タイトル:【LC】甘味大戦争!マスター:きっこ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/13 19:26

●オープニング本文



 ここはUPC本部の一角にある部屋。
 扉に掛けられたディフォルメアヌビスのボードにはまんまるっちい文字で『UPC総合対策部 ご自由にどうぞ』と書かれている。
 UPCの一部署としては小さな内部に置かれた机は一つだけ。
 その上にはぷちリアルなカエルのマスコットが腰を下ろし。彼の視線の先には『日誌』と名づけられたファンシーなカエルノートが広げられ、これまたまんまるっちぃ文字が並んでいる。

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 私、流風・アイゼリア・シャルトローゼ少尉は少しだけお休みをいただきました。
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 お休みの間、傭兵の皆さんとミンダナオの無人島でしたキャンプはとっても楽しかったです!
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 あんなに楽しく過ごしたのは久しぶりでした。雨康も初めての海は楽しかったかな? 
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 でも、お休みが終わったからにはきちんとお仕事をしなくちゃ! 私が所属するアジアで大規模
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 作戦が行なわれるんだし‥‥さっそく谷崎中尉に相談しに行こうっと。
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 室内に、カエルマスコットとノートの主は見当たらない。
 UPC総合対策部の主、流風・シャルトローゼ(gz0241)少尉は、UPC本部内にあるULT依頼斡旋所を訪れていた。
 嬉しそうに微笑む姿は、お小遣いをもらった小学生にしか見えない。彼女が掲げた紙片を、オペレーターの小野路綾音はしげしげと見つめる。
「『甘味大博覧会』ですかぁ。実に美味しそうなイベントですねぇ」
 のどかに微笑む彼女に、流風は大きな碧い瞳を丸くした。
「確かに美味しそうなんですけど、これも谷崎中尉に任された立派なお仕事なんですよ?」


 数時間前――日誌を書き終えた流風は、己丑北伐のための準備に忙しい中尉の周囲に取り付いていた。
「中尉ー、お仕事くださいっ! 私もUPC軍の一員として、地球の皆さんの平和のために役に立ちたいんです! 聞こえてますか中尉? ちゅういー!!」
「だあぁ! 聞こえとるわやかましいっ!」
 怒鳴りながら振り向いたのは痩せ顔にチタンフレームの眼鏡を掛けた、いかにも気難しそうな中年仕官・谷崎哲夫中尉である。
 彼の怒声に条件反射で姿勢を正しながら、流風はものすごく小さな声で『だって返事がないから‥‥』と呟いている。
 その声が聞こえた訳ではないが、谷崎は盛大な溜息を漏らした。
 人並外れた直感と幸運で戦場を切り抜け少尉にまで昇進した流風だが、普段の彼女はドジっ子以外の何者でもない。彼女の働きが作戦を救った事も稀にはあるが、それ以外の彼女の挙動は谷崎の胃に風穴を開けた。
 それ故に谷崎が新たに設置したのが流風一人だけの部署、『UPC総合対策部』というわけだ。
 しかし当の本人が閑職に追いやられた自覚がないのだ。だからこそ、こうして折毎に谷崎の元を訪れるのである。
 谷崎は軋み始めた胃を押さえながら、知人から貰い受けたチケットの束を流風に突きつけた。
 それが、流風が今手にしている『甘味大博覧会』の入場チケットである。
 流風は嬉々として谷崎からの任務内容を綾音に告げた。
「実はこれは極秘任務なのですが、この会場に危険が潜んでいるかもしれないらしいのですっ!」
「かも、ということは、潜んでいないかもしれないわけですねぇ?」
 綾音が問うと、流風ははっと息を呑んだ。
「何も無いかもしれないのに、会場に来ている一般人の方を心配させるような事はいけませんねっ。危ない所でした‥‥」
「えぇと、それでは〜‥‥一般客を装って『甘味大博覧会』会場に潜入し、有事の際には一般人の方々の安全を確保・危険を排除する‥‥という依頼内容でよろしいでしょうかぁ?」
「えーっと‥‥そうですね! よろしくおねがいしますっ」
 小さな身体を折って頭を下げた流風は、定位置である胸ポケットにぷちリアルなカエルが居ない事に初めて気づいた。
「はわっ!? 雨康を忘れてきちゃいましたっ!」
 猛ダッシュで駆け出し総合対策部を目指す彼女を見ながら、綾音は小さく息をついた。
 おそらく、谷崎中尉が流風を追い払う為に適当な事を言ってこのチケットを渡したのだろう。だが、流風本人はやる気ではあるし綾音もあえてそれは口にしない。
 何事もなければそれはそれで。護衛任務を無事に終えて帰って来ることになるのだから。
 自分の足に躓いて床にスライディングする流風を笑顔で見守る綾音だった。

