タイトル:サプライズパーティマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/23 23:17

●オープニング本文


 ルイーズ・アプリコットといえば、大手菓子メーカー『アプリコット』の会長の孫娘である。
 年は13。
 亜麻色の巻き毛、いたずらっぽそうな緑色の瞳。白い肌に、すらりとした手足。どこを取ってもまず申し分なく美少女だ。性格も素直で明るくかわいらしい。
 そんな彼女を会長であるおじいさまは、目に入れても痛くないくらい可愛がり、多少の無茶なお願いもごりごり通してしまう。

「おじいさま、私、今度のお誕生日のパーティーに傭兵さんに来てもらいたいの」

「おおそうかいルイーズ。それじゃあおじいさまが知っている方に相談して、特別に招待してあげようね」

 こう見えて彼女は、大のULTファンである。
 幼いころ住んでいた地域にバグアの襲撃があり、それを見事撃退した傭兵たちの勇姿を見て以来、彼らに対する憧れを抱くようになったのだ。
 実際一度、エミタの適性テストを受けたりもしている。おじいさまの安堵したことに、結果は不合格であったが。

「本当! ありがとうおじいさま。それじゃ私、お客さんのために腕によりをかけるわ!」

「そうかいそうかい。ルイーズはお料理が好きだものね。きっとお客さんたちは大喜びするよ」



 ここはとある会社の応接室。
 傭兵レオポールはバイト案内のチラシをまじまじ眺めつつ、目の前の青年実業家、ピョートル・カサトキン(gz0400)に尋ねている。

「本当にただ飯食うだけで金がもらえるのか?」

「ええ、そうですよ。当方の大事な取引相手である菓子メーカーの孫娘のパーティーに出席して、出された物を残さず食べてくれればいいんです。それであなたには謝礼金が入る上、後日その菓子メーカーから、有名パティシィエの作るオーダーメイドのケーキが自宅配送されると。どうです、休日潰してもやってみる価値があるでしょう」

 レオポールは、その通りだなと思った。
 キメラなんかと戦わなくてもお金が入るなら、これほどいいことはない。ケーキが送られてくれば、妻も子供も喜ぶだろう。特に長男はオレを見直すであろう。
 普段稼ぎのない夫であり父である彼は、そう思うのである。

「ただ、やる以上次の三つの条件は守ってください。パーティーが終わるまでは、お手洗いに立つのは構いませんが、なるべくすぐ席に戻ってきて、絶対帰らないこと。料理は全て文句を絶対つけずおいしくいただくこと。会長さんの孫娘のルイーズちゃんに愛想よく振る舞って楽しませてあげること。それが出来なかった場合、契約違反と見なして報酬はなしとし、場合によっては罰金を徴収させていただきます」

「え、罰金て金取るの?」

「そりゃ、これって大事な接待ですからね。ぼくの他にも業界の人結構来ますし。それを邪魔されたとなれば、損害分を請求する権利が当然発生します。まあ、大丈夫ですよ。何もあなたが難しい話をしなくちゃいけないわけじゃないですから。普通にしてくれればいいんです。じゃ、納得していただけましたなら、こちらの契約書にサインを」



 ルイーズの誕生パーティは、おじいさまの肝入りであるだけに、いつも大人たちばかり来る。だから彼女にとっては、いささか退屈なものだ。
 けれど本日は違う。憧れの傭兵さんが来ているのだ。
 だから、そっちの特別席につきっきりである。

「はいどうぞ、たくさん食べてくださいね」

 テーブルには、彼女の手作りの料理が並んでいた。どれもこれも外見は完璧。おいしそうである。
 だがそこにあったミートローフを一口食べたレオポールは、ぶわっと覚醒変化を起こし、コリー犬の顔になって固まった。
 まずいという表現では全然足りない。
 殺す気かというくらいの味覚に対する挑戦である。
 反射的に彼は吐き出そうとした。しかしすかさずピョートルが寄ってきて、制止した。

