●リプレイ本文
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ステージ周辺には、テーマパークに遊びに来た家族連れやショーそのもの目当てで訪れた『イツメパイユ』ファンが集まり始めている。
子供達は入口でピエロに風船をもらい、大集合するというヒーローに期待を膨らませている様子だ。
満席になる頃を見計らったように、ステージ端からローラーシューズを履いた雪代 蛍(
gb3625)が颯爽と現れる。ヘッドホンのようなパーツをはじめ白い金属とタイツで全身を覆った彼女は、舞台中央で客席に向って言う。
「こんにちは。KV☆STARのアリスだよ。みんな来てくれてどうも有り難う」
観覧に際する注意やお願いを呼びかけ、
「準備はいい? それじゃ開演するよ」
くるりと身を翻し舞台袖へ戻る。
同時にOP曲が流れ、ふわふわのツインテールに官帽をちょこんと乗せたUPC仕官服姿の女性現れた。舞台中央まで来ると客席に向けて敬礼する。
「良い子のみなさ〜ん、こーんにーちはー!」
客席からはアリスがお願いしたとおり元気の良い返事が返って来た。
「おっ、元気ですねー。あ、自己紹介がまだでした。私は水瀬春花曹長であります! 皆は『機装戦隊ドラグナイツ』って、しってるかな?」
方々から上がる知ってるアピールを両手で抑え。
「私の上官は、ドラグナイツと共に戦っている藍祥龍中尉なのです! 仕事柄ヒーローにはとっても詳しいんですよー‥‥あっ、中尉!」
水瀬曹長が敬礼した先から噂の人、仕官服に身を包んだドニー・レイド(
gb4089)が登場する。水瀬曹長に一声掛け、客席に向って敬礼する。
「皆さん、こんにちは。UPC軍中尉、藍祥龍だ。今日は皆に、俺が今まで共に戦った事のあるカッコイイヒーロー達の話をしようと思う」
「ヒーローがカッコイイだと?」
突然どこからか聞こえてきた声に、ステージ上の二人が辺りを見回す。
「誰っ!?」
「この声はまさか、KV☆の宿敵‥‥!」
藍中尉の言葉がそれを呼んだかの如く、スーツに白衣を羽織った桂木穣治(
gb5595)が全身黒タイツの戦闘員を引き連れて現れた。
「いかにも。我はクラッシュバグの幹部にして科学者、ドクター・ウォッシュだ! 勢力立て直しのため、この会場の地球人を戦闘員にしてくれるわ」
眼鏡の奥、隈取のように赤いラインを引いた眼で客席を見回すウォッシュに、藍中尉が銃を向ける。
「そうはさせない!」
「ふん、一般軍人でしかない貴様に何ができる。ブレインクラッシュ!」
「中尉、危ないっ」
ウォッシュがシャッターを切ったカメラと藍中尉の間に割って入った水瀬曹長がその場に倒れた。
「水瀬曹長!?」
助け起こした藍中尉から銃を取り上げ、拘束したのは水瀬曹長だった。
「ふははは、その女は我が洗脳した。今の内に会場の子供達を攫うのだ!」
戦闘員がステージを降り始めたその時。
「待て待てーい!」
「むっ、何奴!?」
ウォッシュが振り仰いだステージセットの右上から逆光を浴びて佇む影。
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ、あくを倒せと俺を呼ぶっ!」
白ジャケットにパンツ額に『夢幻』と書かれた白バンダナ。首元の赤いスカーフと赤いマントがやけに映えている。
「傭兵戦隊より参戦したリュウセイ(
ga8181)だぜ。よろしくー!」
高らかに叫んだその名も本名丸出し。本人は気にしていないらしいのでそのまま行こう。
「たった一人で何が出来るというのだ」
「一人じゃないぜ?」
