タイトル:タイツ男の怪マスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/13 23:22

●オープニング本文


 人里離れすぎて舗装道路もつきた先、酸性雨でも降ったのか枯れ木だらけの森を抜け、荒波打ち寄せる崖っぷちにある崩れかけた洋館。どういう次第かその周辺では、一年中雨を交えた風が吹き、雷が閃きしている。
 こんな環境に住もうかという了見を起こすのは、頭の具合のいささか不安定な人間であろうと世間の人は考えるだろう。
 全くその通りだ。
 この不吉な洋館に許可もなく多種の機器を持ち込み、日夜怪しい研究にあけくれているのは、とあるキメラ研究家である。ただ、その成果が実りあるものになったことがほとんどないので、雇主のバグア側からかなり軽んじられている状態。
 だから博士は一生懸命どうにか認められようと、ここのとこ寝食を忘れて研究に打ち込んでいた。
 そしてそれが今日、ようやく実を結んだ。
 スーツケースを片手に、事務的な顔をした一人の男がやってくる。博士が先程電話で呼んだ、バグア側の連絡員である。

「博士、新発見をされたということですので一応お伺いにまいりましたが」

「おお、よく来てくれました。まずは、そこにかけてください」

「いえ、私他にも回る場所がありますので、ここで結構でございます」

 言いながら連絡員は、せわしそうに時計をのぞき込んでいた。手早くここをすませて次に行きたいと思っていることは見え見えだ。上司の異星人的にはこの男にそれなりに何かを期待しているらしいが、単なる連絡員である彼にとってはただの扱いにくい変人でしかない。

「まあそう急がなくてもいいじゃないですか。聞いてください、すごいんですよこれは。何に見えますか」

「ゴミ袋ですか」

「違いますよ。よく見てください。手足が付いているでしょう」

「ああ、そういえば。手足の付いたゴミ袋ですか」

「あのね、これには頭部があるじゃないですか」」

「そうしたら頭の付いたゴミ袋ですか」

「どうしてゴミ袋から離れないのです。これはそんなつまらぬものじゃないですよ。画期的なそう‥‥いわばパワースーツ。もっとも人間のではないですが。私はね、前から常々考えていたんです。キメラというキメラの中でも、最高に作りやすいのはスライムだろうと」

「まあそうですね。あれが最も安価に出来ますな」

「ええ、その上鳴かないし、餌も少なくていいし、容器の中に入れれば大人しくしているし、研究者にはまことに重宝です」

「使い道、そんなにありませんけどね」

「そう、そこが問題なんですよ。こんなに扱いやすいキメラには、もっと大きな可能性があるのではないか。手助けさえしてやればそれを引き出してやれるのではないか。そう出来るのなら、何も新しいキメラを高い費用をかけて開発するまでもない。そこで‥‥これです」

 やっと本題に入ったかと、連絡員は、平板な声で促した。

「はあ、で、具体的にはなにをするものなんですか」

「まあ見てください」

 博士は緑色のスライムが入った容器を抱えて戻ってきた。そしてゴミ袋、もといパワースーツの頭の天辺を開き、そこから次々スライムを入れ込んだ。
 中身が隅まで詰まったところで、頭部の皮を引っ張り、風船みたいに結んでしまった。
 そうすると、なんとも珍妙な代物が出来上がる。あえて言うなら、全身黒ゴムタイツをまとった人間という感じがしなくもない。

「こうしておけばですな、スライムもただ這うだけではない、複雑な動きが出来るわけですよ。このスーツの外側は新開発素材を使っておりましてな、攻撃にもそうやすやすと破れはしません。大量生産すれば、きっとバグア軍の重要戦力になるはずです」

 得意満面の博士だが、連絡員の目の疑わしそうなことといったらない。

「本当に動けるんですか」

「何をおっしゃる。動けますとも。ほれ、お前、立ってみなさい」

 命令を受けたゴムタイツは、ゆっくり立ち上がった。さながら、糸のこんがらがったマリオネット。頭が完全に後ろに倒れ、腕がよじれ、足はものすごく内股になってしまっている。

