タイトル:【妖幻】送り雀と送り犬マスター:きっこ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/20 22:24

●オープニング本文



 閑静な住宅街の夜道を、男が一人歩いている。
 等間隔に電柱に据えられた街灯のに照らされたのは、ごく普通の中年サラリーマンだ。
 このところ残業続きで肉体的にも精神的にも参っているが、家に帰れば妻と幼い娘が待っている。
 自宅までの道程を足早に歩いていたその時だった。
 チチチチチチチチチ‥‥‥‥‥‥
 どこからか響く、微かな音。
 男はいぶかしんだが、その音から思い当たるものに納得した。
(「鳥の鳴き声か‥‥」)
 が、すぐにその不自然さに気づく。
 鳥――こんな夜遅い時間に?
 鳴き声は次第に大きく、つまり、近付いてくる。
 それだけではない。さえずりと共に距離を詰めてくるのは、複数の獣の息遣いと足音。
 反射的に振り向いた男の顔を掠めて何かが飛び去った。
 思わずのけぞりバランスを崩した男はしりもちをつく。直後に見たのは、狂ったように牙を剥き地を蹴った犬達の姿。
「うわああぁぁぁあ!!」
 跳びかかった二匹の犬に押し倒された男の姿は、後から群がる犬達に包まれ見えなくなる。
 狂獣の声が響く路地脇の石塀の上。
 闇に紛れる小さきものが、その翼を広げて飛び去っていった。


 ラスト・ホープ内、UPC本部。
 依頼斡旋所に訪れた八丈部十夜(gz0219)を、オペレーターの小野路綾音(おのみち・あやね)が迎えた。
「十夜くんじゃないですか〜。ラスト・ホープでの生活は、慣れましたかぁ?」
「はい。綾音さんや、先輩方のおかげで、無事に傭兵としての初戦を飾る事もできましたし‥‥実家を離れての生活も、大変ですけど、楽しいものですね」
 十夜はふわりと笑みを浮かべた。端正な顔立ちが生む近付き難い雰囲気が、それだけで一気に氷解していく。
 綾音は、傭兵になっても変わらず元気そうな年下の幼馴染に笑顔を返す。
 彼はつい先月傭兵となったばかりだ。日本の田舎にある小さな神社の長男として生まれた彼は、神社を継ぐ道よりも傭兵としての道を選びこの地へ来た。その経緯は、まぁ色々あるのでまた別の機会に説明するとして‥‥。
「そういえば、十夜くん向きの依頼がついさっき届いていたんですよ〜。ちょっと見てみますかぁ?」
 綾音はいそいそと資料を取り出し、返事も聞かず十夜に差し出した。
 それは、日本のとある町から寄せられたものだ。夜道で次々と人が襲われているのだという。
 十夜は起こった数件の事件報告に目を通し、ある共通点に気づいた。
「変ですね‥‥どれも、必ず後ろから襲われている」
「そうなんですよ〜。この、鳥の鳴き声が追いかけてきたと言うのも、全部の事件に当てはまるんですよねぇ」
「さしずめ『送り雀』と『送り犬』、といったところでしょうか‥‥」
「‥‥送り? それも妖怪か何かですかぁ?」
「あ、すみません‥‥すぐそっちの方に結び付けてしまって」
 十夜は少し慌てたが、綾音が気にせず促すと先を続けた。
「夜歩く人の元に、鳴きながら送り雀が飛んでくる。その鳴き声の後には送り犬が現われると言います。送り犬は、道行く人の後ろをついて歩いて、その人が転ぶと食い殺してしまうそうです」
「う〜ん‥‥じゃあ、この野犬達もそんな感じなんですかねぇ?」
 首をかしげる綾音に、十夜は難しい顔で首を横に振った。
「それは、何とも‥‥この野犬が普通の犬なのかキメラなのかも判っていないようですし。直前に必ず現われる鳥との関係も気になります」
「じゃあ、やっぱり現地に行って確認するのが一番ですねぇ」
 言いつつ、綾音が何気なく十夜の登録手続きを済ませているのに気づき、十夜は苦笑する。
「‥‥やっぱり、僕が行く事になっちゃうんですね」
「気になるんでしょう? この事件」
 ほんわりとした笑顔でそう言われてしまえば嘘の否定もできない。元より本心を偽っての否定など、できる性分ではない十夜である。

