タイトル:置き土産マスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/03/16 02:31

●オープニング本文


「うーん‥‥」

 レオポールは首を傾げていた。
 久々に傭兵依頼に出てみたはいいのだが、戦う前に悩んでしまう。
 いや、依頼内容は「正体不明の物体がある。もしかしてバグアがらみかもしれないから調査して、撤去して欲しい」ということだから、別に戦わなくてもいいのかもしれないが――しかしさあどこから手をつけたものか。この銀色の卵みたいなのを。

「‥‥おーい」

 恐る恐る剣でつついてみる。
 とりあえず音は金属質だから、中からキメラが孵るということもなさそうだ。
 でも強く刺激を与えすぎるというのもどうだろう。もしかしてドカーンと爆発しちゃったりしないとも限らない。
 押してみると案外軽く楽に転がせそうだ。
 注意深く耳をつけて揺すってみると、中でカラカラと小さな音がする。何かは入っているらしい。
 何かは。匂いを嗅いでみるがやっぱり正体は分からない。

「どうしよ」

 とりあえず卵(と仮に呼ぶ)は造成中である新興住宅地のど真ん中に埋まっていた。
 家の基礎工事をしていた際、偶然発見されたのだ。
 もっと詳しく調査するためには、場所を移動させた方が良さそうだ。

●参加者一覧

愛輝(ga3159
23歳・♂・PN
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
楊 雪花(gc7252
17歳・♀・HD
エルレーン(gc8086
17歳・♀・EL

●リプレイ本文

「へえ、随分賑やかになってるんだ」

 ジーザリオの窓から新築の団地群を眺める夢守 ルキア(gb9436)は、役場でのやり取りを反芻する。

『此処って、バグア支配地域だったの?』

『はい、つい一年くらい前までは幾度も軍が行ったり来たりして‥‥ええと、これが最新の地図です。しかし、何しろ建設ラッシュでして。またすぐ更新しなければならんでしょうなあ』

 確かに地図上で空白となっている箇所に、建物が多く出来上がっている。復興は相当なスピードで進んでいるようだ。

「えーと、問題の場所は次の三差路を左に、と‥‥」

 ついてみれば現場では、すでに人だかりが出来ていた。なんだか子供が多いようだ。
 目立った動きが現在ないとはいえ危険なことだと思い車から降りると、楊 雪花(gc7252)が規制ロープを張りながら呼ばわっていた。

「サアサア、世紀の遺物公開ダヨ! テレビでお馴染ミ、わんこのおじさんもやって来てるヨ! おせんにキャラメル、豚まんにスイーツはいかがかネ!」

 見れば彼女は屋台を引いてきている。
 商売根性に感嘆をしつつ騒ぎの中心まで行けば、銀色の卵を前にあれこれしている傭兵仲間の姿があった。

「はうぅ‥‥なぞのたまごなのっ」

 3メートルはあろうかという物体を見上げるエルレーン(gc8086)は、「デビルズT」を突き付けている。

「くう‥‥こんなわけのわからないものをつくるのはばぐあに決まってるのっ、あいつらん家へ着払いで送りつけてやりたいのっ」

 最上 憐(gb0002)はさすさす表面を撫で、匂いを嗅いだりしている。
 最近食べられそうなキメラ依頼や食べ物係依頼が少なくなったので、卵っぽいモノ発生と聞き、念のため食せないか確認しに参上したのだ。

「‥‥ん。卵。やっぱり。全力で。金属だね。金属は。流石に。食べられない」

 ちょっと残念そうな彼女の隣では、愛輝(ga3159)がレオポールに向け、呆れ顔をしていた。

「はあ。危ないかもしれないのに、剣で突いて揺すっちゃったんですか。勇気ありますね」

「え。だって金属だぜ? 割れたりしないだろ?」

「いえ、割れはしないでしょうが、危険性がまったく無いわけではないでしょう。例えばこの大きさだと、そうですね、爆弾ということだって有り得ますし」

 言われて初めてその可能性に思い当たったか、レオポールの毛が一瞬にして逆立つ。
 次のクレミア・ストレイカー(gb7450)の言葉で、尻尾が丸まる。

「そうね。必ずしもキメラばかりが迷惑な置き土産じゃないものね」

 彼は大慌てで、一緒に卵をつついていたエルレーンを止めにかかった。

「もしもし、はいってますかー?」

「オイやめろ危ねええ!」

「えー、だいじょうぶだよー。さっきばいぶれーしょんせんさーあててみたけど、うごきがないし」

 念のため百地・悠季(ga8270)は、自分もバイブレーションセンサーを作動させた。万が一にも周辺にトラップなどが仕掛けられていないか、判断するため。

(‥‥どうやら、ないみたいね)

