タイトル:【妖幻】火焔女の怪マスター:きっこ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/26 23:39

●オープニング本文


 その発端は原因不明の連続焼死事件である。全身炎に包まれて息絶えた死体には、引火物をかけられた形跡もない。
 昼夜関係無く起こるその事件は、目撃者もいない。被害者は一人、またはごく数人でいるところを襲われており、襲われて生きていた者がいないからだ。
 警察による捜査は続いているらしいが、成果を報告する報道が流れる事も無く。ただ被害者だけが増えていく。
 正体の知れないもの、というのは人々に恐怖と好奇心を抱かせる。人々の口の端に怪談めいた噂が登るようになっていた。
 曰く、姿が見えないのならばそれは幽霊に違いない。
 曰く、男ばかりが被害者なのは、その幽霊が男に騙され自殺した女だからだ。
 曰く、騙された男への恨みや怒りが炎となって男を焼き尽くすのだ。
 事件と事件の間隔が次第に短くなり老若男女問わず被害に遭うようになってからも、その噂が消えることは無かった。

『だからね、私は絶対‥‥ちょっと聞いてるの、お兄ちゃん!?』
 電話の向こうで、こちらからの相槌が無い事に怒る妹に八丈部 十夜(gz0219)は忘れていた、というように相槌を打った。
「聞いてるよ。聖(せい)は『火焔女』がキメラだっていう自信がある、って言うんだろう?」
『火焔女』の噂についての話の途中から『火焔女』の事に考えをめぐらせていて、つい返事を忘れていたのだ。
 そういうことは良くあることなので、聖も特に気にした風もなく話を続ける。
『間違いないって! 私の勘が良く当たるの、お兄ちゃんも知ってるでしょ?』
「うん、まぁ‥‥」
 僕の記憶によれば6割くらいは当たるかな、という言葉は口に出さず呑み込んだ。
『とにかく気が向いたら調べてみてよ! あ、あんまり長電話してたらお父さんに怒られるから切るね。じゃ、夏休みには帰ってきてよ!』
 一方的に言うだけ言って、中学生の妹から掛かってきた電話は切れた。傭兵には夏休みというものはないのだが‥‥。
 十夜は困ったような笑みを浮かべて小さく溜息をついた。この手の話に気が向くであろう事を知っていて電話を掛けてきているのでは無いだろうか。
「‥‥気が向いたら、ね」
 翌日、UPC本部内の依頼斡旋所を訪れた十夜を呼び止めたのは、日本人オペレーターの小野路綾音だった。
「十夜くん、丁度いいところへ来ましたねぇ。今、新しい怪依頼が入って来たところですよ〜」
 怪依頼、とはよく言ったものだ、と十夜は密かに感心した。事実、十夜がこの春に傭兵となってからというもの、何かしら妖怪めいたキメラの討伐依頼にばかり恵まれているのだ。
 綾音に手渡された資料を見て、十夜は思わず驚きのこもった呟きを漏らす。
「『火焔女』‥‥ですか」
「あら、知ってるんですかぁ?」
「ええ。昨日、電話で妹から聞いたんですけど‥‥キメラ、なんですか?」
「まだそうと決まったわけではないんですよ〜。なかなか犯人が捕まえられない上に、被害がどんどん拡大しているので〜。『調査の上で怪事件を解決して欲しい』というのが依頼です〜」
「ああ、なるほど‥‥」
「いきなり火達磨にされるなんて、確かに幽霊や妖怪の仕業と思えなくもないですよねぇ? 『火焔女』なんて噂になるくらいですしねぇ」
 思案顔で言う綾音の前で、十夜は資料を確認していく。
 資料にはあくまでも参考として『火焔女』の噂についても書かれていた。
『美しい女の姿をしているが、声を掛けると鬼のような形相になり恨みの炎で相手を焼き尽くす』などとある。
「この記述の元は、火縁魔(ヒノエンマ)でしょうか‥‥被害者は、男だけではないようですけどね」
 それにしても、誰も犯人の姿を見たことがないというのに。噂というのは際限がない。
 十夜は資料のファイルを閉じて綾音に夜色の瞳を向けた。
「この依頼、参加させてください」
 今もその正体不明のモノは人々を脅かし続けているのだ。正体を確認したいという好奇心がないとは言えないが、放っておくことはできないという思いがあるのもまた事実。
「かしこまりです〜。頑張って正体を突き止めてきてくださいねぇ」
 そういう綾音も、事件の真相が気になるらしい。早速『火焔女』の依頼をディスプレイに表示すると、参加者として十夜の名を登録した。

●参加者一覧

勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
煌月・光燐(gb3936
16歳・♀・FT
エミル・アティット(gb3948
21歳・♀・PN
沖田 神楽(gb4254
16歳・♀・FC
秋津玲司(gb5395
19歳・♂・HD
長谷川京一(gb5804
25歳・♂・JG
雨夜月(gb6285
13歳・♀・GP

●リプレイ本文


 東西に高架線路が走り、駅から南に伸びる駅前通りとそれを南北に分断する国道によって、街は四つに区切られている。
 勇姫 凛(ga5063)と雨夜月(gb6285)は最新の事件が起きた国道と駅前通りの交差点付近を訪れていた。
「皆が怯えて暮らさなくてもいい様に、この事件の謎、凛が絶対暴いてやるんだからなっ!」
 アスファルトに焦痕が残る現場で調査を開始する凛は、アイドルだけあって軍用防火耐熱ジャケットすらも颯爽と着こなしている。
 雨月夜も残留物がないか足元を中心に調べていく。
「姿無くして焔だけが襲ってくるなんて、なんだか‥‥不思議な話?」
「機械的トリックとかじゃないみたいだ。犯人はキメラか超能力者か‥‥」
「犯行がエスカレートしてきているのは、力や自信をつけてきたからかもしれませんね」
 資料によれば、最初は夜間に一人、二人を狙っていた。それが最近では出勤・通学時間や夕方など、人通りの多い時間に複数名を襲っている。発生間隔も、一月に2回程だったのが今では数日置きになっていた。
「このまま、新しい現場から遡って調べていこう」
 凛の言葉に雨月夜も頷いて、六件目の事件が起こった駅付近へと向かった。

 沖田 神楽(gb4254)は街で運営している地元ラジオ局を訪れていた。
『こんにちは! 実は今傭兵として火焔女の事件解決の為にこの街に来ています。火焔女について知っている事がある人は、情報提供をお願いします。連絡先は‥‥』
 ALPだからこそできるこの手段を使って、何とか事件解決の糸口を掴みたい。神楽は局の事務所で待っていたエミル・アティット(gb3948)に買ってきたジュースを渡す。
「おっ、ゴチになるぜ!」
「上手くいくといいんだけど」
 神楽は次々と掛かってくる電話の対応に追われている局員を見つめる。局では、こういう事態になるのがわかった上で事件解決の為と協力を快諾してくれたのだ。
 エミルは空のジュースを覗き込みながら言う。
「それにしても『火焔女』なんて、ひねりがないぜ」
「まぁ、確かにね」
「ってか恨みを持った女って‥‥なんで怖い話とかに出てくる女って、みんなそんな感じなんだぜ? なんか女がみんな執念深いみたいでちょっと嫌だぜ」
 自分まで一緒にされたくないと顔に明確に表しながら言うエミルに、神楽が言った。
「事件を解決すれば、火焔女の噂もなくなるよ。頑張ろう!」
 二人は寄せられた情報の確認に取り掛かる。

「今回は火焔女ですか‥‥」
「火縁魔ねぇ。丙午の捩りって説もあったな。世に妖怪の種は尽きまじ、だな。今回のは果たしてキメラかそれとも‥‥」
 秋津玲司(gb5395)と長谷川京一(gb5804)はこれまでにも何度か妖怪めいたキメラの討伐に参加したことがあり、その度に顔を合わせている仲でもあった。
「今までに7件。これだけの事件を起こしながら、目撃者が一人もいないというのが気になりますが‥‥」
 玲司は資料を確認しながら呟く。これ以上被害を出さないために、早く犯人を見つけなくては。その思いは京一も同じだ。
「逸早い発見の為にも、次の襲撃場所を予測できればいいんだがな」
 二人はこれまでに発生した事件の資料を元に、発生場所を地図に落とし込み情報を整理していく。
 そこに別の方向から事件調査に当たっている皆からの情報を待って、さらに予測ポイントを絞り込んでいくのだ。

 煌月・光燐(gb3936)は同行するドッグ・ラブラード(gb2486)と八丈部 十夜(gz0219)に会釈する。
「宜しく‥‥お願いします‥‥」
 幼い頃から戦場で生きてきた彼女だが、少しはにかんだその様子は年頃の少女にしか見えない。
「よろしくお願いします」
 微笑んで礼を返す十夜だが、同じく挨拶はするものの女性恐怖症なドッグはややしどろもどろになっている。
 街の西には南北に川が流れ、その周囲は住宅街。駅前通りに沿って駅前から南に大型店舗群と、国道を越えると商店街が並ぶ。線路沿い、駅前通東側は商社ビル街。そこから国道を越えて南に下ると学校や公共施設、工業地域へと変わっていく。
(「南西区域の商店街‥‥」)
 光燐の勘がその場所を指していたが、それに拘りすぎて犯人を逃すわけには行かない。
 玲司と京一がひとまず割り出した範囲を中心に、極力市民の不安を煽らぬよう努めながら警邏と索敵に向かう。


 エミルと神楽は寄せられた情報から有用そうなものを絞り込んでいく。
「そっちはどう? はかどってる?」
「む〜‥‥どれも胡散臭い感じのばっかだぜ」
「うーん、思ってたとおり役立つ情報少ないな」
 明らかに悪戯とわかるものは除外するにしても、火焔女自体噂が噂を呼び情報が肥大してしまっている為、手掛りになりそうな情報を探すのも難しい。
「とりあえず、中でもそれらしいのは拾ってみたぜ!」
「このままじゃ埒が明かないし。連絡先がわかる人の所へ聞き込みに行ってみよう」

 凛と雨月夜は三件目の現場である公園を訪れていた。土の地面ならば足跡くらいと思ったのだが、三件目となるともう二週間以上も前になる。
「ここも見つかりませんでしたね」
 それでも諦めきれず、雨月夜は周囲を見回している。
 妙な痕が残っていたのならば、警察が捜査の段階で発見していただろう。これ以上遡って、手掛りが見つかるかどうか‥‥。
「勇姫さん?」
 雨月夜がじっと一点を見上げる凛に問いかけた。凛はふと口を開く。
「どうして火焔女なんだろう。姿が見えないなら、化物やそれこそキメラだって言われていいはずなのに」
「そう言われてみれば‥‥」
「凛、思うんだけど、もしかして人を思わせる何かがあったんじゃないかな。確認しに行こう!」
「えっ、どこへですか?」
 走り出した凛の背中を雨月夜が追いかける。凛が見上げていた先にあったのは、公園の監視カメラだった。

 火焔女の犯行は次第に人通りの多いところへとシフトしている。また、一度事件を起こした現場のすぐ近くで再度犯行を繰り返すという事もない。
 他の班から無線で寄せられる状況にも目立った進展はないが、確率からするとやはり人通りの多いところを重点的に捜索するべきだろう。
「高架付近の繁華街、通勤・通学路、商店街、といった所でしょうか。駅前には我々が当たりますので」
 無線で巡回範囲を報告する玲司は、京一と共に駅前にいた。
「姿が見えない、ねぇ。透明なのか、擬態してるのか、サイズが異常なのか。その辺が定番かね?」
 京一は呟きながら煙草に火を点ける。一体何本目だったろう、と半分呆れ半分感心の眼差しを送る玲司に京一は煙を吐き出しながら言う。
「相手が見えなくても、煙の流れで動きがわかるかも知れんだろ?」
 こちらはこちらで半分本気半分言い訳である。
「それに男だけの組は俺らの所だ。ま、今となっちゃ男だけ襲われてる訳でもないみたいだが‥‥気休めでも対策しときたいのさね」
 陽が傾き空も夕闇に包まれ始めている。先刻皆に伝えた捜索範囲はどこも人が増える時間帯だ。二人のいる駅前も、駅から家路につく人や駅へと向かう人で賑わっていた。
 と、遠くから爆発音が響いた。周囲が騒然となる中、玲司はバイク形態のAU−KVバハムートに跨りエンジンをかける。
「京一さん!」
「おう 頼むぜ!」
 京一を後ろに乗せて、京一はバハムートを爆発音の響いた方へと走らせた。


