タイトル:犬と朝顔マスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/08/30 22:32

●オープニング本文


 レオポールは困っていた。
 彼の息子レオンはこの夏、とある学童キャンプに出かけ、4日間ほど留守にしていた。その間父に、自由研究である朝顔の世話を任せて。
 だがレオポール当人がそのことを思い出したのは、レオンが夕方帰ってくるという今日この日になってから。

「やばい、忘れてた!」

 慌てて庭を確認してみると、晴れの日続きだったこともあり朝顔は、見事にしおれていた。
 今更ながらざぶざぶ水をやってみても、復活する様子がない。
 レオポールは焦った。このままではレオンががっかりどころか怒ることは目に見えている。父親失格だのなんだの言われまくるに違いない。
 そんなわけで、舌を出して考える。

「‥‥よし。代わりのを買いに行こう」

 安直な解決法を見出した彼は、早速ホームセンターまで出かけた。
 しかしもう時期が過ぎかけているためか、朝顔の鉢植えはなかなか見つからない。
 途方にくれ、よそを当たろうと店を出たところ、運良く道端で朝顔売りを見つけた。

「お客さん、朝顔いらんかね〜」

 行商人のおばちゃんはサングラスに日よけ帽子をし、口元を布で覆い、長袖に手袋までしている。
 別に怪しいという印象はない。紫外線降り注ぐこの季節、この手のファッションでいる女性が多いものだから。
 とりあえずレオポールと似たようなことをしてしまったものか、小学生ほどの子供が多く買いに来ていた。そこに混じって彼も一鉢購入。これで安心だと家に持ち帰り、もとの朝顔と置き換える。

「レオポール、どこに行っていたの?」

 妻の声に振り向く。

「あ、メリー。いや実はな‥‥」

 と、そのとき。

 ぱく。

「‥‥ン?」

 違和感をもって振りむくと、朝顔の花が尻尾に噛み付いていた。鉢底から出た根っこでもそもそ動き回りながら。

 ご近所に、犬が殴られたような悲鳴が響き渡る。


●参加者一覧

時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
フェンダー(gc6778
10歳・♀・ER
楊 雪花(gc7252
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

 フェンダー(gc6778)は、しかつめらしく言った。

「なぜレオポール殿は店に行っただけでキメラに遭遇するのかや? これではまるで某祖父が偉い探偵とか某体は子供探偵が常に事件に遭遇するような感じではないか」

 楊 雪花(gc7252)が答える。

「恐らく全身から漂う負け犬臭のせいヨ。ホラ、動物は必ず自分より弱いものカラ襲うでないカ」

「むう。夢の無いおっしゃりようなのじゃ。能力者とバグアとが引かれあうとかなんとか、言い方はあろうに」

「言葉変えても意味は一つヨ、フェンダーサン。しかし肉食アサガオて薬効高そうだヨ。どーにかしテ儲けられないかネ、原価タダだしサ」

 最上 憐 (gb0002)が、口を開く。枯れてしまった本物の朝顔を横目に。

「‥‥ん。何にしても。レオポールから。口止め報酬を。もらわねば。レオンに。ばれたら。大目玉。くわばら。くわばら」

 時枝・悠(ga8810)は首を傾げる。

「そこまでのことかね。枯らされたとしてもだな、宿題を出さない言い訳が出来たなー、くらいの感じじゃないか? 小学生なら。大体夏休みも後一週間ないんだから、観察おおかた終わってるだろ」

「まあ悠殿ならそうかも知れんが、レオン殿は真面目じゃでな。やはりがっかりすると思うのじゃよ」

「詳しいネ、フェンダーサン。個人的にお付き合いでもあるのかネ?」

「ば、馬鹿を言うてはいかんのじゃ雪花殿。我はなにも特別にお付き合いなどしておらん。ゆくゆくは分からぬがの」

「‥‥ん。なんだか。野望。満々に。見えるのは。気のせい。かな」

「しかしアサガオかー。小学生の必修科目だよなあ。他にホウセンカやヘチマなんかも育てたっけか。懐かしい。そう言えば昔そんなのやったなーってだけで、そんな大層な思い出は無いんだが‥‥最後どうしたっけかな、あれ」

