タイトル:【FC】紫閃を絶てマスター:菊ノ小唄

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/11/01 10:23

●オープニング本文


●高知県、土佐湾沿岸の工業地域
 通信から響く三姉妹の声。そのトーンは誰が聞いてもわかるくらいには沈んでいた。
 それもそうだろう。四国バグアの首領たるミスターSが敗死し、最早この地に残る有力なバグアは自分たちを残すのみとなっていたのだから。
「言いたくはないけど、これ以上の抗戦は難しいわね。とにかく四国からは撤退するより他ないわ」
「そうね‥‥それじゃ一度合流して‥‥」
「駄目、それは駄目だよカッキー。四国がほぼ敵に落ちた以上、今集まっても一網打尽にされる可能性があるから‥‥そこで、うちが考えた作戦なんだけど‥‥」
 そう言ってミウミが提示した作戦はこうだ。
 ミスターSの旗下にいた兵士、それらはまだ残存している為、それらをまとめて大規模な攻勢に出る。
「そいつらを合わせれば、多分うちが一番多くの戦力を持ってるはずだから、二人はその間に脱出して」

 それを聞いた榊原アサキ(gz0411)に異論は無かった。ミスターが力尽き、人間側の戦力‥‥軍、傭兵、レジスタンスは今や強く結束、バグアを叩き潰さんと意気軒昂。アサキのティターンは先日の戦闘で燃え尽き、彼女も重傷を負った。

「‥‥わかったわ。任せる」
 と答えたカケルの声に続くアサキは、ひとつだけ注文を付けた。
「そうね。ミウミ姉さん自身も離脱成功できる算段があるなら、乗るわ」
「その点については安心して、ちゃんと考えてあるから!」
 殊更明るく言ったミウミ。
 こうして、2人との通信は終わった。


「ミスターの蜘蛛の暴れ時ね。パープルブラッド隊、いつでも動けるようにしといて」
 蜘蛛‥‥バイク・アルケニーを乗りこなす、パープルブラッド(PB)隊の待機を命じるアサキに、PB隊小隊長のバグアが答える。
「承知いたしました。そういえば、for Aの性能は流石ですね、見違えました」
「当たり前よ」
 淡々と答えるアサキに小隊長は口を噤み、背筋を伸ばして一礼、退出していった。

 先日、市街騒動の影で密かに占拠したこの未稼動工業区域が、今のアサキの城である。
 だが傷を癒し終える間も無く、先日人間たちがこの城を嗅ぎ付けた。そして‥‥
『空き地の向こう側にUPCの偵察隊を発見』
 見回りの強化人間による報告を聞いたアサキは一瞬で判断を下す。
「今すぐ殲滅して」
 いかに素早く息の根を止めたところで、既に流された情報も有ろう。こうなっては、襲撃は明日か、早ければ今日にも。
「時間が無いわね」
 次の戦闘に向けて集中し始めたアサキ。どこで手に入れたか、小さなダイスを弄んでいる。
 ふと、その手が止まった。
「‥‥カスタム・ティターンのこと、まだカケル姉さんに謝ってなかったわ」
 あの機体の改造担当者、そしてアルケニー改造担当もカケルだった。
「新型アルケニーの戦果と一緒に伝えないと」
 指先で砕かれたダイスが、パラ、と床に落ちた。

●結束と信頼
 傭兵からの情報を元に偵察を行ったUPC軍は、『土佐湾沿岸、未稼働の工業区域が榊原アサキの潜伏先』との確証を得た。直後、約300mある空き地の向こう側から一瞬で偵察隊を消されて戦慄しつつも、今がアサキへ止めを刺すに絶好の機会であることに変わりは無い。

 しかし、別の敵軍が土佐市方面に接近。
 推測されるのは三姉妹の同時活発化だ。それが意味するのは脅威であり、猛威である。
 ミスターSが撃破された今でも、その素早さ・火力・連携、全てにおいて群を抜く。

 UPC軍は接近する敵への対処を開始。それを知った地元のレジスタンスチームが『先日の礼をする』と言って全面的に軍を支援、きめ細やかな対応が実現した。
 が、アサキを討ち取りに行くための態勢を整えるまでには至らない。
 工業区域に居座るアサキは、プロトン砲台に変形するバイク・アルケニーの部隊を持っていることが確認されている。また、(未稼働の為に無人だったものの)工場が立ち並ぶこの区域そのものが、人間側に対する人質のようなものである。
 機動性、破壊力、そして策略。
 アサキの罠は並みの者が踏み込めば致命的な被害を生む、と軍人もレジスタンスも知っていた。

