●リプレイ本文
「順調に撮影に臨めるかと思うたれば、斯様な場所にもキメラかえ」
嘆息したのは秘色(
ga8202)様。
ドレスはマーメイドライン仕様。トップはビスチェタイプ。
サイドに麗しい薔薇のモチーフ。そしてロンググローブ。
ロングヴェールの下には、うなじを強調して結い上げられた髪。
大人の色香を感じさせますね。さすが唯一の既婚者様。
「せっかく乙女の憧れのウエディングドレスのモデルのお仕事だというのに、バグアもずいぶんと無粋なまねをしてくれますね。一刻も早く退治して本来の仕事に戻らないといけませんね」
とは乾 幸香(
ga8460)様の言葉。
こちらは普段編んでいる髪を解き、ロングで勝負。
流れるごとき髪にあしらわれたコサージュが小粋さを演出。
豊かな肢体を覆うドレスはプリンセスライン。
愛らしい雰囲気が魅力的です。
「療養をかねて来ていたのですが‥‥仕方がないですね」
続いては鳳由羅(
gb4323)様。
袖アリ・フルレングスのマーメイドラインとロンググローブ。
銀に輝くティアラ、手元はキャスケードブーケで華やかに。
さながら水辺に咲く一輪の白いアイリス、楚々とした貞淑さが醸し出されております。
「一般人に危害が及ぶとまずいものね」
先程からツンツンしてる香月透子(
gc7078)様。
原因は多分向こうでボーとしてる鈴木庚一(
gc7077)様でしょう。
ドレスはホワイトのプリンセスライン。トップはビスチェタイプ。
ボリュームたっぷりのスカート部分は巻スカートを模し、上スカートが下スカートを、フリルで斜めに囲んでおります。
ヴェールは肩甲骨まで。手袋はレースの肘上タイプ。
ブーケは白薔薇を中心に纏めたもの。
華やぎの一言であります。
「‥‥あのー、住吉(
gc6879)さん」
おっと、今私に話しかけてこられたのは、リゼット・ランドルフ(
ga5171)様。
エンパイアラインのドレスと、マリアヴェールを召しておられます。
グローブはオーガンジー、フィンガーレスの物を。
ラウンド型のブーケは、ピンク、オレンジカラーでまとめています。
まさしくかわいい花嫁さんといったところ。
それで私に何でしょう?
「あ、いえ、先程から何をされておられるのかなと‥‥」
実況中継です。
いやいや、同性でも綺麗な花嫁さんを拝見できると眼福というものですね〜♪
とまれ私、高級ホテルの臨時のバイト中に騒動に巻き込まれた状況です。
別にサボって花嫁見物していたわけではありませんからね?
「こら、ウソ言っちゃ駄目よ住吉ちゃん。エキストラの仕事放り出して、どこに行ったのかと思えば」
わ。
その声は目下この高級ホテルで、ドラマ「メイドさんは見た」の順主役として撮影に入られているはずの天戸 るみ(
gb2004)さん。
何故ここに。
「騒ぎを聞きつけて駆け付けたという経緯です。一般人が巻き込まれるのは見過ごせませんので」
なるほど、傭兵の鑑です。
確かに一般の方には危険な代物ですからね。皆様恐怖に逃げ惑って‥‥。
「ちょっと! こういう時くらい私を守ったらどうなのペーチャ!」
「なに冗談言ってんですか、ぼくはいつ何時もきみを守る気なんかありませんからね。ぼくが死んだらぼくにとって損失ですけど、きみが死ぬのはぼくにとって利益です」
「なんですって! あんたって男は最低よ!」
‥‥ないのもいますけど、とりあえず始めましょうか、キメラ退治。
●
場にいた一般関係者の誘導と護衛を担当するのは、由羅、るみ、そして住吉。
キメラがどういう思考回路を持っているかは分からぬが、とりあえず非戦闘員を離れた所まで連れて行く。
