タイトル:【FC】UPC四国基地強襲マスター:菊ノ小唄

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/08/16 14:19

●オープニング本文


「南西より、バグア軍が接近!」
 その一報で、四国、徳島県は北東端のUPC四国基地に緊張が走る。
 高知県市街地にミスターS操るゼダ・アーシュが出現、支援要請を受けてこちらから援軍を送った後‥‥というこのタイミングで、基地を南西から包囲するようにバグア軍が広く展開しているというのだ。

 続けて、慌しく状況が伝えられ始める。
「圧倒的ではありませんが、基地強襲も充分可能な規模で敵は展開中」
「現在4部隊を確認、まだ増える可能性あり」
「1部隊、タロス2機とゴーレム2機による編成が多いようです」
「多数の地走系大型キメラが配された部隊を確認」
「阿南基地からの支援部隊、発進を確認しました」
「淡路島へ送った支援要請が受諾されました」

 そうして第一報から5分ほどが経った。
 通信室の椅子に座るひとりの兵は独りごちる。
「ここの攻略は容易じゃない、ってことぐらい向こうもわかってるだろうに‥‥一体どういう意図だ?」
「ワンサカ伏兵が出てくるとかじゃねーの」
 陽動も有り得るか、いやまさか‥‥と隣の兵もぼそりと呟いたが、後ろから「そこッ!」とどやされて口をつぐむ。
「無駄口叩くな! 戦略分析は余所の仕事だ!!」
「「申し訳ありませんっ」」
 引っ叩かれたかのように背筋を伸ばし作業再開するのだった。
 ここ、四国基地は徳島空港付近に位置し、人類側の拠点・淡路島を背にしている。高知県でのミスターS襲来に際して援軍を送った後とはいえ、大拠点の恩恵を最大限に受けられる場所というわけだ。そんな場所をわざわざ狙ってきた今回の襲撃には、先の2人のような動揺の声も上がった。敵の規模は大きいが、支援を受ければ少なくとも即陥落には成り得ない。とはいえ最大戦力で対応せねばならない規模が迫っているのは事実だ。
 緊張と困惑と騒音の中、更に飛び込んでくる急報があった。
「包囲の中央地点に5つ目の部隊を確認しました!」
「タロス7機、カスタムティターン1機の8機編成です!」
 ‥‥ティターン。
 バグア側の要人が搭乗する、大変強力な人型ワームである。乗り手に合わせて改造まで施されたその怪物が、数キロ先で爪を研いでいた。
 そして乗り手の名が響き渡る。

「搭乗者、榊原アサキと判明!」
 沖縄で暴れていた『3姉妹』の末っ子が、今、四国をも踏み荒らしにやってきた。

 これを緊急事態と判断した四国基地。榊原アサキ(gz0411)のカスタムティターンを迎え撃つため、能力者が呼ばれた。精鋭には精鋭を。大量の戦力を簡単に蹴散らしてしまいかねないあの怪物を、どうか食い止めてほしい。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
瑞浪 時雨(ga5130
21歳・♀・HD
ゲシュペンスト(ga5579
27歳・♂・PN
湊 獅子鷹(gc0233
17歳・♂・AA
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF

●リプレイ本文

●meeting
 緊急事態に対応すべく集まった、能力者8人。
 彼らは敵部隊の突撃を正面から迎え撃つ中央部隊と、回り込んで横腹を穿つ左翼部隊に分かれることにした。