ステージ上に跳び下りた彼を嘲笑うウォッシュに、リュウセイは不敵に笑む。
「一般庶民の皆さん、お待たせしましたわね!」
声と同時に鳴り響く主題歌。KVを模した装甲に機翼を背負った戦士達の登場に藍中尉が叫ぶ。
「アレは‥‥クラッシュバグと戦う戦士、KV☆か!!」
舞台上に集ったKV☆は各人ポーズを決めながら名乗りを上げる。
「悪を狩る黒き雷光漆黒の翼スターブラック」
「名乗り天翔る不屈の銀狼スターシルバー」
「名乗り蒼き電子の守り手スターシアン」
「煌く光は王家の証、絶対王聖スタープリンセス」
「姫を照らす光鏡の楯シャインゴールド」
「胸にはあふれ出る希望を! シャイニングラピス、頑張るゾ★」
全員集合ポーズと共に声を合わせて叫ぶ。
「正義の翼で悪を討つ、地球戦隊KV☆!」
「KV☆‥‥と、リュウセイ、といったか。邪魔をするなら容赦はせん、やれ!」
ウォッシュの声に戦闘員とKV☆、リュウセイが入り乱れての戦いが繰り広げられる。
「ロイヤルリング!」
スタープリンセスの鬼道・麗那(
gb1939)が武器をかざすと、水瀬曹長の洗脳が解け藍中尉が解放される。
「そこの下層軍人さん、私に見惚れるのは仕方ないですが‥‥お仕事はキチンとなさい」
「すまない、助かった‥‥さぁ、水瀬曹長!」
藍中尉が水瀬曹長を連れ舞台の端へと避難する。
戦闘員は次々となぎ倒され、たちまちの劣勢にウォッシュは地団太を踏む。
「おのれ‥‥こうなったら」
「をーほっほっほ! 無様ね、ドクター・ウォッシュ」
声と同時に全身黒タイツの戦闘員の群れが現れた。先の戦闘員と異なり「キター!」としきりに奇声を上げ、顔には何処かで見たようなAAのアレが貼り付けられている。
その後ろから悠然と姿を見せたのは謎の三人組。
スタッドをふんだんにあしらったゴシックパンキッシュな黒エナメル服に朱色リボンをあしらった伊達 士
(
gb8462)が居丈高に会場を睨みつける。
「人の不幸はあたしの喜び! その名もパンカー・バーミリオンっ。泣かすよっ!!」
「自由の中に在りながらその自由に気づかず暮らす人間共は、このベル・セーブルがお仕置きいたします」
こちらは活発そうなバーミリオンとは対照的に、黒地に紅金の刺繍を施した着物を纏った冷たい雰囲気だ。その正体はチョーカー型の変声機をつけた日野 竜彦(
gb6596)。
『舞台に立った瞬間は、(本来の自分を)忘れる、(役に)変る、(自分すら)騙しきる!』の言葉どおり見事な女幹部っぷりである。
二人の女幹部の後ろで黙したままなのは、禍々しい気を放つ黒いOR全身鎧を活用した須佐 武流(
ga1461)による暗黒騎士。
「我らこそが、暗黒の街の基礎を築く! すなわち一人一人が暗黒街バグアバグなのだっ」
バーミリオンの言葉に、水瀬曹長が問う。
「藍中尉、バグアバグとは一体?」
「彼らは幸せな家庭や温かい微笑みを嫌い、人々に八つ当たりし、いじめ、辱める。命こそ奪わないまでも、世の中にとって迷惑極まりない連中だ!」
「ヒーローをぶっ飛ばして、ヒーローの活躍を楽しみにやって来た観客の奴等を悲しませてやる!」
「者共、やっておしまいなさい」
二人の女幹部を先頭に、戦闘員達が奇声を上げてKV☆に襲い掛かった。
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「どうやら、こういう輩は消えることはないようだな」
「ゾロゾロとまぁ‥‥黒光りする虫みたいに」
ブラックに扮した柿原ミズキ(
ga9347)とプリンセスがスターサイズとスターリングで敵を薙ぎ払う。
