●リプレイ本文
● M SIDE 1
左の道を選んだ番場論子(
gb4628)は、「医者」の看板を見た瞬間から微妙に悪い予感を覚えていたが、ホッケーマスクの姿を見た時点でさらにそれが倍増した。
同行している立花 零次(
gc6227)は、「あれ? 今日は金曜日でしたっけ?」など言っているが、彼女はそこまで駘蕩としていられない。
「心臓と肺臓と肝臓と腎臓と脾臓‥‥いくら鈍い私でもそんなに臓器を取られると困りますねぇ」
いやいや立花さんこれ困りますレベルの話じゃありません。確実に死にます。
心で突っ込みを入れつつ、彼らの会話が続く間に、退路を目で確認。
「安心しろ。六腑は手をつけない。つまり大腸と小腸と肝と胃と三焦と膀胱はそのままだ。手足は損傷ないし、それに脳も残るぞ」
「んー。それだけでもなんだか心もとないですねぇ。代わりにキメラ捕まえてきますから、それでいかがです?」
「キメラでは役に立たんのだ、これが。人間でないとな」
ホッケーマスクがなお寄ってくる。
「そんなものでしょうかねえ‥‥おやおや、この方頭から血が出てますよ。大丈夫ですか?」
「心配いらん。単なる返り血だ。とにかく物を渡してもらおう。新鮮なうちに」
至るところへの指摘は時間の無駄になりそうなのでせず、論子は用意した問答を繰り出した。
「それら『だけ』を要求するのは確かですか? もしそうならば血の一滴も垂らさずに出来るのであれば構いませんよ」
さりげなく一歩退き、零次を前に押し出しつ。
ミーチャは鼻の穴から息を吹き出し、壁の一隅を指さす。
「分かった。じゃあお前あそこ座れ。前以て全部抜いてやるから」
そこには大きな点滴容器ぽいものを付属させた、鉄製の椅子。
固定用のベルトが手足の部分についており、座ったら最後だという空気を発散させている。
「‥‥そう来ましたか」
「そう来ましたかじゃねえよ。お前が言い出したんだろ」
医者は不機嫌そうに腕組みし、助手に向かって何か言いかけた。
その隙に論子が身を翻し、後も見ずに走りだす。
一応呼びかけだけはして。
「逃げますよ立花さん!」
鷹揚に構えていた零次も、ミーチャが怒鳴り。
「おい助手、原料逃がすな!」
ホッケー男が凶器で殴りかかって来たからには、いつまでもそうしていられない。
「あれ? なんだか殺気が‥‥?」
初手の一撃は避けたものの、近くの窓ガラスが粉砕された拍子に、鋭い破片が散ってきた。
「ばかやろ、物を壊すなと言っただろ! 何でお前はそう大ざっぱなんだ!」
ミーチャの怒声に背を向け、彼も走りだす。
「‥‥よし、逃げましょう。三十六計なんとやらと言いますからね」
血の滲む右手首を押さえて。
● P SIDE 1
ヨグ=ニグラス(
gb1949)は走りだした。ケイ・リヒャルト(
ga0598)から叱咤されて。
「ヨグ! 森を出れば大好きなプリンが待ってるわよ! だから今は走って!」
セシリア・D・篠畑(
ga0475)も共に、森の中へ駆け込む。
銃弾がチィンと耳元を掠める音に、少年は、思わず首をすくめた。
「ちょ、ちょっとは逃げる時間をっ!?」
キャンプに両姉たちと来ただけなのに、なんで殺人鬼に遭遇しなければならないのか。
不条理極まりない。こっちは武器など一切ないのに。
なにか持っているものの中で使えそうな物はないのか。
必死に考えているところ、頭上の小枝が吹き飛ぶ。
背後からは口笛。軽快に地面を踏む足音。
親しげな呼びかけ。
「どこに行かれます? 坊ちゃん、お嬢さん。そっちに行くと危ないですよお」
危ないのは貴様だ。
全力で返したいところ堪え、とにかく逃げる。
セシリアは走りつつ冷静に、何が役立つかを算段している。
ともあれ、あの猟犬ども。
奴らを一旦巻かなければ、本格的な迎撃準備さえ出来ない。
見たところペーチャは犬を先に行かせ、自分は後から無理をせず追跡してきている。遊びのように銃をぶっ放ちながら。
実際彼にしてみれば遊びの延長であるのだろう。
追われる側にしてみればたまったもんじゃない。
「鬼ごっこにもルールってものが!」
息を弾ませヨグは、やっとこさポケットから何か引っ張り出せた。
