●リプレイ本文
●準備時間。
A班は、天野 天魔(
gc4365)、ヘイル(
gc4085)、鯨井レム(
gb2666)。
B班は、常世・阿頼耶(
gb2835)、功刀 元(
gc2818)、終夜・無月(
ga3084)。
2班に分かれた6名の参加者たち。試験関係者から、それぞれ申請した道具を受け取る。レムは救助対象が動けない場合に備えてレスキュー用ハーネスを申請してあったが、専門用具は貸出不可のため代品として軽量で丈夫な背負子が貸し出された。その横では元が簡易縄梯子と、ヘイルのロープを受け取っている。縄梯子を仕舞い、地図を見ているヘイルにロープを渡す。どうも、と受け取ったヘイルは、地図で洞窟の構造と広さを確認していた。同じく地図を見る天魔は遭難者の順路を予測。とりあえずの目的地を決め、天魔は参加者たちに
「最初はこのルートを中心に捜索しないか。A班はここから、B班はこっちから」
と提案。ヘイルがそれに頷き、
「なら、ここを偽情報として敵に流すのはどうだ」
と地図の一点を指差す。敵を混乱させるには有用な方法だ。
「落盤があるって言ってましたからー、大きな音や衝撃が発生するものの扱いには気をつけなきゃいけませんねー」
と参加者らに注意を促すのは元。それに付け加えてレムが腕組みして意見を述べる。
「時間制限はあるが、焦らず進めよう。今回の肝は敵の実戦経験が少ないことだと思う。何をしでかすかわからないから確実に、じっくりいきたいものだ」
また、終夜は活躍を学生たちに譲り自分はフォローに当たるつもりでいた。班を同じくする元に情報端末「月読」を渡し、
「こうすると、暗視機能が使えます‥‥」
自分も同じ物を装備しながら、使い方を説明する。暗視が可能になれば行動の幅が広がることだろう。
「単位取らなきゃ、頑張るぞー!」
ヨシッ!と気合をいれるのは阿頼耶。成績が芳しくないらしく、今回の実技試験で確実に単位を稼ごうと意気込んでいる。大切なのは単位だけじゃない、とはレムの言。
「単位も大事だが、カンパネラ学園生として、実力を教師陣にきちんと示しておかないとな」
そして元もやる気充分だ。
「学生たるもの試験は大切ですよねー。だから頑張って食堂フリーパス貰っちゃいますよー」
‥‥後半が本音の上に、報酬を少々勘違いして別物と思い込んではいるがやる気満々には違いない。 こうして6名の参加者たちの用意が整っていく。
●未知だらけの洞窟
一行は試験会場となる洞窟の前へ到着した。今のところ近くに人影は無い。敵は親バグアの非能力者3名、という今回の試験設定。おさらいしておくと、この試験では参加者に
一、2班に分かれて行動すること。
一、救助対象を負傷させないこと。
一、敵を可能な限り傷つけないこと。
一、2時間以内に対象を救助、その安全を確保すること。
という条件が課されている。2班行動についてはクリア。彼らは、残る3項目をいかにこなして進んでいくのだろうか。
2つの班は、外に敵が居ないと確認して洞窟の中へ。途中で二手に別れ、無線で定時連絡を行いつつ洞窟の中を慎重に進む。ハイドラグーン4名は皆、静穏性の高いAU−KV・PR893「パイドロス」をアーマーとして装備。全員が装備を整えるというシンプルなことだが、それによって極力隠密行動という全体方針がしっかり結実していた。また、基本的には全員が救助も敵の対応も出来るよう、所持品やスキルなどを各自準備。柔軟に対応する作戦だ。
さて、A班の様子。天魔が探査の眼で罠や奇襲、洞窟内の危険などを警戒、レムが無線連絡を担当し、ヘイルが無線情報を地図に落とし込んで進む方向を探る、という布陣で進む。
「ストップ」
天魔が後に続く2人を静止させた。
「そこ、崩れかけで危険だ」
壁を指差す。
「小石や砂が壁から落ちてきている。近々ここは通れなくなると思う」
それを聞いてヘイルは地図にチェックを入れ、レムはその情報を無線でB班に連絡する。
「A班より通路情報。Y字を東へ進んだ先の角が崩れかけていて塞がりそうだ」
無線からは阿頼耶の声が応えた。
『了解。‥‥っと、こちらバイブレーションセンサーに反応っ』
センサーを使ったのはB班の無月。微かな話し声に気付き、様子を探ることにしたのだ。感知結果を、阿頼耶の無線を借りつつ報告する。最初に現在地点を伝えてから、
「数は2と3‥‥北15m先、4m下方に2人‥‥体高がかなり低い‥‥座っているようですね‥‥」
「こっちが救助対象でしょうかねー」
と元が呟く。
「ええ、恐らく‥‥。そして3人組は、少しずつ救助対象に近づいてきてます‥‥この地図では‥‥現在、Y字の西通路20mの地点です‥‥A班、任せます」
『了解した。そこなら回りこんで、救助対象と敵の間に入れるようだ。時間を稼ぐ』
●救助と接敵と
B班は、A班が敵の足止めをしている間に救助へ向かう。通路の途中に穴があり、そこに救助対象がいると思われるのだが‥‥
