タイトル:傭兵慰労会マスター:KINUTA

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/07/18 23:41

●オープニング本文




 天気のいい日7月のとある日。
 傭兵たちはさる海辺に集まっていた。
 本日ビーチは貸し切り。食べて飲んで遊んでの慰労会のために使われる――常日頃頑張っている彼らのためにと、各界の有志が集まって、このイベントを開催してくれたのだ。

「おう、よく来たな」

 ミーチャもそのうちの一人。診療所を休み、屋台でトウモロコシなど焼いている。
 ペーチャは特に何もしていない。パラソルの陰で涼しげに、ジュースなど飲んでいる。

「ぼくは規定の分担金出してるからね。これ以上何をやる義務もないよ」

 渚できゃあきゃ遊んでいるのは小さな双子、ポールとポーレット。傭兵であるということで参加してきたレオポールが、連れてきたのだ。よちよち歩きのジャンも、母親に手を引かれ、海を堪能している。
 本来なら彼も一緒になって遊んでいるはずなのだが‥‥。

「あ‥‥ええと、これはこれはお義父さん今日はなんでこんなところにいるんですか遠い遠い月まで行っているはずでは」

 目下舅である巨大なパンダ男に睨まれていた。

「日帰りでな。大体わしも傭兵じゃからいておかしいことはないと思うがな」

「ええはいそうですおかしくないですね。おかしくなさすぎておかしいくらいでおかしくないですおかしいです」

「どっちじゃ!」

「キャンウォンウォン」

 見苦しく脅えるレオポールを見かねたのか、息子レオンが寄ってきた。

「おじいちゃん、来たんだね」

「おおレオンか。うむ。たまにはわしも休みをとろうとな。ちょうどいい。お母さんと皆で来なさい来なさい。マグロを食べさせてあげよう。いいのが手に入ったからな」

 とのたまう彼の手には、2メートル級の本マグロ。
 買って来たのか捕って来たのか定かでないが、かなりお値打ちな代物だ。娘と孫かわいさに準備して来たものらしい。

「あ、これはごちになりますお義父さん」

 一応尻尾を振ってみせるレオポールにパンダは、間髪入れず歯を剥いてビビらせる。
 とはいえ追い払わずマグロからくりぬいた目玉をやるあたり、勘定には入れてやっているらしい――多分。一応。


●参加者一覧

/ 百地・悠季(ga8270) / 最上 憐 (gb0002) / 平野 等(gb4090) / 美楚歌(gc3295) / 狗谷晃一(gc8953

●リプレイ本文

「百地様、本日はお招きいただきありがとうなのであります」

 頭を下げる美楚歌(gc3295)に、百地・悠季(ga8270)は笑って手を振った。
 マリンカラーのロングパレオにカーディガンをひっかけ、大き目のパラソルを持ち、日焼け対策はばっちりな格好だ。

「やだ、いいわよそんなの。あたしは誘っただけで、主催してるんじゃないんだから」

 彼女の腕に抱かれている赤ん坊の時雨は、セパレート水着に日除けを兼ねたラインパーカーを着用。デザインは明るいオレンジの横縞。黒っぽい色だと熱がこもりやすいから、という配慮である。

 白い砂浜に、喧噪に、寄せては返す波に、興味しんしんな様子。頭をなでられながら周囲を見回している。

「そろそろこの子も這い這いが盛んになってきてね‥‥それは良いんだけど部屋の中だけで遊びまわすだけなのも、なんだからね。丁度良いタイミングでこの慰労会のお誘いが来たってわけなの。赤ちゃん連れて来ていいのかなって思ったけど‥‥他にも結構親子連れが来ているみたいだから、大丈夫よね」

 彼女の前をパンダとコリーと奥さんと子供4人がぞろぞろ通り過ぎて行く。
 そのうち双子が列から離れ、近寄ってきた。

「あかちゃんね」

「あかちゃんだ」

「‥‥そうよ、あかちゃん。触ってみるかな?」

 悠季は気前よく時雨を近づけ、触らせてあげる。
 その光景に目を細める美楚歌は、並んでいる屋台へ首を向けた。

「‥‥ん。とりあえず。大盛りで。頂戴」

 香ばしい匂いを漂わせる焼きもろこしと焼きイカと焼き鳥を、焼きそばとお好み焼きを、片端から最上 憐 (gb0002)が強奪している。ブラックホールとまごう胃袋の中へ。
 生産者のミーチャは汗びっしょりになりながら、相手を睨みつけた。