あめ玉だ。
足しになりそうもないと思いつつあさってに放り投げる。
犬は一瞬だけ注意を引かれたが、それだけで、また追跡してきた。
「はは、駄目ですよー、猟犬は拾い食いなんてしませんからねー」
と、ペーチャの足取りが急に止まった。
急に脇道へ入る。
「‥‥おや、そこにおられるのは先程キャンプにいた方の残りで? あらら、惜しかったですね。こっちにさえ逃げてなければねえ!」
続けて銃撃音。悲鳴。哄笑。
反吐が出そうだが、その時間は無駄でなかった。
リュックから虫よけスプレーとライター、簡易コンロのカセットボンベを取り出せたのだ。
「‥‥セシリア、あのイカレポンチに目にモノ見せてやりましょう?」
「‥‥ええ‥‥」
2人息を合わせ木陰から飛び出す。
犬が迫ってくる。
ケイは虫よけスプレーを吹き出し、ライターで火をつけた。
「ふふ‥‥どう? 火は怖いんでしょう!」
セシリアがそれと同時にペーチャの銃口に向け、カセットボンベを投げ付けた。
火炎と激しい爆発音が上がる。耳をつんざくような。
● L SIDE 1
レオポール一家による歓迎の意味を、リル・オルキヌス(
gc6894)、ユウ・ターナー(
gc2715)、そしてクリスティン・ノール(
gc6632)はあまさず察知した。
もしかしなくてもお料理されるのは自分たちだと。
家族揃ってキラキラした目でこっちを見ている。
はっ。
気づけば父のみならず子供たちの口からも盛大なよだれが。
高まる緊張感に生唾を飲み込むリルは、早速後退し始めた。
「そそ、そろそろ皆さん、キャンプ場に着いている頃かも知れないので、行かないとです。ごめんなさい、失礼します‥‥」
行く手に包丁を持った奥さんが回り込む。
「いいえ、そんなこと言わずここにいてくださいな」
後ろからはレオポール。
「うん、いついつまでもオレたちのお腹の中にいて」
とうとう言いおったこの犬人間。
「ゎ、私、美味しくないです! 昨日、全然寝てないですし」
「あら、とても元気そうですよ」
「最近不摂生ですし、運動もしてないですし」
「脂肪が多い方がうまいぜ」
「ぁ、ぁ、あせっ、汗かいて汚いですし、包帯巻いてるし」
「そんなの心配しなくても、洗えば大丈夫」
駄目だこの人達。
思い知らされたリル、言葉に詰まる。
が、クリスティンたちは俄然騒ぎだした。
「ひどいですの! 悪い人ですの! その包丁でクリス達を料理にするなんて無いですの!!」
「そうよ、そんなこと許さないんだから!」
口も早いが行動はもっと早い。
お皿叩いてご飯の催促をしていた子供たちのうち、一番小さい赤ちゃんわんこと幼児わんこをかっさらい、喉元にフォークを突き付け、人質ならぬ犬質にする。
「ああっ、なにすんだ卑怯者!」
「坊やたちをかえして!」
口々に非難されるも、クリスティンたちは動じない。
「ふ、卑怯上等ですの。このコ達を無事に帰して欲しかったらその扉の前から退いてなの」
子供がキュンキュン泣き始める。
自分たちが悪者みたいな感じがしなくもないが拘っている場合でなし。
レオポールと奥さんがひるんだ隙をつき、リルがリュックを振り回し戸口へ突進、三人一斉に人食い屋敷の外へ出た。
道をある程度行ったところで、「ごめんね」とわん子たちを離す。
どちらもよちよちしながら、急いで来た方角に戻って行った。
後はそう、親が全力で追ってくる前に出来るだけ遠くへ走るばかり。
● M SIDE 2
論子は目の前の光景を見て顔を歪めた。
木々を刈り取って出来た丸い空き地。
「森の医者」との看板。
小柄で太っちょな医者。
ホッケーマスクの立てる倒木音を避けながら帰路に向かっているつもりだったが、まんまと誘導されてしまったようだ。
抜けたらこの通り、元の場所。
背後にはもう、そのホッケーマスクが追いついてきている。
ここから更に走って振り切る体力は、ありそうにない。
「覚悟しなければなりませんね」
「最初からそうしろ」
しかし彼女は諦めた訳ではない。
仏頂面のミーチャがうんと側まで近づいてくるのを待って、背後に素早く回り込み、羽交い締めにした。
「あっ、てめ、まだやんのか」
