タイトル:実録!ゾンビ村マスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/31 23:28

●オープニング本文



 ミーチャは机に片肘ついて、目の前の相手、映画監督であるロメオが差し出した脚本を手にした。
 表紙には大きくタイトルが書いてある。

『おぞましきゾンビ村(仮)』

 眉を寄せたものの、それでも一応ミーチャは中をめくって見た。
 なおなお頭を抱えたくなった。
 ロメオが期待を込めて尋ねてくる。

「どうだい、怖そうだろう。僕はこれでホラー映画界に新しい金字塔を打ち立てるつもりなんだ」

 この脚本のあらすじをざっと説明すると、こうだ。

 とある村にいきなり山からゾンビの大群が攻めてくる。
 村はもとより過疎気味。いるのはジジババだけ。
 しかしジジババは諦めない。
 草刈り機とコンバインで応戦。
 だが敵もどこからか田植え機を手に入れジジババ目掛けて大暴走。
 逃げ惑う村民。
 なんという恐怖!
 そこに都会から偶然訪れたヒッチハイカーが参戦し、ゾンビ軍団と血で血を洗う死闘を。

「真面目にやれよ真面目に。お前いっつもこんなんばっかじゃねえか」

「何を言うんだい。真面目にしてるよ」

「この間は『暗黒猿人の狂宴』、その前は『5トン芋虫あらわる』、『廊下のドン詰まりからモンスター。その名はママ』、『キラー便座』。後何があったか忘れたがな、タイトル聞いただけで誰も怖がらねえってんだよ」

「そんなことはないよ。僕の映画を見てお客さんはいつもそこそこ喜んでくれるんだよ」

「‥‥ホラーとして面白がってんじゃないのは明白だな‥‥結局なんなんだ用事は」

「ああ、そこなんだけど。ヒッチハイカー役の人をだね、募集してるんだ。身体能力が優れててホラーを愛している人がいいね。いつもながら低予算だから、本職の役者さんなかなか掴まらなくてねえ。適当な人いたら、声かけておいてくれないかなあ」



「おーありがとうありがとう、来てくれたんだ」

 ミーチャから話を聞きつけ物好きにも集まってきたメンバーは、撮影現場を見回した。
 変哲もないのどかな村。お年寄りたちが総勢15人集まっている。
 ご近所の方々で、素人さんばかり。皆様好奇心からの参加だそうだ。
 撮影器具も少なく古く、いかにもチープというか、B級な感じである。
 脚本自体B級臭ふんぷんとしているから丁度いいのかもしれないが。

「ゾンビ役の人は後で来るからね。その間に脚本読んでおいて」

 皆がひとまず言われたとおり脚本を読んでいた時である、おばあちゃんの一人が近くのスイカ畑に入っていった。

「あんたたち。勝手にスイカ食うでねえ」

 おばあちゃんが手にした箒でぺしぺし叩いたのは、話に聞いたゾンビ役の人間。
 今来たらしい。
 総勢で30人ほどか。
 全員とてもリアルに腐ったまま、断りもなくスイカ畑のスイカを齧っている。

「こら止めなさいキミたち。いやすいませんね、おばあちゃん」

 監督も見かね、急ぎ注意に向かう。
 ゾンビ役が一斉に立ち上がってうめいてきた。

「うああああああ」

「おわあああああ」

 あのゾンビ特有の緩慢な動きで、じりじり距離を詰めてくる。

「え、ちょっと、何、何かな?」

 直後、スイカ畑の隣にあったトウモロコシ畑から、続々また別のゾンビ一団――こちら10名――がトウモロコシを食いながら現われた。

「おおお」

「ううう」

「こりゃ、なにしとる!」

 トウモロコシ畑の持ち主であるおじいちゃんが、怒って怒鳴りつける。すると。

 がぶり。

 噛まれた。

 どうやらこのゾンビ、作り物ながら本物である。

●参加者一覧

鐘依 飛鳥(gb5018
26歳・♂・FT
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC
ダンテ・トスターナ(gc4409
18歳・♂・GP
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
ユキメ・フローズン(gc6915
19歳・♀・FC
リコリス・ベイヤール(gc7049
13歳・♀・GP
鈴木庚一(gc7077
28歳・♂・SN
香月透子(gc7078
27歳・♀・DF