「罰金」

 この呪文はきいた。
 レオポールは涙目になりつつどうにか飲み込む。
 長い沈黙をおいて、彼はか細い声でピョートルに言った。

「‥‥なあ‥‥応援呼んでいいか‥‥?」

「ええ、いいですよ。多い方がルイーズちゃんも喜ぶでしょう」

 レオポールは携帯を取り出し、片端から電話をかけ始めた。

「ああ、うん、今ヒマしてる? おーそりゃよかった。あのな、いいバイトがあるんだけど来ないか。なんかな、うん、高給でさ、すっごくサプライズなんだよ、うん」

●参加者一覧

リリィ(ga0486
11歳・♀・FT
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
小野坂源太郎(gb6063
73歳・♂・FT
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
エシック・ランカスター(gc4778
27歳・♂・AA
追儺(gc5241
24歳・♂・PN
菜々山 蒔菜(gc6463
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

 パーティー会場には和洋中のバイキング料理が並び、引っ切りなしに補充され、いい匂いを漂わせている。
 ルイーズが席から立ち上がり、お客さんに向け会釈をした。

「皆様、遠いところからよくいらしてくださいました。初めまして、私、ルイーズ・アプリコットと申します」

 その一連の仕草。さすが生まれながらのお嬢様、さまになっている。
 ぜひ参考にと観察しつつ、リリィ(ga0486)も同じように返す。

「いえ、こちらこそ。本日はリリィをお招きいただきありがとうございます♪」

 そしてふと先に座っている犬人間ことレオポールに目をやり、軽い違和感を覚える。

(‥‥どうして覚醒してるんだ?)

 そんな彼女の後には、リュイン・カミーユ(ga3871)。

「我はリュイン・カミーユ。最近は芸能活動もしているアイドル傭兵だ。此方に進出した時には応援宜しく。本日は招待感謝する」

「まあ、おきれいな方ですね。ご縁がありましたら勿論よろしくお願い致しますわ」

 次は追儺(gc5241)。もともと子供好きな彼は、目付きの悪さで少女を怖がらせまいと、なるたけ親しげに話しかけた。

「追儺だ。今日は招待してくれてありがとう。言葉遣いが悪いかもしれんが‥‥よろしくな」

「いえ、こちらこそ不調法ですが、大目に見てくださいませ」

 にっこりしてもらえたので、彼としてはほっとしたところ。
 続けてエシック・ランカスター(gc4778)が、うやうやしく礼を取る。

「失礼いたします。お招きいただき大変光栄です。無作法をお許しください‥‥心ばかりのお祝いです。傭兵の間で人気の商品ですが、お眼鏡に適うといいのですが」

 急なことではあったが、彼はお土産を用意してきていた。愛らしくラッピングされた”でぃすたんのぬいぐるみ”そして”れいちゃん人形”である。

「まあ、ありがとうございます。とてもかわいいですわ」

 彼女はそれらの品に大層喜んでいた。もこふわ物は少女相手に、大概外れないものなのだ。
 続けて最上 憐 (gb0002)、菜々山 蒔菜(gc6463)、小野坂源太郎(gb6063)が滞りなく挨拶をすませ、席に着く。
 最後がラナ・ヴェクサー(gc1748)であった。
 彼女についてルイーズは、一目見たときから心配そうにしていた。パーティードレスを着ているものの、その体のあちこちに包帯や湿布をしていたからだ。

「あの、お体差し障りはございませんか?」

「ああ、心配いりませんよ。傭兵ですから、こんなこともあります」

 ラナは少女を安心させるため、微笑んだ。初対面の相手を気遣えるとは、心掛けのなかなかよい子供だと思いながら。

 かくして一通り挨拶が終わったので、招待客たちはミートローフ、ポタージュ、鮭のムニエル、シーザーサラダ、キッシュ、子羊のカツレツに早速手をつけることとした。
 どれも見た目は完璧なのだ。加えて匂いまでも異常がない。
 だから最初に来る一撃は、予備知識がない限り避けられない。