「‥‥かなり不自然ですな」

「まあ、まだ慣れていないのでね。慣れればもっとよくなりますよ。ほら、次は歩いてごらん」

 ゴムタイツは命令に従い歩いた。ねじくれた姿勢をそのまま直そうとせず、一歩一歩震えて頭をがっくんがっくんしながら前に進む。いきなり止まる。数秒そうしていて、何を考えついたのかいきなり海老反りし、手を地面に付けた。そしてブリッジした姿勢のままかなりの速度で、シャカシャカ部屋を歩き回る。
 突進してこられそうになった連絡員が思わず飛びのくほど、それは無気味な姿であった。

「どうです、いまだかつてこんなに素早く動いたスライムがあったでしょうか」

「いや、そりゃあないですけどね。しかし」

 何のつもりか今度は金ちゃん走りをしているゴムタイツを、先程以上に不審な目で眺め、連絡係は言った。

「確かに相手の出鼻をある意味挫けるかも知れませんが、戦闘力はどうなんです。見た目の無気味さ以外にも、何か特典があるのですか」

「・・・いやまあ、今の所そこは特にないのですが、しかし、問題はこれが作りやすく大量生産できるという点にあるのですよ。実は私すでにこれを百体分用意しておりましてな、スライムといえども、これで一施設を占拠することも可能だと思うのです。ですから、ぜひ、それを上層部にお願いして試させていただきたく・・・」




 数日後。その近辺のハイスクールでは恐ろしい事件が持ち上がった。
 怪奇な黒いタイツ男が多数、どこからともなく白昼堂々学校に押し寄せてきたのである。その迫力はものすごく、授業中だったが、生徒も教師も無論恐れ戦いて散り散りに逃げていった。
 変質者の集団だか何だかよく分からないが、とにかく見過ごせない事態だ。地元警察は、万一のことを考えて、ULTにも連絡を取った。






●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
ミリー(gb4427
15歳・♀・ER
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
アリス・レクシュア(gc3163
16歳・♀・FC
サギーマン(gc3231
25歳・♂・DF
リズレット・B・九道(gc4816
16歳・♀・JG
天流儀 ヤコト(gc4819
13歳・♂・CA
パトリック・メルヴィル(gc4974
23歳・♂・ST

●リプレイ本文

戦いは、ミリー(gb4427)の第一声にて幕が開ける。
「‥‥コスプレ集団かなんか?」
もしかしてそうなんだろうかこれはというのが、応援に駆けつけた能力者たちの感想である。
タイツタイツタイツ、黒のタイツメン。ま昼の校庭にまんべんなくそれらがうろうろしているさまは白昼夢。誰をもひとまず無言にさせる光景である。
「‥‥あ、絡まってる」
イーリス・立花(gb6709)の呟きに皆が目を向けると、なるほどテニスコートのネットに一人タイツがこんがらがって、緩慢にじたばたしていた。
近くでは別のタイツたちが複数集まり扇の組体操をしている。ブリッジでシャカシャカ歩き回っているのもいれば、数人固まってあたかも筋肉を誇示しあっているかのようなのもいた。
 ム−ンウォ−クで通り過ぎていく奴がいる。二人組で「命」の文字を作っている奴もいる。
 何を考えているのだろうか。
多分何も考えていない。
 キメラ許すまじとやってきたリズレット・ベイヤール(gc4816)も、不覚ながらそれを見てちょっと和んでしまう。そんなゆるゆるぶりである。
「‥‥あれ‥‥ですよね‥‥対象のキメラって‥‥」
 そんな中アリス・レクシュア(gc3163)は気を取り直し、首を傾げた。
「何が目的でハイスクールの占拠なんて‥‥」
 それは誰にも分からない。というより、何ゆえ効率の悪そうな人型なのかが分からない。
 いやその前に、そもそもこれは占拠している状態と呼べるのか?
「愛と正義と真実の使者」としてのサギーマン(gc3231)は、かような疑問を頭に浮かべながら言った。
「まあ、なんにしても学校を襲うとはいかにも悪党、許すわけにはいきません」
「ふふ、中々ユーモラスな研究をなさる方もいた物だ‥‥ナンセンスですがね」
 パトリック・メルヴィル(gc4974)は奇妙な一団に興味津々、新種の動物を発見した探検家のような目で彼らを見ている。
 天流儀 ヤコト(gc4819)は困ったような顔をして、隣で遠い目をしている辰巳 空(ga4698)に話しかけた。この見るからの研究人間を相手にしては、あんまり話が通じないかなと密かに思って。
「でも、全身タイツで徘徊は、イケナイ事だと思います‥‥キメラだから仕方ないけど」
「ああ、そうですよね。とりあえずこんなのを量産されては堪らないので、ここで潰しておきましょう」


