●リプレイ本文
●合流
合流地点で既に顔を揃えていた能力者8名のところへ到着したリミン。
新兵に助力をと参加したルーガ・バルハザード(
gc8043)は腕を組み、貫禄ある立ち姿で駆け出し能力者を待ち受ける。あのガキが居るのかよとため息をつきそうな顔なのは杜若 トガ(
gc4987)だ。最上 憐 (
gb0002)が長さ80cm程の武器、旋棍「砕天」を掲げて振っているのを目指してリミンが駆け寄る。
「憐、こんにちはっ」
「‥‥ん。こんにちは。こないだの。乗り物特訓。以来。だね」
憐の横から、智久 百合歌(
ga4980)が微笑みながら話しかける。
「カンパネラからの参加者って、リミンさんだったのね。こんにちは」
「百合歌もこんにちはっ」
そこへ、初めましてと声をかけるのは遠倉 雨音(
gb0338)。知人が複数居るらしいのにも関わらず、リミンの表情は若干固かった。そう気付きながら、雨音は話す。
「今日は緊張するな、と言うほうが無理かもしれませんが‥‥大丈夫。不安になった時は、貴女の事を気にかけてくれている人が近くに居ることを思い出して。ね?」
「そうそう! 大船に乗ったつもりで‥‥いや、大船の乗組員になったつもりで、かな? ‥‥ま、とにかく、気を張らずに楽に行こうって事!」
と続けたのは雨音の戦友、リヒト・ロメリア(
gb3852)。そういえば、と雨音がリヒトに話しかける。
「こうして共に戦うのも久しぶりですね」
「それもそうだね、今日は宜しく!」
「背中は気にせず存分に戦って下さい、リヒトさん」
生真面目で誠実な雨音の言葉はしっかりと、リヒトの明るい声は晴れやかに、新米能力者の心に響いた。
雨音の後ろから、ゆったりと余裕のある声がかかる。ルティス・バルト(
gc7633)だ。
「こんにちは。ルティス・バルトだよ。駆け出し傭兵さん、か。ふふっ、楽しくなりそうだ。宜しくね、リミンさん?」
「よろしく、ルティs‥‥!!?」
握手かと思いきやその手の甲にふわりとキスを落とされて固まるリミンであった。ぼっ、と赤くなっているリミンの肩をルノア・アラバスター(
gb5133)がトントンと叩く。
「大丈夫、ですか?」
「ふぉあ、う、うん! だいじょうぶ! えぇと」
「ルノア、です」
にこっと首を傾けて答える彼女にリミンが我に返って気を取り直す。
「ルノア、今日はよろしくっ」
「ん、頑張りましょうね」
そんなやり取りの向こうで、色気の欠片もねぇ反応、だの、ウブで可愛いじゃないですか、だのと好き勝手言いながらビルの間取り図や軍からの情報を確認している先輩能力者たちであった。
●戦場へ
日本は四国、西部のとある町外れ。例のビルをUPC軍が取り囲み、武器を構え、バリケードを築いている。
AU−KV「リンドヴルム」を纏ったトガが、ビルを前にしてやや俯いて黙り込んでいるリミンに声をかける。
「怖いんだったら誰かの後ろに居るんだな。優しい先輩が守ってくれるだろうぜぇ」
揶揄するような口調に、リミンが目を見開いてパッと顔を上げた。トガは片刃の剣「獅子牡丹」を肩に担ぐように乗せ、ハイドラグーン傭兵、つまりは先達として容赦無い言葉を浴びせる。
「この戦場はお前さんが居なくても問題ねぇ場所だ。なら、お前さんは何のために行くのか」
「私は‥‥」
「テメェのここに在るモン、今のうちに思い出しとけよ」
重装備AU−KV「バハムート」を着込んだリミンの胸元を、握った拳でゴンと叩いたトガはそのまま背を向ける。視線の先には戦場。
そう、そこは己の胸に意思があって初めて乗り込むことを許される場所である。
