タイトル:テロリストのうたマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/03 01:18

●オープニング本文


 今日も今日とて、ドミトリイ・カサトキンことミーチャは忙しそうにしている。
 彼が現在居を構えている北国の辺地は、明治時代にロシアから入ってきた正教が根を下ろし栄えている地域。タマネギ坊主の小ぶりな教会が、家々の並ぶ通りの真ん中に収まっている。ためになんとなし雰囲気が生まれ故郷に似ていて、ミーチャは気に入っている。
 とにかく彼は買い物に来た。よく肥えた体をどたどた動かし、さる東北の中核都市まで。風邪で寝込んでいる神父に頼まれ、クリスマスの子供会に出すプレゼントを買い込むため。
 シーズンがらどこも大々的にクリスマスセールをやっていた。ツリーがあちこち飾られ、様々なものがぶら下がっている。道行く人々もそわそわしている。
 そんな雑踏の中、彼はバス停のベンチに座っていた青年から呼びかけられた。

「‥‥やあ、もしかしてミーチャじゃないか」

 ミーチャは首を向け両目をすがめ、驚いたような顔をした。

「なんだ、ロープシンか」

「ああ、そうだよ。覚えていてくれたか」

「まあな。なにしろ同級生だからな。しかしもう7年ぶりくらいか。こっちに移ってきたのか?」

「いいや、違う。立ち寄っただけで‥‥仕事だ。それにしてもミーチャは変わらんな。相変わらず丸々してて」

「まあな。これも遺伝だ。それはそれとしてお前、随分やつれてないか」

 ミーチャは眉をひそめて言った。
 確かにそこに座っている青年は頬がこけ、不精髭が伸びている。

「向こうで教師をしていたんじゃなかったか」

「ああ‥‥やめたんだ‥‥なんにもならないからな‥‥なあミーチャ、あの女の着ているものはどのくらいするだろうなあ」

 颯爽と歩いている婦人の姿を見やり、ミーチャは言った。

「さあ。俺はこういうのに詳しくないからな。だが、あれでも5000Cくらいするんじゃないか。この辺の相場だと」

「‥‥おれはここのとこ世界をあちこち回っててね、少し前、アフリカ近辺の工場で働いてみたんだが‥‥一日1Cさ、もらったのは。それでもその地域にしてみれば破格の高給だそうで、やりたい人間がなんぼでもいるんだ。くにもごたごた続きで‥‥相変わらず物乞いが裸足で歩いている‥‥」

 長々間が空く。

「‥‥続きはなんだ、ロープシン」

「別に。それだけの話だ‥‥ただ、これが一体どういうことなんだろうなと考えるとな‥‥畜生」

 緑色の目が憎悪を帯びてきた。

「なにもかもみんな、有無を言わさず爆弾で吹っ飛ばしてやれたらなあ」

 ここまで来ると、さすがにミーチャも相手の不穏さが気掛かりになってきた。

「しっかりしろ。疲れてるんじゃないかお前。昔から思い詰めやすいからな。診察してやろうか」

「‥‥いや、いいさ。気にしないでくれ。ここのとこ働きづめでな‥‥それじゃあ‥‥」

 軽く手を振ってバスに乗って行く姿を、ミーチャはしかめ面して見ていた。やはり、どこかしら悪くしていそうなのだがと。
 顔色も変にくすんでいるようだったし、あれは内臓器系がいかんのでないだろうか。
 そんなことも考えながらショッピングモールに入り、おもちゃ売り場に向かう。
 その途中彼は、可愛らしい愛玩犬がフロアをうろうろしているのを見た。
 警備員が追い出そうとしているのだが、奇妙に固まった姿勢で離れようとしない。仕方なく彼は抱いて連れて行こうとする。
 数秒そちらを見ていて、ミーチャは直感した。それが生き物ではないことに。

「捨てろ!」

 彼が叫んだ次の瞬間、轟音が響く。
 爆風と閃光。建物の一部が崩れる音。
 犬を抱いていた人間は木っ端みじんになり、周囲にいた何名かも巻き込まれた。
 反射的に耳を押さえ伏せたミーチャもある程度吹っ飛ばされたが、ぐらぐらしながら立ち上がる。近くにあった公衆電話から救援を求めるために。