 そうした彼女らの世間話に、キャンキャン吠えてかかる犬。もとい男。

「お前ら話切り上げろよ! 助けろよ! 取れねーんだよ! 何しに来たんだよ!」

 朝顔に食いつかれ走り回った揚げ句縁側に倒れ込み、息を切らしている姿を前に、フェンダーがぽんと膝を打つ。

「おお、我の天才的な頭脳に一句閃いたぞよ。レオポール 殿も歩けば キメラに当たる のじゃ。字余り」

 舌をはみ出させているレオポールは恨めしそうに唸る。

「まあそう怒るでない。何事も前置きというものが要り用でな。とりあえずそこのレオポール殿に噛み付いている朝顔! その尻尾は我のものであるのでよけるのじゃ」

 フェンダーが早速朝顔キメラを引っ張る。だがはがれない。
 仕方ないので雪花も手伝う。
 それでも取れないので憐が加わる。
 なおかつ取れないので悠も加わった。レオポールを押さえる役で。

「いでででででで! ちょいギブギブギブ! 尻尾が千切れる千切れるギャー!!」

 レオポールはようやくキメラから解放された。朝顔の口の形に出来たハゲを、尻尾に残して。

「そう気に病むでない。雪花殿が後で毛生え薬を出してくれるでな。のう、元気を出そうぞレオポール殿」

 いじけてしまった彼をフェンダーが、もふりてがら慰める。
 その脇で捕獲した朝顔の葉と花を適当に摘み弱らせ、水入りのクーラーボックスにしまい込む憐。

「‥‥ん。レオポール。レオンに。密告されたく。無ければ。後で。何か。奢ってね?」

 悠は晩夏の青空を見上げる。

「まあ、良いか。とりあえずはアレだ、仕事だ。こんなのでも仕事には違いない」

 それに雪花も同意した。

「金になるなラ何でも仕事ネ」

 妻メリーがのんびり奥から出てくる。

「あら皆さん、麦茶は飲んでいかれませんか?」

「おお、かたじけないのじゃが奥さん、とっておいてくれぬかのう。さくっと回収したら戻ってくるで」



 虫取り網を手にした憐は聞き取り調査をしながら、町を探索。
 朝顔キメラの在りかを突き止めるのは結構簡単だった。何故なら隠れようとか全然してないからだ。

「今さっきそこの横断歩道を渡って行ったぞ」

「うちの子のビニールプールに浸かってた」

「水まきしてたら動いてホースに張り付いてきた」

 買われた先が気に入らなかったのかどうなのか、行く先々で普通に徘徊している。目撃情報多数。
 捕まえようとしてくる気配を察するのか、網を持って行くと、さっさと走って逃げようとする。
 だが能力者の反射神経は、朝顔の移動能力をはるかに凌駕している。

「‥‥ん。逃がしは。しない」

 鋭く目を光らせ、高速移動で網をバサリ。捕まえたなら適当に葉と花をもいで、クーラーボックスに詰めていく。
 虫取りとかしている気分だ。

「‥‥ん。水を。求めている。らしい。ということは。川とか。たくさん。いるかも」

 推理しながら彼女は、種苗店の前を通りがかる。
 そこでは先に来ていた雪花が、店主相手に聞き込みしていた。

「そうそウ、完全UV装備でアサガオの鉢植えを一杯持てるオバサンヨ。見なかたカ? おお、見たとネ。これは有益情報ヨ。で、どちに行たノ?」

 キメラ回収をしているようには見えない。
 憐は近づき、その旨質してみた。するとこんな答えが。

「もちろんアサガオ回収はやるのコトヨ。デモそれより大事なことが一つ有るネ。ソレはアサガオの売人をとっ捕まえることヨ。放っておいたらまた同じことが起こるシ、流通ルートも把握しないト! 主にワタシの幸せのためニ」

 どうやらまた何ほどか金儲けを企んでいるらしい。
 それはそれとして種苗店にはたくさん苗ものがある。
 この際だからレオンの朝顔の代用品でも探してやろう。ひとまず朝顔は見当たらないが、その他ならば、夏らしい植物がないでもない。
 思って憐は、店員に声をかける。