●参加者一覧

リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
フィオナ・シュトリエ(gb0790
19歳・♀・GD
風花 澪(gb1573
15歳・♀・FC
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST
九頭龍・聖華(gb4305
14歳・♀・FC
秋津玲司(gb5395
19歳・♂・HD
美環 玲(gb5471
16歳・♀・EP
長谷川京一(gb5804
25歳・♂・JG

●リプレイ本文


「八丈部、傭兵生活は慣れたか?」
「十夜さんとは鉄鼠の件以来ですね」
 リュイン・カミーユ(ga3871)と秋津玲司(gb5395)の声に振り向いた八丈部十夜(gz0219)は、見知った顔を見つけると柔らかく笑んで会釈した。
「またご一緒できるなんて、頼もしいです」
 美環響(gb2863)と美環玲(gb5471)も優雅に礼と笑顔を返す。二人は容姿が鏡に映したようなのだが、その真相は不明である。『魅力的な女性は秘密をたくさん持っているんですよ』とは玲の言。
「今回もよろしくお願いしますね。妖怪が元となったキメラのようですから、頼りにさせてもらいますよ八丈部さん」
「リュインさんと秋津さん、前回に引き続き今回もよろしくお願いします。またお会いしましたわね、八丈部さん。新人同士がんばりましょう」
「新人同士なんて‥‥僕は、今回の依頼が二度目ですから」
 既にいくつもの依頼をこなしている玲とは比較にならない。そんな十夜にリュインが言う。
「日常生活も今までとは異なるだろうからな。無理をせず、徐々に慣れていくことだ。『マイペース』『我が道を行く』、これが我のモットーだ」
「はい、焦らず頑張ります。今回初めてお会いする皆さんも、どうぞよろしくお願いします」
 礼儀正しく頭を下げる十夜。
 長谷川京一(gb5804)は煙草に伸ばしかけた手を止めて、禁煙パイプを取り出した。
「送り犬か、たしか送り狼の語源でもあったねぇ」
「うん、送り狼なら聞いた事はあるのだが。送り狼とはどのような妖怪なのだ?」
 不意にリュインが十夜に尋ねる。どう答えたものかと悩む十夜に、玲司がさり気無く助け船を出す。
「ふむ、送り雀に送り犬ですか……伝承では、送り雀は送り犬が来た事を知らせ、送り犬は転ばなければ襲ってはこないとか。しかし、これはそんな生易しいものではなさそうですねぇ」
「妖怪退治? 久しぶりの依頼だし張り切ってこー♪」
 風花澪(gb1573)は九頭龍・聖華(gb4305)とフィオナ・シュトリエ(gb0790)の間に割って入りながら二人の腕を捕まえて元気に宣言した。
「ん‥‥犬も‥‥雀も‥‥食べる事‥‥できる‥‥倒した後は‥‥美味しく‥‥食う‥‥事に‥‥する‥‥」
 こっくりと頷いて言う聖華に驚くフィオナ。
「食べちゃうの!? でも、そのまま捨てちゃうよりはエコかもしれないね」
 エコになるかどうかはともかくとして、UPCの事後処理班は手間が省けるかもしれない。
 リュインと京一が町の地図と被害報告を纏めて、出現率が高そうなポイントをいくつか割り出した。班を二つに分け、ポイントを優先的に巡回する事で敵を誘き出す作戦を取る事となったのである。
「囮とはエキスパートの本領発揮ですね。せいぜい大きな獲物を釣って見せますよ」
 1班の囮役となった響は、右手のレインボーローズを一振りで小銃「S−01」に変えて見せ、にっこりと微笑んだ。



 元々閑静な住宅街ではあるが、夜毎のキメラ被害の影響でひっそりと静まり返っていた。
 町の北側に位置する帯状公園沿いの道を、響は奇襲などにも即対応できるよう探査の眼を発動し歩いている。彼からも見えない位置に、聖花と玲司が潜み様子を窺う。玲司は雀の鳴声を聞き逃さぬよう耳を澄ませながら、響の後方を注視している。
「囮以外の者が散らばると一人でいる事と違いがなくなるからの‥‥各個攻撃などされたら目も当てられん」
 聖華の言葉に、玲司が気付いた。
「そういえば、風花さんの姿が見当たらないようですが‥‥」
「あそこなら一人でも問題ないじゃろ」
 言って、聖華が示した先、電柱の一番上に澪はいた。
「見晴らし抜群☆ どっちが早く見つけられるかなー♪」
 澪は西の方を見やった。被害は町の北端側に集中して発生している。澪のいる1班は北東から。現在もう一方の2班は、北西から北へ向かっているのだ。
 
