●リプレイ本文
●挨拶が肝心?
ラスト・ホープにあるドローム社に備え付けられた滑走路には、遠距離飛行データを取るR−01Eイビルアイズの他に、8機のナイトフォーゲルが翼を休めていた。
「あのね‥‥多分僕も‥‥好きな人が‥‥だからお互い‥‥頑張ろうねv」
グラップラーの水理 和奏(
ga1500)が、顔を真っ赤にしながら姉と慕うドローム社の若き女社長ミユ・ベルナール(gz0022)に抱き付いた。和奏も歳がかなり離れているが好きな人がいる。恋する乙女同士は互いに察するものがあるようだ。
「ミユお姉ちゃん今回はよろしくにゃ〜♪ マジカル♪チカが守るのにゃ♪ この柔らかさはレベルMAXにゃ!」
「流石DGC、やっぱり社長はバスト☆モンスターだぜ」
和奏が離れたのを見計らい、ビーストマンの西村・千佳(
ga4714)が抱き付き、そのメロンを詰め込んだような胸元に顔を埋める。しかし、健康美に溢れた胸の果肉は、千佳の顔を柔らかく包み込むように受け止めつつ、離れるとその形が元に戻る張りを有している。
ロッタ・シルフスを小物扱いしたミニスカサンタ姿に大層熱狂したというビーストマンの阿野次 のもじ(
ga5480)は、ミユへ羨望の眼差しを向けている。
「あれはナイトフォーゲルの操縦には向きませんし、ゴット・ホープに着いたら入学式もありますからね」
(「母が、ミユ社長は天然だから気をつけろ、と申していましたが‥‥」)
ファイターの夕凪 春花(
ga3152)は、ミユの返答に内心、微苦笑する。真に受けなくてもいいものを、律儀に応えてしまうのも天然故か。
「本日はよろしくお願い致します。カンパネラ学園の学生としても頑張ります」
「‥‥ちゃんと、無事送り届けるから‥‥ね」
カンパネラの女子の冬服に身を包んだドラグーンの天小路桜子(
gb1928)がにっこりと笑みを湛え、折り目正しく挨拶をする。その横には少し緊張した面持ちの、スナイパーのラシード・アル・ラハル(
ga6190)がぺこりと頭を下げる。
ミユはラシードの緊張を少しでも解そうと、微笑み掛けながら握手した。もっとも、彼の場合、ミユと話すのが初めてという事に加え、愛機のイビルアイズ『アズラエル』も初フライトという事もあって緊張が増している。
「ベルナール様とご一緒にフライトできるとは、光栄ですわね」
最後にエクセレンターのジュリエット・リーゲン(
ga8384)が貴族令嬢よろしく、スカートの裾を軽く摘んで頭を下げた。
ツィレル・トネリカリフがミユにPM−J9クルーエル(仮)の調整案を渡しながら、PM−J8アンジェリカを指さすと、キャノピー越しにファイターの真田 一(
ga0039)が手を振って応えた。
(「ツィレルの練成治療で幾分マシになったとはいえ、完治が間に合わなかった重体の身体をミユに知られる訳にはいかないからな」)
ミユは全員揃った事を確認すると、各自愛機へ乗り込み、ラスト・ホープを後にした。
●PM−J9クルーエル(仮)
ラスト・ホープを飛び立つと、ミユのイビルアイズを後中央にし、目の前(直衛)に桜子のHA−118改翔幻、前方に春花のXN−01改ナイチンゲールとのもじのF−108ディアブロ、左右に千佳のアンジェリカとラシードのアズラエル、後方右翼に一のアンジェリカ、後方中央にわかなでりしゃすアンジェリカ、後方左翼にジュリエットのナイチンゲールが付いた。
「うん‥‥大丈夫だ‥‥よね」
早期警戒は電子戦装備アズラエルの役目だ。ラシードはコックピットの多機能ディスプレイの一角に表示しているレーダーを見ながら、愛機を慈しむように撫でた。