「わ、待った待った」
小声で2人を止めたのは阿頼耶。穴の周囲に簡単な仕掛けがされている事に気付いたのだ。
「んーと、ここがそうなってて、この線がそっちに繋がっててー?」
「おー、上まで繋がってますねー」
「うえぇ何コレ、陰険!」
暗がりに紛れて足元のワイヤーと杭、ロープ、そして穴の近くの岩が繋がっていた。気付かず穴へ降りようとしてワイヤーを引っ張り杭を抜けば、支えを失った岩が勢い良く穴へ転がり込む、という単純でいやらしい仕掛けである。
「とりあえず、杭をしっかりおさえておけば大丈夫なんだけど、気をつけておかなきゃねぇ」
「先に、救助用具の準備をしましょうか‥‥穴には、俺が降ります‥‥」
「了解ですー。上で警戒と引っ張り上げる手伝いしますー。縄梯子がこれで‥‥あ、救急セット、もう1つ持てますー?」
罠の取り外しと救出が進んでいく。
時は少々遡り、無線で敵の位置を知ったA班。
洞窟の中を少し戻ってもう一本の道から静かに敵の先回りをする。接敵する前に、地図片手に地盤の様子や周囲の広さなどを確認しつつ、ヘイルが無線連絡を入れた。
「1回だけ軽い揺れが伝わるかもしれん。近くに崩落危険箇所等があれば迅速に退避を」
『了解』
バイブレーションセンサーを使って天魔が敵との距離をレムに告げる。しばらくして、レムは無言で合図。ヘイルと天魔が壁の陰に隠れてすばやく防御体勢を取った。タイミングを合わせてレムの手から投じられたのは閃光手榴弾。
音と光の爆発。
「ぐあっ!」
という呻き声が幾つか聞こえた。爆音と光がおさまる頃3人は敵の様子を窺い、まだよろめく敵の進路を塞ぐ。立ち塞がるヘイルに鉛玉が数発見舞われたが、それらは閃光の効果とヘイルの静寂の蒼龍によって肌を掠めることすらないまま土を抉った。当のヘイルは軽く傾げた首をスッと戻すのみで、変わらず道を塞ぎ続けている。そして、そこへ響いたのは天魔の子守唄。天魔の体が三度、淡い光に瞬いた。
ドサ、と倒れこんだ音は3人分。それを確認した天魔はヘイルに声を掛ける。
「‥‥すまんがヘイル、身体検査を頼む。ムサイ男を裸にする趣味は無いのでな」
「言っておくが俺とて無いぞ」
そんな軽口を叩きつつ、ヘイルは子守唄の効果で眠りに落ちた敵の持ち物や武器、防具などを手早く外していく。彼が防寒シートや毛布で簀巻き状態にした3人に、天魔が持参したスブロフ(アルコール濃度99%という代物だ)を一口ずつ流し込む。泥酔状態となり、眠りから覚めてもほとんど意識の無い敵を担ぐA班の面々。歩きながらレムが無線連絡を入れるのだった。
『こちらA班。敵の無力化に成功、安全確保のため移動する』
「了解、こちらもこれから離脱するよっ」
『移動には充分注意を』
「はーい!」
A班から連絡を受けたB班の阿頼耶は元気に返事。向こうの閃光手榴弾による揺れは大したものではなかったが、洞窟全体が振動したであろう音量だったため後が怖い。
「さーて急がないとね!」
「罠より何より崩落が怖いですから‥‥」
頷きながら無月は救出対象の応急手当を素早く進める。水筒に用意した温かいココアと、板チョコを割って配り、心身ともに元気付ける。元が地図や今まで来た道を見て考える。
「急ごうにも、AU−KVのバイク形態で移動するには、足元悪くて使えませんねー。ま、何かあればボクが不抜の黒龍使ってかばいましょうー」
「あとは、A班から情報もらいながら移動しよう。‥‥ところで功刀さんの口調もあの先生の影響なの?」
「いえ、もともとですよ、偶然偶然ー‥‥っとと、この先は危険でした、気をつけましょう」
先行して洞窟を出たA班の情報や周囲の状況を統合しつつ進むB班。しばらくして彼らも無事、救助対象と共に洞窟を離脱することが出来た。
●総評
評価
首席、ヘイル。
次席、鯨井。
三席、天野。
結果を聞きに集まった参加者たち。
「まず謝罪を。追って訂正したが、首席には報酬手続きを誤ってしまい申し訳ない」
そう言って、最初に担当教師は頭を下げた。そしていつもの口調に戻り、
「さて、結果は上位がA班に偏ったがー、採点は個別の内容によるものだー」
と前置きして、続ける。
「3位辺りは競り合っていて決めるのが難しかったがー、その中でより注意深く『非能力者への配慮』をしていたという点で天野を選んだー。そうそう、地図も助かったぞー。それからやはり1位と2位も悩んだなー。今回は、条件を全て押さえた上で更に別の面まで気を配ったヘイルが首席だー。おめでとうー」
教師は手元の資料をめくり、
「全員、真面目に取り組んでくれたようだなー。上位3名に入った者も入らなかった者もー、それぞれ工夫や挑戦があって良かったー。加点に繋がったものも多々あったぞー。とはいえ、状況によって推奨できんことも起こり得るのを忘れんようにー。大事なのは己の強さ弱さをよくよく知ることだー」
として今回の試験の総評としたのだった。