●リプレイ本文
○初日 彼等は舞い降りた
「はじめまして〜」
可愛らしいワンピースとつばの広い帽子という女の子らしい格好に身を包んだ月森 花(
ga0053)に挨拶され、ベアトリス少尉がふと自分の格好を見直す。
官給品の作業ズボンにPXで纏め買いしたTシャツ‥‥せっかくなんだからおしゃれしてきてもよかったな、と周りのメンバーを見渡しため息をついた。
「ベアトリス少尉、行くぞ」
荷物を預け身軽になった一同を先導するようにUNKNOWN(
ga4276)が言った。
「で、まずどこにいくん?」
大槻 大慈(
gb2013)がUNKNOWNに多少緊張気味に声をかける。
「まずはB線地下鉄でコロッセオ駅に向かおう」
こうして彼の主導で二泊三日のローマ観光が始まった。
○コロッセオ/フォロロマーノ入り→ヴェネツィア広場
「すごーい、なんか前に写真で見たときより壊れてるけどっ!」
ベアトリスは完全に感性のみ、見たままの感想を述べた。
「これは風化による劣化というわけではないんですけど‥‥」
ルアム フロンティア(
ga4347)が苦笑交じりに述べたが、完全に暴走娘の本領を発揮しているベアトリスには聞こえていない。
「‥‥ローマは1日にして成らず、か」
「えっ、なにー?」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)はベアトリスの問いに「なんでもない」と答え紫煙を燻らせる。
「ま、これだけ形が残ってるってのもある意味奇跡に近いわけよね」
付近の柱に残っていた弾痕を見つめながらラウラ・ブレイク(
gb1395)が呟いた。
「さて、移動しようか‥‥」
UNKNOWNが提案し、全員がそれに従ったが少尉のすぐ隣を歩いていた花がベアトリスに声をかける。
「えっと、歩いて移動とか大丈夫かな?」
ベアトリスは一瞬きょとんとした顔になったがおかしそうに少し笑うと口を開いた。
「いくらなんでも私だって軍人だもん、この程度の距離歩いたって倒れたりなんかしないよ〜」
それもそうかと、頷いて二人は談笑を始める。
「あの二人‥‥どことなく似てないか?」
「どうだろう、雰囲気と言う点では‥‥っと着いたぞ」
にぎやかな広場をしばらく観光していた一行を集合させるとUNKNOWNの背後には馬車が到着していた。
「わぁ‥‥馬ねっ!」
馬車ではなくそれを引く馬に完全に興味津々のベアトリスに苦笑しながらも大慈も「馬車かぁ、すげぇえなぁ」と感心した表情を浮かべる。
○マルケルス劇場→サンタンジェロ城→ヴァチカン
移動中も常にハイテンションを維持し、何度も落ちないようにと注意されるほどだった、そのテンションのままベアトリスは真実の口にもなんの迷いも無く手を突っ込んだ。
「だ、大丈夫なのです?」
シーク・パロット(
ga6306)が心配そうに聞いたが、ベアトリスは笑顔で手を引き抜いてみせる。
「こんなの、野良犬のお化けみたいなのに比べれば全然安全よ〜」
首を傾げてみせるシークの後ろで事情を知っている数人が苦笑した。
「さて、そろそろ昼食にしよう」
UNKNOWNのなじみだと言う店で昼食を取り、一同は「あんまり信仰心とかないんだけど‥‥」と呟くベアトリスを引きつれ、ヴァチカンへと向かった。
「まぁ、建造物だけでも一見の価値はあるわよね」
呟いたラウラに花も頷く。
「凄いよねー」
その後しばらく一同は荘厳な雰囲気に包まれていた。
○ナヴォーナ広場→トレヴィの泉・バルベリーニ広場
「それで〜、この後どうするの?」
軍人の体力で子供のようにはしゃぎ回っていたベアトリスは流石に疲れたのか、多少ぐてっとしながらコーヒーを飲み干した。
「歩いて、ナヴォーナ広場の予定だが‥‥」
答えたUNKNOWNに了解〜と答え立ち上がる。
「大丈夫かぁ?」
大慈が心配そうに聞いたがやはりテンションの高いベアトリスは聞く耳もたずと言った感じで軽く肩を竦めるだけだった。
しばらく歩いてトレヴィの泉に差し掛かったあたりで、先頭を歩いていたベアトリスに男がぶつかってきた。
「痛ぅ、っと悪ぃな姉ちゃん」
男はぶつかっていった自分が弾かれたのに少し驚いたようだったが、すぐに反対方向に歩こうとして‥‥ホアキンに腕を掴まれた。
