●リプレイ本文
ナイトフォーゲルXN−01改ナイチンゲール――愛称『オホソラ』の最上 憐(
gb0002)が、あたりを見回しコメントを述べる。
「‥‥ん。周りが。予想以上に。真っ黄色だね。オホソラの。ウサ耳が。黄色くなる前に。倒したい所」
モスキメラの姿に、ナイトフォーゲルMX−Sコロナのジャック・アマン(
gc1063)は、興奮気味だった。
「Oh! ジャパンのモンスター・ムービーそっくりネ!」
ナイトフォーゲルPT−120ニェーバ――愛称『もふらん』にいるフェンダー(
gc6778)は、文句をたれる。
「まるで我のような高貴で豪奢で愛される美しいパリに何してくれるのじゃ、このモスキメラ略してモス「シ! そこかラ先は口にしてはいけないネ! その筋かラ著作権使用料もぎ取られてしまうのコトヨ!」
台詞を途中からもぎ取ったのは、ナイトフォーゲルPT−056ノーヴィ・ロジーナの楊 雪花(
gc7252)。
「何でしゃがんでんだ雪花。骨でも落ちてるのか?」
「違うヨ。もしあのキメラがセオリー通り作られているとしたラ、小美人、コスモス姉妹もいるハズ‥‥それさえ捕獲すれバ戦わずしテ奴を意のままに操れル! だから探すの手伝うネ」
「えっ、本当か。探す探す!」
「WAO! 私もそれ見てみたいヨ探すヨ!」
地面を探り始めるレオポールとジャックの姿に、ナイトフォーゲルCD−016Gシュテルン・G――愛称『シレンス』のセシリア・D・篠畑(
ga0475)は、無表情な視線を送るのみ。
(‥‥パリ‥‥フランスは、私の‥‥故郷‥‥と言ってもいいのか、な‥‥。‥‥育った院は、パリからは離れているけれど‥‥。‥‥綺麗な街‥‥これ以上汚されるのは余り良い気分ではないですね‥‥)
物思いにふける横顔をわずかに崩したのは、ナイトフォーゲルS−02リヴァティー――愛称『リベルテ・ムスクテール』にいるピエール・アルタニアン(
gc8617)の、暑苦しい叫び。
「くっ、俺の‥‥いや、俺たちのパリがあのような蛾などに好き勝手されてたまるものかよ! 必ずや奴を仕留め、花の都パリに美しき景観を取り戻してみせる!」
彼は愛するパリを汚されたゆえ、普段の依頼よりもハッスルしていた。モスキメラに説教を始めんがばかりの気迫だ。
ナイトフォーゲルCD−016Gシュテルン・G――愛称『クリナーレ』のグリフィス(
gc5609)もまた、憤慨していた。この地が、今はなき家族との記憶が詰まった場所であったから。
「これ以上、街を‥‥俺の思い出を汚させてたまるかよ!」
そこに上空から、影が差す。ソーニャ(
gb5824)が操るナイトフォーゲルMk.4D改ロビン――愛称『エルシアン』の機影だ。
「皆さん、お手伝いしましょうかー?」
彼女は付近を飛行中、たまたまモスキメラの姿をレーダーに捕らえたので、飛び入り参加してきたのである。
味方が増え負担が減ったので、レオポールは大喜び。
「ウォーン。クォーン」
その浮かれように、憐がクギを刺す。
「‥‥ん。今日の。レオポールの。活躍度に。よっては。私の。食費を。ツケる事になるよ? 頑張って。戦ってね」
「止めろよ! オレの今日の稼ぎが1日で消えるじゃねえか!」
「イヤー、きと1日も持たないヨ。一瞬ネ、一瞬。ア、もちろんワタシには本場のロマネコンティおごてくれるんだよネ?」
「おごらねえ! オレは絶対おごらねえ! 金ためて一戸建の新築立てるんだから! 奥さんの実家から遠いところに!」
「‥‥ん。その夢。もう諦めたが。いいと。思うけど。とりあえず。作戦には。レオポールが。突っ込んで。敵が来たら。レオポールごと。血祭りにあげるとか。いうのを。提案する」
