タイトル:【魂鎮/LC】海遊び!マスター:きっこ

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/31 01:43

●オープニング本文


「海ですか〜、いいですねぇ」
「やっぱり、夏は海ですよねっ」
「そうですねぇ。私も海か山かと聞かれれば、海派でしょうかぁ」
「ですよね! スイカもやきそばもイカ焼きも、浜辺で食べるといつもよりすっごく美味しいですっ」
 のどかな会話が繰り広げられているのはUPC食堂、ではなく。本部内依頼斡旋所である。
 多少場違いな気もしないでもない会話の主は、オペレーターの小野路綾音とUPC少尉である流風・シャルトローゼ(gz0241)だ。多少タイプは違えど、のほほんマイペースな二人がそろうと自然こんな空気になるのだろう。
「ではでは、今回は『海に一緒に遊びに行きましょう! お誘い依頼』という事でよろしいですねぇ?」
 本題から逸れかけた話題を、綾音はすっと引き戻した。流石にオペレーターの職務を忘れる事はしない。
「あっ、はい。お願いします」
 流風は小学生のような小さな身体を二つ折りにしてお辞儀した。




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 私、流風・アイゼリア・シャルトローゼ少尉は北米での仕事を無事に終えて戻ってきました。
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 プレーリーのキメラは、ちょっとかわいそうだったけど‥‥お仕事だから、仕方ないよね?
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 今回何と、谷崎中尉から夏休みをもらいました! せっかくなので、以前訪ねたミンダナオの 
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 無人島へ遊びに行こうと思います。傭兵さんたちも誘ってみたけど、来てくれるかな?
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 たくさん来てくれるといいな‥‥みんなで楽しい思い出をいっぱい作らなきゃ!
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「つくらなきゃ‥‥と」
 UPC本部の一角にある小さな部屋。『UPC総合対策部』に戻ってきた流風は、机に広げたファンシーなカエルノートに、おそろいのカエルペンで日誌(?)を書き終えて顔を上げた。
 ノートの向こう側に置かれたぷちリアルなカエルのマスコットと眼が合い、流風は微笑む。
「雨康も楽しみ? あ、でも雨康は海には入れないね‥‥だけど、あの無人島は森も綺麗だったし砂浜も綺麗だったから、泳がなくてもきっと楽しいよ」
 その無人島には『訪れた』のではなく偵察に向かった流風が巨大植物キメラの対空種弾に撃墜されて不時着した、と言うのが正確な事情なのだが。
 更に言えば『夏休みをもらった』のではなく、仕事をくれと付きまとわれてうんざりしている谷崎中尉に体良く厄介払いされたのだ。ある意味、谷崎中尉にとっては流風の不在が夏休み的心身休暇になるのかもしれない。
 そもそも『UPC総合対策部』自体が、流風を主要作戦からはずすためのものだったのだが、本人は全く真相に気づく事も無く。『世界の平和を守るために傭兵と共に各地の事件を解決する部署』と認識しているようだ。