●リプレイ本文

 なにもないど田舎にて。

「‥‥あー‥‥田舎でのんびりも良いだろ?」

 香月透子(gc7078)は御機嫌斜めだ。鈴木庚一(gc7077)に対して。

「避暑って聞いたけど? だから私着いてきてあげたんだけど?」

「今回はゾンビ付きだ。好きだろ、お前、こういうの‥‥」

「ゾ、ゾンビ‥‥?」 

 どこまで天然でどこまで計算なのか、判別つけづらいのが庚一という男。

「ははは、庚一ったらゾンビとかそんなまた冗談を‥‥ゾンビとかヤだ‥‥って前から言ってるじゃないのよッッ!!」

「‥‥あ‥‥? ‥‥そう、違うのか‥‥まあ、なんと無くそういう記憶もあった気がする‥か‥?」

 苛々しつつ「ゾンビ」の単語で不安になる透子は、台本を読んでいない。庚一から話を聞いて同行しただけというポジションにいるので。

「あー‥‥まあ、折角誘ったんだ、楽しんで貰いたいもんだね」

 その時、スイカ畑から悲鳴が。
 振り向いた透子も悲鳴を上げ、思わず彼にすがりつく。

「あああああああ!!!!! で、出たーーッ! 庚一、で、出たのーッ!」

 そこに総勢40名ほどのゾンビがわらわら。
 リュティア・アマリリス(gc0778)はリアルさに感嘆を漏らす。

「ゾンビ映画の撮影と伺ってはいましたが、ここまで本格的だとは思いませんでした‥‥」

「ヘイ! シティまで乗せてってくれッス‥‥あれ? 戦闘シーンの撮影の方が先なんスか?」

 ヒッチハイクの演技をしていたダンテ・トスターナ(gc4409)は急遽それを取りやめ――不審を覚えた。
 あのゾンビ、本気で噛んでるような。
 監督が必死になって叫んでいる。

「た、助けてえ! 違う違う、これ役者じゃないのよ! 本物だから助けてえ!」

 うそ、いるんだ本物。
 隅の方で役作りをしていたリコリス・ベイヤール(gc7049)も驚愕。
 これぞ、ヒッチハイクして到着した村がゾンビだらけだったでござる状態。
 即刻昔見た映画で学んだ、『ゾンビから生き残る為の32のルール』を記憶から呼び覚ます。

「大丈夫、私は出来る美少女‥‥絶対に生き延びてみせるっ!」

 かくして自分が『ルール26、肌の露出は最小限に』に反しているのをすぐ発見、即刻メイド服に着替えを。
 鐘依 飛鳥(gb5018)も大急ぎで「クルメタルP−56」を用意する。

「俺は銃で行こう。弾節約の為にナイフで挑んで大変な目にあったからな、昨日」

 彼が参考にするのは、昨日挑み惨敗したホラーゲームだ。

「奴らは恐ろしい‥‥何せ攻撃されても怯まず接近してくるのだ! しかも死んだ振りをするっ! 油断して倒れた奴に近づけば足首をガブリだ!」

 盛り上がる飛鳥と違いトゥリム(gc6022)は、簡単に呟いただけだった。

「ゾンビ‥‥ねぇ」

 覚醒して灰色となった自分の姿と、敵の姿とを見比べて。

(色だけは少し似ていなくもない‥‥)

 それはとにかく人命救助。ライオットシールドを構え、ゾンビの群れに向かって行く。
 動きが遅いので、間を擦り抜けるのは困難でない。
 まず老人の頭に噛み付いている奴の額目がけて、至近距離から銃撃。
 死体のはずだが死体でない証拠に、真っ赤な血を飛び散らせて倒れる。

「ひゃあああ、なんまいだぶなんまいだぶ」

 腰を抜かして念仏を唱えるご老体をかつぎ上げ、監督の足を掴み引きずり、現場から退避させる。
 ユキメ・フローズン(gc6915)はそれにとりすがってこようとするゾンビたちを遮り、「舞姫」の切っ先を向けた。