「おい、まだ食うのか‥‥」

 憐が頷きながらスイカにストローを刺し、丸まる1個中身を吸い出す。

「‥‥ん。どんどん。じゃんじゃん。焼いてね」

 紙皿にてんこもりな焼きラーメンを丸のみに近い形で消滅させる。

「‥‥ん。大丈夫。食材を壊滅させたり。生のままは。食べないよ。‥‥多分。おかわり」

「もう壊滅に近いがな、こっちは。冷蔵庫が早くも空っぽだぞ‥‥ちょっと待て。食材仕入れてくるから、よそで食ってろ」

「‥‥ん。了解。なるべく。早く。カムバック」

 走って行くミーチャに手を振り、憐は別の屋台に移動。そこの店員の顔が引きつるのを見、美楚歌は、お手伝いに繰り出すこととした。生来世話好きなので、招かれたからといってもじっとしていられないのである。
 対照的に平野 等(gb4090)は、お客様として存分に楽しんでいた。

「慰労会だなんて素敵だね! ありがたく参加させてもらっちゃうぜぃ!」

 青い海、青い空、白い砂浜=ビール。それが彼の方程式。
 というわけで、近くにある屋外ビアガーデンに入る。

「おじさーん、ギンッギンに冷えた生ちょうだい、生!」

「あいよー!」

 大汗をかくジョッキが運ばれてくる。あおると、歯に染みるほど冷えたビールが喉を潤す。

「かーっ! うまいっ!」

 口元に泡をつけ歓喜の声を上げ、等は、ふいと不満げに呟いた。

「しかし‥‥サービスのつまみが枝豆だけってのもなあ‥‥」

 何か頼もうか。
 迷っていると店内に、狗谷晃一(gc8953)が入ってきた。

「慰労ねぇ。労われる程、大した事をした訳でもねぇんだがな」

 堅苦しげなことを言いながら彼は、店員に注文を。

「冷や酒を頼む。つまみはそうだな‥‥塩辛で」

 夏の海の浜辺で冷や酒に塩辛‥‥微妙にミスマッチ。
 思っているところ視界の端に、マグロをぶら下げて行くパンダの姿が入り込んだ。
 等は早速腰を浮かせる。

「おー、浜辺でマグロをつまみにビール飲むとか超贅沢じゃない。新鮮なマグロなんて滅多に味わえないし?」

 たかりに行く気満々で。



「あれ。ポールとポーレットどこ行った」

 マグロの目玉の入ったビニール袋を下げ、げんなりしていたレオポールは、鼻を持ち上げた。
 気づくと列から双子の姿が消えている。見ればちょっと離れたところ、ビーチパラソルの影の下。悠季、時雨とたわむれていた。

