タイトル:【RAL】タイツナミマスター:KINUTA

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/09 03:48

●オープニング本文


 ここは、アフリカ解放戦線たけなわのアルジェリア――もかなり奥地の砂漠――。オアシスも周辺には見当たらず、行けども行けども黄色い砂があるばかり。おおよそ不毛の大地。
 強い日に焼かれて一隻の大きな輸送船が転がっている。
 バグア軍のものである。翼に大きな穴が空いていた。攻撃を受けての不時着だ。
 コックピットでは乗務員が本部と連絡を取ろうと奮闘していた。
 丸一日かかって、やっと通信が出来た。
 一同ほっとするのもつかの間、恐ろしい剣幕で、モニター画面から上司に怒鳴られる。

「何やってんだ! どこをうろついていやがった!」

「いえ、あの、ですが撃墜されまして‥‥」

「言い訳するなクズ! 低能な貴様らのしょうもないミスのせいで私がどれだけ顔に泥を塗られたかその罪深さを少しでも理解する能力が干からびた犬の糞のような脳みそに閃くとしたら! 今すぐその物資を全力で移送ぅ」

 そこでまた通信が切れた。今度は機械自体が壊れたのだ。
 上司の罵声を延々浴びないですんだのは幸いだが、ともかく一同頭を悩ませた。既にこの輸送機、飛べなくなっているのだ、なのにどうやってものを運べばいいのか。
 相談の結果彼らは危険な、しかし唯一の解決策にたどり着いた。

「‥‥しょうがない、自分で行かせよう。あいつら足があるんだし」



 明けて翌日の早朝。
 ラクダを連れたとある行商人一行は、寝所で地を揺るがすような音を聞いた。

「なんじゃい」

 彼らはテントから出てきて、西の方角を見た。
 気のせいだろうか、丘一面が黒く見えるようなそれが動いているようなさらに近づいてくるような。
 いや、気のせいではない。
 なんだあれ。
 ものすごい数の全身タイツを来た男たちがこっちに向かって走ってくる。

「‥‥う、うわああ!?」

 彼らは悲鳴を上げたが既に遅かった。
 タイツの津波は彼らとラクダを飲み込み、踏んで踏んで踏み倒して去って行ったのである‥‥。

●参加者一覧

/ UNKNOWN(ga4276) / クライブ=ハーグマン(ga8022) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 番場論子(gb4628) / ソウマ(gc0505) / レロ・佐々木(gc6058) / 一本松 依里鉄(gc6347) / ライアン(gc6348

●リプレイ本文

 砂漠を群なして暴走するタイツ、タイツ、更にタイツ。
 この馬鹿馬鹿しい軍団に立ち向かうため集まってくれた奇特な能力者たちは合計25名。
 彼らはこの地にて多くの逸話を作った。
 しかしその全てを網羅すると膨大な数になるので、選ばれし8名の勇者の記録のみここに記したい。



 ギラギラ照りつけるアフリカの太陽。立ちのぼる陽炎のただ中を揺らめきながら疾走してくる黒いタイツ男たちの群れ。
 あれは直射日光と疲労からくる幻覚なのではないだろうか。
 全て本当は実在しないんじゃないだろうか。
 ジーザリオの運転席にいるユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)はふとそんな疑いを抱いた。彼らによって舞い上がる多量の砂ぼこりを、じゃりじゃり口に感じてしまっては、さすがにそうと思い続けていられなくなったが。

「‥‥いやまあ、確かに依頼書に説明有ったよ。有ったけど‥‥改めて見ると‥‥何だアレ。うーわー、ヤだなー。すげえ面倒くさそうじゃん」

 早くもぐだってくる彼の後ろでは、レロ・佐々木(gc6058)が後部に備え付けたガトリング砲の調整をしていた。

「頑張りましょうユーリさん。ボクが思うに、あのキメラ難しいことはなさそうですよ。こうやって近くを走ってても襲いかかってきませんし」

「そらそうなんだけどよ。数が反則的なんだよなあ。つうかあいつら何を目指して走ってんだ」

 その問いには、窓の外から番場論子(gb4628)が答えてくれた。
 彼女はバイク形態にしたAU−KVアスタロトに跨がり、ジーザリオと併走している。

「一応ワルグラ方面に向けて走っているらしいですけど」

「援軍てことなのか、あれが? あれで?」

「‥‥まあ、疑問は多々有りますが恐らくはその意図なのではないかと。それにしても、こう‥‥センスがよく解りません。迷惑な状況を構築するのには向いていますがね。それでは私はお先に」

