タイトル:【FC】求む、支える者。マスター:菊ノ小唄

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/10/01 17:23

●オープニング本文



 場所は、四国の某ファミリーレストラン。時は、1人のバグアが陸上競技場を襲撃する前日。

「パンケーキ、くださいっ」
「チョコソース増量で、ですね?」
「はいっ」
 分厚く大きなパンケーキにチョコレートソースをたっぷりかけて頂くのが、リミン(gz0469)のマイブーム。今日で3回目となる来店と同じ内容の注文に、店員は小さく笑いながら注文を確定し一礼。店の奥へと立ち去った。

「早く来ないかなー」
 ナイフとフォークを持ってパンケーキを待ち構えていたリミンは、窓の外のバイクが目に入り、感嘆の声が口からこぼれた。
「わぁぁ、綺麗なバイク‥‥」
 外の駐輪場、残暑厳しい午後の陽射しが落とす木陰の中の、白っぽいカラーリングが施されたバイクに見入るリミン。
「あら、ありがと」
 不意に掛けられた言葉に驚いたリミンはパッと振り返る。隣のテーブルで、白地にピンクのライダースーツ、ヘアバンドで髪を纏めサングラスをかけた姿の少女が楽しげに微笑んでいた。リミンはワクワクする声を隠さず尋ねる。
「あなたのバイク?」
「そうよ、貰い物だけどね。ちょっと雰囲気変えようと思って今はあの色」
「へえぇ‥‥すてきー」
「そう?」
「うん。私のなんて、灰色だし、なんかぽってりしてるし‥‥」
 少女のバイクの隣に停まっているのは、自分が乗ってきた大きな三輪バイク‥‥AU-KV バハムート。がっちりどっしりしたその車体は、少女のバイクと比べるとお世辞にもスタイリッシュとは言えないとリミンは思う。
「私ももっと可愛い色にすれば良かったなぁ‥‥」
「そっちのも悪くないと思うわよ」
 席を立ちながら少女が言う。良い仕事しそうじゃない、と。
 レジの店員に伝票を渡し何か伝えた少女は、肩越しにちらりとリミンを見た。不敵な笑みが少女の口元を彩る。
「街に溶け込んで敵を狙う小戦車ってとこかしら」
「‥‥!!!」
 日常会話の中で、灰色の大型三輪に対して市街戦や狙撃や戦車を連想する者、というのは限られる。そして今の言葉は、このバイクが戦闘用だと明らかにわかっている挑戦的な口ぶり。正体を確かめなくては。

 するりと退店した少女を追おうとするリミン。しかし店員が彼女を制止。なんで!と不満の声を上げると伝票を渡された。
「先ほどの方が、お支払いをお客様に任せてあると‥‥」
 仰ってまして‥‥と尻すぼみな店員の説明。
 えっと、つまり、あの子は私に追いかけられたくなくて、伝票、押し付けていったってことは、それってつまり‥‥
「敵!!」
「ええっ?」
「あの子! 追いかけなきゃ」
「お、お会計‥‥」
 店員の言葉にもどかしく思いながら伝票を見ると、ずらりと並んだデザートの数々。
 大量のデザートを平らげた少女を乗せた薄紫のバイクは、もうどこかへ走り去った後だった。


 物凄く敵っぽい人に会ったと連絡を入れたリミンは早急に戻ってくるよう言われ、運ばれてきたパンケーキを慌てて口に押し込んだ。
 バハムートを飛ばす。彼女が世話になっている、女性のみで構成されたレジスタンス『チーム・フロラ』のもとへ帰還。ファミレスでの出来事を細かく話すと『チーム・フロラ』のリーダー、ヨツモト・アンリが顔をしかめた。
「もしかして、榊原アサキじゃないかしら‥‥」
「サカキバラ‥‥四国基地襲った、あのバグアっ? え、でも、でも、特徴は紫‥‥」
「サングラスの下は見た?」
「み、みてない」
「バイクは元々違う色だったみたいね」
「あ‥‥」
 言葉を失っているリミンに、一人の少女の画像が渡される。
「背格好はこれくらいじゃない?」
「これ‥‥!」
「でしょう?」
 そう言ってリーダーは席を立つ。
「さて、厳戒態勢を敷かないと‥‥榊原アサキの件も伝えないとね‥‥キメラだの、バイクだの、手が足りないわ‥‥」
「私、このバグアのバイク探しに行く!」
 椅子を蹴り倒さんばかりの勢いで立ち上がったリミン。だが彼女の額をぺちりと叩いて座らせる『フロラ』のリーダー。
「あなたは別のお仕事よ」
「ええーっ!」
 抗議の声にもアンリ女史は聞く耳を持たず、ありったけの書類の束をリミンに押し付け、くるりと背を向ける。
「怪我人が来てるの。よろしくね。あと明日到着する援護人員の案内役、お願い」
 でもでもーと食い下がるリミンの声は、閉じられた扉に虚しくぶつかって消えた。