「あら、あんなところに‥‥呼び戻してくるわ。あなたはお父さんと一緒に、先に‥‥」

 引き返しかけた妻を、彼は、あわてて引きとどめる。義父と二人きりになどなりたくないというのが、理由の大部分だ。

「いや、いい、オレ呼び戻すから!」

 砂を蹴立てて走って行くレオポール。
 彼と入れ替わるよう、憐がパンダに近づいてきた。
 ちょんちょん腹をつついて注意を向けさせ、ひそひそと切り出す。

「‥‥ん。パンダの人。マグロを。くれると。日頃の。レオポールの。活躍を。教えてあげるよ」

 大食漢の彼女が無防備なマグロに無関心でいられるわけがない。屋台はひとまず後回しにし、駆けつけた次第だ。

「なに‥‥奴に活躍の場などあるのか?」

 パンダは彼女の頭をなでてやる。見かけによらず子供好きらしい。幼児のジャンもおんぶ紐で、背中にくくりつけている。

「まあ、お父さんたらひどいわ。そんなこと言ったら可哀想よ。レオポールはとても真面目に頑張ってくれてるのよ。すごく一生懸命に」

 奥さんほどひいき目では見られないが、憐も一応フォローに回る。

「‥‥ん。レオポールは。相変わらず。ヘタレだけど。僅かに。少し。微妙には。マシになって。来てるよ」

 ウザさわやかさを盾にして、等が乗り込んできた。

「ご相伴に預からせてもらいます! ごちになりまーす!」

「‥‥ん。どなた。かな」

「あ、俺等です等。マグロ大好きな等」

 母の横にいたレオンが、半眼でぼそっと呟く。

「答えになってないよね‥‥」

 そんな会話が行われているとつゆ知らないレオポールは、双子を迎えに行った先で、時雨から攻撃されていた。

「いででででででで」

 浅瀬に座っている彼女は波の感触よりも、彼の尻尾が気になってならない様子だ。赤子の手というのは加減を知らないだけに、なかなか侮れない力を持つ。

「あら、ごめんなさいね」

 悠季は急いでちいちゃな指をはがしてやる。
 レオポール、一安心。

「いや、いいよ。うちの子も上から下まで、このくらいのときは、尻尾掴みたおしてたから」

「あら、そうなの。やっぱり気になってしまうのね、家に違う生き物がいると」

「‥‥同じ生き物だって‥‥いいけどよ。じゃな」

 子供を連れて引き返して行く犬男。
 見送る彼女の元に、ビールサーバーを背負った美楚歌が戻ってくる。

「百地様、しばらく時雨様は私が見ていましょうか?」

「あら、いいの? 仕事の途中でしょう?」

「大丈夫ですよ。もうこれも半分くらい空になりましたし‥‥それに、あちこちついでに連れていってあげるのも、いいかと思いまして。どうぞゆっくりしててください」

「そう? それじゃあ少しお願い出来るかしら。あ、日傘持っていくといいわ。炎天下だもの」

 育児からしばし解放された彼女は、涼しい影のあるビアガーデンへと移動する。
 そこに、複数の参加者と酒を飲み交わしつつ語らう晃一の姿が。

「‥‥なるほど。傭兵も自由に思われているが、楽ではないな」

 などと言いながら彼、相手の肩を叩いている。

「時には思うように動いてみるのも大切だ。行動しなければ結果は出ん。良い結果も悪い結果も、結果には変わりない」

「なにをしているのかしら?」

 百地の質問に、一献傾けながら答える。

「メンタルケアを学ぶ一環として、傭兵達の愚痴を聞いてみる事にしているんだ。お前もどうだ?」

「‥‥そうねえ‥‥ま、とりあえずあたしも一杯くらいならいただきたいわ。いいかしら」



 海の家。
 さばかれたマグロは皿の上、きれいに骨だけ。頭さえも。どんな獣が食べたとしても、これだけ片付きはしまい。

「‥‥ん。よき。お味。でした、ごち。でした」

 それをなしとげたのは、手を合わせる憐。

「‥‥オレももっと肉が食いたかった‥‥」

 彼女はみみっちく尻尾をしゃぶっているレオポールの襟をぐいと引き、頼み込む。

「‥‥ん。レオポール。ちょっと。来て。食材を。捕りに。海に。行くから。餌として。来て」

「ヤダ。オレここでゆっくりする。今日は休みだもん」

 回答に一拍置き、浜辺へ一直線。

「‥‥ん。面倒なので。引きずって行く。逃げても。良いよ。逃げられるなら」

 波打ち際で急停止。
 ワオワオ騒ぐ犬男を砲丸投げの要領で、はるか沖合へ全力投球。
 彼はしぶきを上げ、たちどころに泳ぎ始める。三角の背ヒレ多数から追いかけられて。