 卵は卵単体として埋められていたらしい。であるなら移動させることで何かが発動するということも、ひとまずなかろう。
 とくれば、なるべく人気のないところへ持って行き処理すべき。中にあるものの大きさ形はざっと分かっても、それが本当に危険物でないかまでは、直に検分しない限り分からないのだ。

「それじゃ万が一爆発などがあっても大丈夫な場所へ。周囲に民間人がいない所が望ましいでしょう。車両を貸し出してもらえるなら助かるのですが‥‥」

「私がジーザリオを持ってきてるから大丈夫だよ、愛輝君」

 楽しげに言ってルキアは、卵をよいしょと持ち上げた。覚醒している身には拍子抜けするほど軽い。中身は本当に少ししか詰まってないもようだ。

「あ、手伝うわ。かさばるでしょう、それ」

 悠季はルキアの反対側を持ち卵を横倒しにして、ジーザリオの後部座席に運び入れた――天井にくっつきそうなほどきゅうきゅうだが、かえって揺れなくていい。
 クレミアが自車のインデースに乗り込む。

「それなら私が先導するわ。誰か護衛として後ろについてくれるといいのだけれど」

「そこはワタシがしようかネ。お客サン、移動ヨ、下がててネー」

 屋台を結び付けたバイクで雪花も移動し始める。
 わいわいしていた人垣が割れた。
 運転席の窓から乗り出したルキアが悠季に笑みかける。

「レディが横に乗ってくれると、嬉しいなぁ」

「お誘いには乗らないわけにいかないわね。でもあたしは人妻だから、脈はないわよ?」

 冗談交じりに返し彼女は、ジーザリオの助手席に座った。
 前方にあるインデースに愛輝と憐とレオポールが乗り込むのが見える。
 車両無線が入ってきた。

「とりあえず郊外に出ることにするわ。そのほうが万一の場合にも、安全そうだしね」

「了解」

 答えておいてからルキアは、同乗している悠季に話しかける。

「どこもかしこも作り立てだね、この町。新築ばっかり」

「そうね。こういうのを見ると、なんとなくうれしいわ。新しいものが生まれるって感じで。ここは何度か戦闘が行われたこともあったんですって?」

「うん。奪還したときには、インフラも何も全部なぎ払われちゃってさ、なんにもなくなっちゃってたんだって。それが1年でこの有り様だよ。ニンゲンってしぶといよねえ?」

「そうね」

 くすくす笑った悠季は、不意に遠くを見つめた。

「あたしの最前線作業は、これで暫くお終いとするから――今回のは、ある意味丁度良い引き際依頼なのよね」

「ふうん、そうなんだ。やっぱり子供のこととかあるから?」

「ま、それもあるし、他にもあるし。とにかくだからこそ、終り良ければ全て良しの構えで慎重に対応して、周辺への被害を無くす様に図るわ――」



 郊外に出れば未整地なまま。立派な国道の周囲には人工物というものがない。だけどこれもおいおい変わって行くだろう。道路脇に大型店舗が出来たり、新しい町が出来たりするだろう。

「ン、おおいに期待したいところネ。宇宙のみならズ地上にモ、まだまだフロンティアがあることヨ」

 一人ごちながら雪花は、路肩にバイクを止める。
 引っ張ってきた屋台を邪魔にならぬよう脇に押しやり、卵の運びだし作業をしているところへ近づいた。
 ルキアと悠季が後部席から出した卵は、地面に転がされている。
 憐は食物という可能性にまだ未練を持っているらしく、ぺたぺた触り倒しだ。