「沖縄方面ではさんざん苦戦されたからな。四国では汚名返上といきたいものだ」
 と話すのは榊 兵衛(ga0388)、『三姉妹』とは幾度も火花を散らしている男。連携を維持し続ける為にも、と自分の動きを全体にしっかり伝える。兵衛は左翼部隊の中でも遊撃的な動き。
「前は任せる‥‥常に後衛から全力で援護する‥‥」
 静かに話すのは瑞浪 時雨(ga5130)、彼女は知覚特化のアンジェリカに乗る。それに頷いたのは『ヴァーガレ・ゴースト』を名乗る、ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)。
「失敗したなぁ、射撃機用意しちゃった。僕もお姉さん共々後衛、弾幕展開。‥‥ところでさ、これって作戦自体は柔軟だけど、それだけ無策ってことだよね」
 そんな少年の言葉を耳にしても、ミリハナク(gc4008)は楽しそうに微笑んでいた。彼女にとってここは一時の遊び場。ミリハナクは、自分のやりたいことをやるために言葉を紡ぐ。
「ふふ、私は中央の後衛からタロスを狙いますわ。基本的に全体フォロー、でもアサキちゃんが突破してきたら止めに行きますわね」
 ミリハナクの横で、ファルル・キーリア(ga4815)が感慨深そうに語る。
「徳島か、懐かしいわね。今回は多少まともな相手だといいんだけど」
 思い出しながら、同じく中央後衛で狙撃と援護射撃を切り替えつつ動くと伝えた。
 中央で前に出るのは、まずハンフリー(gc3092)。
「動きを読まれんような戦闘を心がける。‥‥あと、機槍突撃だが。あれは我々の、蒼の騎兵隊の十八番だ」
 アサキの乗るカスタムティターンから繰り出される、機槍突撃。自分たちの蒼に、バグアの赤が混ざった紫の突撃など、看過できるものではない、と。
 湊 獅子鷹(gc0233)は、少なくとも、自分の住む国に敵が居るのは気に食わないと思ってここに居た。あと、新しく入手した機体で自分の操縦の腕を試したいが相手は強敵。彼の言葉には緊張も混じる。
「俺は中央側で近接戦闘、タロス狙いだ。どうなることやらだが、やるだけやってみるしかねえか」
 と話す獅子鷹。同じ前衛のゲシュペンスト(ga5579)は
「こちらの動きを予測しての強攻である可能性が高い‥‥隠し玉にも警戒しておこう」
 と言って頷く。

 正面、中央に5人。左翼へ3人。
 カスタムティターンとタロスの突撃を阻止せんがため、8人はKVへ搭乗し迎撃に向かった。

●interception
 その轟きが、戦闘開始の合図。
 戦況は目まぐるしく進み、変わる。

 敵の真正面、一番遠く。
(ふふっ、こっちで待っていた甲斐がありましたわね。さあ、遊びましょうアサキちゃん)
 ミリハナクの竜牙弐型『ぎゃおちゃん』が、高分子レーザー砲「ラバグルート」を構える。
 先頭のタロスをロックオン。
 射程内に入ってきた敵に、ラバグルート“溶岩の炎”というバラの名に相応しい超高熱が放たれ。
 レーザーは、まるで鷹が火山弾を運んできたかの如く、先陣を切って正確に獰猛にタロスを焼き捨てた。

 正面のKV5機のうち、前衛にはゲシュペンスト、ハンフリー、湊の2機が立つ。
 ゲシュペンストのスレイヤー『ゲシュペンスト・アイゼン』はライフルと対空機関砲。
 ハンフリーのヴァダーナフはレーザー砲。
 同じくヴァダーナフ『鬼斬丸』に乗る湊はライフルで。
 一斉に弾幕を張り、待ち受ける。

「距離‥‥まだね、もう少し。400、300、200、ファイア!」
 後衛・ファルルの声と共に、一発の榴弾が後方から飛来。敵の前方で炸裂し、陣形を微妙に崩す。
「ルブラブラック参上、とでも言うべきかしら。とにかく迎撃開始、次弾装填! まだまだ打ち込むわよ!」
 彼女のS−01はスキルの併用で敵部隊の先端を狙う。
 ミリハナクや前衛による嵐のような弾幕共々、敵を揺さぶり動きを鈍らせ‥‥。

 遂に速度を落とした敵、その横っ腹。傭兵・左翼部隊の3機の攻撃が、怒涛の勢いで叩き込まれた。
 槍使い、兵衛の雷電『忠勝』の対空砲。
 亡霊が操るリンクス改『エスプローラトーレ・ケットシー』のライフル。
 時雨のアンジェリカ『エレクトラ』の荷電粒子砲。
 タロスで固められた突撃陣形を突き崩すに足る銃撃が、敵部隊を襲う。

