タイトル:3匹の大ブタマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/09 13:03

●オープニング本文


 ここはとある小学校。
 有城 こずえ(7)ちゃんは、友達を引き連れて帰る道々、段ボールの箱を見つけた。
『誰か拾ってください』と書かれたその箱を開けると、3匹のかわいいコブタたち。
 ピンク色の体を震わせて、プー、プーと鳴いている。

「捨てられたのかな」

「かわいそう」

 みんなはその方向で相談したが、犬や猫ならともかく豚だ。お父さんやお母さんが許してくれるとも思えないとの予想は難くない。
 しかし、ここにこずえちゃんが敢然と言い放った。

「いいわ、皆のとこはともかく、あたしのうちはお金持ちだから、このくらいどうってことないわよ」

 さすがこずえちゃん。クラスの女王様。言うことが違う。
 皆は彼女を称えながら、箱を持って付き従う。

 有城家は、お父さん、お母さん、某有名進学校に通うお姉ちゃんのミキ(17)、彼女という構成である。
 広いお屋敷に広いお庭に広い池があって錦鯉が泳いでいる環境だ。
 それだけに余裕があって、おおざっぱなんだろう。

「まあ、庭の隅にでも置いておきなさい」

「家には上げないようにね」

 お父さんとお母さんはそう言って、特に反対しなかった。

「別にかまわないわよ。それにしても、変わったものが好きね」

 お姉ちゃんもである。

 なのでこずえは心置きなく、庭にコブタを放した。
 餌をやるとか小屋を作るとか、差し当たりそんなことはあんまり考えていない。
 彼女もなかなかおざっぱな性格である。



 翌朝。お姉ちゃんの血相変えた声で彼女は目を覚ました。

「ちょっと、こずえ! 起きるのよ! 大変なことになってるわよ!」

 何事かと庭に出てみれば、かわいかったコブタがたった一晩で、とんでもなく肉肉しい姿に変貌をとげていた。
 分厚い脂肪がつき、顔はしこたま弛んで人相、いや豚相が悪くなり、突き出た腹を前に二本足で歩き回っている。
 身の丈およそ2メートルはあろうか。体回りはまるで相撲取りだ。
 3匹とも池の真ん中に立ち、口一杯に錦鯉をほおばって飲み込んでいる。
 その姿があまりにショッキングなので、こずえちゃんは泣き出した。

「いやーっ! こんなの全然かわいくないいいっ!」

 豚たちはその声に振り向き、憎々しげなゲップをした。
 それから前足、というか今や手になっている部分で前歯をせせりつつ、庭を出て行く。

 調べたところ池の鯉は一匹残らず食われ尽くし、家にあった食料品も全てすっからかんになっていた。



 ここは東北一円でも評判のケーキ屋。
 ドミトリイ・カサトキンはケーキの予約手続きをし、帰るところであった。これもまた頼まれ仕事である。
 が、出て行こうとしたところで、自動ドアの向こうから現れた肉壁に阻まれた。

「‥‥何だお前ら」

 問いかけを無視しその壁どもは、彼を踏み付け前進し、硬直している女性店員の前に立ちはだかる。
 数秒沈黙した後、三匹の大ブタは、いきなりガラスケースを叩き割った。

「キャー!」

 店内は大混乱。客問わず従業員問わず逃げ出す。
 豚たちは飾られていたケーキに、次から次へとがっついた。
 それがすむとまた連れ立って出て行く。先程より少し大きくなった体で。


●参加者一覧

最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
春夏冬 晶(gc3526
25歳・♂・CA
リズレット・B・九道(gc4816
16歳・♀・JG
シルヴィーナ(gc5551
12歳・♀・AA
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
浮月ショータ(gc6542
20歳・♂・ST
住吉(gc6879
15歳・♀・ER