提案に吠えまくるレオポールの声を聞きながら、フェンダーはふと、首を傾げた。
「ところでレオポール殿はわんこなのにどうやってKV操縦しているのだろう‥‥」
セシリアが落ち着いた声で反問する。
「‥‥わんこなんですか、彼は‥‥」
「うむ。そうでないという保証はどこにもない気がするでな。ま、とにもかくにもあやつを倒すのじゃ」
●
モスキメラはシャイヨー宮に思う存分鱗粉を振り撒いた後、凱旋門方面に向け低空飛行を始めた。
その触覚の先を突然、憐の「スナイパーライフルR」による威嚇射撃がかすめた。
敏感な部分に刺激が加わったのがいやだったか、モスキメラは一旦前進を止め、ホバリングした。
町の人々は誘導により屋内に避難していたが、カフェテラスだの街路樹だのに粉が降りかかり、明らかに美観を損ねていく。
「はいはい、この先通行止めだよ!」
ソーニャが周囲を飛び回っているのも、キメラにはプレッシャーとなる。すれすれまで急接近され、下から突き上げられ――煩わしさから逃れるため、右方向へ旋回しようとするも、グリフィスの「レーザーバルカン」、及び「RA.0.8in.レーザーバルカン」に阻まれる。
「俺が生きていた証ッ! 汚させてたまるか!」
さりとて左に向かおうとすれば、ピエールが「20mmバルカン」を向けてくる。
「絶対に凱旋門まではたどり着かせない。英雄ナポレオンの栄光を汚すような真似をさせてなるものか!」
ジャックの「ギアツィント」も脅しをかけてくる。
「BOY、カモーン!」
彼女はペイント玉を羽根目がけて打ち込んだ。粉が散るのを少しは押さえられるかと思って。
蛍光ピンクの斑点をつけたモスキメラ。背景になっているパリ風景との不協和音がものすごい。
その時、強烈な光が後方からさしてきた。フェンダーの「レーザーシールド」から発されるレーザー光線だ。
「でかい蛾なのじゃ‥‥光で誘導できないものかのう」
傍らで雪花が、妙な歌を歌い始める。
「モ●ラヤ ●スラ♪」
「‥‥雪花殿、それは一体なんじゃな?」
「いヤ、小美人がいなかたカラ、こちらが代わりにやるしかないかト。レオポール、さぼらず一緒ニ」
「‥‥ワォワォン〜ワオ〜♪」
光にか歌にか定かでないが、モスキメラは食いついてきた。
モスー
「のおっ! 待て待ていきなり方向転換するでない!」
急接近を真正面からは避けたものの、かわしきれず。
「体当たりで粉だらけじゃ‥‥とほほ‥‥」
しかしへこんではいられない。盾をかまえ直した彼女は、モスキメラを誘導、引き返させる。
他の人員も追跡態勢に移った。
満を持しセシリアが「スパークワイヤー」を撃ち出す。
モスキメラは暴れ引き千切ろうとするが、一層絡んでしまい、取れなくなってしまう。
「一番近いのはトロカデロだ、トロカデロ広場に落とそう! フォッシュ元帥騎馬像に気をつけてくれよ!」
「‥‥了解‥‥」
無表情にピエールへ返したセシリアは、広場へ牽引。黄色く染まった広場上空まで来たところで、早速打ち落としにかかる。 まずは憐がライフルによる射撃で、羽根に無数の穴を空ける。
「‥‥ん。サクッと。害虫退治して。パリを。食べ歩く」
飛行能力を大幅に減じさせたところでグリフィスが、追い打ちをかける。
「あんたらにやるエサはねえが‥‥代わりに鉛弾のプレゼントだ!」
「Δ・レーザーライフル」と「スナイパーライフルD−02」により、羽根がぼろ雑巾と化す。これではいくら頑張っても滞空不可能。
止めにジャックが「光輪「コロナ」」で翅枝を切断する。
「GO TO HELL!」