「それじゃー、行こうか!」
リヒトの声で、他8名も動き出す。その手に剣、或いは銃、また或いは棍を持ち、傭兵たちは少し開けられたバリケードの隙間からビルへと入っていった。
ビルの中は温かみのある淡いクリーム色の壁が続く。人が居らずガランとしているものの照明は明るく、その不自然さが襲撃から間も無いことを示している。そして、人間ではない生き物の気配がうっすらと感じられた。ルノアが探査の眼の発動とバイブレーションセンサーを使って探知を行う。
「‥‥反応した敵影、数は7、です。1階に1体、2階に4体、3階に2体」
残り2体はじっとしていて反応しなかったらしい。捜し出すしかなさそうだ。
突入した9名は、3階から下へと索敵していく4人と、1階から上へと進む5人に分かれる。別れ際、3階へ向かうルーガと憐がリミンに声をかけた。
「どんなベテランでも最初は新兵。恐れることはない、君は、君の成すべき事を成せ」
「うん、がんばる」
「‥‥ん。1人で。無理を。しないこと。困ったら。皆の。フォローを。待つこと。いい?」
「わかった、ちゃんと待つ」
「‥‥ん。大丈夫。皆で。協力すれば。無事に。終わるよ。帰りに。甘いモノでも。食べよう」
「うん!」
そうして2班行動が開始。
3階へ向かったのは、憐、ルーガ、ルティス、トガ。4人は踊り場ごとに立ち止まって周囲を確認、奇襲に警戒しながら3階まで階段を駆け上がる。その途中で襲撃などは無かったが、移動しながらルティスが2階でキメラの気配に気付いた。
「不動産屋のほうに居るみたいだね」
「数は?」
ルーガに短く問われ、
「正確にはわかりかねるけど、群れている様子だったよ」
とルティスは説明。後で下から湧いて来るかもしれない、とメンバーに注意を促した。
ひとまず作戦通り3階に到着し、トガとルーガは図書館分室の入り口付近で待機。憐とルティスが図書室入り口の両脇から中を覗き込み、そっとキメラの影が無いか探す。
ばた、と本が倒れる音。
「!」
しかしキメラの姿は見えない。憐は、持参してみた良い匂いのするサラミを投げ込んでみる。一拍置いて‥‥。
ザッ!
淡い色の巨大なキツネ型キメラが姿を現し、投げ込まれたサラミに駆け寄った。
と同時に突撃する憐とルティス、続いてルーガ。憐の旋棍「砕天」がキメラを殴り飛ばしたが、キメラが咄嗟に体を捻ったため若干ずれて当たり、敵は壁に叩きつけられる。そのドンッ!という音と共に煙が広がった。一気に視界が悪くなり、敵の姿も見失う。
一瞬、室内を静寂が支配した。
視界を遮られた4人は既に対応を始めている。憐は自分の棍の長さから可視距離50cm程度と見当をつけ、防御に徹する。ルティスはバイブレーションセンサーを使用し、敵の位置を調べ、
「殴ったキメラは同じ場所だよ、あと書庫からもう1体! 杜若さん、階段から4体!」
と素早く伝えた。
憐は敵が居るはずの場所めがけて突貫。棍はキメラの喉を抉り、敵は今度こそ息絶えた。
「‥‥ん。死にかけは。倒した」
それを聞いてルーガは書庫の方向へ走った。丁度出てきたキメラと鉢合わせる。
「ここに潜んでいたか‥‥始末してやる!」
刀に紅蓮衝撃の威力を乗せて斬りかかった。二太刀目までは避けられた。が、最後の一太刀が巨大キツネを捉え切り裂く。付け入る隙を与えず、強刃で息の根を止めた。
3階で4人がキメラと遭遇した頃。
1階で索敵していた、リヒト、雨音、ルノア、百合歌、リミンの5人は1階廊下の確認を終え、喫茶店を捜索していた。
