タイトル:【協奏】夜想曲2.撃破マスター:菊ノ小唄

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/28 23:58

●オープニング本文



 沖縄本島、最南端。
 ここにはバグア軍の前線基地が置かれていた。規模としてもそれなりのもので、前線基地としては申し分ない。
 と言っても、現在沖縄に存在するバグア。ゼオン・ジハイドの11、風祭・鈴音(gz0344)はトリイ基地。その部下である沖縄3姉妹も同様にそれぞれの拠点を所持している。この前線基地はバグアにとって戦略的価値がそれほど高くない基地となっているわけだ。
「‥‥ですが、我々にとっては違います」
 作戦会議でそう言うのはUPC沖縄軍中尉、ソウジ・グンベ(gz0017)だ。
 人類側には沖縄本島においてこの規模の地上拠点は存在していない。今後本島の3姉妹やジハイドと戦っていくために安定した拠点の存在は必要不可欠であった。
「だが、この規模だ。それなりの防御戦力は敵も置いているのでは?」
「その疑問は尤もです。ただ、それに関してはこちらの資料を参照して頂きたく」
 それは、基地に送り込んだ工作員からの報告書。これによると、基地内に存在しているバグアは、強化人間を含めてもそれほど多くないということだ。ならばこの規模の基地をどうやって円滑に機能させているのか疑問が生まれるが、それに関しても報告書に記載されている。
「‥‥なるほど。基地の運用は民間人を使っているわけか」
 バグアは、民間人の親類などを多数人質として、その身の保証と引き換えに労働を強いているという事だ。だが、これはある意味こちらがつけ入れる強みでもある。
「つまり、です。この基地に存在している少数のバグアを排除すれば、基地機能をそのままいただくことも不可能ではないということです」
 今回の作戦では、基地内に数名の能力者を送り込み、基地指揮官始めバグア軍の掃討を行う。この間人質に危害を加えられるとまずいので、別働隊が同時に人質を救助する、と。そういう流れだ。
 侵入には手漕ぎボートを使用。この際水中戦部隊が陽動の為に戦闘を行う手はずになっている。
「そして最終的には空挺部隊を投入し、基地を完全に掌握する、と」
「よし、聞いた通りだ。各自作戦準備にかかれ!」
 作戦の決行は深夜。故に名づけられた作戦名は「ノクターン(夜想曲)」
 オペレーション「ノクターン」はこうして静かに動き出した。

●舞台裏
「軍の犬が来たか」
 双眼鏡で潜入の様子を窺うラルフ・ランドルフ(gz0123)は、少しは楽しめそうだと口端を持ち上げる。
 傍らにいる開放感ある赤いワンピース姿の女性は「面白いことになりそうだねー」と元気良く高笑い。
「楽しそうだな、ハルハナ」
 ハルハナと呼ばれた女性は十分な戦力になるとラルフに拾われ、彼を通じて鈴音の部下になった強化人間であり、この前線基地を任されている指揮官だ。
 快活な表情の裏には、3姉妹に勝るとも劣らない非道さを秘めている。
「ラルフさん、ここに来るお邪魔虫はアタシに任せて!」
 拾われた恩を返すチャンスが来た。ハルハナはワンピースの下に忍ばせた拳銃を確認し、どう相手してあげようと考える。
「頼もしいな。わかった、ここは貴様に任せる」
 彼女の戦力を知るラルフは、自分が出る幕は無いと早々に基地を立ち去った。

●表舞台
「何やってんの?」
 ある日の基地、最奥部に近い一角にて。一段高い場所から身を乗り出し、作業員の手元を覗き込んでいるのは、真っ赤なワンピース姿の若い女性。ハルハナだ。
「!! な、何故こちらに、ハルハナ殿」
「自分の基地ん中歩いてちゃいけないわけー? で、何やってんの」
 クルッ、シュタッ、と身軽に下の作業員の正面に着地。一瞬にして至近距離まで接近し、快活な言葉の最後で、明るい笑顔を作業員の鼻先まで寄せた。しかしこの強化人間の右手に握られていたのは小さな拳銃。いつの間にかその銃口を、肩の辺りに剣の切っ先の如く突きつけられた作業員。
「なに、と‥‥言われ、ましても」
 ここはバグア軍が定める立ち入り禁止区域。そこで見つかってしまいしどろもどろの作業員は、バン!! という音に一瞬茫然。そして熱い激痛に左耳を押さえた。声が漏れる。
「う、あぁああ‥‥!!」
 そんな声にはお構いなしで、ハルハナは、そうだなーと少し考えてから笑顔で言い放った。
「よーし、お前んとこのご家族は今日から5日飯抜きだね!」
「そ、そんな、死んでしまう‥‥!」
 ご家族というのは、彼ら作業員を働かせるために取っている人質のことだ。愕然とし慌てる作業員に高笑いが返された。
「あっはっは! だいじょーぶだいじょーぶ、たかが5日で死にゃしないって! ほら、とっとと仕事に戻りな!」
 作業員は歯を食いしばり、撃たれた右耳から血を流しながら立ち入り禁止区域をよろよろと出て行くのだった。