「‥‥ん。中身は。食べられるかな。食せる。キメラが。登場とかでも。良いけど」

 多目的ツールと工具を手に、ルキアも卵を軽くつつく。

「開けた瞬間、どかーんトカ、面白いよね」

 エルレーンも触る。

「すべすべだよねー。さわりまくってもしもんもつかないしよごれないし‥‥どうなってるのかなー」

 雪花も興味深げに表面をこする。

「本当ネ。これは解析したラ、何かとお役立ちかも知れないヨ。台所回りのコーティングとかトカ車のボデーとかには最適でないかナ」

 爆発という単語が脳裏を行ったり来りしているのだろう、レオポールはすっかりびくびくしている。

「やめろお前ら、危ないだろ!」

 自分が一番最初に剣でつついていたのに。
 思いながら愛輝は、強い刺激を与えぬよう気をつけながら手を当てた。
 卵の表面には継ぎ目などまるでない。どこか取っ掛かりがあれば、あるいは開けられるかも知れないのだが。

「うかつにゴツンとやると爆発しないとも限らないわね‥‥?」

 クレミアの不吉な発言にますますビビってしまうレオポール。
 悠季は再度バイブレーションセンサーを使用し内部を探ってみようと試みた。
 その反対側でルキアが、ちょいと表面を嘗めてみる。

「おい、腹壊すぞ」

「いや、キュア持ってきたし、GooDLuckあるしー、問題ないよレオポール君。憐君も、舐めて見るー?」

「‥‥ん。何事も、試して。みる。‥‥。味がない。全然」

 不服そうに憐が呟いたそのとき、出し抜けに卵の表面が一部、ぱかりとめくれた。
 レオポールは驚きのあまり派手に転がる。地に伏せる。威嚇する。

「ウ〜キャンキャンキャン!」

 皆は反射的に手持ちの武器を構えたが、めくれて以降何の動きもないのでひとまず取り下げ、よく確認してみた。めくれた下には、入力パネルらしきものが。
 見れば1から0までの数字と、AからZまでの大文字小文字のアルファベット。

「暗証番号? 何か大切なものがしまってあるとか?」

 愛輝の推測に憐は、早速反応した。ほふく前進で戻ってきたレオポールに、無理難題を押し付ける。

「‥‥ん。レオポール。とりあえず。適当に。押してみて。大丈夫。爆発しても。骨は拾う」

「‥‥やだ」

「‥‥ん。レオポール。たまには。男気を。見せる。チャンス。盛大に。玉砕して」

「やだって! オレ昔からクジ運悪いし! 大体玉砕前提にすんじゃねえよ! オレが死んだら奥さんと子供と全国一千万のちびっ子が泣くぞ!」

「‥‥ん。レオポール。安心して。奥さんと子供は。ともかく。ちびっ子は。一千万も。泣かない。せいぜい。10人も。いるか。どうか」

「そうネ。わんこおじさんマダマダ世間一般にはマイナーキャラヨ。一発屋の匂いしなくもないシ。さぁ卵をエミタで開けてみるネ」

「一発屋とか言うなあ! 大体解除なら悠季がもうやってんじゃねえか!」

「ソレハ残念ダナー。芸人として体を張るいい機会なのニ」

「オレは芸人じゃねえ‥‥」

 ふがふが唸る犬男に、暇をあかせたルキアも絡んだ。

「コレ、一応、未来研に持っていくのはどーかな。正直、何があるかワカンナイしー。もしかしたら高く売れるかも。レオポール君さー。こーいうの集めてそうなコレクタートカ、しらないー?」

「知らねえよそんな暇人‥‥あ、でもペーチャなら買うかも」

「駄目ネ。あの人デハ埃もでない程買い叩かれるのがオチだヨ」

 そんなこんなの騒ぎはよそに、卵がいきなりパッカンと割れた。
 悠季がエミタで回路解除を試みた途端の出来事である。

「ギャワン! ワンワン!」

 狼狽に再び吠えだすレオポール。

「さ、さあ来いッ!」

 「ハーメルン」をかざす憐。
 「デビルズT」を構えるエルレーン。
 「S−01」を向ける愛輝。
 「ヘリオドール」の照準を合わせたクレミア。
 しかし何事も起きず、物音もしない。

「‥‥?」

 悠季が細心の注意を払い近づく。
 割れた卵はやはり空洞であった。小さな箱がひとつ入っているだけ。
 衝撃など与えないように取り出してみれば、それは、いっこうに何の変哲もない箱であった。妙に安っぽい。おまけにこれもまた軽い。起爆装置など入っていそうもない。

