タイトル:わからずやのロボットマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/06 23:12

●オープニング本文


 金を目当てに誘拐事件など起こすのは、たいてい先の見通しの利かない人間である(組織的ビジネスとなればまた別だろうが)。
 この場合もそうであった。特に綿密な計画を立てるわけではなく、現金確保の必要に迫られていきあたりばったり
 だが、それでもまんまと大金持ちの子供を誘拐出来た。
 いや、正確に言うと大金持ちの子供も誘拐出来た。


 不摂生そうな茶髪の、若いんだか中年だかはっきりしない男は、土埃まみれでぼろくたになっているドミトリイ・カサトキン(gz0401)ことミーチャについてうさん臭げに言った。

「おい、なんだこの汚いチビは」

「チビで悪かったな。お前もこのデカブツに山道延々引きずられてきてみろや、同じようになれるからよ」

「うるせーよ、てめーにゃ聞いてねーんだよ、おい、どういうことだ」

 そいつが話しかけているのは、2メートルを越す大きな鉄の塊。一見して、ああこれはロボットだなという形のロボットであった。

「コレハコドモデス」

「子供じゃねえよ。見りゃわかんだろうがよ、見りゃあよ。ただのチビけたおっさんだろうが」

「コレハコドモデス」

 そこで男の仲間が肩をすくめた。

「おい、もう止めておけよ。違いがわからないんだって、こいつは。小さいのはみんな子供とかいう判別しかしないんだぜ」

「ちっ。もっと高性能のくれたらよかったのによ。科学力がすげえんだろ、バグアってのは」

「みてーだな。けどよ、これで俺たちがこの仕事に成功したら、もっと高性能のものを任せてもらえるんだろ。さらに金が儲かるような。いやもう、半分以上成功してるけどな」

 彼はミーチャの後ろにいる子供たちの姿に目を細めた。
 そこにいるのは3人。
 2人はなんてことない普通の家の子だ。10ほどの女の子と男の子。
 だがもう1人は違う。大手菓子メーカーの孫娘、ルイーズ・アプリコットなのだ。付近にある別荘へ遊びに来ていたところ、攫われたのである。

「おいこらお前ら、こんなボロイ仕事が成功するわきゃねーだろ!」

「うるせえつってんだろうが! だいたいてめえにゃ用はねーんだよ、殺すぞコラ!」

 持っていた銃の台尻で青年を殴り、茶髪の男は声を荒らげる。そのまま撃ち殺してもやろうかとしたところ、ロボットが止めた。
 別に意志を持っていた訳ではなく、単にプログラム上の警告を発しただけだが。

「メイレイコウシンハアリマスカ。ナイバアイハ、コノママ、ゲンカノサギョウヲゾッコウシマス」
「ちっ、一々面倒くせえなあ」

「そうは言っても、これ以上同じ仕事は続けさせなくていいだろう。こんなのまた持ってこられてもな」

「そうだな。おい、そんなら話し合いが終わるまでの間、ひとまずこいつらを逃げないように見張っておけ。ここから出すな」

「パスワードヲドヴゾ」

「ああもうなんなんだよ、めんどくせえ!」

 腹立ち紛れにロボットを蹴り、男は無表情な相手の胸を開けた。
 口頭ではなく、そこにあるキーを押してパスワードを入力しなくてはならないのだ。
 何たるアナログ。
 本当にバグアの科学力は高いのかとか文句を垂れながら、彼らは別のバンガローに移動した。
 まあしかし、どうせろくな話し合いなど出来る訳がない。酒を飲み、金を手にいれたらどうしようこうしようとか、そういうことばかり。
 そのうち、金持ちの令嬢だけいれば後はいらないのではないかという流れになってきた。

「金にならねえもんな。さっさと始末したほうがいいだろ。俺たちの顔も見ている」

「ああ、特にあのおっさんはいらねえよな。しかしやるはいいとして、後始末だ」

「そんなものあのロボットにやらせりゃいい」

 そうだそうだとすらすら話がまとまり、一同は外へ余計ものを連れ出し始末することとした。
 だが人質を閉じ込めたバンガローの前に来たところで、意外な抵抗にぶつかった。
 ロボットである。