 UPCより、当依頼参加者には、UPC側工作員による報告書の抜粋が作戦用機密資料として配られた。
 上記のような作業員と指揮官ハルハナのやり取りも聴取した情報の一部として記載、他には基地内作業員から得られるハルハナについての情報のまとめがされている。

『指揮官強化人間のハルハナについて、この基地で働かされている作業員たちは「快活な悪魔」と表現する。彼女が常に4丁の拳銃を携帯しているという話は誰もが知っており、その発砲頻度はおよそ5日に1度、全てが作業員の体を抉っている。
 基本的な居場所は基地の情報が集まる通信室だが、自ら基地の中を巡回していることも少なくない。
 また、そんなハルハナが上司には意外と従順なのも基地の者らはよく知っていた。恩でも有るのか、
「アタシはラルフさんの忠犬、あの人の言いつけなら命張ってもいいね!」
 と作業員らの前でもそう言って憚らない彼女の働きぶりは、とても勤勉、そして非道である。
 また、基地指揮官直近の補佐役としてバグア2名が存在する。バグア2名はラルフ・ランドルフの命令でハルハナの補佐に当たっているらしい。よって、2名はランドルフより下、ハルハナと同程度の力関係にあると推察される。
 ハルハナ、バグア2名、の計3名が基地を統括するバグア軍勢力と言えるであろう』

 当依頼参加者へ通達があった。
「当依頼の目的は、バグア軍基地に潜入し、
 指揮官・ハルハナ及び補佐のバグア2名を撃破することだ。
 能力者ではない民間の作業員らを巻き込まず、また、基地を可能な限り傷つけず、
 可及的速やかに遂行してもらいたい」

●参加者一覧

ラウル・カミーユ(ga7242
25歳・♂・JG
風閂(ga8357
30歳・♂・AA
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
杜若 トガ(gc4987
21歳・♂・HD
エリーゼ・アレクシア(gc8446
14歳・♀・PN

●リプレイ本文

●撃破チーム
 沖縄最南端のバグア軍側基地を、夜陰に乗じて奪取する。
 これがオペレーション「ノクターン」の主目的である。その基地の指揮官を撃破するチームとして集まった傭兵8人。

 クレミア・ストレイカー(gb7450)は今回使う装備やスキルを入念にチェックしていた。
「ヘリオドール、状態良し。補充弾とペイント弾、準備良し。黒耀、状態良し。閃光手榴弾、準備良し。無線機、反応良し。『即射』、『援護射撃』、『豪力発現』、準備良し。‥‥ん、大丈夫そうね。そっちは?」
 と、ロゼア・ヴァラナウト(gb1055)に声を掛けるクレミア。
「はい、問題ありません。‥‥今日は、宜しくお願いします」
 ロゼアも銃の装備確認を素早く終えて、自分と共に通信室へ向かうクレミアとハンフリー(gc3092)、エリーゼ・アレクシア(gc8446)に挨拶した。
「ああ、宜しく」
「用心深く行きましょう。宜しくお願いしますね」

