロンが入れ替わりで気合をいれ、硯も持参したシャチのエプロンを着けた。

●おつかれさまと、おかえりなさい
 日が暮れる頃、研究施設の食堂は湯気の立つ料理の香りに満たされていた。
「温まるアイントプフを用意しました。といっても、ソーセージとジャガイモをメインに旬の食材を放り込んだだけですけどね。リンダウで美味しそうな食材があったので」
「おぉ〜」
 テーブルへ硯が料理を並べ、テーブルにかじりつくティランは目を輝かせる。
「せっかくの機会だから、ドイツ料理に挑戦してみたのよ。メインはドイツ風カツレツのシュニッツェル、それにサワークラフトを添えて、スープは家庭料理の定番アイントプフ。他にもヴルストや、ブラート・カルトッフェルンもあるわよ」
「ブラート‥‥?」
 メニューを説明するシャロンにリアが首を傾げれば、ジャガイモとベーコン、そして玉ねぎを炒めた皿を硯が示した。
「焼きジャガイモ、早い話がジャーマンポテトですね」
「ワインやビールが進みそうだな」
 ふむとチェザーレは唸るが、まだ早いと言わんばかりにシャロンは指を振る。
「これだけじゃないわよ。ね、悠季?」
「ええ。こっちは、蒸し物を中心に用意してみたわ。秋野菜や蒸し饅頭、それから焼売‥‥あまり、食べる機会もないでしょうけど」
 そこへ来客ブザーが鳴り、椅子を引くリアの肩に悠季が手を置いた。
「私が出るわ。きっと、リアが頼んだ物だから」
 悠季が来客の応対をする間にも、食事の支度は進む。
「こちらも‥‥ソーセージにポテト、チーズで簡単なオードブルを作りました。後は野菜もあったので、ポトフを」
 幸乃がスープの皿を並べ、それからテーブルに飾られた花に手を止めた。
「綺麗な花、ですね‥‥」
「そういえば食堂は、こんな綺麗であったか?」
 ちゃんとテーブルクロスが敷かれたテーブルにティランが首を傾げ、くすりとアイネイアスが笑む。
「テーブルを整えて花を飾ったのは、羽矢子さんですよ」
「そんな、大騒ぎするほどの事じゃないよっ。花を飾るだけでも、十分に彩りとか出るんじゃないかとか‥‥思っただけで」
 照れくさそうな羽矢子が頭を振り、並んだ料理を前に膝の上で拳を軽く握った。
「それに‥‥あたしが料理を作っても、他の人と比べると見劣りするだろうしね」
 少し悔しいがやっぱり美味しそうだと感心しながら、誰にも聞こえぬ小声で本心を付け加える。
「だいたい殺風景過ぎるからね、ここはっ」
「それも今日はうってかわった魔法のパーティのようで、嬉しいのだよ」
「魔法って‥‥ま、喜んでくれたのなら、いいけど」
 相変わらず子供のようにはしゃぐティランに、羽矢子の凹む気が失せ。
 その間に悠季も戻り、用意した大皿を手にリアがくるりと一同へ振り返った。
「皆さん、ピッツァも届きました〜!」
「わぁ〜っ! 通りで、急にチーズとピザソースのいい匂いがしてきたと思ったんだよね」
 目を輝かせたドナートに、くすりとリアも微笑んだ。
「いい匂いですよね。とても美味しそうなお店を、街で見つけて。皆さんと食べたくて、宅配してもらったんです。熱々のうちに戴きましょう♪」
 テーブルにビールやワイン、ジュースが行き渡り、リアは悠季が用意した生姜湯を受け取った。
「食べて飲んで思いっきり騒ぐよー! って、え、あたしが!?」
「うむ。乾杯の号令をお願いしたいのである」
 わくわくとティランから期待の眼差しを向けられ、何故か音頭を取る羽目になった羽矢子は咳払いを一つ。
「え〜と、じゃあ。まずティラン含めメンバーに招待のお礼と、こうして集まれたのを祝って‥‥みんな、お疲れさまっ、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
 揃えた声も賑やかに、和やかな夕食が始まった。