●リプレイ本文

 とある町の郊外スーパー。昼のタイムセールが行われている最中、変な男が現れた。

「とーぅ!!」

 彼は駐車場に乗り込んでくるや、颯爽とバク転側転宙返りを行った。

「改! 激! 烈!」

 最後に決めポーズらしきものを取る。以下の台詞と一緒に。

「俺様はジリオン! ラヴ! クラフトゥ!!‥‥未来の勇者だ!」

 もしかして何かの撮影なのか。

「此処に魔王の手先がいると聞いてやってきた!!」

 説明も付け加えているあたり、ますます撮影っぽいが、はたしてどこにカメラがあるのだろうか。
 とにかく彼は自動ドアから店内に乗り込んで行った。
 レジのおばちゃんと話し合うこと二言三言。大急ぎで引き返してくる。

「‥‥違う店だった‥‥だと‥‥ッ!」

 驚愕の表情で見回すに、少し離れた場所、『牛野屋』の大きな看板が。

「こ、こっちか!!」

 男は全力でそっちに向け走って行った。
 彼がジリオン・L・C(gc1321)なる傭兵であることを、むろん居合わせた客は知らなかった。
 ああいうのが出てくるあたり、やはり世の中春めいてきたなあという感想を持ったのみである。



「ふふ、今夜の夕食は肉料理で確定ですね。何を作りましょうかね〜」

 軽口を叩く住吉(gc6879)に、リズレット・ベイヤール(gc4816)が言った。

「‥‥ところで‥‥クラフトさんがまだお見えになりませんね‥‥」

「あら、本当ですね。高速艇までは一緒だったはずなのですけれど」

 2人とも少し気になったが、まあそのうち来るだろうと思い、追求するのをやめておいた。
 目の前の牛丼屋、半壊にさせられている店内には、目指すべきキメラの姿がはっきり目視出来る。
 カウンター席にピンク色の背中が3つ。
 でかいおケツの下には潰された椅子の残骸。
 3匹の豚は食っている。顔中米粒と汁だらけにして牛丼を貪っている。
 生きながらにしてボンレスハムのように膨れ上がった手足、すばらしいボリューム感。
 最上 憐(gb0002)は惜しみ無く称賛し、かくのたまう。

「‥‥ん。さっさと。倒して。食べたいね」

 トゥリム(gc6022)は彼女の呟きに軽い危機感を感じ、クギを刺す。

「憐さん、独り占めはダメですよ」

 なぜなら彼女も肉狙い。憐に3匹丸ごと食べられてしまうわけにはいかない。
 といって、この2名だけがそうなのではない。

「わふ‥‥ぶたさんですか‥‥おいしそうですね‥‥狼の血が騒ぎますです」

 わんこ、ではなくて狼さんなシルヴィーナ(gc5551)もそうである。

「とにかく、やつらの食欲が人間にむかう前に退治してしまわないと」

 こう口にする浮月ショータ(gc6542)もだ。彼の食欲は彼らに向いている。肉なら牛より豚派なので。
 市民の皆様の安全を守り、かつ高級豚肉を手に入れる。こたびの任務は実に、一石二鳥感がある。
 このようにして完全に食材扱いされかかっている豚キメラたちだが、本人達はそんな評価をものともせず、ひたすら食う。

「次は手前だ、ブタ出てこい!」

 春夏冬 晶(gc3526)が遠くから挑発しても知らん顔し、ふうふう食べ続ける。

「ブタのキメラなんざ俺に掛かれば一捻りよ。大人しく俺らに食されるんだなっ!」

 罵声にも耳を貸さず、体から発散する熱気で店内のガラスを曇らせている。
 よくよく見たらお尻の下には、汗だまりが出来ていた。
 肥満体型であるからか、暑がりかつ汗っかきらしい。
 顔からも背中からも腹からも尻からも、たらりたらり、多分に脂分が交ざったような水分がほとばしり出ている。
 リズレットは思った。心から近寄りたくないと。そして自身が遠方狙撃に回ったことに、とても安堵した。
 その時キメラたちに小さな異変が起きた。
 3匹少し身を震わせたかと思うと。