「まさか、ゾンビと戦う日が来るなんてね‥‥さあ、咲かせましょう‥‥戦場に咲き誇る赤い華を!」

 一息に距離を縮め、ゾンビ一体目がけ刃を突き刺す。

「円舞・雀蜂」

 そのまま、他数体のゾンビを巻き添えとし、地面に叩きつける。

「円舞・暴れ牛」

 ゾンビは衝撃で体のあちこちがひん曲がり、つぶれた。

「もう終わりかしら?」

 しかし死にはしない。蠢き、損傷を受けたままに立ち上がってくる。
 のろのろしながら絶対動きを止めない。
 悪い夢のような光景を間近に、ユキメは落ち着き払っている。先ほどの攻撃による返り血を、頭から浴びて。

「まだまだ、終わりじゃないわよ?」

 言うが早いか長刀を振るい、ゾンビを宙に跳ね上げた。
 次いで己も跳び、ゾンビの体を地面目がけて叩きつけ――顔目がけ、刃とともに落下する。

「円舞・天空閃」

 足元から赤い噴水と脳漿が飛び散った。

「おやすみ‥‥永遠に‥‥」

 血ぬられた少女の微笑みは凄絶で、ゾンビより鬼気迫るものだった。



「じいちゃん、ばあちゃん! 早く避難してっス! どうりゃあああ!」

 ダンテは威勢よくバットを振り回し、ゾンビを殴って回っていた。
 これで倒せたら様になるのであるがと期待したものの、ゾンビは一応キメラなので映画のゾンビよりは手堅く、バット程度では倒れなかった。
 頭が凹もうが皮が破れてぐしゃぐしゃになろうが、ううああ言いつつ寄ってくる。
 彼と背中合わせになるリュティアは、「ホーリーナックル」を使い、順調に敵の数を減らしていた。
 接近してきた相手から先制攻撃をかけ、ひるんだところで頭蓋を粉砕。
 砕かれたものが転がるさまは容赦なくスプラッタ。
 お年寄りたちは一カ所に固まり、数珠を繰って一生懸命拝んでいる。

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏‥‥」

「観自在菩薩観自在菩薩‥‥あなおそろしや、祟りじゃ、祟りじゃ」

 ゾンビにお経って効くのかな。
 疑念を抱いたその時、バットがとうとう折れた。
 ダンテは慌てない。ひゅうっと口笛を吹き、手元に残っていた分を格好よく投げ捨てる。

「さーて、お遊びはここまでッス。本気でいくッスよ!」

 手の「ストライプBS」、足の「砂錐の爪」。
 それらを駆使して、本格戦闘へと持ち込む。



 「クラウ・ソラス」を振り回し、ゾンビを所きらわず出血させている透子が、悲鳴を上げている。
 これは所詮腐った死体のふりしたキメラ。そう単なるキメラ。妖怪とか化け物とかではなく動物。
 自分を納得させようと努力していても、いざ近づいてくる相手を見ると、理性が吹き飛んでしまう。

「いやぁぁぁぁぁ! 死んでるのか生きてるのかハッキリしなさいよーぅ!」

「あー‥‥ハッキリしないから‥‥ゾンビなんじゃあなかろうか‥‥そして逃げるから殺せてないぞ‥‥透子‥‥」

「そんなら庚一が止めさしなさいよ! きゃああ!」

 背後にいた奴が髪の毛を掴んできたので、透子はまた悲鳴を上げる。
 庚一の「アルファル」がそのゾンビの脳を貫通し、沈黙させた。

「後方も注意しろよ」

 彼女としては何でこんな思いしなきゃいけないのという意識で一杯。
 避暑とか言ったのどこの誰。
 後で覚えていなさいよと庚一を睨むと、何故か彼の近くにいた飛鳥が、いい笑顔でサムズアップを送ってきた。
 謎な人だ。
 彼女はつくづく実感する。
 変人には変人の友が寄ってくるものらしいと。
 庚一当人も飛鳥を「変な奴」認識していることはつゆ知らず。

「あー‥‥いいから。サムズアップとか謎の笑顔とかいいから‥‥」

「そう言うな静かなるナイスガイ。ツンツンデレデレな交流が微笑ましかったからエールを送ってみたまでのことだ。静かなるナイスガイ‥‥お前は主人公に似ているな。前髪の辺りがなんとなく」

