タイトル:タイヤMENマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/19 22:22

●オープニング本文



 とある車売り場にて、一人の男。
 客ではなさそうなのだが、やけに真剣な顔をし、展示場から離れようとしない。

「ふうむ‥‥これはなかなか面白い」

 見ているのは看板近くに置いてある、タイヤ会社のキャラクター人形。
 俗にタイヤメンと呼ばれるもの。
 大小さまざまなタイヤを組み合わせ、一個の愉快な人形の形にしている。
 それを見るだけではあきたらずなでくりまわし、男はニヤリと笑った。

「使えそうだ」

 道行く人からの怪訝な視線をものともせず。



 平日なので高速道もすいている。
 運送トラックの運転手はあくびを噛み殺しながら、目的地へと急いでいた。
 この荷物を得意先に届ければ、今週のシフトはおしまい。家に帰ってぐっすり眠れる。
 そう思ってアクセルを踏み込んだ矢先、前面のフロントガラスに何か大きいものがぶつかって来た。
 慌ててブレーキをかける。
 トラックの車体はスリップしながら転倒。
 そこで終わらず次々別の事故が発生する。
 高速道路を大小のタイヤが逆送し、手当たりしだい対向車にぶち当たってくるのだ。
 あちこちで急ブレーキがかかり、衝突が起きる。
 車体が燃えだし、どす黒い煙が上がる。
 しかし、タイヤは少しも壊れたり止まったりすることなく、それらを乗り越え走り続ける。

 である以上、タイヤではない。



 連絡を受け高速道路は直ちに封鎖された。
 多数負傷者が出ているらしきことから、消防車、救急車も現場に向かう。
 一般道に向けてタイヤだけが暴走中。
 その報告を受けた傭兵たちは、インターチェンジにてそれらを待ち構えた。
 タイヤ軍団は彼らの前にくるや急停止する。
 そして‥‥驚くべきことに合体し‥‥身長4メートルのタイヤメンに変貌した!

「MEENNN!」

 アメコミタッチに雄たけびを上げ、地響きと共に向かってくる!


●参加者一覧

緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
樹村・蘭(gb1798
17歳・♀・BM
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG
夜咲 紫電(gc4339
20歳・♀・FC
クリスティン・ノール(gc6632
10歳・♀・DF
住吉(gc6879
15歳・♀・ER
エヴァ・アグレル(gc7155
11歳・♀・FC
一条 薫(gc7932
21歳・♂・DG

●リプレイ本文



『MEENNN!』

 タイヤメンを目にした傭兵たちの反応は十人十色。
 とりあえずユウ・ターナー(gc2715)及びクリスティン・ノール(gc6632)は、このバグア兵器に大受けしている。

「うわぁ! 何だか格好良いの☆ ユウもやりたいのーっ! MEENNN! なのっ」

「カッコいいですの! カッコいいですの! MEENNN! ですのー!」

 2人してアメコミタッチな物真似をし、きゃいこら楽しんでいる。
 そんな彼女らの姿に、緋沼 京夜(ga6138)は優しい眼差しを向けた。

「うちの妹達は楽しんでるねぇ‥‥保護者としては盛り上げてやるか。最後は消えてもらうがね」

 タイヤメンにはさぞ打ってつけと思われる武器、「トマレ」を手にして。

「随分とまぁ、ひょうきんな奴もいたもんだ」

 なにはなくとも今回のバグア兵器、外見のゆるさ加減が半端ではない。
 住吉(gc6879)はその点非常に残念だ。
 そもそも合体ロボは、ガチャン! ガキッ! って感じでメカメカしくしてこそ花。これでは合体ロボとして価値がない。こんなマシュ●ロマン紛いのデザインでどこの男の子が夢中になってくれよう。

「ゴーストバス●ーズでも呼びましょうかね〜‥‥」

 翻って夜咲 紫電(gc4339)。彼女には特に感慨などない。キメラの外見なぞ彼女にとってほぼどうでもいい事柄だ。存在自体が憎悪の対象なのだから。
 これは大事な人を奪った、憎んで余りあるただの「モノ」。

「まぁ、個人的な復讐なんだけど‥‥悪く思わないでね」

 「紫苑」の引き金に指をかけ、冷たく目を光らせる。
 今回が初実戦である一条 薫(gc7932)は、生キメラ(性質からしてゴーレムに近いかもしれないが)の姿にいささか興奮もしていた。

「タイヤと戦闘とか、マジで面白そうだな! 楽しみだぜ!」

 ところでエヴァ・アグレル(gc7155)は、モヤッとした既視感を覚えていた。
 このお間抜けなモコモコ形態人形、どこかで見た気がする。確か‥‥び、びば? びぶ? どっちかで始まる名前だったような。

「び、び‥‥ビビンバム‥‥いや微妙に違う‥‥まあ、どうでもいいわ。迷惑だから成敗ね」

 ぶつぶつ言う少女に、樹村・蘭(gb1798)は怪訝な目を向ける。お腹でもすいたんやろか、この子とか思いながら。

「キメラも合体するんやなー」

 兎にも角にもアメコミ風味なところがいただけない。個人的にアメコミはむさ苦しいから好きでないのだ。こんなムサいもん、さっさと倒そう。
 即決の後彼女は早速覚醒し、挑発を始めた。