 だから彼らは信頼をこめて言う。
 やはり傭兵の出番だな、と。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

●大衝突
 今回の依頼に参加したのは名立たる10名の傭兵たち。
 彼らが用意したのは陽動作戦だ。数や機動力に優れた榊原アサキ率いる敵勢に対し、うまくいけば非常に有効な作戦となろう。
 選んだ作戦決行時間帯は早朝。それは歩哨の警戒が一番弱まり易い時。濃い闇が淡くなり始め、埋立地の上に集まった工業区域の景色が浮かび上がってきた。嵐の前の静けさとでも言おうか。
 岸壁に沿って2×3件、横長に並んでいる工場群。そこへ双眼鏡を向けるのはアルヴァイム(ga5051)。また、地雷を警戒するハンフリー(gc3092)が広い空き地を細かくチェックし、危険が無いことを確認。

 広い空き地のど真ん中へ、1台のジーザリオと3台のバイク・SE−445Rが発進した。

 幌を取り払ったジーザリオの運転手はアルヴァイム、同乗するのはUNKNOWN(ga4276)。ジャック・ジェリア(gc0672)、ハンフリー、ミリハナク(gc4008)は各々バイクSE−445Rを駆る。申し訳程度に舗装された、空き地に1本だけ伸びている二車線道路を陽動班は突き進み始めた。

 それとほぼ同時に、工場群の間から紫色のバイク・アルケニーが、草の間から蜘蛛が湧き出すかの如く何台も滑り出てきた。パープルブラッド(PB)隊である。

「お、来た来た。脚を止めて、ひとつずつ処理ってとこかねー」
 ジャックは班の先頭でバイクを操りながら片手で銃を取ろうとして‥‥遠くの正面、1台のアルケニーの影に隠れて腰を据えていた、アルケニー・プロトン砲台の射線上に身を晒していた。素早く盾を構えたところを襲う砲撃。
「うぉ‥‥!!」
 声を上げるも無防備な直撃を免れたのは、アルヴァイムから迅速な情報伝達があったから。エミタを経由した警告は何よりも早く確実に伝わり、ジャックの体勢を整えさせた。そして、バイクの向きこそ変えられてしまったものの、転倒もせず持ちこたえ、既に銃を構えているジャックの強靭さも凄まじい。

 続く砲撃はジーザリオのハンドルを握るアルヴァイムを狙った。だがそれに先んじてジーザリオのボンネットに立っていたUNKNOWNを直撃、車上から吹き飛ばす。
「‥‥‥!」
 声が詰まるも紳士は宙を舞いながら手甲の爪で車体を捉え、バンパーを蹴って車上に戻る。練成治療を終えた彼は、
「‥‥これが偵察隊を消した一撃か。道理で、派手な威力だ」
 そんな代物をまともに食らったとは思えぬ言葉を、紫煙と共に口から吐いていた。ゆったりと呟く。
「榊原、遊びにきた、よ」
 そろそろバイクをくれたまえ、と。

 正面から突撃してきた傭兵に対し、遠方から4台のアルケニーによる集中砲火。
 ものともしない傭兵たちではあるが、ほんの僅かに止まった進軍。
 その隙を逃さず接近してきたのは、槍を構えた強化人間たちが操る5台のアルケニーだ。

「あら、どこかで見た顔ですわね」
 艶めいた笑みを浮かべながら、凄まじい音を立てて盾で槍を受けたのはミリハナク。剣に持ち替えバイクを唸らせ体勢を整える。
「だろうな。今度は調整完了したコイツで相手だ、アサキ様が出るまでもなく終わらせる」
 強化人間は憎しみ共々吐き捨てて、切り込んできたミリハナクの剣をいなし、すれ違う。

 近くでバイク上から檜扇の如き超機械「扇嵐」を構えたのはハンフリー。
 小型プロトン砲に耐えたジャックの、緑と赤の静かな視線を受けて一瞬すくんだ敵。その周囲に、ハンフリーが竜巻を起こした。視界も動きも阻害される敵。
「小癪な‥‥っ」