 デブン。
 デブン。
 デブン。

 輪郭が大きくなった。誰の目にも間違いない。
 晶は5歩ほど後ずさり、サイエンティストであるショータに説明を求めた。

「おい‥‥今あいつら明らかにでかくなったぞ。どういうことだ」

「うーん、どうやら、食べたものを即身にしてしまうようですね」

 それはまたなんて都合のいい特性であろう。食料として。
 住吉は冗談交じりに一人ごちる。

「前回は鮪キメラ‥‥今回は豚キメラ‥‥バグアは地球の食糧問題を随分と真剣に考えて下さっている様ですね〜‥‥」

 なにはなくとも質量が増えたので、トゥリムは喜んでいた。

「また大きく‥‥これなら半分でいいね」

 憐もまたしかり。

「‥‥ん。豚は。食べられる。存在だと。言う事を。教えに。行こう」

 そこにようやく遅れた一人が、駆けつけてきた。
 シルヴィーナが気づき、手を振る。

「あ、ジリオンさんこっちこっちー。ぶたさんお揃いですよー」

「おう、待たせてすまなかったな、皆!」



 かくして、豚おびき出し作戦は実行に移された。
 火がなくても発熱する優れものSES中華鍋。
 そこに入れられるのは芳しい香りを放つ「レッドカレー」。

「あ、これ予備がありますんで、遠慮なく集中砲火してください」

 トゥリムの鍋に、晶は持参してきた豚肉を投入した。もしかして、キメラ豚が精神的ショック受けて痩せてくれるかも知れないと期待して。

「ブゥゥゥタァァー、出てこぉぉぉい!」

 で、扉の外から挑発を繰り返す。武器はホーリーナックルただ一つで。
 その間にリズレットは、近くにあった車両倉庫の屋上に陣取った。
 SMG「ターミネーター」を構え、豚がおびき出されるのを待つ。

「‥‥食べる存在から食べられる存在へ、ですか‥‥皮肉なものですね‥‥」

 勇者ジリオンは、超機械「ザフィエル」での攻撃準備を始める。駐車したままのトラックの影に、腹ばいとなって。

「任せたぞ‥‥! 彷徨える魂達よ‥‥!! 見事、魔王の手先を炙り出してくるのだ‥‥!!」

 何を言っているのか分からないが、いつものことなので誰も気にしない。
 彼に近いところでショータも、「ダンタリオン」を小わきにし、店舗内を伺った。
 リズレットと同じくSMG「ターミネーター」を準備する住吉も。
 風向きからして、背中を並べている方向へ、カレーの匂いは届いているはずだが。
 憐が斧「メランザーナ」を、シルヴィーナが大鎌「ヘリオトロープ」を手に注視していたところ。

 デブン。
 デブン。
 デブン。

「くっ‥‥また派手にデブりやがってこの豚野郎! 聞いてんのかごらぁぁぁぁぁぁ!」

 せわしく吠える晶の声が急に止まった。とうとう3匹の豚が、カレーに反応してきたのである。
 彼らは大きな鼻をひくひくさせ、一斉に立ち上がった。
 それを見て、憐がおもむろに閃光手榴弾のピンを抜く。
 振り向くとなお分かる体格のすごさ。
 ちょっと動くだけで、お腹がぶるんぶるん揺れている。
 小さな目は肉に埋もれ、頬も重力に引かれ、引っ切りなし食べかすだらけの口をもぐつかせている。
 リズレットは、ついうめく。

「‥‥み、醜い‥‥」

 そんな体でありながら、彼ら意外と動きは素早い。
 店外に飛び出し、我先に鍋まで駆けてくる。

「‥‥ふは、ふはは!! 見ろ! まるで魔王の手先が豚のようだ!!」

 ジリオンのドヤ顔はさておき、迫り来る巨体に向け、まずは一斉に銃弾が浴びせられた。
 射撃の嵐の中、豚はしかし、大人しくしていない。
 3匹とも素早くばらけ、近くにいる傭兵に向かってきた。