「ここは私にまかせて早く退避を‥‥」
いの一番に電撃を食らった撮影関係者には練成治療を施したが、ショックが回復しないので、急遽るみがおんぶしていた。
能力者にかかれば、大の大人一人背負うくらい容易いものだ。
鳩キメラは攻撃するさい、能力者か一般人かいちいち選んでない。
ためらいもなく対象へ向け低空飛行、2羽が急接近してくる。
「おっと、それ以上こっちに近づくのはノーサンキューですよ」
対し、住吉がまず「扇嵐」で防御を。
風に煽られて鳩は、一旦高度を上げる。
といって逃げる様子はない。
ホテルの入り口から人々が続々入って行くところへ、再度降下を試みる。
「ふふふ〜♪ 乙女の幸福のひと時を邪魔するキメラは、月に代わってお仕置きですね〜♪」
住吉も、再び「扇嵐」の竜巻をお見舞い。
由羅も防御射撃を行う。
るみはその間、おんぶしていた怪我人を床に降ろし、
「大体きみはなんです、結婚結婚て、どうせぼくの資産食いつぶす気でしょう!」
「ええその通りよ! 大体ね、あなたから金をとったら根性の汚さ以外何も残らないわよ!」
「あーそうですか! しかしきみには性格の悪さ以外なんもないじゃないですか!」
「お2人ともいいから早く入ってください!」
ペーチャとファニーを入れ込み扉を閉め、ようやく戦闘態勢に入る。
ふらつきつつ急降下して来る鳩キメラ。
るみは「雷上動」を引き絞る。
由羅が忍刀「颯颯」を構える横で。
「この怪我がなければもっと早く片付くんですけどね‥‥るみ君、私は前のを行かせていただきます」
「分かりました。なら私は後ろのということで」
遠距離目がけ、知覚弓が放たれた。
至近距離で、刃がきらめいた。
キメラの残骸が地面に落ちる。
●
「生憎と豆が無い故、此れでも喰らっておれ」
秘色はショットガンを鳩の群れ目がけ発砲した。
先の2羽以上誘導先に行かせるわけにいかない。
キメラは慌てて高度を上げる。
そこに透子が不敵な笑みを浮かべ、「M−121ガトリング砲」を持ち出してきた。
的が小さいので、数うちゃ当たる戦法を取る所存である。
「ウェディングドレス姿にガトリング構えてるって言うのも、粋だと思わない?」
彼女は連射を始めた。
ヴェールが巻き起こる風に浮き上がり、荒荒しい銃撃音が天に向けて放たれる。
この分だと相手に聞こえないだろうなと思いつつ、庚一は返答する。
「‥‥あー‥‥まあ、悪くはないんじゃないか‥‥?」
なんとも煮え切らない感じだが、彼は一時が万事こうなのである。
こんな言動が積み重なって、元婚約者であった透子から三下り半を叩きつけられることになったのだ(親交は続いてるけど)。
それはさておき、彼は彼女のように大ざっぱなことはせず、洋弓「アルファル」で狙いをつけ狙撃した。
右往左往している鳩の機動力を失わせる為、翼を狙って。
(皆ドレスなら戦い難いだろうしな‥‥汚れんのもあれだろう)
元婚約者の真っ白な姿に、そう思いつつ。
彼らの攻撃により、早速4羽地上に落ちてきた。
死んではいない。羽をばたつかせている。
幸香がその1羽に向け、ベオウルフを振りかざす。
後方から一閃。なるべく衣装に返り血がかからないよう気をつけて。
「‥‥こんな中途半端な射程しか持たないキメラで何がしたかったんでしょうか? ともかく仕事の邪魔ですから、お掃除しておきましょう」
返す刃でもう1羽。
リゼットもまた落ちてきた1羽を狙い、「獅子牡丹」でなぎ払う。
「む、確かに半端な射程距離じゃのう」
その側でまた1羽。これは秘色の仕事である。
鳩も電撃で対抗を試みるが、残念にも届かなかった。