(バグアの前線基地を奪うということは、沖縄戦が本格化するということだな。)
 沖縄が出身地である風閂(ga8357)は故郷を解放すべくここに居た。彼の胸中は穏やかではないが、それ以上に強い故郷への愛を胸に、意気軒昂として作戦に臨む。
 風閂と同じくこの作戦に思いを馳せている者、大神 直人(gb1865)。
(沖縄もやっと動き出したか。うまく奪取して沖縄攻略に勢いを付けたいところだ。)
 また、にやり、と笑みを浮かべて楽しそうな杜若 トガ(gc4987)は呟いた。
「いいねぇ、こーゆー依頼は血が騒ぐ」
 血に酔い、戦いに生を実感する刹那的快楽主義者の横では、超の付くほどマイペースな前向き男、ラウル・カミーユ(ga7242)が愛しの妹とその婚約者のため、未来の義兄として(あと美味しい沖縄料理のためにも)頑張るゾ☆と意気込んでいた。

 彼ら8人は基地の指揮官を討ちに行く。また、別の8人の傭兵たちが、基地に居る人質の救出へ。夜の闇に紛れて静かに素早く潜入開始。

 しばらく進むと、どこかで腹の底に響く爆発音がした。
「なんだ?」
 二手に分かれようとしていた8人は、少し立ち止まって周囲を警戒する。救出班の行った先から聞こえてきたような。基地の中からでもないようだった。
「様子、見に行きますか?」
 面々に問うのは直人。それに答えたのはトガとラウルだ。
「時間を無駄にはしたくねぇな、とっととブッ潰しに行こうぜ」
「うん、向こうを信じて、進んだほうが良いかもネー?」
 そう、この作戦は時間制限のある短い『夜想曲』。それを忘れず進むことにした8人である。

●基地は誰の掌か
 まず通信室を制圧せんと向かったのは、ロゼア、ハンフリー、クレミア、エリーゼ。
 ロゼアとエリーゼは警戒しつつ、通路に設置された監視カメラなどの位置や数を確認。結構な数だとわかり、一刻も早い通信室制圧が重要という結論に至った。
「こちら通信室制圧班。かなりの数の監視カメラがある。制圧を急ぐがそっちも気をつけてくれ」
『了解、そちらも気をつけて下さい』
 ハンフリーが別班に無線連絡を入れ、4人は先を急ぐのだった。

 立ち入り禁止区域に向かった風閂、直人、トガ、ラウルの4人は、その区域の少し手前で作業員の2人組に会った。
「どなた‥‥ですか」
 緊張と警戒の色をあらわにしている作業員たち。風閂が答えた。
「基地奪取のため、指揮官撃破に来た能力者だ。ハルハナが居そうな場所など教えてくれぬか」
 故郷の解放のために。


 さて、通信室のそばまで到着した制圧班。これから突入する旨を別班に伝えた。ドアの前ではなくその両脇でクレミアとハンフリーがタイミングを合わせ、閃光手榴弾のピンを抜く。1、2、3‥‥と数え、息を合わせて通信室へ放り込んだ。
 光と音が炸裂するのと、4人が目を閉じ耳を塞ぐのは同時だった。直後、
「今よ‥‥!」
 クレミアの合図で、ハンフリーを先頭に4人は通信室に突入。目を押さえて座り込んでいる作業員の中で、よろよろと立ち上がった人影がひとつあった。その手には小銃。バグアだ。
 敵は素早く、偶然一番近くに居たロゼアを狙う。
「ここは、客の来る場所ではないぞ!」
 しかしその狙撃はまともに狙えておらず、体を捻ったロゼアを掠めて服の袖を少し裂いただけ。彼女は冷静に、だが力強くSMG「ターミネーター」を構えて弾丸の嵐を見舞い、クレミアもそれに加勢。
「別に、お茶とお菓子でのお出迎えなんて期待してないわよ!」
 バグアは自由が利かず歯噛みする。
「生意気な‥‥ッ」
 直後に突っ込んで行ったのはエリーゼ、続いてハンフリー。艶めく黒刀と、機械剣のレーザーが舞った。バグアはフォースフィールドを張り、閃光手榴弾の影響が薄れるまで耐えようとする。そして小銃からサブマシンガンに持ち替えて反撃した先はハンフリー。鉛玉が彼を襲う。しかし、激痛の中で彼が実行した虚実空間が功を奏したのか、バグアを守っていた強力な赤い盾は力を失ったようだった。
 動きがかすんで見えるほどの速さで斬りかかるエリーゼ、強弾撃を容赦なく叩き込むロゼア、その間隙を縫うように撃ち込むクレミアの援護射撃が畳み掛け、敵の力を削り取っていく。 