 てんてこ舞いなのは事実だ。リミンがファミレスへ行っていたのも、10時間ぶりくらいに手に入れた僅かな休憩時間。正直言って眠い。限られた人手、体力気力、時間。問題はどんどん増える。
 『フロラ』総勢20名に地元協力者を加えた、50名近い人数でも対処しきれぬこの状況。見かねたリーダーがUPCに連携と援護の要請もしている。かなりきつい状況なのである。


 リーダー・アンリも既に疲弊の色は濃い。彼女の元・社長秘書という経験をもってしても、緊張と苦悩の連続の中で多数の情報を捌くのは骨の折れる仕事だった。

「市営住宅に向かうキメラ2体を目撃、D班お願い」
『D班了解、間に合わすわっ』
「2号車、通報場所の様子は」
『今のところ、異常ありません』
「ではそのまま市営住宅の避難誘導をお願いします」
『了解』
「陸橋北側で紫のバイクが停車、道が塞がれたと通報が。A班向かえる?」
『A班了解。今から行く。B班に援護頼めるかしら』
『こちらB! せめてあと5分欲しいな‥‥ッ』
「AB、どちらも‥‥出来る範囲で動いて」
『『了解』』
『フロラ、こちら「キャップ」。C班への燃料補給完了』
「ありがとう、C班はD班の援護、キャップは1号車へ補給をお願い」
『了解』
 チームの母体でもある民間企業の援護にほっとしたその拍子、彼女の足元がぐらついた。
『こちら3号車、北区の通行止め解消しました。‥‥リーダー?』
「! ごめんなさい、北区ね、ありがとう、ええと、次は市民会館周辺の損壊状況の調査を」
『3号車了解。ご自愛くださいね』 
「ええ、ありがとう。そちらもね」

 問題が多発し始めて20時間が経過。小型キメラが少数にばらけて出現し、ごく小規模な襲撃があちらこちらで頻発。また、紫色のバイクがあちこちに現れ、バグアや強化人間と思われるライダーが建物を壊したり大きな道を塞いだり、武器で威嚇し近付く者には軽傷を負わせたり‥‥。
 軍が大々的に動くほどのことではない、と判断されがちな騒動ばかりが立て続けに発生している。それらはレジスタンスが引き受けてきた仕事でもあった。それゆえに少しUPCへの連携要請が遅れたとも言えて、アンリは多くの人々を想って申し訳の立たぬ気持ちになる。
 モニターやスピーカーから届く情報を捌き続けていたが、覚醒状態でも支障を来たし始めたことを、能力者でもあるアンリは自覚する。
 しかし、援軍到着までなんとか保たせなくてはならなかった。

●参加者一覧

智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文


●助っ人到着
 市民体育館内にある小さな会議室が『フロラ』臨時拠点である。
 機材に囲まれているアンリのもとへやって来た傭兵たち。智久 百合歌(ga4980)がアンリに一礼し、挨拶を述べる。
「こんにちは。要請を受け、助太刀に来ました」
「よく来て下さいました。現在指揮を執っているヨツモト・アンリです。今日は宜しくお願いします」
 答えるアンリは目の下に化粧でも隠し切れぬ程の隈が出来ているが、丁寧な姿勢は崩さず礼を返し、口早に続けた。
「ご入用なものや、ご予定について教えて頂けますか?」
「1人か2人、体力に余裕のある地元協力者の方をここへ。その方と協力して、私が暫く指揮を代行します」
 代行、の言葉にアンリが軽く目を見開く。百合歌は微笑んだ。
「その間にアンリさんはしっかりお休みくださいね」
「有難う‥‥他のお三方は?」
 ほっとしたような声音で礼を述べたアンリは、残る3人に尋ねた。
 答えたのはミリハナク(gc4008)と最上 空(gb3976)。
「私たちは町に現れる紫のバイクやキメラの対応をしますわ」
「AU−KVが乗せられる車両と、栄養補給用の食料を多めにお願いします! あ、あとリミンをお借りしても良いですか!」
「構いませんよ。食料を積んだ大型ジープを用意しましょう。リミンは‥‥ああ、そこに居ますね」

