タイトル:鉄人兵を倒せマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/04 23:51

●オープニング本文


 ここはある小学校。時刻は昼。
 別に何ということもなく、ごくごく普通に授業中。全員校舎内。
 保健室にては、ミーチャが茶を飲んでいた。
 本日彼は、食中毒で緊急入院した保険医代役として来ている。
 報酬は特にない。



 任務帰り、スーザン・高橋はついでとして、母校のある町に立ち寄っていた。
 彼女の服装はアーミールック。武器はお決まりのライフル。
 だがもう一色にはまとめていない。普通である。その代わり、首から幸運を呼ぶというメダルをぶら下げていた。最近、さる人からもらったものを。
 これが彼女の新しいジンクス、精神的支えである。

「あんまり変わってないんだ、この辺」

 そう一人ごちていたところ、けたたましい落下音と激突音が聞こえてきた。

「な、何?」

 スーザンは急ぎそちらに向かう。



「なんだ、おい」

 ミーチャが窓に駆け寄ると、校庭にもうもうと立ちのぼる煙の中から、ロボットが現れた。
 大きさは3メートルといったところか。
 頭は小さく手足は長く、極端にデフォルメされた人型だ。
 手足がもげ、頭部から軽く火花が出ていたりする。白煙も上がっている。
 上空から落ちてきた衝撃で、調子がおかしくなっているようだ。

 ガピー。ガピー。

 しきりに唸っている。
 意味もなくあちこち動き回り、サッカーゴールや立ち木にぶち当たり壊し、ばたんばたん転がっている。目から赤い光線を乱射しながら。

「何やってんだあいつ」

 怪訝に眺めるミーチャは、直後見ている場合でないのを知る。
 窓から入って来た光線で、カーテンに火がついたのだ。
 赤い光線、危険である。
 彼は大急ぎで、廊下の消火器を取りに走りだす。

●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
春夏冬 晶(gc3526
25歳・♂・CA
不破 炬烏介(gc4206
18歳・♂・AA
リズレット・B・九道(gc4816
16歳・♀・JG
住吉(gc6879
15歳・♀・ER
鈴木庚一(gc7077
28歳・♂・SN
香月透子(gc7078
27歳・♀・DF

●リプレイ本文

 現場に駆けつけるや、住吉(gc6879)が呻き声を上げた。
 小さい頭、長すぎる手、見事に逆三角な体型。
 あれは、あれはまさに――空のお城のロボット兵!

「さすがは不朽の名作、天●の城ラ●ュタ‥‥バグア勢力の内部にもファンが存在しておりましたか‥‥」

 スタジオジブリ恐ろしや。
 生唾を飲みながら住吉は、持参した無線機で軍用回線に割り込んだ。

「私はスミヨシ大佐だ、バグアにより通信回路が破壊された、緊急事態につき私が臨時で指揮をとる」

 不破 炬烏介(gc4206)もノスタルジーな敵メカに思うところがあるのか、こんなことを呟いている。

「ソラノコエ‥‥言う。『‥‥ソラカラ女ノ子ガ降ッテクルゾキット!』‥‥上、から‥‥来る、ぞ」

 それらを聞き流し、辰巳 空(ga4698)は現実的可能性について考察。

「三鷹は確かまだバグア支配下‥‥バグア派にスタッフがいる気がしますね」

 宵藍(gb4961)もそんな気がしている。

「‥‥バグアに版権とか関係ないか。しかしアレだな、日本のアニメのパクったキメラとかワームとか出て来る度、あいつらの研究熱心さにはある意味感心するわ」

「ええ、目の付け所が間違っているのはさて置いて」

 彼らをさておき、住吉はまだやっていた。

「‥‥ん、無理? ‥‥3分間待ってやる!」

 春夏冬 晶(gc3526)はおたおたしている。

「アレ絶対俺らだけじゃ敵わないって。何か俺用事を思い出したような」

 再放送ばかりで見飽きた面とはいえ、確か記憶によればあのロボットは、1体で1要塞を壊滅させうるほどのポテンシャルを持つはずなのだ。
 あのビームで撃たれたら、巨大な砲台だって一瞬で大破しちまうに違いない。

「いやいや逃げる訳じゃないがホント無理、もう少し傭兵を追加するようUPCに連絡つけ‥‥おい住吉、いいかげん無線代われよ」

「駄目? ‥‥ですよね〜」

 さすがにハッタリは通用しなかった模様。

「いつまで喋ってるんだお前は!」

 長電話の妹に手を焼く兄となっている晶に比べたらずっと冷静に、鈴木庚一(gc7077)は対象を観察していた。
 手足がそれぞれ一つずつ途中で千切れ、はいずり回っている格好だ。
 赤い光線を無駄に発射しつつ。