「まあ、とてもおいしそうな料理ですね♪」

 言ってサラダを口に入れた刹那、リリィの眼前に美しい花畑が広がる。
 向こうから人々が駆けてくる。

『おおーい‥‥お前もとうとう来たんだなー‥‥』

 そこからダッシュで逃げてきて彼女は叫ぶ。本能のままに。

「な‥‥なんじゃあこりゃあ!!」

 だが残された僅かな理性で、目の前にいるルイーズの存在を思い出し、全力で取り繕った。

「あ‥‥あまりの美味しさに思わず声が大きく‥‥」

(クソが‥‥! どうやったらサラダがこんな味になるんだ! 一瞬先に逝った仲間が見えたぜ‥‥)

 と正反対の感想を内心噴出させつつ。

「まあ、そうだったんですの。そんなに喜んでいただけてうれしいですわ」

 この言葉にリリィが心で何とコメントしたかは秘密である。

「えっと‥‥リリィ、マヨラーですので‥‥」

 ただ口ではこう言い、テーブルに並んでいたマヨネーズを、サラダの上に丸まる一本あけた。
 ラナはというと動悸を抑えるのに苦労しており声がない。
 自身も料理が壊滅的なリュインも、味的な事には目を潰れる腹積もりだったが、タバスコ一気飲みという無茶をしなければ耐えられなかった。

「給仕、タバスコに辛子、あるだけ持って来い」

 源太郎に至っては、覚醒したマッスルパワーでマッスルスーツが飛び散る始末。
 あまりの刺激に我を忘れ、脳内までもマッスルにはちきれる。

(こ‥‥これは毒か!? 毒なのか!? 何者かは知らんが心を込めて作った料理に毒を入れるとは何という奴だ‥‥!)

 回りに異常がないところを見ると能力者だけに盛られたらしい。
 はっ、もしやバグアの陰謀!? 
 このパーティーの席にバグアの手先が!? 
 だとしたら本部に応援を頼まねば!
 一気にそこまで突っ走る彼の暴走を、さっと寄ってきたピョートル・カサトキン(gz0400)が押さえた。

「ご老体ご老体、落ち着いてください。これはそもそもそういう味なんです」

 一方キッシュを口に入れた追儺も追儺で、激しく頭が焼き切れそうになっていた。
 かつて経験したことがない味である。そりゃもうきっつい味である。
 だがこれは仕事。しかもルイーズが期待に満ちた瞳で見ているのだ。食わないという選択肢はない。

(子供の善意は無駄には出来ない‥‥味はどうあれ一所懸命作った料理、味を変えるのも気が引ける‥‥ここは味覚を無視するんだ俺!)

 悲壮な決意の元キッシュを新たにほお張る彼の隣、ポタージュの蒔菜は青ざめた顔でどうにか口を拭っていた。
 源太郎の筋肉変化にルイーズが気をとられているのを確かめ、こそっとレオポールに詰め寄る。

「おいテメエ、こいつはどういうことだ? 檄マズじゃねーか、埋めんぞコラ」

「うるせえ、誰も初めからうまいなんて言ってねえだろうが」

「殺すぞクソオヤジ」

 この重大局面において、一見平気そうにしているのは憐。
 彼女とて劇的なまずさが分からないではないが、これまで様々な経験を積んできた身の上、鉄人級の耐久力が備わっているのだ。

「‥‥ん。中々。刺激的な。味だね。隠し味が。何か。気になる」

 とにかく早くバイキングに赴きたいので、短期戦に持ち込む。
 ポタージュの中に全てを入れ込み、汁気を糧にかっ込む。
 ルイーズが目を丸くし、尋ねる。

「まあ、大丈夫ですか? そんなに一息に食べてしまわれて」

 問題なしと頷き、憐は可能な限り相手の料理を褒めてみた。ウソにはならないように。

「‥‥ん。今まで。色々。食べて来たけど。味わった事がない。貴重な。味かも」

 ルイーズは頬を赤らめる。

「まあ、ありがたいお言葉ですわ。エシック様はいかがでございましょう」

「大変おいしくいただいております。ただ私には少々塩味がきついようで」

 話を振られたエシックは、柔和な表情をずっと崩していなかった。驚異的である。
 憐と同様よほど修行が出来ているのか‥‥いや、さにあらず。早い段階で覚醒し続けているからだ。
 彼の覚醒における身体変化は、苦痛が全て快楽に変わるというもの。戦闘のみならず、こんな場合にも打ってつけである。