 とにかく気を取り直し、皆は作戦を立てた。おおまかな流れは。
 1まずは、校内にいる人々の安否を確かめ、校内のタイツを校庭におびき出す。
 2その間校外のタイツは逐次排除していく。
 3タイツのうち一部は、研究所用に確保する。
 というものだ。
 ひとまず1のメンバーが動く。
 イーリスは、サギーマンと組んで潜入し、職員室を視察する手筈となった。逃げ遅れた人々の安否については、リズレットが職員室に電話をかけ確認しているが、直接顔を出して安心させるほうがいいだろうというわけで。
 おびき出し役の空が、そこに同行する。
「多分、音に反応するんじゃないかと思うんですよ。一応スライムですから、視覚はないでしょうし」
 その見解を持って、彼はロープに幾つかの空き缶を括り付けた囮を肩にかけ、現場に持ち込んでいくとする。
「さて、それじゃ我々も行きましょうかリズレット君」
 ひっそり胸に手を当て物思いに沈んでいたリズレットは、パトリックの呼びかけにしゃんと頭を挙げて答えた。
「はい、パトリック様」
 二人は本部から急遽届いた金属網を抱え、彼らに続く。
 タイツの進路を塞ぎ職員室への進入を防ぐとともに、校庭へ誘導しやすくするため、更には捕獲用の網として使用する所存である。
 校外のタイツに注目されぬよう、一同裏門からこそこそと潜入開始だ。

 校内組が潜入を始めたと同時に、校外組も動き出す。
「さぁ、仕事の時間です。不気味な黒タイツを全て排除しましょう」
 アリスは言うが、日傘を手にしている彼女、あまり動こうとしない。校内からタイツが誘導される手はずになっているので、それまでは深入りせず待っていようという所存なのだ。
 だが、タイツは彼女らが校庭に入ってきたのに気づくや、皆吸い寄せられるように近づいてきた。特にブリッジの奴が真っ先に近づいてきた。
「それでこっち来るなあああ!」
 その動きが生理的にかなりアレだったので、彼女もつい疾風脚で飛び下がった。相手の動きが早くてすぐに補足出来なかったか、タイツはそのままの姿勢と速度でバックし、今度はミリーに襲いかかってきた。
 もとより接近戦はあまりするつもりでなかったが、こうなったら仕方ない。パイドロスを模したコスプレをまとう姿も勇ましく、彼女は超機械【トルネード】をかざした。
「食らえよやー!トルネードアタック!」
 竜巻が沸き起こり、タイツを飲み込んだ。吹き飛ばした。
 タイツは天高く舞い上がり、校舎の壁に激突する。そして猛烈な勢いで跳ね返り、更に地面にバウンドし、別のタイツと対峙していたヤコトの背中に向けてぶつかり、威勢よく爆発する。
 その爆発自体は大したことない衝撃だったが、予想外な方向からの体当たりは、意識していなかっただけに結構きいた。
持っていた盾に顔をぶつけ、少年は地面に顔から突っ込む。
 そこへわらわらとタイツがとびかかってきた。
 ミリーは大急ぎで援護に入る。再度トルネードアタックでそれらを吹き飛ばした。先程の教訓を得て、なるべく反射するものがない方向に。
 そして急いで「痛いの痛いの〜飛んでいけー」の治療を行ない、力強く少年の背を叩く。
「ヤコト君気をつけて、あいつらスーパーボール並みに跳ぶわ!」
「うん、わかった。でもそれぶつかる前に言ってほしかったような気がします‥‥」
 鼻を抑えつつの言葉に、アリスもちょっと同感であった。ブリッジ姿の奴が吹き飛ばされた挙げ句転がり手足が絡まり、ヨガ行者もやれそうにない姿勢で飛び跳ねているのを見たとあっては。
 といっても、戦いにくい相手ではない。
「腕を大きく上にあげて背伸びの運動! はい!」
 馬鹿馬鹿しくもヤコトの動作につられて動き、叩きのめされている限りは。