「‥‥ん。そこの人。少し。相談。ダメな。父親のせいで。子供の。自由研究が。死滅したので。ソレ。分けてくれないかな?」
「はい、えーと、このヒマワリですか」

「‥‥ん。お金は。後で。ULT経由で。ヘタレな。父親。レオポールに。請求で。おっけー」



 とある駐車場。
 悠がコンクリートにへばり付いているキメラを見下ろしている。

「おー。見事にカラカラ」

 逃げ出したもののうまく水を見つけられなかったらしく、炎天下で干からびている。
 レオポールから先にせしめていた手間賃でスポーツドリンクを購入し飲み残しをかけてやっても、音沙汰なし。
 無念の行き倒れという奴か。

「‥‥今年は暑いからなー」

 彼女は残骸をクーラーボックスに入れる。わさわさ動いて中から出ようとする奴らを押さえ、1匹1匹数を数え、再度蓋を閉めた。歩きながら無線を取り出す。

「あー、こっちは7匹回収した。1匹枯れてたけど。みんな何匹になってる? うん、うん‥‥」

 民家の軒先に朝顔が置かれていたので、立ち止まる。
 数秒見続けた彼女はふっと顔をそらし通り過ぎかけ、電光石火で振り返る。
 根で立ち上がり逃げようとしていた朝顔が、その姿勢のまま固まった。
 お互いの時間が止まる。
 そして動きだす。

「おいこら待てい!」



「ねーむれーよい子ー眠らないー悪い子ーは我がー永眠させるのじゃ♪」

 多々不穏当な歌詞であるが、フェンダーは気にしない。歌いまくる。
 ここはとある児童会館。周囲にはぐっすり眠り込んだ子供たち。そしてへたる朝顔たち。先程までどたどた大騒ぎだったとは信じられないほどの静けさ。

「これでよしと。回収じゃ。耳が無くても何故か効く、エミタって不思議じゃのう‥‥のうそうは思」

 振り向くとレオポールが鼻ちょうちんを出している。

「ええい、そちまで寝てどうするか!」

 彼を叩き起こしフェンダーは、朝顔キメラを回収したボックスを持たせ、次の場所まで移動。
 今回レオポールは荷物持ち、兼遠隔キメラ探知機。バイブレーションセンサーよりも遠くまで届く嗅覚はなかなか便利だ。

「なんかこっちから匂いがすんぞ」

 だが困ったことに尻尾の毛をむしられたことで、朝顔キメラに対し苦手意識をもってしまったらしく、察知しても先に進もうとはしない。

「帰ろ」

「こらこら、行くのじゃ。対象が子供だと考えるとこのキメラは、結構危険かもしれんのじゃから。そちも人の親、そのへんは理解しておるじゃろ」

 痛いところをつかれ渋々進んで行くレオポール。
 何やら前方から騒ぎが近づいてきた。
 複数の警官と雪花と、それらに追われママチャリで逃げてくる完全UV装備のオバサンだ。