広場の石畳の上に、膨れた巨体が落ちてくる。
振動でフォッシュ元帥騎馬像が揺れ、わずかに傾いたようだったが、それ以上の被害は出なかった。
フェンダーは毛の密集したお腹周辺を離れたところから、「ハルバード」でつつくに留める。「オーブラカ」は使わない。巨大蛾の中身が弾けた様を想像するに、鳥肌立つほどおぞましかったもので。
「レオポール殿、前に出るのだ! 我はか弱い女子なのでキモイ物は苦手なのじゃ!」
「オレだって嫌いだよ! きゃあ! 複眼がこっち見てるこっち見てる!」
「何を情けないことを! 主様も男子は前に出るべきといっておられる、行くのじゃ!」
渋々近づき脚部を剣でつついてみたレオポールだが、威嚇のつもりか激しく腹を震わされたので、大慌てで飛びのいた。
彼らに任せていたら明らかに日が暮れそうだ。だが誰も任せる気などないから、問題ないだろう。
ピエールは「ユニコーンズホーン」を構え、モスキメラの頭部目がけ、真っすぐに突き出した。
刺されたところからどろっと黄色い体液が吹き出す。
「う‥‥キモさ倍増じゃ」
フェンダーは下がった。
「‥‥別にパリを汚されて、気分を害してなどいませんから。ええ。いませんとも」
「ああ、パリまで来てくれて大歓迎だ‥‥お礼に穴開きチーズにしてやるよ!」
セシリアとグリフィスの連携攻撃で他のところからも黄色いものが吹き出し始めたので、さらに下がった。
「‥‥ん。運んで。片付けやすい。よう。分割。しておく」
憐が「ツインブレイド」で切り離した部品がぴくぴく動くので、後一声下がる。
「うう‥‥死んでまで精神的ダメージを及ぼすとは‥‥だから我は虫など嫌いなのじゃ」
雪花はというと、「無銘」 で憐の手伝いをする合間、周辺に降り積もった鱗粉についてひと思案。
「このまま片付けてしまうのも勿体ないネ‥‥何か適当な口実つけて売れないかナ」
ゴウン、と上空から空気を切り裂く音がした。
見上げればソーニャが、スタント飛行で文字を描いている。
Victoire
ジャックが高く口笛を吹く。
「しゃれたことするネ」
●
エッフェル塔についた繭をはぎとり、モスキメラの残骸とともに焼却処分。ついでにセーヌ川のほとりでKVの簡単な洗浄も済ませた一行は、いい機会だからということで、各々パリ散策に出掛けることとした。
「‥‥ん。食べ歩きに。出発。パリを。沢山。色々。食べて来る。制圧して来る」
雄々しく言い放ちレストラン街に出掛けて行った憐はどうしていることか。
思いながらジャックは、セーヌ遊覧船からの景色を楽しむ。
解説役はソーニャだ。ジャックからパリ名所とエルシアンの2ショット写真を撮ってもらったお礼に、案内係を買って出ているのである。
「狭い地域ですけど、セーヌ川河岸の歴史的建造物群は、世界遺産の宝庫ですね。右岸からルーブル、チュイルリー公園、コンコルド広場、マドレーヌ寺院、シャイヨー宮。で、左岸にオルセー、元ブルボン宮、アンバリッド。それから中州に、ノートルダム大聖堂、コンシェルジュリー、シテ島」
「オー、どれも初めて見るヨ。ビューティフル! ‥‥所々黄色くなってるところがあるのが残念だけド。で、ルーブル美術館はどこでショウ?」
「えーと、ルーブルはですね、ほらあの建物‥‥所蔵品の量がすごいですよ。たっぷり一日かかっても、見切れないほどです」
「オー‥‥ではルーブル美術館は戦争が終わったらゆっくり見ますデース☆」
「おお、ここがうわさの蚤の市かや。繁盛しておるのう。なんだか我、オーシャンゼリゼな気持ちじゃ」
骨董から日用品まで並ぶ露店の間を、心なし周囲を見習い、胸を反らし歩いて行くフェンダー。