 遠い爆発音を聞くロープシンは、流れて行く車窓を見ながら小声で歌っている。ロシア語で、カチューシャの歌を。

●参加者一覧

キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG
諌山美雲(gb5758
21歳・♀・ER
フォア・グラ(gc0718
30歳・♂・ST
吹雪 蒼牙(gc0781
18歳・♂・FC
和泉譜琶(gc1967
14歳・♀・JG
海原環(gc3865
25歳・♀・JG
不破 炬烏介(gc4206
18歳・♂・AA
ニコラス・福山(gc4423
12歳・♂・ER
ホープ(gc5231
15歳・♀・FC
セティ・D・バウンサー(gc6285
20歳・♂・SN

●リプレイ本文

 ショッピングモールは横長で五つの区画に分けられている。
 向かって左からA(食料品)B(雑貨)C(服飾)D(家具・工具一般)E(電化製品)。
 伝聞や映像などから、大まかな被害状況とキメラの姿形らしきもの、また爆発に至る過程を伝えられた能力者たちは、ペアを作ってそれぞれの区画に分かれ、被害者の救出、及び爆弾処理を行うことにした。

●A

 食料品エリア担当は、ニコラス・福山(gc4423)そして海原環(gc3865)だ。
 入ると陳列棚が吹っ飛び、壁にひびが入り、天井や床が一部崩れている。察するに、結構な威力の爆弾らしい。

「‥‥こうくるとプリンも全滅かな、たまちゃん」

「博士、プリンなんて後にしてくださいよ。引摺っていきますからね」

「まあそんなにかっかするな。人間いついかなるときも、冷静と情熱の間になくてはいかん。ほら、あそこに困ってる人がいるぞたまちゃん」

 言うだけ言うが動きの鈍いニコラスをちょっと不審そうな目で眺め、環は倒れている女性と、その側でべそかいている幼児の元に急いだ。

「大丈夫、大丈夫よ、お母さんすぐ元気になるからね。博士早く来てください!」

 保冷棚からこっそりプリンを拝借し懐に入れたニコラスは、せっつかれてからようやく小走りになる。

「分かった分かった‥‥おやおや、こいつは出血がひどいな。頭部打撲に裂傷か」

 そこは彼に任せ、環は他にもいる怪我人たちの元へ走って行く。大声で呼びかけながら。

「みなさん、もう心配要りません。自力で歩ける方は早く外へ‥‥しっかりしてください」

 それと被さるようにして、頼んでおいた館内放送が始まった。

「館内におられる皆様、お知らせ致します。お知らせ致します。ただ今館内には爆弾キメラが侵入しています。キメラの姿は小型犬です。そのようなものを見つけてもけして触ったり刺激したりしないでください。救援にいらして下さいました傭兵の方々にお知らせください。すみやかに出口から駐車場へ避難してください。繰り返します‥‥」

 座り込み、怪我人の具合を確かめていたニコラスの脇に、チワワがやってくる。
 慌てず騒がず彼はよしよしと撫でた。
 とたんに青かった目が真っ赤になる。

「ほう。段階すっ飛ばしてやる気満々かこん畜生。おーい、たまちゃんこれもー」

 チワワの頭を掴み、手榴弾よろしくニコラスは、環のいる方角に投げた。
 振り向いた彼女は咄嗟に、向かってくる犬の頭部目がけ豪力で盾を叩きつける。
 ひ弱な頭蓋骨がグシャと潰れ沈黙した。

「なにしてくれるんですか!」

「まあまあ、今そっちたまちゃんしかいなかったからいいかと思って。次出てきたら私がやっとくから」

「当たり前ですよ!」

 怒りながら彼女は、遠方で歩いているパグへ銃口を向ける。目玉が既に赤くなっている奴に。
 それを見物しながら煙草をふかし、のんびりしているニコラスの足元に、新手としてポメラニアンがやってくる。
 今度も慌てず騒がず、彼は超機械を取り出し、小さなおつむをパチンと弾けさせてやった。