「やりますとも。さあ、あの助手に離れるように」
言いかけたところで膝から崩れ落ち、地面に倒れる。
「どうも不思議なんだが」
ミーチャは彼女を見下ろして言う。黒く塗った鋭い針を手に構えて。
「何でお前らはおれに戦闘力がないと思ってるんだ?」
痛みをほとんど感じないまま、彼女の意識は急速に暗くなっていく。
「まあいいんだけどよ、別に」
『1 DEAD』
●P SIDE 2
「やれやれ。のんびりとキャンプをするはずが‥‥」
手首を布で縛り上げながら、零次は木にもたれ掛かる。
血痕をあちこち振り撒き、逃走経路を撹乱してはおいたのだが、はたして追っ手をうまくまけただろうか。
「ふう、これで引っ掛かってくれれば‥‥しかし聊か血を流し過ぎですか」
そのせいなのか、本当に日が暮れてきているからなのか、あたりが薄暗く見えてきた。
先に行った論子さんはどうしているか。
案じていたところ明かりを見る。
歯を食いしばって、可能な限りの速度でそちらに向かう。
ペーチャをいったん遠ざけた間にヨグたちは、テントのポール、ハンマー、BBQ用の串、十得ナイフ、目潰し用に砕いた炭等選定したキャンプ用具だけを携え、後は捨てていた。
先の爆発で殺人鬼も、それなりにダメージを受けたと思うが、倒した姿は見てない。
であるからには、油断は絶対出来ない。
「えと、追いかけてくるでしょうか、セシリア姉さま」
「‥‥多分‥‥ああいうタイプは高確立で粘着するから‥‥」
「やだなあもう‥‥足元危ないので明かりありませんですっ?」
「あ、ライトがあるわよヨグ」
暗くなってきた木立の中を照らし進む一同は、またぞろ犬の吠え声を聞いた。
回復し向かってきているようだ。
今度こそ迎撃するしかない。
ダミーの目標となるよう離れた木陰にライトを据え、木に登る。
上り始めた月あかりで地面に影を落とさぬよう、細心の注意を。
ほどなくして犬が姿を現した。
木の根方を嗅いで唸り、潜んでいるほうに向かってくる。
ペーチャは姿を現さない。
まだ遠くにいるのか。
予定は変わるが、とにかく犬だけでも潰しておいたほうがいいのは間違いない。
ヨグは木の上からテントの布を落とした。
瞬間、焼くような白光が照らされてきた。
犬が来たのと逆方向から。
「残念! 発想はいいんですけどね、ぼくはすんなり隠れてそうなところに近づきなんかしませんから!」
トリガーが引かれる刹那、茂みから人が飛び出てきた。
「‥‥っ! 危ない!!」
零次だ。
彼が体でぶつかったせいで、弾の軌道がずれた。
ヨグたちは樹上から落ちるごとく飛び降り、致命傷を負わずに済む。
狙いを外されたペーチャは腹を立て、零次に向け乱射を浴びせた。
至近距離からは避けようもない。
『1 DEAD』
けれども彼の犠牲は無駄ではない。
その間確実にペーチャの気がそれ、反撃の機会を得ることが出来たからだ。
セシリアは自身が傷を受けながらも、怒りに燃えていた。
何故なら彼女の大事なケイもまた傷を負ったからだ。
炭を砕いたものを握り締め、殴りつける勢いで男の顔に叩きつける。
「うあっ!」
たまらず目を押さえるペーチャの手から散弾銃をもぎ取り、そして。
「ぎゃああ!」
腕から、足から、肩から撃ち始める。急所をわざと外して。
出来るだけ長く苦しみを与えてやろうと。
「待‥‥ちょ‥‥待‥‥」
「‥‥痛いですか‥‥? ‥‥そうですか。それならもっと痛くして差し上げますから」
「おぐあ!」
「駄目ですよ簡単に死んだら。最低限、これまで人に向けて撃った回数と同じには受けませんと」
ヨグはこういうシーンがあまり得意ではないので顔を背け、ケイと協力し、もがいている犬が出てこられないようテントの布をなお被せ、隅をBBQの串で打っておいた。
そのうちペーチャの声がしなくなった。
見るとセシリアが、死体を踏み躙っている。
「‥‥屑‥‥」
とにかく殺人鬼は確実に死んだ。
安堵しかけたのもつかの間、宵闇の奥から誰かが歩いてくる。
白いホッケーマスクをつけた大男と、シルクハットの小男。
怪しいことおびただしい。
彼らは大急ぎで場から離れ、川に向かって逃げる。
