●リプレイ本文
「‥‥あー‥‥透子もいるのか、奇遇だな」
脱力感あふるるご挨拶の鈴木庚一(
gc7077)。
「それはこっちの台詞だわ‥‥何で貴方が此処に居るのよ! べ、別に会えたからって嬉しいとか思ってたりしないんだからっ!」
香月透子(
gc7078)の強気な返し。
彼らの問答が繰り広げられる中、レオポールは先頭切って特攻し、あっと言う間に撃沈した。
クロノ・ストール(
gc3274)はいち早く覚醒、自明の理を口にする。
「世の中そんなに甘くは無いか」
海から上がってきたキメラも浜にいたのと全く同じ形状。とするなら、攻撃方法も同種と考えて差し支えあるまい。今の戦闘の様子から察するに、電撃の射程距離はざっと4メートルというところ。
「ま、レオポール君のおかげで敵の能力も解ったし、今日も頑張っていくとしますか」
倒れたままのレオポールが上陸ついでにまた踏まれている。
「‥‥まずはレオポール君がフルボッコにされないようにするよ、皆」
仲間を助けるためクロノは駆け出す。
接近してきた彼の姿にキメラは早速反応し、特撮らしくもたもた動きながら向かってきた。目標を睨みつけ頭にある2本の角をぐいと前に押し出し、電を発する。
3匹揃って一点集中といきたいところだったが、エヴァ・アグレル(
gc7155)が射程外から照明銃で、めくらましを行ったため、1匹しかクロノの「エンジェルシールド」に当てられなかった。
びりっと来た衝撃にも、クロノはひるむことがない。
「なかなか。しかし今年は節電しませんとね」
彼がそうやって相手をしている隙に、旭(
ga6764)は倒れているレオポールの足を掴んで引きずり、射程範囲の外へ退避させる。
「大丈夫ですか? えーと、旭です。今回はよろしく」
焦げた毛をなで砂を払いのけてやり、まずは自己紹介。
返事のつもりなのだろうか、尻尾だけがへたりと動いた。
門鞍将司(
ga4266)はそんな負傷者の治療に当たる。
「レオポールさん、レオン君のためにもキメラをやっつけちゃってください。その間のサポートは私達にお任せください。怪我したら治療しますので、思う存分戦ってくださいね」
レオポールがこの依頼にかける期待と抱負は、同行者たちの間ですでに知られている。なにしろ高速艇に乗っている間中意気を上げていたのだから。彼にしては珍しく。
子供のためにではなくても、恰好をつけてみたい気持ちは分かる。
演出に協力的な旭は、初手の失敗でしくしくやってる半焦げ犬を励ました。
「まだ挽回は効くから元気出して」
「そうですよ、今のとこは割愛しますから問題ないです」
佐々木優介(
ga4478)は頼もしげに親指を立てる。
その手には最新鋭のデジカメがあった。絵日記の説得力とクオリティを上げる為には実際の戦闘シーンを見せるのが一番。というわけでレンタルしてきたのだ。
「レオポールさんを格好良く見せる作品、作り上げて見せます! さ、まずは門鞍さんと熱く友情を語り合うシーンを! すでに特撮キメラの大迫力電撃シーンは収録してますので」
「そうヨ。地面に寝ながら撮ってたから、実物の200パーセント増しでハリボテ怪獣が大きく見えたの間違いないネ。始めにあのシーンを持ってくれば、レオポールが超強い敵と戦ってるように見せかけられるのコトヨ。これぞ特撮マジック」
面白がりたいという動機が大部分を占める楊 雪花(
gc7252)も、力強く保証してやる。レオポール、少し持ち直してきた。
「‥‥そうかな」
雪花、そこを更に乗せる。こういうことは彼女、お手の物だ。
「さあ、昼間のパパはちょと違うてところを見せてもらうヨ。優しい人と真面目な人が居てくれるかラ、ワタシのような人間が動くスキマも出来ル。頑張るネ」