「おお、2人ともいいところニ! 捕まえるヨ! そいつが売人ヨ!」

「え、え?」

 レオポールは咄嗟のことに理解が届かず、目をぱちくり。
 オバサンはその間に胸から短銃を取り出し、発砲。

「邪魔すんじゃないよ! どきな!」

 レオポールあやうし――とはならない。覚醒した能力者にとって、通常の弾丸など、豆鉄砲が当たったくらいのダメージしか及ぼさない。

「わ、なんだよ、危ねえワンワンワンワン」

 倒れもせず吠えるレオポールにオバサンはひるんだ。急カーブを描き、脇道に入りこむ。

「あ。こりゃ待てい!」

 フェンダーが追う。
 一瞬後、自転車とオバサンが宙を舞った――憐が、偶然そっちから来ていたのだ。
 落ちてくる両者を彼女は、難無く空中でキャッチ。

「‥‥ん。捕獲」

 こうして売人は警察へ。
 ちょうどそこに、悠も通りがかる。ぱたぱた暴れる朝顔の首根っこを捕まえて。

「あ、そっちも捕まえたんだ。ご苦労さん」



 期せずして合流し、改めて捕獲数を突き合わせた一同。

「えーと、全部で30匹で現在我らは26匹捕まえているのじゃからして、後4匹がどこかに潜んでいるという勘定になるのう。コンプリートまで後少しじゃ」

「もう4匹くらいほっといてもいいんじゃねえか?」

 明らかに嫌になってきているが故とおぼしきレオポールの意見は、却下された。
 水がある場所にいるはずということで、改めて川に向かう。
 しかし川といっても広い。丈の高い葦が茂っていて、視界も悪い。5人で探すのは不可能とは言わないまでも、かなり手間がかかりそうだ。
 等の理由を連ねて雪花はこう言った。

「ここは一ツ、水に落ちた犬作戦してみるネ」

「‥‥」

「ヤダナそんな目デ見ないでヨ、レオポール。別に川に投げ込むワケじゃないからサ。ただ河原をウロウロして鼻で探してもらうとそういうコトヨ」

「それがなんで水に落ちた犬なんだ?」

「言葉のあやヨ。言葉ノ。さあ行くネレオポール! 早く捕まえないとレオンが帰ってきてしまうのコトヨ!」

 それ一番困る。
 ということでレオポールは、葦をかき分け進んで行き、3分もしないうち、けたたましい悲鳴を上げた。

「ギャンギャンギャン!」

 4つの朝顔に体中食いつかれながら駆け戻ってくる。
 生き餌として彼はまこと効率がいい。



 夕方。
 家に帰ってきたレオンは、玄関前に並んでいるヒマワリ、ヘチマ、ゴーヤ、スイカ、メロン、ホオズキ等の鉢植えに目を丸くした。

「おう、帰ったかレオン」

「あ、パパ。ただいま。ねえ、これ何?」

「何ってお前、自由研究のために揃えてきてやったんだよ」

 普段こんなこと絶対しないのに何故。
 少し考えたレオンは、注意深く尋ねる。

「‥‥パパ、なんであちこち毛がむしられてるの?」

「あ、ああ。キメラ退治があってな。ところでお前フェンダーってそのあの、かわいくて頭よくて優しくて将来が超有望だと思わないか?」

 キョドる態度に台詞。明らかに不自然。

「‥‥いやそりゃ確かにかわいい人だと思うけどさ‥‥ところでぼくの朝顔は?」

「あるよあるよそれはこっちにあるよ」

 父の後について縁側のある裏庭に入ったレオンは、なお不審になった。
 朝顔の鉢が複数置かれていたのだ。どう見ても自分が置いていった奴でないのが。
 ますます訝しんでいると、ひょっこり憐が出てきた。
 彼女は立派な大輪の朝顔鉢を手ずからレオンに渡してくる。一言添えて。

「‥‥ん。ヘタレの。レオポールが。朝顔を。死滅させたので。代用品を。進呈するよ」

 静まる空気。

「‥‥ん。うっかり。レオンに。バラしてしまったけど。決して。故意では無いよ?」

「ウソつけええええ!」

「パパ、どういうこと!」

 力の限りの吠え声と詰問を後に、憐はさっさと家の中へ戻って行く。

「‥‥ん。依頼終了。とりあえず。レオポールの。家で。ご飯でも。食べて行こう」

 そこではすでに雪花とフェンダーと悠が、素麺をごちそうになっていた。レオポール家の小さな子たちと一緒に。

「結局悪事ハばれてしまうのコトヨ。仕方ないネ」

「ま、助け舟は後で出してやろうぞ。ところで雪花殿、そのむしったキメラの葉っぱと花の残骸をどうする気じゃな?」

「煎じて粉にしてコソーリ今回開拓したルートから好事家に横流しトカしてみるのコトヨ」

「いいのか、それ?」

「いいと思うヨ。だて生きたキメラじゃないんだかラ」

 会話を聞きながら憐は、ずぞぞと一気にすする。ボールいっぱいの取り分を。

「‥‥ん。夏も。そろそろ。終わり」

 妻メリーが庭先へ呼びかける。

「レオポール、レオン、あなたたちも早くごはんを食べないと」

 ツクツクボウシが鳴いている。