「いつも傭兵さんにはお世話になってるから、楽しんでもらえたらいいなっ。知らない傭兵さんとも、新しくお友達になれるかもしれないし! 海でできる遊びって、たくさんあるよね‥‥少しでも準備しておこうかなっ」
 流風は雨康を定位置である仕官服の胸ポケットに収めて立ち上がると、鼻歌混じりに部屋を後にした。

●参加者一覧

/ 石動 小夜子(ga0121) / 弓亜 石榴(ga0468) / 新条 拓那(ga1294) / 西島 百白(ga2123) / ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416) / 狭霧 雷(ga6900) / 菱美 雫(ga7479) / 紅月・焔(gb1386) / リヴァル・クロウ(gb2337) / ドッグ・ラブラード(gb2486) / リュウナ・セルフィン(gb4746) / 東青 龍牙(gb5019) / 孫六 兼元(gb5331) / 秋津玲司(gb5395) / 美環 玲(gb5471

●リプレイ本文


 西瓜入木箱の積み込むドッグ・ラブラード(gb2486)は初体験となる西瓜割りに心を躍らせる。
「異国の風習に触れるのは面白いですよね! 今からもうワクワクして!」
 かつて部隊長と仰いだホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)と再会できたのも嬉しい。彼を尊敬し目標とする気持ちは今も変わらない。
 ホアキンとリヴァル・クロウ(gb2337)は流風に声を掛ける。
「初めまして流風少尉。今日はよろしく」
「しっかりとこうした旅行に出かけるのは久方ぶりだ。機会を与えてくれて感謝する」
「こちらこそ、参加してくれて嬉しいですっ。たくさん遊びましょうね!」
「怪我などしないように気をつけておかないと。楽しめれば何よりですからね」
 妙に気合の入っている流風に、狭霧 雷(ga6900)がそれと無く注意を喚起する。普段のドジっ子具合を思うと不安になるのも無理はない。
「やっぱり‥‥駄目だったか」
 虎不可だった西島 百白(ga2123)は遺憾の溜息と共に高速艇に乗り込んだ。
 飛び立った高速艇の窓には、やがてミンダナオの青い海が見え始める。
「南の海で遊べるなんて、久しぶりです‥‥」
「海でぱーっとね! これは遊び甲斐があるね♪」
 窓の下を見つめる石動 小夜子(ga0121)の隣では弓亜 石榴(ga0468)がほくそ笑んでいた。
 到着した無人島は陽光に白く輝く砂浜と、深く澄み渡る海で皆を迎えた。
「リュウナ! イン! 無人島! にゃー♪」
 リュウナ・セルフィン(gb4746)は高速艇から駆け出し元気に叫ぶ。駆け回る彼女が砂に足を取られないか心配しながらも、東青 龍牙(gb5019)はつい百白の姿を探す。
「体力があるうちに作っておいたほうがいですよ。疲れて休む場所があったほうが良いでしょ?」
 下ろした荷物の中からテント一式を取り出す雷に秋津玲司(gb5395)も加勢する。
「あの時はゆっくり見れませんでしたが、綺麗な所ですねぇ」
 男手中心にキャンプの設営を進めながら、玲司は改めて海岸沿いを見渡す。菱美 雫(ga7479)も頷き流風に笑いかける。
「流風少尉と、はじめて出会った場所に‥‥一緒に遊びに訪れることになるなんて‥‥な、なんだか‥‥面白い、ですね」
 二人と雷、紅月・焔(gb1386)、ドッグ、孫六 兼元(gb5331)は不時着した流風救出のために一度この島を訪れた事があった。
「あの依頼から随分たったな‥‥」
 この炎天下の中でもガスマスク着用の焔は、打ち寄せる波を見下ろしながらぽつりと呟く。