「‥‥ロボット兵ねぇ‥‥どっかで見た事有る様な無い様な‥‥しかしこう、思ったより小さいな」

 オリジナルだと大体5メートルくらいあるように感じたが。
 まあ、大きさは如何でも良いが。
 とりあえずあの光線がコンクリートや地面に当たっても、爆発はしない。ただ木やプラスチック等可燃性のものに当たると、火がつく。
 先に現場に居たスーザンはそう報告した。
 ほかの傭兵が来るまで彼女は、遠隔射撃でロボットの気を引き続けていたのである。

「ただ長時間持続して当たると、不燃性でも危ないですね。さっきあそこの時計のステンドグラスが溶け落ちまして。こんなふうに」

 香月透子(gc7078)はスーザンが示した青っぽいガラスの欠片に、つい、つい叫んでしまう。自身の内部から湧き起こる衝動を押さえられなくて。

「海へ捨ててーーッ!」

 庚一はぼんやり白けた目を、元婚約者に向けた。

「‥‥で、透子‥‥あー‥‥いや、分かる気もしないではないが‥‥大丈夫か? ‥‥主に頭が」

 ええいノリの悪い男め。
 ここは突っ込みで返すところでしょうが。
 分かる気してんならそうしなさいよ。
 女に恥をかかすんじゃないわよ。
 激しく思い透子はまなじりを吊り上げる。

「頭? ええ、大丈夫よ! むしろ何時もより冴え渡ってるカンジよ!」

「いえあの、気持ちは分かります透子さん。私もあれを見たときには、思わず竜の巣が出てないかと空を見てしまいまして」

 3人の話を盗み聞きした晶は、敵の攻撃力がさほどでも無さそうだと知り、たちまち気が大きくなった。

「おいおい。これは何かの冗談なのかよ、バグアの科学力も大した事ねぇなぁ!」

 その彼の耳へ、冷や水を浴びせる台詞が入ってきた。

「‥‥学校‥‥ですか‥‥、‥‥忌々しい‥‥ですがこれも仕事、守れと言われれば守るだけですよ‥‥」

 振り向くと覚醒済みのリズレット・ベイヤール(gc4816)が、凍りつくような笑みを浮かべている。
 スススと道をあける彼を黙殺し、リズレットはいち早く自分のポジションである校舎屋上に移動して行く。非常階段を使用して。
 屋上につくと、長い髪が風にそよぐ。
 白い手が愛しげにアンチマテリアルライフル「G−141」を撫でる。

「‥‥さて‥‥よろしくお願いしますね‥‥私の可愛い子‥‥あとは‥‥舞台が整うのを待つだけ‥‥‥‥」

 リズレットに関しては今回のバグア兵器、何の感慨も及ぼして‥‥

「全く、バグア共のアホ面には心底うんざりさせられる‥‥フ‥‥フフ‥‥見ろ‥‥人がゴミのようだ‥‥」

 ‥‥ないこともないようだ。



 校庭では炬烏介がワームロボを見つめている。

「‥‥何時も‥‥の、様に‥‥殺す、壊し、尽くす‥‥」

 ロボットは目をチカチカ光らせつつ、校庭を徘徊している。
 すでに落下激突の衝撃にて電子頭脳も損傷を受け、備え付けの防備もほとんど機能不全。
 攻撃という部分に関してのプログラムは最低限残っているが、人間の行動に対しての理解認識は損なわれている。
 もはやバグアから言われたとして、停止命令も聞かないだろう。

「のん気に見物してる奴、怪我したくなかったら窓から離れとけ!!」

 校舎の窓に向かって呼びかけた宵藍は、物騒な半壊ロボの状態を、ざっとそのように理解した。

「カーテンに寄るな、燃えるぞ!」

 言ってるそばから2階の窓に火がついた。
 生木はまだしもだが、木造建造物――体育用具室などすでに燃えている。
 ロボットが暴れる限り危なくて消火活動も出来ない。
 建物の射程距離から引きはがさなくては。
 住吉はロボットの進行方向を「ターミネーター」で押さえる。悪役笑いを響かせつつ。

「あっはっはっは、どこへ行こうというのかね〜!?」

 ロボットは攻撃してくるものについて、少しは認識をしたらしい。
 機械でも生き物でも、最後に残るのは自己保存の本能だろう。小癪な寄せ手に対して頭を向ける。
 そうしてもらうと有り難い。
 なにしろなんにもしなくても、光線が出っぱなしなのだ。
 出来る限り建造物の方は向かせたくない。
 庚一も小銃「FEA−R7」にて制圧に協力した。