「ああ、よろしく頼む論子」

 腿を高く上げ陸上走りをしている集団を横目に、論子はバイクの速度を上げ車から離れて行く。先回りして待ち伏せする手筈なので。
 それは大して難しいことでなかった。このタイツ集団ヌーの群れと一緒で、決まった方角にしか動かないのだから。
 他の仲間たちが強襲を仕掛ける位置やタイミングからどうしても取りこぼす部分を、彼女は担当する腹積もりだ。
 数は500。
 口の中で繰り返し、やはり多いなと実感する。
 まあしかし、要請が有れば応えるのが能力者というもの。
 それ以上つべこべは言わず思わず、彼女は先を急いだ。
 一方、このタイツの群れを好感をもって眺めているものもいる。

「ふむん、集団で暴走するタイツの群れか‥‥ちょうどいい、狙撃の練習台になってもらう」

 クライブ=ハーグマン(ga8022)だ。ベテランであるこの男にとっては、この集団、巨大な射撃の的に見えている。
 彼も論子と同じく通過地点を予測し先回りし、砂を巻き上げ近づく集団を待っていた。
 なにしろ相手は時速60キロと地味に早いので、乗り物に乗って追いかけるか、待ち伏せかでないと、なかなか対処しづらいのだ。待てと言われて待つ連中でもないし。

「弱い敵ですが、数が数だけに厄介ですね。ま、僕たちの敵じゃないですけど」

 クライブと同じ組に属しているソウマ(gc0505)が、肩をすくめ苦笑し、急にふらふらっとよろめいて額を押さえた。

「ちょお、あんたどしたん。ごっつ顔色悪いで。アメちゃん食うか?」

 親切にもポケットからあめ玉を出してきた一本松 依里鉄(gc6347)に丁重な礼を述べ、彼は気持ちだけ貰うとした。わけもなく流れてくる冷や汗を拭いながら。

「大丈夫です。ただアレを見ていて何故か頭痛がしてきただけで」

「ほんまか。まあ、確かに気持ちええもんと違うけどなあ。なんや、売れへん必死な芸人大集合みたいで。あんなにおったら、誰が誰やら分からへんなると違うやろか。動きが同じなら色くらい変えんと、個々のキャラが全然立ってえへんで」

「いや、個々のキャラとかは別に立たなくてもいいんじゃないでしょうか」

 冷静なライアン(gc6348)の突っ込みを受けて、「さよか」と言いつつ依里鉄は、不服そうな様子であった。
 と、クライブに無線連絡が入ってくる。

「やあ、そっちの流れはどうかな」

 はるか前方、ワルグラの手前にて待機しているUNKNOWN(ga4276)からのものであった。

「ああ、順調に滞りなく進んできているぞタイツは。そろそろ攻撃をしかけるとこだ」

「そうか。じゃこちらに来るまでなるべく減らしておいてくれるよう、よろしく頼むよ。グッドラック」

 で、切れた。
 すると依里鉄が、急に不平を鳴らし始める。

「あ、もう切ってしもうたん。いやあ、ショックやわ。うちも話ししたかった」

「いや、そう言われても今のは単なる事務連絡でな‥‥」

 たじろぐクライブの横から、ライアンが口を差し挟む。

「そうです。遊びじゃないんです。またどうして関係ないあなたまで話などと言うのですか」

「え、やってUNKNOWNさんめっちゃ格好いいやん。ここに来る時かてな、ロイヤルブラックの艶なしフロックコート、同色の艶ありのウェストコートとスラックス、兎革の少しつば広の黒帽子、コードバンの黒革靴と黒革手袋黒革ベルト、パールホワイトの立ち襟カフスシャツ、ホワイトシルクのロングマフラー、スカーレットのタイとチーフ、銀と白蝶貝のカフとタイピンに特注っぽいシステムサングラスつけてんねんで。まさしくあれこそ真のオシャレ番長や。いかしてはるわ。ライアンもそう思わへん?」