「下手な仕事だ、これは置いていこうか‥‥」
静かだが迫力のある一言に男は縮み上がり、「お、おぼえてろ」とお決まりの捨て台詞を吐いて走り去る。
「なになに? あっ〜それ、私のお財布!」
盗られたことどころか、ホアキンが何をしたのかさえ気がつかなかったようすのベアトリスは、心底驚いたという表情で財布を受け取った。
「こういう観光地だとああいう手合いも多いからね〜」
花がそういって付近を見渡すと、やはり開放戦後の混乱が多少残っているのか、武装した軍警察の姿がちらほらと見える。
あっ、そうだったと花はいそいそと2枚のユーロ硬貨を取り出すと泉に背を向け、投げ込むと、何故か柏までうち何かを念じ始めた。
「ねぇ、投げ込む枚数って決まりとかある?」
大量のサンチーム硬貨をジャラジャラと取り出しながら聞いたベアトリスにUNKNOWNは事も無げに答える。
「そうだな‥‥一般には1枚だと再びローマに来ることができ、2枚では大切な人と永遠に一緒にいることができ、3枚になると恋人や夫・妻と別れることができる、と言われているな。3枚の願いはキリスト教が離婚を禁止していたという歴史の名残りということだ」
「そうね‥‥1枚投げ込めばもう一度ローマに、ってことはもう一度来る前は死なないってことで縁起がいいかもしれないわよ?」
会話に参加してきたラウラが言ったが、ベアトリスは「大切な人、大切な人‥‥」と呟くだけで聞いていない。
「‥‥2枚だろう?」
ホアキンのからかうような口調にベアトリスはビクッと身を固めるが、事情をしらないシークがにぱぁっとわらうと、まだ何事かを呪文のように呟いているベアトリスに声をかけるため近寄る。
「‥‥パパはそうだけど、やっぱり軍曹、でも、大事な人‥‥」
「まよっているなら2枚投げればいいと思うのですよ」
からかい半分の助言に意を決したのか、くるっと泉に背を向けると2枚の硬貨を泉に放った。
「なるほど、恋する乙女か‥‥」
ホアキンは並んでバラバラの神様に祈りをささげる花とベアトリスを見ながら何かに納得したように一言呟いた。
○気球→ホテル
「気球って‥‥砲撃観測とか敵の戦闘機の進入阻害とかに使う、アレ?」
その発想に傭兵たちは苦笑した。
「そうだ、まぁ今回君たちが乗るのは見たとおりそんな物騒なものではないが‥‥な」
初日の締めとして気球に乗ろうと提案したUNKNOWNにベアトリスが珍しく難色を示したが、恐々とバスケットに足を踏み入れる。
「もしかして‥‥高いところ苦手‥‥とか?」
ルアムが心配そうに声をかけると、ベアトリスもゆっくりと頷いた。
「うぅ、配属されてもKVとか乗らなくていいと思って陸軍に入ったのにぃ」
離陸する前から、もう勘弁してくださいといった雰囲気をかもしだすベアトリスとは対照的に、大慈は「まだかぁ?」と期待に満ちた表情を浮かべていた。
「フィ、フィリップ、じゃなくて、軍曹にはナイショだからね‥‥」
おびえた瞳に軽く睨まれながら、ホアキンは微笑んだ。
「ああ、約束しよう」
いまいち信用できない‥‥と呟いた瞬間、乗務員が「ではー」とバーナーをふかした。
「うは〜すんげ〜っ!」
「これは‥‥すばらしいですね」
日が落ちるのが遅い為、太陽こそまだ頭上にあるがそれでもなお絶景というに値する光景が広がっていた。
「ローマを一望、夜景にも興味あるわね」
「ベル〜、見てみなよ」
バスケットの中で小さくなっていたが、すっかり仲良くなった花に引っ張られるようにベアトリスも顔を出す。
「す、凄い‥‥」
「ええ、とても綺麗なのです」
「凄かったねー」
ホテルの部屋で、ラウラがシャワーを浴びに行っている間も花とベアトリスはとりとめない雑談をしていた。
「うんっ、やっぱり乗ってよかったなぁ」
と、ホアキンとUNKNOWNが大尉からの差し入れと言うワインを片手に部屋を訪ねてきた。
「飲むかと思ってね」
シーク、ルアム・大慈も元気よく飛び込んでくるなり、珍しいスナック菓子なるものをテーブルの上に並べる。
「なんだ、騒がしいと思ったら皆いたのね」
ラフな格好に着替えたラウラが入ってきたのを確認してからUNKNOWNは明日の予定を告げ、ワインを呷った。