「‥‥あー‥‥急ぐ事も無いだろ。ゆっくり動いて、さっさと停まれ」

 炬烏介もまた、小銃「S−01」を手に、2人と連携攻撃を行っている。

「‥‥ソラは言う。『ヒトヲ知ルナラ‥‥行動ヲ共ニセヨ』」

 ヒトを知りたい。
 彼は最近そう思うようになっている。
 それはバグアへの憎しみしかなかった心に、何らかの変化が起きようとしている兆しなのだろうか。

「ソラノコエ‥‥言う‥‥『コヤツ‥‥動クゾ‥‥! ナラバ、破壊セヨ』‥‥粉々に‥‥する」

 銃跡のへこみを体に作りながら、ロボットは向きを変える。が。

「‥‥あー‥‥そんなにぐるぐる頭回しゃ、目も回るぞ‥‥」

 庚一もつい言いたくなるほど、前後左右の認識があやしくなっている。
 酔っ払いみたいにふらふらしている。
 多分敵に向かう意志はあるんだろうが、前に進むかと思うと、あらぬ方に重心が傾き後じさり。
 期待ほどその場から離れてくれない。

「なかなかタフですね」

 校舎からの引きはがしを促進させるため、空は光線避けに「エンジェルシールド」をかざし、背後から幅広い背中へ、天剣「ラジエル」での一撃を食らわした。
 後じさりしかけていた巨体は前方に向かってつんのめる。
 同時に彼目がけ、ブンと手が振り回された。
 とっさに盾でガードし受け身をとったので、大事には至らない。
 ロボットから離れた空は、小銃「S−01」に持ち替える。
 宵藍は一気に距離を詰め、交差した「月詠」「蛍火」二刀での力押しで、相手を更に校舎から引離そうと試みる。
 彼は高らかに言った。

「このロボと言えば――パルプンテ!」

 その結果はというと――山彦になって虚しく響く。
 ロボットの体に傷が付き、また前のめりに動く。
 熱線を退いて避け、彼はうそぶいた。自慢げに。

「こう来る事は読めてるって」

 スーザンが言う。ロボの指関節を打ち抜きながら。

「宵藍さん、呪文違います!」

「え‥‥そ、そーなの!?」

 足しになるかと「天狗の団扇」で、ロボットの背後から旋風を見舞う住吉も、また声を上げる。

「そーですよ、そこはザキです!」

「それも違います住吉さん!」

 兎にも角にも、この年まで例の呪文を間違えて覚えていたことにショックを受ける宵藍。
 代わって透子が校舎を背にする形で割り入り、「クラウ・ソラス」でロボットの左足目がけ、斬。

「大人しく地に伏せなさい‥‥」

 這う体勢からロボットはぐらつき、倒れた。
 その拍子に転がってしまい仰向けになってしまう。
 目から出る光は天に向かって放出される。何の甲斐もなく。
 好機とばかり晶が駆け寄ってきた。

「こんな状態で俺らの前に現れたのには敬意を表してやるよ、だがそれだけだ。残念だが手前はもう既に命運が尽きてんだ。あの世まで吹っ飛ぶ支度は出来たか?」

 「マーシナリーシールド」の後ろから指を突き付け、返事がないので更に続けた。

「出来てねぇなら時間をくれてやる‥‥40秒で支度しなっ!!」

 その瞬間ぐるっと頭が動き、相手目がけて熱戦が発射された。
 直撃は防げたものの、ちょっと頭の上部をかすった。髪が焦げる。

「あっつ!」

 悲鳴を上げて横っ跳びに避ける彼に、銜えタバコの庚一が一言。

「あー‥‥お前‥‥今のセリフが言いたかっただけじゃないか‥‥?」

「馬鹿言うなよ、ほら今は目の前の敵に集中しようぜ!」

 晶がそう言って再度の挑戦をする前に、炬烏介が襲いかかる。ロボットの死角から。

「‥‥熱線‥‥か‥‥なら‥‥俺は爆撃‥‥だ‥‥魔炎弾‥‥!」

 炎拳「パイロープ」で、脆くなっていると思われる足、そして小さな頭目がけて連打が入る。
 打たれた箇所がかなり凹んだ。

「全身全霊で‥‥行く、ぞ‥‥<裁キ>喰らえ‥‥虐鬼王拳・連環!」

 足は関節が痛んだか、グラグラになる。
 ロボットは身を揺り起こし、長い腕を鞭のように振るい、彼を地面へ押さえ込みにかかった。
 連打のせいで角度が変になってしまった頭をひねり戻す。
 その瞬間。