「デカブツタイヤ、うちと遊ばへん? パンダみたいに転がしたるで」

 そして即座に攻撃へ移る。タイヤメンは止まらず急接近して来るのだからして。
 挨拶としてまずは、真音獣斬をお見舞いした。
 巨体は衝撃波に一瞬たじろいだ。
 そこに「トマレ」が突撃する。



 もしかしてタイヤなんだから標識になんらかの反応があるのでは、と京夜は思ったりしたのだが。

『MENNNNNN!』

 特にそんな物なかった。真っすぐ右ストレートを放ってきた。
 よく考えたら日本製で無さそうな奴だから字が読めなかったのかも知れない。
 とはいえ明白な道交法違反なのは明らかだ。

「実によろしくないな。ルールを叩き込んでやる」

 避けながらうそぶく京夜の背後から、紫電が注意を引く。物騒な呼びかけ付きで。

「よしよし、良い子だね‥‥良い子だから、すぐにぶっ殺されてくれるかな!」

 タイヤメンは地面を殴りつけ爆風とアスファルトの破片を撒き散らすことで、銃撃に対抗した。
 動きは特筆するほど早くもないが、力はあるらしい――知能も。
 その中枢がどこなのか、一見しただけで皆の意見は一致した。

「やっぱあれや、あの頭の金色のがあやしいわ。合体したときあいつ真っ先に上収まりよったしな」

 恐らくあれが司令塔。
 そして合体できるなら、多分逆も可能だ。実際奴らはここに来るまで集団暴走していたのだし。

「うーん、ここでまたバラバラになられると厄介だよね」

 言いながらエヴァは、ユウたちの連携攻撃をスムーズに行わせるため、蘭、住吉、紫電、薫とともに、射撃の手を緩めない。特に足元を狙う。敵の前進を阻むため。

「せやな。単独走行で80キロ相当は出てたちゅう話やし、ほしたらビーストマンのうちでも追いつけへんからな」

 妨害によりタイヤメンも、なかなかジャンクションを突破できない。
 焦れたものか足元の瓦礫を引きはがし、大きな腕で持ち上げてきた。投げ付けるつもりらしい。
 意図しないにしてもその動作は、両手の動きを完全に塞いでしまう。
 格好な機が訪れたと察した京夜が、「トマレ」を頭上に構え回転させた。

「さて、覚悟を決めてもらおうか!」

 彼はタイヤメンに向かう。今思いついた、とっときの掛け声を口にしながら。

「チャー・シュー‥‥」

 「トマレ」を地面に叩きつけ、相手に負けないほどの粉塵を巻き起こし、衝撃を加える。
 弾みで持ち抱えていた瓦礫を足の上に取り落とし、タイヤメンが吠えた。

『MENNNNN!』

 ユウとクリスティンも遅れじと戦闘に加わる。
 まず息の揃った決め台詞から。

「マリア様に代わってお仕置きなのっ!」

「マリア様に代わって、お仕置きですのっ!」

 2人の容姿と決めポーズにより、どこからか魔法少女物のテーマ音楽が流れてきた。
 でも変身はなし。クリスティンは聖剣「ワルキューレ」を、思い切り振り回す。
 刃の上にユウが飛び乗る。彼女を乗せたままクリスティンは、一般人が見たらまさかと思う力強さで、なお剣をぶん回す。

「えいやっ!」

 その動きに合わせてユウが刀身を蹴り、空中高く飛び出した。
 彼女は京夜の十字撃に続くため、宙で特殊銃「ヴァルハラ」を構える。

「えーい! これでも食らっちゃえ☆」

 そして彼が口にした呪文を早速借用し、声高らかに叫んだ。
 何故ならば、それがとても格好よく聞こえたから。

「チャー・シュー‥‥必殺☆セフィロトシュート!」

 応じるかのようにタイヤメンは吠えた。

『MENNNNN!』

 弾けた音が連続する。どうやらタイヤ部分のどこかに穴が空いたらしい。
 クリスティンはユウの攻撃に追随し、「ワルキューレ」を手に攻め込む。足を狙って。
 それには京夜も加わった。彼は「トマレ」を斜め下から、膝目がけて打ち上げた。声が重なる。

「「チャー・シュー‥‥」」

『MEENNNN!』

 連続攻撃を受けた足元のタイヤが、バンと大きな音を立てた。
 さすがに耐えられなかったと見える。完全な破裂だ。
 土台部分の空気圧が無くなったので、タイヤメンは姿勢が崩れた。得たりとばかり蘭が「ディガイア」を手に突きかかる。

「いよっしゃあ! 道頓堀まで転がして沈めたんで!」

 彼女はタイヤ部分のみならず、ホイールも破壊の対象としている。右足の部分がひしゃげ、ダルマ落としでもするようにすっぽ抜けた――いや、すっぽ抜かされた。
 相手側の攻勢に危機感を覚えたか、タイヤメンがメン体形を崩し、タイヤの群れとなって弾けたのだ。
 金のホイールタイヤを守るよう銀のホイールタイヤが取り巻き、逃走を図り出した。
 薫は舌打ちをする。

「くそ! いちいち面倒なヤロウだなおい!」

 だがそう焦ることもなかった。
 タイヤの群れのうち足部分の中型が2つ、京夜たちの連携攻撃によって完全に壊されていたし、手足末端を担当する小型のものは先程からの銃攻撃により、大方タイヤ部分を損傷していたのだ。穴が空いたり、裂けたり。
 ホイールは健在でも、こうなると格段にスピードが落ちる。真っすