●リプレイ本文
(‥‥ん。何だか。面白そうな事に。なっている)
最上 憐(
gb0002)は思い、楊 雪花(
gc7252)、並びに時枝・悠(
ga8810)と、まず名刺確認を行う。
『アニマルスターカンパニー営業部:猫間 犬太郎』。
続いてパンフレット。
『アニマルスターカンパニー株式会社:弊社は創立以来30年動物アイドルの登録/養成/紹介を多角的に行っております。業界においての信頼は厚く実績も大。第一線で活躍中の現役タレントも多く抱え――』
そこまで読んで一同は、顔を見合わせ目と目で語り、改めてレオポールを見る。はこはこ舌を出しているコリー顔に確信を抱く。ああこいつならやれるかもしれないと。
まずは雪花が感極まった声を作り、両手を広げた。
「おおレオポール、これは正に天職というやつではナイカ? 他に適任な人は居ないのコトヨ!」
続いては憐も頷いた。
「‥‥ん。レオポールに。ピッタリ。天職だと。思うよ」
悠までが賛同を示す。
「実際、適職なんじゃないだろうか」
レオポールはそれだけですっかり自信満々になってしまい、尻尾を千切れんばかり振る。
「やっぱり? いやあオレも何かそんな気はしてたんだ!」
何事にも単純すぎる男を更に乗せるため、憐も雪花も調子よく言葉を重ねた。
「‥‥ん。アイドル。一発当たれば。テレビや。ドラマ。映画で。ウハウハだよ」
「そうネ。笑いが止まらなくなること請け合いヨ。そして知名度が高またところで写真集トカ自伝‥‥引き続いてハ小説やラ絵本やラ、レシピ本やラ出して更に稼ぐヨ! むしれる時にむしれるだけむしりとるヨ!」
「えー‥‥オレ文とか絵とか苦手なんだけど」
「そういうのは全てゴーストライターがやてくれル。みんなそうしてル。だから無問題ヨ、レオポール」
「‥‥そうなのか?」
「‥‥ん。さあ。どんな。もんだろう。でもとにかく。レオポールには。可能性。あると。思う。すごく。個性的だし。少なくとも。私は。レオポールと。似たような人。見たことない」
「そっか、なら大丈夫だな」
とめどなく乗せられる犬男。
基本アイドル推進派であるが、悠は、少し相手にクギを刺しておくとした。あまりに簡単な仕事であると思い過ぎても、後々よろしくないだろうと。
「とはいえ、アイドルで長続きしてる人なんてごく少数だし、他の仕事選ぶ方が無難かもしれんぞ? 身体張った仕事だし、ストレスで尻尾が禿げたりしたら大変だ」
尻尾の単語は効き目を現した。レオポールは、俄然不安そうになってくる。
「そ、そんなにハードかな」
脅した張本人は話をはぐらかす。
「いやどんな仕事でも相応に苦労はあるだろうけど。傭兵が何とか勤まってたなら何とかなるんじゃないか? ‥‥そういや、レオポールってバグアとドンパチする前は仕事何してたの?」
ヒャンヒャン吠えながら走り回るようになる前は、彼も一応人間だったはず――いや今が人間じゃないという意味ではないが、とにかくそれ以前の姿があったはず。
そう思って聞いてみたのだが、レオポールの答えはたいして興味をそそるものでもなかった。
「え、前? コンビニのバイトだけど。でも出勤時間が決まってて面倒くさかったから、もっと時間が自由になる仕事ないかなあと思って傭兵に行ってみようかなって‥‥そしたらコンビニより大変だった。おかしいな。仕事内容自分で選べるんだから楽なはずだったのに」
「‥‥ん。考えが。ないのは。昔から。だったんだね。レオポール。ブレてない。レオポール」
「そっかな。そっかな」