 書類や枕を抱え、寝ぼけ眼をこすりながらよたよたと会議室に入ってきたのは、黒髪に青い目の少女。軍・傭兵合流前の連絡係を果たした後、短い仮眠を終えて出てきたようだ。最上 憐 (gb0002)が声を掛けた。
「‥‥ん。リミン。パンケーキの。食べ過ぎで。丸くならないうちに。運動しに行く?」
「あ、憐だ。空も居るー‥‥うんどー?」
 ぽけー、としているリミン。空がほらほら寝ぼけてる場合じゃないですよ!と枕を取り上げる。
「空も憐に叩き起こされて来たんですから、リミンも出撃準備です!」
 出撃、と聞いて意識がハッキリしたリミンは、最上姉妹に引っ立てられて会議室を出ていったのだった。続くミリハナクが入口で振り返り、そうそう‥‥と呟いて微笑んだ。
「私、アサキちゃん目当てで来ましたの。彼女についての調査もしておきますわね」
「はい、お願いいたします。正直手が足りなくて‥‥」
「お任せ下さいな」
 ふふっ、と心底楽しそうに笑って会議室を出ていったミリハナクを少し不思議そうに見送り、アンリは百合歌に向き直った。
「最低限、指揮に必要なことをお教えします。こちらへどうぞ」

 会議室を出た4人。少し遅れて出てきたミリハナクに、リミンが近付いた。
「ね、さっき、アサキって言った?」
「言いましたわね」
「私も、行っていい?」
 ミリハナクの服の袖をはっしと掴んで尋ねるリミンの襟を、背後の少し下方からぎゅっと引っ張ったのは憐。(ミリハナクはリミンの喉から『ンギュ!』という異音を聞いた。)
「‥‥ん。今回。リミンは。私たちと。行動だから。勝手に。飛び出さないこと」
「だ、そうですわよ。何はともあれ、アサキちゃん関係の調査は後回し、まずは襲撃へ対応しましょう」
 くすりと笑って言われたその言葉を受け、手を挙げたのは空。無線機を掲げ、
「はいはーい、空と憐の無線番号お伝えします。情報共有は大切ですから!」
 というわけでテストしてみたところ、使えなくはないかな‥‥程度の通信状態。
「繋がらない場合があるかも」
「あ、もし無理だったら後からでも連絡お願いします!」

 そうして準備が整い、到着した『キャップ』の車両に乗り込む最上姉妹と、彼女らに両側からしっかり手を繋がれたリミン。ミリハナクは自前のバイクSE−445Rのエンジンをふかす。

「さてと。一つ一つ解決するとして、本命を見つけないといけませんわね」
 ミリハナクは、市民体育館駐車場を走り出たバイクの上で独りごちた。微笑が零れる。
「‥‥アサキちゃんに会えたら楽しいのですけれど」
 ふふっ。

●四本の支柱
「それでは、よろしく頼みます」
「ええ、よく休んでくださいね」
 会議室を出るか出ないかの辺りでふらついたアンリは、地元協力者の一人に肩を借りて仮眠室へ向かった。
 百合歌は機材の扱いや指示方法を確認、指揮代行を開始した。ホワイトボードに地図を貼り付け、何色かのマグネットを用意。戻ってきた協力者の女性に、
「ある程度すれば私も把握出来ると思うので、それまでごめんなさい」
 と断った。気にしないで〜と朗らかに返された声を聞いて微笑み、百合歌は通信マイクに声を掛けた。
「フロラのアンリさんは休憩中。その間、傭兵の智久百合歌が指揮を代行致します。宜しくお願いしますね」
 手短な挨拶に続くのは、今日投入された軍人たちへの班構成、現状把握のための情報提供を呼びかける言葉等。地図を確認しながら、地元民である協力者に地名・施設名の場所を教わりつつ、百合歌は行動を開始した。

