タイトル:南米へ遅い正月を届けにマスター:菊池五郎

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/16 17:50

●オープニング本文


 南アメリカのアマゾン川流域に広がる、広大なジャングル。ここでもUPC(国際平和維持組織)とバグアは戦いを繰り広げている。
 ただ、他の競合地域と異なり、不整地の多いジャングルを戦いの舞台としている為、はっきりとしたUPC軍とバグアとの勢力の境界線が引かれていないという事だ。
 加えてUPC軍の中には、バグアの勢力の中に孤立してしまった部隊も少なくない。そういった部隊は満足な補給が受けられないので、バグアに対してゲリラ戦で対抗していた。
 故にアマゾンの戦線は泥沼状態の直中にあった。


「はぁ‥‥」
 その少女は撃ち終え、熱を帯びているハンドガンのバレル(銃身)に赤い髪の毛を巻き付けながら溜息を付いた。
 縦ロールは彼女のチャームポイントであり、電気が貴重なジャングルでも縦ロールを維持する為に、カールドライヤーやカールアイロンを使うのではなく、バグアとの戦いで使用し、熱を帯びたバレルで巻く方法を思い付いていた。
 そのツインドリル故、能力者に“ドリルちゃん”というあだ名を付けられてしまっている。
「理恵、ピラニア、焼けたよ」
「はぁ‥‥あ、アミー隊長」
 そこへウェーブ掛かった蒼い髪の女性が、串焼きにした焼きピラニアを持ってやってきた。
 蒼い女性の名前はアミー・ライナ。この傭兵部隊を預かる大尉だ。また、ドリルちゃんこと縦ロールの少女は高槻理恵というビーストマンだ。
 理恵の所属するこの傭兵部隊には、下は15歳、上は25歳前後の少女や女性の『能力者』しかいなかった。
 しかし、最初から女性だけで構成された部隊ではない。バグアの攻撃を受けて原隊が散り散りになってしまい、残された女性達が集結して再編成されたのだ。
 その編成故、ギリシア神話に登場する女性だけの部族。また、南アメリカのアマゾン川流域にも女性のみの部族がいたという伝説がある事から、理恵達の傭兵部隊は何時しかUPC軍から“ラスト・アマゾネス”と呼称されるようになっていた。
「理恵、さっきから何溜息付いてるの?」
「ありがとうございます‥‥クリスマスもお正月も、日本で友達と祝えなかったな、と思いまして‥‥」
 理恵は焼きピラニアを受け取ると、一口二口含み、食してから溜息の理由をおもむろに切り出した。
 南アメリカ戦線を担当するUPC南中央軍からコンバット・レーションが支給されるが、長期間補給が受けられないこの戦線では、どうしても不足しがちになり、現地調達にならざるを得ない。
 目の前を流れるアマゾン川に棲むピラニアはたんぱく質が豊富で、地元の人は食用としているし。動物種のバグアは元が動物の所為か、多少筋張っているものの美味しく戴けるし。アマゾンは天然自然の恵みに溢れているので食べる事には困らなかった。
 能力者とはいえ、理恵はラスト・アマゾネスの最年少、15歳の少女だ。去年の今頃は、まだ理恵も友達と日本でクリスマスやお正月を祝っていた。
 それが今年は、南アメリカ戦線に派遣されたばかりに、アマゾンでクリスマスや新年を迎える事となった。
 クリスマスやお正月を楽しみたい年頃でもある。それは分かる。
「もちろん、摩利お姉様達と一緒にクリスマスや新年を迎えられた事は嬉しいですけど‥‥」
 理恵の言う“お姉様達”とは、他のラスト・アマゾネスのメンバーの事だ。
「だけどここの戦線は、あたし達で保たせているようなものだから、正直、後退できないのよね」
 アミーはネットを掛けてカムフラージュしてある、左腕が大破したR−01の上半身にS−01の下半身を無理矢理付けたナイトフォーゲルを見上げた。理恵の愛機で、彼女は“ティリーナ”というTACネームを持っている。
 こんなナイトフォーゲルですら戦線の維持に駆り出されているように、南アメリカ戦線の各部隊の補給は芳しくない。
 だが、バグアの攻撃もさほど激しくなく、ラスト・アマゾネスだけでもこの辺り一帯の戦線を維持出来ている事から、おそらく後退やメンバーのラスト・ポープへの帰還は望めない。
「‥‥届いてから言うつもりだったけど、実は理恵達にクリスマスプレゼントがあるんだ。もうお正月になってしまったから、日本で言うお年玉になってしまうけどね」
 アミーは微苦笑した。彼女はUPC軍の大尉であり、ある程度UPC南中央軍へ意見する事が出来た。お陰でラスト・アマゾネスは、彼女が合流する前の倍以上の補給を受けている。
「バイパーっていう新型ナイトフォーゲルを、1機だけだけど回してもらえる事になったの。他にもお餅搗きっていうの? そういうお正月のイベントも出来るように手配しておいたよ」
「アミーお姉様‥‥ありがとうございます!」
 理恵は焼きピラニアを取り落とし、思わずアミーに抱き付いていた。
 南アメリカ戦線の各部隊は孤独な戦いを強いられている。その溜まるストレスは尋常ではないが、合流してさほど経っていないとはいえ、アミーは理恵達隊員の事をちゃんと考えてくれていた。
 理恵にはそれが嬉しかったのだ。