「子供達は俺に任せな!」
リュウセイは客席に降りて、向ってくる戦闘員を鉄拳で迎え撃つ。
「フォトンスイング!」
アリスが変身したシアンがスターハンマーを巨大化させ重力の力で敵を吹き飛ばし、戦闘員は涙混じりの「キター!」を残して消え去った。
それまで動こうとしなかった黒い魔人が勢いづくKV☆の前に立ちはだかる。その威圧感に戦いを躊躇うKV☆に暗黒騎士が言う。
「どうした? それだけ雁首を並べているのに誰も向かってこないのか‥‥ならばこちらから行くぞ!」
蹴りを中心とした格闘術に押されるシルバー。ブラックも蹴りに交えて繰り出された猛速の拳に吹き飛ばされる。
「くそっ、こんな時に身体が動かなくなるなんてな」
「ブラック!」
加勢に入ろうとするスタープリンセスをバーミリオンが遮る。
「ちぃっ!」
「この世の不幸を全部あなたに! 必殺っ、プレゼント・フロム・ナイトメア・ストリーム!」
地獄のピンヒールでの踏みつけ、暗黒ネイルでの引っかき、夢魔のキッス、とどめに悪夢のネックレスでのチョークの末突き飛ばされたスタープリンセス。彼女を庇いシャインゴールド・天戸 るみ(
gb2004)とシャイニングラピス・桜井 蒼生(
gb5452)が立ちはだかる。
「妹には‥‥それ以上触れさせません」
「あたしが相手だよ! 喰らえ短波長の光、シャイニング・ブルー・レイ!」
かざしたステッキの先端から放出された赤い光に、藍中尉と水瀬曹長が驚く。
「アレは!」
「遠赤外線!?」
「ああっ!? これでは魚がおいしく焼けてしまうではないかっ!!」
会場の笑いを誘うシャイニングラピスにベルが斬りかかる。
「その巨乳、叩き斬ってくれます‥‥っ」
「なるほど、ぺたんこですもんねー」
「黙りなさいっ! 死黒蝶乱舞陣!!」
怒りと共に舞い乱れる光に黒蝶のシルエットが飛び、爆発と共にKV☆が倒れ伏す。
「まさかKV☆が‥‥」
藍中尉が動けないKV☆に絶句する。勝ち誇った笑いを上げるバグアバグだが、ベルがふと辺りを見回す。
「そういえば、一人足りませんね」
タイミング良く舞台に駆け込んで来るのは会場入口にいたピエロ、ドッグ・ラブラード(
gb2486)。
「ここは我々がのっとった! ‥‥って、出遅れた!」
「また遅刻ですか、レト・リーバ! あなたは客席の担当でしょう」
「はいっ」
慌てて客席に降りるレトにリュウセイが立ちはだかる。にらみ合う二人――先に動いたのはレトだ。
「魔のフリーフォール!」
手近にいた男の子を抱き上げ、全身を使って持ち上げたり降ろしたり。突然の「たかいたかい」に喜ぶ男の子を下ろし、今度は隣の女の子を背に乗せた。
「悪夢のメリーゴーランド!」
四つんばいになり素早く辺りを這い回る彼にリュウセイは歯噛みする。
「やるなっ、ならば‥‥流星ジェットコースター!」
飛行機型に抱き上げた男の子を技名の如く振り回す。息切らせつつ対峙する二人が同時に子供達を振り向く。
「「次はどの子だ!?」」
舞台で幹部二人が派手にずっこけた所に、ハーモニカの音色が響き渡る。
「行くぜ騎煌、武装変!」
声が聞こえ、ステージセットのまたもや高所から逆光を浴びて佇む影。純白のAU−KVミカエルを纏った戦士を指して、藍中尉が叫ぶ。
「彼は‥‥学園特風カンパリオン!」
「諦めるな、KV☆‥‥お前達の正義の心は、確かに次の時代へと受け継がれている。見ろ、ここに集った新たな正義の仲間達を!」
マントを翻した夏目 リョウ(
gb2267)が真紅の槍斧で指す先、舞台左下には並ぶ新たなるヒーロー達。