「フロラの皆さん、及び地元協力者の皆さんは軍の方と交代、帰還して下さい」
『こちらD班。キメラに梃子摺ってて時間かかるわっ』
「了解、もう一息頑張って。軍指揮官、D班へはどの班が向かっていますか?」
『軍4班だ。3分以内には着ける』
「有難いです」
『こちらミリハナク。軍2班と合流完了、陸橋南部の強化人間対応に入りますわ』
「お願いします。最上さんたちは、えぇと東部公民館近くのキメラ掃討を」
『了解しました!』
 返事を聞き、マグネットでマークしながら百合歌は苦笑。
「これじゃふらふらにもなるわ‥‥何十時間もやってれば、例え能力者でもつらいでしょうね」
「ええ。‥‥アンリさんを休ませてくれて有難うございます」
 横でボードにメモを取っていた協力者の女性が言う。なんでも、いくら休むよう言っても頑として休憩しなかったらしい。
「あれだけスムーズに采配を振れるのはアンリさんくらいかもしれませんけど。彼女だって体が強いわけじゃないんです」
「でも能力者でいらっしゃるわよね?」
「はい、覚醒中とやらはすごく元気で丈夫らしいですが、そうでない時は食が細くて体調も崩しやすくて‥‥」
「‥‥無理する方なのね」
 先ほどアンリが出て行った会議室のドアを見遣り、百合歌は気を引き締める。
「今回私たちは、皆さんに出来るだけしっかり休息を取って頂こうと思っています。勿論貴女も含めて。あともう少しだけ、お手伝いをお願いしますね」


「この信号、右」
「了解ですよ!」
 空の運転するジープに乗った憐とリミン。リミンが道案内だ。(憐は、ジープの揺れをものともせず、保存用ビスケットを次から次へと自分の口に放り込んでいるため喋れない。)指示のあったキメラ出現ポイントに急ぐ。
 東部公民館に居座っているのは狼型キメラ。サイズは大型犬ほどだと聞いている。ビスケットを食べ終えた憐がリミンに
「‥‥ん。リミン。無理や。突出しない様に。助言しておく」
 と念を押し、探査の眼を発動している空が周囲を確認しつつ
「空とリミンは憐の援護です。あとリミン、もし逃げ遅れた一般人が居たら避難誘導お願いしますね!」
 と今日の動きを伝えた。
「わかった」
 頷くリミンを確認し、空はジープを停車させつつ無線機に告げた。


『空、憐、リミンは東‥‥着。キメラ退‥‥ます!』
 バイクに取り付けた無線機から途切れ途切れに元気な声が響いてくるのを聞きながら、ミリハナクは視界の隅に映る紫の影に意識を戻した。剣を片手にバイクを操り、強化人間からの銃撃をひらりひらりと避ける。騎乗したまま接近した彼女が振りかざした剣は、敵の急所ではなく敵の小振りな盾を狙った。盾が弾け飛ぶ大きな音。
「くそッ」
 悪態をつく強化人間に対し、ミリハナクは油断無く次の攻撃を続けざまに叩き込む。能力者でない者が多く戦場に居る今、敵に砲撃をさせては被害が大変なことになる。しかし、一般人の目もあるここで強化人間を殺すのは心象などを考慮すると得策ではない。
「‥‥であれば、攻撃される前にお帰り頂くまでですわ」
 敵も強化人間、しかも高性能なバイク‥‥アルケニーを操っている。だが接近戦に特化した者でなければミリハナクの攻撃を避けるのは困難だった。互いにバイクの上とは思えぬほど、剣の軌跡は的確に強化人間を切り裂く。剣から逃れようと下がる素振りを見せれば後方からの軍の一斉射撃がそれを阻む。
 アルケニーを砲台に変形させる暇が無く、強化人間は歯軋り。ミリハナクは獰猛に微笑んだ。
「お帰り下さるかしら」
「っ! てめぇがこっちにも来てると知ってりゃぁな‥‥っ! 覚えてろ!」
 走り去った紫のバイクを見送り、ミリハナクは考える。『こっちにも』と言っていた。時期的に考えて、榊原アサキのティターンを破壊したうちの一人だ、と敵が気付いたことを表していると思われる。
「わくわくしてきますわね」
「はい?」
 近くに来た軍人が首を傾げた。笑って誤魔化し、ミリハナクは無線に言った。