 若い娘はよく見てるなあと感心する60男を尻目に、ライアンは礼儀正しく突っ込んだ。

「変なマスクもつけてた気がしますけど」

「ええねんええねんあれはもう。オシャレさんは何してもオシャレに見えるんやから。それよりええよな、あのファッションセンス」

「とりあえず、TPOをまるで弁えてないかと思います」

「何や、ケチばっかつけてあんたは。もうええ、黙っとき。感じ悪いわ」

 先に喋り始めたのは彼女だったはずだが。
 思わなくもないソウマはしかし、会話に参加しない。頭痛に耐えていたもので。
 なんだろう、致命的な何かが今にも起こりそうないやな予感がする。
 馬鹿な、自分があんなタイツの群れごときに後れを取るはずがないではないか‥‥。



「よし、そんじゃ行きますか」

 ユーリはアクセルを踏み込み、ハンドルを切り、ジーザリオを群れの前に持ってきた。
 狙撃係を務めるレロは、ガトリング砲撃を開始した。狙うは前列の足元である。
 連続した激しい射撃音とともに砂が舞い上がり、爆発音が起きた。
 砂塵でどうも見えにくいが、確かに前にいたタイツたちは何体か転倒したらしい。幾分流れがもたつき始めた。しかし止まろうとはしていない。屍というか倒れた連中を乗り越え乗り越え、障害物競走よろしく走って行く。
 踏み倒された前列はよれっとしながら、後列に入れ替わって追いかけて行く。
 そこをまた撃つ。何体も破裂しつつ、また前後が入れ替わる。
 ユーリたちの他にも数台車で移動しつつ射撃を加えている班がいるが、ひるむ様子がない。ほとんど同じ速度で走って行く。
 そんな変わらなさに業を煮やしたか、一台のジープが、もっと彼らに近づこうと幅寄せする。
 悲劇が起きた。
 接触したタイツが、車輪に巻き込まれてしまったのだ。
 彼らは弾力と柔軟性に富んでいる、大きなゴムの固まりが挟まったようなものだ。
 かくしてジープはスピンし止まってしまった。タイツナミの前で。

「あっ、まずい」

 レロの呟きも空しく、そのジープ、そしてそこから急いで出ようとした能力者ともども、あっと言う間に黒い流れに飲まれてしまった。

「きゃあああああぁぁぁぁぁ‥‥」

 という悲鳴を残して。
 離れたところで一部始終を見ていた論子が、首を振る。

「やはり人雪崩に巻き込まれましたか。まだまだ数がいる中、近づくのは得策ではありませんね」

 そして砂丘の上から、近づいてきたタイツの横合い目がけ、超機械で狙い撃ちを始めた。
 一体、また一体確実に数を減らしていく。大人数相手に消耗を避けるため、なるべく練力を濫用しないようにして。
 それにしてもよく爆発する。そのせいでほかの奴らがぽんぽん舞い上り、弾んでいる。
 通り過ぎて行く取りこぼしたちを前に彼女は武器を降ろし、また急いで次の地点に向かった。無線を片手に。

「もしもし、クライブさん。こちらのポイント通過して行きます。次、どうぞよろしくお願いします」

「オーケイ。ステンバイ‥‥ステンバイ‥‥インレンジ、ゴー!」

 先のポイントにいたクライブが動き始める。
 彼は場に伏せ、反動を殺しながら銃撃を始めた。目の前を通り過ぎて行く順に。
 ただ走るだけの奴だけではない。宙に舞い上がっては落ちて、また舞い上がってという複雑な動きをしているものも撃つ。

「ふむ、まさしくクレー射撃」

 満足げに一人ごちる彼の近くでは、マーシナリーガンを構えたライアンとマーシナリーボウを構えた依里鉄が頑張っていた。

「なんやもう、なんであないに弾むねんもうもうもう。うまく当たらへんやないの。ポップコーンかお前らは」

「口を動かすより集中してください。そうしないから当たらないのではないですか」

「やかましわもう、ほんま人の神経逆なでしまくりやなあんたは」

 さて、そんな中ソウマはというと、変わらず頭が痛かった。
 直射日光を浴び過ぎているせいなのだろうか。
 痛み止めでも持ってくればよかったか。
 思いつつ超機械マーシナリを振るおうとしたそこに、想定外の事故が起きた。
 ひときわ大きな爆発とともに、一体のタイツが天高く放物線を描いて飛び、彼の頭上に狙い定め落下してきたのである。
 頭から砂にめり込み、少年は倒れた。
 タイツの方は割と平気なのか、反動でまた弾んで群れに戻って行く。