幸いそいつらは追いかけては来なかった。
こんな訳の分からない場所からは早く脱したい。
その思い一つで彼らは浅瀬を行き、出口に向かって全速前進。
「あっ、明かりが見えてきました」
「‥‥それなら近いですね‥‥」
「早く警察に連絡して遺体を回収しないと‥‥いえ、それともこの場合ULTかしら?」
朝日が昇ってきたか、光が行く手でどんどん強くなる。
『3 ALIVE』
● L SIDE 2
「待ちなさーい、うちのばんごはーん」
「戻ってこーい、うちのばんごはーん」
やっぱりと言うべきか、敵は追いかけてきた。
ただし夫婦だけで子供はいない。
どうやらさっきのことに用心して置いてきているらしい。
「いやですうううう!」
半泣きになりながらリルは首を振る。
だがクリスティンとユウは意気揚々、戦闘態勢に入った。
テントの長いポールを構え、二人でポーズを決める。
どこからか流れてきた魔法少女モノのBGMに乗せて。
「悪いヤツは許さないのだーーっ!!」
「ユウねーさまとクリスが、マリアさまに代わってお仕置きですのっ!!」
「ふ、2人とも、逃げましょうよお」
年上の彼女がそう言っても、女の子たちはへいちゃらだ。
「大丈夫、リルおねーちゃん。正義の神様はきっとユウ達に味方してくれるハズ!」
「その通りですの。ユウねーさま、いきますですのっ!」
とかやっている間に追いつかれてしまった。
「む、ごはんが抵抗する気だぞメリー。よし、ここはオレが」
「まあ、頼もしいわレオポール」
斧を手にえいやと切りかかるレオポールの胴目がけ、クリスたちは力を合わせ思い切り突いた。
犬、ちょっとおえっとなって怯む。
機を逃さず今度は足を狙い、重心を崩したところですかさず手を。
落ちた斧をクリスが、相手より早く取り上げた。
フォローはむろん、ユウがする。
「あ、オレの斧返せ!」
うなり声を上げて牙を剥き、レオポールが襲いかかってきた。
振り下ろされてきたポールを噛んで、がじがじ齧りへし曲げる。
その形相、わんこどころか狼だ。
お嫁さんも彼が不利と見たか。参戦してきた。
「大人しくしてちょうだい、うちの子がお腹をすかせているんだから」
それを聞き、クリスはにっこり。
「‥‥レオポールさまたちは悪い人ですの。クリス達をお料理にしようとしてたですの」
にっこりと斧を持ち上げる。
「だから悪い事が出来ない様、お利口さんになる様、マリアさまに代わって、善い子になる様にするですの。その包丁も没収ですの!」
言うなり奥さんの懐に入り込み、下から上に切り上げる。
相手が刃で受けたところ、ユウがポールで手首を打ち、取り落とさせる。
そちらの武器はもちろん、彼女の取り分だ。
「‥‥わんこさん達がユウ達にしたかったことをしてあげる。ここで叫んだって誰も助けてなんてくれないよ‥‥」
ユウもまたにっこり、武器を翳す。
「さぁ‥‥どこのお肉が美味しいのかな?」
武器をとられたので幾分たじたじとなる夫婦。
けれど逃げはしない。
「う‥‥負けねえぞ、今日は一家で焼き肉食うんだ!」
「そうよ、頑張りましょうレオポール!」
いじましい決意表明だが、食べられる側にしてみれば冗談言うなの一言に尽きる。
クリスティンとユウは、行動でその意志を表明した。
ポールでの殴打と刃物での切り付けを繰り返し、場はたちまち血の海。
「真っ赤でとっても綺麗ですの♪」
「さて、じゃあクリスちゃん、手を繋いで帰ろっか」
「はい、ユウねーさま。今日は善い事をしたですの。きっとマリアさまにも褒められるですの」
死んだのか地に伏し動かなくなった相手を前にハイタッチをし、手を取り合う女の子たち。
人食い夫婦も怖いがこの2人も‥‥どうなのかな。
思わなくもないがとにかく森から抜けたい一心で、リルは彼女らとともに先を急ごうとした。
その時。
「無茶苦茶すんなお前ら」
振り向けばいつの間にか、仮面の大おじさんとシルクハットの小おじさんが。
小おじさんはリヤカーを引いているが、荷台に乗っているのは血だらけの死体。
見るからに怪しい。
訝しむところ大おじさんがいきなりチェーンソーを出してきて、
ヴワンワンワンウオンオンオンオオオオオン!
「ぃやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
恐怖の限界点に達したリルは前後の見境なく走りだした。
「あっ、どこ行くのリルおねーちゃん!」
「待ってですの、そっち道じゃないですの!」
いばらに引っ掻かれながら彼女らは、道なき道を走り倒し、朝日の差してくる方へ――。
『3 ALIVE』
● REAL WORLD
「‥‥ルさん‥‥リルさん、リルさん、起きてください!」
肩を掴む感触にリルは悲鳴を上げ、飛び起きた。
「いやああ、やめて刻まないでえ!」
「大丈夫です、しっかりしてください、夢ですよ、夢!」
目の前にあったのは仮面男ではなく、見知った傭兵仲間である論子の顔。
呼吸を落ち着け見回してみれば、零次、セシリア、ヨグ、ケイ、そしてクリスティンとユウ。
森の中ではなくて白く清潔なラボの室内。
バグア装置の解析実験暴走による事故であったのだと先に起きた面々から説明を受け、彼女は大いに安堵した。
「ぅ、ぁ‥‥怖かった、です」
その意見にヨグは、大いに賛同だ。
「ですよね‥‥ラボ内の職員も多く昏倒してたらしいですよ」
全く何するための装置なのやら。
頭を悩ます一同は、どこかで気分直しをしようかと話し合いながらラボを出た。
そこで、ばったり出くわした――。
猟犬を2匹連れ銃を肩に担いでいる、ハンター装束のペーチャ。
仮面を被った大男を従えているシルクハットのミーチャ。
蓋が閉まらないほどぱんぱんになったクーラーボックスを担ぎ尻尾をはたはたするレオポールと、その奥さんメリー。
――に。
「ああ、ぼくはこれから森へハンティングに出掛けるところなんですよ。いい気候ですからね」
「これは撮影衣装だ。売れないホラー監督が知り合いにいてな、そいつが出演してくれってうるせえからよ。こいつ? こいつもエキストラだ」
「依頼に行ったら肉がたくさんもらえたんだ。だから今日は焼き肉にすんだ。メリー、オレ偉い?」
「ええ、偉いわレオポール。子供たちも喜ぶわ。あら、皆さんどうなされました。お顔の色がすぐれませんが」
「「いえ‥‥別に‥‥」」
● FALSE WORLD
包帯だらけになっているペーチャを相手に、森のお医者ミーチャは言っていた。
「趣味に走った狩猟するから隙が出来るんだ。後でこっちが回収修繕する羽目になんだからな、も少し考えろや」
「そんなこといったってさあ、ぼくのキャラはこうなんだからしょうがないじゃないか。大体ミーチャも手抜かりだろう、担当の奴1人こっちに逃がして。あいつさえいなきゃぼくだって成功してたよ」
「ぬかせ、お前は飛び道具持ってるじゃねえか。一番有利なはずだぞ」
言いながら彼は、きゅうきゅう鳴く子供らに囲まれめそめそやっている、包帯だらけの夫婦のもとへ。
「いいかげん泣くな。いつまで一家で場所塞いでんだ」
「だって‥‥オレたちのごはん‥‥」
「3匹とも逃げてしまって‥‥」
「そんなら裏に内臓取った残りがあるから持って行け。後キャンプ場にもペーチャが転がしてるのが、まだ目一杯あるだろ。あれ食ってしのいでろ。かまわねえんだろ、ペーチャ」
「ああ、ぼくは死んだのには興味ないし」
これを聞いて人食いわんこ一家はようやく元気を出し、帰って行った。
見送るミーチャは、首を傾げる。
「ここに来る人間はなんでどいつもこいつも死ぬのを嫌がるんだろうな、ペーチャ。あいつらからしたら夢だってのに」
「いる間は分からないんじゃないの」
「‥‥かもな。さて次はどんなのが来るのやら」
ホッケーマスクは庭の掃き掃除。
悪夢の森は、本日いいお天気である。