「しかし、相変わらずだね。あの男は」
 僅かに苦笑する羽矢子へ、シャロンがウインクをする。
「いきなりの大役だったわね」
「ホント。だけど、改めて戦場から日常に戻って来たんだなって‥‥実感してみたり」
 大きく息を吐いてから、安堵の表情を浮かべ。
「これでようやく、ただいま‥‥かな」
「よく分からぬが『おかえり』なのだよっ」
 ティランが労い、シャロンも顔ぶれを確かめた。
「本当に‥‥関わった人もそうでない人も、お疲れさまっ」
「みんな無事に帰って来る事ができて、良かったですね」
 ほっとした硯に、悠季もリアと視線を交わす。
「一応でも頭上の脅威が晴れたからには、それなりに安心できる未来が目指せそうよね」
「この子の為にも‥‥悠季さん、本日はお誘いありがとう御座います♪」
「ううん。それを確認しながら空を眺められたら良い感じかなって、思っただけだもの。行く先々が明るい希望に照らされるのを確かめて、それぞれに抱えている幼子を導ければね」
「その為にも、無茶をしない様にしませんと」
 ゆったりとしたワンピースのお腹へ手をやるリアは、既に妊娠して五ヶ月過ぎの身だ。
「その面に関しては一応先輩だから、色々助言するわよ。まず、なくなる前に美味しい食事をしっかりとね」
「はい、先輩」
 食欲旺盛な男性スタッフ三人をちらと見る悠季にリアは笑い、おかわりを置いた幸乃が目を細める。
「手紙を届ける依頼なんかも並んでいた情勢の中‥‥情報を支えたスタッフの皆さんの事は、尊敬します。感謝と、今後の活躍を祈って‥‥」
 小さく幸乃が神の祝福を祈り、料理を味わう硯も同意する。
「これから打ち上げの技術も進歩するでしょうけど、デブリもありますし。無線局は、まだまだ重宝されそうですね」
「だがここに到るのも能力者諸氏の協力が不可欠だった故、礼をしたかったのだよ」
 えへりと嬉しげにティランは幸乃や硯に笑い、おもむろに羽矢子がアイネイアスをつっつく。
「普段ぽわぽわしてるティランだけど、成層圏プラットフォームのどこに関わってるの?」
「無線局を搭載する機体の構想や設計ですね。試作模型を作ったりして」
「そういえば、そんなのもあったっけ」
 思い返しながら、過ぎぬ程度に羽矢子はジュースのグラスを傾けた。

●願い
「せっかく流れ星を見るなら、少し趣き、変えてみません‥‥?」
 幸乃の提案で研究施設は最低限の照明以外は消し、様々な色のガラスに彩られたキャンドルホルダーやランタンの淡く暖かい炎が屋上を照らしていた。
 風よけのテントを張り、温かい上着や毛布に包まって夜空を眺める。
「寒いだろうし、ホットワインでも。アルコールが駄目な赤宮には、ワインの代わりに葡萄ジュースで作っといたよ。気分だけでも、味わって貰えたら」
「遠慮なく、いただきますね」
 妊娠中のリアは、有難く羽矢子が差し出すマグを受け取った。
「なにやらキャンプ気分であるなっ。諸氏も願い事の用意は‥‥硯君とシャロン君は?」
「たまには二人きりも、いいんじゃない? リアは身体を冷やさないように」
 二人を探すティランを誤魔化した悠季は、友人の肩へファーマフラーを掛ける。
 その頭上では、今夜も流星の雨が降り始めていた。
「綺麗‥‥あの禍々しかったバグア本星の欠片とは、思えませんね‥‥」
「願い事、ね。んー‥‥この先の家族計画が上手く行けば良いかなあ。まだ産むつもりなのだけれど、一人でも大変なのは判ってるけどねえ」
「じゃあ、無事に元気な子が生まれます様に‥‥と、悠季さんにも元気な二人目が出来ます様に♪」
「ふふっ、ありがと」
 幾つでも流れて落ちる星に、並んで母二人は願いをかける。
「あたしは‥‥」
 何を願うか、星を仰いだ羽矢子は悩んでいた。
 ――戦後問題の解決? 周りの人の幸せ? この男の鈍感が治ります様に‥‥は、たぶん無理だ。バグアをどうこうするより、難しい。
「まぁ、いいや。星は幾らでも流れてくるんだし、思い付く限り願ってやるかな!」
「羽矢子、さん‥‥?」
 悩んだ末、吹っ切った羽矢子に幸乃が首を傾げる。
「戦いの結果、降る星だけど。こういう風に人の願いを集める方向に流れるなら、乗っからなきゃね。そしてこういう事が、世界中の何処でも出来るようになれば‥‥」
 決意を秘めた表情で、ポケットのUPC傭兵大尉階級章に羽矢子は手をやり。
「明日は北米行きの便に乗るから、少し早めに失礼するね。あっちで働いてくるよ!」
「世界に羽ばたくのであるな!」
「‥‥気をつけて下さい」
 きらきらするティランと逆に察した幸乃は頷き、流れる星へ密かに願いを加えた。