 駆除3匹。

●B

 鈍い音が響いた。
 爆発の影響で歪んだ空調機器が、内部でショートしたらしい。
 雑貨エリアにいるキリル・シューキン(gb2765)は、救助をセティ・D・バウンサー(gc6285)に任せ、呼び笛を吹きながら区域内を駆け回っていた。犬を基盤として作られたこのキメラは、目立つ動きをする人に寄って行く習性があるようだと見て。
 目論みは正しかった。どこからともなく黄色い目のフレンチブルとヨークシャテリアが現れ、親しげについてくる。

「可愛らしい外見をしてよくもまあ‥‥」

 それらを誘導して行く途中、彼は顔を血だらけにし、ロシア語で毒づいている短躯肥満の青年を見つけた。

『ええい、くそったれが』

 母国語になんとなし親近感をもって、呼びかける。

『大丈夫か、同志。歩けるか?』

 相手もまた意外さの中に親近感を持ったか、同じ言葉で返してきた。

『ああ。頭の皮が破れただけだ。気にしなくていい』

『そうか、これよりキメラを駆除する。安全な場所まで後退してくれ』

 言い置いてキリルは先を急ぐ。
 セティはエリア内を回って、救護者を捜し回っていた。
 大声で泣いているのはまだいい。それも出来なくなっているものが危険だ。片足もがれて唸っている孫を前に泣き崩れるだけの祖母という組み合わせときたら、どうもこうもない。

「大丈夫、大丈夫ですよ。救急車が来てますから」

 応急処置を施し、彼は子供を背負い老婆を歩かせようとしたが、腰が抜けてしまっており立てない。
 彼女も背負わなければいけないかと思ったところ、ミーチャがやってきて引き受けた。
 そこに銃声が二発響いた。爆発音は続かない。キリルがうまくやったのだ。
 思いながら出口へ向かうその前へ、急にシーズーとトイプードルが脇から現れ、走り寄ってきた。前者はまだ青い目だが、後者は既に真っ赤である。

「おいキリル! キリルー!」

 叫びつつも時間がないのは知れていたので、セティは包丁を振りかざし、シーズーの脳天目がけ、目にも留まらぬ早さで真っすぐ振り下ろす。
 声に駆けつけてきたキリルが、続いてプードルを狙撃する。

 駆除4匹。

●C

「速やかに避難してくださいっ! 出口が限られているので、負傷者や女性子供を優先させてもらいます!」

 諌山美雲(gb5758)は人々に呼びかけながら行く。
 繰り返される館内放送も効果があるのか、出口で殺到し混乱するということはなかった。殺到出来るほど元気のある人は先に逃げている、というだけかも知れないが。
 服飾エリアは、床に品物が散乱していた。
 冬物のコートも、ブーツも、煤けて燃え落ちてしまっている。

「はぁ、ゆっくりお買い物で来たかったです‥‥クリスマスセールしていたのに」

 和泉譜琶(gc1967)が辺りを見回して一人ごちた途端、天井から大きなリースの飾りが落ちてきた。見上げると瓦礫のくずも降ってくる。

「‥‥建物自体もかなり痛んでいるみたいです。急ぎましょう」

「そうね、譜琶ちゃん。特に子供たちが心配だしね」

 二手に別れ探索して回る。逐次警察から送られてくる監視カメラの情報は――カメラの多くが壊されていたにせよ――なかなか役に立った。

「ん? 奥の売り場ですか? りょーかい、向かいますっ!」

 目についた怪我人を回復させ、譜琶は出口まで誘導する。
 行く手から狆が駆け寄ってくるのが目に入った。爆弾犬に間違いない。

「皆さん下がってください!」

 目の色が青から黄色に移り変ってくるのを見据え弓を放つ。
 狆は頭部に矢を刺したまま倒れる。
 譜琶の口からふうっと息が吐かれた。

「頭を攻撃すれば、停止するっていうので合っているみたいですねっ!」

 そこに重症の子を背負ったセティがやってきたので、急いで治癒に向かう。
 美雲は別の人々を救出している最中、一人で途方に暮れている子を見つけた。混乱の最中、親とはぐれたものらしい。