 剣と槍の攻防は、銃撃や砲撃の乱入を受けながらも続いていた。
 そして遂に相打ちかと見えたが、槍はミリハナクのドレスを裂くだけに終わり、ハミングバードが強化人間の喉を刺し貫いて決着。

 混乱しながら竜巻を抜け出した敵は、持ち替えた剣を水平に構えて走り抜けたハンフリーに喉を裂かれ、声を上げることすら出来ずに絶命したのだった。

 激突した傭兵の陽動班とPB隊。
 圧倒的優位から先制したはずのPB隊は圧され、戦域は徐々に工場群へと近付いていく。数を減らされていく前衛に、砲撃を行っていた後衛PB隊員の半分がアルケニーを走行形態へ戻しライフルを構えた。
 陽動班とPB隊の正面対決が続く。

●潜む者
 空き地での戦闘は、轟音となって奇襲班の耳にその激しさを伝えていた。
 智久 百合歌(ga4980)がその音に目を細める。双眼鏡で様子を探りながら、アルヴァイムがUPCへの援護要請にカモフラージュしている無線情報を聞いて工場の設置物を確認。
「カメラとスピーカーがあります。恐らくアサキと指揮官は、安全な場所から監視している‥‥」
 百合歌の言葉に頷くのはクレミア・ストレイカー(gb7450)。同じく双眼鏡を手にして、情報を聞きながら敵の姿が少しでも見えないかと工場を注視する
「工場のほうは動きが無いわね‥‥どこに潜んでいるのかしら」
「こっちもだめ、ノイズだらけでわからない」
 敵の通信を傍受できないかと試していた夢守 ルキア(gb9436)だったが、不作に終わったようだ。
「中々尻尾を出さないね。まずはカメラ壊しに行くのが懸命か」
 工場群の様子や配置を観察するレインウォーカー(gc2524)。

『あー、あー。能力者の皆さん、聞こえる?』

 工場各所に設置されたスピーカーから響く少女の声。榊原アサキだ。

『ああ、戦闘に夢中かしら。まったく、正面突破なんて派手なんだから‥‥命知らずね』

 直後、無線から奇襲班行動開始の合図。密かに動きだす面々。

『こっちは怪我人なんだから静かにして欲しいけど、聞き流してくれても結構よ』

 怪我の度合いが酷いのか、それともただの皮肉なのかは判別しかねる。
 が、この放送はアサキがどこかで移動せずに居る印であることは確か。

『予想外に早くお見舞いに来てくれたものだから、今日は大したおもてなしが出来なくて』

 心底残念そうな声が騒音の間を縫って流れる。

『どかんと出迎えたかったのに残念‥‥って言うのを信じるかどうかは任せるけど』

 彼女が爆弾を好んで多用することは多くの者が知っている。アサキは、そんな己の通例を逆手にとって罠を仕掛けてきたようだ。
 それを聞いたルキアが戦友に言う。
「――きみが私の刃。私はきみの銃。そして、お互いの目と耳になろう。耳目共有して、敵の策を破る」
 道化が頷いた。
「まさにボクらの出番だねぇ。それじゃ行こうか、最高の銃」

『何はともあれ、しばらく見物させてもらうわ』

 奇襲班が動き出した。
 敵の目であるカメラの破壊にクレミアが走る。海側の工場へ全力移動した百合歌も、工場内を警戒しつつそれを助力。須佐 武流(ga1461)はカメラのひとつを使って囮になった。わざとカメラに映るよう動いたのだ。

『‥‥あら、伏兵? 面白いことしてくれるじゃないの』

 カメラを次々に破壊され、アサキが傭兵たちの動きに気付く。それ以降、スピーカーから彼女の声が響くことは無かった。

「私を引っ張り出した手際は褒めてあげる」

 スピーカーを通していない肉声を、レインウォーカーとルキアが聞いた。
 アルケニーが長い槍を構えたアサキを乗せて工場のシャッターをぶち抜き、向かいの工場の角を抉って止まった。紫のドレスワンピースを纏った少女は、抉られた建物の角から飛び出さざるを得なかったルキアを発見し、再度槍を構える。
 ‥‥しかしその瞬間炸裂したのは閃光手榴弾。凄まじい光と音。
「くっ」
 アサキ出現に対応し、素早く屋根の上に移動して身を潜めたレインウォーカーが、移動と同時に投げた閃光手榴弾。それがアサキの視界を白く染め、ルキアはその隙に別の物陰へ迅雷で移動し隠密潜行。瞬く間に正常な視界を取り戻したアサキだったが、その一瞬で、一対の銃と剣は奇襲態勢を整えた。