 そんな中で兵衛は『忠勝』の性能とブーストを使って、左翼のかなり奥まで進んでいた。
 スラスターライフルで敵部隊の後方を足止め。機槍「千鳥十文字」を構えて更に接近。
 阻止せんとしたタロス1機が反撃に出てきたのを見て、兵衛は呟く。
「一対一か、受けて立とう」
 鎧武者に従う千鳥は三度閃いた。
 残されたのは両肩と胴を抉り抜かれたタロスの残骸。パイロットのバグアは何が起きたか知る前に、容赦無くこの世から消しさせられたのだった。

 すると敵部隊の後方が陣形を変更。左翼からの猛攻に対応し、防壁を厚くする。

 槍使いの急襲を阻みにかかった別のタロス2機。自動攻撃バルカン「ファランクス・アテナイ」がタロスを迎え撃つ。
 そこに時雨機のDR−2荷電粒子砲が向けられた。
「やらせない‥‥」
 激しい燃料消費と引き換えの、凄まじい力が片方のタロスを穿つ。
 続く2発目を僅かに外し、時雨は呟く。
「墜ちて‥‥‥!」
 身をよじった敵機。しかし最後の1発はそのタロスの上体を焼き消し、沈黙させた。

 アンジェリカの横では、リンクス改『エスプローラトーレ・ケットシー』がもう片方のタロスを狙撃している。
「逃げ切れると思わないことだね‥‥」
 テールアンカーも使って放たれたスナイパーライフルLPM−1の弾丸が、敵機の脚部を捉えることに成功。
 動きが鈍るタロスに2発、3発と攻撃を重ね、足止めした。

 正面から熱烈な歓迎を受け。
 左翼部隊から鉛弾をプレゼントされ。
 タロスの半数近くが撃破されて足並みを乱した敵部隊。

 その前方中央に、カスタムティターンの姿が露になった。
 濡れたように真っ赤な機体には、紫のラインのペイントが走る。それはまるで大地を血に染め、縦横無尽に駆け巡る搭乗者の存在を知らしめるかのよう。
 シールドと突撃槍を装備した巨人は、この戦闘中、既に何度か狙われたにも関わらず未だ傷一つ無い。

 しかし毒々しく戦場に立つ敵を目にしても、傭兵たちの士気が下がることは無かった。
 ファルルが言う。
「タロスの壁を引っぺがすなら今のうち。援護は任せて」
 中央の前衛陣にとっては今こそ好機。ハンフリー機と湊機、そしてゲシュペンスト機は、陣形を整えようとしている敵部隊に接近した。まず狙うはティターン両側を固めるタロス2機。ゲシュペンストが、ハンフリーと湊へ通信。
「左翼側は引き受ける、そっちは右を頼む!」

●offense and defense
 了解、と湊機・ハンフリー機は返答と共にブーストをかけ標的に向けて旋回した。
 この2人が乗るのは同じヴァダーナフ。同じ姿のKVに、タロスの攻撃が降りかかる。
「俺が回り込む、挟み撃つぞ」
 湊機はそう伝え、盾で損傷を防ぎつつ、こちらの弾幕も切らさぬよう気を配りながら弧を描くように接近。ハンフリー機はフルオートショットガンで敵の動きを阻害し、湊機の移動補助。
 後衛ファルル機からの射撃がタロスの脚部をかすめ動きが鈍った。その瞬間を見逃さず、ヴァダーナフ2機がタロスに肉薄。
 剣と銃弾と矢を使い分け、敵を撹乱するハンフリー機。
 その隙に敵の背を取り、全力の一撃を叩き込んではブースト離脱、を繰り返す湊機。
 タロスの回復能力は厄介だが、それを上回る勢いで2機はタロスに攻撃を続けた。

