タイトル:【妖幻】風刃の鼬マスター:きっこ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/20 22:57

●オープニング本文


 夏も近づき、陽射しも強くなりつつある。しかし天を衝くように伸びる竹の葉に遮られている竹林を渡る風は涼しい。
 しかし今は、心地よい風の音すらも緊張を高める要素の一つでしかなかった。
 新緑の竹林の中、音を立てぬよう留意しながら進んでいく。
 風にさや鳴る草葉の音、重なるように立ち並ぶ竹と竹の影。そこに潜むほんの僅かな違和感をも見逃さぬよう。
 八丈部十夜(gz0219)は足を止めた。背後に感じた気配も動きを止める。
 溜息を一つついて十夜が来た道を引き返すと、気配の主も観念したのか茂みから立ち上がった。
「あ、あははっ。気づいちゃった?」
 笑顔で取り繕ったのはセーラー服の中学生だった。
「聖(せい)。ついてきてはいけないって、あれだけ言ったのに」
「だって、気になるじゃない! それに、本物の妖だったらお兄ちゃんじゃ対処できないでしょ?」
 肩を過ぎるくらいのさらさらの黒髪、その面差しは十夜と兄妹である事を感じさせる。端整さゆえにどこか冷たい空気さえ感じさせる十夜の外見とは違い、溌溂とした可愛らしい印象の少女である。
「本物の妖なら、父さんも僕を呼んだりしないよ。そんな事言って、興味本位でついてきたんだろう?」
「う〜‥‥」
「今ならまだ遠くないから、早く外へ――」
 言いかけて、十夜は表情を変えた。不審に思った聖が声を掛けるより早く、十夜は聖を抱え込む様に地面へ倒れこむ。
 頭上を疾風がつき抜ける。聖の背後にあった太い竹が、中ほどから綺麗に切断され地面へ倒れた。
 身を起こし背後を確認する。竹を蹴り、素早く方向転換しながら飛来する、獣の影。
 十夜は聖を抱え上げて駆けた。一刻も早く、聖を竹林の外へ出さなくては。
 飛来する風刃をできる限り避け、聖を庇いながら。銃で威嚇射撃を行ないつつ、何とか竹林の外へと転がり出る。
「お兄ちゃん、大丈夫!?」
 聖は十夜がいたるところに受けた切り傷を案じて、泣きそうな声を出す。
 頷きながらざっと聖に怪我のない事を確認し、十夜は竹林の中をうかがう。そこは踏み入る前と同じ、涼やかな静寂に包まれていた。

 十夜の実家は代々小さな神社を守ってきた家柄であり、祖父の代から心霊相談所も営んでいる。
 家族の中一人だけ霊感無く生まれてきた十夜は、実家を継ぐよりも能力者となる事を選んだのだった。今は実家を離れ、ラスト・ホープで傭兵としての生活をしている。
 そんな十夜がUPC本部内の斡旋所を訪れたのは、実家から戻ってすぐの事だった。
「キメラ退治、ですかぁ? 十夜くん家のすぐ側で?」
 十夜にのんびりとした声で聞き返したのはオペレーターの小野路綾音(gz0247)だ。十夜は至極真面目な顔で頷く。
「たまたま、実家の手伝いで帰省していたんですが‥‥」
 竹を取るために竹林に入った老人が戻って来ないのだという。
 竹林は左右を峡谷に囲まれ、突き当たりは滝。出入りするには川に沿った谷の入口を通るしかない。そのため、竹林を抜けてどこかへ行ったということも考えられない。
 老人を探して捜索に向かった警官数人も、そのまま戻って来なかったという。
 神隠しではないかという声もあったが、特に霊的なものも感じず。父を介して、能力者である十夜にお鉢が回ってきたのだった。
「それで行ってみたところ、キメラに出くわした訳でして」
 言って、十夜は困ったような笑みを浮かべた。鋭利な印象の面に、それとは真逆の十夜の人柄がにじみ出る。
 それにしても、怪現象の正体がキメラだと知れないうちから十夜を向かわせた彼の父親の勘は流石というべきか。十夜の話に、綾音は首をかしげる。
「う〜ん、風の刃を操り素早く飛翔する獣ですかぁ。なんというか、そんな妖怪いましたよねぇ?」
「ええ、『かまいたち』ですね。姿をはっきり確認できたわけではないので、実際の所はどのようなキメラかわかりませんが‥‥」
「どちらにしろ複数体いるようでしたら、一人で立ち向かうのは危険ですもんねぇ。一緒に行ってくれる方を募集しましょうかぁ」
 今のところ竹林から出る様子は無いようだが、今後もそうとは限らない。町中に出られる前に、早急に殲滅する必要がある。
「すみませんが、よろしくお願いします」
 十夜は綾音と、まだ見ぬ同行者達にむけて頭を下げた。
 こうして依頼掲示パネルに、新たなキメラ討伐の依頼が追加される事となったのである。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN
不知火 チコ(gb4476
18歳・♀・GP
秋津玲司(gb5395
19歳・♂・HD
長谷川京一(gb5804
25歳・♂・JG
セグウェイ(gb6012
20歳・♂・EP

