タイトル:クラレを探せマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/27 20:31

●オープニング本文


 ここはイギリス南部のとある農場。古きよき風景の残る場所。
 農場を営んでいるブラウン老人は、その生業のほとんどを息子に譲ったとは言え、まだかくしゃくとしている。
 朝、羊を畜舎から牧場へ出すのは、まだ頑固に彼が担当している仕事だ。
 漫然と頭数を数えていたとき、急に動かしていた指が止まる。
 視線の先に明らかな異物があった。

「‥‥」

 何食わぬ顔して羊の群れに紛れている、何匹もの違う生命体。
 毛並みは似たようにふわふわなのだが、やたら首が長い。
 体つきも羊ほどずんぐりしていない。まつげが長く黒目がち。
 その生物についてブラウンは心当たりがないでもなかった。直にではないが、情報として。
 確かあれはアルパカとかいうものではなかっただろうか。

「キララパッソ。キララパッソ。キララパッソ」

 アルパカとはああいう鳴き方するものなのか。全く妙なものだ。
 妙といえばなぜ俺の牧場にアルパカが。購入した覚えないのだが。
 もしや俺の知らない間に息子か誰かが買い入れたのだろうか。
 悩む彼は、ふいと顔に生暖かいものがかかったのを覚える。
 しかめ面を上げると、いつのまにかすぐ近くまでアルパカが一匹寄ってきていた。
 ぬいぐるみのような顔付きである。

 ペッ。

 しかしこのようにツバを引っかけてくるあたり、かわいいとも思えない。
 老人はますます顔をしかめて、家畜相手にすごんだ。

「おい貴様、そのくらいにしておけよ。これ以上やったら屠殺場送りにして生皮ひんむいてやるからな」

 そして乱暴にそれを押しやり、ひとまず畜舎に戻そうとした。
 その時である。アルパカはいきなり首を引き、反動をつけ、強力きわまりない頭突きを食らわした。
 老人の魂をたちまち天に召してしまうほどの。





 スナイパーのスーザン・高橋は本日のラッキーカラー赤で装束をまとめていたが、依頼現場にたどり着いたとき「うっ」と声を上げた。
 他の傭兵たちも同様だった。
 依頼はアルパカ形のキメラが現れ死傷者が数人出たので、それを退治してくれということだった。
 しかしたどり着いてみればどうだろう。牧場一面アルパカなのだ。あの丘にもこの丘にも。

「すみません。包囲はしたのですが突破され、全てこのアルパカ牧場に逃げ込みまして‥‥全部で20体いたのは確認したのですが‥‥」

 現場責任者は彼女らに向かい、仕切りと汗をかいている。

「この牧場のアルパカは本来20匹だそうで、今数えてみたら確かに40匹いるんです。ですからここからはもう一匹も逃げていないと」

「わ、分かりました。でもあの、飼育員さんなら見分けがつきませんか。本来のと紛れ込んだのと」

「それが‥‥全て瓜二つで分からないんだそうです」

「どういうことです」

「はい、クローンなのかなんなのか、元飼っていた群れのコピーがもう一つ出来上がっているんだそうで。で、両者の見分けがつかないのだと。もちろん全頭処分するのが最も確実なのですが、この牧場のアルパカは全てさる資産家の持ち物でして‥‥孫娘さんのために買ってやったものだそうで、だから一匹も傷つけたり、ましてや殺すことなどまかりならんと‥‥」

「あなたそんな無茶な。一体誰です、その資産家って」

「ええ、その、菓子メーカーの会長さんでして、存じませんか、『アプリコット』という大手の会社名‥‥」

●参加者一覧

ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
秘色(ga8202
28歳・♀・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
知世(gb9614
15歳・♀・FC
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
ジョシュア・キルストン(gc4215
24歳・♂・PN
リズレット・B・九道(gc4816
16歳・♀・JG
追儺(gc5241
24歳・♂・PN

●リプレイ本文

 緑の野に散るアルパカ×40=本物20+キメラ20。
 見分けは全くつかず。
 だが本物は傷をつけてもいけない。

(‥‥殲滅すればいいものを‥‥面倒だな)

