●リプレイ本文
人気のない公園。
物陰伝いに這ってる長い長い長いミンク。
発生したキメラのあらましを聞いても、元が元だからすごく愛らしい姿に違いないと空想していた天羽 恵(
gc6280)は、現物を前に早々己の間違いを悟る。
「うわぁ‥‥移動のしかた気持ち悪い‥‥」
彼女は視線を横に向けた。
どこかで見た犬が植え込みの中から、耳と尻尾だけ出している。
「ん、レオポールじゃないか? 何をしてるんだこんなところで」
メルセス・アン(
gc6380)が近づき、尻尾を踏んだ。
たちまち起こるキャンキャン声。
「止めろ、踏むな!」
アンの恋人である常木 明(
gc6409)が、興味深そうに尋ねた。
「メル姉、この生き物は?」
「ああ、これは世にも珍しいコリー人間にして軟弱男だ。あれだな明、そのシャドウオーブで一撃かましてやってくれるか。そしたら出てくるだろう」
超機械による電磁波を食らい飛び出してくるレオポールの姿に、宵藍(
gb4961)が生ぬるい同情の眼差しを送る。
ともあれ出てきた犬男は、手短に事情を説明した。
「‥‥なるほど、なら手を貸してやろう。婿の立場として気遣いは大事だからな」
「そうですね、義父さんとの関係をより良くして縮めるチャンスですよ」
アンに続いた恵の言葉に、レオポールは伏し目がちだ。
「いや、縮めたくはないんだけどよ‥‥」
マンモスの毛皮を玄関マットに使用し、かつもう擦り減ってくるほど踏み倒しているあたり、向こう側も縮めたいと思っているのか相当微妙。
思ったが口には出さず、佐々木優介(
ga4478)は遠い目をする。
「父の日ですか‥‥息子がレオン君位の頃に【お父さんの絵】を貰ったっきりの気がします‥‥」
父という立場の物悲しさを背中で語り追憶に浸る彼を置き、サーチャム・スタンダー(
gc7385)は意気込みを見せる。
「キモラだかなんだかしらねえが、ぶっつぶすぜ!」
今回彼とタッグを組むグリフィス(
gc5609)もまた、父の日に特別感慨は抱いてない模様。
「さくっと終わらせるかな〜」
などとうそぶき、小銃をクルクル回して弄んでいる。
負傷上がりのベーオウルフ(
ga3640)は、抜かりなく公園を見回しキメラを観察。
姿形の奇怪さはともかくとして、そう手ごわい敵でも無さそうなのを再確認し、軽く準備体操。戦闘前に体をひとほぐしする。
「情けないぞレオポール。見よ、どれもそんなに大きくないではないか」
「いや大きいだろ。長さ5メートルはあるぞ‥‥オレ蛇嫌いなんだ。怖いじゃねえか。足もないのに動いてるのがありえねえだろ」
「知らんわそんなもの。とにかく行け、行かねばお主は燃え盛るパンダの怒りによって骨も残さず焼き尽くされよう」
アンから発せられた「パンダ」の一言が禁句なのだろう、レオポールはひいいとムンクの絵のようになって叫んだ。
明はそれをかなり面白いと思いつつ、なだめる。
「まあまあ、何事も発想の転換ですよ。気持ち悪いと思うからなお気持ち悪くなるんです。あれは気持ち悪いというものではなくて、えっと‥‥」
ベンチの下を移動して行くミンクキメラを横目に眺め、彼女は少し考えた。そして言った。
「‥‥キモ‥‥カワイイ‥‥?」
「語尾疑問形だぞ」
「ええい、男が細かいことを気にするな! とにかく来い!」
「ぎいやあああああ!」
悲鳴を上げながらアンたちに引きずられて行くレオポール。
相変わらずダメな感じだ。
それにしても父親節。
(ここ数年何もしてないような。今年はちゃんと考えるかなぁ)
とびきりの反面教師を見送り、宵藍は珍しく殊勝な気持ち。