「あっ、だ、大丈夫か!」

「しっかりせえ、傷は浅いで!」

「いや、傷とか出来ていませんし」

 そんな周囲の呼びかけを気絶しているソウマは聞いていない。
 聞いていたのは、世にも神々しい声であった。

『ソウマよ〜ソウマよ〜起きるのだ〜』

 顔を上げると、光に包まれ顔にモザイクをかけた全身白タイツの爺さんがいた。
 ソウマはそれを目に、たちまち封印されていた記憶を取り戻す。

「はっ‥‥あ、あなたは‥‥いつぞやの!」

『そうとも〜いつぞやのタイツの神様じゃ〜ソウマよ〜今こそ汝、タイツの良さを再び世に示せ〜せ〜せ〜せ〜せ〜‥‥』

 しつこくリフレインしながら去って行く幻聴もといお告げを聞いた彼は、次の瞬間かっと目を見開いて起き上がった。異様なテンションの高さで。

「ん〜絶・好・調! バグアの奴らに、人類が生み出したタイツの真の素晴らしさを見せつけてやろうじゃないか!! そうだろうみんな! 人類皆タイツ、ワオ!」

 そしてウインクして舌を出し、親指をぐっと上げる。石化した人々を置きざりに、ウフフアハハとタイツの群れの中へ飛び込んで行く。キラキラした何かを背負いながら。
 一拍おいて我を取り戻した依里鉄が叫んだ。

「いやあああ、おじいちゃんが、おじいちゃんが壊れたあ!」



「は、おじいちゃん? なんのことです。依里鉄さん。もしもし」

 要領を得ない大阪弁が弾丸のように無線を通ってくるが、論子は最後まで聞いていられなかった。
 待ち構えていた地点から、妙なタイツを発見したのだ。
 それは他のものと明らかに違い、踊りかつ舞っていた。腰をくいっくいっと動かし、くねくねとやりながら。

「このフィット感、いつもより腰の切れが違う! この曲線美、超・最・高! おおタイツ、それは人類の英知! ああタイツ、それは美の極致! 称えよタイツ、ひれ伏せタイツ!」

 気のせいか、回りのタイツも遠慮して避けていると見えなくもない。
 そのけったいなタイツが、スライムキメラから(どうやってだか)タイツスーツを剥ぎ取り自分で着用しているソウマだなんて、無論彼女の想像力が遠く及ばないところであった。
 彼が超機械を振り回して周囲の本物をぽんぽん破裂させているのを見ても、あまりにもまさか過ぎて仲間だと思えなかった――いや、もしかしたら思いたくないという方が近いのかもしれないけれど。
 ユーリとレロも同じである。珍奇な一体を発見してしばらく、車内で沈黙していた。

「‥‥何だアレ‥‥」

「‥‥さあ‥‥撃ちます?‥‥」

「‥‥どうしよっかなあ‥‥‥‥」

 下手に狙うとこっちに来そうな感じもして、それがいやだから、攻撃になかなか踏み切れない。
 そうこうしている間にも、また別の班がタイツナミに飲み込まれて消えた。足場の悪い砂丘から転がり落ちてしまったのだ。

「あああああああぁぁぁぁぁ‥‥」

 最早彼らはぼろ雑巾のように踏まれまくるしかない。
 とはいえ全体の奮闘により、目分量だが何とか半分くらいまで、タイツは減らせている。走る彼らの間に透き間が空いてきた。
 そうと見る論子のもとへ、クライブからの無線が入ってくる。

「目標集団、射程距離内通過。だれか、流された者はいないか? どうぞ」

「こちらからは数名流されたのが見えました、どうぞ。そちらは被害ありませんか、どうぞ」

「どうもソウマが――あー、多分やられたんだと思う。後で探すことにする。もしそちらで見かけて、余裕があったら救助しておいてくれ。どうぞ」

「了解」

 踊り狂うタイツをソウマと認識しないまま論子は言い、近づいてくる波に備え本領発揮するとした。
 すなわち、AU−KVを装着し武器をラサータに持ち替え、近接戦に持ち込む。
 彼女は側面から近づいてくる黒い群衆に切り込んで行く。タイツたちは彼女の火花きらめく斬撃に、次々と破裂していく。
 しかしやっぱりひるみはしない。仲間がやられても、爆発しても、弾んでも、ひたすら前を目指す。彼らは走るのみ。そのために生まれてきたシンプルな生き物だ。
 高性能の双眼鏡でそれらの動きを眺め、UNKNOWNは、紫煙をくゆらせながら呟いた。