 ベーオウルフ(ga3640)はむっつり思ったが、それも依頼の内であるなら止むなしかと考え直した。
 牧場には2種類の声が入り交じって聞こえている。

『フェ〜』

『キララパッソ』

『フェ〜。フーン』

『キララパッソ。キララパッソ』

 アルパカは、群れで固まり気味になっている。
 なので、どれがどの声を上げているのかちょっと分かりにくかった。

(バグアの意図が読めぬのは今に始まった事ではないが‥‥何故にアルパカなのじゃろうか)

 あのかわゆさで油断させようという腹なのか。
 推理しながら秘色(ga8202)は、飼育係たちとスーザンが交わしている会話を聞く。

「確かめたいんですが、本物の鳴き声は『フェ〜』の方で間違いないんですね」

「はい、そうです。普段はあまり鳴くこともないのですが、やはり落ち着かないようで」

 彼らは偽アルパカから攻撃を受け、幸い死者は出なかったものの、軒並み松葉杖の世話になっていた。
 見渡せば、赤い屋根の畜舎が見受けられる。
 あそこに夜間や雨天時など、アルパカを収容しているとのこと。

「‥‥ん。未来の為に。お菓子。食べ放題の。未来の為に。頑張る」

 菓子メーカーの会長に恩を売る→お菓子食べ放題的イベントへの遭遇確率を上げる。
 そんな野望を抱く最上 憐(gb0002)は、ひとまず同飼育係に、アルパカの生態や追い込み方法など、簡単に聞いてみた。

「アルパカは警戒心の強い動物ですが、当牧場のアルパカは、人間が来ればいいことがあると思うように馴らしています。同縁の動物と同じく、威嚇の意味でツバ吐きをしますが、言いましたように人馴れしてますので、そんなことは滅多にありません。土や砂浴びをする習性がありまして、水浴びは好みません。餌と収容の時間には自分から畜舎付近まで戻ってくるようになってるんですが‥‥そうすると、偽物も一緒に紛れて寄ってくるんです。そのお陰で私共こんな有り様でして」

 なれば、やはり最初に仕訳をしなければなるまい。
 リズレット・ベイヤール(gc4816)は少しため息をつき、傍らにいるシクル・ハーツ(gc1986)に言った。

「‥‥アルパカ‥‥どうも苦手なのですよね‥‥」

「そうなのか、リゼ。巷では可愛いと評判のようだが」

「‥‥いえ、なんといいますか‥‥長い首とふわもこ具合が微妙に不協和音‥‥生理的に駄目です‥‥」

 大勢に迎合しない少女の告白に、聞いていた知世(gb9614)は首を傾げた。

「そうかなあ。普通に愛らしいと思うけど。ねえジョシュアさん」

「んー、まあ僕も特に不愉快な形態とは。聞けばアルパカの傷は乙女の涙‥‥それだけは阻止せねばなりませんねぇ。あ、ところでアルパカって食えるんですよね、ベーオウルフさん?」

 ジョシュア・キルストン(gc4215)から話を振られたべーオウルフは、無愛想に言う。

「食って食えないことはない‥‥味は知らんが。ただ、近縁のラクダの肉は、シコシコして結構うまいものらしいぞ」

 その言葉に飼育係たちが、いくらか不安そうな顔をした。
 追儺(gc5241)は彼らの心労を思いやりつつ、今回の依頼について、感慨を覚える。
 アプリコット会長の孫娘とは、なんとよく係わることだ。