「‥‥しかし‥‥バカンスか‥‥海、水着‥‥ぐふ! ぐふふふ‥‥」
 遠目に見れば感傷に浸る背中も、中身は煩悩ぎっしりのようである。
 兼元は流風の頭にわしわしと手を置く。
「ちょっと背が伸びたのではないか? やはり成長期だな。ガッハッハッハ!!」
 流風を外見通りの年齢と思っている彼だが、当の流風はそれを真に受けて両拳を握り締めた。
「本当ですかっ! 紅月さんにもらったガスマスクが効いてるのかなっ」
 焔がプレゼントしたガスマスクには隊か胸か背が大きくなるマジナイが施されているとか。
「少尉‥‥息災の様で安心してましたのでおじゃります‥‥おや?」
 噂をすれば。無理に敬語を使おうとして何故か麻呂言葉のガスマスク。
 粗方片付いたところで、玲司は一人になった流風に声を掛ける。
「流風さん、ご一緒してもいいですか?」
「はいっ。あ、玲さん」
 流風が笑顔を向けた先には美環 玲(gb5471)がいた。
「流風さん、今回は素敵な無人島に招待して頂きありがとうございます。お礼にたっぷりと一緒に遊びましょう!!」
 玲は流風を抱きしめ頬ずりをする。可愛いものは愛でずにいられない玲にとって、流風は動く人形といった所らしい。
「私のことを『お姉さま』と呼んでもいいのですよ?」
「ええっ、でも私の方が年上だったよう、な‥‥?」
 流風が言うが説得力がない。
「玲さん、その姿は暑くないのですか?」
「海で遊ぶには、着替える必要がありますわね」
 玲司に言われ、突然その場で黒のゴシックワンピースを脱ぎ始めた玲。流風が押し留めようとするが間に合わず。ワンピースは彼女の足元に落ちた。露になった黒に白いフリルのついた下着‥‥ではなく。
 胸を撫で下ろす流風と玲司に反し、遠くで舌打ちする焔。
「ちっ、水着か‥‥」
 テントの中で着替えた流風は、黄色いひまわりの水着にカエルさんのうきわをつけて額にはゴーグルと、どこから見ても小学生だ雨康は透明の防水ポーチに入れて肩から斜めに提げている。
 スタイルの良い玲と並ぶと流風のお子様具合が際立つのだが、本人は気にした様子もない。
「流風さん、これを」
 二人と連れ立って海へ向かう流風を雷が呼び止め呼笛を手渡す。
「同行者がいる間は大丈夫だと思いますが、何かあったらそれを吹いてくださいね」
 実は玲司と玲も心配で放っておけないという理由で行動を共にしていようとは、知らぬは本人ばかり。


「おっ待たせ、こっちも準備はバッチリ! ‥‥だけどさー。これはちょっと男らしすぎるというか。視線が気になるよ?」
 そう言う新条 拓那(ga1294)のブーメランタイプの水着に、小夜子は頬を染め視線のやり場に困る。
「え、と‥‥やっぱり殿方の水着姿、というのは見慣れないです‥‥」
「さー、骨休め骨休め。ビーチバレー、いってみよー♪ ほらほら、リヴァルさんも早く!」
 一方こちらも視線のやり所に困るキワドイ水着姿な石榴。雷から借りたビーチボールを抱えて三人を呼び、四人で輪になって和気藹々とボールを追いかける。
「ははっ、やっぱ皆で遊ぶと楽しいな〜! ほんと、来てよかったよ♪」
 屈託の無い拓那の笑みが灯す暖かな想いに、小夜子は柔らかな微笑を返す。
「それっ! 小夜ちゃん、行ったよ!」
「はい‥‥っ、弓亜さん、お願いします」
 石榴はリヴァルとの間に飛んできたボールへと駆け寄る。足を取られた風で体勢を崩し、石榴はリヴァルにしがみつく。
「あ‥‥ごめんなさいっ」
 潤んだ瞳でリヴァルを見上げ頬を染める彼女以上に赤面し、リヴァルは石榴を慌てて引き離した。
「つ、躓いたのではなく故意に飛び込んで来ただろう。見え透いた悪戯はやめてもらおう」
「ちぇー。オトコノコなんてイチコロよ♪ ってなると思ったのになー」
 そんな声が遠く聞こえる岩陰で陽射しを避け、岩に背を預け波音を聞きながら大きなあくびをする百白。
 砂を踏む音に眼を開けた百白の前に、水着姿の龍牙が佇んでいた。
「あの‥‥まだ上手く泳げないので、出来れば西島さんに泳ぎ方を教えてもらいたいです。ダメですか?」
 緊張のためか怒ったような表情で返答を待つ龍牙に、溜息を返し百白は立ち上がる。
 海へ歩き出す百白の後を追いかける龍牙を、水着とうきわを装備したリュウナが追い越していく。
「いざ! 海へ、突撃にゃー!」
 大ジャンプで着水の後は、うきわで波に揺られながら眼前を横切る龍牙を鼓舞する。
「がんばれ! 龍ちゃん!」
「とりあえず‥‥足をバタつかせておけ‥‥」
 百白は龍牙の両手を取り、後ろへと後退する。
「それで‥‥進む」
「は、はいっ‥‥あっ、△☆◇○!」
 少し手を離されただけで龍牙はあえなく沈没しかける。百白は溜息と共に彼女の手を取り、バタ足の先導を再会するのだった。
 さらに離れた岩礁群では、ホアキンが遊泳を楽しんでいる。網籠と水中槍を手にしているのは見つけた食材を捕獲するためだ。
「気持ちいい」
 南国の気温と肌を焼く陽射しの中、底まで見透かせる海に浮かぶのは体感的にも視覚的にも涼しい。
 と、流風と保護者二人を浅い岩礁に見つけた。
 集まる色とりどりの魚や珊瑚を観賞しているのだ。ちなみに流風だけ、うきわの下の足は砂に届いていない。
「あっ、あのオレンジと白のひとは見たことがありますっ!」
 ゴーグルで水中を覗き込む流風の下にいる鮮やかな魚を見、玲司が言う。
「クマノミですね。そちらの青いのはナンヨウハギですよ」
「まぁ、博識でいらっしゃいますのね」
 素直に感心する玲に、玲司は少し照れた様子で謙遜する。
「本などで得た知識ですよ。やはり写真と実物とでは全然美しさが違いますね」
「あっ、ホアキンさん!」
 手を振る流風に手を振り返すと、海中の景色を楽しみながら島の外周をひとまわりするつもりでいるホアキンは再びゆっくりと移動を始めた。
 島の外周は砂浜で囲まれているが、島自体はそのほとんどが森林で覆われている。
 雫は海へ入らず、森へ足を踏み入れた一人。
「この前は‥‥ろくに、周りの景色とか、見ることができなかったけど‥‥綺麗な島‥‥です、ね‥‥」
 森の中は野鳥の声が響き、強い日差しを枝葉の天蓋がやわらげてくれている。まるで戦いばかりの日々が嘘のように穏やかな時間を大切に歩いていく。
 森の南部、浜から少し奥へ入った位置には巨大植物キメラとの戦闘痕がある。なぎ倒された木々の間で兼元は当時の記憶を辿る。
「此処で雪村がキマったのだよな。ウム!!」
 自らの活躍を思い出し頬が緩む。ややして兼元はドッグの姿を見つけた。
「ラブラード氏も戦いの跡を見に来たのか?」
「私は食材探しで‥‥あ、海は女性が多いから森へ来たという訳じゃありませんよ!?」
 聞かれてもいないのに思わず言い訳してしまう彼は女性恐怖症。木の実やキノコをたくさん抱えているので、少なくとも半分は本当らしい。
「すごい色のキノコだな!」
「一見毒々しいけど、以外に乙な味ですよ?」
 豊富な生物学の知識に基づいた採取を行なっているため、安全は保障されている。が、普通の人が食べるには精神的に抵抗があるかもしれない。
「こんな所でお会いするとは、奇遇ですね」
 二人が同時に振り向くと、雷の姿があった。
「もしかして、木材を取りに?」
「ウム、そんなところだ!」
 雷に兼元が答える。帰りにはキャンプファイヤーに使用する木を運んでいくつもりだったのだ。
 雷は倒木から使えそうな木を吟味し、白い竜人の姿に変じると資材をまとめて肩へ担ぎ上げる。兼元もキャンプファイヤーに使用する木材を選び、手伝いを申し出てくれたドッグと共にキャンプ地へと向かう。
 流風が海から戻って来る頃には、キャンプ周辺にベンチやハンモックが設置されていた。
「これ狭霧さんが作ったんですか!?」
「ええ、自由に休んでくれて構いませんから」
 微笑む雷の器用さに感心しきりの流風は、早速ハンモックに上り休み始めた焔に笑いかける。
「紅月さんは何をしてたんですか?」
「俺? ボールの観察」
 ガスマスクの人が観察していたのはビーチバレー‥‥で揺れる胸元の球体である。


 到着してすぐに小夜子が冷やしていた西瓜が食べ頃になり、西瓜割りを開始する事となった。
「リュウナ様、それは?」
「西瓜割りに使うライフルのチェックをしてるのら! 暴発とかは怖いからにゃ」
「ライフル‥‥?」
 龍牙の驚く理由がわからないリュウナは笑顔で言う。
「動く西瓜を狙い撃つなりよ」
「そんな西瓜割りもあったんですね! 面白そうですっ」
 リュウナの言葉に反応したのは流風だ。
「えっと、西瓜を掲げた人が逃げるのを狙って撃てばいいんですよね??」
「そうそう、きっとそんなかんじなのら!」
 二人の会話に、龍牙が慌てて割り込む。
「違います! 西瓜割りというのは‥‥」
「まぁまぁ。愉しそうだから少尉の案でいいんじゃないかな」
 龍牙を止めたのはホアキンだった。結果――。
「待つのら、ひゃくしろー!」
 リュウナに西瓜を持たされ走り回る破目になった百白を龍牙は心配そうに見守る。雫は医者としての直感で無意識の内に救急セットを用意していた。
 ホアキンは闘牛士なだけあって流れ弾も身軽にかわしている。焔も自ら的役を買って出ただけあり、怪しい動きで西瓜と自身を弾道から逃れさせていた。
 そんな激しい西瓜割りを拓那と小夜子はイルカフロートで波間に浮かんで眺めていた。
「ふふ‥‥何だか不思議な西瓜割りですね」
「石動さん、笑い事じゃないよー。コレはもう西瓜割りやない。常人には立ち入れない、超次元西瓜割りだもんね」
 しみじみ言う石榴も、海まで避難してきたクチだ。
「いやホント、西瓜のご相伴に預かれれば本望っす」
 そんな拓那は、グラップラーだからという理由で的役にされそうだった所を辛くも逃れてきたのだった。
「一応スナイパーですから、頑張りますっ」
 流風はホアキンの西瓜に狙いを定め発砲した。直撃は避けたが、一斉発射された20発の弾丸が西瓜の三割を削り取ったのを見てホアキンが叫ぶ。
「だーっ! 食べられなくなるってば、少尉!」
「流風少尉。君、今の発砲でまさか実弾を使用したわけではないだろうな」
 リヴァルに言われ手元のシエルクラインを見た流風は慌てふためく。
「はわわ、準備した銃と間違えちゃいましたっ」
 銃を変えて顔を上げた時にはホアキンの姿は無かった。
「‥‥落ちたか‥‥」
 百白は西瓜ごと身をかがめて弾をかわしつつ呟いた。実は普通の西瓜割りではつまらないと、人のいないうちに落とし穴を掘っていたのだ。一割だけの2m級に運良く(?)落ちたホアキンである。
 巧みに砂に隠された穴は、既に百白自身すらどこに掘ったか明確に判別するのは難しい。
「怪人・ワカメマスク誕生〜」
「きゃー!?」
 若布入りの落とし穴に嵌った的役・焔は怪人・ワカメマスクへと変貌し逃げ惑う女性陣を追いかける。挙句の果てには、
「えっ、あっ!?」
 あまり移動する必要のないはずの流風まで落とし穴に。落ちるはずのところを、覚醒&瞬速縮地で駆けつけた雷が抱え上げ救出した。
「さ、狭霧さんっ。すいませんまた‥‥っ」