激励と言うには引っ掛かる部分が入っていたが、レオポールはそれに気づかず、他のメンバーは聞き流した。
「ともかく、カッコよく決めるシーンだけでも撮らないと」
旭は自分の手をはたき、砂を落とす。
「さて‥‥お手本になればいいけど」
それからクロノが牽制している1体へ向かって行く。
他のもう1体はすでにエヴァと庚一、そして透子が相手をしている。
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「なにも攻撃されるのぼーっと待ってること、ないもんね」
うそぶくエヴァはキメラと海の間に走り込み、クロノが狙っているのとはまた別の1体に目標を定める。
下手に連携される前に3匹を分断し、レオポール用に1匹残して壊滅させるという腹。
彼女を援護するため、透子がまず「M−121ガトリング砲」の引きも切らない銃撃音を響かせた。
キメラは頭頂部を狙われ、たちまち血だらけになる。だが、致命傷というわけでもなさそうだ。咆哮を上げ、攻撃してきた透子の方へ意識を向けた。突進を図る。
そこにエヴァが、砂を巻き上げる。
「あら、隙だらけね」
大鎌「シュトレン」の切っ先が太い足関節を引っ掻け、切り裂いた。
透子に続けて庚一も、顔を目がけた制圧射撃を行う。
目の玉に砂と鋼鉄の飛礫が入り視界が塞がれる。いきおい、繰り出す電撃の命中率が下がる。
様子を見て取り、透子が接近していく。執拗に角の付け根を狙いながら。
エヴァもまた、角を狙う。あそこさえ破壊してしまえば、恐らく電撃は出なくなるはずなのだ。
海に向け進もうとする相手を、そうはさせじと切りつけ、行かせない。
角の片方がとうとう刃でそがれ落ちた。生まれかけていた電撃が消滅する。
生き物のふりをした作り物の目を狙い、「シュトレン」の柄が打ち込まれた。
「死神の娘が命じるわ 速く死んでくれる?」
柄は眼窩に真っすぐ、深く深く入り込む。奥で堅い何かが潰れるような感触。
透子の「クラウ・ソラス」による突きが、間を置かず喉元をえぐる。
「寝てなさい、いい子だから」
赤く染まる砂を前に透子は微笑み、エヴァたちとともにレオポールのもとへ向かう。
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キメラは顔を新手の旭に向け、角から電撃を放つ。視界に入っていると共に射程内にいるので、まず直撃間違いなしのはずだった。
だがいきなり旭の周囲に生じた漆黒の衣が、それを跡形もなく消し去った。
キメラは何が起きたのか理解出来ず戸惑い、続けざまに放電をした。
しかしいずれも同じ結果に終わる。唯一といっていい攻撃が、消されてしまうのだ。
「へえ、あれが『虚闇黒衣』か。便利なものだね」
「エンジェルシールド」を構えるクロノは残り1匹の動向も横目で見守りつつ、評する。
電撃を恐れなくていい以上、旭の優位は決定だ。
彼は速度を落とさずキメラに向かい、脚甲による飛び蹴りをくらわせる。
「はぁっ!」
ぐおっと呻き、キメラが砂地に転がった。もともとそう大きくないので、重量もないのだ。
攻撃が通じない相手に恐れをなしたか転がりざま向きを変え、海に逃げ込もうとする。
が、旭の「デュランダル」は、それを待ってはいなかった。電光石火とばかり、相手の頭上目がけて振り落とす。
「せいやーっ!!」
頭の頂点から股下まで一直線に切り裂かれ、後に残るのは半分ずつの残骸だけ。
旭は聖剣を砂に突き立て、少し離れたところにいるレオポールに言った。
「‥‥と、こんな感じで」
大丈夫、やればできる!
言いたげにこぶしを握って見せる彼だが、コリーは口を開いて舌を出し不安そう。電気ショックを浴びたのが、トラウマになってしまっているらしい。
「‥‥ゴムの雨合羽とかないかな‥‥ゴム靴とか‥‥」
などとぼやいている。
「恐れることはないネレオポール。その手に持てる大きいだけが取り柄の剣を今一度見るがいイ。きと立派な避雷針になること間違いなしネ」
「おお、そうか!」
「‥‥わんこのおじさん、それが避雷針ならかえって直撃なんじゃないの?」
「ああっ、そういえばそうだ!」
「エヴァサン、余計なこと言うよくないヨ。折角チョロくだまくらかされてたのニ」
「おいこら雪花、お前オレをだます気だったのか!」
「ノーノー、私いつでも誰にでもノーサイド、汚れない天使のごとき女ヨ。ただ面白いコトに目がないだけネ」
たちが悪そうな天使だ。
心で呟く将司は、うろうろするレオポールへ喝を入れる。
「レオン君にご自分の活躍を書いてもらいたいのでしたら、逃げずに立ち向かいなさい」
そう、そこが本来の目的。
ぶらぶら寄ってきた庚一も、思い出させようと言ってやる。
「‥‥あー‥‥ほら、アレだろ? 息子に良いトコ見せんだろ?」
若干尻尾を持ち上げ、レオポールは頷いた。
おっかなびっくりながら残り1匹になったキメラ目指し、この見通しのいい浜辺で意味があるかどうか疑問だが、ほふく前進で近づいて行く。一応やる気を絞り出したらしい。
キメラの逃亡を阻止しているクロノは、電撃を受け流しながら聞く。
「父親と言うのも大変そうだね。で、どうする? 見栄を張って無茶するかい? それとも普通に戦うかい?」
「‥‥えーと‥‥格好よく見せたい」
「よし、なら徹底的に無茶してもらおう!」
「えっ、いや徹底的ってまでは‥‥」
言いかけたレオポールは、前進している目の前に電撃が飛んできたので肝を潰し、飛び上がり転がる。
「いいですよレオポールさん、そのオーバーアクション!」
優介はすっかり特撮カメラマンだ。
ここより現場はキメラ退治から、レオポール主演「熱血コリー物語」撮影へ目的を傾斜させることとなる。
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「僕がアイツの攻撃を引き受ける。その間に攻撃を、出来たらあの角を狙おうか」
「お、おう」
クロノに協力してもらいつつ、キメラにへっぴり腰で挑もうとするレオポール。
援護射撃の構えを怠らないながら、透子は苦笑している。
「お父さんって大変なのね‥‥」
変な話彼を見てると、何だか夢が広がる。もし私にも家族が出来たら‥‥という。
理想としては青い芝生に白い家、可愛い子供達。
そして重要なのは芝生に居る「犬」。別にレオポールを見ているから連想しているんじゃないはずだが、コリー犬がいい気がする。
空想に過熱する一方の透子は、つい近くにいた元婚約者に同意を求めた。
「どう思う? 庚一!?」
元婚約者は生煮えの態度ながら、まんざらでもない調子で応じてくる。
「‥‥あー‥‥確かにエヴァみたいな利発で可愛い子供がいるのは良いかもな‥‥」
そのエヴァは、レオポールを励ましていた。カメラマンである優介を、旭と共同でガードしつつ。
「わんこのおじさーん、がんばれー」
直後、ピシャーンと電撃が。
レオポールはとっさに避けて直撃は免れたが、結構きたらしくふらふらしている。
それを庇う形でクロノが立ちはだかり、口上も高らかに「鴉羽」で攻撃を加えた。
「白き羽は守る力、黒き羽は討つ力‥‥あえてこの名を名乗ろう、僕は蒼空の騎士、クロノ・ストールだ!」
正直彼のほうが主役っぽい。庚一はそう思った。
「コリーより、ゴールデンやラブラドールがいいね。‥‥あー‥‥というより、犬は別に要らないんじゃないか? なんとなく。犬は、要らない」
