タイトル:求む、港の解放者。マスター:菊ノ小唄

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/06/09 12:51

●オープニング本文


「おい、そこの柱の影に!!」
「離れろ!! 早く中へ!」
「窓は閉まってるか!?」
「誰か救急箱持ってきてッ!」



 運搬会社の社長・ヨツモトは、通信室からの一報を受けて眉をひそめた。
 支援物資のコンテナを日本の四国へ運ぶ自社船。それが、積荷追加のため立ち寄ろうとしていた漁港から入港を断られたというのだ。正確には「入港させたいが、つい先ほど何処からか湧いて出たキメラの対応に苦慮していて受け入れが出来ない」とのこと。
 支援物資とは別に頼まれた小規模な仕事ではある。しかし『荷物を素早く積み込んで確実に目的地へ届ける』‥‥これは自分たち運搬会社にとって一番基本的な仕事。それに、既に多くの仕事が待っている四国に早く到着させなくては、という気持ちもある。

 社長室を出て通信室にやってきたヨツモトが作業員に尋ねる。
「まだキメラ退治の要請は出しとらんのか?」
「社長、もう通信室にデスク置いたらどうです‥‥。えぇ、まだのようです」
「であれば、うちで要請を出そう。『こちらで傭兵を呼ぶ、そちらは被害を最小限に抑えること』、港にそう伝えてくれ」
「わかりました」
 作業員の一人が頷く。
 ヨツモトは別の者に尋ねた。通信内容の分析に長けるその作業員は、いつも素早くわかりやすい情報を提供してくれる。
「向こうの状況がもう少しわかると良いんだが」
「自爆するカニが、とか、建物の中には入ってこないから、と聞こえました」
「数や大きさなどは」
「毛蟹ほどのサイズで、港の施設のあちこちに現れ、群れてはいない、と。点々と物陰に隠れるように居る感じかと思われますが、20匹は下らないようです」
「爆発や被害の規模は?」
「1匹の爆発で近くの数人が怪我したらしいので、危険なのは半径4〜5mといったところですかね。物が燃えたりしている様子はありませんが、物が壊れたり崩れたり‥‥衝撃波が強いようです」
「ありがとう」
 そう言って通信室を出ようとするヨツモトに作業員が慌てた。
「お忙しいのでは?」
「君のほうが忙しいぞ。今から通信再開し、向こうの様子を更に分析してもらわんといかんからな」
「あはは、そうですね。わかりました」
「では頼む」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
秘色(ga8202
28歳・♀・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
佐東 司(gc8959
25歳・♂・HG

●リプレイ本文



●到着
 駆けつけた能力者は5人。漁港の外で集まり手短に顔合わせを済ませる。
「へヴィガンナーの佐東だ。よろしく頼む」
 今回が能力者としての初仕事となる佐東 司(gc8959)。己の能力を把握し、出来ることを出来る範囲で、と考えている。彼の静かな言葉に挨拶を返したのは最上 憐 (gb0002)だ。挨拶に続けて
「‥‥ん。蟹を。食す為。漁港を。護る為に。頑張るよ」
 と今回の目的を述べる彼女。ちなみに後者の理由は、『漁港を救わないと、回り回って自分の食べる魚介類が減るのでは?』という危惧によるものである。‥‥間違ってはいない。
「自爆型とは‥‥キメラと申せど、命を軽々しゅう扱う輩は好かぬのう」
 じゃからと退治の手を緩める事は無いがの、と言って漁港内の配置を確認しているのは秘色(ga8202)。入手した配置図と港を手早く見比べ、頭に入れる。遠目に見たところ漁港に人影は無く、皆、息を詰めて屋内に隠れている様子。同じように漁港を見ながら、準備に余念の無い秘色に向かって司が言う。
「要するに、爆発するまでに倒せばいい話なんだろう」
「そうじゃな、先手必勝。施設を損じぬよう気をつけながら、となるがのう」
 頷く秘色。その横で、手に魔剣「ティルフィング」 と鬼包丁を提げた終夜・無月(ga3084)が呟く。
「戦闘と言うより料理の時間ですね‥‥」
 そして。
 先見の目で周囲を把握し、高笑いしながらドクター・ウェスト(ga0241)が駆け出した。笑い声と共に、ウェストが得たのと同じ情報がエミタ経由で他の4人にも伝わる。
 それぞれの目的を胸に、能力者たちは漁港に散開した。

●漁港を解放せよ
 まず真っ先に走ったウェストは、近寄るキメラにエネルギーガンを向ける。彼が通った跡には灰になって形すら残らなかった蟹キメラの成れの果てが点々と。ウェストがたどり着いたのは漁港の管理事務所。
「我が輩はドクター・ウェストだ〜」
 その名乗りを聞いた事務所内の者たちが慌しく彼を迎え入れた。
「よく来てくれた!」
「早く閉めるんだ!!」
 ウェストが救急セットを取り出し、
「応急処置を出来る者は居るかね〜」
 と声をかけると何人かが手を上げ、それを受け取る。
「軽傷者は頼んだよ〜。さて、傷が酷い者から来たまえ〜」
 重傷者を一手に引き受け、そのまま治療に取り掛かる。