「闇に蠢く魔物の群よ、正義の光に散るが良い。武装ラウザー、参上! Rフォーメーション、レディ!」
「ユキムラブレード!」
青いミカガミ型の装甲を纏ったデュアルアイの戦士が光剣を振るう。それを二刀で受けるベル。
「くっ」
「サベイジナックル!」
横から黄色い獣魂型装甲の戦士が拳でベルを吹き飛ばし。紅蓮のリンドヴルムを纏ったフーノ・タチバナ(
gb8011)が槍を突き立てた。
「喰らえ、サラマンダー!」
「きゃああっ!」
爆発に吹き飛ぶベルに藍中尉と水瀬曹長の解説が被る。
「彼らはキマイラに奪われた身体を機械で補い戦う戦士達だ」
「そしてラウザー01、02、03の連携から繰り出されるのがフォーメーションアタックなのですね!」
「そうだ、そして彼が――」
舞台に現れたのは、黒に鈍金色の雷をあしらった尖った装甲を纏った天原大地(
gb5927)。
「俺は闇砕くイカズチ。雷獣武神、ガイライガー!! 貴様らを、噛み砕くッ!!」
弟分に頼まれてとはいえ、参加する以上は全力を以って。その心意気が力強い名乗りに現れている。
虎が後ろから噛み付いた形のフルフェイスマスク。その奥の二つ目と右拳が紫雷と共に発光し背後で雷獣を形作った。
「豪天‥‥雷咬拳ッッ!!」
舞台上を滑るように突進し、スーツ制作の為に勝手に金を使いこんだ弟分への怒りを載せた雷撃がバーミリオンを弾き飛ばす。ショーが終わったら弟分にも拳が飛ぶのだろう。
「中尉、彼は!?」
「伝説の獣達に選ばれた戦士。彼以外にも蛟に選ばれし『水竜騎士ブルーデューク』、仙狐に選ばれし『朧炎剣士ゼンレーヴァ』がいるんだ」
「スイッチ切り替えろレト!」
劣勢となったバーミリオンの声に、レトの全身が覚醒により黒く染まった。
「‥‥了解、戦闘モードへ移行。強化スーツ・ガルムON」
強化スーツに身を包んだレトが手足の小型ブースターで舞台へ舞い戻り、暗黒騎士と共にラウザー、ガイライガー、リュウセイを相手に縦横無尽に戦闘を繰り広げる。
「中尉〜、たった二人相手なのにヒーロー達が苦戦してます!」
焦る水瀬曹長の言に答えるかのごとく暗黒騎士が言う。
「数で責めるという戦法は確かに有効だ‥‥がしかし、ただ数をそろえて向かってくるだけでは何の効果も生まない」
さらに上空から降り注いだ無数の白銀の矢がヒーロー達を襲う。
「あの技はまさか‥‥気をつけろ、奴はバグラムの幹部シルバー・クロウだ!」
「バグラムって、ドラグナイツの敵の!?」
UPC組の言葉通り、黒いオーラを纏い弓を手にした烏丸 八咫(
gb2661)が銀髪をなびかせ現れた。
「私の名はシルバー・クロウ。この空を統べる者‥‥我が僕よ!」
彼女の呼びかけに、無数の飛行系キメラ(きぐるみ)がヒーローを囲む。
「ヒーローはここにもいるぞ!」
声が聞こえ、さらに四組のヒーローが舞台左端の高所以下略。
「特殊戦隊白黒ぐれ〜!」
跳び下りた三人の一人、白スーツのヴィンフリート(
gb7398)が名乗る。
「とっても軽い〜ヒーロー、ライトホワイター参上。俺の攻撃はかる〜いぜ!」
「とっても重くて暗いヒーロー、ダークブラッター参上。俺の攻撃は重い!」
「見るからうさんくさいヒーロー、ぐれはい〜参上。俺の攻撃は適当中途半端!」
「中尉、強いのって黒だけじゃないですか!?」
「いや、彼らには必殺の属性反転がある!」
「属性反転!」
三人は光を放ち白が黒に、黒が白に見た目も能力も反転した。はいは‥‥なにも変わらなかった! しかも三分経って黒は白に戻り、白は白のままなのだ。
「必殺技のはずなのに、総合戦闘力弱くなってますよー!?」
