タイトル:宇宙農園 マスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/02/07 03:52

●オープニング本文



 ここは宇宙ステーションの一つ。
 高い天井まで作られた棚に絡まって生い茂る様々な葉の間から、果実が顔を覗かせている。イチゴだのメロンだのスイカだのブドウだのマンゴーだの、何かの掛け合わせなのか正体がよく分からないものもある。
 それら全てには共通点があった。
 大きいのだ。それもこれも地球上ではありえないくらい大きいのだ。
 イチゴは文旦くらいだし、ブドウもミカンを房にしたくらいあるし、メロンだのスイカだのは、最早おばけかぼちゃの域に達している。
 それらに囲まれ研究員らしい人々は、満足げに話し合っている。

「やはり仮説は間違っていなかった。重力の制約がない場所においては、果実の巨大化が容易になるのだ」

「後はこの成果を大々的に発表し、更なる予算増額を求めるばかりですな。これが軌道に乗れば農業形態はがらりと変わりますぞ」

「地球上と違い病害虫の発生が皆無だから農薬も使わなくていい。健康的にして安全な食品だ。天候の影響もないから、一定のものをコンスタントに作れる」

「そういえば家畜の方の研究はどうかね。あちらも大型化に取り組んでいるのだろう」

「ええ。植物より時間はかかりそうですが、順調に進んでいます」

「おお、そりゃよかった。この方面の未来は明るいな」

 彼らがそうやって将来への展望を語っているときである。ガサガサッとあやしい物音がした。

「おい、なんだ」

「誰か作業員がいるのかー?」

 呼びかけれども返事はなし。しかして物音が続いている。
 おっかなびっくり研究者たちはそちらに行ってみた。すると。

あがががががががが

 おばけスイカがすごい勢いで食われていた。そりゃもう巨大な、熊ほどあるネズミに。

「おおおいキミ、なにもこんなもん大型化させんでいいじゃないかね!」

「えっ、知りませんよ私は! 大体これ家畜じゃないじゃないですか!」

 物音に振り向いたネズミは口をもごもごさせたかと思いきや、でかいスイカの種を研究員ら目掛け吹きだした。

ブブブブブブブブブブ

「あいたたたたたた!」

「ちょっと退け、多分これキメラだ、キメラ!」


●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
御影 柳樹(ga3326
27歳・♂・GD
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
楊 雪花(gc7252
17歳・♀・HD
霧島・猛(gc7558
61歳・♂・CA

●リプレイ本文

 網棚に足をかけてブドウをむさぼっている敵の姿を見る最上 憐(gb0002)は、きりっと顔を引き締めた。

「‥‥ん。試食する前に。食べ尽くされると。大変。迅速に。退治しよう」

 敵は人間を狙っているのでないため、比較的落ち着いて観察が行える。
 ロジー・ビィ(ga1031)はとりあえず、あらゆるものの規模に驚きを覚えていた。

(大きな事業‥‥大きな果物‥‥大きな鼠‥‥。大きい物だらけですわ!)

 驚きではなく関心を寄せているのは、楊 雪花(gc7252)その人だ。

(宇宙農園‥‥何やら金の匂いがするヨ。この機に乗じテ見学せねバ)

 ぬかりなく周囲に目を配り、文旦くらいのイチゴだの、ミカンを房にしたくらいあるブドウだの、おばけかぼちゃなメロンだのスイカだの確認。その上で冷静に考える。

(ガ、肝心の味の方はどうなのかネ? 水みたいなイチゴにスイカとメロン、酸ぱいだけのミカン‥‥こんなのだたら何の意味も無いネ)

 そこら辺を是非自分の舌で確かめさせてほしいと願う雪花は、宇宙での食べ物に不信感をもっている――ある意味有名な『崑崙食堂』のせいで。

(この前の食事とか最悪だたからナ。ワタシはほとんど食べなかたケド。ゴムぽい味ノ焼きそばニぬるいラーメン、ほぼ衣ダケのアジフライ‥‥)

 一方、御影 柳樹(ga3326)は低重力を満喫している。
 現在保父さんを目指し勉強漬けの毎日。過食と運動不足により脂肪のだぶついてきだしたお腹回りも、ここでならさほど気にならない。水中にいるよりまだ身が軽い。そのためつい、自分は動ける大丈夫という自己弁護が生まれてきてしまう。
 それはともかく巨大ネズミ。もしかしたらシャトルに紛れてたものとか、実験用マウスが変化したものではないかと疑ってもいたが、実物を見てやはり違うと断言せざるを得ない。
 普通ネズミが巨大化しただけなら、スイカの種を投げて弾かれたりしない。