 言いつつ両手で銃を構え、撃ちまくっている。
 端にいるゾンビから、頭部を狙って。

「こう数が多いとハンドガンは辛いな‥‥弱点は頭部! クリティカル狙いだ!」

 どうやらこの男、頭がゲーム一色になってしまっているらしい。
 ゾンビは額を打ち抜かれ、次々倒れる。

「ふ、口ほどにもない」

 そのように言った途端、弾の入り方が浅かったのか、角度がずれたのか、倒れたゾンビがぶわあと起き上がってきた。

 おわあああああああ

 洞穴のごとき目と口をかっぴらいて、足早に歩み寄ってくる。

「おうっほう!?」

 驚きについ乱射。
 起きてきた奴は滅したが、弾を使い果たしてしまう。
 後方に逃げる。

「しまった‥‥! リロードは致命的な隙になるっ! メニュー画面でリロードが基本だというのに!」

「バカ言ってないで早く詰め替えてください」

 トゥリムが脇から援護射撃してくれる隙に再度装填、敵に向かう。



 リコリスは、『ルール5、ゾンビを発見したらまず逃げろ』を活用し、勢いつけてモロコシ畑に飛び込んだ。

「ふふふ‥‥これなら見えにくくなるですよ!」

 ところがその正面へ、隠れていたゾンビが顔を出してきた。

 ほわああああああ

 『ルール6、フライパンでぶっ叩け』を電光石火脳裏に閃かせ――持参の中華鍋で殴りつける。

 カーン。

 いい音がして、ゾンビは倒れた。
 後は漫画肉が血まみれになるまで打つべし打つべし打つべし。
 敵が完全に動かなくなったのを確認し、満足げに汗を拭うリコリス。
 直後『ルール11、静かに行動すべし』に違反したことに気づく。

「ま、まずい! このままでは死亡フラグが立っちゃうYO!」

 予想を裏切らず、別のゾンビが来てくれる。

「こ、こんなときは‥‥『ルール18、準備体操を怠るな』! いち、に、さん、し〜♪ ‥‥て、こんなことしてる場合じゃない!」

 我に立ち返った彼女は、漫画肉を振りかざし顔面に連打を食わせる。
 衝撃で目玉が飛び出した。
 ゾンビは目玉を拾い詰め直した。
 鼻の穴に。

「違うでしょっ!」

 強すぎる突っ込みは、頭蓋を叩き割る。



 リュティアとダンテは、モロコシ畑の付近で戦っていた。
 ご老人と撮影関係者は、トゥリムが率先してガードしている。近づこうとする相手を盾で殴り、押し戻し、武器も己も赤く染めて。
 庚一は援護射撃に余念が無い。
 透子は叫びながらゾンビを切り倒している。
 が、同じく刀剣で戦いつつ確実に滅していっているユキメと違い、止めをさしきれてない模様。倒れたものがまた起き上がっている。
 早くここを片付けて向こうの応援に回ろうと、気をとられるリュティア。
 途端、背後のモロコシ畑からゾンビが飛び出て食いついてきた。彼女の肩に。
 反射的に裏拳を食わせ、引きはがす。
 そちらに意識を取られたところ、今度は足元で踏んだゾンビが、死に切っていなかったのか、がっと足を掴んできた。
 キメラと分かっていても唐突に来られるとドッキリ効果抜群だ。

「きゃああ!」

 思わず出る悲鳴。
 ダンテは彼女の足元のゾンビを蹴り飛ばす。

「リュティアさん、大丈夫っスか!」

 言ったところ、モロコシ畑から3匹ゾンビが飛びかかってきた。

「ダンテ様!」

 駆け寄ろうとしたリュティアを、ダンテは制する。

「俺に構わず戦え!」

 明らかに映画を意識しているもよう。
 まあこう言えるのも、ゾンビの攻撃の破壊力が一般人並で、たいしたことないからなのだが。

「いたたたた噛むな! これ結構地味に痛いス!」

 助力を拒んだ手前、1人で解決しないと格好悪い。
 3匹相手に奮闘する所、救援者が飛び出してきた。
 リコリスである。

「ひゃっは〜! 『ルール20、人を見たらゾンビと思え』!」

「え? お、おい待つっス! 俺はゾンビじゃな」

 彼女はゾンビを容赦なく攻撃したが、ダンテも容赦なく攻撃してきた。
 途中で気づいてはくれたけど。



 遠隔攻撃をこなしている庚一は、ゾンビの習性について一考察していた。

(弱点は頭部で、好物が脳、と)