まだ飛んでいた残り2羽の始末は、リゼットと透子が行った。
「クリムゾンローズ」の銃弾が小さな頭を吹き飛ばし、「クラウ・ソラス」の爆風が、対象を地面に叩きつけ、骨を砕く。
全てが円滑に進んだ一戦だった。
庚一の地味ながら、効果的な援護によって。
「さて、此れで片付いたかの?」
秘色は早速気掛かりそうに、ドレスの裾を手繰り寄せる。どこかに染みなどついていないかと。
他のお嫁さんたちも鏡など持ち出し、確かめる。
透子は、庚一に見せている。
「ねえ、汚れてないわよね」
「‥‥あー、まあ、大丈夫なんじゃないか‥‥」
「‥‥もっと気入れて見たらどうなの。私今日庚一に誘われて来てるんだけど? 何となく‥‥嬉しいとか、そ、そんなこと思ってなんてないんだから…ねっ?!」
●
幸いドレスは全員大丈夫だったので、本題の撮影会再開。
まずはリゼットと由羅。
二人揃って薔薇のアーチの下、白い長椅子に腰掛けて1枚。
仲良し花嫁さんといったところ。
「リゼさん。‥‥似合ってますでしょうか? こう言う格好は憧れはしてましたけど着慣れないもので」
「もちろんですよ。由羅さん、スタイルいいし綺麗だから、とてもドレスが似合います」
赤らむ友人に賛辞を贈るリゼットは、相手に言えない秘密の依頼について思い出す。
由羅の弟から、ぜひともこの機会に『お見合いに使えそうな写真を‥‥!』と頼まれていたのだ。
とすると、単品ものが入り用。
「由羅さん、ついでに1人ずつもう1枚撮りませんか。教会のところで。予行演習しましょうよ」
提案を、由羅はすんなり受け入れた。
「いつか本当にこんな衣装を着る事ができればいいのですけどね」
「出来ますよ、もちろん。引く手数多ですよ」
「ま、リゼさんたらそんな‥‥あら、中には入らないんですか?」
ステンドグラスの光差し込むバージンロードに立つ友人にリゼットは、照れ臭そうに言った。
「はい、私は教会の中での撮影だけは遠慮します。そちらは本番までお預けなのです‥‥そんな日が来れば、ですが」
かくして2つの花嫁写真、完成。
由羅は教会の中、リゼットはその入り口。
どちらも振り向き様のポーズ。思わず追いかけたくなるような姿で。
●
(よく考えたらわしは既婚かつ、未亡人じゃったな)
この企画には縁起が悪いかも。
秘色はちらっと思ったが、まあいいかとすぐうっちゃった。読者にはどうせ分かるまいから。
「出来れば、イヤリングとペンダントは自前を使いたいのじゃが構わぬかえ?」
「はい、どうぞ‥‥いいアンティークですね。買われたんですか?」
「いや、贈り物でのう」
亡き夫のことを思い起こしつつ、装具を身につける。
蒼玉のペンダントと、イヤリング。
咲き乱れる菖蒲苑にかかる板橋の上。
そして、近くのるみに言う。
「ところでおぬしはオーディションを受けなんだのかや? 勿体ないのう」
対し娘は、明るく答えた。
「モデルは事務所的な問題があるので、残念ですが受けられません。それに‥‥初めてのブライダル衣装を着る時はもう決めてますから」
「‥‥ほう、すると初めてのあてがあるということじゃろうか?」
からかい気味の言葉に、彼女は少し頬を染める。
それからごまかすように咳払いをした。
「代わりに着付けやら場の演出、お手伝いします。せっかくのモデルですから、ちょっとでも見栄え良くしましょう!」
「さようかの。では、如何様なポーズが良いかのう?」
「そうですねえ‥‥この背景ですと、ブーケより花そのままを持った方が引き立ちそうです。後は背中のラインがきれいに出ますよう、見返る姿勢をとったほうがいいかも」