 今までにも同じように救われた事のある流風は耳まで赤くなりながら頭を下げる。
「た‥‥大変ですね、狭霧さん‥‥」
 雫に穏やかな笑みを向けられ雷は苦笑する。
「いや、過保護だとは思いますが‥‥ほっとくのもあれですから‥‥」
 実は島到着以降、流風が怪我や転倒をしそうな要因を取り除いたりと危険回避に暗躍していたのだ。
 無人島限定ルール西瓜割りは、混乱の内に誰からとも無くストップがかかり終了した。
「そうかー、西瓜割りって‥‥戦闘訓練の一種だったんですね」
 妙に納得した様子のドッグはホアキンが穴から出るのに手を貸しながら、砂浜に散らばった西瓜の残骸を見て呟いた。
「スイカにも包帯巻くべきですかね。こりゃ」
「それだけ破砕されては食用としては使用できないだろう。今、新しいものを切る」
 言って、リヴァルは隠しておいた西瓜を取り出す。能力者が集まった西瓜割り、何があるか解らないとあらかじめ人数分をまかなえるだけの西瓜を避難させておいたのだった。
 一時避難していた者も含め、全員で西瓜をいただく。海で食べる西瓜は何故か美味しく感じるから不思議である。


「おなかを空かせるためにも島を探険にいくのら♪」
「あ、お待ちくださいリュウナ様!」
 龍牙はリュウナの後に続いて森へと向かう。
「ワシはバーベキューの食材を増やしに行くぞ! 期待して待っていてくれ!!」
 釣り道具を手に意気揚々と釣場を探して海へと向かう。釣りの経験はないが自信だけはたっぷりだ。兼元に石榴も続く。
「私も行ってくる! 新鮮な魚の丸焼きとか食べられるかもしれないしね」
 同じく釣竿を持ってはいるが、リヴァルは皆とは違う方向へと歩いていく。手にした本のタイトルは『重たい電子とは』。一定の値の質量を持つ電子を重いと表現する作者の著述について、釣りをしながら考察するつもりだ。
 残りのメンバーは食事の準備に取り掛かる。
「お肉や野菜を切らなくてはなりませんね‥‥」
「それなら、既に済ませてありますよ」
 小夜子に言ったのは玲司だ。クーラーボックスに入れる前に、あらかじめ切り分けて置いたのはキャンプの経験が生かされている。
「準備がいいのですね‥‥では、お肉に下味をつけましょう」
「さて‥‥始めるか」
「少しホイル焼きにしましょうか、美味しいんですよねぇコレ」
 魚の下準備をする百白と共に、玲司は魚のいくつかを取り分けて野菜と一緒にホイルで包む。
 カレーを作る雫を流風が手伝い野菜の皮を剥き始めるが、指を切って救急セットのお世話になり米とぎを任される。飯ごうにいれていざ火にかけるとなると、慌ててドッグが取り上げた。
「そのくらいは私が!」
 転んで火の中に突っ込まれては困る。女性恐怖症のドッグも流風には慣れた、と言うよりドッグの中では女性ではなく子供に分類されたらしい。
 鍋からカレーの良い匂いが漂い始める頃、戻ってきた釣り組が釣果を披露する。エソという小魚をメインに、それより少し大きなものが数匹。
 ホアキンは遊泳中に獲ったものを、海から揚げて持ってきた。中には蟹や海老、ウニまである。
「ハタ系の魚はフィリピンではラプラプというんですよ。中にはシガテラ毒がある場合もあるから注意しないと‥‥オオクチハマダイは高級魚ですね! 美味しく食べられますよ」
「蟹も海老も。どんと来い、海の幸!」
 ドッグが知識を披露しながらより分けた魚介類を、ホアキンがマイ包丁とマイまな板で手早く捌いていく。海水を塗って炭を入れたバーベキューグリルに載せると、食欲をそそる匂いが漂う。
「よい‥‥しょ、と。キャンプファイヤーのやぐらはこんなもんかな? お腹も空いたし、そろそろご飯だね」
