タイトル:月面お掃除隊マスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/11/21 02:08

●オープニング本文


 星の瞬かぬ夜空の下にあるのは、荒涼とした真空の荒地。
 丸みを帯びた地平線に見える点は基地「崑崙」。
 というわけでレオポールは本日月面に来ていた。
 色んな理由で地球を離れるのは好きでないのだが、今回のはかなり安全性が高く楽そうな依頼であったため、引き受けることにしてみたのだ。
 まず宇宙服のバイザー越しに依頼筋から与えられた地図を確かめ、指差し確認。

「‥‥えーと、あのクレーターからこのクレーターまでの範囲だな、うん」

 手にしているのはこれまた依頼筋から貸し出された金属探知機。
 バグアがここ一体にばら撒いていった地雷を完全撤去する、というのが今回彼とその仲間に課せられたミッションだ。
 ここ一帯にもゆくゆくいつかは新しい施設を建設予定だから、地ならしが必要なんだそうな。
 地雷は動いてこないし食いついてこない、まして安全に探し出せる機械がある。万一が起きても能力者なら耐えられる。大丈夫怖くない。
 己に言い聞かせながら彼は早速地面に探知機を向け、歩き始める。すると反応が。

「おっ、来たかっ!」

 毛を膨らませ恐る恐る掘ってみる。
 固いものにぶつかった。
 続けてもっと慎重に掘る。
 すると出てきた。空っぽになったコンビーフの缶詰が。

「バグアが食ったのかな?」

 これはゴミなので脇に避けさらに探すと、また反応。掘る。
 出てきた。鋳物の信楽焼風狸が。

「??」

 更に掘ってみると平べったい石版が(探知機が反応したから石ではなかろうが)出てきた。
 土ぼこりを払ってみれば、表面にモノリス板とか書いてある。

「??? なんだここ‥‥」

 見回してみればどうやら他の連中も、続々変なものを掘り当てているらしい。困惑している様子だ。


●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
楊 雪花(gc7252
17歳・♀・HD
ジョージ・ジェイコブズ(gc8553
33歳・♂・CA

●リプレイ本文


 月面に降り立つのが初めてのジョージ・ジェイコブズ(gc8553)は、仕事の前に風景を観察してみることにした。
 灰色をした剥き出しの地面に大小さまざまなクレーター。
 大気が存在しないので(インカムごしの話し声を別とすれば)音も伝わらず、静かである。
 地図にある地名は、水など一滴もないにかかわらず、「嵐の大洋」「湿りの海」「静かの海」「晴の海」「豊かの海」等々、なぜこんな名前をつけたのだろうと思われるものばかりだ。
 この名称のロマンチックさ、とてもじゃないが現実とつりあわない。

(まあ、直に月面に降り立つ手段も無い昔につけられた名前だから、当然か)

 感慨にふけり星空を眺める彼は、ドクター・ウェスト(ga0241)の声で我に返る。

「やあ、レオポール君、能力者としての自覚は芽生えたかね〜」

「おう、ドクターか。何か前にも月で会ったような気がするな」

 レオポールは、犬、ではなく犬人間の面目躍如、早々大きな土山をこさえている。思わずジョージも感心するほどの。

「マアブルさんて、穴掘り得意そうですもんね」

 とはいえ土と別に積んである山が気掛かりだ。地雷も数点あるにはあるが、大部分わけが分からないゴミというかガラクタというか。
 空の缶詰はともかく鋳物の信楽狸やら変な板やらビリケンやらテコテコ太鼓を叩く食い倒れ人形やら積まれているのは、いかなる次第か。

「さあ? 掘ってたら続々出てくるんだよ。そんでよ、この下大物ありそうなんだよな」

 すっかり穴掘りが楽しくなっているらしいレオポールは、もはや不審物の出所を気にしていないらしい。頭まで大穴に埋まってシャベルを動かしている。
 ウェストは渋い顔で、ぶつぶつ零していた。

「マッタク、厄介なものを残していったものだね〜。後始末もしなければね〜」

 FFの謎、事象、存在。それらの手掛かりを掴むため武器回収に来た彼としてそれ以外のゴミなど、邪魔きわまりないのだろう。

(子供の頃にあった、地域のゴミ拾いを思い出すなあ‥‥全然参加してなかったけど)