 そして、数分間の後に立っていたのはバグアではなく、能力者の4人と、漸く動けるようになった通信室の作業員たちだった。
 通信室、制圧完了。能力者たちは通信室の画面に映る映像や音声に注視。画面のいくつかに、仲間たちの姿を発見、作業員と会話しているのが見える。クレミアはふと見つけた色に目を見開いて、連絡せんと無線を手に取った。

●あの華を討て
「‥‥! でっ、できません」
「何?」
 風閂に指揮官の居場所は?と問われた作業員はしどろもどろになりながら、首を横に振るばかり。重ねて尋ねても答えない。もしかして、と直人が顔を上げた。先ほどの通信室班からの連絡を思い出したのだ。
「監視が厳しいのかもしれない、ここも盗聴されている可能性があるとか?」
 それに対して頷くこともしない‥‥出来ない作業員たちだったが、必死に縋るような目で唇をかみ締めている。横では直人が通信室の仲間から連絡を受けている。ラウルが、作業員たちに笑顔で頷き
「そりゃ仕方無い。じゃ、君たちはどっか安全なとこに隠れてるコト。戦闘になるからネ」
 どーぞお通り下サイ、と腕を広げて指し示そうとした瞬間、何かに気付いてバッと後方に振り向いた。

「おやま、お客さん?」
 片手でくるくると拳銃を1丁玩び、真っ赤なワンピースを翻しながら軽やかに歩いてくる女性が居た。補佐官を1人引き連れているこの基地の指揮官、ハルハナその人である。
「でもねぇ、ここ立ち入り禁止なんだ。別んとこでお茶でもどう?」
「‥‥お前を倒してから、そうさせて貰おう」
 答えたのは、連絡を受けた直後に覚醒し敵を銃撃していた直人だった。彼の紅い瞳が狙った弾丸は、ハルハナが間一髪避けて壁にめり込んでいる。
「つれないなぁ、そんなに殺されたいのかー」
「そーゆーワケじゃーないんだけどネー?」
 赤い女の楽しそうな声に、ダークグレーの男の能天気な声が返された。声だけは能天気だが、彼の小銃「シエルクライン」は強弾撃でハルハナの動きを封じに掛かり、トガが機械拳「クルセイド」を構えて殴りかかる。
 直人は補佐官のバグアに銃撃を浴びせ、それを避けようとした敵の隙を突いて風閂が両断剣を使って斬りこんだ。
「貴様らを倒さねば我が故郷は救われぬ! いざ、参る!」


 通信室制圧班の4人は、少し慌しくなった。
 映像などを確認しつつ、通信室から作業員に通達できることを全て伝えるエリーゼとロゼア。戦闘に加勢すべく支度を整えて通信室を飛び出すクレミアと、自身の傷をある程度癒してからそれに続くハンフリー。
 画面の中で、赤い花が咲き誇っている。一秒でも早く、散らさねばならない。


 ハルハナは強風に舞う花弁か何かのように凄まじい速さでラウルやトガの攻撃をかわし、手数は少ないながらも時に銃撃を返す。しかしそれにも限界はあり。
「イッターっ!?」
 被弾して元気な叫び声を上げつつも、顔はゆがめて後退り。
「今のは効いたか、ああ?」
 にや、と笑うトガ。しっかし‥‥、と続ける。
「この程度の部下が指揮官だってんなら、上のラルフって奴もたかが知れてんだろうなぁ?」
 ブッチン。
「言ってくれるね‥‥後悔するよ」
 ずっと笑顔の絶えなかったハルハナが突然無表情に。補佐官へ「ここ宜しく」と告げ、『消えた』。遠く離れた通路の曲がり角に一瞬姿を現して、また消える(正確には高速で走り去る)のを見た補佐官は
「面倒なことをしてくれた‥‥」
 などとぼやきながら、風閂や直人、そして敵を見失ったトガやラウルに向き直る。
「しばらく私が君たち全員の相手だそうだ、好きに来るが良い」
 既に肩へ傷を負っている補佐官。
「貴様らを倒さねば我が故郷は救われぬ! 好機だ、いざ、参る!」
 風閂の言葉と同時に、バグアに向かっていく能力者たち。激しい交戦が再び繰り広げられ始めた。