 なら仲間の脳も食ったりするのか。
 実験したくてしょうがなく、透子に助力を求めてみる。

「‥‥あー‥‥透子、うまく脳が出る様頭切ってみてくれ」

 脳? 
 いきなり何言い出すのこの人。おかしくなったんじゃないの。
 思いはしたが透子は、精神的に疲労していたこともあり、判断力がかなり鈍っていた。
 剣を構え本気で狙いを定めてくる。

「庚一‥‥今まで‥‥有難う。愛してたわ‥‥」

 まずいと思ったか、庚一は即訂正を加えた。

「‥‥いや、俺んじゃなくて、ゾンビの‥‥」

「‥‥ああ、ゾンビの、ね‥‥てゆうか私にそれをさせる意味って何? ねえ、何なの庚一?」

「‥‥怒るなよ‥‥まあこう、実験‥‥援護してやるからさ‥‥」

 不承不承透子は、手頃なゾンビの頭頂部を削ぎ落とした。正面からはいやだったので、後ろから。
 そがれた下から、灰色っぽい脳が露出する。
 その後何が起きたかというと――
 ――斬られた当のゾンビが自分の脳を摘まみ食い始めた。

「‥‥予想以上の展開だな‥‥」

「‥‥シュール‥‥」

「これも共食いかしら」

「おい、いいのかゾンビ。そんなことで」

 庚一、トゥリム、ユキメ、飛鳥はそこそこ平気そうだったが、もとよりホラーに耐性の低い透子はこの不条理に我慢ならず、ゾンビをぶった切り、叫び倒す。

「だからこういうのヤだって言ってるじゃないのよ!」

 声は周辺の山々にこだまとなって響き渡った‥‥。



 村境にて。
 ご老人たちが若人らを見送りに来てくれている。

「安心するにはまだ早い。ここは墓場ではないが‥‥奴らは地中からモリモリ出て来る時もあるのだ! なのでどうか今後も警戒を怠らずに」

「やめなよ飛鳥ちゃん。そうやって脅かすの。気にしなくていいんだよおばあちゃん、悪い奴らはやっつけたからね。スイカとモロコシ、たくさんありがとう」

 リコリスの言葉に、おばあちゃんは笑って手を振る。

「いいんじゃよ。わしらも楽しかったでな。道中気をつけなされ」

「そのことなら心配無用ス!」

 噛み跡だらけのダンテは、朗らかに親指を立てた。
 透子は真っ赤になった洋服を見て、不服そう。

「もう! お洋服、新調してきたのにっ! 化け物のせいよ!」

 隣の庚一、心なしか、にやりと笑む。

「‥‥あー‥‥透子、返り血でお前の方が化けモンみた‥‥」

「‥‥ん? 庚一、何か言った?」

「いや、なんでもない」

 手鏡を見るユキメが、眉をひそめる。

「シャワー浴びたいわね‥‥」

 それは、女子全員の気持ち。
 リュティアがよい情報を出してきた。

「それならこの先行ったところに、温泉つきの宿があるそうですよ」

 袋一杯のモロコシを眺めるトゥリム。

「‥‥本当? なら‥‥このモロコシ焼いてもらおうかな‥‥」

「おお、それがそれがええ。あんたさんはなにやら顔色がえろう悪くなっとったで、たんと食わんとな」

 おじいさんの言葉に彼女は、少しうれしそうな顔をした。

「さ、早く行こうみんな」

 リコリスが先頭切って街道を歩きだす。見送りの人に手を振りながら。

「皆さんどうぞお達者でー」

 山からわき立つ入道雲。
 キメラを倒し万々歳。
 かくして悪を制し、晴れやかな心の傭兵ヒッチハイカーご一行は、村人たちに見送られ、次の目的地へと世直し旅を続けるのであった。



 映写機を止めたロメオ監督は、ミーチャに聞いた。

「こんな感じにまとまったんだけど、どうかな?」

 彼はいぶかしげに言う。

「最後水戸黄門になってねえか‥‥?」