「‥‥ん。25秒。たった。投げるので。警戒してね。‥‥てぃ」

 豚の側面に回り込んでいた憐が、手にした閃光手榴弾を投げ付ける。
 彼らの動きは一瞬鈍った。
 そこに斧で切りつけにかかる。
 狙うは最も脂の乗り切っていると見える1匹。
 銃弾により、既にあちこちからぷつぷつ血が出ている体の、首元。
 攻撃は入った。
 が、一気に落とすとはいかなかった。首回りの脂肪のだぶつきに加え、腕をもって首を守り、膝蹴りを食わそうとしてきたからだ。
 軽い身ごなしである。
 憐もまた軽い身ごなしで避け、改めて斧を構えた。

「‥‥ん。まずは。機動力を。狙おうか。その。豚足。いただくと。しよう」

 その時、豚がうめき声を上げよろめいた。
 片膝が折れたようにつんのめる。
 背後にトゥリムがいた。彼女の貫通弾が功を奏したのだ。

「憐さん、独り占めはいけませんよ。私にも豚足、分けてください」

 そこを了解し、憐は改めて豚に刃を向ける。

「‥‥ん。今が。勝機。全力で。一気に。行かせて。貰う」

 先程赤い線を作った場所へもう一度、今度こそ骨まで届かせるため。
 試みは成功した。大きな頭がごろんと駐車場に転がる。

「豚は寝てればいいよ」

 それがトゥリムの弔辞であった。



「見よ、俺に装着された白銀の拳を! これでブタだろうが何だろうがボッコボコにしてやんよ! 喰らえ、ホォォォリィィィナァァッコーー!!」

 格好よく豚に殴り掛かった晶の拳は、相手の腹に届いた。何発も。
 すぐに知る。奴らの脂肪の厚さと強度が半端ではないと。
 物理打撃では無いだけに効かないことも無さそうなのだが、身まで届いてない感じがする。
 下手に深く拳を入れると、何段腹だか知れない襞に挟まれそうだから、注意が必要だ。
 そしてもっと困るのが、軽々パンチやキックをなどすることだ。
 体重がそのまま威力として加わってくるため、その打撃、当たると結構侮れないくらい重い。

「くっ‥‥ブタの割には良くやるじゃねぇか だがそんな攻撃、俺の前じゃ無力だぜ!」

 だが彼は弱音を吐かない。弾き落としを駆使しつつ戦う。
 ショータとジリオンが彼の助力に加わった。
 ジリオンは、鍋が跡形もなくなってしまっているので(銃撃よりも、これが豚の怒りの根源なのかもしれないが)持参してきたホワイトマシュマロを空の丼に山盛り詰め、注意を引こうとしてみた。

「ははは!! 貴様の食事は俺様が奪ってやったぞ!! 生来の強者、勇者である俺様の独壇場‥‥」

 大成功だった。敵の目はもう釘付けだ。
 が、この豚は飛べる豚。直後華麗に突撃ジャンプし、彼の上に落ちてくる。

「‥‥おおおおお!?」

 地響きを立てて落下して来た肉塊の下に、幸いジリオンはいなかった。
 晶が代わりに下敷きになって地面にめり込んでいた。
 しかし友の安否を気遣う余裕は勇者にない。起き上がった豚が、再度突進してきたからだ。
 彼は逃げた。とにかく逃げる。
 ショータは続けて援護をしようかどうか一瞬迷ったが、ひとまず晶の治療に専念するほうを選んだ。

「晶さんしっかり! まだ平たくなってはいませんから! めり込み方がなんだかマンガみたいではありますけれど!」



 住吉は緒戦から1匹を相手に、射撃を繰り返している。可能な限り近づかれないよう注意を払いながら。
 ではあれど、敵の身体能力が馬鹿にならないため、時折超機械「扇嵐」を使い、打撃も受け流している。
 太めのキメラが素早いというのは反則だ。
 とはいえ幾度も繰り返した銃撃により、豚の足はかなり弱ってきている。
 ひとまずそちらの攻撃だけでも完全に封じられるとすれば、大分話が早くなる。