「‥‥ん。中も。金属。食せない。食べものも。入って無い。残念」

 不服そうに卵の殻へ頭を突っ込む憐。
 彼女以外の皆が見守る中、悠季はゆっくり箱を開けた。
 出てきたのは一枚の紙切れ。書いてあるのはこんな文字。

『見つかっちゃった♪』

 エルレーンはなにがなんだか分からず、目を点にした。

「‥‥???」

 真っ先に事態を悟ったのはルキアである。
 彼女は紙片を取り、しげしげ眺め、横に文字を書き込んだ。

『見つけちゃった♪』

 続けて悠季が肩をすくめる。

「気が抜けると言うか、ユーモアが有り過ぎるわよ。それもブラック級ね」

 そう、つまりこれは徹頭徹尾冗談。
 認識した愛輝から力が抜ける。少しがっかりしたような、安心したような気分で。

「‥‥‥‥なんだ。ま、危険物じゃなくて良かったです」

 ようやく事態が飲み込めたエルレーンは、はあ、と息を吐いた。

「こんなばかなものつくっていくとか‥‥ばぐあにもひまじんがいたもんなの」

 加えて、ふと思う。

(そうゆう、くだらなかったり、楽しかったりすることで、つながることを、お互いに選んでれば―)

 今更な考えかも知れないけれど。虫のいい話かも知れないけど。

(ころしあうことも、なかったのにね)

 雪花は感心した声を上げる。

「洒落が分かるというかお茶目なバグアも居たものダネ。マァ人騒がせだけド‥‥コノ卵の殻どうしようカ?」

 クレミアは、吹いてきた春風に髪をかきあげる。本物の殻ならサプリメントだとか薬品だとかの原料にとも思ったけれど、なにしろ金属である。多分無理であろう。

「ま、みんなに任せておくわよ」

 憐は卵にすっぽり入り、揺らして遊ぶ。

「‥‥ん。わりと。楽しい。かも」



 新しい町の新しい公園の片隅。
 コンクリートで土台に固定された大きな卵がひとつ。子供が乗ったり滑ったりして遊んでいる。土台には簡単な説明書。

『2013/3/15 この町の地下より発見。2023/3/15開封予定』

 悠季はその様子に満足そうだ。

「公開タイムカプセルとは新しい試みだわね。でも、よく馴染んでいるみたい」

 ルキアは彼女に訊く。

「何を入れたの?」

「手元に有る家族三人の写真ね。入れたときの日付入りでね‥‥あと十年ばかりは子育てに邁進する予定だし そもそも二人以上になれば おちおち仕事だけに従事する訳にはいかないだろうし‥‥想定では最低三人だけどね。今の姿を将来のまだ見ぬ家族に見せられたらなと」

「あれ、それじゃまた‥‥」

「‥‥予定では家族計画実行中とまで。確認兆候はまだだけどね」

 会話を耳に挟み愛輝は、人知れず微笑む。

(これから復興に向けて、世界はどんどん変わって行くんだろうな‥‥変わる前の世界があの中には入ってる。今は小さな卵かも知れないけど、何年後かには雛となり、何十年後かには立派な鳥になるかもしれない、そんな未来に向けて‥‥)

 噴水近くでは、本日も屋台が開かれている。雪花は今日も商売に励んでいる。

「新商品出たヨー。バグア卵饅頭、ご当地ストラップもあるヨー。レオポールグッズも売てるネー。あの卵を待ち受けにすれバ、幸運がくること疑いなしヨー」

 なにやら尾鰭もくっつけ始めているようだが、それはともかく卵饅頭はおいしそう。
 憐はためらいなくレオポールの尻尾を引く。

「‥‥ん。卵。食べられないので。レオポール。何か。おごって」

「やだよ。際限ねえもん」

「‥‥ん。おごって。くれれば。レオポールの。テレビ。番組を。宣伝しておくよ」

「あ、わたしも紹介してあげていいよ。おごって」

「なんでエルレーンまで来るんだよ‥‥」

 クレミアはベンチに腰掛け、赤い月のない空を見る。

「世は全てこともなし――かな」