優介は警戒線の後方にいる治安警察隊の方へ、ポリ袋があればもらえないかと交渉をしている。ミンク毛皮をなるべくよい状態で確保するためにと。
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グリフィスは砂場付近を這っている1匹に目をつけ、そちらに向かった。
「遅れるなよ! サーチャム! カバー頼むぜ!」」
「おう、久しぶりの戦いだが、やってやるぜ!」
鼻をひくつかせていたミンクは、横に波打つ動きで近づいてきた。
本物の蛇もそうなのだが、結構早い。
口をかっと開けて、牙を見せている。
長い胴で上半身(と言っていいのかどうか)を支え、目標に向け顔を素早く突き出し、噛み付こうとしてくる。
「へっ、大して怖くもないな。そんな小さい歯なんか見せてもよ」
巻き付かれるのだけには注意して、両者銃弾での牽制。
前方にいたサーチャムは、近くにある鉄棒に飛びついた。逆上がりし上に乗る。
それを追ってキメラが移動。つるつると巻き付き追いすがってくる。
使ってないようだが神経は通っているだろうとグリフィスは、前足を狙って「FEA−R7」で援護射撃をした。
ギイと悲鳴。
動きが止まった一瞬、サーチャムが頭部目がけ蛍火を叩きつける。
「いくぜ!」
切り離された頭が砂場に落ちた。巻き付いた体は硬直し力が抜け、ずり落ちる。
血の匂いに引き付けられでもしたか、そこにまた2匹ミンクが寄ってきた。
返す返すもかわいさから程遠い動きだ。
「ちっ!」
グリフィスがそちらに向き直ったところ、ベーオウルフがさっと入り込んできた。
「1匹は俺が受け持とう」
機械剣「SCLB−X」を構え、彼はキメラの正面に立つ。
相手は上体をゆらつかせ、飛びかかろうか、かかるまいか、間合いを計っている。
(なるべく毛皮は傷つけないようにな)
そこを念頭に、顔目がけて剣を振るった。
向こうはそれを避け、上体を引いて様子窺い。
ベーオウルフは剣を引き、わざと隙を作る。
乗じようと乗り出してきたミンクキメラの頭は、ライトニングクローによって押さえ付けられた。
長い胴が暴れ巻き付こうとしてくるが、今少し手遅れ。頭蓋骨が砕かれ、活動は停止させられる。
もう1匹のミンクは、グリフィスの「ブラッディローズ」によって鉄棒付近まで誘導され、やはり頭を破壊された。
多少胸の部分にも弾が入ってしまったが、面積の大きいところには傷が付かなかった。
優介がすかさず回収にやってきて、血抜きの穴を空けた袋に詰めて行く。
「たとえキメラの毛皮と言えど、最高の品質で回収するために! この佐々木、頑張らせていただきます!」
と言う訳で、今回彼はあんまり戦わない。
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「おお、何か悪い夢でも見てるみたいな光景だなオイ!」
確かどっかのギャグマンガにこんな生き物いなかっただろうか。ウナギと犬との合体とかいう。
マンガだったら笑えても、現実にしたら笑えないということはままあるものだ。
滑り台目指して駆ける宵藍はそう実感した。くねる生き物を3匹真後ろにして。
しかし不必要に長い。
そういや長いコードはなにもしないのによくこんがらがることが‥‥。
「‥‥」
彼は急に踵を返した。
そしてキメラたちの上を飛び越え、右に左にジグザグに駆け回る。
3匹のミンクは不意をつかれ、同じく右に左に追いかけようとする。連携も取らず。
かくして、元来動物として無理のある形をしているためか、お互い同士の体が変なふうにこんがらがってしまった。
ギ! ギ! ギ!