「さぁ、どんな最後が好みですか? とんかつ? 焼き肉? しょうが焼き? どうせ最後は胃袋の中ですね〜!」

 彼女は息を荒げつつ豚をからかう。
 苦戦していると見たリズレットは、ジリオンのもとへシルヴィーナが向かったのを確認し、住吉の方へ力を傾ける。
 豚がむやみと接近しないよう、制圧射撃。
 そこに、1匹の始末をつけた憐とトゥリムが、こぞって応援に馳せつけた。

「‥‥ん。大人しく。グラム。なんぼの。姿に。なるが。よい」

 言うが早いか憐の斧は、豚の喉笛目がけて食い込む。
 血がどぶりと滲み出したものの、一撃で骨までは達しなかった。
 引き抜いて見てみると、脂膜がついている。先程首を落とした豚のものらしい。これで切れ味が悪くなったのだ。
 トゥリムが追って超機械を発動させた。
 口中赤い泡だらけにして、豚は倒れた。
 その頭蓋目がけて住吉が、至近距離から弾丸を打ち込む。

「それではさようなら。考えましたけどね、私、お夕食はトンカツにすることにしますよ」

 そう言って。



「おお! 勇者の危機にかけつけてくれたのか! 彷徨える魂達よ!」

 ジリオンの前に素早く割って入ったシルヴィーナは、鼻息の荒い豚に言った。

「クレッセントウルフの名に賭けて‥‥あなた方を倒します」

 彼女の手には鎌、背には交差させた壱式が二本。
 黒いレースを多用した服装とあいまって、死神のように見える。
 豚キメラは無論言葉など理解出来ない。食物を手にいれるために排除すべき存在として、彼女を見ているだけだ。
 かくしてキメラの本能に従い、戦闘を挑む。
 連打、足一本で立っての回し蹴り。
 素早い攻撃に捕まらぬよう、シルヴィーナは鎌によって防御した。リズレットの援護射撃も頼りにして。
 焦れ、一気に片をつけようと思ったか、豚は強く地を蹴り飛び上がった。
 トン級の肉塊が宙を舞う。
 彼女も地を蹴り、それに向けて飛んだ。
 空中で壱式を抜刀し−−着地する。
 彼女のそれに僅かに遅れ、豚も着地した。顔を4当分にされて。
 シルヴィーナは血を払い、鞘に収める。ついた脂はまた後できれいにしようと思って。



 郊外の休耕田にて勢いよく火が燃えていた。
 鉄串に刺してぐるぐるされているのは−−形からして完全に豚である。とてつもなく大きい。

「‥‥ん。丸焼き。丸焼き。豚キメラは。久方ぶりなので。楽しみ」

 焼けた所から抉りながら食べて行く。これが丸焼きの醍醐味。至福の時間。
 お鍋ではくつくつと、コラーゲンたっぷりな豚足が煮えている。こちらはトゥリムの取り分。
 かような憐達ほどワイルドにやれない面々は、焼き肉一本槍である。

「お、おいしい‥‥まるで、まるで脂肪がとろけるようなのですよ! こくがあってかつしつこくなく、お口の中でさらりと溶けるのですよ!」

「うまっ、これ本当うまいわ」

「‥‥あの姿からは想像出来ません‥‥」

「うむ。奴らも勇者に食われてさぞや本望だろう!」

 シルヴィーナ、晶、リズレット、ジリオンが感想を言い合っているところ、ショータが戻ってきた。

「まだ残ってますー?」

 彼は被害に遭った店舗に対し、せめてもの慰めとして、キメラ肉を配って回っていたのだった。
 そのすぐ後ろからミーチャがやってくる。

「お前ら、肉屋が解体終わったってよ。後なんだ、チャーシューは数日かかるだと」

 憐はそれを聞き、ほくほくと呟いた。

「‥‥ん。お持ち帰り。沢山。いっぱい。大盛りで。よろしく」

 これを食べたらすぐ、最も大きい奴を受け取りに行こうと。


 ちなみに、後日トゥリムのもとに届いたチャーシューは、ラーメン鉢全体を覆える特大サイズであったそうな。