 そこへ最初に駆けつけたのは、ドッグ、光燐、十夜の三人だった。玲司の無線を受けて、商店街へと向かっている途中だったのだ。
(「やっぱり、ここだった‥‥」)
 光燐は逃げ惑う人々の波に逆らって駆ける。爆発が起こった地点へたどり着いた。炎上する車と、傍らに倒れている数人の元へ駆け寄る。まだ息はあるようだ。
「慌てずに、こちらへ逃げてください!」
 声を張り、十夜が一般人を避難させる。
 光燐と十夜に避難誘導を任せ、ドッグは油断無く周囲に視線をめぐらせた。突如、何も無い空間から逃げ惑う人へ炎の渦が飛ぶ。悲鳴が上がったが、彼らには炎の熱しか及ばなかった。
「っ‥‥やはり、人間の技ではないな」
 ドッグが自らの身を盾に炎を受け止めたのだ。虚闇黒衣により軽減されているとはいえ、並の炎ではない。
 その頃、管理局で事件当時の監視カメラの映像を確認していた凛は画面を指して声を上げた。
「これ! 凛の思った通りだ」
「本当ですっ、やりましたね!」
 カメラには煙に巻かれうっすらと浮かび上がる影が。別の映像で拡大してみると、炎の光に身体の輪郭がぼんやりと浮かび上がっているものもあった。
 と、そこへ仲間から火焔女出現の無線が入った。合流すべく駆け出しながら、凛は皆に告げる。
「犯人は間違いなく実体を持った相手だよ。手段はわからないけど、きっと姿を消してるんだ」
「姿の見えない敵‥‥? まるでファームライドだな」
 現着しバハムートを装着しエナジーガンを構えた玲司が言うと、京一が頷く。
「光学迷彩、か。あながちハズレでもないかもな」
 覚醒した光燐が不死鳥の如き翼をV字に傾け、炎に包まれた黒刀「炎舞」を手に疾走し放たれた炎をかわす。相手は炎を操るが、自らも様々な炎の名で呼ばれる身だ。
「其の力と意味‥‥教えてあげます‥‥」
 彼女が燃やす闘志に応じて、翼の炎が勢いを増す。
「やはり姿が見えないだけか‥‥」
 凛からの無線に納得したドッグは直接攻撃のカウンターを狙うが、相手は炎以外の攻撃を行なってこない。次の炎が起こった瞬間、ドッグは炎へと突っ込んだ。虚闇黒衣を纏っているとはいえ、熱が身を焦がす。
 しかし火焔を出した側からも、炎に隠れたドッグの姿は死角になっていた。炎を抜けたドッグはその噴出点と思われる位置へ蛇剋を突き立てた。
 甲高い、獣じみた悲鳴が上がる。その位置を狙ってドッグと十夜がペイント弾を放ったが、傷を負いながらもその場を逃れたようだ。
 しかしそこから、狙いはドッグ一人に絞られた。姿は見えないまでも、炎が逃げるドッグを追いかけ続ける。
 丁度その時、エミルと神楽から無線が入った。
「商店街から公園までのルート、確保完了だぜ!」
「一般人は皆避難させたから、目標の誘導をお願い」
 商店街から西へ向かった住宅街の外れに、グラウンドを備えた公園がある。近隣へ戦いの被害が及ばぬよう、そこへ火焔女を誘い込むのだ。
 聞き込みのために南西の住宅街を訪れていたこの二人が、住民の避難と誘導ルートの確保に当たっていたのである。