「ちょとそこ行くときめき小悪魔マドモワゼル。いい美容品あるよ買わないかイ?」
「む。我のことじゃな‥‥て、何をしておるのじゃ、雪花殿」
雪花の露店にずらりと並ぶ容器を手に取り蓋を開けたフェンダーは、半眼になった。
「雪花殿‥‥これは確かあの蛾の鱗粉‥‥」
「ノーノーノー人聞き悪イこと言わないネお客サン。アンチエイジングに効く黄金花の花粉ですヨ」
最高に信用ならない口上を述べる雪花。そこにセシリアの声が。
「‥‥其処の犬の方‥‥お土産でも買っていかれたらどうでしょう‥‥? ‥‥これとか、それとか‥‥」
彼女も来ていたのかと声がした方に向かってみるフェンダーは、とある店の前で足を止める。山と積まれたバッグの中に、ひときわ毛つやのよさそうなのが。
「おおここにブランド物っぽいふかふかバッグが‥‥」
と思って引っ張ったらレオポールの耳だった。山の後ろでしゃがんでいたので間違えたのだ。
「ってレオポール殿じゃ、そうじゃ、ちょっと毛を分けてもらえんかのう? ストラップなら作れそうじゃで」
「なんでだよ。やだよ。毛が減ると切なくなるもんね」
「ケチ臭いのう‥‥で、その抱えているものはなんじゃいな」
「ウン。お土産」
やたら大きい鳩時計だの絵皿だの、手作り感漂う人形だの昔々の糸車だの、微妙なものばかり。
(我ならくれると言われても、いらんな‥‥)
思いながらふと目を横に向けると、セシリアが涼しい無表情で、ターコイズのブレスレットを漁っていた。
「‥‥私も折角ですので、友人にアクセサリーでも買っていこうかな‥‥」
推薦するお土産と自腹購入するお土産では、選考基準が別物であるらしい。
はたと気配を感じ振り向く。そこにはカメラを構えた雪花が。
「何しておるのじゃ、雪花殿」
「ヤ、LHKサンから頼まれ仕事されていたの思い出しテ。『万国触れ合い街歩き』のサ。この番組基本は演出とカ、やらせは無いんだけド、でもパリの街角ときたラ御主人と散歩する犬の絵が付き物じゃなイ?」
「ほう。すると我がご主人ということか。よいであろう」
「話分かるよフェンダーサン。ではあそこの角からレオポールを連れてさっそうと歩いてきて欲しいネ。ア、セシリアさんはお買い物する現地のパリジェンヌてことでよろしいカ?」
「‥‥よいでしょう‥‥」
「おいこら、オレの意見も聞けよお前ら」
エッフェル塔から見下ろすパリの市街は美しい。
「家族と共に昇ったこの塔にまた来れるとはな」
展望台のレストランでグリフィスは、一人ごちる。シュークリームを前に。
「懐かしいな‥‥前は思い出せなかったが、今なら昨日のことのように思い出せる‥‥家の親父がこのシュークリーム好きだったんだよな‥‥しかし見晴らしいいなあ」
相席でワインをたしなむピエールは、ふっと笑った。
「まあな。ここがパリの景色を最も楽しめる場所だ」
しかしいまいち決まらない。隣席に憐がいるからだろう。
彼女は出される料理を次から次に食べまくっていた。帆立貝とエビのテリーヌ、鴨のロースト、ムール貝のワイン蒸し、チョコレートのタルトレット、なんでもかんでも吸い込んで行く。
「‥‥えーと、憐さん。市街に食べに行ったんじゃなかったかい?」
「‥‥ん。そう。半分は。制覇したから。ここらでひとつ。口直し。パリは。おいしいものが。多いよね。鵞鳥の丸焼き。マカロニ入りポタージュ。豚肉のエピネ。兎のバター焼き。牡蛎。他にも。諸々。諸々」
間を置いて、グリフィスが苦笑する。
「今は戦いのことも忘れよう‥‥」
それからシュークリームをあんぐりかじる。口一杯でカスタードクリームを味わうために。