「絢爛豪華な料理は大変嬉しいです‥‥が、このような手の込んだ料理は慣れておりませんので少々戸惑っております。シェフに失礼ですが、隠し味は何でしょうか」

「あら、隠し味なんて。ただ、本の通りに作っただけですわ」

 全てを理解し席に戻っている源太郎は、鼻頭に汗を吹き出させつつ格闘している。

「すまんなお嬢さん、わしはテーブルマナーに疎くてな」

 醤油とソースとマヨネーズで包み込み、ご飯でカバーし、噛まずに飲み込む。そしてコーヒーで押し流す。

「うん、(飲み物が)旨い旨い!」

 彼は少女の真心を傷つけぬよう超人的努力を払う。
 すっかり無口になってきたラナが、回ってきた給仕を呼び止めた。

「すいません、ハイボールいただけますか。ええ、浴びるほど」

 もう素面の努力だけでは限界だと悟ったらしい。
 リリィはマヨネーズを浴びるほど使用している。
 リュインはさすが演技派であって、何故サラダがここまでひどくなるのだろうと思いつつも、顔色一つ変えなかった。背中は汗びっしょりだったけど。
 武器であるタバスコを全ての料理に振りかけつつ、悪戦苦闘。息抜きにワインを飲みパンを食べる。
 しかし料理下手な我と我が身を鑑みるに、やっぱりルイーズを責める気にはなれず。

(私の料理はここまで酷くはない、と思いたい)

 黙然とする彼女の耳に、せかせかバイキングとテーブルを行ったり来たりしている憐の声が響いてくる。

「‥‥ん。油断すると。本能に。任せて。覚醒して。瞬天速を。使って。全力で。高速で。食い尽くしそうになる。我慢。我慢」

 限界だろうというほど積まれた餃子と肉団子の山盛りが、見る見る内に消えて行く。
 無理難題を蒔菜とレオポールから持ち込まれている追儺、源太郎といい対照である。

「悪い追儺。私お腹が一杯なんだ。このミートローフだけでいいから、片付けてくんない?」

「あ、ああいいとも!」

「なあ源太郎じいさん、オレのカツレツ頼んでいいか‥‥何か腹もたれてきてさ」

「い、いいともさ。すでに真っ白じゃからな、レオポール」

「まあ‥‥私のお料理量が多すぎましたでしょうか」

「いやいや、気にしないでくれお嬢さん。それよりこの料理は全部お嬢さんが作ったそうだな。どうやって学んだのかな? 他にはどんな料理が作れるのかな? 今度わしも一緒に料理に付き合いたいんだが、いいかな」

「あら、おじいさまもお料理をされますの?」

「ああ、もちろん」

「なるほど、それは面白そうですね。ルイーズ様、世間にはたくさん料理教室なるものがありまして‥‥」

 なんとかルイーズの料理の腕を向上させてやりたいと、源太郎に引き続き、エシックもそれとなく誘導をしている。
 その傍らで、マヨネーズによって全てを押し込んだリリィが、勢いよく転げるようにバイキングの席へ向かって行く。
 蒔菜はひたすらな心頭滅却を試み、通夜のような薄暗い呟きを繰り返している。