「ワタシハココデミハリヲシテイル。カレラヲココカラダシテハイケナイ」

 そのように繰り返し、両手を広げて立ちはだかる。
 冷静に考えれば、彼はただ忠実に命令を守っているだけなのだから、再度パスワードを入力してそれを書き換えれば、邪魔しなくなると分かるはずだった。
 だが、犯人たちはまるで意図的に(そんなのあり得ないのに)邪魔されたような気になった。
 もともと自制心に乏しい連中に酒と銃を与えると、ろくなことがない。

「いいからどけってんだよ!」

 誰かがロボット目がけて発砲した。
 残念ながらこのロボットはバグア製。
 パスワードを与えない人間の意志など尊重しない。登録された命令だけが絶対指針なのだ。

「ボウガイヲハイジョシマス」

 瞬時に金属の口から、肩から、開いた腹から、銃口が飛び出す。
 爆竹が雪崩打つような音の後、それっきり、しいんとなった。
 部屋の中にいた子供たちは首をすくめて、何事かと顔を見合わせる。
 ミーチャは何が起きたのか確かめようと、扉を開いた。
 しかし、開けた先をロボットが全身でふさいできた。

「ワタシハココデミハリヲシテイル。アナタタチハココカラデテハイケナイ」




●参加者一覧

天・明星(ga2984
13歳・♂・PN
秘色(ga8202
28歳・♀・AA
絶斗(ga9337
25歳・♂・GP
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
ニコラス・福山(gc4423
12歳・♂・ER
追儺(gc5241
24歳・♂・PN
菜々山 蒔菜(gc6463
17歳・♀・ER
エルト・エレン(gc6496
14歳・♂・DG

●リプレイ本文

 寒気の抜けない山の空気を吸い込みつつ、ニコラス・福山(gc4423)はキャンプ場跡地にいた。

「まぁ下りてきた連中の話が一から十まで本当とは全っ然思わないが」

 煙草の煙をくゆらし、やや離れた位置にある一つのバンガローを見やる。
 一体のロボットが入り口を塞いで立っていた。
 どでかい角張った金属ボディ。あちこちに打ってある鋲。頭のアンテナ。車のフロントライトみたいな目。ペンチ形の手。
 恐怖より郷愁を醸し出すデザインだ。足元にごろごろ、誘拐に加担させられた(という話の)人間の死体が転がっているけど。

「あー‥‥うん、確かに頭の悪そうな奴だな。ビジュアルも最悪だ。前世紀の香りがぷんぷんしてくるぞ」

 菜々山 蒔菜(gc6463)は彼と違い、敵のビジュアル云々より大きさと材質が気になった。

「で、でけぇ。硬そうだし、あんなん手で殴ったら骨もってかれるぞ」

 しかも聞いたところによると全身に銃器を仕込んでいるという。
 たとえ間抜け面をしていても、うかつに近寄っていい相手ではない。

「にしてもこないだのお嬢ちゃんが捕まってるのか‥‥縁があるというか」

 彼女が話しかけたのは最上 憐 (gb0002)と追儺(gc5241)である。
 彼ら三人はわけあって、ルイーズ嬢と顔見知りなのだ。

「‥‥ん。そうね。マッキー。縁は。異なもの。味なもの。お菓子屋さんの。お嬢さん。助けたら。きっと。がっぽがっぽ。お礼の。お菓子。疑いなし」

「‥‥ちゃっかりしてんな、お前。でもそういやそうか。私も何か頼んでみようかな」

「おいおい、俺たち救出に来てるんだぞ。まずそれをやってから後のこと考えねえと」

「勝てると甘く見た時点から、痛い目を見ることになるぜ」

 呆れたように肩をすくめる追儺と絶斗(ga9337)に続けて、美しきオカン秘色(ga8202)も苦言を呈する。

「そうじゃぞ。親御はさぞや哀しんでおろうで、無事に救わねばの」

 エルト・エレン(gc6496)も、ノートにさらさら文字を書いて会話に参加する。

『家族も心配してるでしょうし、早く家族の下に帰してあげましょうね』

 とはいうものの、場はさほど切迫したムードになっていない。何故かというに。

「おいこら、開けろって言ってるだろうが! 聞いてんのかこのドラム缶!」

 離れたところからでも中で喚いてどたばたしている音が聞こえているので。
 絶対に子供ではない声である。どうもあれが話に聞いた小さいおっさんらしい。
 天・明星(ga2984)は思いながら、人質にロボットが危害を加えていないらしいことにほっとする。