 薪を組み終えて拓那が言う頃には、匂いに誘われたのか探険に行っていたリュウナ達も戻りバーベキューが始まった。
 バーベキューには用意してきた肉・野菜・魚・カレーライスの他に、現地確保した魚介類とキノコのグリル、ホイル焼き。デザートに木の実と豪華なラインナップとなった。テーブルセットで足りない席は雷が作ったベンチが活躍する。
「野菜はひゃくしろにあげるのら♪」
 魚を最優先に食べていく百白の皿に、リュウナは野菜を次々載せる。そこから彼女の皿に野菜を戻す龍牙。
 重くなったり軽くなったりする皿を片手に持ったまま、百白は焼網から取った魚を直接口に運んでいる。
「野菜も食べなければいけませんよ♪ 石動さんを見習ってください」
 龍牙の言う通り野菜を主に食べている小夜子。
 普段周りに気を使っている拓那には、こんな時くらいリラックスしてもらいたい。その一心で甲斐甲斐しく世話を焼く。
「はい、拓那さん。お肉焼けていますよ‥‥」
「ありがとう。小夜ちゃんがよそってくれただけでより美味しく感じるよ♪」
「菱美さんが作ったカレーも、いただいてきましょうか」
 カレーは大きめ野菜一杯の素朴で懐かしい味だ。こちらも好評で鍋はあっという間に空に。
 美しいビーチに展開する壮大な夕焼けを眺めながらという格別な一時。完全に陽が落ちるまで、談笑しながらゆっくりと味わう。
 

 夕食の片付け後リヴァルが提案したのは肝試しだ。
「二人一組で森にある水を汲んできてもらう」
 空は星明りだけ、懐中電灯とバケツを持って森へ入る。夕食に使用した水の補給も兼ね一石二兆という訳だ。
 玲はベンチにタロットを広げ、めくったカードに眉をひそめた。
「良くない事が起きそうですわ‥‥」
「えっ!?」
 暗い森に怯えていた流風は益々手に力を込めた。その手は雷の服をしっかり掴んでいる。どうやらこのまま二人で行くことになりそうだ。
 時折動物の声が聞こえて来る森は、昼とは全く違った不気味な雰囲気を漂わせている。拓那は小夜子の肩を抱き寄せ歩く。突然二人の眼前を何かが過ぎる。
「きゃっ!?」
 実はさほど怖がってはいない小夜子だが、自然に身体を寄せるチャンスと思い切って拓那の身体にしがみついた。拓那は出掛かった悲鳴を飲み込む。
「だ、大丈夫だよ。ほら、何もいないよ?」
 実は結構怖がっているが、彼女を前に必死で気丈な振る舞いを見せる。二人が再び歩きだしたのを枝の上から見下ろすのは焔だった。枝に膝でぶら下がりぐるりと回転したのだ。
「クク‥‥ちょろいちょろい」
 次のカモを探し枝の上を身軽に飛び渡っていく。
「わるいごは、いねが〜〜?!」
 茂みから飛び出した影に玲は悲鳴を上げた。同行するリヴァルはフェイルノートのお面にボイスチェンジャー着用の兼元を前に平然としている。幽霊を信じていない訳ではないが、こういった物で驚いた試しが無い。
「お化け〜出てこ〜い♪ にゃ〜♪」
「暇潰しには‥‥なるな‥‥」
 楽しそうに先行するリュウナ、森に寝床を探す百白、そして彼の影に隠れた龍牙と続く。リュウナに強制参加を言い渡されたが、お化けは苦手なのだ。
「ひゃあっ!?」
 龍牙の首筋に突然冷たい感触。二人には怖がっているからだと取り合ってもらえない。続いて訪れた玲司と雫も同じ罠に掛かる。
 釣竿とこんにゃくを利用した仕掛を手に、木の影で石榴が忍び笑い。また雫が小さな悲鳴を上げた。
「私何もしてな‥‥ひゃっ、何!?」
 石榴をも襲った冷たい物は水のようだ。
「ホアキンさん‥‥っ」
 雫が既知である犯人を『めっ』と言わんばかりに睨む。彼は水鉄砲を手に樹上を見上げ、
「今夜は星が綺麗だね。‥‥じゃっ」