アドバイスを聞いた秘色は菖蒲を数本抱え、カメラに向けて目線を決める。
(写真が届いたら、仏前に供えるとしようかの)
泉下の夫も惚れ直すだろうと、自信に満ちて。
●
「はい、そうしたらそこの薔薇の茂みをバックにですね、こちらの椅子にかけて戴いて‥‥ふんわりとスカートが広がるように‥‥そうそう、すごくいいですよ」
プロカメラマンから指示を受け、幸香の手伝いをする住吉は、ブライダルドレスに釘付けだ。
「いや〜、素敵な花嫁衣裳ですね。私も一人の女性としてこの様な衣装には憧れますね〜」
彼女と同じく着ている幸香本人も、この衣装には憧れを持って臨んでいる。
真っ白でふわふわしていて、これほど女心をくすぐるものもあるまい。
ただ難を言えば。
「‥‥すてきな男性がいませんし、こんな機会でもないとウエディングドレスなんて着れませんからね‥‥」
この点を実感させられるところだろうか。
燕尾服を着て隣にいてくれる存在があればと、ついため息ついてしまう。
しかしそれも長続きしなかった。何故なら。
「ペーチャ、あなたそれどういうことよ! 私の持ち物勝手に売り飛ばしたって!」
「当然でしょ。大体あのバッグだって靴だって、全部ぼくの金勝手に使って買ったものじゃないですか」
「あんたが自分からびた一文よこさないからよ!」
「はっ。施しとしてもあげる義理なんかありませんね‥‥いった! なにすんですかこの暴力女!」
ああはなりたくないという悪いカップルの手本がすぐ近くで騒いでいたから。
自分は絶対もっと素敵な恋人と巡り合おう。
心に決め、彼女は言った。
「‥‥一足早く花嫁気分を味わわせてもらいますね」
●
(元気だな‥‥)
ペーチャたちの言い争いを横目に、庚一はボーッとしている。本物の鳩にパンくずをやりつつ。透子が撮影をしている噴水の側で。
「どう、庚一? 少しは綺麗とか言っても良いわよ?」
彼女が折角呼びかけたのに、どうも面倒臭そうな受け答え。
「‥‥あー‥‥そうだな‥‥馬子にも衣装だな‥‥」
だが完全に空気が読めないかというとそうでもなく、こう付け足した。
「‥‥あー‥‥冗談だ。‥‥綺麗だぞ」
「‥‥あっそう」
透子はそっぽを向いた。
一体この男はなんなのだ。
ウエディングイベントの依頼にわざわざ連れてきたくせに、このいつもと変わらぬぐだぐだぶり。
何を今更考えてンのかしらなんてこっちはもやもやしてるのに。
そういえば私彼のこんなところに愛想が尽きて別れたんじゃなかったかしら。
(大体ね、こう言うのは付き合ってた頃にしてくれれば)
ぶつぶつ小声で零す透子を眺めながら、庚一も庚一で考え事をしている。
(‥‥あー‥‥そういやずっと前‥‥ウェディングが如何とかも、話してた事もあったかね‥‥。‥‥ドレスは何が良いとか、式場とか、天気が良いとイイとか、旅行先とか‥‥何となく思い出したんで、何となく誘ってみたんだった)
「‥‥あー‥‥透子」
「何よ」
「‥‥一応男手だし、何かあればそれなりに手伝うわ」
「‥‥ありそうもないわね」
何故だか怒ったように言う彼女を、庚一は――やはり生煮えみたいな表情で眺める。
「絶対きみを刑務所に逆戻りさせてやりますからね!」
「ふん、その前に最後の1Cまで使ってやるわよ!」
ファニーとペーチャの尽きせぬ罵りあいを耳にしながら。
側を住吉が通り抜けて行く。
「さて、サボ‥‥臨時業務終了。ホテルのお仕事でも再開しましょうかね〜♪」
彼女はこの後ドラマのエキストラとして、花嫁衣装ではないけれど愛くるしいメイド衣装を着る運びとなる。
ちなみに写真は、後日無事全員に届いた。