●参加者一覧

小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
林・蘭華(ga4703
25歳・♀・BM
土方伊織(ga4771
13歳・♂・BM
狭霧 雷(ga6900
27歳・♂・BM
菱美 雫(ga7479
20歳・♀・ER
最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
九頭龍・聖華(gb4305
14歳・♀・FC
エイミ・シーン(gb9420
18歳・♀・SF

●リプレイ本文


 日本某所のスタジアムを利用した甘味大博覧会は、開場直後から大勢の人間が訪れていた。
「‥‥こ、こういう、イベントがあることは知ってましたけど‥‥想像以上に規模が、大きいですね‥‥」
「まだ来場者は増えそうだわ‥‥」
 菱美 雫(ga7479)と林・蘭華(ga4703)は真摯な面持ちで言うが、エイミ・シーン(gb9420)は、スタッフから受け取ったパンフレットを手に満面の笑顔。
「いっぱい食べ‥‥じゃない、頑張って見回るぞーっと! 食べ歩くルート‥‥じゃなくて、巡回ルートを確認しないとねー」
 エイミの目は、しっかり何処にどんなお菓子やデザートがあるのかをチェックしている。同じくパンフレットを手に最上 空(gb3976)も頷く。
「流石に依頼とはいえ、甘味大博覧会で何も口にしないのは地獄‥‥ではなく。逆に怪しまれる可能性が大いにありますので!」
「あやや‥‥今日はお仕事で来てるんでした!」
 美味しそうな写真から眼を逸らす流風の隣で、土方伊織(ga4771)も気を引き締める。
「はわわ、そうでしたっ。でも流風さんはすごいですねー。こんな極秘任務をお一人でお願いされちゃうのですから」
「そ‥‥そんなことないですよー!」
 伊織の尊敬の眼差しに、流風は赤面し両手を振る。
 だが、UPC軍へこのイベントのチケットが渡されたのは、流風が思うような護衛を請う意図ではないのだろう。それを見越した上で、狭霧 雷(ga6900)はスタッフに声を掛け責任者への面会を取り付ける。
「極秘任務の件は内密に。問題が起きなければそれでよし、起きたら我々で対処する。それで良いと思いますよ」
 雷に耳打ちされ、流風はこくこくと頷く。
「事件が起きる前に中止になったりしたら困っちゃいますよね」
 流風がUPC軍少尉である事と万一何かがあった時には協力したいという旨を伝えると、スタッフ連絡用のトランシーバーを借りる事ができた。
 来場者に紛れてメイン会場へと向かう。皆、重武装は避け武器も手荷物などに隠せるサイズに留めている。
「ふふ‥‥かわいいですね」
 雫が伊織が歩く度に揺れる狼の尻尾を触ると、彼は狼のヘアバンドに触れて微笑んだ。
「僕が覚醒すると耳と尻尾が出ちゃうのです。こうしていれば普段からわんこなのですよ」
「あれ、なんか重たい?」
 空の持っていたぬいぐるみを手にし首を傾げた流風は、中にイアリスが入っていると聞き驚いた。どちらも1mのサイズで丁度いい具合に偽装されているのだ。
「ええ、問題ありません、美少女とぬいぐるみの組み合わせは極自然な感じです!」
 そんなちびっ子三人をじっと見ていた小鳥遊神楽(ga3319)がたしなめる。
「ほら、はしゃいでないで中に入るわよ」
「すみません‥‥私がしっかりしないとだめですよね」
 しゅんとする流風に、神楽は何かを堪えるように拳を握りしめ、ふいと顔を背けた。
 会場はA〜Fのブロックに分かれ、その中にいくつものブースが並んでいるようだ。主な出入口は四カ所。北と南のゲートはスタッフが配置され、それぞれ入場と退場を管理し。西と東のゲートは封鎖され、扉にも施錠がされている。
 会場内は親子連れやカップル、女性のグループなどが多く見られ、皆思い思いのブースに足を運んでいた。
「こんなところに、ほ、本当にキメラが出るのか‥‥って、思っちゃいますけど‥‥気は抜けないです、ね」
「何事も起きなければ、それに越した事はないのですけどね‥‥」
 雫と雷の言葉に、蘭華が閉ざされた東西のゲートを指した。
「もしもの時は封鎖ゲートを開く必要がありそうね‥‥」
「ええ。北口でもぎりをしているゲートも、撤去しなくてはいけなくなるでしょう」
 空も、有事の際に客を避難させるイメージを浮かべながら周囲を視認する。
「最初に‥‥謝っておく‥‥」
 突然切り出した九頭龍・聖華(gb4305)が皆の前でぺこりと頭を下げる。
「ごめんなさい‥‥そして‥‥いただきます‥‥」
「って、聖華さん、目的間違ってるです。任務忘れちゃだめですー」
 伊織が呼びかけるが、彼女の姿は人混みの中へと消えてしまっていた。
 