店内はテーブルや椅子がずれたり倒れているので少々雑然としている。そんな中を、リヒト、百合歌が前に立って捜索。ルノア、雨音、リミンが後方から全体の警戒。特にリミンは幅を取る装備なので、
「リミンさんは入口付近に陣取って、そこからキメラを狙ってね」
と百合歌に言われ、店の出入り口付近で警戒に当たっていた。
最初にルノアが確認した時はレジのカウンター内に居た様子なのだが、移動したらしく現在は見当たらない。倒れたテーブル、ダストボックスの裏など、物陰に警戒しながら捜索を進める5人。
リミンとルノアは後方から奇襲に警戒し、リヒトは、元から狭い上に物が倒れて余計狭くなっている客席も、その小柄な体格を武器にひとつひとつ丁寧にチェックする。本人は
「‥‥背の小ささが活きるのは、複雑だけど」
とぼやいているが。素早く客席をチェックし終えるもキメラは見つからず、敵は恐らく調理場の中とわかった。
‥‥ちょうどそのとき。
「キメラだーッ!」
「絶対出すな、撃ちかた用意! 斉射!!」
外から軍人たちと思しき声がいくつも上がり、銃声が轟いた。調理室の方向だ。5人は物音のほうへ走る。
キメラはたった1体でも、一般人には容易に死をもたらす脅威である。
最初に到着したのは百合歌。調理室にある裏口が開いている。キメラは扉の所で、バリケードと弾丸の嵐に立ち往生しているはずだが、立ち込める煙で様子が全くわからない。濃い煙幕をなんとか出来ないか、と百合歌は超機械「扇嵐」を振るう。その姿はまるで戦の天使が舞うかのよう。思惑は当たり、煙は半分以上散らされた。視界は少々霞んでいるが、キメラの姿は充分視認できた。
すかさず後方から雨音が狙撃。彼女の弾丸は援護射撃で標的を的確に撃ち抜き、敵を沈黙させるのに次の手を必要とはしなかった。
むしろ必要としていたのは室内。2階からキメラが降りてきたのだ。
雨音たちが駆けつけた時、客席側に居たリミンの前で、リヒトがキメラ1体の攻撃を剣で防ぎ、ルノアがもう1体にペイント弾を撃った後、通常の弾を浴びせていた。ルノアが話す。
「まず落ち着く、それが大事です」
「そう、そして、観察なさい」
百合歌がリミンを追い越しながらリズミカルに付け加えた。リミンはハッと思い出し、竜の瞳を併用しルノアが牽制している敵を見る。後ろへ下がり、確実に当てる一瞬を狙って息を詰め、そしてエネルギーガンのトリガーを引いた。
百合歌とリヒトが1体にトドメをさしたその横で、ルノアとリミンによる蜂の巣の丸焼きが1体出来上がったのだった。
場面は3階に戻る。
図書室入り口に待機していたトガは、2階から上がってきたキメラ4体御一行様と対面。ルティスは室内の敵が居なくなったことを確認し、トガの支援に加わる。
トガは既に交戦中。空いている左腕に一撃噛み付かせたキメラを、機械脚甲「スコル」で下から蹴り飛ばし踏み潰す。剣でキメラの首を刎ねれば次のキメラが今度は2体で飛び掛ってきた。1体は左から、もう1体は返り血に塗れた彼の右側を狙う。しかし右はルティスの弾丸に割って入られ、たたらを踏んだ。そうこうしているうちに戦場は2階へと下がっている。
更に残る1体が参戦しかけたが、階下からの一撃で脚を打ち抜かれて崩れ落ちる。見れば、1階のメンバーが階段とエレベーターに分かれて上がってくる所だった。
図書室の2人も駆けつけ、2階で合流した傭兵たちはこれが最後の3体と知り、総力を挙げて叩き潰しに掛かる。煙幕を吹き飛ばし、援護射撃で誤射を避けつつ支援を行い、超機械や剣がキメラを焼き、断つ。
リミンが呟いた。
「‥‥あっと、いうま‥‥」