さらに紅桜舞(
gb8836)がステッキという名の引火装置を手に舞台へ上がる。
「桜吹雪のお嬢参上〜。悪い奴は桜吹雪で焼却よ〜業火桜吹雪!」
「この臭いは‥‥」
暗黒騎士が気づいたのは油の臭い。舞台上に舞う花吹雪がキメラを囲んだ瞬間、お嬢のステッキが火を噴いた。きぐるみに火が点き逃げ惑うキメラ達の前に、江戸っ子火消し親父が現れ消火器で手早く鎮火する。
「火消しのマツゴ参上〜。お嬢、後片付けはまかせな」
「後片付けのマサ、いやいや参上〜」
若くして人生の悲哀を悟りきったような青年が箒とちりとりで燃えカスをゴミ袋に収めていく。
「お嬢、もうカンベンしてください。兄貴、早く帰りましょう」
マサが二人をも舞台から片付ける。
「中尉、今のは??」
「爆炎戦隊炎の姫‥‥ともすれば悪役‥‥放火魔と紙一重の危険なヒーロー(?)だ。しかし、おかげでキメラは片付いたぞ」
UPC組の解説の合間に、KV☆が立ち上がりその姿を変える。
「闇をもって悪を狩る黒き雷光暁の翼ダークルージュ。さぁ俺達の反撃だ」
「皆に響け、私達のソウル。マインド・ドール!」
等身大の戦闘人形を武器に紅い軽装メタルスーツに身を包んだシャーミィ・マクシミリ(
gb5241)が舞台へと飛び込む。
「マインド・ソード!」
「マインド・アロー!」
大剣装備の蒼い流線型スーツと白いアーチェリー装備の碧色重装甲スーツの二人と三人でポーズを決める。
「マインドスター推参!」
「意志を持つ武器『マインドウエポン』に選ばれ悪の『ウエポンマスター』と戦う。意志の力を武器にに込めて力を発揮する。そして彼女達は射撃戦隊トリプルシュートだ!」
藍中尉の声と同時に、流月 翔子(
gb8970)が二丁の小銃を両手に飛び込んだ。
「アサルトシュータ。悪、撃ち抜かせてもらいます。アサルトアタック!」
素早い動きで敵を攪乱する彼女に被せるように、金髪縦ロールのお嬢様が弓を射る。
「アローシュータ。悪、華麗に射らせていたたきますわ。セブンスアロー!」
「ちょっ、危ないじゃないの!」
「貴女ばかり目立とうとするからですわ」
言い合いを始める二人に、天然お姉さんなファイヤーシューターが巨大ランチャーを構え微笑む。
「あらあら〜二人ともケンカはいけませんよ? そういえば今晩のおかずは何にしようかしら?」
考え事の最中に放たれたミサイルが敵味方問わず爆発に巻き込んだ。
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同時に客席のすぐ側でも花火と悲鳴が上がった。
噴煙が消えたそこに客席を庇い佇んでいたのはロイヤルブラックのフロックコートにシルクのロングマフラーを掛けた男だった。
「‥‥市井が居るのを忘れたか」
ボルサリーノの下にあるその顔は、上半分を隠す獅子を模った黒曜のマスクをつけている。
「私の名はイスカリオテ――お前が正義と言うなら、私は悪で構わん」
鋭い眼光に射抜かれながらも、ファイヤーシューターはおっとりと微笑んだ。
「あらまぁ〜ごめんなさいねぇ。そうだわ、晩ごはんの買出しに行かなくっちゃ〜」
ファイヤーシューターが黒焦げの仲間二人を引きずって舞台を後にする。白黒ぐれ〜は爆発に吹き飛ばされ既に退場している。
「藍中尉、あのダンディな方は一体っ!?」
「奴は十三番目の怪人素体。未だ改造されていないにも関わらず、鍛え上げられた生身と知識、ギミックや銃を駆使し戦う男だ」
食いつきの違う水瀬曹長に気圧されつつも藍中尉が説明する。
舞台ではバーミリオンが前に出てイスカリオテに言い放つ。