 反対側のタロスへ向かったゲシュペンスト機。
 正面・左翼の後衛に支援されて敵機に接近、機杭「白龍」、3連の杭でタロスを襲う。
 片腕をぶち抜かれて隻腕になったタロスと『ゲシュペンスト・アイゼン』の激しい攻防が熾烈を極める。
 しかし、そこを狙う者が居た。カスタムティターン。
 シールドの着いた腕が持ち上がると、盾の影から覗くのはガトリング砲。
「気をつけろ鉄の亡霊! ティターンの砲撃だ!」
 左翼からもう1人の亡霊がゲシュペンストに通信を飛ばす。
 タロスへ更に一撃加えようとしていたゲシュペンスト機は、急遽その身を翻して移動。巨人と自機の間にタロスを置いた。
 動こうとしたティターン、しかしその道をミリハナクの強力な射撃が塞いで止まらざるを得ない。
 それに気を取られたタロスに隙が出来る。
「指揮官より自分の心配をするんだな!」
 近付いた影が、捕らえた。
 コクピットをレッグドリルに抉られ、タロスはその身を地に散らしたのだった。

 轟く爆音の中、ゲシュペンストが宣言する。
「そちらの事情は知らん、だが通りたければ覚悟を決めろ、ここの通行料は高いぞ!」


「ふうん‥‥このあたしから、ぼったくるって言うのね」

 楽しげな声と笑顔の少女の映像が、傭兵のKV各機に届いた。暗に “突破など易い” と言って、紫瞳を持つ少女の姿をしたバグアは不敵に笑う。
 カスタムティターンの搭乗者、『3姉妹』の三女、榊原アサキ。
 左翼寄りの位置に居るゲシュペンストを狙って、赤と紫の巨人は旋回。そして巨大な槍を構えた。

 反応したのはハンフリー。倒しかけているタロスを前に、
「すまん、ここを頼む」
 と湊機に伝えて旋回、カスタムティターンの前にハンフリー機が立ちはだかった。無理はするな、とあの突撃の威力を知る者たちが見守る。
「引き受けた」
 湊機は刀を構え、タロスと最後の一騎打ちを開始する。


 アサキは笑う。蹴散らされたいの? と。
 ハンフリーは答える。
「タダでは通さん、ということだ」
「やってみればいいわ、泣きを見ても知らないわよ!」

 機槍突撃は直線の動き。
 当たる直前で避け、すれ違いざまに一撃を‥‥そう考えたハンフリー機はゲシュペンスト機と並んでカスタムティターンの正面に立った。

 ハンフリー機はリニア砲を連射。
 敵機はそれを嘲うが如く、砲撃を食らいながら突撃開始。
 勢いは赤紫の光が走るかの如く。
 ゲシュペンスト機は突撃開始と同時に回避し無傷。
 しかしハンフリー機はフォース・ビートダウン起動。
 紙一重で避けきり。
 巨人を狙撃。

 機体を傷つけられたことにアサキは驚く。だが、また笑った。
「惜しかったわね」
 この子すごく丈夫なのよ、と言って走り終え、急旋回。振り向きざまにハンフリー機を撃ち抜いた。
 直後、赤と紫の巨人の体が傾く。ミリハナク機『ぎゃおちゃん』渾身の体当たり、直撃。
 アサキが次に目にしたのは青い空、そして、ドリル。
「究極ゥゥゥゥゥッ! ゲェェシュペンストォォォォォッッ! キィィィィィィィッック!!!!」
 そう、ゲシュペンスト機がすかさずブーストとスキルで猛然と接近、強烈な蹴りを喰らわせたのだ。巨人のガトリングを吹き飛ばし、その腕に少なくはない損傷を負わせる。

 ハンフリー、ミリハナク、そしてゲシュペンストが成し得たこの攻撃は、素早く体勢を立て直したアサキに撤退時期を計算させ始めていた。

●evacuation
「タロス残り1。中央後衛、左翼、共に損傷軽微。中央前衛の湊機はタロス撃破、問題無さそうよ」
 戦場を見渡せる位置に立ち続けていたファルルが傭兵たちに戦況を伝える。
「アサキ機が練翼を使ったわ。やりあってる三機がちょっとつらそうね」
 ミリハナク機ですら、盾を使って対処していても次々と損傷が蓄積されていく。