●リプレイ本文


 十夜の案内で、皆はキメラがいるという竹林へ向かっていた。
 竹林は小谷にあり、次第に狭まっていく断崖に挟まれている。突き当りには細い滝があり、滝から流れ出る小川は竹林を抜けて谷の外へと流れ出ている。
 川幅は2m程、深さも脛の中程までしかない。その小川に沿って、上流へと歩く。
「鎌鼬か。となりゃ最低3匹ってトコか?」
 妖怪やその伝承に関して造詣の深い長谷川京一(gb5804)の言葉に、九条・命(ga0148)も頷いた。
「三体一組で連携行動している様に思えるのだが‥‥どちらにせよ、戦ってみれば解るか」
「竹林の中を高速で動き回るとなると、中々厄介ですね」
 秋津玲司(gb5395)が言う。
「行方不明の方もいるそうですし、早く見つけてあげないといけませんね。たとえ‥‥」
 手遅れだったとしても。その言葉を玲司は飲み込んだ。
「八丈部さん、些細な事でいい。キメラの動きで気付いた事を教えてくれますか?」
 ドッグ・ラブラード(gb2486)に問われ、十夜は記憶を辿る。
「とにかく動きが早く‥‥竹を蹴り渡っていましたが、鼬自身にも飛行能力があるようでした。風の刃で遠距離攻撃を仕掛けてきて‥‥すみません、予備動作など確認できればよかったのですが‥‥」
 妹を抱えての事、正直逃げるのが精一杯だった。
「あ、見えてきましたね。あの竹林です」
 竹と竹の間に陽の光が差込み、静かに流れる小川のせせらぎと草葉が風に揺れる音が響く。
 竹林の前に立ち、クラリア・レスタント(gb4258)は竹林の空気を吸い込んだ。
(「綺麗な竹林。森とはまた違う‥‥」)
 目の前で両親がキメラに喰い殺された彼女は、親族からも迫害され放置され続けた末に「言葉」を失った過去を持つ。その為か人よりも自然に心を置いている。
 竹林の異変もすぐに感じ取っていた。静か過ぎる。野鳥の声一つしない。
(「すぐ元通りにしてあげるからね。落ち着けないでしょう?」)
 クラリアは愛用の四角いメモ帳を取り出し、書いた文字を皆に見せた。
『さぁ行きましょう。これ以上、自由にさせないように』
 竹林の中に足を踏み入れてから、アズメリア・カンス(ga8233)は敵の不意打ちに配慮する。水平方向だけでなく、頭上にも留意しながら歩きつつ竹林の様子を観察する。
「狭いのが厄介ね。小川まではキメラと遭遇せずに行きたい所だけど」
 十夜の話では、滝の近くに僅か開けた場所があるという。そこに鼬を誘い込んで相対するという作戦なのだ。
「この竹林のどこかに、行方不明の方がいるんですね‥‥無事だと良いのですけど」
 澄野・絣(gb3855)は、小さく呟いた。
 絣にとって能力者としての力は、誰かを助けるためにあるものだ。そのために戦いが必要ならば、戦う事も辞さない。
「あれは‥‥っ」
 絣は小川の縁にある茂みの横に黒い影を見つけて慎重に駆け寄る。それは倒れた警官だった。身体には深く鋭い傷がいくつも刻まれている。
 絣と共に側に身をかがめた不知火チコ(gb4476)は首を横に振った。
「死体は物だ。今は気に留めなくていい」
 そう言った京一をはっと振り仰ぎ、絣は彼の表情を見て反論を納めた。今の言葉が、彼自身、己を納得させる為のものだったと解ったからだ。
「遺体の回収と行方不明者をいち早う捜索するためにも、まず危険を排除しなくては‥‥」
 チコは決意を新たに小川沿いを歩き始めた。