「レオポール、今のハ褒められてないことヨ。さぁ善は急げと言うシ、今からその会社に行てみるネ」
雪花はそそくさ名刺とパンフレットを自分のカバンに入れ、レオポールの背を押した。こんな鼻歌を歌いながら。
「金が無いのは首が無いノト一緒〜♪ 銭の花は白いけどその根は血のよう赤いとカ〜♪ 戦争と平和に関わらずお金儲けがワタシの心情ヨ〜♪ それも楽して大儲けや、甘い汁旨い汁、人の上前が大好キ〜♪」
彼女もまたブレない人間の一人であるらしい。
●
「うーん‥‥」
「どしたネ、レオポール」
「いや、なんかこの会社の中、犬とか猫とか連れてる人多いなあと思って。猿とか豚とか蛇とかもさっき見たぜ。なんでかな」
「それはきと動物を大事にする社風だからに違いないヨ。さあサ、社長にお会いするネ。全てハこの敏腕マネージャー雪花サンにお任せあレ」
「あれ? いつからお前、オレのマネージャーになったんだ?」
「細かいこと気にしないヨ。さあ面接に行くヨ。時は金ナリ。ワタシの一番好きな言葉ネ」
雪花に連れられていくレオポールを見送った憐と悠は、エントランスにてジュースなど飲みつつ、待つこととした。
「まー、人間のアイドルと動物のソレと、どっちの競争率が高いか知らんけど。言葉の壁が無い分、他の動物より有利な立場だし、後者の方が能力を活かせるよね」
「‥‥ん。私も。そうだと。思う。犬として。見れば。レオポール。すごく。スペック高い」
「ああ。二足歩行出来るし人間語も話せるしな」
こくこく同意する憐は、Lサイズのコーラをむせもせず、あっと言う間に吸い尽くす。
彼女はかなり真面目に考えていた。これはレオポールにあっていそうな仕事だと。将来の事とか、家族を養う事を考えれば、少なくとも悪い選択でない。
「‥‥ん。本人と。レオンや。家族が。納得すれば、このまま働けば。良いんじゃないかな」
そこにレオポールが血相変えて駆け戻ってきて、ワンワン吠え始めた。
「おおい、この会社動物専門アイドルプロダクションだぞ!」
慌てず騒がず2人は、声を揃えて返す。
「今気づいたのか?」
「‥‥ん。やや。遅い」
「知ってたなら教えろよ!」
「教えるも何もパンフレットにはっきり最初から明記されていたのだが?」
悠のすまし顔にレオポールは、またワンワン吠えた。その鼻先を憐が、えいと手で押さえこむ。
「‥‥ん。レオポール。この話。受ける気。ないの?」
「だってお前、オレは動物じゃねえし」
ふて腐れた様子の相手に、ずずいと迫る。それならばと前置きをつけて。
「‥‥ん。犬アイドルか。パンダの人の。部下になるか。選んで」
パンダの単語に襟毛をぶわりと逆立てたレオポールへ、なお畳み掛ける。
「‥‥ん。このままだと。将来的に。家族崩壊。レオンとかが。グレるよ? レオポールの。現在の。稼ぎは。その程度」
そこに都合よく雪花も出てくる。
「その通りネ。お金が無ければ家内安全も保てないことヨ、レオポール。先々奥サンに愛想尽かされて浮気されたリ、荒れる息子から尻尾の毛をむしられたりするようになりたいネ?」
「ヤダヤダー! そんなんヤダー!」
不吉な未来像に本気で脅え号泣するレオポール。
耳後ろの毛を憐はわしわし掻く。面白いなと思いながら。
「‥‥ん。嫌なら。犬と。会話出来る。能力を。活かせる。仕事を。探せば? 犬の通訳として。動物病院に。助手として。入ったり。迷子の犬を。探す。探偵とか」
雪花もレオポールへ可能性を提示してみる。最終的に持論へ誘導するのを忘れずに。