●捜索
ビルの中に敵が残っていないことを確認しながら、傭兵たちはもうひとつの仕事、「キメラの侵入経路探し」を開始した。1階の喫茶店裏口が有力だが、それ以外にもある可能性は否めない。
百合歌は防犯カメラを確認しに行き、ルーガはあちらこちらの壁に穴などは無いか丁寧に探す。ルノアと雨音は各所の通風孔を調べ、ルティスは割れた窓や動物らしき毛が見つからないか、探査の眼も駆使して細かくチェック。
憐が、
「‥‥ん。少し。落ち着いた? なら。喫茶店の。厨房探索に。行こう」
とリミンを呼んだ。
「つまみ食いはダメだよー?」
などと言いながら着いていくリミン。あいにく厨房は狭いためリミンは奥まで行けないが、
「‥‥ん。何か。気付いたことが。あれば。言って」
「んーとー、あ。換気扇って、どこに繋がってるの?」
などと話しながら厨房を確認する。
その後、手の空いた者も連れて外の下水道のほうまで捜索へ向かった。そちらにキメラの居た痕跡は無かったが、ごく最近ついたと思われる靴の跡が。軍関係者に尋ねても、この通路を使った者は居ないという。
「最近どうも怪しい動きが多いんですよ」
とは軍人の言葉。ある者は
「強化人間がまぎれこんでるとか、レジスタンスがどこかで捕まったとか聞くし‥‥誰が味方だかわかりゃしねぇ」
とぼやく。
「昔から四国は色々ごたついているが‥‥最近本当に落ち着かなくてな」
そんな話を軍の末端の者たちが零しているのを聞きつつ、捜索を続ける。今回の件は、誰かがキメラを持ち込んだのかもしれないとして軍が調査を引き継ぐことになった。
ビル内の捜索では、キメラがぎりぎり通り抜けられるほどの壁の割れ目を、喫茶店入り口に程近い場所でルーガが発見。大きな観葉植物の鉢が並べて置かれている陰にあたり、隙間に気付く者が居なかったようだ。
「こんな所からぬけぬけと入り込んで居たとはな‥‥!」
怒りに歯軋りせんばかりのルーガ。
「うわ、ここから? 堂々と入ってくるもんだねー」
逆に盲点かも、とリヒト。百合歌が防犯カメラの確認を終えて戻り、侵入経路がここでは、という皆の意見に同意。
「1か所なら、私たちに捜索を頼むまでもなく、ビルの人に聞けばいい話ですしね」
「では、この穴、と、裏口の、2か所が、経路、でしょうか」
通風孔を調べていた雨音とルノアが、互いの服に付いたクモの巣やら綿埃やらを落としあいながら話を纏めた。血みどろでは建物を歩けず、外で血糊を落としていたトガも作業を終えて合流し、彼らの任務は完了となったのであった。
●帰り道
帰りに甘いモノを食べに行こう、と話していた憐がリミンに問う。
「‥‥ん。お疲れ様。初陣は。どうだった?」
「‥‥緊張したよ。私が昔襲われたキメラに、ちょっと似てた」
百合歌とリヒトが、少し神妙な顔になったリミンの肩を軽やかに叩く。
「何はともあれ、まずは第一歩ね。過剰な自信は危険だけど、結果に見合う自信は己の力となるわ。お疲れ様」
「無事に終わって良かったね!」
「うん、ありがとう、百合歌もリヒトも、おつかれさま!」
歩調を合わせる素振りすらなく後ろから追い越していくトガが、
「よう、やりたいことは出来たのかぁ?」
と返事も待たずに問うだけ問うて歩き去った。答えそびれたリミンは、一拍遅れて独り言のように呟く。
「出来たよ、ちゃんと敵を見て戦えた」
協力する仲間がいれば、とても大きなことを成し遂げる力となる。彼らはそれを、行動で証明して見せた。
頼もしく優しい8名が、新米能力者に勇気を与えた‥‥そんな1日があったことを、ここに記録する。