 竹林内にいるキメラを滝付近へ誘い出すため、命、アズメリア、ドッグ、チコ、十夜からなる誘導班が小川を離れる。
 ドッグはGoodLuckを発動させ祈りを捧げる。
「死に往く生命に幸いを、我等に未来を」
 敵はいつどこから襲ってくるかわからない。攻撃が予想される全方向に警戒しながら歩く。
 竹は比較的密に生えており、竹と竹の間隔は広くても三人並べる程度しかない。しかも所々に切断された竹がある。鼬の鎌か風刃によるものだろうか。見事な切口は竹槍状になっていた。
 小谷の中において、小川は北側を流れている。誘導班が南へ向かい、小谷の中ほどまで到達した時。それまで清かに響いていた風の音が止んだ。
 次いで遠くから聞こえる竹の倒れる音。
「来るか‥‥」
 命が呟く。
 全員動きを止め、周囲に神経をめぐらせる。痛いほどの静寂を破ったのはアズメリアの声だった。
「上よ!」
 振り仰いだ頭上から、落下して来る複数の影。
 全員が同時に地を蹴って散る。それを追うように、影は地面で跳ね返ったかの如く宙へ舞う。
 後方に跳んだ自らの前に突進して来た鼬に、命はキアルクローを見舞う。素早い相手に対して、隙の少ないコンパクトな一撃。
「くっ!」
 手ごたえが浅い。直撃の寸前に鼬は軌道を変えて上空へと逃れたのだ。
「誘導班、目標と接触。これより誘導を開始するわ」
 アズメリアは手早く通信を終えると、バックラーを構えた。
「戦いやすい場所に来てもらいましょうか」
 風刃を受け止めた盾から、予想以上の衝撃が伝わって来る。
 飛来する鼬は大きさこそ普通の鼬サイズではあるが、その両前脚には鋭い鎌が二振り。
 ドッグは動きを良く見て、それに合わせてすれ違いざま蛇剋を斬り付ける。鮮血が舞い、鼬は竹を蹴ってすぐさまドッグへ鎌を振るった。素早い切り替えしに傷を受けながらもドッグが言う。
「もっとだ、遠慮する必要は無い」
 小川へと移動しながらも攻撃の手を緩めない。こちらの刃は相手の攻撃を引き出すためのもの。今はかすりさえすればいい。
 ナイトシールドを構え、チコは風刃を受け止める。 
 傭兵達を囲むように、竹の間を縦横無尽に飛び回る鼬が放つそれは、複数同時に狙われては全てを捉えることはできない。
「痛っ、い、今は我慢です我慢です‥‥」
「不知火さん!」
 十夜がチコの背後に駆け込んだ。遠くからの風刃と、背後からの鼬二体の鎌攻撃が集中したのだ。走り込んだ不完全な大勢で二体の突進を受け止めた十夜の身体は、切断された竹の上に倒れこむ。
「大丈夫ですか!?」
 チコが手を貸し十夜を起こすと、竹槍状になっていると思われた竹の断面は地面と水平な切口を見せていた。
「アズメリアさんのおかげで、助かりました」
 飛来する風刃をバックラーで受け止めつつ、十夜が言う。道すがら、アズメリアが目に付く竹槍を処理して歩いていたのだ。
 誘導のための移動を遮ろうとする数体が、バシッという音と共に一瞬弾かれたように身を躍らせた。
「いかに早く動き回ろうと、これなら避けられまい」
 命の手には超機械「ブレーメン」が握られている。囲みを突破し移動しても、また別の鼬が行く手を遮る。獲物を逃がすまいとしてのことなのだろうが、それはこちらとしても好都合だ。
 このまま囲みごと滝まで移動すれば良いのだから。