 校外から軽い爆発音が聞こえてきた。
「始まったようですね。こちらも注意しなくては」
 重武装な格好のイーリスは、ゴーグルの中で目を鋭くさせた。ただいま彼女らは、リズレットの事前調査により知りえた、職員室への最短進路を進んでいるところだ。
 校舎は三建てコの字型と、変哲もない標準タイプ。
 設置された防火扉を順次閉じていき、網を要所に設置ししつつ、歩を進める彼らの前に立ちはだかるのは、むろんタイツである。
「そうですね、なにしろ自爆しますから十分備えを。しかし人型なのがどうも‥‥まるで人を撃つかのような錯覚を覚えそうで」
 言いつつ、サギーマンが階段の下にさしかかりかけたときである、ブリッジしたタイツ男がすごい勢いで駆け降りてきた。
 蜘蛛のような動きには、人の原初の本能をゆさぶる何かがあるらしい。彼は反射的に矢を放つ。それが爆発してから、広い額の汗を拭う。
「‥‥なんかこう、罪悪感が少しありますね」
「何を言うんですミスターサギーマン。即撃ってましたよ、今」
 おかげでタイツの作りをよく見られなかったと、パトリックは不満そうである。
 しかし彼が嘆くまでもなかった。爆発音にひかれたか、新たに数匹が来た。ブレイクダンス風動きをしながら急接近してくる。右に左にそして互いにぶつかって更に不規則な動きになり、撃ちにくいことこの上ない。
「‥‥パトリック様には指一本触れさせませんよ‥‥!」
 とはいえ、接近するのはそうでもない。
 リズレットはシュバルツクローを武器にして、果敢に一匹を打った。
 空も防御し、一匹を撥ね除ける。
 彼らとの間が離れたところで、イーリスが素早く射程に収め、狙撃した。爆発音が二回響く。
 それによりまた集まってくるといけないので、大急ぎで場を離れ、皆は職員室まで来た。
 イーリスは急いで中の人間の安否確認に向かう。ガスマスクとスコープを取り外し、窓を軽く叩き、内部に注意を促した。机の下に隠れていた人々が、恐る恐る顔を出してくる。
「もう大丈夫です、私たちはUPC所属の傭兵です。すぐ片付きますから、それまでココで大人しくしていてください」
 彼らは助けが来たことに安堵の表情を見せ、しきりと頷く。
 作戦は、次の段階に入った。
「辰巳様、出番です。無線を手放さないでくださいね」
「はい。それでは行ってきますので、皆さんも気をつけて」
 おびき出し筆頭の空は、まず外階段から三階に向かった。上から下に、遠くから近くにタイツを誘導する手筈だ。
 注意して中に入り、廊下をうろついているタイツたちに向けて囮を投げ、がらがら音を立てた。
「ほらほら、こっちですよ。こっちこっち」
 この手法は、まず成功だった。
 だが誤算があった。それは、タイツが予測以上に音に敏感だったことである。
 大体目安としていた10体を超え、彼らはたちまち集団になって、囮こと空めがけてまっしぐらに殺到してきた。
 彼は全速力で駆けた。むろん必死なので瞬速縮地も使う。するとなおタイツが激しく反応して追いすがってきた。
「ええええええ!? 待て、そんなにいらない、いらないって! うわ、これ結構怖い!」
 無線から聞こえてきた声に、リズレットは慌てて聞き返した。
「なんです、どうしたのですか辰巳様」
「いや、なんか多すぎ‥‥」
 通信が跡絶えた。
 しかしまあ、一同が心配するまでもなかった。地響きを立てて階上から駆け降りてくる群集の足音と、その姿を目にしたとあっては。


「捕まえたっ‥‥、あ、こら、なんて動きをするんですかあ」
アリスの声にミリーが振り向くと、捕獲のため足を掴まれているタイツが逃げようとしているのか、通常の三倍は伸びていた。なまじ人型だけに、とてつもなくシュールな光景である。
「すいませんミリーさん、頭を捕まえてください!」
「え、あ、わかったわ!」
 頭を捕まれ足を捕まれ、タイツは伸び切った。どこまでも伸び切った。輪ゴムのように伸び切った。 その時アリスの所有している無線機に連絡が入ってきた。
 反射的に彼女は手を離す。
「なんです。え、今からこちらに校内のが向かう?」
 当然伸ばした分が勢いつけてミリーに当たって爆発した。
 彼女は反動で地面に転がり、少しの間悶絶する。装備越しにもかなりきたと思われる。
 アリスが急いで駆けより詫びる。
「す、すみませんミリーさん。私としたことが」
「いえ、いいわ‥‥ねえ、ところで正直もう百体は倒したんじゃない?」
「なに言ってるんです。まだ35かそこらですよ、完全に破壊したのは」
「ウッソー、だって私、もう百回は吹っ飛ばしたりどついたりしてるはずよお」
 練成強化に錬成治療、電波増幅を盛んに発動しているだけに、彼女は疲労を感じやすくなっている。