「おかあさん、どこ、おかあさん」

「外よ、きっと先に出ているのよ。だからお姉ちゃんと一緒に行きましょうね」

 それは本当のことだろうか。どうして断言出来るだろう。
 暗い気持ちが過りかけるのを、彼女は努めて振り払う。
 手を引いて行こうとしたところ、落ちて積み重なった肌着の山から、マルチーズがはい出てきた。瞳はすでに黄色だった。
 美雲は子供を後ろにして弓を構える。
 でも人恋しそうに寄ってくる。

(せめて、一瞬でも痛みが無い様に‥‥)

 胸を締め付けられる思いで彼女は、その頭を射貫いた。

 駆除2匹。

●D

「キョウさん、キョウさん、わんこはいましたかー? こちらは2匹やっつけました。頭を攻撃するのがやっぱりいいみたいですよ」

 無線から呼びかけてくる声に、不破 炬烏介(gc4206)が呟きで答える。

「ソラノコエ、言う‥‥『探セ』‥‥」

 彼としてこのたどたどしい言葉遣いはいつものことである。バグアの災いによって脳を損傷してしまって以来、殺意の他動くべき感情をほとんど持てなくなってしまったのだ。
 彼は今「ソラノコエ」に支えられている。
 その声は、キメラをすべて殺せと言っている。これに関わった犯人も、虐殺せよと。
 薄い鬼気をまとって生きた爆弾を捜し回るその随分後ろから歩いてくるのは、印象がまるで正反対の能力者フォア・グラ(gc0718)だ。

「犬は嫌いなんだよね〜?」

 眠そうに、かなりやる気無さそうにぼやいている。だが、残留者の救援及び誘導については、彼の方が適任だった。炬烏介ではこうも気さくに緩んだ調子で話しかけ、緊張感を和らげるなど無理な話であろう。

「はいはい、出口はあっちだよ〜、犬見かけたら教えてね〜? 近寄ったら駄目だよ〜? きょーけんびょー持ってるかもしれないからね〜?」

 そこで軽い騒ぎがおこった。ボストンテリアが尻尾を振り、金切り声をあげて走りだした婦人を追いかけ始めたのだ。それで他の客も動揺し、無理に急ごうとして転倒したのである。
 しかし前を横切って炬烏介が走ってきたので、ボストンテリアはそっちに方向を変えて行く。
 彼は一般人から離れたところまで来てから、寄ってきた犬の頭を撫でた。
 とたんに目が青から赤に切り替わる。
 華奢な脳天の中央を確かめ、以下の言葉に続けて一撃を加える。

「‥‥ここ‥‥か‥‥。ソラノコエ、言う‥‥『一撃デ葬レ。欠片モ慈悲ハ要ラナイ‥‥』‥‥<鬼吼拳>‥‥!」

 鼻も鳴らさず、犬の形をした物は潰れた。
 その間フォアは続けて避難者の誘導だ。途中展示品の高級ベッドに気をとられ立ち止まり、その下に隠れてしくしくやっている子供を見つけた。

「どうしたの〜、早く外に行こう〜、怖くないよ〜」

 呼びかけながら引き出し、その子の足にブルテリアがすがりついているのを発見する。しかも二匹も。
 一匹は目玉が真っ赤で、もう一匹は黄色だった。
 彼は珍しく機敏に動いた。
 テリアを振り払い、そのまま子供を抱えて床上を転がる。
 閃光と爆音。軽い地響き。
 煙りにまかれつつ、もぞもぞ彼は起き上がる。