 誘導班を見送り、戦場で待つのは絣、クラリア、玲司、京一の待ち伏せ班四名。
 滝と小川の音に包まれた竹林はどこか神聖な空気を感じさせる。当然ではあるが、小川周辺の上に広がる空間は僅かに開けている。
「キメラ討伐ではなく訪れたら、心癒される場所ね」
 絣は隠密潜行を発動させる。だからこそ、自分達の手で静かな竹林を取り戻さなくては。
「そういや、水辺に居る者を襲うって伝承もあったな」
 相手が妖怪であるならば誘われてやってくるのだろうが、全て伝承通りではないのは先の送雀との戦いでもわかっている。
「大人しく待つとしますかね」
 京一も隠密潜航で気配を消す。
 キメラを連れた誘導班が来るであろう方向と、川を挟んで反対側に陣を敷き時を待つ。
 目標と接触したとの連絡を受けてから、どれだけ経ったろうか。
 眼を閉じ、竹林に身をゆだねていたクラリアが瞳を開く。
(「来た‥‥!」)
 鼬の群れに囲まれるようにして竹林を駆ける誘導班の姿が見えた。影は複数交錯し捉え難いが、おそらく五〜八体。
「破魔の弓の初使用、妖怪相手には丁度いいわよね」
 絣は右腰に吊るした矢筒「雪柳」から矢を引き抜き、白い和弓に番える。一番近い鼬が射程に入った瞬間、矢はほぼ同時に三本放たれた。
 即射によって範囲を持って放たれた矢のうち二本が鼬を捉える。
 新手の存在に気付いた鼬は、待ち伏せ班へも攻撃の手を伸ばす。竹を軸に身を翻して風刃をかわし、クラリアは覚醒によって取り戻した声で紺碧の剣に呼びかけた。
「行くヨ、オルカ!」
 飛沫を上げて小川を駆け渡る。竹林を抜け突進してくる鼬の鎌に、後方に跳び退りざま円閃を放つ。刃は鼬の腹を掠め、転進し近距離から放たれた風刃がクラリアの腕を裂く。
 小川沿いに駆け込んできた誘導班は、皆深浅無数の傷を受けている。
「前に出るのは得意ではないが、これ以上負担を掛けるわけにもいくまい」
 バハムートの装甲に身を包んだ玲司がエンプレスシールドを構えて小川を越え、エナジーガンの牽制射撃で鼬をひきつける。
 京一は絣が射る間に矢を番え、彼女が矢を番え弓を引く隙を埋めるように和弓「夜雀」を使う。絣の純白の弓と好対照に、京一の夜雀は黒い濡羽色。
「さぁ妖異の弓と破魔の弓、どちらに射抜かれたいね?」
 狙い定めて、小川を駆け抜けてこちらへと駆け込んでくる十夜とチコを援護する矢を放つ。
 一旦後衛に退がり、十夜はチコと自分に救急セットで治療を施す。
「鬼ごっこは終わりよ」
 アズメリアは小川の手前で反転し、血桜の朱い刀身を抜き放った。