「バグアバグ所属の身でありながら、ヒーローの側につくのか!?」
「正義? 悪? ――そんなものは関係がない。守るだけさ。私は、ね」
イスカリオテが火を点けた煙草が煙幕を張り、舞台から客席を隠す。
「今の内に逃げろ」
「彼の言う通りに。皆、安全な所まで下がって!」
イスカリオテとUPC組が観客を下らせ、客席と舞台の間にスペースを作る。
「これだけヒーローが集まってんだ。力合わせりゃ負けねぇぜ!」
敵勢を指差し宣言するラウザー01にシルバークロウが嫣然と微笑む。
「人数が増えたくらいで勝てるとでも?」
01とスターシルバー、ルージュを相手にクロウは奇剣シルバーファングで迎え討つ。開けたスペースで繰り広げられる戦いは、一対三ながらクロウも譲らない。
「僕は不屈の銀狼、こんな事で折れるわけにはいかない。フェンリルレイジングサイクロン!」
「レイジングサイクロン!」
スターシルバーとルージュの放った必殺技を虚闇黒衣で無効化したクロウが突如膝を屈する。
「くっ、こんな時に頭痛が‥‥」
頭を押さえクロウが撤退した。
一方ステージ上では、
「元貧乳、最初からクライマックスで行きますわよ!」
「それは言わないでっ!」
スタープリンセスの言葉にシャイニングラピスが放った青い光線が暗黒騎士を襲い、その隙にマインド・アローが弓を上方へ放つ。
「スターコメット!」
意志の力を込めた矢は無数の光となり降り注ぐ。それをかわしつつ追い込まれていくレトに、マインド・ソードが高温の焔をまとう大剣での一撃離脱。入れ替わりに滑り込んだ戦闘人形と合体したマインド・ドールとスタープリンセスの拳が炸裂する。
「必殺閃光拳!」
「むうっ!?」
怯む暗黒騎士を前に、カンパリオンがエネルギー銃を構える。
「俺も負けては居られないな‥‥」
「ああ、行くぜ!」
ラウザーが展開するに合わせてエネルギーが照射される。
「カンパリオンショット! そして‥‥っ、カンパリオンファイナルクラッシュ!」
超越した強さを誇る暗黒騎士だったが、ヒーロー達の必殺技ラッシュについに膝をついた。
「そうだ。バラバラでは何の意味もない。その力を、意思を一つにしてこそお前たちの真の力が発揮される。
‥‥俺には無い力だ」
シルバークロウの去った客席前では、バグアバグ幹部三人との戦いが続いている。
「後は貴女たちを残すのみ‥‥クサナギ!」
シャイニンゴールドが背の機翼での斬撃で幹部三人を牽制し身を翻すと、その翼を日輪の如く広げた。
「ヤタノカガミ!」
「これはっ!?」
「眼が‥‥」
発射された無数の光弾の閃光と爆発に呑まれ視界を奪われる。そこに走りこむリュウセイとガイライガー。
「正義の鉄拳を喰らえぇっ!」
「轟天雷咬拳ッ!」
「いやぁーん!」
「きゃぁあっ!」
「うわあぁっ!?」
三人の悲鳴と爆音が交錯し、舞台上で一人ウォッシュが嘲笑う。
「バグアバグとやらも大したことはないな! ふははは、は‥‥は?」
ウォッシュは舞台下、眼前にある物を見て硬直した。一方同じ物を前に、UPC組が身を乗り出す。
「あれはスターキャノン!」
「しかもヒーロー全員のエネルギーがスターキャノンに集められている!?」
クライマックスにむけてBGMが疾走し、舞台下にいるバグアバグと舞台上のウォッシュに向けられたスターキャノンがまばゆい輝きを放つ。
「悪を撃ち砕け! ミラクルキャノン!!」
ステージ全域に渡り噴き上がる花火と七色の煙を明滅する光が照らす。
「――お前達が正義と言うなら、私は悪で構わん。私を貫かせて貰うだけだ」
「おのれまたしても‥‥KV☆、ヒーロー共、次こそは必ず!!」