○二日目
電車に揺られた一同は、ナポリに到着し、そこからさらに舟に揺られることになった。
「UNKNOWN、青の洞窟ってどんなところなんだぁ?」
という大慈の問いに、見てからのお楽しみとだけ答えUNKNOWNは針でつついても起きないのではと思うような寝方をしているベアトリスに視線を向ける。
「なんとも幸せそうな寝顔だ、軍人と思えんな」
「まだ若いんだ‥‥成長に期待といったところ、だな」
独り言のように呟いたUNKNOWNにホアキンが苦笑と共に答えた。
計算どおりちょうど時間もぴったりで一行は青の洞窟に向かった。
「あれが、その洞窟なの? 結構入り口狭いんだけど‥‥」
波が少ない海でも、その入り口はかなり小さく見える。
「そうだ、頭は低くしておくようにな」
順番が回ってきたのか小型船の船頭が手招きをし、全員が小型船に乗り移る。
波の高低を利用し滑り込むように進入したそこは外とは完全に別世界だった。
「み、水が光ってる」
青の洞窟という名にふさわしい様な深い青色の水は、光を発していてとても幻想的な光景をかもし出していた。
「ほぅ、ここまで美しいとは‥‥運がいいようだ」
「どういうことおかあさん?」
呟いたUNKNOWNに花が聞き返す。
「潮の満ちひき、天候、季節等にかなり左右されるから‥‥な」
「すごいのです、ってあぶないのです!」
はしゃぎすぎて落ちそうに(むしろ飛び込もうとしていた)ベアトリスを取り押さえながら、シークも感嘆の声を上げた。
その後はカプリ島内で自由行動を満喫し、夕方にはベアトリスはお土産としてレモンをダンボールで買おうとして全員に苦笑され、UNKNOWNもレモン酒を担いでいた。
○三日目
再び船と電車に揺られること2時間弱。
一同は出発地点にもどってきていた。
「さて、自由行動だ‥‥土産でも見て回るといいだろう」
UNKNOWNも目をつけていた店があるのか、どこか楽しそうな声で言う。
「なんにしよう‥‥」
部下にはレモン一個づつという暴挙に踏み切ったベアトリス少尉だったが、若干二つほど決めかねていた。
「んー、ベル何も買わないの?」
山ほどのチョコと何故か首輪を買い込んだ花に声をかけられて、ベアトリスは「いまいちぴぴっとこない」と返す。
「そっかー、じゃさじゃさ〜、美味しいものでも食べに行かない?」
「こんなもんだろうな‥‥」
ホアキンは両手に下げた買い物袋を見直して頷いた。
「そう高いものは悪いかと思ったが、たいした値段でなくて助かった」
顔を上げると反対側の酒問屋からUNKNOWNが姿を現す。
「随分買い込んだな」
配送用の伝票を覗いてホアキンは苦笑いをもらした。
「こんな機会でもないとここまでは買わんからな」
「まぁ、そうか‥‥ そういえばこの辺にうまい店とか知らないか?」
ふと、自分の小腹が空いていることに思い当たりホアキンが訪ねるとUNKNOWNも口だけで笑い「今から行こうとしていた」と返した。
「ちょっと‥‥値段がしたかな」
そう呟いたルアムに大慈は「だいじょーぶだとおもうぞぉ」と肩を竦めたが、彼も両手に抱えきれないほどのチョコの箱をつっている。
「えっと‥‥重く‥‥ない?」
「ぜんぜん問題なし〜」
豪快に笑い飛ばした大慈に、ルアムも微笑み「そういえばもう‥‥お昼」と呟いた。
「そーだなぁ、何か食べにいくさぁ」
「つき合わせちゃってごめんなさいなのです」
そういうシークに、「別に、たいしたことしてないわ」とラウラが答える。
「でも、ローマにはあまり来なかったとはいえ‥‥このあたりもだいぶ変わったみたいね」
感慨深げにため息をつくラウラにシークが「そうなんです?」と聞きかえした。
「ええ、戦争‥‥ってのももちろんあるんでしょうけど、永遠なんか無いのよね」
「そうなのです、人も世界も変わっていくのです」
戦争と平和という二拍子を踊り続けてきた人類はバグアを駆逐した所で、また別の戦いを始めるのかもしれない、しかし、人は変われる生き物なのだ、全てが繰り返すとは限らない。
「少し、お腹が空かない? 美味しいお店があるんだけど」
余談だが、後日、大尉と軍曹の携帯にはウミウシのストラップがぶら下がっていたと言う。