 地道に一体ずつ倒しているヤコトにも、そのことは強く感じられた。個体でいくと手強い敵でもないのだが、なにしろ数が数。同じものが後から後からわくように見えて、気疲れしてくる。
「多分、何度も同じ奴を相手してるんですよ。どれを攻撃したか区別がつけられないから」
「そこなのですよね。全く、一匹一匹番号を書いておけというんですよ」
「でも頑張りましょう、数はちゃんと減ってるから」
 けなげな言葉である。
 確かにそうだ、頑張ろう。
 狐耳を伏せアリスがそう思い直しかけたところで、窓ガラスを体当たりで壊し、空が飛び出てきた。
 と同時に、黒い人々も追ってきた。追いすがるそれを千切っては投げ千切っては投げ投げたものに取り付かれつつ、校庭にまで誘導してくる。
 待ちかまえていた彼らは、その有り様に驚きつつ、増えたタイツの多さにちょっとげんなりした。
 ただ幸いなのは、タイツが広いところに出てきたおかげで、狙撃するのにまったく躊躇がいらなくなったというところである。
 こうなると、イーリス、そしてサギーマンの本領発揮だ。
「ほとんど外に出ましたから、どうやら予定より早くすみそうですね」
「イーリスさんの言う通り、好都合です。ただまあ、こうなると捕獲の件がちょっと難しそうで」
「あ、そのことならかまいませんよ。出来ればの話でしたし。さて、ではスーツの耐久チェックから‥‥」
 慇懃に言い、パトリックは実に楽しそうに後方から観察を続けた。
 狙撃班の支援を得、ラストスパートをかけた校庭組も、活発に動いている。
「うわ、これ結構跳ねますね‥‥はいパス!」
 ヨガタイツの全身攻撃を防ぎつつ、空が盾で殴り飛ばす。
「わわ、パス!」
 飛んできたそれをヤコトが同じく盾で弾き。
「ヘイトス!」
 ミリーがトルネードで巻き上げ、落ちてきたところを。
「アターック!」
 アリスが一刀両断。爆発させた。
「見事な連携プレーですね、パトリック様」
「そうですね、面白い。いやあ、興味が尽きませんねえ」


 戦いは終わった。
 校庭にて皆は、す巻きになっているタイツ二体を見下ろしている。
 正直言って捕獲は難しかった。捕まえれば逃げようとするし、逃げようとすればある程度力で抑えないわけにいかないからだ。すると憎らしいほど簡単に爆発する。
 探査の目でも自爆装置がどこにあるかは分からない。おそらく内部に仕込まれているのだろうというくらいしか。
 しかし、捕獲作戦はけして無駄ではなかった。追い込み漁は出来ずとも、定置網漁は出来たのだ。リズレットとパトリックの事後見回りにより、それが確認された。
 集団で暴走してきたとき、勢いのままからまった奴が一匹、そして最初から校庭でからまり続けだったのが一匹、なんとか確保された。
 ただ爆弾解除が難しい。中に手を入れなければいけないとなると、設備の整った研究所でなければ無理だ。
 というわけで残念だが、これらは全てキメラごと未来研・ブレスト博士の元へ送ることとなった。
「でも、爆弾解除してないんだよね‥‥移動中に爆発しないかな」
 職員室の人々へ、戦闘終了の連絡に行っていたイーリスとミリーも戻ってきて、ヤコトの懸念に同意する。
 だが、権威であるパトリックは涼しい顔で言い切った。
「なに、梱包剤を三倍くらい詰めとけば大丈夫ですよ。どの様な表情で受け取るのか、楽しみですね」
 リズレットはそれに意を唱えずにっこり頷いた。
「割れ物と危険物と天地無用のシールもたくさん貼りますから問題なしですよ。リズはそう思います」

 かくして、「大丈夫か?」というその他大勢の懸念とともに、タイツたちは丈夫な箱に詰められ、郵送に回されるのであった。


 三日後。未来研に大きな資料が届いた。
 受け取りが誰だったかまでは定かではないが、もしもブレスト博士の元に届いたのであれば、さぞげんなりした表情で天を仰いだ事だろう。