 UPC軍もナイトフォーゲルF−104を調達し、武器や防具、弾薬といった消耗品と一緒にコンテナに梱包して、ラスト・アマゾネスへ送る準備を終えていた。
 今回はコンテナが8m四方になる事から、普段は一所に定着しないラスト・アマゾネスにも合流地点を伝え、そこで引き渡す事になっている。
 ただ、これだけ大きいと、カムフラージュするのは難しい。しかも、ジャングルには1m近い巨大なピラニアや鉄板すら貫く大型の犬歯を持つ虎サーベルタイガーなど、ジャングルに適合したキメラの目撃情報が報告されている。
 そこでUPC軍は、F−104を守り、送り届ける有志を能力者の中から募る事にした。


 戦線の維持とラスト・アマゾネス達の士気向上の為にも、それらを乗り越え、ラスト・アマゾネスへF−104を届けてくれる有志を待っている。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
ブラッディ・ハウンド(ga0089
20歳・♀・GP
天上院・ロンド(ga0185
20歳・♂・SN
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
オルランド・イブラヒム(ga2438
34歳・♂・JG
西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM

●リプレイ本文


●福袋
「久しぶりの再会だけどぉ‥‥ドリルちゃん達ぃ、元気でやってるようだねぇ」
 グラップラーのブラッディ・ハウンド(ga0089)は、UPC本部の受付にあるモニターに表示された、“ラスト・アマゾネス”への補給物資輸送依頼の概要を見ながら、ニヤリとほくそ笑む。
「にゃにゃ? ブラッディお姉ちゃんは、ラスト・アマゾネスのお姉ちゃん達と知り合いかにゃ?」
「前に今回と同じようにぃ、差し入れを届けた事があってねぇ。その時会ったドリルちゃんがまた傑作でさぁ」
 ブラッディの様子を見たビーストマンの西村・千佳(ga4714)が聞いてくる。フリフリなファンシードレスを着て、猫のヘアバンドと猫のベルトを付けているが、今、ネコミミと尻尾が感情の高ぶりに合わせて動いたのは気のせいだったかもしれない。
 ブラッディは去年、ラスト・アマゾネスと会った時の事を、千佳に身振り手振りを交えて話して聞かせた。中でも、高槻理恵というビーストマンの少女は、赤く染めた髪の毛を縦ロールにしており、ブラッディは“ドリルちゃん”と名付けていたく気に入っている様子だ。
「南米の戦線を維持する、女性だけの部隊か‥‥」
「噂のアマゾネス隊かー。実に興味深いねェー。それに、アマゾンに自然のまま生息する、貴重な動植物を間近に見られるのも嬉しい事だよー。色々なデータを取っておきたいねェー。科学的な考証の為には、欠くべからざる事だからねェー」
「ラスト・アマゾネス‥‥噂はよく耳にします。アマゾンの戦線の一端は、彼女らの活躍によって維持されているとか‥‥依頼が成功した暁には、武勇伝などを聞いてみたいですね」
 スナイパーのオルランド・イブラヒム(ga2438)は感慨深く呟いた。自身が住んでいるブラジルの防衛の一端を担っている小隊だ、気にならないといえば嘘になる。
 彼の呟きを耳にしたサイエンティストの獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)は、愛用の伊達眼鏡のフレームを中指で押し、直した。彼女もラスト・アマゾネスに興味を抱いていた。もっとも、獄門の興味は多岐に渡り、ラスト・アマゾネスだけではなく、アマゾンの自然そのものも含まれる。