 ほぼ同時。
 アサキと同じく別の工場に潜んでいたPB隊の小隊長が、囮役となった武流に狙いを定めた。
 カメラに姿を晒した後潜伏した武流。そこへアルケニーに乗った小隊長のバグアが接近。武流は走ってくるアルケニーに向けて洋弓「レルネ」を引き絞り、禍々しい第一射。
 しかし矢はバグアの顔を掠め居所が知れる。
「そこか」
 物陰から飛び出した武流を、バグアが追った。十数mもの距離を瞬く間に肉薄、槍が武流に迫る。体を捻って何とか避け、彼は別の物陰へ全力で移動。走り抜けていったアルケニーが旋回、更に追う。
 武流は鉄板やダンボール箱が大量に積まれた荷物置き場へ。資材の山を、つっかえ棒が倒れたら全て崩れるよう積み方をずらし、目立つ罠とする。閉所で、反撃の機を待った。

 数秒。
 レインウォーカーとルキアはそれぞれの場所で息を潜めた。レインウォーカーが無線に言う。
「仕掛けるぞ。ボクの背中は任せたよ、相棒」
 戦闘開始。
 離れた場所からルキアの撃った火炎弾にアサキが反応。しかし避けきれず腕をかすめ、アサキの体勢が僅かに崩れる。
 そこへ迅雷で接近した道化が、真紅の大太刀を振り翳す。松明のジャグリングかの如き身のこなし。
「‥‥嗤え」
 だが敵は辛うじて槍で受けると滑らせるようにそれを弾いた。アサキが笑う。
「病み上がりのウォーミングアップには悪くない動きだったわよ」
「おや、それは良かった。‥‥何だかんだで因縁も長くなったねぇ。そろそろ終わらせようじゃないか」
 言って、レインウォーカーがもう一撃をアサキに叩き込んだ。火炎弾を受けて出来た傷の上から更に攻撃を受け、体勢を崩すアサキ。しかし彼女はその動きすら利用し赤と黒の道化に槍を走らせた。
「!!」
 咄嗟に動いたものの道化の肩は大きく裂け、その体が地を打つ。アサキは、これでとどめとアルケニーを寄せ、逆手に持った槍を振りかぶった。しかしそれはルキアの銃が放つ火炎弾に阻まれ、狙いを外す。穂先はレインウォーカーの脇腹を貫き、その凄まじい痛みに意識を飛ばした。
 きっ、と顔を上げたアサキはアルケニーを一気に加速、滑るように回り込んでルキアに迫る。

 荷物置き場。
 身を潜めた武流がアルケニーの駆動音を聞いた直後、勢い良く壁に叩きつけられた。
「ぐおッ」
 武流が潜んでいるであろう場所に向けてバグアが小型プロトン砲を発射したのだ。苦鳴を聞いたか、続けて同じ場所を砲撃が抉る。辺りの資材は細かい灰と化し、もうもうと上がる煙。
 バグアはアルケニーを砲台から走行形態に戻し‥‥突然の衝撃でアルケニーごと転倒。
 煙の中から、満身創痍の武流が全力の蹴りをバグアに叩き込んだ。咄嗟にライフルを掴んだバグア。だが構えも取れていない射撃は鎧の肩の装甲を剥いで抉り、武流のステップを封じるには至らず。光の多くが空を穿つ。遂に迫る武流。
「こいつで、とどめだぁッ!」
 脚甲がバグアの首を薙いで刎ね、武流もその傍らに倒れ伏した。

 走る一閃。
 アサキがルキアに向かって言う。
「かくれんぼは、おしまい‥‥クッ!?」
 その言葉と槍は、予想外の二方向から降り注いだ銃弾によってそらされた。クレミアと百合歌が駆けつけたのだ。身を潜めたままの二人の存在と、陽動班によるPB隊撃破がアサキを牽制する。
 奇襲に対し、各個撃破を狙っていた敵の優位が崩れた。