 町外れの暗い住宅街を、ゆっくりと移動する仄かな光。リュインは懐中電灯を手に歩いていた。
 のんびりと、夜の散歩を楽しむような歩調。だが僅かな気配や音も逃さんと、五感は研ぎ澄まされている。
「しっかし、普通なら囮を追うのが通例なのに妙な光景だね」
 小さく呟いて苦笑する京一。こちらも手には懐中電灯がある。
 送雀も送犬も背後から襲撃するという。後ろから追ったのでは敵に気取られる恐れがある。リュインの持つ灯りがぎりぎり視認できる程に距離を保ちながら、フィオナ、玲、十夜と共にリュインの先を歩く。
 そうして一時間程歩き続けたろうか。
『こちら響、送雀の鳴声を確認。警戒態勢後戦闘に入ります』
 1班からの無線連絡だ。
「こちらも来たみたいですね」
 十夜が言う。後方で懐中電灯が弧を描いている。リュインからの合図だ。引き返そうとした皆をフィオナが押し留める。
「待って! 襲撃を確認してからじゃないと逃げられちゃうかも。きっちり仕留めて怪異を終わらせないとね」
 リュインは背後からの雀の鳴声に集中する。声は次第に近付き――間合いに入った!
 身を翻し、跳躍と共に放たれたハイキック。ブーツに装着された刹那の爪は、咄嗟に高度を上げた送雀の羽毛を宙に舞わせた。
「ふん、致命傷には至らんか」
 着地と同時に呟いたリュインの瞳には、猛然と迫る狂犬の群れが映っていた。
「生憎、転ばずに悪かったな」
 言葉とは裏腹に全く悪びれる様子もなく、リュインは送犬達を迎え撃つ。
 三匹の犬がほぼ同時に地を蹴った。が、その牙は空を噛む。リュインは群れの最後尾に立っていた。群れの合間を縫っての瞬天速での移動。
「これで貴様らは逃れられん」
 リュインが言うと同時に群れを挟んで反対側をフィオナ、京一、十夜が囲む。玲は駆けて来た勢いのまま、バックラーをかざし機械剣を突き出して群れの中を駆け抜けリュインと合流した。
「‥‥この犬達は、キメラではありませんの?」
 玲は思わず口にしていた。突破時、電磁障壁が確認されなかったのだ。


 振り向いた響は飛びかかってきた送犬をバックラーで受け止めながら、頭にS−01の銃弾を撃ち込む。しかし周囲は十数匹の送犬に囲まれている。
 背後から跳びかかろうとした一匹は、玲司の放ったエナジーガンの一撃に倒れた。
「不意打ちなどさせん‥‥」
 仲間の背中を守るのは後衛である自分の役目だ。
 乾いた音と共にその一匹の周辺にいた数匹が弾かれた様に地面に転がった。聖華の超機械「ラミエル」による範囲攻撃で、響は送犬の包囲から脱した。幸い犬の数は十匹に満たない。
 送犬を挟むように高みから跳び下りた澪は、着地に屈めたバネをそのまま跳躍に生かし大鎌「ノトス」を下から上へ撥ね上げる。
「げーむでなんかあった技!」
 三日月の如く弧を描く刃が送犬を分断する。着地と同時に襲い来る犬達を柄で押し返し横薙ぎを喰らわせた。
「どんどんおいでわんちゃん達ー♪ 片っ端から斬ってあげるっ☆」
 送犬の吼え声と銃声・剣戟が入り乱れる中、送雀の鳴声は闇から闇へと移り行く。
「そこか!」
 聖華はラミエルを闇に向けた。位置を正確に把握したわけではない。しかしラミエルの発生させた電磁波は範囲攻撃。その網にかかった雀が高い悲鳴をあげる。
「砕けてくれるなよ雀よ! 食う場所がなくなるからな!」
「鳥さん見つけた? 僕も攻撃してあげるっ」
 澪が放ったソニックブームは、飛び立つ送雀の翼を掠めた。玲司の纏ったバハムートのライトに照らされた送雀は「シエルクライン」に晒される。
 宙に磔にされたかのようなその一瞬に、紅蓮衝撃の炎に包まれた玲が銃口を向けた。
「汝の魂に幸いあれ」
 眼にも止まらぬ速さで撃ち込まれた弾丸に、送雀は地に落ちた。