「縁はあるものだな‥‥さて‥‥今回もうまくいくように‥‥な」

 子供の笑顔のために頑張るとしよう。とりあえず(ルイーズ手作りの)お菓子はもういらないが。



 スーザンは近距離戦に弱いので、後方支援一本槍ということになった。

「凄腕じゃと聞いておる故、しかとマーキング頼んだぞえ」

「はい、そこは任せておいてください。分別よろしくお願いします」

 頼もしげな返答を後に、秘色は偽物あぶり出し作業に向かう。
 同行の士はジョシュア、追儺、ベーオウルフ、憐、知世。
 リズレット&シクルは中衛に回る。
 とりあえず本物のみを畜舎に連れて行って隔離、その後偽物を処分するという手筈。
 彼らが牧場内に入ってきたのを見て、アルパカの群れがぞろぞろ移動してきた。
 確かに人馴れしている模様だ。半分は偽物なのだが。
 なにはなくとも傷が付かないよう、一同回りにある枯れ草などをもって、FFの確認を始めた。
 憐は最初水鉄砲を用意していたが、アルパカに水はよくないという説明を受けたので、急遽エアソフト剣で判定をやるとした。

「‥‥ん。本物。本物。偽物‥‥マーキング。開始」

 ぺたぺた獣のお尻を叩いて回り、合間に危険なことも言っている。

「‥‥ん。大人しく。畜舎に。移動してね。しないと。‥‥丸焼きにして。胃に収めるよ」

 知世は彼女と近い位置で、声を頼りの判別を始めていた。
 白くてふわふわした瓜二つの個体が彼女の前に接近。ぴたりと足を止める。
 数秒沈黙し、同時に鳴く。

『フェ〜』

『キララパッソ』

「はいはい、おかしいのはキミねキミ。スーザンさーん、ペイントこっちに頼みます」

「はーい」

 言うよりも早くスーザンのペイント弾は、偽アルパカの額に命中していた。
 草や土くずを投げ付けるという作業を繰り返していたジョシュアは、その手際に声を上げる。

「御見事! 流石はスナイパーですねぇ、スーザンさん♪」

 と、背後からペッとツバを吐く音。
 振り向くとまだらなアルパカが満足そうに目を細めて立っている。
 草を投げると弾いた。
 その長い首へし折ってやりたいと思う自分を押し止め、頭突きされる前にペイント弾を発射するに止める−−今のところは。
 後で八つ裂きにしてやる所存だ。

「僕、スーツが汚れるの大ッ嫌いなんですよ。絶対許しませんよ♪」

 言いながらフェフェ鳴いてる本物を抱え上げ、畜舎の方へ連れ出して行く。
 ところでこの偽アルパカ、鳴き声もおかしいが、行動もおかしい。人間が近づくと、心なし頭を振る動作をし始める。

「ほら、こっちだ」

 呼びかけ、干し草を餌にアルパカを誘導していくシクルとリゼは、観察の結果そういう結論に達した。
 しかしキメラも意図的なのかどうなのか、本物と全く同じく、懐いているかのような行動を取る。誘導には積極的に参加するのだ。
 まあそうして寄ってきたあげく、攻撃に移るわけだが。

『フェ〜』

『キララパッソ』

『フェ〜』

『キララパッソ』

 鳴き声の二重奏を間近に、シクルはつい半眼になった。

「‥‥そ、それにしても気の抜ける声だな‥‥本物偽物問わず‥‥リゼ、頼む」

「はい、お姉様」

 リズレットの狙いは正確である。
 ベチャと毛にピンク色が広がった。
 本物のアルパカは音に少し驚いたのか、軽く跳びはねて後退する。
 ベーオルフはそれを押し止め抱き上げ、飼育係の待機している畜舎の方まで連れて行った。
 背後から、軽快な足取りで別の奴が近づいてきて、彼の背中目がけ突進して来た。

「おっと、おぬしは此方ではないのじゃよ」

 秘色が鬼蛍を持って、防衛に当たる。
 素晴らしいことにキメラの頭部は、剣の直接攻撃を受けても割れる事なく持ちこたえた。
 石頭を越えた鉄頭である。
 第一攻撃を防がれた偽物は、不服そうに体勢を立て直し、目の前の彼女の顔目がけ。