 サボってないで作業に入るジョージは車輪つきのゴミ箱を押し、「指さし君1号」と名付けた棒を地面に立て、倒れた方向に進んで行く。

「なんとかは時の運‥‥おっ、反応来たか」



 クレーター付近にいる楊 雪花(gc7252)は、地雷捜しを従、異物掘り出しを主と心得作業をしている。どう考えてもそっちの方が、お金になりやすそうなので。
 しかしほとんどのことに動じない彼女も、出てくるものの突飛さには、多少驚きを隠せない。
 ひとまずただいま発掘した赤青黄の三色ロボット。全身全霊年期が入り錆び付きまくっていて、どう見てもバグア製でなさそうなのだが。

「‥‥なんだろネ。まさか違法産廃業者がコソーリ来てたカ? そんなオイシイ事業が存在してたなラ、雪花サンの耳に入らないはずないんだけド」

 言いつつ確保に分類。オークションにかけたら売れそうな気がしないでもない。
 明らかに金目でない物はさくさくゴミに分類。読み捨てられた雑誌とか、花火のガラとか、空き缶、空きペットボトル、バーベキュー台、そして注射器。

「‥‥ここは湘南海岸カ?」

 疑わしげに周囲を見回した後彼女は、穴の向こう側にいる夢守 ルキア(gb9436)に声をかける。丁度そちらから振動が響いて来たので。

「オーイ、地雷見つかたかネ!」

「んー、一応」

 射撃で半分頭を出していた地雷を処理した彼女は、爆発跡からさらに何かが顔を出して来たのを見る。
 近寄り土をざっとのけてみると、長くて大きな石の顔。

「‥‥モアイ‥‥」

 折角なので全部掘り出し、立てておいてやる。
 地球をバックにたたずむモアイは合成写真と同じくらい景色と馴染んだ。
 雪花が軽々跳ねながらやってくる。

「ンー、これはちと持て帰れそうもないネ。残念」

 モアイを手で叩いた彼女は次に、ルキアのゴミ入れに着目した。

「オオ、エ●ァにまど●に●イマスに東●‥‥そのフィギュアも埋まてたのカ?」

「うん‥‥でも私、骸龍のぷらもでるが良かったなぁ」

「勿体ないこと言わないネ。いらないなら私欲しいくらいヨ。売れ筋商品ばかりだシ。どれもいい仕事してるのコトヨ」

 品を持ち上げ前後左右とっくり眺め回し、ふと首を丘の下に向ける。
 ウェストが騒いでいた。

「ココは『地球の夢幻郷』かね〜!」



 掘って出るのは招き猫。また招き猫。招き猫。
 大中小取り混ぜたそれらが山となり空の下佇む姿は、現実感から程遠い。
 地雷捜しを邪魔されているような気分になってしまい、ウェストもいささか憤慨している。一時休憩だ。
 自分の背をはるかに越える深さになっている穴からレオポールがはい出し、吠えてきた。

「なんだよ、大声出して。招き猫なら地雷みたいに危なくないからいいじゃん」

「何を言っているのだね〜地雷でなければ意味がないよ〜実際に物理的な事象に対し効果を及ぼすのだから、物理的な力に変換された何らかのエネルギー、ソレがFFとして発現しているのだろう〜その仕組みを知りたいのだよ私は〜そのためにはなるべく多くの数のサンプルを確保しないとだね〜そういったものが解析できれば、火星の向こうにいる本星も叩きに行けるはずだろう〜」

 能天気な犬を叱り付ける彼の元に、ジョージがやってきた。鉄の塊を引きずりながら。

「ウェストさん、これがなんだか分かりますか?」

「んむ? ‥‥おお、これはルナ2号ではないかね!」

「ルナ‥‥なんだって?」

「知らないのかねレオポール君〜1959年にソ連が世界で初めて月に送り込んだ人工物だよ〜まあ衝突に終わったから完全な成功とは言えないが〜しかし人類初の偉業であることに違いはないね〜」