「うむ中々に壮観では、ある――タイツに何か思い入れがあるのだろう、か?」

 たとえばそう‥‥別れた恋人がタイツだったとか。
 いやないだろ。恋人じゃなくて変人だろそれ。
 一人ボケ突っ込みを終え、悠々と力む事なくエネルギーキャノンを構えるこの男こそ、タイツたちにとって、ワルグラへ至る道の最後の壁であり難所である。

「論子も頑張っているなあ‥‥それにしてもあの踊るタイツにはなかなか手を焼いていそうだが」

 何故に一体だけああも愉快な動きをしているのか。意味はあるのかないのか。

「まあ、いいか。そろそろこっちも始めよう。彼女も長く奴らのスピードに付き合えないみたいだしな」

 ブルースを静かに口ずさみながら、彼は引き金を引いた。
 まず踊る踊る踊るタイツを狙って一撃、続いてほとんど小止み無く撃って撃って撃ちまくる。
 その速度は驚くべきものだった。
 連鎖する爆発音、そしてこれまで以上に立ちのぼる砂塵。
 場はすでに、爆撃を受けた戦場の様相を呈している。
 その中を抜けなお、撃ち漏らしたタイツが走る。
 UNKNOWNに向かって、いや、彼の背後にある輝かしい目標目がけて。

「アスリートに生まれてくればよかったなあ、お前達」

 ぼやく男は徐々に後退しながらギリギリまで前面からの射撃を行い、波に飲まれようとした寸前側面へ瞬時に移動し、また銃弾を浴びせた。
 もうもうたる黄色の煙幕。
 嵐のような猛撃から抜け出て、なおも命令遂行出来たタイツたちは、わずか30体ほどに過ぎなかった。



「‥‥はっ」

 気が付くとソウマは砂丘の上、一人佇んでいた。
 足元には抜け殻となったタイツがある。
 どうしてこんなものがここにあるのだろう。眉間に皺を寄せるも、いまいち不明だ。
 体中踏まれ倒したみたいな疲労感が、いや実際背中に多くの足跡がついているものの、そうなるに至ったいきさつが抜け落ちている。

「また、記憶がない‥‥」

 妙なデジャヴを感じて悩める彼の耳に、UNKNOWNの声が聞こえてきた。

「おー、そこにいるのはソウマか。無事だったなら手伝ってくれ」

 彼は砂丘の下で砂まみれになっている傭兵を一人肩に担ぎ、後何名か足元にいるのも引っ張り出していた。
 そういうことなら手伝うにしくはない。
 考えても分からないことは後回し。ソウマも砂の谷間へ下り、仲間を掘り出しにかかる。
 ジーザリオが走ってきた。

「おーい、大丈夫だったか二人とも」

「あ、ユーリさん、レロさん。ええ、大丈夫でしたよ。丁度いいから、この人たちも積んで行ってくれませんか」

「おー、いいぜ」

 作業をしていたところ、バイクの論子、そして徒歩のクライブたちもやってくる。

「おおソウマ、無事だったか。心配したぞ。急にタイツの群れの中に走っていったもんだから」

「え‥‥僕そんなことしましたっけ?」

「したした、したがな。びっくりしたでもう」

「いきなりでしたからね」

 三人がかりで言われても、ソウマにはやはり覚えがない。

「そういえば、なんだか変なタイツが一匹いましたね、中に」

「ああ、いたな。何やら踊り狂っていたが‥‥今思うとバグっていたのかも知れんな。いやぁ、タイツを堪能してしまったよ」

 ついでに論子とUNKNOWNの会話にも思い当たる節がない。首を傾げる。

「なんにしても、ようわからん集団だったな」

 それ以外に表現する言葉をもたないクライブは、早く帰還しようと一同に持ちかける。
 どこからも否やはなかった。砂漠の地平線には赤い夕日が落ちかけていたのだ。
 ソウマはふと己の手元を見た。そこには愛用の録画機器がある。どうもずっとオンになっていたらしい。
 そうだ、後でこれを見れば戦闘のいきさつが自分で分かるだろう。
 考え、彼は意気揚々帰路に向かう。
 視聴後、記憶を再封印する羽目になるとも知らないで‥‥。