「‥‥それにしても、キメラのロボットにも三原則というのはあるんでしょうかね?」

 そして深遠な考察につい踏み込んでしまう。
 秘色はそういった哲学的問題に拘泥せず、現実問題のみを口にした。

「ま、童でないものも紛れておるのは、此度の場合、わしらにとっては好都合かも知れぬな‥‥さて、問題はあのロボットがわしらの会話や行動をどこまで把握しておるかというところじゃが」

 それによって当然人質との意志疎通法や、攻め方が変わってくる。
 そんなわけで秘色は、ここに来る前に話し合った作戦を、早速試してみるとした。
 バンガローの正面に立ち、なるたけ声を張り上げる。

「さておのおの方。ついに目標を発見しましたぞ。それではこれから全員一致して、正面突破するぞえ。討ち入りの準備はよろしいかな!」

 ロボットは数秒無反応であった。
 関係ない会話はスルーしているのか。
 思いかけたところ、いきなり頭のアンテナがミイーンと伸びた。
 出し抜けだったので、見ていた一同ちょっとビクッとさせられる。

『‥‥一応反応しているのでしょうか、あれは』

 エルトからの問いかけに蒔菜も答えづらかった。いかにサイエンティストと見込まれていても。

「まあ、多分恐らくある意味では」

 そこに、先程から周辺をぶらぶら偵察していたニコラスが戻ってきて、報告した。

「バンガローの後ろに窓はあるぞ。まあ、トイレの窓くらいの大きさしかないし、ちっと位置が高すぎるがな」



 救出班からロボットの注意を逸らして置くため、秘色、追儺、絶斗、そして蒔菜がバンガローの入り口近くに移動する。
 様子見はもう済んだので、もっと反応してきそうな位置まで接近していく。
 とはいえ銃器攻撃は侮れなさそうだ。転がってる人間ときたら、頭半分なくなっているのもあるので。
 なので蒔菜は、丈夫そうな盾役である絶斗の後方に控えておくこととした。
 一定距離まで来るとロボットは、アンテナ以外にも動きを見せ始めた。
 まず口から警告を発する。

「ワタシハココデミハリヲシテイル。カレラヲココカラダシテハイケナイ」

「‥‥とりあえず持ち場から離れてもらわんとな。さぁて、新しい俺の武装、試してみますかっ」

 絶斗がガントリーアームを延ばしにかかった。
 彼の身につけているAIから、人口音声が発せられる。

『オープンコンバット!』

「おお、伸びる伸びる。短いけど」

 ロボットは目の前に来てちょいちょい体を突ついてくる手に、また新しい、というよりプログラム通りの行動を示す。
 両手を広げるようにして立ち塞がって来たのだ。戸口から、若干前方に移動して。
 反応は芳しいと見て、追儺が入って来た。
 彼は瞬時にロボットとの距離を縮め、正面に立った。
 ライトそのままの相手の目が普通の意味で見えているのかよく分からないが、とにかく睨みつけてみる。

「貴様の相手は‥‥俺だ」

 直後相手の腹と頭へ打撃を加える。
 ゴワンゴワンと金属的音がした。それはもう目茶苦茶堅そうな。
 追儺の顔が引きつり額から冷や汗が吹き出したのを、蒔菜はしっかり目にする。
 ロボットは表面上全く傷が付いたように見えない。が、今のが攻撃とは受け取った。

「ボウガイヲハイジョシマス」

 口から腹から肩からたちまち銃口が飛び出す。
 追儺は瞬時に飛び下がり、絶斗が前に飛び出てくる。
 彼はガントリーアームで、雪崩のような銃撃を受けた。
 そのまま勢いを止めず、もう片方のドリルアームを起動させる。

「こっちは回る回るっいいねっ」

 ロボットはペンチの手でドリを弾いた。そうしつつも銃撃は続ける。
 狙って狙撃というより広範囲をくまなく乱射といったやり方であるので、近くにいた秘色も対応に追われた。