 アマゾンの戦線は泥沼化しており、その情報はリアルタイムとまではいかないまでも、定期的にUPC本部に入ってきている。天上院・ロンド(ga0185)はラスト・アマゾネスの名前を何度か目にしており、一度、彼女達と会ってみたいと思っていた。
 今回の依頼を担当するULTのオペレーター、リネーア・ベリィルンド(gz0006)より、ビーストマンの勇姫 凛(ga5063)へ物資のリストが手渡される。
「みんなに夢を届ける事も凛の仕事だから、ラスト・アマゾネスに少し遅いお正月を届けるよ」
「今回はアマゾネスへのお年玉が優先だね。キメラへの鉛弾はまたの機会にしておくか‥‥ん? ヴァステル、どうしたんだ?」
「‥‥バイパーと補給物資を入れたとしても、コンテナに余剰ができると思って‥‥」
 グラップラーの御山・アキラ(ga0532)は、グラップラーのロッテ・ヴァステル(ga0066)が、凛の持つリストを横から頻りに確認し、何かぶつぶつと呟いているのに気付いた。
「‥‥餅米や、餅を搗く杵や臼はあるけど‥‥正月というと、以前、日本で『福袋』というイベントを見たわ‥‥袋の中に色々な品が入っていて、開けてみるまで分からないというイベントのようだったけど‥‥老若男女問わず福袋に群がっていて、賑やかな雰囲気だったのを覚えているの‥‥どうかしら、私達も福袋を作って、お年玉としてラスト・アマゾネスにあげるのは‥‥?」
「福袋か‥‥いいんじゃない。ラスト・アマゾネスは女の子達だから、アマゾンであまり手に入らない、普通の飲み物とか好まれそうだな」
「うん、凛も面白いアイデアだと思う」
「獄門も異論はないねェー。どうにも実用品ばっかりで、色気に欠けるのは申し訳ないけどー」
「俺ぇはハムを入れよっかな。美味しいよぉ?」
「よーし、僕は実用性を兼ねて、セーラー服とジャージ、手錠を提供するにゃ」
「手錠のどこが実用性を兼ねているのかは、この際不問としますが、気持ちを込めれば喜んで戴けるでしょう」
 ロッテが福袋を提案するとアキラも賛同し、熊手やら紅茶やらコーヒーを提供した。凛や獄門、ブラッディに千佳にロンドも賛成して、次々とアイテムを持ち寄った。
 ロッテの福袋の認識がどこかずれていたり、千佳の台詞が実は問題発言だったりするのは、ロンドが突っ込まなかったように、この際気にしない方がいいかも知れない。
「リネーア、これだけ用意してもらえないか? 後、任務中に飲酒はよろしくないが、正月の雰囲気を盛り上げる為にも、屠蘇として日本酒が欲しいのだが。屠蘇散(とそさん)が手に入るなら、尚良いが‥‥ラスト・ホープでは難しいか」
「そうね、日本酒や屠蘇器(とそき)はショッピングモールで買えるけど、屠蘇散は探さなければならないから、すぐには無理ね」
 ロッテとロンドが中心になり、手分けして福袋にアイテムを詰めている間、オルランドはリネーアに、アマゾンで調理するのに必要と思われるカセットコンロや鍋、小さいポリタンク1個分のミネラルウォーターの調達を頼んだ。合わせて日本酒も頼むが、流石に屠蘇散までは難しいと応えられる。
 また、アキラは人参や大根といった野菜や、味噌や出汁といった調味料の買い出しも頼んでいた。
「お、てめぇはイケる口かい? 正月なんだしぃ、ワインとぉか一緒に飲みたいねぇ!」
「いや、飲酒は儀式的な物であり、口を湿らせる程度に留めるべきだろう。もちろん、私が最後まで監督するが」
「全員が酔い潰れるのは拙いけど、イブラヒムさんが素面(しらふ)なら問題ないわ」
 ブラッディはワインを飲む気満々だが、オルランドは依頼中の飲酒という事で、自らは素面でいようと律していた。それならリネーアも異論はない。

 福袋の用意も終わると、千佳達は高速移動艇に乗り込み、アマゾン川河口へと飛んだ。


●擬装
 凛達が高速移動艇から降りると、既に貨物船の準備は整っていた。千佳達同様、高速移動艇で運ばれてきた補給物資を満載したコンテナが貨物船へ搭載される。
「しかし‥‥この大きさだと、バグアに見付からないようにするのは無理じゃないか?」
「‥‥そうね。隠せないなら、いっそキメラに擬装した方がいいかも知れないわね‥‥」
「コンテナの大きさが大きさなので、まず発見されるとは思いますが、気休めでもやり過ごせればそれに越した事はありませんね」
「敵に『見られる』事を前提とした、ある意味、大胆な作戦だねェー。でも面白いから獄門は乗ったよ。川を遡上してもおかしくない種類だと‥‥魚型のキメラかなー?」
 凛の一言から、ロッテが船をキメラに擬装する案を思い付くと、ロンドと獄門が乗ってきた。
 ロッテ達は各々が今まで戦ったキメラの記憶を頼りに、貨物船が大型の魚型キメラに見えるように、あり合わせの布や板、そこら辺に生えている植物を使って擬装を施した。船底に苔や蔓を絡ませ、抜かりはない。
「ぷはっ‥‥これで良いわ」
「遅めのお正月、なんとしても届けるにゃ!」
「「「「「「おー!」」」」」」
 千佳が出発の音頭を採り、貨物船はアマゾン川を遡上し始める。
 凛達は擬装した色に合わせたシートで身体を包み、自分達の姿もカムフラージュしながら、双眼鏡を使って交代で周囲の警戒に当たった。
 獄門と“自然大好き娘”ロッテは、自分達の見張り番でない時は、休む間も惜しんでアマゾンの自然を観察した。
「このままやり過ごせればいいが‥‥そうもいかないようだな」
「コンテナが壊されちゃったぁら意味ないしねぇ。ヤリますかぁ」
 普通の動物であれば、貨物船ほどの大きな相手を襲う事はまず無い。
 しかし、アキラは対岸にサーベルタイガーの姿を見付けると、操船するロッテに河の中央を航行するよう伝えた。これなら川岸から跳躍したとしても、貨物船まで届く事はない。
 ところが、今度はブラッディが川面に巨大な魚影を見付けた。彼女はコンポジットボウに矢を番えて射る。相手は河の中なので命中は期待していないが、少なくとも牽制にはなるはずだ。
「大事な『お年玉』だからね‥‥傷をつけないようにしないと」
 ロッテが操船に専念する中、オルランドとロンドは超機械一号を構える。
「スクリューを破壊されては、元も子も無いからな」
「ええ。しかし、銃器ばかり扱っていたので、超機械を使うのは初めてなんです‥‥でも、どんな武器も使いこなしてこそ能力者。甘えは許されない‥‥狙い撃つ! もとい、射抜く!」
 超機械一号から発せられる電磁波を受け、体長が1mを越えるピラニアが数匹、ぷかぷかと川面に浮かび上がった。
「荷物には指一本振れさせない‥‥貫けランス、凛の想いを穂先に込めて!」
 千佳の長弓「鬼灯」の援護射撃を受けた凛が、ランス「エクスプロード」から真音獣斬を迸らせる。
 弾頭矢を射終えたアキラは氷雨へ持ち替え、疾風脚で船体へ取り付くピラニア・キメラを斬り付けてゆく。ブラッディもファングへ持ち替え、彼女の傍らで、先手必勝と瞬即撃を使い分けて応戦するも、如何せん数が多すぎた。
 その時、対岸から耳を劈(つんざ)く轟音が響き渡り、川面に無数の水柱が上がる。
 見ればR−01の上半身にS−01の下半身を付けた不格好なナイトフォーゲルが、右腕のガトリング砲を斉射していた。
「あれはぁ‥‥ドリルちゃぁん!?」
 ブラッディはコックピットに理恵の姿を視認した。そう、彼女達はラスト・アマゾネスとの合流地点まで辿り着いていたのだ。
 ラスト・アマゾネスも加わり、ピラニア・キメラ達は全滅した。


●正月
「ボナネー‥‥ちょっと遅いけど」
 貨物船の甲板で、ラスト・アマゾネスの隊長アミー・ライナに無表情に敬礼し、フランス語で新年の挨拶をするロッテ。
「よく私達の擬装が分かったな」
「キメラは基本的に同士討ちはしないからね」
 握手を交わしながら、アキラの問いに答えるアミー。続けてロンド、オルランドと挨拶を交わしてゆく。
「にゃ、ラスト・アマゾネスの人達、綺麗な人が多いにゃ〜♪ にゅ‥‥でも何人かはどこかで会った事とあるような気がー‥‥気のせいかにゃ?? まぁ、それはさておき‥‥ラスト・アマゾネスのお姉ちゃんの抱き心地‥‥抱かれ心地を調べないとにゃ」
「お久しぶりー♪」
「ブラッディさんもお元気そうで‥‥って、みんなが見てますよ!?」
 ラスト・アマゾネスのメンバー達の顔触れに、どこか既視感(デジャブ)を覚える千佳。理恵がビーストマンで、覚醒すると蝙蝠の羽が生えて悪魔に見えるからだろうか?
 その所為でブラッディより一拍出遅れてしまい、彼女は理恵と抱擁を交わす。
「高槻君ー、獄門の事はプロフェッサー‥‥いや、プロデューサーと呼んでくれたまェー」
「プロデューサー? 分かったわ‥‥うっうー、プロデューサー、ここまでお疲れさまです。ハイタッーチ」
「おぉ、高槻君ー、ノリノリだねェー。ハイタッチと言われたら、これをやるのがお約束だよー。πタッーチ」
「ふ、2人して何やってるんだ!?」
 獄門と理恵のハイタッチ&πタッチな遣り取りに、凛は思わず目を丸くする。おそらく、バグアではない宇宙意思のデムパでも受信したのだろう。
「そうそう、高槻君やライナ君の他の隊員の自己紹介もして貰えるのかなー?」
 獄門の提案で、ラスト・アマゾネスの隊員達も自己紹介してゆく。流石にロンドやオルランドがいるので、3サイズまでは聞けなかったが、年齢や戦闘スタイルは知る事が出来た。