 命は竹の間を縫う影が重複するタイミングを極力狙って超機械での攻撃に専念する。範囲攻撃であれば、狙いが荒くとも鼬を網にかける事ができる。ダメージを蓄積させれば、いかに素早いキメラとて動きが鈍るはずだ。
 超機械の電磁波を受けて一瞬動きの動きの止まった二体のうち一体を、玲司のエナジーガンが狙い打ち。もう一体は治療を終えたチコのエクリュの爪が打つ。
「ふふっ‥‥さぁ、お待たせしました。うちとも踊っておくれ」
 残忍な色を浮かべた笑みを湛え、チコは言葉通り舞うような爪捌きで鼬と対峙する。
 クラリアは右上方から降下してきた鼬の鎌を剣で受け止める。
(「くっ‥‥足場も、広さも足りないっ! それに‥‥速い!」)
 平時は、敵の攻撃を避けながら隙をついて攻撃をするという後の先を取る戦法の彼女だが、敵が攻撃してくる方向によっては竹が邪魔になる。
 絣の矢を旋回して避けた鼬はそのまま絣めがけて飛翔する。矢を向けて射るが、巧みに軌道を変えてかわすと、すれ違いざまに鎌で絣の肩を斬りつけた。
「速い‥‥っ」
 後方で再び旋回し急接近する鎌を、絣は忍刀「鳴鶴」を抜いて受け止める。
 執拗に絣を攻撃する鼬に玲司は銃口を向けるが、下手に打っては絣に当たってしまう。せめて他の鼬を近づけぬようにと、命の超機械と共に威嚇射撃を行なう。
 そこに駆け込んだのはアズメリアだ。
 絣を背後に庇い構えた盾で鼬の鎌を押さえる。衝突の瞬間鼬の動きが止まったのを見逃さなかった。
「チャンスを逃しはしないわ」
 素早さ故に連撃を許さないなら、一撃に賭ける。アズメリアのスマッシュが、見事急所を捉え鼬を倒した。
「今のうちに」
「ありがとう」
 絣は再び距離を取って破魔の弓を構えた。
 鎌鼬は小川を中心とした一定範囲に傭兵達を囲い、竹の間を飛びまわりながら横から上から風刃を飛ばしてくる。それに加え、自らも囲いを抜けて飛び出して来るのだから性質が悪い。
 刃をかわすチコの心に影が差す。一般人がこの刃にさらされて、無事でいられるのか。深手を負って、今もまだ息があるのだとすれば‥‥。
「あっ!」
 脚に熱い痛みが走る。一瞬膝をついたチコに玲司が駆け寄った。追撃に二方向から跳ぶ風刃を盾で受け止めるが、逆方向から飛翔した鼬の鎌がAU−KVに火花を散らせる。
「おおきに。もう平気どす」
 チコは立ち上がり、再び爪を舞わせる。要救助者のためにも、今はキメラを討つ事に集中しなくては。 
 京一は極力視界を広く持ち、味方のフォローを心がける。
「八丈部さん、後ろだ!」
 言い終わる前に射た矢が十夜の横をすり抜け、背中めがけ直進していた鼬に突き立った。怯んだ隙に、十夜が鬼蛍を一閃する。
「すみません、助かります」
 言いながら、十夜は上から降る風刃を盾で受け止めた。
 鼬は自らに矢を放った者に狙いを変えたようだ。竹林の中へ飛び込み、横からジグザグに京一へ迫る。
「チョロチョロ飛び回るなっての!」
 蹴る竹を先読みし、踏み切る瞬間を狙っての一矢は見事鼬を捉えた。命の電磁波攻撃を始め、少しずつではあるが着実に与えたダメージが鼬の足枷となりつつある。
「敵は弱ってきている、一気に畳み掛けるぞ」
 命は背後から接近してくる鼬の鎌を半身にかわし、捻った上体を戻す勢いを加えてのカウンターを叩き込んだ。強烈な爪の一撃に鼬はそのまま地面へ崩れ落ちた。
「風刃よりも俺の疾風が勝っていたようだな」
(「竹をバネにしてる‥‥? なら‥‥!」)
 鼬が竹を蹴る瞬間、
「‥‥力を貸しテ! ‥‥今ッ!」
 クラリアの一閃が竹を斬り落とす。体勢を崩した鼬に、クラリアのスマッシュと二連撃を乗せた円閃が鼬の胴を分断する。
「竹の御霊が、巡り戻る為に‥‥貴様は邪魔ダ!」
 小川を挟んで反対側でも、鼬の軌道を読んだドッグがソニックブームで竹を切断し足場を奪う。
「見えた」
 その隙をついて足に装備した砂錐の爪での蹴り上げに渾身の力を乗せる。喉元に噛み付いた爪が息の根を止めた。
 動きの弱った鼬は次第に数を減らし。飛び交う風刃が減れば味方同士連携を取るのも容易い。残数が半分を切ってから掃討まで、さほど時間は掛からなかった。
 

 救急セットで粗方治療を済ませると、数人毎に分かれて行方不明者と残存キメラの捜索を行なう。
 キメラは全て討ち果たしていたが、傭兵達の願いは届かず老人と警官五名は全て遺体で発見された。人間を襲う為だけに作られた生体兵器であるキメラの脅威を前に、成す術も無く命を奪われたのだろう。
「‥‥諸々の禍事・罪・穢 有らむをば 祓へ給ひ清め給へと‥‥」
 十夜が修祓を行ない遺体を弔う横で、クラリアは黙祷を捧げている。
(「魂は星に還り、星はまた貴方を生むでしょう。願わくば、来世が貴方達にとって優しい世界でありますように」)
 冥福を祈る合掌を解き、玲司は表情を隠すように眼鏡を上げた。
「やはり、遺体を見るのはいつまで経っても慣れませんね‥‥」
 既に地元警察に連絡してあり、駆けつけた遺族と共に引き取られていく。老人の妻である老婦人は、堪えきれず溢れる涙を何度も拭いながらも、笑顔で傭兵達に礼を述べた。
「おかげで一緒に家に帰れます。本当に、ありがとう‥‥」