 残る8人の内、6人をA〜Fのブロックへ一名ずつ配する形で任務開始となった。
「じゃ、私達は全体の巡回‥‥」
 エイミが振り向いた先に流風はいない。
「季節を感じられるお菓子があればいいのですけどね。常に移動してるラストホープだと、四季に疎くなってしまいますから」
 言いながら自らの担当であるBブロックへのんびりと足を向ける雷の隣にその姿があった。
「そうですねっ、日本は特に四季がはっきりしてますし‥‥」
「流風さん行きますよー?」
「そっ、そうでした。巡回ですねっ」
 赤面し慌てて駆け寄ってくる流風を連れて、エイミは並列するAブロックとFブロックの間へ向かう。
 神楽が担当するAブロックは中華系の菓子がメインらしく、桃饅などの点心系から焼菓子、生菓子などが並ぶ。基本は購入して食べたり持ち帰ったりするようだが、どのブースも味見用のものを用意している。
「不審に思われないようにするには紛れ込むのが一番。あくまで仕事の一環、で問題ないわよね」
 最初に味見した杏仁豆腐の空カップに胡麻団子や月餅をストックしながら、さらに蓮の実の甘納豆を摘む神楽は見かけによらず甘いもの好き。勿論警戒も忘れていない。
 隣のBブロックはケーキの有名店が集っている。季節柄、スイートポテトやマロンを使用した物が多い。雷はそれらを時折摘みながら、人の流れに注意し不審人物がいないか周囲を窺う。これだけの集客があるイベントならば、十分敵の標的になり得るからだ。
 続くCブロックと、その東にあるDブロックは南口に最も近い。
 Cブロックを担当するのは蘭華。プリンやムースなどの生菓子や和菓子の多いそのエリアを、所々に設置された無料サービスのお茶を片手に味わい歩く。
 チョコレートやそれを使用した菓子が並ぶDブロックは雫の担当だ。 
(「‥‥こうやって見てると、や、やっぱりどんな味がするのかとか‥‥気になっちゃいます‥‥」)
 視線に気づいたスタッフに手渡されるまま小カップを受け取った。中身はチョコとバナナのムースだ。
 携帯電話で他ブロック担当者と連絡を取った限りでは異常はない様子。心配なのは‥‥。
「少尉、迷子にならないといいんですけど‥‥」
 その流風は、エイミと共にFブロックとEブロックの境目付近でEブロック担当の伊織と出会う。
「Eブロックは、冷たいお菓子なんですよ。お菓子が一杯でちょっと誘惑されちゃいました」
 そんな伊織の手にあるジェラートを見てエイミが目を輝かせる。
「あんま食べると太りそうだけど‥‥気にしてたら食べられないじゃん! それどのブースのやつ?」
 彼女の勢いに押され気味な伊織が、Fブロックの端で人だかりができているのを見つけた。
 その中には聖華の姿があった。焼菓子メインのFブロックで、クッキーを扱うそのブース。味見用の物をすべて食べ尽くし、さらにショーケースの中に狙いを定めブース内へ進入を謀る。
「お客様っ。こちら側はスタッフ以外は‥‥」
「我の‥‥食事‥‥邪魔するのは、敵‥‥お〜け〜‥‥?」
 制止に入った青年スタッフがブースの奥壁に叩きつけられ目を回した。覚醒した聖華が蛍火の鞘で刹那を放ったのだ。
「ふ‥‥みね撃ちじゃ、安心せい」
 ブース内から逃げ出した女性スタッフに触発されるように、集まっていた野次馬も巻き添えを食ってはたまらないと散っていく。
「私とて本能のままに甘味に襲いかかりたいところですが、ここは我慢です。真面目に依頼をこなせば、お土産的な物をいただけるかもしれませんしね!」
 遠目に見ていたFブロック担当の空は、ぐっとくまのぬいぐるみを抱きしめ再び警邏へ戻っていく。
「聖華さん、皆さんにご迷惑をかけては‥‥きゃんっ!?」
 ブース内から吹き飛んできた流風をエイミと伊織が受け止めた。刹那と二連撃を流風に食らわせた聖華は仁王立ちに言い放つ。
「菓子が生まれた意味はなんじゃと思う? 飾られる事か、ほめられる事か? 違うじゃろ! 喰われる事こそ、菓子の存在意義じゃろ! だから、邪魔するな!!」
 言うだけ言って覚醒を解いた聖華は再び食に専念する。流風は痛みを堪えつつ鳴った携帯電話に涙声で出た。
『ど‥‥どうしました、少尉?』
「あ、いえ、その‥‥」
 驚く雫に流風が口ごもったその時、EブロックとDブロックの間付近から無数の悲鳴が上がる。逃げ惑う人々を追いかけているのは、牙の生えた口を開けたボックスアイスクリームだった。
「雫さん、キメラですっ」
 流風は携帯片手に、隠し持っていた拳銃「黒猫」を取り出した。