レオポールのサポートをしていた雪花が、バレーのレシーブのように腕を揃えた。
「ヘイ! バッチ来るネ、レオポール!」
レオポールはまだ少しふらつきながらも、全速力で助走をつけ、腕に飛び乗る。
同時に雪花は腕を振り上げた。
見よ、華麗な空中逆落しがキメラの頭部を目がけ繰り出され――るはずだったが目測が誤っていたのか、対象を飛び越え海にドボン。
高く上がる水しぶき。
陸では雪花が両手をメガホンにして呼びかけている。
「ドンマイドンマイ! 失敗しても大丈夫だヨ、リテイクは数限りなく可能だからネ! レオポール泳げるから海に落ちても平気でショ!」
コリー犬の頭が波間に出てきて――泣いてるみたいだが――戻ってくる。
父親というのは大変だなと嫌みでもなんでもなく実感し、庚一は、ポツリ呟いた。
「何時か俺が、父親になる事もあるのかねぇ‥‥」
透子は思わず彼の方を向く。
視線が合った。
数秒のときめきは次の面倒臭そうな台詞であえなく終了する。
「‥‥いや、有得ない、か‥‥」
ここまで引っ張って勝手に自己完結するって何様なわけ。
腹立ちの頂点に達した透子は相手の尻に回し蹴りをし、八つ当たり気味にレオポールへ声を張り上げた。
「私がひき立てるんだから、しっかり目立ちなさいよっ!」
結局この後リテイクは、3回に渡った。
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アマブル家。
将司が持ってきたお茶とお菓子をたしなみながら、傭兵たちは実録映像を披露する。
『あのキメラの弱点は角であるコトヨ! さあ行くネレオポール! お前は飛べないただの犬でない、飛べる犬ヨ!』
『よし、ここはオレが!』
レオポールは涼しい縁側で尻尾も振らず転がっている。疲れたらしい。
テーブルの上に日記を広げたレオンは、レオポールがキメラの行く手を塞ごうと走りだしたシーンに続く「必殺レオポール空中アタック」を眺めた後、隣にいる優介に聞いた。
「ちょいちょい不自然に場面が前後するのはなんでなの?」
営業スマイルを浮かべた男は、断固こう言い張った。
「これは実際にレオポールさんが戦った記録で、嘘は一つもありません。皆がレオポールさんの目的の為に、一致団結して戦ったんです。普段どれだけ情けない姿を見ているとしても、君のお父さんにはこういう一面もあると、分かって頂けましたか?」
コリー男の毛をモフるエヴァも続ける。
「最初の無謀突撃は大減点だけど、初めて会った時よりは少しだけカッコよかったかしら」
優介は少女の助け舟に礼を述べた。
「有難うございました」
撮影中あまりに熱が入り過ぎた場面で、「安全第一」の鉄則を思い出させてくれたことへの感謝も含めて。
それでもいまいち不審げなレオンの姿に、クロノは苦笑い。
「父親‥‥男ってのは面倒くさい生き物でね。ま、君も大人になれば解るよ、多分ね」
透子はまだ膨れっ面で庚一を睨んでいる。
旭は茶を飲みながら、水羊羹を口に。
「‥‥でも、特別な活躍なんてしなくても こうやって家族の為に仕事を頑張るパパは、素敵だと思うわ。そもそもかっこ良くないところがおじさんの魅力でかっこ良さだもの」
何げに失礼な事を言うエヴァに、雪花が大きく同意した。
「言えてるネ。弄りがいがなかたらパパさんの魅力は半減ヨ」
そこに奥さんがスイカを持ってきてくれた。
皆ありがたくいただく。
「まあ‥‥戦ったことは戦ったんだよね、パパ」
納得したか、レオンは日記帳に字を書き始める。
「ふふ、どんな1ページになるのかしらね?」
家族って、パパっていいなあ。思いながらエヴァもスイカをかじる。
夏の終わりは、すぐそこだ。