『陸橋南部の強化人間は追い払いましたわ。痛めつけてやりましたので、再度出没することは無いかと』
「お疲れ様です。西部集会所に別のバイク目撃情報があります、確認を」
 難関を一つ乗り越えたと知り、安堵と共に次の仕事を伝えた百合歌。しかし次の言葉を聞いて、安堵は悩みの種となる。
『向かいます。あと、私がカスタム・ティターンとの戦闘参加者だと敵は気付いたみたいでしたわ』
「わかりました」
 アサキのカスタム・ティターンは先日の戦闘で遂に大破、燃え尽きたと聞いている。それを成し遂げた一人がミリハナクだ。敵がそれに気付いたということは‥‥
「‥‥敵が警戒して戦力増加するか、或いは撤退するか。‥‥後者だといいけど」
『こちら、東部公民館です、キメラ掃討、完了しました!』
 無線機から空の声が届いた。百合歌は気持ちを切り替えて答える。
「了解、お疲れ様。周辺の安全確認は済みました?」
『オールクリアです、何も無し。怪我人も、無しですよ!』
「有難う、じゃあ次は北部公民館へ。キメラ掃討中ですが、避難できていない一般人の誘導と掃討援護を」
『はい、対応します!』
『こちら軍6班、北部大通りの通行止め、復旧完了』
「有難うございます、北部の警戒と状況把握を進めて下さい」
『了解』
 だいぶ慣れてきた百合歌は、手伝ってくれていた地元協力者の女性に礼を述べ、休憩を取るよう伝えた。これから夕方までは、百合歌一人の指示が全体の指標となる。
「‥‥オーケストラの指揮者気分ね。リハも無いぶっつけ本番だけど」
 なんとかしてみせましょう、と百合歌は地図上に散らばったマグネットを見つめた。
 
●収穫
 敵の襲撃頻度が下がってきたのは夕方4時を過ぎた頃。
 その後、『フロラ』や地元協力者の面々が、長めの休憩を終えて戦線復帰した。人員が整い、若干とはいえ余裕が生まれる。ローテーションもスムーズに動き、きちんと休息を取りつつ良い集中力を保持。そうして夜間に突入し困難な場面も多く発生したが、能力者を中心に、地元民からの協力を得つつ目撃情報やキメラ退治が進められた。

 翌日は紫のバイクが見当たらず、キメラの目撃も減っている。無線の調子もあまり悪くなかった。
『ちょっと調べ物をしてきますわね』
「どちらへ?」
 ミリハナクからの通信を聞き、指揮官に復帰したアンリが尋ねる。百合歌は休憩中だ。
『誰かさんの目撃情報が無いか、各種路線の利用状況を確認してこようと思いますの』
「そうですね‥‥お願いします。リミンも今は休んでいますし」

 臨時拠点への連絡を終え、ミリハナクは地元の交通機関へと足を伸ばす。
 怪しい利用情報などが無いか尋ねて回り、その中からある物を見つけ出した。白いバイクを4tトラックが追走していった、という目撃情報だ。といってもカーチェイスのようなものではなく、先導するバイクにトラックがついて走っているだけだったらしい。
「どちらへ向かっている様子でした?」
「この道路は、海辺の工業区域に続いとる。最近通行止めになっとったんだが、通れるようになったんかねぇ」
「最近と言いますと?」
「この2、3日さ。ひどい雨で土砂崩れがあってな。こうもゴタついてると郊外へのケアが滞って困るねぇ」
「そうですわね‥‥困ったものですわ」
 ミリハナクは、愛想良く微笑んで情報提供に感謝しその場を去った。

 拠点に帰還した彼女は軍指揮官を呼び、海辺の工業区域を慎重に調査するよう依頼。
 その結果がビンゴであったことを、後日彼女は知ることとなるであろう。


 敵の目撃や襲撃が完全に無くなったのは夜7時頃。
「この様子なら、そろそろ私たちだけでもどうにかなりそうです」
 百合歌が休憩に入ろうとしていた時、アンリが休憩から戻ってそう言った。
「では、私たちは撤退しても?」
「はい。‥‥本当に、ありがとうございました」
 百合歌に頭を下げ、アンリは総員に告げる。
「軍の皆さん、傭兵の皆さんは作業を終了してください。頻発する問題への対処ご助力有難うございました」

『了解です! フロラや地元の皆さんも、無理せず! 憐、リミン、パンケーキ食べに行きましょう!』
『‥‥ん。行こう。何度も覚醒して。お腹と背中が。くっつきそう』
『ファミレス、この道まっすぐ!』
『了解ですよ!』

 雑談が駄々漏れになっている無線の通信。
 百合歌とアンリは思わず顔を見合わせくすくす笑うのだった。