「そうネー。まぁ他の職業を探すのも悪くないのコトネ。例えばサーカス、犬の調教師、警察犬又はその訓練士、盲導犬、介助犬etc結構色んな動物の言葉が分かるみたいだシ、その方面はどうかネ? ‥‥でもナー、結局犬アイドルが一番簡単だと思うのコトヨ。素のまま見せたらいいようなもんだシ。パンダジムの助手になるならそれはそれでいいケド」
「‥‥ヤダ。パンダだけはヤダ‥‥だけどなあ、動物アイドルとかなあ、もしかするとメリーやレオンが嫌がるかも知れないしオレ動物じゃないし‥‥」
しゃがんでうじうじしているレオポールの尻ポケットへ悠が手を伸ばし、携帯を抜き取った。
登録番号から自宅を選択し勝手にかけ、本人に手渡す。
「まあ、悩む前に聞いてみるんだな」
●
『雪花軒』の片隅にある喫茶コーナー。
店主の雪花と悠、憐が、菓子と茶をたしなんでいる。
「ああ、私は友達と店を開く事にしてる。喫茶店的なヤツ。その辺、やる事がハッキリしてるから、あんまり思い悩む事が無いっちゃ無いかな‥‥まあ、すぐに、と言う訳でもないんだが。最近は大体、本業の合間に調べ物とか手続きとか、その辺を色々やってたり」
「悠サン抜かりないネ。ワタシも見習って将来のコト早く決めておかないとナー」
「あんたは店を持ってるじゃないか」
「ウンまあそうなんだけド、今の商売を続けるカ、商売替えをするカ、悩みどころだナ。しかし新しいコトするにハ、資金がちょいと足りないのネ。貧乏暇なしヨ」
「ああ、それは私も似たようなもんだ。一時金が意外と少なくてKV払い下げた方が有用かなあとか考えてるんだよな。いや喫茶店でKVが必要な状況があるか知らんが‥‥のんびり思いを馳せる時間があんまり無い。いや本業の方を削れば良いんだろうけど。今の内に貯蓄増やしといた方が後々良いよなーとか考えると、中々」
話し込んでいる2人に挟まれる形で、将来などまだまだ先の話である憐は、ゴマ団子を一皿喉に流し込む。
「‥‥ん。雪花。レオポールの。ほうは。どう? あのまま。マネージャーに。なってるって。聞いたけど」
「そういや、レオポールの奥さんも子供たちも、全面的にアイドル活動へ賛成してくれたんだったな」
「そうネ。二つ返事だったコトヨ。まあそれはともかク、レオポールなら無事オファーが来たコトヨ。ちょと待つネ」
リモコンで店内テレビの電源を入れた雪花は、チャンネルを合わせる。
ちょうど番組が始まるところだった。かなり小さい子供向けの。
♪おかあさんとできるかな♪
「はーい、全国のちびっこたちこんにちはー。今日もおにいさんおねえさんと楽しく遊ぼうねー」
「今日はね、できるかなに、新しいお友達が来てくれましたー。ワンちゃんの、レオポールおじさんでーす」
「おう、みんなこんにちはー。でも犬じゃないぞオレ。ワン」
「‥‥ん。なるほど。これは。適任」
「でしョ。アイドルかというと微妙だけド、ここカラ知名度上げてグッズ販売とかの道が開けないかと思てるのコトネ。アー、ワタシも早く成功者になて税金対策に頭を悩ませたリ、慈善事業に寄付したリ、道に自分の名前を付けたリ、札束で人の頬を張たリとまぁ如何にもなことを色々やてみたいものヨ」
「商魂逞しいな‥‥そういや、後々は今の本業の方が副業になって、最終的には本業一筋って事になるのかな‥‥5年近く傭兵やってきた身としては、存外に感慨深い」
それぞれの思いに耽るように窓の外を眺める雪花と悠。
憐はジョッキ一杯のクリームソーダを、テレビ画面に掲げた。
「‥‥ん。レオポール。新就職に。カンパイ」
そしてぐっと一気飲みする。影も形も一滴も残らないように。