 二匹一度に飛びかかってくる犬の一匹を、玲は盾で防いだ。左腕に噛み付いてくる犬の牙は、自身障壁で強化した玲にとって大した痛みではない。噛み付かせたまま、その首筋に機械剣を突きたてる。
「肉を切らせて骨を断つ、ですわ」
 キメラではないにしても、この数だ。中には体格の大きな犬もごろごろいる。
 リュインの刹那の爪によるローキックが犬達の足を薙ぐ。
「我は足癖の方が悪いのだ」
 その一団を飛び越えて襲い来る1匹は、低い姿勢からの鬼蛍の逆袈裟斬りで斬り伏せた。
 左腕に固定した懐中電灯の明かりで送雀の姿を探すフィオナに、送犬達が襲い掛かる。
「もうっ、邪魔くさいなあ!」
 ガラティーンを大きく横に薙いで4匹まとめて切り捨てる。鳴声は常時聞こえているのだが、飛びまわっている上に壁に音が反響して位置を判別し難い。なにより犬の数が多く、送雀への攻撃に集中する事ができないのだ。
 しかも犬に気をとられていると、刃を蓄えた送雀の翼が襲ってくる。
「クソっ、闇に紛れてちょこまかと‥‥」
 舌打ちしながら、京一は矢を番える。両手を使用する武器のため、懐中電灯で照らす事もできない。
 そのうち、送雀の鳴声が変わった。チチ、チチ、と短く区切るような鳴声がしばらく続いたかと思うと、遠くから響いてくるもう一つの声。
 チチチチチチ‥‥
「送雀が、もう一羽‥‥」
 思わず十夜が呟いた。鳴声の後ろには、更に上回る数の送犬の姿が見て取れた。
 1班から入った討伐完了の無線に、新たな群れの攻撃を剣で受け止めながらフィオナが応答する。
「2班、現在送雀二体と交戦中。至急応援をお願い!」
 送犬はキメラではない以上苦戦するという事もないだろうが、送雀を逃がしてしまうかもしれない。
 それに送雀が二体に増えてから、心なしか犬達の攻撃性が強まったようにも思う。
「やはり、送雀が犬達を操っているようですね」
 十夜の言葉尻に、銃声が被る。
「こっちの雀は僕達にまかせてー♪」
 澪の豪破斬撃を乗せたノトスの赤い刃が、犬の脇腹に流し斬りを叩き込む。同じく駆け込んだ聖華の蛍火が円に閃く。
「犬如きが龍に敵うと思うなよ! 素直に妾に食われろ!!」
 犬の増援に囲まれる形になっていたリュインと玲までの道が開け、響が駆け込んだ。
「大丈夫ですか、玲さん」
「響さん!」
 刹那、横から飛びかかってきた犬は、響の銃弾と玲の機械剣に同時に貫かれた。
 二人は視線を合わせ微笑み合う。が、それも僅かの事。すぐに背中合わせに犬達に対峙する。
 十夜を囲む犬達は、玲司のシエルクラインが遠ざけた。
「先輩と言えるほど経験は積んでいなくとも、安心して戦えるよう背中を守る事はできる。十夜さんは送雀を」
「感謝します」
 十夜が短い返事を返したその時、
「見つけた! 人に危害を加える存在である以上、絶対に逃がさないよ」
 フィオナが視界の端をかすめた送雀にガラティーンを振るう。刃を素早く逃れ遠ざかる翼に、持ち替えたS−01を発砲する。
 十夜と京一も射るが素早く動く雀を掠めるばかりで、決定的なダメージを与える事ができない。
「フィオナさん、僕達が追いましょう。長谷川さん、お願いします」
 和弓を引き絞り、十夜が言う。犬を遠ざけ三人を援護しながら、玲司がライトで送雀を照らす。
 フィオナは銃を撃ち続けた。銃弾と、十夜の矢が牽制が左右の移動を阻み、道路の直線上に送雀の軌道を制限する。直撃はしないまでも、着実にダメージを与えていく。
 京一は濡羽色の弓に矢を番え、二人の射撃を逃れ飛ぶ送雀の姿を狙う。
「さぁ夜雀、奴を鳥目にしてやれ! なんてな」
 さらに京一が動きの溜めを捉えた瞬間、和弓「夜雀」から放たれた矢が空を滑る。影撃ちを乗せた矢は、見事送雀を貫いた。