ラスト・ホープから北米の西海岸はUPC側の勢力圏内なので、桜子達の警戒も最低限で済んだ。
「そういえば、あのバニー騒動以来、『HJK』の方は如何ですか?」
『大阪・日本橋は平和ですし、HJKの方も売り上げは上向きです』
「それは良かったですわ。また何かありましたら遠慮なく呼んで下さいね」
手持ち無沙汰からジュリエットが少々気になっていた事を尋ねる。
「ドラグーンとしては、AU−KV対応の延長上として、ナイトフォーゲルコントロールを重視したものの開発予定がないか気になります」
彼女の質問が呼び水になったようで、今度は桜子が聞いた。
『弊社はAU−KVそのものの開発より、AU−KVに対応したナイトフォーゲルの開発を進めています。私が設計しているPM−J9クルーエル(仮)もそうですし、開発中のF−201Aフェニックスも対応を検討しています』
(「わ、もうリカの次世代機エルが‥‥! ミユお姉様と一緒に考えたリカ‥‥僕のでりしゃすリカは相次ぐ激戦で‥‥修理されてても、結構傷だらけだと思う‥‥今まで本当にありがとう‥‥!」)
クルーエルの型番はアンジェリカの次だ。アンジェリカの妹、次世代機として設計している。
もちろん、アンジェリカはまだまだ現役だし、共に死地をくぐり抜けてきた戦友との別れは先の話だが、それでも和奏は感慨深くコックピットを見回した。
「姉妹機か‥‥全てにおいて姉を上回るものになるのか‥‥AU−KV対応は広くて助かるな‥‥情報解析用の補助AIとか、姉妹のSESエンハンサーが共鳴し、威力が上がったりとかは?」
『情報解析は電子戦装備機の十八番ですから、搭載予定はありません。SESエンハンサーの共鳴は無理ですね』
早速、一がクルーエルへの要望を告げた。
「僕は、エルはリカみたいに可愛い機体がいいな☆ 後、この間初めて受けた、バグアの防御力を下げるような特殊兵装への対抗機能のようなものも欲しい」
『より流線形なフォルムで図面を引いています。バグアの特殊兵装は情報不足なので、これからの研究次第ですね』
和奏は以前、ビーストソウルの計器が狂わされ、防御力が低下するという特殊攻撃を受けていた。その対抗策を提案したが、特殊能力そのものの事例が少なく、データが不足しているので、クルーエルに搭載されるかどうかは難しいところだ。
「アンジェリカを更に発展させるか、コンセプトをがらりと変えて別路線で攻めるか、といったところでしょうか。私個人としては、カプロイア風の短期決戦仕様も有りではないかと思いますが」
『ブースト空戦スタビライザーと改良型SESエンハンサーで、アンジェリカと比較してどのように強化されるのかが気になりますね。砲撃戦はやはり憧れていますので、砲撃特化を更に突き詰められているといいのですが』
『次世代機なら、300万台くらいの高級機でアンジェリカより全ての能力で上回ってないとかにゃ? ‥‥胸部の大きさも』
『中堅機が、求められてるのは‥‥確か、だけど‥‥やっぱり、超高級機、なのか‥‥な? 知覚だけじゃなく‥‥命中なんかも高くして、戦闘能力を高めると、いいと思う。防御面は‥‥あんまり考えなくても、いい、かな』
春花が短期決戦仕様を推すと、桜子もそれに近い形で砲戦特化型を推した。そうなると、千佳とラシードが言うように、少なくとも300万Cは下らない、400万C近い超高級機になるのは仕方ないだろう。
『クルーエルは、ブースト空戦スタビライザーを2基搭載します。また、SESエンハンサーは現行のアンジェリカのもののリミッターを解除する方向で、改良を重ねています』
「ブースト空戦スタビライザーが2基‥‥行動力が2追加されたように行動する事ができるようになるのですわね」