 ウェストが無事に事務所へ入ったのを見送った司は、ふぅ、と一息。マーシナリーガンを構え直す。自分の役割は支援、前に出ず、他の傭兵たちを援護するのが最重要事項。
 そう、たった今剣を振り上げた無月の後ろに迫る小さなキメラに照準を合わせ‥‥。
 剣の轟音と銃撃音が同時に響いた。
「‥‥俺が背後の敵を片付ける、存分に力を振るってくれ」
「助かります‥‥では遠慮なく‥‥」
 無月が振り向き、短く言って頷く。バイブレーションセンサーの淡い光が無月を包んだかと思えば次の瞬間には何mも先の物陰に居たキメラに剣を振り下ろし、その威力でキメラは四散。
「いけませんね、これでは食材が‥‥」

 秘色は建物から蟹を遠ざけるべく、物音や気配が無いか集中しながら囮として歩き回る。周辺や、見落としがちな頭上にも忘れず気を配り、敢えて襲撃を待つ。
「なかなか厄介な奴らよのう」
 自らキメラをおびき寄せるため目立つ場所に立つ者がもう1人。憐だ。彼女はクーラーボックスを襷掛けにしてその背に担ぎ、遮蔽物の少ない桟橋の上に立ってキメラの出現を待つ。そして現れたのは、3匹。
「‥‥ん。その蟹肉は。頂いた」
 言うや否や、桟橋の端から中ほどまで10m以上を一瞬にして駆け抜け、瞬く間に3匹のキメラを一刀両断。背中のクーラーボックスに戦利品を大事に仕舞った。
 その様子を楽しそうに横目で見ながら秘色は少し広い所に出た。岸壁に近い荷物置き場で普段は何も無い場所だが、今は木箱や台車が散乱している。
 カサリ。
「おっと、此処で爆ぜるは御免じゃよ」
 邪魔な木箱をゴンッ!と蹴って退かし、隠れていたキメラにスマッシュを叩き込んだ。その後ろから近寄るキメラを司が見つけて撃ち抜く。更に司へ寄って来たキメラ4匹を、秘色と無月が切り殺す。
「おや、良い物を持っとるのう?」
「ティルフィングではキメラが消し飛んでしまって使い物にならなかったんですよ‥‥」
「大威力も使い所次第で邪魔者、ということか」
 言葉を交わす3人の所へ、
「‥‥ん。蟹。何匹とれた?」
 クーラーボックスを担いだ憐がやって来た。
「5匹程かのう。ほれ、こいつも箱に」
「残りどれくらいだろう」
 司が言うと、無月がバイブレーションセンサーを使用して調査。
「あと12匹ですね‥‥倒してきます‥‥」
 走り去った無月を見送り、秘色が蛍火を構える。
「行ってしもうたか。やれやれ、あと12‥‥厄介じゃ、取りこぼしの無いようにせねば」
「‥‥ん。早く。蟹料理。食べたいな」
 再度散開する面々。

 一方、ウェストのほうは管理事務所内での治療を既に終え、場所を移していた。次は資材倉庫だ。
「怪我人は居るかね〜」
「能力者の方ですかっ」
「その通り、ドクター・ウェストだ〜」
「治療を頼む!」
 男が扉を開けてウェストを迎える。倉庫の隅で、脚を深く負傷した壮齢の男が呻いていた。
「ふむ、引き受けた〜。他には〜?」
「かすり傷の者が2人居ます」
「あぁ、それならこれで処置すると良い〜」
「外の人たちは大丈夫でしょうか‥‥」
 ツナギ姿の女が不安そうにする。
「ハッ、我が輩の知ったことか〜」
 それよりとっとと応急処置をしてやるがいい〜、とウェストは鼻を鳴らしながら作業を促すのだった。

●戻る活気
 無月のセンサーにキメラが察知されなくなり、キメラ退治が完了した。
「事務所へ報告してくる」
 司がそう言って管理事務所へ。
「では片付けでもしておこうかの」
「‥‥ん。手伝う。随分と。物が。散らばってる」
 秘色と憐があちらこちらに散乱した台車や箱、手袋やビニールシートを拾い集める。爆発で壊れていた水槽の残骸などもあり、これはこれで時間がかかる。
 そうこうしているうち、ウェストが負傷者の治療を終えて倉庫から出てきた。が、特に他の傭兵たちへ言葉をかけるでもなく事務所へ。しばらくして事務所から出てきたウェストの後から、責任者らしき男が出てきて
「もうお帰りに?」
 と声をかけている。
「もっとバグアを倒しに行かなくてはならないからね〜」
 搬入作業は力自慢にやらせると言い残し、ウェストは白衣を翻して一足先に漁港を去った。
 その後、彼に声を掛けていた男が司と共に傭兵たちのところへやってきて、責任者の松本です、と名乗った。
「今日は、本当に‥‥」
 と丁重に礼を述べようとしていたが、司が横から遮る。
「片付けと荷物の運び込みまでは手伝わせてもらう、礼にはまだ早い」
 それに続けて
「‥‥ん。お礼なら。収穫した。魚介類とかを。分けてくれると。私の。やる気が。3倍位。上昇するかも」
 と、ちゃっかり食材をねだるのは憐。顔をほころばせた松本は
「それなら、ある程度都合しますよ」
 と請け合ってから、復旧作業の指示を出しに向かった。