 送雀が消えると同時に、暴れ狂っていた犬達はそれまでの様子が嘘のように大人しくなった。
 それから巡回を続けたが、それ以上送雀が出ることはなかった。
「これで全部だな」
 帯状公園の中、リュインは最後の一匹を地面に放って皆に言った。町の中から、倒した野犬の死体を皆で回収してきたのだ。
 全員が受けた傷はフィオナと玲が全て治療して回った。
「犬達は、送雀に利用されていただけだったんですね」
 十夜は回収した犬達と送雀の遺体に修祓を施す。キメラを倒し、これ以上の被害を出さないためには仕方がなかった。とはいえ、せめて供養だけでも――。
「――清め給へと 白すことを聞こし召せと 恐み恐みも白す‥‥」
 十夜がその場を離れると、聖華はすぐさま犬を捌きにかかった。どこにしまってあったのか巨大な鍋が火にかけられ、火の脇には京一の矢で串刺しになった送雀が地面に突き立てられている。
 一仕事終えた後の一服、と煙草に火をつけた京一はふと思い出して言う。
「そういや、送り犬は煙草に弱いって伝承があったよな? って、本物の妖怪じゃねぇよな」
 がくりとうなだれる京一に、玲は少女のように眼を輝かせる。
「長谷川さんも妖怪に詳しいんですの? 八丈部さんも、是非お話を聞かせてください」
「いくらでもいいぜ。そもそも送り雀は蒿雀(あおじ)とか雀送りとも言ってだな‥‥」
 元々妖怪話が大好きでこの依頼に参加した京一は、ここぞとばかりに薀蓄を語り出す。
「十夜さん。どうでしたか、二回目の実戦は」
 玲司に尋ねられ、十夜は微笑んだ。それは皆が無事で戦いを終えたことに対する安堵からこぼれたものだった。
「まだ皆さんに頼りきりで‥‥前よりは、戦えたと思うんですが。まだまだ精進しなくては、ですね」
 玲司の眼から見て、依頼中――戦闘中ですら、十夜に緊張したり力んだりしている様子はなかった。追い抜かれないように、頑張らなくては――。
「同じ傭兵、また依頼で会う事もあるでしょう。今度会ったら妖のこと教えてもらえませんか?」
「ええ。またお会いできる日を楽しみにしています。その時もまた、妖怪じみたキメラと戦う事になるかもしれませんが」
 冗談とも本気ともつかない口調で言う十夜に、京一はおどけてみせる。
「望む所だ。また何かあったら妖怪ポストまで御連絡を、な〜んてな」
「お疲れだったな」
 十夜の肩を叩いて言うリュインに、十夜は頭を下げた。
「リュインさん、今日もお世話になりました。フィオナさん、風花さん、響さんも。またご一緒する事があったら、よろしくお願いしますね。九頭龍さんも‥‥」
 最後に十夜は聖華を振り向いた。聖華は焼き上がった送雀を食べ始めた所で、もう一本の送雀焼きを皆に突き出した。
「量は‥‥無い‥‥けど‥‥間食ぐらい‥‥には‥‥皆‥‥食べる?」
「あ、あたしはパスっ!」
 慌てて両手を振るフィオナ。
「んー、味はちょっと気になるかもだけどー‥‥気持ちだけ受け取っておくね☆」
「ん‥‥我‥‥一人で、食べる‥‥」
 澪のみならず皆に断られたが気にした様子もなく、聖華は二体の送雀と四十体以上の野犬を一人で全て平らげたのだった。