 騒ぎが伝染してくる前に、空は呼笛を吹いて周囲の視線を集めて言う。
「非常事態が発生してます。ともかく走らず並んで北口へ向かいましょう」
 雫から連絡を受けた能力者達も、自身が担当するブロックの来場者を避難させるべく動き始める。
「私はUPC軍の関係者です! 皆さん落ち着いて、私の指示に従ってください!」
 雷は聞こえくる悲鳴に動揺する皆を北口へと誘導しながら、借りたトランシーバーでキメラの出現をスタッフへ通知し避難誘導の協力を請う。
 神楽もどよめきに負けぬよう大声を張って避難を促す。
「Aブロックにいる人は北口へ! この辺は安全だから、押したり走ったりしないで!」
 キメラが菓子に紛れている事は既に無線で聞いている。小銃「フリージア」をいつでも取り出せるようにしつつ、避難誘導の傍らキメラが潜んでいないかAブロックのブースを回っていく。
 蘭華は封鎖された西口へと走り、扉の鍵を手にしていた鉄扇で打ち壊す。
「緊急事態につき悪いけど鍵を壊させてもらったわ‥‥キメラは此方で対処するので、避難誘導をお願いできて?」
 スタッフ達が西口への誘導を開始するのを確認し、Eブロックへと駆け出した。が、近くから悲鳴が上がり、そちらへと方向転換する。
 場所はCブロックの南端、Dブロックとの境界。先に駆けつけていた雫が、南口へ逃げる一般人の列を背に庇い、意志を持ち飛び回る和菓子と対峙している。
「ここから先へは行かせない‥‥!」
 餡の中で増殖しているのか、際限無く白玉弾を飛ばしてくる汁粉キメラ。柔そうな見た目に反し重いそれを受けつつも、射線にブースが入らぬよう真っ直ぐ向かってくる所を狙ってスパークマシンαの電磁波を飛ばす。
 汁粉が劣勢と見たかバネのような形で跳ね回り加勢に入る素甘の体当たりを、蘭華が盾扇で受け止めた。
「私が相手よ‥‥!」
 横合いから襲ってくるもう一体には鉄扇での円閃で舞いさながらの攻撃を食らわせる。
 Eブロック側では伊織が鍵を破壊し解放した東口と、南北の出入口。ブロックから近い出口へと、空とスタッフとで避難を進める。そんな中でも、聖華は相変わらずブース一つ一つを食覇していた。
「食べ物‥‥有る所に、我‥‥あり‥‥我の‥‥胃袋は、無限‥‥」
 Eブロックの中程で噛み付いてきたかき氷キメラを捕まえ、それすらも菓子と共に口に運ぶ。
「‥‥肉味の、氷‥‥微妙。次は、塩か‥‥醤油、持参で‥‥来い‥‥」
「一般の皆さんの安全は護ってみせるですよ!」
 先手必勝を発動した伊織は鋭く身体を回転させ、牙を剥き飛びついてくるボックスアイスに両手の旋棍「砕天」を見舞う。
 エイミも手荷物に潜ませていた機械剣αを振るい、流風を捕まえようとしていた伸縮するトルコアイスの触手を切断した。
「ぶっ!?」
 その刹那、顔面に液体が直撃した。見ると、チョコレートパフェが嘲笑うように浮遊している。
「フ、フフフ‥‥いい度胸だ。ちょーっと歯食い縛れ‥‥?」
 チョコレート掛けになった顔は笑っているが眼が怖い。発射されたロケットパンチβはチョコパフェを壁際まで吹き飛ばす。
「さらにトドメのメテオストレート!!」
 戻ってきたロケットパンチを走りながら受け止め、ジャンプと共に上から叩き込んだ追撃でキメラは動かなくなった。
『ブースに被害が及ぶといけないわ‥‥キメラを中央に誘き寄せて‥‥』
 蘭華からの無線でキメラの群れを囲い込むように誘導する。
 開けた場所まで来れば遠慮する必要も無い。目処のついた避難誘導を雷と空に任せ駆けつけた神楽が怒りを露に銃撃を浴びせた。
「せっかくのイベントを台無しにするなんて! その行い、万死すら生ぬるいわ。消し炭にしてあげるわよ」
「はわっ、べたべたですー!」
 チョコミントアイス弾を全身に受けた伊織が返した真音獣斬に、アイスボックスは粉々に吹き飛んだ。