『練力馬鹿食いしそうだね☆ それなら操作系知覚兵装が欲しいわ‥‥ダークファイターの持ってるなんだっけ? アレのナイトフォーゲル版』
『ワイズマンクロックですか?』
『うん“ファイナルボール”だね』
『『『『『『『『いや違うでしょ(だろ)』』』』』』』』
ツインブースト空戦スタビライザーはまだ開発中だが、完成すればジュリエットの予想する効果が発揮される。しかし、のもじが指摘するように練力消費が肝だろう。
彼女は知覚兵装へ話を移すが、一達全員から盛大な突っ込みを受けた。のもじはその後、相手の苦手とする属性に変化する兵装や、全員の錬力を1カ所に集めて打ち出す兵装を提案するが、残念ながら今のメガコーポレーションの技術力では実現不可能なものばかりだった。
一機のレーダーが友軍コードをキャッチする。サンフランシスコのUPC北中央軍基地よりやってきた空輸機だ。
細かな作業は全てエミタに搭載されたAIがやってくれるが、おしゃべりを一端止め、空輸を受ける。
さぁ、グリーンランドまで残り半分だ。
「ユニヴァースナイト弐番艦の主砲にSoLCを搭載されたそうですが、解析はどこまで進んでいるのでしょうか?」
『まだ実験段階ですが、カートリッジ式の知覚兵装を開発できそうです』
『練力消費のない、知覚系ライフルか‥‥嬉しい、な。生身用は‥‥隠蔽性の高い、小さい銃が、欲しいかも。潜入なんかにも、使えるような‥‥』
『能力者用の小型化は難しいですけどね』
桜子の質問に、ミユはSoLCは兵器転用が可能だと応えた。この分なら、ラシードが希望する練力を消費しない知覚系ライフルも近いうちに開発されるかもしれない。
「リカ推奨兵装‥‥形状は折り畳み式の弓とか‥‥」
『やっぱり高分子レーザー以外の使いやすい知覚兵器は欲しいにゃねー‥‥個人的には魔法少女らしいロッドとかあると面白いにゃ〜♪』
『ロットもいいですけど、メイスとか打撃系の武器って少ないですよね。後、斧系の長柄の武器とかもあると良いかも‥‥ナイトフォーゲル用には、軽めの武器にもう少しバリエーションがあると便利ですね。威力よりも弾数と射程を重視して欲しいです』
カナダを横断しながら、一や千佳、春花がナイトフォーゲル用の兵装や能力者用の兵装の案を出し、ミユは逐一ハンディPCへ入力していった。
●北米バグア軍総司令官
「!? 敵影を、確認‥‥種別は、大型ヘルメットワームだけど‥‥通常の、3倍のスピードで‥‥接近中」
『どうやら楽しいフライト、だけでは終わらないようですね‥‥ベルナール様はお下がりになって下さい』
カナダを抜け、大西洋に出ると、アズラエルのレーダーが急速接近する大型ヘルメットワームを捉えた。通常の3倍というスピードに、全員に緊張が走る。ジュリエットがミユ機へ下がるよう指示し、ミユ機は桜子機と共に後方へ下がった。
「名を名乗れーぃ。こちらは晴天大聖アイドル・阿野次のもじ☆」
団体さんではなく、少数機という点からお偉いさんだと鎌を掛けたのもじがオープンチャンネルで声を掛ける。
すると、全機の情報ウィンドウに割り込んで画像が映し出された。大型ヘルメットワームに搭乗しているバグアだろう。
「お、女の人?」
(「何だ‥‥どこかで見た事があるような‥‥?」)
春花が驚く。映ったのは蒼い髪の女性だった。図書館で読書をしているのが似合うような委員長タイプの理知的な女性で、歳は23、4歳くらいだろうか。一は初対面だが、どことなく見覚えがあった。
『初めまして、ミス阿野次。私はアメリカ大陸を担当している、北米バグア軍の総司令官リリア・ベルナールです』