 バン

 頭部の真ん中についていた発射孔が砕け散り、ともに向くはずの熱戦が消えた。
 リズレットの貫通弾が貫いたのだ。
 屋上にて彼女は、くすくすと笑う。

「‥‥ふふ‥‥‥‥これで貴方はただのスクラップ‥‥、‥‥‥‥ジャンク屋にでも引き取って貰うのですね‥‥‥‥」

 ロボットは顔の真ん中から煙を上げる。
 炬烏介は手から逃れ、今度は細い首目がけて打った。

「ソラは言う‥‥『人型デアレバ急所ハ同ジ‥‥頚椎、砕ケ』‥‥往く、ぞ‥‥」

 首は確実に曲がった。
 しかし折れはしていない。
 実に丈夫。
 見かけはメルヘンかつオンボロなのだが、そこはやはり歴とした防衛兵器。

「本気で来たら並の大型キメラよりも手こずりそうですね」

 市街地に落ちてきたのが壊れかけでよかった。
 思う空は、先程のこともあるので更なる注意を払い、敵機に接近する。
 動力となるコアがあるだろう胴体目がけ刃を振るう。
 宵藍はロボットの膝関節(分かりにくい作りだが)を更に挫く。
 晶もまた舞い戻り、ビームを浴びる危険もなくなったので、遠慮なく「サーペンティン」で殴りにかかった。
 彼と同じく足を。

「これでトドメだ!」

 直後、ロボットが倒れた。
 彼の攻撃の故、ではない。第一には。
 リズレットの銃口が火を吹いたからである。
 彼女の貫通弾が最後の一押しとなり、足の接続部を砕いたのだ。

「‥‥ガラクタ風情が‥‥目障りなんですよ‥‥、‥‥バラバラにして差し上げます‥‥」

 彼女は物騒なことを楽しげに語る。
 地上で心ならずもロボットの下敷きになった晶から、ぎゃああと悲鳴が上がったのは、あまり意に介していない様子だ。

「晶、大丈夫か!」

 宵藍が急いで引っ張り出してやったところ、彼は親指を立てよろよろ起き上がってきた。

「おお‥‥こんなことでめげる歴戦の戦士じゃねえぜ! 覚悟しろ、これからお前を原子レベルまで分解してやるぜ!」

「おい、ロボットはこっちだぜ」

 そんな一幕はさておき、透子は先程から振り回され続けている手に狙いを定め攻撃していた。
 千切れて短い方はいいとして、長い方はまだ十分脅威になり得る。
 まず銃撃を行い、それで開いた傷口に「クラウ・ソラス」を食らわせる。
 腕は落ちた。

「これで、どう?」

 得意げに彼女は言う。庚一に向かって。
 彼は即答えた。

「‥‥あー‥‥いいんじゃないか?」

 そうよ、こういうやる気ゼロな言葉しか返してこないのよこの男。
 分かっているのになんで念を押してしまうの私は。
 こんな男なのよこいつは。
 そういえばこれまでこんなことが数限りなくあってだから私は別れて。

「‥‥あー‥‥何で睨むんだ‥‥」

「さあ、なんででしょうね」

 女心への理解が乏しい男が不興を買っている間に、リズレットは頭部への射撃を加える。
 空はついに内部のコアへひびを入れた。
 ロボットは一瞬の間の後、爆発を起こす。
 爆風はさほどでもないが、眩しいばかりの光を辺り一面に発して。
 晶はそれに対し、ついうっかり目を背け損ねてしまう。

「ああああ! 目が! 目があああ!」

 咄嗟に伏せの姿勢を取っていた住吉が、地面を転がる彼の姿に、うんうん頷きながら言う。

「そうそう、最後はやっぱりこれですよね〜♪」



 帰還するついでに、校内の消火清掃作業のお手伝い。

「でさー、パルプンテじゃないの?」

 その中で宵藍はまだ腑に落ちない様子。スーザンに尋ねている。

「違いますよ、確かバルスです」

 焼けたカーテンを取り外しているミーチャは、会話にしかめ面だ。

「どうでもいいじゃねえかそんなことはよ」

「どうでもよくはないですよ、天下のジブリですよ。私、次は猫バスが見たいですねえ。後トトロ! 透子様はなにがいいです?」

 箒を手にした住吉に続き、透子、庚一、晶、リズレットが言う。

「そうねえ、そのくらいのものなら許せるかも」

「‥‥あー‥‥俺‥‥おしら様‥‥」

「王蟲のほうが格好よくねえか」

「‥‥キツネリス‥‥」

 本当にそんなもの敵が量産してきたらどうしようと気をもむ空。
 炬烏介は彼らの話を他所に、一人窓から青空を見、物思いにふける。

「‥‥あの、雲の。何処かに‥‥『城』はある、のだろうか‥‥いや‥‥バグア‥‥<穢レ>共の牙城‥‥有る。だけか‥‥ヒトは‥‥大地と共に‥‥zzZ‥‥」

 そのまま寝てしまい、ミーチャから起きろと怒られた。