●地上、超速の決戦
 合流した陽動班の5人、奇襲班のクレミア、百合歌、ルキア。
 8名がアサキとの戦闘を開始。劣勢を悟り、アサキは少し広い場所へと紫の蜘蛛を駆った。離れていくアルケニー、それを追わんと動く傭兵たち。
 道を塞がんとしてハンフリーがバイクを全力疾走させ回り込む。
「また来たの? 諦めの悪いこと」
「諦められる程度の付き合いではないからな‥‥!」
「それもそうね」
 扇から生み出された竜巻がアルケニーの操作を奪う。だがそれでも進む、蜘蛛の名を持つ紫の乗騎。
 数秒速度を落としたアルケニーに、アルヴァイムがジーザリオのハンドルを切って近付いた。
「――そろそろ、考えてくれたかね?」
 コートをはためかせ、助手席から飛び降り足を運ぶUNKNOWNが尋ねる。
「バイクをくれるか、それともバニーを着るかを」
「どっちもお断りよ!」
「そうか、残念だ」
 瞬天速でアサキを追い続ける紳士は、空いた手で黒い中折れ帽を押さえ、風を切って悠然と走る。一歩大きく進み、武装の爪でアルケニーの駆動部を打った。車体が大きく傾いで進路が変わる。

 その瞬間を狙うはクレミア。
 照準に超長距離狙撃のスキルを受け、その拳銃は優れた命中精度を極限まで高められている。
「今度こそ、逃がさないわっ!」
 幾つも轟くエンジン音の中を、一発の銃声がすり抜けていった。

 弾丸はアサキの肩に命中。その衝撃で完全にバランスを保てなくなった車体。遂にアサキは蜘蛛の上から投げ出された。体を丸めて受身を取って転がり、素早く起きる。
「どこから‥‥!」
「そんなこと気にする暇、あるの?」
 迅雷で追いついたルキアが自身の間合いを保ちつつ、SMG「ターミネーター」から100を超える弾丸を吐き出し、アサキの動きを阻害。

 バイクのサドルを蹴って飛び上がったのはミリハナク。
 そのまま剣を振り下ろしたが大きな動きをアサキは易々と避ける。そうこなくては、とミリハナクが微笑んだ。獰猛に、楽しそうに。
「ラストダンスのお相手をしてくださるかしら?」
「‥‥‥それも悪くないわね」

 言った瞬間、アサキの姿が掻き消えた。否、文字通り目にも留まらぬ速さで跳ね上がっていた。
「!!!」
 刹那ミリハナクが目にしたのは、紫‥‥殆ど黒と呼んで差し支えの無い、濃色のオーラを鎧の如く纏った少女。
 それが宙から堕ちる隕石のような凄まじさで落下。構えた盾もろともミリハナクを襲い、盾を持つ腕の骨を砕く。
 しかしミリハナクは盾を拾わず、美しく笑って細い剣を煌めかせた。
 リズムを狂わせては興が冷める。アサキとのラストダンス‥‥恐らく1分もないであろうその曲は、ミリハナク自身に走る激痛ですら止めることは許されない。

 百合歌、ルキア、クレミア、アルヴァイム、UNKNOWN、ジャック、ハンフリー、そして重傷の体を引きずり合流した武流、レインウォーカーから、アサキに向けて撃ち込まれる銃弾、熱線。跳弾がアサキの体を抉り、制圧射撃がその足を止めようとする。剣がアサキに挑み、血の華を裂かす。
 多くを避け、多くを食らい、多くを弾いてアサキが舞った。

 そしてそれに向かい合うのはやはり、ミリハナク。剣劇による煌きの数々は、半数が空を斬り、半数がアサキを裂いた。槍を棒切れのように軽々と振り回すアサキも、ミリハナクに、時に接近を挑むジャックやハンフリーにも電光石火の突きや薙ぎ払いで重篤なダメージを与えていく。その姿は天の使いか、地獄の魔物か。

 だがこの激しい曲にもクライマックスが訪れる。
 ミリハナクがアサキの槍をかいくぐる。
 最後に槍の穂先に腹を裂かれながらも、遂に剣がアサキの胸を貫いた。

「ごきげんよう。ディアフレンド」

 早朝の潮風が流れていった。