「ほら硯、すっごい数よ。明かりの少ない湖の方だと、星が良く見えるわね」
 湖畔の道で天を指差すシャロンの金髪は、懐中電灯の僅かな明かりでも煌く。
「流星群、綺麗ですよね。これが皆で戦った成果で、戦争は終わった‥‥て事だけど、いまいち実感が湧かなかったんです。大事なものを守りたいと、ずっと走ってきたけど‥‥守り切れたのかなぁって」
 幻のような光景に、ぽつと呟いた硯は足を止め。
「うん。じゃあ‥‥お話、しましょうか」
 改まった口調で振り向いたシャロンは、二人っきりで話をと誘った硯の言葉を待つ。
「俺の気持ちは、前と変わっていません。いや、正確に言うと、前よりずっと‥‥強くなっちゃいました。シャロンさんの理想の男性に近付けたかは判らないけど、これから選んでいく未来の道を、一緒に歩んでいけたら‥‥だから」
 それから、深呼吸をひとつ。
 言葉にし尽くせない気持ちと変わらぬ思いを、いま一度、三年前の約束通りに明かす。
「シャロンさん、大好きです」
 真っ直ぐな言葉に、シャロンはゆっくり瞬きをひとつ。
「鏑木硯さん」
「はいっ」
 反射的な返事に思わず小さく笑み、違わぬ真摯な姿に約束と思いを紡ぐ。
「私、シャロン・エイヴァリーは、貴方を愛しています‥‥この先、ずっとパートナーで居るために。これからは、恋人として付き合ってくれますか?」
「‥‥はい!」
 二度目の返事は力強く、しっかりと。
「硯、ありがと」
「こちらこそ、ありがとう‥‥シャロン、さん」
 いつの間にか逞しくなった硯の胸にシャロンはそっと手を置いて、身を寄せ。
 流星の下で二人は密かに、恋人としての口付けを交わした。

「悠季さんはMSIですかぁ‥‥私はドロームでKVのテストパイロットか、軍に入って各地の復興のお手伝いというのも良いですね」
「MSIには、伝があるからねえ」
 流星見物の後、客人達は施設に泊まる事となり、同室を希望した悠季とリアは自然と今後の話をしていた。
「正直な所、不安はあります。能力者の出産は前例が少ないですし‥‥」
「そっか。でも大丈夫」
 安心させるように、優しく悠季はふわりと毛布を彼女へ掛け、肩を抱く。
「リアの旦那も、頼りになるんでしょ?」
「はいっ」
 悠季の温もりと気遣いにリアはにっこり笑み、友人同士の話は夜更けまで弾んだ。

「何を、しているんです?」
「ややっ、見つかったのだ!?」
 一階の明かりに気付いた幸乃が覗けば、一人でゴソゴソしていたティランが何やら慌てる。
「その、今日の礼をせねばと‥‥ほら、サンタも夜中に行動する故!」
 主張は良く分からないが、企み事の真っ最中らしい。見つかって諦めたのか、隠す気配のないティランの隣の椅子に、何気なく幸乃はすとんと腰を降ろした。
「ティランさんは、これから何をされるんです?」
「む? 当分は無線局のプロジェクトであろうが‥‥」
「その横に、一人分のスペースは‥‥私の居る場所は、ありますか?」
「むむ? それはいつでも、大歓迎なのであるが」
 思い切った質問にほわほわ答える間も、玩具職人の手は休みなく贈り物を整える。
 手を繋いで帰ってきた、友人二人に。
 子供らと自由な絵を描けるよう、育む母達へ。
 危険にも怯まない彼女には、安全を願って――。
(赤崎さんはちゃんと気持ちを伝えてたけど、私はまだ。だから今度は私がちゃんと、言葉にして‥‥)
 期待する答えはもらえないかもしれないけど、伝えることが大事、と。
 一歩を踏み出す為に、まだ決めていない自分のこれからの道を決めるためにも。
「貴方にとって私は、沢山の『傭兵諸氏』の一人かもしれませんけど‥‥」
 ずっと迷っていた思いを、幸乃は口にする。
「‥‥私は、貴方が好きです」
 悪戯っぽく瞳を輝かせたティランは彼女に手招きをし、脇に置いてあった小さなむき出しのオルゴールのネジを巻く。響鳴箱がないので微かだが、やがて三拍子のふわりとしたメロディが聞こえてきた。
「幸乃君が、一番乗りなのだよ」
 止まるまで微かな旋律に耳を傾けた後、ティランは彼女に懐中時計を手渡し。その手と握手をしてから幸乃は頬にキスをして、彼へ「おやすみなさい」の挨拶をした。