 素早く逃走を図る。その後頭部に、石榴が投げたこんにゃくが見事命中した。
 雷の後ろに隠れつつ、流風は何とか泉までたどり着いた。蒼白な流風を気遣いながら雷が水を汲む。
「‥‥た、す、け、て‥‥」
 かすかな声が聞こえた気がして振り向いた流風の両肩を、茂みから突き出した青白い手が掴んだ。直後、流風の悲鳴と水音が響き渡った。
「すみません、やりすぎでしたね」
「いえっ、お化けじゃなくて安心しました」
 白い手はドッグがレイ・バックル発動を利用したトリックだったのだ。謝るドッグに、ずぶ濡れの身体をキャンプファイヤーで乾かしながらも流風は笑顔で答える。
「ひゃくしろ、一緒に楽しむのらよ〜♪」
「花火、綺麗ですね」
 リュウナと龍牙に誘われ、離れて花火を見ていた百白も強制参加中。
「先祖伝来の一発芸、フェイルノート!!」
 突然の大声に、ロケット花火の笛が無数に鳴り響く。肝試しに使ったお面をつけた兼元が両手にありったけ持って一斉点火したのだ。中には低空で飛んでいくものもある。
「よーし、負けないぞー!」
 対抗して石榴は打ち上げ花火を手に持って斜めや横に発射する。皆がロケットや火花を回避する中、火守を買って出た玲司は薪でそれらを落とす。
「二人とも危ないですよ」
「そこまでだ」
 リヴァルに止められた石榴は手持ち花火で大人しく‥‥する訳もなく。
「凄くロマンチックな夜‥‥あの時の夜みたい‥‥」
 恥じらいながらじっと拓那を見つめたりと、悪戯の種は尽きない。


 たくさん持ち込んだ花火は全て咲かせ尽くし、静かになった砂浜に玲司は天体望遠鏡を設置する。
「あれはふうちょう座ですよ。日本からは見ることができない星座のひとつです。こちらはきょしちょう座。小マゼラン雲を見ることができます」
 矮小銀河に望遠鏡を合わせ流風に代わる。
「わぁっ! すごい綺麗‥‥」
「こういう風に星を眺めていると、自分がちっぽけな存在だなぁと思ってしまいます」
「古の神々や伝説が天に昇ったもの。そう考えるとロマンチックなものですわ」
 しみじみと言う玲司だが、別の感性で星を見る玲はいるか座やおとめ座などの神話を話して聞かせる。星と神話について語り合ううちに夜も更け、眠くなってきた流風を雫が迎えに来る。
 眠ったリュウナをテントに残して、龍牙は森へ行こうとする百白の背中に駆け寄った。
「浜辺を散歩したいのですが、御一緒によろしいですか?」
 多く言葉を交わさずとも、同じ景色の中にいる事実が龍牙には嬉しい。
 百白は思い出した様に振り向いて、
「受け取れ‥‥俺には‥‥不要な物だ」
「あ‥‥ありがとうございます」
 手渡されたドラゴンズイヤリングを、龍牙は両手に抱きしめた。
 ふと眼が覚めた雫は思わず頬を濡らす。今日の体験が失った家族とのキャンプの記憶を呼び起したのだ。
「雫さん‥‥」
 流風の声に急ぎ涙を拭ったが寝言だったようだ。雫は流風の頭をそっと撫でて囁く。
「‥‥楽しい時間を、ありがとうございました、少尉。また‥‥一緒に、遊びに行きたい、ですね」
 夜空の下、ホアキンは酒を共に一人キャンプの見張りに立つ。多忙で休みの合わない恋人にも、この綺麗な島を見せたかった。
「‥‥次は一緒に来られるといいが」
 ホアキンと時を同じくして星空を見上げるのは、一人戦地跡を訪れたドッグだ。
「‥‥いずれ誰が忘れたとしても、私は覚えていますからね。あなたたちを」
 木と石で作った墓標は、果敢に戦い散ったキメラ達の為に。
 相手を問わず生命を奪うという行為は苦しみを伴う。星空に捧げた祈りは、誰の為でなく己の為に。
 星降る空はそれぞれの夜を見守りながら清かに煌く。
 次なる戦いに赴く時まで、傭兵達に今しばらくの休息を――。