 ジョージはウェストが教えてくれた事実に感銘を受けた。
 赤い月が現れる前の、宇宙・月面探査の遺物。闘争心を宇宙へ向け、今とは比べるべくもない不器用な科学の産物と、それに夢を託した人々。

「へえ、こんなものが地球から月に‥‥」

 なんとなく愛しく思え、残骸を撫でる。こういうものはUPCに渡しておいた方がよいと場に置いて、更なる探索を始める。
 すると今度は月面自動車が出て来た。NASAとどてっ腹に書いてあるところからして、アメリカ製らしい。

「多分サーベイヤー計画のときのだね〜ルナ・オービター計画と平行して行われた月面地図製作のためのプロジェクトだよ〜それらの蓄積があってこそ、後のアポロに繋がるわけだね〜」

 ウェストも科学の歴史に関することであるからか楽しそうにし、また元気を出して掘り始めた。
 レオポールは最初から掘り続けている。

「あれー、まだ先が見えねえ‥‥どんだけでかいんだこれ」

 彼は一体何を見つけたのだろう。よもやスペースシャトルが埋まっているわけでもあるまいが。
 懸念しながらジョージも地雷探しに戻る。
 ほどなく鮭を咥えた熊の置物発見。眉と眉を寄せ彼は、悩む。

「なんでこれを宇宙へ持ってきたし‥‥」



 雪花も悩んでいる。クレーターの陰に見つけた不審なものについて。
 ルキアも隣からのぞき込み、首を傾げる。

「雪花君、これなんだろ」

 彼女らの前にあるのは小人が作った宇宙基地という感じのもの。虫メガネで覗いてみると、中に大量の植物が繁茂してそうな具合。

「親戚のお姉サンに借りた昔の漫画で見たことあるから知てるネ。この中でハ宇宙の彼方から来た絶滅寸前の小型宇宙人男女たちがドロドロ愛憎劇を繰り広げた揚げ句伝染病で全滅してしまてるハズヨ。そして地球に転生しまた皆でドロドロ愛憎劇しちゃう運命なのヨ」

「へー、それは悲惨だ」

「せめて土かけて線香立てておいてやるのヨ。火はつかないけどサ」

「そだね」

 言葉どおりにし、彼女らは探索し終わったクレーターから斜面を降りて行く。
 ジョージが下から走って来た。手まねきして呼び寄せている。

「大変なものを見つけたかもしれないんだが‥‥どうしたものかいまいち分からなくてな。こっちだ」

 彼が導いて行ったのは目につきにくい位置にある洞窟。
 月面にこのようなものが出来るのは珍しい。しかしその中にあるものはさらに珍しい。
 バグアのものでも地球のものでもない、真っ赤な宇宙服を着た人間。近寄りライトを当ててみると見事にミイラ化しており、素人目にも相当な昔に果てたことが察せられる。少なくとも千年、二千年、あるいはもっともっといってそう。

「‥‥確かにここまで来たら次はルナリアンとなるような気はしてたんだけどサ、全く事実は小説より奇なりネ。後は古代人の遺跡とウサギを探すだけかナ」

「なんかバグアの存在が霞んできちゃったね」

「去る者日々に疎しと言うからナ」

「いや、そういう問題じゃなくて。これ公表していいもんですかね? これまでの諸々が引っ繰り返ってしまいそうなんですけど」

「別にいいんじゃない? 戦争になるわけじゃないし。あ、そだ。ウェスト君呼ぶ? こういう話好きそうだから」

 重大発見となるかもしれないものを軽く議論する女子たち。
 そのころ名前が出ているウェストは、また変なものに突き当たっていた。色といい形といい――竹筒。

「? タケに見えるが金属反応があるね〜」

 砂を払うと片面が半透明であり、ぼんやり光を放っており、かすかに人型らしき影も見える。

「?」

 といっても大きさは普通の竹と同じくらいなのだ。人間が入れるわけもなく。

「これは研究してみねばなるまいね〜もしかしてキメラ量産機かも知れないし〜」

 言ったところ、いきなり地響きがした。
 振り向いてみると、地盤崩壊が起き大穴が空いていた。
 埃がもわもわ上がる中、レオポールが喚きながらはい出してくる。

「なんだよびっくりすんじゃねえかよおお」

 雪花とルキア、ジョージも駆けつけてくる。

「また何したネ、レオポール。地下都市入口でも発見したカ?」

「いや、違うよ。なんかでけえフォークが埋まってたんだ」

 フォークとは何ぞや。
 皆いぶかしみ、穴をのぞき込む。
 土埃が収まってくるにつれ、そこにあるものが明らかになって来た。
 大型のKVに持たせたら丁度よさそうな二股槍だ。
 ルキアはメットをかいて言う。