「なんともはや、おおざっぱなロボよのう」

 周辺のバンガローにも容赦なく流れ弾が当たり食い込み、えぐっていく。
 蒔菜は盾を持つ秘色の背後からエネルギー弾をお返ししながら怒鳴った。

「おおざっぱとかいうレベルじゃねーよ、ちゃんと回り見てんのかてめえ!」

「ボウガイヲハイジョシマス」

「だからもうそれはいいっての!」

 ロボットは一時も銃撃を止めない。排除対象が沈黙するか逃走するかまではとことんやることになっているらしい。

「ま、わしらにとってはかえって好都合じゃわえ」

 盾を構えつじりじり接近して行く秘色は、絶斗の攻撃が弾かれた間隙をぬい、上段から肩の銃口を切断しにかかる。



「‥‥ん。今の内に。抜き足。差し足。忍び足で。回り込もう」

 ロボットの注意が引き付け班に向かっている間、憐、明星、ニコラス、エルトはバンガローの裏手に回っていた。

「助けにきましたよ。中の様子が知りたいので、これで僕の仲間に連絡してください」

 明星はこう呼びかけ、先に手近な石をぶつけガラスを割り、無線機を投げ入れた。
 少し間を置いて、早速ニコラスの持っている機器にがなり声が飛び込んでくる。

「おい傭兵か! 遅いわ! 早くガキども連れて行け!」

 そこから少し耳を外して、ニコラスは応えた。

「おー元気そうだな。しかし我々いたいけな子供達を救いに来たのであって、おっさんの救出は依頼内容に入ってないからそこんとこ自力でなんとかしろ。大体なんでここに混じっちゃってんだ、お宅」

「知らねえよ。何もかもそのへんで脳漿撒き散らしてるクソ馬鹿共と動くドラム缶のせいだ。とにかく代わるぞ」

 次に聞こえてきたのは、まことにおっとりした声である。

「あ、もしもし、私ルイーズ・アプリコットと申します

「‥‥ん。助けに。来たよ。生きてる? 無事?」

「まあ、その声はもしかして憐様ですか。またお会いできましてうれしいですわ」

 性格もすこぶるおっとり。お嬢様だけに危機的状況への反応が鈍いだけかもしれないが。

「私と小さな子たちは無事ですわ。ただ、ミーチャ様がちょっとお怪我をなされておりまして」

「そうか。いや全員無事で何より何より。でさ、とりあえずそこの窓から出られそう?」

 ミーチャの件は華々しくスルーして、ニコラスは先を急がせる。

「ええと‥‥難しいかと思われますわ。随分高いところにありますし、踏み台にするようなものが、部屋には一つもございませんので」

 犯人も当然その辺のことは考えていたんだろう。人質に逃げられたら元もこもないのだから。

『壁を破壊した方がよさそうですね』

 やり取りを聞いたエルトは、覚醒して会話を始めた。
 燐光が彼の体の周りで、文字となって浮かび上がっている。

「ですね。問題はロボットに気づかれないかですが‥‥」

 激しい銃撃音を耳にしつつ明星は続けた。

「今なら紛れて分かりにくいと思います。とにかく注意があちらに向いている間に、早く救出を終わらせないと」

「‥‥ん。そんなら。私。やろう。音の。あんまし。ないように」

 憐の斧が、切れ味鋭く一閃する。正確な円の形を描いて。
 丸太の壁に小ぶりな大きさの穴があいた。
 傭兵たちが覗いてみると、泣き疲れて目を膨らせた六歳くらいの男の子と女の子、その二人を撫でているルイーゼ、それから小さいおっさんこと青年ミーチャが見えた。

「ささっ怖くないから、順番に外へ」

「ほら見ろ、泣くことなかったんだ。ちゃんと迎えが来ただろう。さあ出ろ出ろお前ら」

 ニコラスの導きとミーチャの尻押しに、まず女の子が出て来た。

「よしよし、よく頑張った。えらかった。落ちないよう、しっかりつかまってね」

 明星はそれを抱き、素早くキャンプ場の外まで運んで行く。
 間を置かずして次の男の子を、エルトが運んで行く。同じように『がんばったね』と文字でほめてあげながら。
 その後はルイーズだ。彼女もなんなく出てこれた。
 しかし、最後のミーチャで問題が発生した。
 身長こそ子供扱いされるが、彼は胴回りがず抜けて大きいのである。腹がつかえて出られない。