 理恵が梱包を解かれたバイパーを操縦し、荷物を貨物船から降ろした。ラスト・アマゾネスに配備されている唯一のナイトフォーゲルは、左腕がないからだ。
「私は正月に楽をさせてもらった。今度は君達が楽をしなさい。故郷の事だ。これでも感謝しているのだよ」
 オルランドを始め、ロンド達男性陣が荷物を持ち、ラスト・アマゾネスの現在のキャンプ地へ運んでゆく。
「やっぱり正月には着物だにゃ♪ どうにゃ? これ着てみるのにゃ♪」
 お餅搗きをするのに際し、お正月の雰囲気を出そうと、千佳はラスト・アマゾネスの隊員達へ着物を薦めたが、何時、キメラが襲ってくるか分からない事もあり、残念ながら着られる事はなかった。
 ロンド達はお餅搗きを楽しんだが‥‥不慣れな手付きで杵を握るロッテは無表情なのが、お餅を返す側に回った千佳には却って恐かったり。
 その間、アキラは里芋、人参、大根を具に、味噌ベースの京風雑煮を作った。
 具は多めに用意したので、余った分は千佳へ回した。彼女は醤油をベースに、シンプルな雑煮に仕上げた。
「料理はあまり得意じゃないけど、これくらいなら出来るにゃー」
「アキラさんのお雑煮はよく出汁が出ていますし、千佳さんのお雑煮はシンプルな味わいで美味しいですよ」
 お雑煮大好きなロンドがそう感想を漏らす。ラスト・アマゾネスの隊員達も美味しそうに食べている。
「知識は受け売りだ。友人が古い家の出身で詳しかったのだ‥‥しばらくはこの堅苦しいやり方がスタンダードだと思っていたぞ」
 摩利を始め、飲酒できるラスト・アマゾネスの隊員達に屠蘇散を勧めるオルランド。当然、ブラッディも混ざる。
「凛から、みんなの今年1年の幸せを祈って‥‥」
 屠蘇散の肴に、凛が獅子舞を披露した。しかし、愛用のローラーブレードは健在で、途中バク宙を盛り込んだりと、ほとんど新春隠し芸のノリだった。また、恒例の頭を甘噛みして回る際、理恵のツインドリルを噛んでみたくなり、思わず本当に噛んでしまったハプニングもあったが。
 ロッテの提案した福袋は好評で、先にアキラが言ったように、紅茶やみかんといったアマゾンでは手に入りにくい品が特に喜ばれた。
「‥‥べっ、別に凛は、わざわざお菓子作りの特訓なんて、してないんだからな」
 福袋の中には、凛が依頼で手に入れた南瓜を使って自作したお菓子も入っていた。彼が獅子舞を舞う際、ガントレットを外した指は絆創膏だらけだった。
「お古で悪いけど‥‥使って頂戴‥‥」
 当たり券を引いた摩利に、エリシオンを進呈するロッテ。彼女はお礼に唇を奪われたとか。
「ドリルちゃんには特別にメイクセットをプレゼントー♪ ほら、折角可愛いんだぁし、15歳ぐらいなぁらメイク関係にも興味あるかなぁって‥‥」
 ブラッディからメイクセットを受け取り、俯きながらお礼に首に掛けていたロザリオを渡す理恵。照れ隠しからか、顔を見られたくないようだ。

「本部への報告や補給要請があれば間違いなく届けるんだよー」
 獄門に言われ、アミーはもう少しナイトフォーゲルを回して欲しいと告げた。
「んじゃ‥‥また遊ぼうねぇ?」
 ラスト・アマゾネスの隊員達に見送られ、ブラッディ達はアマゾンを後にした。