「あぁ、巨大なクマネズミ、じゃなくて、熊みたいなネズミ、さぁ‥‥」

 こしゃくにもブドウの皮は食べずぺっぺと吐き散らす姿に、ロジーの片眉は吊り上がる。

「折角の皆さんの集大成を貪るだけの鼠は許せませんわね」

「‥‥ん。同意。働かざるもの。食う。べからず」

 大きく同意を示した憐は、研究員たちに話しかけた。

「‥‥ん。情報とか。シャッターの。展開の。協力を。求める」

 霧島・猛(gc7558)も続く。

「そうだな。シャッターを利用し隔離を図るか。隔離場所はなるべく、研究施設や食料庫等で無いあまり利用されていないような所であるほうがいいのだが‥‥」

「はい。えーと‥‥それなら‥‥ガレージがいいのではないかと。普段は予備の送迎宇宙船を収容していますが、現在はちょうどよそのプラントに貸し出していまして」

「‥‥ん。それは。願っても。なし」

「そうだな」

 相槌のついでに猛は、透明なドーム天井を見上げる。
 皮一枚に隔てられた向こう、完全な真空だ。

(‥‥まさかこんな所まで来る事に、来れる事になろうとはな)

 輝き浮かんでいるのは地球だけ。青い星だけ。
 そこに被さり思い出されるのは、今はなき妻子の顔。

(‥‥赤い月が見えない‥‥お前達が、この光景を見たら何と言っただろうな。‥‥つまらない事を考えてしまうな。俺も歳だな)

 柳樹は懐からごそごそチーズの塊を出す。そして自信をもって言う。

「やっぱりネズミにはこれさぁ」

 雪花が間髪入れず水を差す。

「ア、ネズミにチーズというのハ単なる俗説らしいヨ? モチロン食べるコトハ食べるケド、特別好きてわけでもないそうナ」

「えっ。そうなんさ!?」

「まあ、この施設で一番食い荒らされているものも併せて使えば、間違いないだろう」

 助言をした猛は、以下のほめ言葉に苦笑を返した。

「さすが猛サン、年の功ネ」



「ほーらほら注目ー! チーズさぁー。生乳100%さぁー。おまけにスイカもついてるさぁー!」

 呼びかけにネズミキメラが反応した。クンクン尖った鼻先を向け、サササと網棚から降りてくる。柳樹が持つ何やらかぐわしい匂いがする物体と、猛が担いでいる砲丸スイカを目指して。
 両者は敵が近づいて来たのを確認しそそくさ逃げる――あまり距離が離れないように。興味を持たせ続けなければいけないので。

ギ、ギギッ

「‥‥ん。ガレージまで。急げ。急げ。でないと。私が。どっちも。横取り」

 ネズミが逆走しないよう憐は、雪花、ロジーとともに追った。
 相手がちょっと立ち止まりそうになると、すかさず『ハーメルン』の先でつついたり、『スコーピオン』で威嚇射撃したり。
 ガレージ以外への通路は、可能な限りシャッターで塞いでもらっている。
 1区画を通り過ぎて行くたび、背後で扉が閉まって行く。逃げ道のない状態へ追い込まれているのだが、元来頭が獣であるキメラには危機感がないようだった。届きそうで届かない食物を焦れったそうに鳴きながら、追いかけて行くだけだ。
 やがて一同はガレージに出た。先ほどの研究エリアよりは狭いが、宇宙船が入るだけあって、かなりの広さ。白っぽい明かりでのっぺり照らされた、窓のない空間。
 後方で全てのシャッターが閉まる。
 これで完全な閉鎖空間が生まれた。
 柳樹と猛は手にしていたチーズとスイカを、ガレージのど真ん中へ放り投げた。
 ネズミは勇んでそちらに走り寄り、意地汚くかじり始める。
 時は満ちた。
 ロジーの『ピクシー』が火を吹く。

「退治して差し上げますから、ご覚悟なさいませっ!」

 ペイント弾が両目に入った。
 激しい痛みにネズミは飛び上がり喚き、逃げ出す。見えてはいないはずだが視覚以外の感覚も優れているのだろう、さほど見当違いな動きでもなかった。ガレージの真ん中から端に寄り、逃げ道を探そうとしてする。
 だが、それはすでに断たれた後だ。

「‥‥ん。おぬし。不覚。なり」

 憐は背後から『ハーメルン』での一撃をくわした。
 ネズミは毛皮に血をにじませつつ身をよじらせ、素早く第二撃を避けようとする。

「往生際はよくしないとな」

 猛は『FEAR−7』で後足を狙撃し、動きを鈍らせる。
 ロジーがシャッターを蹴り、正面から、全速力で襲いかかる。

「さくっと退治ですわ、退治!」

 『花鳥風月』が鼻面を縦横割りにした。
 突進してきた柳樹が乗っかり、動きを抑える。『フトリエル』を打ち付けて相手のうなじを押さえたところ、『ティルフィング』を構えた雪花が言った。

「柳樹サン、そのまま動かないネ!」

「え‥‥ふわ!」

 突き出た腹ギリギリの位置で振り下ろされた刃がネズミの頭を落とした。確実に腹の皮一枚をかすめて。
 柳樹は固まったまま、大汗をだらだらかく。そこに憐が寄ってきて、むにむに肉を掴む。