「うわ本当に返事あったよ!? しかも丁寧だ! ヤバ、色々な意味で要注意!!」
ゾディアッククラスのノリ&実力者だとのもじの直感が告げる。
「リリア・ベルナールって‥‥お姉様‥‥」
『ええ‥‥私の実の妹、リリアです』
『久しぶりですね、ミユ。あなたがなかなかこちらに来ないので、今日は私から迎えに来ました』
和奏がミユの方を見ると、彼女は残念そうに頷いた。北米バグア軍総司令官リリア・ベルナールは、ミユの実の妹だった。
ミユは返事の代わりにホーミングミサイルG−01をお見舞いした。彼女が先端を開いてしまったが、どちらにせよ簡単に逃がしてくれる相手ではない。
「実験台に‥‥なってもらおう、かな」
わかなでりしゃすアンジェリカがラージフレアを展開させ、のもじ機が試作型G放電装置にアグレッシブ・フォースを織り交ぜて、一機の試作型G放電装置と共に連射すると、アズラエルが試作型対バグアロックオンキャンセラーを合わせて起動させた。続けて桜子機が127mm2連装ロケット弾ランチャーを、ジュリエット機と春花機がUK−10AAMをばら撒き、リリア機の護衛に付いていた小型ヘルメットワームへ攻撃を集中させる。
小型ヘルメットワームの攻撃は回避できたが、リリア機から放たれた重力子砲が前衛の春花機、のもじ機、千佳機の周囲の重力を歪め、操縦を困難にさせた。
小型ヘルメットワームは強化型とはいえ、続く集中砲火で撃墜したが、ミユ機とアズラエルが交互にロックオンキャンセラーを掛けているにも関わらず、リリア機は重力子砲を着実に当ててきた。
「何か今までの相手とは違うにゃ!?」
しかも、相手はファームライドやステアーといったバグアの新鋭機ではなく、100m級の大型ヘルメットワームだ。本来なら格好の的のはずなのに、千佳機のSESエンハンサーで強化した試作型G放電装置を始め、ハイマニューバを起動させた春花機の3.2cm高分子レーザー砲や、わかなフルパワー・リカVerの速度を活かして死角に回り3.2cm高分子レーザー砲が、ほとんど当たらない。アズラエルや桜子機、のもじ機にジュリエット機が援護射撃で回避路を断っているにも、だ。
『ヘルメットワームの慣性制御を十二分に活かし、減速なしで空中に急停止し、木の葉落としといったマニューバを巧みに使用しています』
「‥‥大型ヘルメットワームでこの動きとは‥‥これが、北米バグア軍総司令官の実力か」
ミユはリリアの動きをある程度見抜いていた。重力子砲の影響で操縦が利かない事もあるが、一は悔しいが、これが実力の差だ。
それはラシードも桜子も和奏も同感で、アズラエルがロックオンキャンセラーを掛けると幻霧発生装置とM−122煙幕装置を起動させる。
「‥‥こんな無茶はやらないのに越した事はないが‥‥俺は男の子!」
『今です、離脱を!』
一機はブーストを起動させて煙幕範囲ギリギリからリリア機の横に回り込み、SESエンハンサーで強化したM−12帯電粒子加速砲を加える。
春花の合図で残る全機がブーストを吹かし、戦線を離脱する。
『さいまみえん迄、貴殿の航海の無事を祈る』
「次会ったらおぼえてろよ〜」とお約束の捨て台詞の意味を込めて、のもじがリリア機へ通信を入れていた。
殿を務めた一機はリリア機のフォトン砲の直撃を受けて中破したものの、奇跡的にブーストは起動し続けており、何とかジュリエット機達と合流した。
「バグアの技術が優れていると分かっていながら、何故、私の手を取ってくれないのです‥‥また迎えに行きますから」
その後、北米バグア軍の追撃は特に無く、ミユをゴット・ホープへ送り届け、彼女は無事にカンパネラ学園の入学式に参列したのだった。