イスカリオテのとウォッシュの声が響き、煙が晴れた。
そこには二人の姿は無く、仁王立ちの暗黒騎士の姿が。身構えるヒーロー達に、彼はおもむろに頷いて見せた。
「見事だ。試練は終った‥‥私を乗り越え、未来へと進むが良い。次に会う時は‥‥今以上の力で当たらせてもらおう。‥‥さらばだ」
踵を返し、舞台の奥へと去っていく。
元のピエロ姿に戻ったレトはヒーロー達に囲まれパニック状態に。慌てた猫型機械よろしく悪戯グッズを片っ端から出しつくし、
「えーと‥‥皆さん、後は任せました! あなた方の勇姿は忘れません!」
素早い身のこなしで逃走した。その後をベルが追う。
「憶えてなさい! 次こそはかなら‥‥きゃ!?」
後ろを見ながら走ったのが悪かった。レトが撒き散らしたバナナ皮で見事にすっ転ぶ。
「え、何? あたし一人取り残されてんの!?」
バーミリオンはうろたえた拍子に、高いヒールでバランスを崩した。
ぐきっ!!
「う‥‥うわーん!! 待ってよぉ」
泣きながら仲間の後を追いかけ姿を消した。
取り戻した舞台に、水瀬曹長と藍中尉が戻って来る。
「さすがはヒーロー達。彼らの活躍が、悪の組織から私達を護ってくれましたー!」
「正義の戦士達に拍手を!」
舞台上に並ぶ勇壮なヒーロー達の姿に、会場からは惜しみない声援と拍手が贈られた。
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その後、舞台に並んだヒーロー達にアリスがインタビューをしていく。
「会場の皆に一言? 正義は勝ーキイィィンなも、熱い正義の心を忘れんな!」
リュウセイの大声にハウリング気味のマイクを遠ざけ、アリスは再び会場の皆に言う。
「ラウザー01とスタープリンセスに今後の抱負を聞いてみるよ」
「青い地球を守るため、俺達は戦い続けてやるぜ!」
「これからも愛と勇気で地球を守っていきます! 皆さん応援宜しくお願いしまーす!」
そこへUPC組が黒いファイルを手に現れる。
「新ヒーローの審査結果が出たので発表しよう。水瀬くん」
「はい! 審査員及び会場の皆さんの投票により選ばれたNo.1ヒーローは‥‥武装ラウザーです!」
ラウザーの三人にスポットが当てられ、客席やヒーロー達の拍手の中ポーズを決める。
同順で二位となったマインドスターとガイライガーも続けて紹介と拍手を受けた。
「ただ、ヒーロー達の平和を愛する心に順位はつけられない。我々を救ってくれたヒーロー達に改めて拍手を!」
藍中尉の言葉に会場全体が盛大な拍手に包まれた。
その後ヒーロー達による握手・サイン会も盛況で、子供達はそれぞれ気に入ったヒーローを見つけその周りに集まっていた。
その頃、再び入口で帰る子供達にお土産を渡していたピエロは‥‥。
「あ、バグアバグの人だっ!」
「メリーゴーランドやって!」
「僕ジェットコースター!」
「いや、ジェットコースターは私では‥‥み、皆順番に‥‥わあぁ!?」
子供達の津波に呑まれていた。
1.武装ラウザー
2.雷獣武神ガイライガー
2.マインドスター
4.特殊戦隊白黒ぐれ〜
5.爆炎戦隊炎の姫
5.射撃戦隊トリプルシュート
社長は満面の笑みで順位表を閉じた。これ以外にも『KV刑事』というアイディアも寄せられている。
「予想以上に素晴らしいヒーロー達が集まりましたね‥‥」
「参考にしつつ次なるヒーロー案を練り込みましょう」
秋良は会場を見る。
これだけ子供達の笑顔を引きだせるのだ。『イツメパイユ』はヒーローを生み続けなくては。
新ヒーローの誕生は、近い――かもしれない。