 完全に陽が沈み暗くなった周囲に、連続で起こる炎の光が映える。次第に近づいてくるそれを、グラウンドで待ち構える神楽は蛍火を抜き放つ。
「来たね‥‥!」
「お前に丸焼きにされた人の分、代わってお礼返しをしてやるぜ!!」
 罪の無い一般人を襲う悪い奴らは許せない。エミルも両拳にはめたディガイアを握り直す。
 ドッグがグラウンドに走り込むと、炎がその後を追う。炎の放射元と思しき位置を銃装備者が狙い撃つが、予想以上に素早い動きを捉える事ができずにいる。
「ちっ、暗くなっちまったか‥‥」
 京一は小型フラッシュライトを点け、カメラのパーツから組み上げたナイトビジョンを装着する。
 と、突如グラウンドに水が降り注いだ。管理局から鍵を借りてきた凛が、公園に設置されている防火用の放水ホースで水を撒き散らしたのだ。
「凛の目は、誤魔化せないんだからなっ!」
 水を吸ったグラウンドならば、足跡が沈み込む。更にライトの光が濡れた火焔女の輪郭を僅かに反射させた。
「そこかっ!!」
 京一が番天印で鋭覚狙撃と狙撃眼を乗せたペイント弾を放つ。それが当たると同時に、京一がシエルクラインで放ったペイント弾も命中し、人型の身体の大半がペイント弾色に浮かび上がる。
「これだけ見えていれば‥‥」
 十夜は蛍火の柄を握り直し斬りかかる。それをかわした火焔女の着地点を狙って迅雷で駆け寄った神楽が円閃を放つ。
「浅い‥‥!」
 刃が当たる寸前に後方に跳んで直撃を逃れた火焔女は、距離を取ろうとする神楽を追う。その前に雨月夜が立ちはだかった。
「今度はあたしが相手です!」
 黒爪を閃かせ、舞うように斬りつける。直後、近距離から放たれた炎を横に逃れた。僅かに腕を焼かれた痛みに顔をしかめる。
 連続で三方向に放たれたその炎の一つをかわした光燐は、本能のままに飛び退る。不可視の何かが足をかすめ、転倒は免れたものの体勢を崩す。
「今のは‥‥?」
「今までに無い攻撃だぜ!」
 体勢を立て直す光燐のフォローに入ったエミルが目測でディガイアを突き立てるが手ごたえは無い。
「――!」
 それが次に狙ったのは十夜だった。腕を捕り引き寄せんとする力に一度は踏み堪えたが、二度目の強い引きに身体が持っていかれた。更に引き寄せられる前に、玲司が十夜と火焔女の間の空間をシエルクラインの弾幕で断つ。
 雨月夜が倒れた十夜を背に火焔女との間に入る。
「大丈夫ですか?」
「すみません、助かります」
 十夜の腕に巻きついたままのそれは、本体からの切断により姿を現していた。体の一部、なのだろうか。粘着・弾力性のある太い鞭状のものだ。
 変わらず素早い動きで皆の間を跳び回る火焔女だが、少しずつではあるが確実にダメージは与えていっている。
 体術での攻撃を蛇剋で受けながら、ドッグはアイリーンで影撃ちを見舞う。
「火焔ももはや打ち止めのようだな」
 素早い動きで皆の間を跳び回る火焔女だが、玲司がエナジーガンで牽制し動きを制限すれば、和弓「夜雀」で狙いを定めていた京一が矢を放つ。
「さあ、食い千切れ夜雀!」
 足を狙っての影撃ちに機動力が落ちたところへ、神楽の刹那を乗せた一撃が火焔女を捕らえた。
「これでどう!?」
「チャンスだぜ!」
 連撃を放たエミルに次いで光燐が駆け込んだ。金煌纏う朱雀の如き翼の炎が烈しさを増す。
「逃げる暇も与えない‥‥」
「炎の怪奇を吹き飛ばす、火消しの風を巻き起こせ‥‥紫苑!」
 光燐の紅蓮衝撃と凛の振るう大鎌「紫苑」の一閃が同時に火焔女を捉える。それが一つの街を恐怖に陥れた火焔女の最期だった。


「一件落着、これでこの街も平和になるぜ!」
「あ、わわっ‥‥は、離してくださいっ!?」
 エミルが両手を持ってくるくる回るものだから、ドッグはいろんな意味で目が回りそうだ。
「これが火焔女の真の姿ですか」
「幽霊の正体見たり‥‥美女とは程遠い姿ですね」
 十夜と玲司が苦笑する。息絶え光学迷彩が解けた火焔女は、カメレオンのような頭部を持ち全身鱗に覆われた改造人間のような姿だった。光燐と十夜を襲ったのは、舌だったという訳だ。
 事件は解決したものの、火焔女の噂はしばらく絶えることなく続いた。
「もしかしたら、バグアの研究者にオカルト好きがいるのかもな」
 戦い終えての一服を味わう京一が冗談めかして言ったが、それもあながちハズレでもないかもしれない。