 そのさなか、直人の持つ無線機からロゼアの声が。
『通信室班から、ハンフリーさんとクレミアさんがそちらへ向かいました』
 続いて、エリーゼの声。
『ハルハナは、立入禁止区域の最奥にある扉の中に入りました。でもその理由について作業員さんたちは知らないようです』
 無線機を取って返事する余裕など皆無だが、有用な情報に感謝しつつ直人は他の3人に加勢が来ることを知らせた。敵は今、強固なフォースフィールドでダメージの大幅な軽減を図りながら反撃してきている。加勢は嬉しい。そんな中、ラウルは出来るだけこちらの攻撃が途切れぬよう機動力を生かして動く。トガが回復のため一旦下がる素振りを見せた時も、すぐ気付いてその穴を埋める位置へ。
「ありがとよ」
「どーいたしましテー」
 補佐官は赤い盾を使って身のこなしも軽く攻撃に対処。また、狙いやすい前衛の風閂などに弾を集め、的確に戦力を削ろうとする。だが、数と協力は時に計り知れない力となる。
 削り、削られ、血が流れ、壁にはヒビ、床のタイルもあちこち歪む。消耗戦の終わりはどこか。

●刺を持った赤い花
「「おまたせ!」」
 という女性の声が2方向から聞こえた。片方は、ハンフリーを連れたクレミア。そしてもう片方は、小振りの剣を両手にそれぞれ装備したハルハナだ。驚く能力者たち。この基地の指揮官が隠し持っていた戦力とは、速さと命中力とパワーの粋だった。

「さて、痛い目を見たいのは君だったっけね?」
 言うや否や一瞬にしてトガに迫り、防御体勢を取りつつも練成治療を続ける彼に剣を突き込む。
「グ‥‥ッ」
 深手ではないが動きの止まったトガに一閃二閃と斬りかかるハルハナ、耐えるトガだが、
「ラルフとやらはそんなに凄いとは思えないんだがな」
 と、補佐官に銃を向けている直人から言葉の弾丸が飛び込んできた。
「いつぞやは撤退を余儀なくされていたようだし」
 思わず反応し直人に向き直りかけたハルハナ。それをクレミアの弾丸とハンフリーの電磁波が襲うのと、直人、ラウル、風閂がやり合っていた補佐官のバグアが遂に力尽きるのが同時だった。
「UPCのソウジって奴に散々邪魔され続けてきたんだろ、強くも何とも‥‥」
「黙れ!!」
 ハルハナが吼え、今度こそ直人に狙いを定める。
「アタシの前でラルフさんを侮辱するな!!!」
 霞んで見えるほどの速度で赤色が地を奔った。直人の肩と胸の中間辺りに剣が突き刺さる。

 一瞬にして動けなくなった直人を間近に見て満足そうなハルハナの顔の横を、一発の弾丸が走り抜けた。届くのはラウルの声。
「ありゃ、外れ‥‥」
 なぜかハルハナの肩から派手に鮮血が散った。
「‥‥なーんてネ♪」
 跳弾での攻撃というラウルの不意打ちに、ハルハナは、つんのめりながらほんの数瞬混乱。

 そしてそれを風閂が見逃すことは無い。
(ハルハナ、貴様だけは絶対に倒す! この命に代えても!)
 敵の武器が玩具に見えるほど大振りな刀を二振り構える。二段撃を放つ風閂。名刀「国士無双」はハルハナの身軽さに及ばなかった。
 しかし。
 未だ暗い沖縄の海の傍で、実力・謀略・協力が織り成した天照す刃の追撃が赤い花を力強く地に散らすに至ったのである。


●後始末
 戦闘後。動ける者たちは、通信室のロゼアやエリーゼ、基地の構造を他の傭兵たちより把握しているクレミアやハンフリーを中心に、作業員たちの安全と設備の損傷状態を確認する。作業員にも基地の設備にも、大した被害は無いようだ。
 また、囚われていた人質の救出もうまくいったとの連絡が入り、基地全体に深い安堵の空気が流れた。
 傷の深い者たちは手当てを。用意してあった救急セットを使ったり、練成治療を使ったりして動けるまで回復するのを待つ。致命傷を受けた者はおらず、適切な治療と休養で全快できるであろう。

 ‥‥その近くで。
 斃れた指揮官の死に顔を前に、煙をくゆらせる者が居た。
「テメェさんの死はどんなもんだったよ?」

 答えは、沖縄に咲いた真っ赤な一輪の花のみぞ知る。