「あー、とうとうロンギヌスまで出ちゃったか‥‥よし埋めよう」

「えっ、折角掘ったのに!」

 抗議するのはレオポール1人。後は続々土をかけていく。

「駄目ネ。よろしく歴史の闇に葬るネ」

「これ以上人類への厄介ごとは増えて欲しくないからね〜」

「補完されると危ないんで」

 かくして穴掘りの努力は水の泡。
 すっかりふててしまったレオポールは、地面に座り込んでしまった。

「レオポール君、月の石って売ってみるー?」

 地面に骸龍、イクシオンの落書をし適当に慰めるルキアに唸る。
 だがそれも長続きはせず。

「オーイ! レオポール、正体不明な巨大生物の骨があたヨ!」

 興味あふれる情報を聞いて彼は走る。そしていきなり起きた爆発に高く吹き飛ばされる。
 飛んで行くその姿をルキアは、手をかざして見送った。

「10個地雷が埋まってたら、11人で攻略できるんだよ。1人は確実に到達できるって」



 時計ではお昼なので地雷探索の中休み。崑崙食堂に一同は集まっている。

「まだまだ面白いものありそうネ〜」

 ほくほく顔の雪花と対照的に、レオポールは不満そうだ。自分だけ吹っ飛ばされたからだけではない。食堂のラーメンがのびきってしかもぬるかったからだ。

「まずい‥‥オレもアジフライ定食にすりゃよかった」

 ジョージは彼に遠い目で応える。

「いや、こっちもたいしたことないですから。フライの衣がすごく厚くて‥‥みそ汁がお湯っぽい。楊さんのサンドイッチおいしそうですね」

「これ食堂のではないコトヨ。コンビニで買てきたノ」

「‥‥そうですか。タコの宇宙人、いませんでしたねえ」

「それ火星なんでないかナ」

 ウェストは食事など度外視し竹筒と格闘している。何とか開封の取っ掛かりを得たいところなのだが、外側に操作出来そうな部分はついておらず。

「やはり超機械で働きかけねば駄目か〜」

 その横からルキアがシレット・ティーを差し出した。

「たんじょーび、おめでとー!」

 麺をすすりこんだレオポールが、耳を立てる。

「何だ、お前誕生日か」

「まあね〜でもそんなのどうでもいいことさ〜」

「どうでもよくないでしょ。祝ってるのにさ。折角だからなんかしてあげようと思って、でも、デューク君殆ど食べられないしなぁって思ってこのお茶だよ。有り難く飲んでよ。これもあげるからさ♪」

 『手回しオルゴール 花束の少女』をテーブルに置く彼女に、ウェストは微妙な顔をした。
 お茶を飲んでさらに微妙さが際立った。
 しかしルキアは気にせずハーモニカを吹き始める。
 残りの3人合わせて合唱し始めた。

「ハッピバースデーツーユー」

「ハッピバースデーツーユ」

「オーンオンオンウオーン」

 そのとき竹筒が急に光り始めた。皆歌をやめて息を飲む。
 半透明の部分がウイイインと開き、中から出てきたのは小さな赤ん坊。
 それは自らはい出し、見る見る内に普通の幼女段階まで大きくなった。着ている着物ごと。
 そして言う。

「わらわのじいやとばあやはどこかな?」

「プリンセスカグヤか〜!」

 ウェストは口から魂を吐き、倒れる。倒れながらも推測をする。

「おそらく、バーデュミナスがコノ救命カプセルを作ったのだろうね〜」

 ルキアは苦笑し、こう片付けた。

「ま、楽しそうだからいいんじゃない?」