「あつつ‥‥背中焼けたねこれは。痛いの、嫌いなんだけどね〜」

 もう一匹は、仲間の爆風に飛ばされても平気な様子で起き上がり歩きだした。
 そして、駆けつけてきた炬烏介に潰された。

 駆除3匹。


●E

「どうも一匹やってしまったようですね」

 電化製品のエリアから隣を見やり、吹雪 蒼牙(gc0781)は眉をひそめた。そして、近くで釘バットを担ぎ座り込んでいるホープ(gc5231)に言った。

「なにしてるんです、ホープさん」

 彼女は、パピヨンとロングコート・チワワが目を潤ませ自分を見上げているのを眺め、つくづく漏らす。

「いやいや、怖くて逃げちゃうどころか、逆にギュッとしちゃいそうな感じのかわいさだね〜。あ、目が赤くなってきた」

 続けてため息をついて、釘バットを大きく振りかぶる。
 結果が見えているので、蒼牙は場を離れ別の爆弾犬の処理に向かった。

「それにしても、最近こんな依頼ばっかだなあ‥‥はやってんのかな」

 そんな流行願い下げだ。
 思いながら、散らばった電化製品の上を乗り越えて行く。

「まあ一般人の救護が一番優先すべき、だよね」

 通電したまま壊れている機器が多々あるので、触ると危険そうだ。実際問題ここは照明器具なども多数展示されていたので、ガラスの飛び散り具合が他よりもひどい。
 早速耳の後ろに破片が刺さり出血している少年が見つかったので、ホープを呼んでから急ぎ離れる。
 束になって倒れた大型テレビの後ろに尻尾が見えたのだ。
 裏側に回ると、いた。目の黄色いペキニーズ。
 認識した瞬間彼の蹴りは、頭蓋骨を蹴り砕く。
 その間、ホープは少年の応急手当を終えると肩を貸し、引きずるように連れ出して行く。

「怖いだろうけど外に出ればひとまず大丈夫! 外に出ればそんな怖いキメラとかいないしね!」

 内部が片付いてきたので、外の救急隊員も徐々に中へ入り始めた。
 明らかに手遅れだというもの以外は、ほぼ完全に連れ出せたか。
 確かめるため蒼牙はなお奥へ行く。そこに、手の空いたセティが合流してきた。

「モールの中もボロボロじゃねぇか、ちょいと前まで客で賑わってたと思うと、悲しくなるぜ」

「そうですね。何が目的なのやら‥‥あの、どうしてキメラの残骸を拾っているんですか?」

「いや、食えるのかなーとか思って。なんだよ、そんな風に見るなよ。純粋な好奇心なんだぜこれは」

 駆除3匹、合計15。



 キメラの掃討が終わり、生死拘わらず被害者は全て店から出された。
 傭兵の仕事はここまでだ。

「それにしても、アナキストを逃したのは痛手ですね‥‥。って博士、何時の間にプリンを」

「まあまあ、堅い事言うなよたまちゃん」

 犯人について、警察は目星を大体つけた。
 ロープシンという通り名のアナキスト。国際指名手配をされている人間。不審人物と思われる証言が、事件関係者から得られたのだ。ただ惜しむらくは、どこにも映像が残っていなかった。

「‥‥それにしても、何でこんなところで爆発事件なんて起こしたんだろ? 『てろりすと』ってよく分かんないなー」

「分からなくて当然だほーぷちゃん。あいつらにまともな理屈なんてないんだから」

「そっか。あ、それはそれとしてベッドに潜り込んでたフォワさん、ほっといていいのかな」

 彼女らがしばしの談義を交わしている駐車場を、炬烏介が見下ろしている。
 モールの屋上から、通り過ぎていく電車を燃える眼差しで射ている。
 背後よりミーチャの声がかかった。

「もう近くにはいねえぞ。俺が知ってるロープシンなら、戦線離脱においてグズグズせん。多分今でも本質は変わってないはずだ。いつも何かしら理想を追いかけちゃ、その度幻滅してるような奴だったが‥‥」

「‥‥ソラは言う‥‥『ケガレニ見入ラレタ魂、地獄ノ責メ苦浴ビセ、魂魄ヲ破壊セヨ』‥‥いずれ、殺す‥‥俺が殺す」

 屋上を吹き過ぎる風は冷たい。
 鉛色の空。
 音もなくちらちら雪が舞い始める。



 ロープシンは空港で便を待っている。雪が外に降り始めたのを見透かしながら、小声で歌っている。

 肌着にしらみがくっついて
 お前を蚤だとほざくなら
 早くおもてに飛び出して
 ぶっ殺すのがよかろうぜ‥‥