「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時‥‥」

「蒔菜様?」

「気にしないで。彼女は読経が趣味なのだ」

 そこのフォローをし、ようやく与えられたノルマを達成したリュインは格別濃いコーヒーを飲んだ。そして、ルイーズにこう持ちかける。

「お嬢様、ダンスなど如何かな? 我が男役をしよう」

 親睦を深めるためもあったが、大には消化のために。
 そこに、サンタクロースみたいなルイーズのおじいさまがやってきた。

「ハロウ、ハロウ。いや、皆様、本日はようこそいらしてくださいました」

 酔いが大分回ってきたラナは、ある種の自制心を外していた。ので、近寄ってきた彼の肩をがっと掴み、目を据わらせる。

「孫娘を存分に甘やかすのも大事ですが、ルイーズ君自身のためにもあの料理の実力の程についておし」

「すいません、彼女は少し酔いが回っているみたいで」

 だが途中でピョートルに遮られ、壁際まで引っ張って行かれた。

「あのね、真実を告げるのは結構ですが、それ、ぼくがらみの依頼でないときにしてください。罰金とりますよ」

「‥‥卑怯者」

「卑怯で結構。ぼくは営業が大事です」




「本日は楽しいパーティーでしたよ」と魂の抜けた目で言ってから三日後。

 リリィはクール便で届けられたかわいいウサギの形のケーキを眺めていた。
 お目目は赤いドレンドチェリー、体は真っ白なホイップクリーム。

「あーあ畜生、ひでえ目にあった。もう二度と美味い話には釣られねーぞ‥‥何なんだよあの料理はよ。ちゃんと味見してんのかお前は」

 それに頭からかぶりつき、彼女は満足げな嘆息をした。

「‥‥それにしても美味いなこのケーキ」



「‥‥ん。天井に。届きそうな。巨大ケーキ。一度。丸ごと。食べてみたかったので。僥倖」

 言葉どおりのケーキが憐の前には控えていた。
 どうやって部屋に運び込んだのかは謎として、注文どおりのイチゴたくさん重力に逆らう五段重ねの床が抜けそうな超大型ケーキ。

「‥‥ん。いただきます」

 彼女は大いに満足し、解体という仕事に取り掛かる。



 縁側にて抹茶ケーキを肴に渋茶を飲む源太郎は、おすそ分けに預かりにきた近所の子供たちに質問されていた。

「源太郎じいちゃん、これなあに」

「ああ、それはお菓子屋さんのお孫さんの写真だ。わしは、その子と料理教室仲間になったんだ」

「いいなあ。それならいつでもケーキもらえるの?」

「さあ、それはどうかなあ。わしはどっちかというと、せんべいとかのほうがいいな」


 ラナは送られてきたザッハトルテを口にしつつ、そのレシピを丹念に眺めていた。
 チョコレートの苦みと甘みがほどよく合わさって、何とも美味である。
 自分もぜひこんなものを作りたい。バレンタインまでに。
 何十個失敗するか分からぬが、やってみる価値は十分ある。

「ええと、無塩バター 60g チョコレート 60g 卵黄 3個分 グラニュー糖 20g アーモンドパウダー30g 薄力粉60g‥‥」



「おっ、来たじゃん、ケーキ」

 蒔菜はうきうきと宅急便の箱を開ける。
 そこには生クリーム、チョコレート、マロン、モカといった雑多なショートケーキが、二人前ずつ詰まっていた。シュークリームも入っている。

「うまそー。やっぱしあれだよな、あんだけ苦労したからには報いがないと」

 うんうん頷きながら早速電話をかける。友達に、一緒にうちへ食べに来ないかと。



 エシックはレオポールの家に呼ばれ、座布団ほどのアップルパイのご相伴にあずかっていた。紅茶は我が家から持ち込んで。
 赤ん坊にミルクを飲ませている母親の代わりに、顔中べたべたにした弟妹の顔を拭く長男が、父へ言っている。

「‥‥いくら注文どおりにしてくれるからってさ、こんなにはいらないと思うよ。調子に乗り過ぎだよパパ」

「うるせえ、黙ってありがたく食え。なあメリー」



 胃薬の世話になっていた数日を思い出し、追儺はほっと息をついた。
 彼の前にはクール便の箱。

「そんならいただこうかな」

 開けると念願のチーズケーキの横に、なぜかクッキーの包みが。
 見るとルイーズの名前が書いてある。
 彼は思い出す、パーティーの終わりに自分が「また食べたい」と言ってしまったことを。
 さんざ悩んだ末追儺は、そのクッキーをも口にし、もう数日胃薬の世話になるのである。



 リュインは恋人のもとへ尋ねて行くところ。
 彼女の手には『アプリコット』と書かれたケーキの箱。
 中には野菜たっぷりの塩ケーキ、ケークサレが入っている。甘いものが苦手なのでそれを希望したのだった。
 彼は待っていてくれる。二人で穏やかに時を過ごそう。
 今日はとてもいい天気だから。