 和菓子と冷菓子に潜んでいたキメラ総勢10体は無事討伐。傭兵達の迅速な避難誘導とキメラへの対処により、被害は最小限に食い止められた。
 雫が一般客の治療に当たるも、運悪くキメラスイーツを手にしてしまった数名以外は目立った怪我も無く。
 手分けして会場にキメラがいないことを確認し、蘭華が主催者に再開を申し入れた。
「本当に極秘任務になってしまいましたね」
 雷は思わず苦笑する。
 UPC軍にチケットが提供されたのがコネを期待しての事だったのであろう事は、主催者に会った感触からも明らかだった。それが実際の手柄になってしまったのは、流風の強運が引き寄せたものなのだろうか。
 何事も無かったように継続されるイベント会場を改めて皆で見て回る。
「‥‥みんな楽しそうに笑ってる‥‥これが貴女の仕事の結果よ‥‥」
 蘭華に微笑み掛けられ、流風は晴れやかな笑顔を返す。
「えへへ。蘭華さん達、皆さんのおかげですっ」
「はうぅ‥‥まだチョコミントの香りがするですー」
 くんくんと腕に鼻を寄せる伊織は耳と尻尾も相まってまさに子犬のようだ。
「くっ、ある意味拷問だわ‥‥」
 密かに呟いたのは神楽。クールなイメージを崩すまいと、入場前から流風を愛でたいのを必死で抑えていたのだ。雫や蘭華が可愛らしいちびっ子達を構うのを、内心悔し涙を流しつつ眺める。
 エイミは両手に抱えた菓子を渡しつつ流風に謝る。
「流風さん、壁ちょっと壊しちゃってごめんねー」
「大丈夫ですよっ。主催者さんも許してくれましたし! 雫さん、この栗大福すっごく美味しいですよ」
 流風に手渡されたそれを、雫はしげしげと眺める。
「‥‥も、もう、キメラが混ざりこんでたり、しないですよね‥‥?」
「メロンパンはありますかね。空的にはメロンパンは100%甘味なのですが」
「それなら美味しいパン屋さんを知ってるので、帰りに寄って行きましょうっ」
 流風達がイベントを満喫している頃。最初から最後までイベントを満喫し、3ブロック制覇を果たした聖華は‥‥。
「お持ち帰り‥‥おっけ〜‥‥? ここに‥‥請求して‥‥」
 未踏のブースでスタッフの顔を引き攣らせていた。
 総合対策部宛ての請求書の額に流風が目を回したのは、それから数日後の事である。