 ペッ。

 秘色は黙って袖で顔を拭い、相手の顔目がけて返した。

「ぺっ」

 ペッ。

「ぺっ」

 ペッ。

「ぺー!」

 アルパカのツバ吐きが止んだのは、鼻面にスーザンのペイント弾を食らってである。

「なにしているんですか、秘色さん」

「いや、つい熱くなってしもうてな‥‥人類の尊厳をかけての戦いじゃで」

 実際この攻撃は物理的ダメージが何一つないにもかかわらず、受ける側に影響を及ぼす。
 追儺は本物誘導の際、なるべく偽物の正面に立たないようにして(どうもそうすると敵が攻撃してきやすい気がするので)いたが、それでもしこたま引っかけられていた。

「くっ‥‥つばとは‥‥屈辱的だ…後で覚えていろよ‥‥!」

 何しろ本物の避難が先なので、我慢である。

「優し目に殺してやろうか」

 ベーオウルフは危うく抜刀しそうになったが、堪えて拳で相手を殴りつけるに留めておいた。
 とにもかくにも次々偽物は指定されていく。
 全狙撃頭数を今一度数え合わせ、畜舎付近のスーザンが、飼育係へ確認を取る。

「そちらには現在何匹ですか?」

「こちら20、全て。揃ってます」

 これでキメラは特定出来た。後は処分するだけである。

「‥‥ん。偽物が。怒り出した。ちょっと。行って来る」

 憐は手に大鎌を持ち直し、もこもこの群れから抜け出して、急いで現場に戻って行った。



 ベーオウルフから殴られてしまったキメラは、彼に対して私怨を抱いたらしい。
 明らかに曲がった首を力ずくで戻し、彼に狙いを定めて走ってきた。

『キララパッソ、キララパッソ!』

 その姿を眺め、この男は先程よりもっと物騒なことを呟く。

「やはりあれだ、厳し目に殺してやろう」

 直進攻撃を受け流し、炎拳「パイロープ」でアルパカを殴る。先程よりもっと強く、転倒するほど。
 転がったところで腹の上に飛び乗り、顔と首を目がけて連打を行う。派手にボキボキ骨が折れる音がしたが、完全に相手がぐんにゃりとなるまで、攻撃は止まなかった。
 追儺も、ともかく頭の直撃だけは絶対に避け、転倒を狙う。

「借りを返させてもらうぜ、キララパッソ!」

 足を目がけ蹴りを入れ、ベーオウルフと同じく転倒を狙う。
 その後は頭部、腹部を集中的に攻撃する。
 このアルパカ、頭頂部はとてつもない耐久力を誇るが、腹部はフォースフィールドを除けば一般の動物と変わりない強度である模様で、即大きなダメージを与えられた。
 心臓辺りを潰されると、たちどころに動かなくなる。



「よっ、と。逃がしませんよっ」

 知世は別方向に走りだしたキメラの後を追い、行く手を塞ぐ。
 停止した相手は頭をぐっと下げて、鼻息も荒く突っ込んできた。
 直撃を受けるのは好ましくないので、素早く雲隠をガードに持ち替える。
 ニセアルパカの衝撃度はかなりのものであった。
 少なくとも、体格から想定されるよりずっと上だ。何の気無しに受けていたら、能力者でも引っ繰り返されるかしれない。

「おっとっと、かなりのパワー‥‥でもさ、結局何とかの一つ覚えだよね。二の手がないとこの通りだよ」

 彼女は容赦なく言い放ち、再度雲隠に持ち替え抜刀した。
 獣の喉元から血飛沫が飛び散る。
 別の場所でも同じく、赤い噴水が上がった。

「‥‥ん。昼だけど。今宵の。ハーメルンは。血に。飢えて。おる」

 大鎌を構えた憐の足元には、ニセアルパカの首と、首なしの胴体がごろり。真っ白い毛は赤く染まっている。

「‥‥ん。お嬢さんには。見せられない。ね。さあ。次。行ってみよう」

 牧場を駆け回る彼女の目に、一頭のアルパカが音もなく倒れたのが見えた。
 遠方からのスーザンによる射撃である。
 どこを撃たれたものかと確かめてみれば、耳の穴を狙ったもようだ。そこから血が出ていた。