「あー、やっぱりな」
土煙を巻き上げてじたばたしているのを、滑り台の上に駆け上がって眺める。
紐でないから完全に結ばれているというのではないが、解かれるのに多少時間はかかりそうだ。
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アン、明、恵そしてレオポールはこぞって登り棒の方へ移動していた。
棒にキメラを巻き付かせ、始末する作戦である。
提唱者であるアンは、肩に担いだ槍を見て言った。
「ま、この「鬼火」も普段使ってやれなかったからな、たまには使ってやらんとな。明、私の後ろにぴったりついて来いよ」
「アイサー、一命を賭して‥‥なんてね」
「こいつう、うれしいことを言ってくれるじゃないか」
二人とも仲がよいのは結構なのだが、聞いているといささか恥ずかしい。
恵は咳払いしつつ、うねっているキメラを引き付けに場を離れて行った。
アンはまず作戦について今一度周知徹底させようと、振り向きざまに注意する。
「ヤツらは棒にまとわりついているときは無防備だ、いいか、合図をしたらいくぞレオポ」
しかし、すでに視界からレオポールは消えていた。
上を向いてみると、はや棒の突端にしがみついている姿が。
遠方の滑り台から宵藍が呼びかけている。
「レオポールー、そっちの調子はどうよー?」
「よくねーよ、お前余裕あんだったらこっち来いよ!」
アンは明に向き直り、肩に手を置いて言った。
「奴が逃げそうならまたシャドウオーブで一発やっといてくれ」
「アイサー、メル姉」
うんうんと恋人に頷き、彼女もまた棒に登る。
恵は2匹キメラを先導し、彼女らの元まで向かわせている。
合図である明の笛が鳴ったので。
「こっちだ天羽!」
噛み付かれそうな位置まで踏みだし、また引き、恵はミンクをアンたちの射程範囲に引きずり込んで行く。
そして、素早く相手の視界から姿をくらます。
「止めはお願いします!」
「あい分かった! ほれほれ、キモラ、獲物はこっちにいるぞ!」
アンは手持ちの槍を大きく振り、敵の注意を引く。
恵を見失ったミンクたちは早速そちらに目標を切り替えた。音もなく棒にスルスル登って行く。
恵は残りのキメラを探しに引き返して行くついでに、レオポールへ注意を呼びかける。どうも彼の様子が情けないものだったので。
なにしろ迫るキメラにこう言いながら、足で蹴ってるだけなのだ。
「うおお、しっ、しっ、登ってくるなあ!」
「‥‥レオポールさん! そんなところで震えてたら食べられてしまいますよ!」
言葉が終わらないうちに、あぎゃーと悲鳴。
見ると彼の尻尾にミンクが食いついている。
「‥‥ちゃんと攻撃してくださいよ」
それだけ言い置いて彼女は、ゴミ箱の付近から頭を覗かせているミンクへ向かって行った。
むろんレオポールは助けない。自分で何とかするのが筋だろう。
アンは当然彼と異なり、さっさと退治を行っている。
「お前を振るうのも久々だな、‥‥貪れ!」
一閃する槍の穂先。
キメラの頭部は顎から砕かれ、長い体は巻き付いたまま、地面に落ちて行く。
流石メル姉と手を叩く明は、レオポールの手伝いも一応してあげるとした。このまま尻尾がもぎられたら問題かなとは思うので。
毛皮のことを考え、巻き付いているキメラの尻付近を、思い切り峰打ちする。
「成敗! ‥‥ってこれはとどめだっけ」
頭と尻がどんなに離れても痛みは感じるので、ミンクキメラは顎を外す。
隣の棒の上から、アンが檄を飛ばした。
「さっさと攻撃せんか! 全く貴公は何のために毎回その馬鹿でかい剣を持って歩いておるのだ情けない! そんなことだから義父御からマンモスを玄関マットにされるのだ! たわけ!」
「そ、そこまで言うことねえじゃねえかよおお」
涙交じりの抗議をしつつレオポールは、どうかこうかその剣でキメラの頭を叩くことに成功した。
滑り台の宵藍は、やっと解けて向かってきたキメラたちを倒していた。
頭が1つ、2つ、3つ、順調に弾け飛ぶ。
即座に優介が回収に来る。
「えーと、これで6匹ですね。後はアンさんたちのところで4匹回収すれば、ちょうど」
彼がそう言いかけたとき、脇の茂みから急に1匹が顔を出し、襲いかかってきた。
宵藍からの援護を待たずして、優介は手早く処理をした。
イアリスが脳みそから顎を突き抜けて地面に刺さる。
死にかけのウナギみたいに痙攣し、ミンクはすぐ静かになった。
「見かけによらずやるんだなあ、優介」
「そういうことよく言われます‥‥」
滑り台を滑って降りてきた宵藍が、獲物を袋に詰めていく手伝いをする
登り棒付近から一際高く笛の音が鳴った。
どうやら向こうも退治し終わったらしい。
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「初依頼お疲れさん」
グリフィスはまず合方をねぎらった。
「ありがとさん」
サーチャムは彼と軽いハイタッチを交わし、一息ついてブランコに座る。「なつかしい」と呟きながら。
付近ではレオポールと毛皮を囲み、意見交換がされている。
「私らはコレに興味は無い、持って行けレオポール。コレをどう使うかは、夫婦でじっくり考えてみてはどうだ?」
「お、おう。そうだな。メリーなら何かいい案知ってるかも」
アンの言葉にふんふん鼻を鳴らし、毛皮の匂いを嗅ぐレオポール。
優介は控えめに、彼女と同じ提案をする。
「結婚して初の、父の日のプレゼントですからね。夫婦共作のプレゼントというのも素敵だと思いますよ?」
「そうだな。ぞんざいに扱われない為に奥さんの手を借りるのもいいと思うわ俺。何しろ前回の例で行くと、今度は布巾か雑巾かにされかねないと思うし」
身も蓋も無い宵藍の発言に、レオポールまた泣きそうだ。
「ぞ、雑巾! 冗談じゃねえよ、オレ命懸けだったんだぞ!」
ベーオウルフは万事冷静に所見を述べた。
「そうとも思えんが。まあ、さすがに玄関マットだの雑巾だのにするのは勿体無いから、ガウンやコート、ジャケットのファーにするかしてもらったらどうだ。ミンクオイルなんかも革製品の手入れにはいいらしいぞ」
続いて優介。
「残りの毛皮は換金して別のプレゼント購入もよし、アマブル家の臨時収入にしてもよし、お義母さんかメリーさんのコート等に仕立てるのもよし、かと」
そして明。
「マットの分はとっとくとしてさー、お金に換えてもよさそーだよねー」
次に恵。
「言えてますね。とにかく奥さんにお任せするのが無難ですよ」
で、また優介。
「どうしても玄関マットをと義父さんが申されるのでしたら、亀の子たわしを繋いだ物を作ってお義父さんの誕生日にプレゼントするという手も」
「たわし‥‥だ、大丈夫か。作って持って行ったらぶっとばされねえかオレ」
「ええ、ぶっとばされます。ですからもちろん子供たちと共同製作という形で‥‥」
話し合いが続く中アンは、恋人の頭をなでる。
「おおそうだ、お疲れ様だった、明」
明はそれに、がばと抱きついて返した。
「メル姉も、お疲れさまー」
「‥‥あぁいう毛皮って、明達も欲しがるようなものなのか?」
「んー‥‥あちきはあーゆーのはあんま興味ないかなー? メル姉が一緒にいてくれるほうがいいよ」
「こいつめ‥‥さ、帰ろう明」
「はーい、メル姉」
女2人は寄り添いながら、いち早く帰路に就く。
「父御殿へのプレゼント、か、私も考えておかねばな。そろそろ」
「‥‥あちきもお父ちゃんに電話ぐらいしよっかなー‥‥?」
共にブランコを楽しむサーチャムとグリフィスは、彼女らを見送る。
「‥‥仲いいよな」
「な」
なんにしても、結果は父の日当日まで持ち越し。