「‥‥ん。後1センチ。出てたら。少し。切り落とされて。いい。ダイエットに。なったかも」

「‥‥そういうこと言うの止めてさぁ、憐さん。生々しいさぁ‥‥」



 労をねぎらっての試食会。

 巨大なものだから味が悪いのではないか――その概念を宇宙果物たちは見事に覆した。商売ものに関し採点の厳しい雪花も、思わず唸ってしまうほどである。

「オオ! これは科学の勝利と言うべきネ!」

 ブドウがブドウというよりグレープフルーツの味になっていたり、イチゴがどことなくリンゴっぽい味になっていたりという微妙な部分もあるが、どちらにしても十分賞味に堪えるものだ。

「商品化する際は是非是非ワタシもお手伝いさせてほしいのコト‥‥科学の発展と人類の幸福に貢献したいのヨ!」

「え、ええ‥‥まあうちも是非多くの小売店においていただき知名度を上げたいと思っている所でして」

「オオ、魚心に水心ネ! 早速よさげなブランド名をぶち上げて特許取るヨ特許! ワタシマネージメントするヨ!」

 商談に邁進する彼女と違い他の面々は、素直に味を楽しんでいる。

「‥‥ん。止められるまで。試食するので。適当に。止めてね?」

「うん、これがメインさぁ、体も軽いし今日はお腹一杯食べるさぁ」

 とはいえ大食い2名がそろうと研究所側もうかうかしていられない。すさまじい勢いで消えて行く果物に戦々恐々し、同時に着目する――柳樹に。

「おい、彼を見ろ。食えば食うだけ瞬く間に太っていくぞ」

「どういう構造ですかな‥‥しかし、研究の価値はありですな。もしあれが家畜に応用可能なら」

 ひそひそ囁き交わしながら何事かノートに書き付けている研究員たちの姿に、当の本人もすぐ気づいた。

「所で、もしかして、僕らって無重力での動物のデーター取りになってるさぁ?」

「‥‥ん。多分。それって。1名。限定だと。思う」

 憐はスイカにストローを突き刺し中身を吸い上げ、思い出したように研究員たちへ言う。

「‥‥ん。美味だったので。お持ち帰り分。お土産を。所望する」

「ま、まだ食べられるんですか?」

「‥‥ん。当然」

 柳樹はブドウの皮をきれいにむいて、ぱくり。

「うん、低重力で巨大野菜とかおいしそうだったり、なんかSFっぽいさぁ、ここだと随分体も軽くて過ごしやすいけど、えと、ここにいたら人間も巨大に育っちゃうのかなぁ?」

「ええ、低重力環境で生まれたなら、人間の骨格も大きくなります。ただそうなると今度は、地球の重力に耐えられない体となってしまいますのでね‥‥あまり現実的ではありません」

 そこに華やいだ声が聞こえてきた。

「皆さん、出来ましたわよ〜」

 ロジーが、巨大なスイカを横割りにしたものを抱えている。その中には山と持ったクリーム、バニラアイス、チョコレートアイス、そしてフルーツの数々。
 試食後彼女はこれを使ってお菓子を作ろうと一念発起し、この研究施設の台所を借りた次第である。

「ヘエ、スイカがグラスなのかネ。これはなかなかいいアイデアヨ、ロジーサン」

「おほめにあずかり光栄ですわ。さぁさあ、皆さん、勿論食べてくださいますわよね? 『ロジーお手製・宇宙ジャンボ特製パフェ』を‥‥っっ!!!」

「もちろんさぁ。わあ、おいしそうさぁ」

「‥‥ん。大盛り。めでたい」

「それでは俺もいただくとするか」

 豪華なスイーツに5人分のスプーンが入る。スプーンが口に入る。
 一瞬の深い間をおいてガタンと椅子を引き、雪花と猛が立ち上がる。

「‥‥すまないが、プラント内の見学をさせて貰うことになっていてな。ついでに、他に敵が居ないかも注意して回ろう」

「オオ奇遇ネ。ワタシもこのプラントの漢方薬における可能性を探るタメ、もと詳しく見て回る約束さき交わしてたところなのヨ」

「‥‥地球以外で作られた食べ物、か。不思議なものだな。‥‥ここから見える、地球は青い、な‥‥」

「そうネ。あの汚れなき輝きを見ているト、宇宙における人間の卑小サを感じるヨ」

 残された柳樹に憐は言う。平気な顔でスプーンを口に運びながら。

「‥‥ん。食べないと。なくなら。ないよ」

「‥‥そうね」

「あ、おかわりいくらでもありますからね♪」

 ロジーの料理の破壊的味を知らないのは、ロジーだけ。
 その鉄則は地球でも宇宙でも、何ら変わるところがないのであった‥‥。