 大勢の者が漁港に散らばり、ある者は片付け、ある者は装置の修理、またある者は船へ荷を運び込む為のチェックを進める。憐と無月は荷物の搬入場所に行き、秘色はクレーン修理の手伝いに。司は壊れた道具の修理や片付けを頼まれた。

「じゃあ荷物の分別を手伝ってくれ」
「‥‥ん。どんどん。運ぶよ。魚介類。食べ放題の。為に。バシバシ。働くよ」
「あっはっは。それじゃぁこれはそっちの山、こいつは奥へ」
「‥‥ん。任せて」
「よろしくな。お? お兄さん、全部まとめていけるのかい?」
「えぇ、問題ないですよ‥‥」
 両手それぞれに荷物を積み上げ、バランスを取りながらすたすたと運んでいく無月。その後ろを、彼の半分ほどの量(‥‥と言っても一般人から見れば少女が運べるとは到底思えない重量だ)を抱えた憐が付いていく。
「‥‥ん。無月。蟹を。調理出来る? 荷物は。私が。運ぶから。調理。お願い」
「そうですね‥‥ではこれを済ませたら作りに行きます‥‥」
 引き受けた、と頷く無月。

「この位置で良いのじゃなー?」
「はーい! じゃ、これお願いしまーす!」
 足場がすぐには用意できず、漁港の者に代わって高所へ登った秘色に向け、投げ上げられたのはクレーンの新しい部品。指示に従いながら交換し、油を差したり動作確認を繰り返し、修理を完了した。

 水槽を稼働させ、使えるか確認していた1人のオバチャンが司を見つけて声をかけた。
「悪いねぇ、こんなことまで手伝わせちゃってー」
「構わない。これが無いと、荷物の搬入や他の仕事にも困るだろうしな」
 台車の修理と整頓をしながら答える司。
 ‥‥ふと顔を上げると、漁港に小さな貨物船が入ってくるところだった。陽は傾きつつある、依頼された時刻にはなんとか間に合ったようだ。

●キメラも時に糧となる
 日暮れ頃、無事、船に荷物を積み終えて一息ついた漁港の面々。
 怪我をして体力を消耗した者、用事がある者などが先に港を離れ、漁港関係者10人程と傭兵4人が残って食事会となった。
 キメラは小さく量はそれ程でもなかったが、グラタン、刺身、焼き蟹、蟹飯などに姿を変えて食卓に並んだ。ある者は驚いて
「うわ、キメラって食えるのか‥‥微妙な気分だ」
 と気色悪そうにしていたが、
「なぁに。酷い目に遭わされたんじゃ、今度はこちらが食いつくしてやろうぞ」
 秘色がにやりと笑んで甲羅に注いだ酒を掲げる。
「では音頭でも取らせて貰おうかの。今日は皆災難じゃったな‥‥疲れを癒そう、乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
 10余名の大きな声が海辺に木霊し、賑やかに食事が始まった。

「かーっ、此の一杯が堪らぬわ」
「おお、姐さん良い飲みっぷり!」
「はっはっは、おぬしも一杯どうじゃ?」
「では有り難く!」

 酒に茶に、出前の蕎麦。蟹に魚に貝に海草。色とりどり。

「よく作りましたねぇこんなに」
「趣味のようなものです‥‥色々な食材の用意、有難うございました‥‥」
「いやいやこちらこそ。では頂きましょうか」

 寿司に刺身に焼き魚。酢の物、白飯、煮付けに揚げ物。潮の香り。

「お嬢ちゃんよく食うなぁ、お代わりは?」
「‥‥ん。いふ。ほーあい」
「おう、それ飲み込んで日本語喋れるようになったらな」

 笑い声に話し声。コソコソ話に昔話。視て聴いて触れて嗅いで味わって。

「よう兄ちゃん、サングラスは取らないのかい? イケメン隠しちゃ勿体無いぞ」
「サングラスの下がイケメンとは限らないだろう」
「あはは。だが今日の兄ちゃんの活躍、格好良かったぜ」
「‥‥ありがとう」

 陽気な漁師たちの拠点で美味し糧を囲む。宴は今日の疲れや日々の憂さ、そして先々の不安を吹き飛ばすように、明るく、騒々しく続くのだった。