 そこに、残り1機になったタロスが急接近。そしてタロスを追うように、左翼後方に居た兵衛機も。
 全力で指揮官に馳せ参じる敵機の速度にミリハナクは目を丸くし、そして楽しげに笑いを零す。兵衛機『忠勝』が来ているなら、自分が遊ぶ余裕はまだまだある。
「ご機嫌いかが? アサキちゃん」
「あなたまた居るの?」
「ふふっ。お先にお邪魔してましたわ。この中途半端な襲撃、ミスターSの使いパシリにでもされたのかしら」
「言ってくれるじゃないの!」
 挑発でアサキの集中が少し散漫になったのを見たミリハナクが動く。
「アサキちゃん、あーそびーましょっ」
 エナジーウィングを纏って刃と化した恐竜の肢。
 それが巨人の翼をすれすれで潜り抜け、巨人に足払い。直撃こそしなかったものの、かすっただけでティターン脚部の装甲を大きく剥がした。
 足元が不安定になったところを、射撃陣‥‥左翼の時雨、ゴースト、中央のファルルが狙う。
 装甲を穿たれ、焼き消され。しかしティターンは翼を仕舞い、反撃し、回復能力を駆使して凶悪に立ち続けた。

 ハンフリーから敵機を任された湊機は、多少の損傷はあったものの敵機を機刀で斬り捨て、今は兵衛機と共にタロスとの戦闘に再び参加している。
 とはいえ、それは頑健な豪槍と美しい豪剣によって早々に幕を下ろされた。

 兵衛・湊機はカスタムティターンを見遣る。
「残るはティターンのみ、か」
「一気に決めたいところだが‥‥流石になぁ」
「タフな機体だからな」
「おいおい、『忠勝』の乗り手がそれ言うのか?」
 と言いつつ湊は機体を旋回させる。
 兵衛は再び槍を構えようとしているカスタムティターンの動きを注意深く見つめた。
「あの巨人を甘く見るな。2度も遣り合って2度とも逃げられている」
「まじかよ?」
「いかんせん速い相手だ」
 淡々と言う兵衛は『忠勝』を発進、ブーストをかけて500m近い距離を一気に駆け抜ける。
 洋槍を構えた巨人に、鎧武者が和槍で仕掛けた。
「‥‥速さも負けてねえだろあれ」
 つっこみながら湊機もブースト移動。『忠勝』に対応するカスタムティターンに、横合いから一閃を叩き込む。
「喰らってろ!」
 兵衛機の槍が巨人の槍を止め、その隙間を切り裂く湊機の太刀。

 遂に耐えかねたのか、赤と紫の巨人は再び翼を伸ばした。
「‥‥‥‥頃合いね」
 アサキの呟きはKVに伝わる。練翼付きで再突撃か、と身構えた傭兵たち。

「最高速度、見せてあげる。‥‥全軍撤退!!!」

 それは、風。
 赤紫の突風が、戦場である滑走路を瞬く間に駆け抜け、大軍を引き連れ、消え去った。


 潮が引くように居なくなるバグア軍の素早さで、撤退が前提の襲撃であったと知れた。四国UPC軍及び傭兵らにも撤退命令が下る。
 出撃指定のミスで準備不足でありながらも戦い抜いた愛機を降りながら、ゴーストが呟いた。
「次会う時は――」
 滑走路を飛び立つ戦闘機の高い音が、少年の言葉をかき消した。

 今回、敵エース機へ致命傷を与えるまでには至らなかった。が、基地からすれば襲来が脅威であることには変わり無い。基地指揮官は、損害を大幅に軽減した傭兵たちの働きを大きく評価。その評価に見合う報酬と共に、深い感謝を伝えたのだった。