「さあて、先程の雪辱果たしてくれようぞ、ニセアルパカ!」

 秘色は鬼蛍を手に、頭突き攻撃を防いでいた。
 一方にしか逃げ場のない屋内や、足場の悪い岩棚とかいうならともかく、広い屋外という環境であればこの単純な戦法、さほど恐るるものではない。
 ソニックブームで勢いを殺し、続けてかわし、次に切り裂く。
 かわゆい外見からしてみれば躊躇するものもなくはないが、キメラという疑似生物に対して正しい認識を持っている傭兵であればこそ、情けをかけることはない。
 キメラは腹を切り裂かれた。しかし内蔵をぶら下げたまま、立っていられる余力があった。

「成仏せい!」

 再度の攻撃が、腰から真っ二つにする。
 傍らでまた一匹、音もなくキメラが倒れる。崩れ落ちるように。
 離れた畜舎の陰から狙い撃ちしている真っ赤な人影をちらりと見、秘色は呟いた。

「‥‥あやつ、なにやらマンガの暗殺者のようじゃのう」



「もらった!」

 リズレットの援護射撃に合わせシクルは、前方から寄ってきたキメラに二連撃を叩き込んだ。
 キメラは首の皮一枚残して斬られる。
 続いては、リズレットの背後からキメラが迫ってきた。カッカと足で地面を削り、突進してくる。

「危ないリゼ!」

 今度はシクルが援護をした。
 不意をつかれて相手は踏み止まった。
 リズレットから、致命傷を狙った銃撃が放たれる。
 至近距離から眉間、胸板、首目がけて。
 アルパカはどっと倒れた。
 二人の息はぴったりだ。
 その後ろから、まだらと茶色の個体がじりじり寄ってくる。

『キララパッソ』

『キララパッソ』

 シクルはリゼに攻撃が来ないよう、刀を構えて前に踏み出した。
 キメラもさすがに周囲の様子に学んだろうか、2匹で固まり、ばらばらに突っ掛かってこない。まずツバをひっかけて、挑発を試みる。
 それは真っすぐシクルにひっかかった。だが、彼女はかわさない。後ろにリズレットがいるもので。そうであれば、特にこんなもの気にならない。
 そこに、ジョシュアの助太刀が入ってきた。

「お手伝い致しますよ」

 何を隠そうそのまだら、因縁の相手である。
 今こそツバ吐きの恨みを晴らすとき。
 彼は狙いを定め、刃を翻した。
 顎の真下から胸にかけて真っ二つに切れ、血で濡れた草にまだら模様の体が倒れる。
 茶色いアルパカも続いて伏した。こちらは、その身に食い込んだ弾丸によって。
 辺りを見回すと、すでに動いているアルパカはいなくなっていた。
 シクルはほっと息をつく。

「よし、これで全部だな。‥‥これは帰って洗濯‥‥いや、クリーニングにだすか」

「‥‥ごめんなさいシクルお姉様、リゼのせいでせっかくの着物が‥‥」

「いや、いい。着替えを持ってきている。さ、リゼ、帰ろうか?」

 手を差し出すシクル。
 恥ずかしそうにそれを握るリズレット。
 仲良くお手繋いで帰って行く二人の背中を、他の面々は当てられぎみに見送った。
 ややもして我に返ったジョシュアが言う。

「一件落着と‥‥。ちなみにこれ、誰か食べるんですか?」

 答えるは無論、食欲魔神。

「‥‥ん。そんなら。私。挑戦して。みようかな」

 彼女は手近な一匹の足を持ち、ズルズル引きずって行く。
 秘色はついでなので、帰る前に本物のアルパカを愛でていくことにした。

「おお、よいもふっぷりじゃ‥‥ツバ吐くでないぞ」

『フェ〜』



 後日アプリコット会長から謝礼として全員に、メーカーのお菓子商品券(3000C相当)が送られて来た。
 ちなみにニセアルパカの肉は、憐の報告によれば、馬肉みたいだったそうである。