「‥‥ん。そうだ。獲物を連れて。戻ってこい。レオポール。サメは。ふかひれ。湯ざらし。そして。カマボコ」

 鎌を構えて岸で待ち受けるところ、パンダ舅が観戦に来た。腕組みし、渋い表情だ。

「泳ぎ方がなっちゃおらんな。波を立てるばかりでスピードが出ておらん」

 下から彼を見上げ憐は、ちょっと考えた。

「‥‥ん。丁度良い。機会だから。パンダの人が。直接。指導すれば。ココは。貸し切りだし。広いし」

「‥‥それもそうじゃな」

 ばっと上着を脱ぎふんどし一丁になったパンダは、巨体を海に投じた。猛然とレオポールに向かって泳ぎ始める。

「サメごときに逃げるだけとは何事じゃあ! 戦わんかあ!」

「キャーンキャンキャンキャン!」

 前後から挟まれレオポール、横に逃げる。遊泳速度、ぐんと上昇。

「あなたー、がんばってー」

「まあ、がんばってね」

 妻と長男は声援を送る。
 双子は砂のお城を作り、ジャンは美楚歌に連れられた時雨と遊んでいる。
 等はそっと場から離れた。和気藹々とした団欒の雰囲気になじめなくて。
 不快というわけではない。だが、これまでの人生に家族というものを味わう機会がなかったため、それらとどう接したらいいのか分からないのだ。
 風下に行き、一人タバコを。
 ふらりと晃一の元へ。

「いいかな? 俺も」

「もちろんだ」

 許可を得、彼は話し出す。自嘲交じりに。

「バグアを蹴散らしたら、平和な時代が来るんだろうけど、そん時に、バグアを殴り倒すしかしてこなかった俺みたいなのに居場所はあるのかな? 人を愛する心も何かを悲しむ心も欠落してる俺です。愛も悲哀も理屈ではわかるけど。実感なんて無い。表面では誰とでも仲良くできるけど、所謂、社会不適合者なのは確実なわけで‥‥」

 医者の答えは簡潔だった。

「表面だけでも周囲と仲良くやっていけるなら、社会不適合者ではない」

「‥‥そう?」

 脇から悠季が口を挟む。

「そうよ。安心なさいな。世の中の人間全部とは言わないけど、多くがそのレベルで生きているのよ」

 丸まる納得は出来ないけれど、何割か心が軽くなった気がした、等である。



 サメ。大イカ大ダコ、さらにカツオ。

「‥‥ん。レオポールの。尊い犠牲に。よって。色々と。捕れた。大漁。ほめて。つかわす」

 憐の言葉に濡れ雑巾なコリーは反応しなかった。
 彼女は起こした焚き火で炙ったイカ肉を、端から貪り滅していく。
 夜空に花火が上がり始めた。空中でそれが爆発するごと砂浜は、赤や黄色、青や緑に染められる。

「‥‥もうおねむ? 今日は一杯遊んだものね」

 オレンジジュースを飲んだ後コテンと寝込んでしまったわが子を抱き、悠季が優しく頭を撫でる。
 髪の毛はふわふわ微妙に天然パーマ気味、たんぽぽの綿毛のよう。

「そのうちストレートになると良いわね」

 やっとゆったり慰労会を楽しんでいる美楚歌は、穏やかに空を眺める。

「きれいですねえ」

 少し飲み過ぎたかほろ酔い加減の晃一は、無言。
 そうこうしているうち、ミーチャがやってきた。

「おい、手の空いてる奴いるか。打ち上げちょっと手伝ってくれ。これから十尺玉いくからな」

 憐は再度、レオポールに話しかける。

「‥‥ん。花火。レオポールも。ついでに。打ち上げて。みようか?」

 顔も上げずに回答。

「ヤダ。もう寝る」

 しかしそれはたちまち悲鳴に変わった。パンダがレオポールの尻尾を掴み、発射台があるほうへ引きずっていったのだ。

「まだ動けるはずだ。手伝いくらいしてこい」

「キャインキャインキャイン」

 連れて行かれてからほどなくして、続けざまな大輪の花。天から落ちてきそうな枝垂れ柳。

「‥‥ん。こうして。レオポールは。夏の。夜空に。散りましたと。勝手に。ナレーションを。入れてみる」

 うそぶく憐は、タコの刺し身に移っている。
 彼女らから少し離れたところで、等が呟いた。悲愴感もなにもない、素直な心情を。

「いっそ、燃え尽きられちゃえばいいんだけどな。花火みたいに」

 けして、誰にも聞かれないように。