「おお。くまのプーさんみたいだな」

「‥‥ん。同意見」

「まあ。そう思うとかわいいですわね」

 ニコラスと憐は面白そうで、ルイーズは微笑ましそうだったが、本人はちっともそうではないらしかった。険悪な表情である。

「穴を広げろ」

「いや、そこは追加料金くれないと」

「ふざけてんのかこのアホ毛」

 彼が唸り、明星とエルトが戻って来たときである。さすがに不穏な物音を察したか、ロボットが表から勢いつけて回り込んで来た。



 裏に回り込もうという動きを見せたロボットを追儺が追い、裏膝に向けて蹴りを入れる。

「逃がすと‥‥思ったか!」

 関節へ向けての攻撃は、先程から秘色も繰り返していた。
 相当な耐久性を誇る機体と言えども、同一箇所へかかる負担には疲労してきたらしい。倒れ込むまではなくとも、繋ぎの部分から軋み音が上がる。
 首を回し、ロボットは相も変わらぬ銃撃を行う。口からだけ。肩と腹にあった銃口は秘色に切り落とされ、大半使えなくなっていたので。
 蒔菜はその背後から剣で一撃を加えた。そして剣を取り落としそうになる。
 いやもう堅いのなんの、じんじん痺れてたまらない。
 腹が立ったので超機械により何発か打ち込んでおいた。

『失礼します、お嬢さんこちらへ』

 合間にエルトは兎にも角にもルイーズを抱き上げ、大急ぎでキャンプ場外へ運んで行く。銃の届かないところまで。

「アホウ、こっち来んなドラム缶!」

 はまったままわめくミーチャの横で、ニコラスも盾を構えていた。
 とはいえ立ち位置が彼より後ろなので、守るつもりがあるのかどうか。
 明星は憐とともに、鋼鉄の体へ向かって行く。

「三原則に忠実なのはこれまでですよ!」

 斧による脚部への切りつけ、剛拳による胴体への打撃。
 ロボットは攻撃を受けている間だけ足止めされる。
 そこを見計らい、絶斗がホイールレッグのタイヤを全力で回転させた。

「それじゃ、必殺技といきますか」

『ドリルアーム、フェイタルモーション!』

 スパイラルドリルカウンターが全身全霊の勢いを込め、鋼鉄の体に突きかかる。
 金属が擦れあういやな音がし、感情のない目が点滅する。
 キン、と小さな響き。
 ドリルの先がとうとう食い込んだ。
 ここが切所と彼はなお深く差し込む。

「せいやあああああああああああああ!!」

 傷口からオイルのような体液が吹き出す。
 それによりドリルが空転した。
 ロボットは首を回し、彼に銃口を向ける。
 脇から追儺が滑り込み足を打つ。
 自身の体液に足を取られ、巨体は傾く――が転ばない。二人目がけて銃弾が浴びせられる。
 その時戻ってきたエルトが、駆け込みざまの援護を行った。膝へ。
 これが最後の一押しとなったのだろう。ようやく関節が折れ、倒れた。
 うつ伏せになった頭部に、追儺による渾身の蹴りと、明星の拳とが加えられた。
 火花が走り、煙が上がる。
 後は――ただ沈黙。
 確認する間を置き、蒔菜が大きく息をつく。

「やっとかよ。長かったなあ。たった一匹だったってのに」

 彼女は壊れたロボットに近づき、興味津々にのぞき込んだ。
 緩んだ背中の鋲を外してみれば、見慣れぬ回路が満載。平べったい箱が、右側の胸に納められている。

「なんだろこのユニット」

 ごちゃついた線を断ち切って引っ張り出し裏返すと、『0:05』という電光文字が目に飛び込んできて――1秒後、『0:04』に目減りした。
 彼女はそれが何なのか速やかに悟る。

 アッ。爆弾ミッケ。

 反射的に大空へぶん投げたものは、きっかり4秒後閃光を放つ――。

 そして桁外れな爆風と衝撃波により、青息吐息で辛うじて立っていたバンガロー群は倒壊した。

「てめえらおれを殺しに来たのか!!」

「まあそうぶつくさ言うな。おぬしも大人なのじゃから、童たちが無事ならそれだけでよいと思わねばの」

 かくして、子供の頭を撫でている秘色から諭されつつ、瓦礫の下からはい出てきたミーチャが癇癪を爆発させる結果となる。

 とはいえ子供たちには誰も怪我がなかったので、憐は思惑どおり、ルイーズの実家から感謝の印として、お菓子一年分(世間基準で)を貰えたのだそうな。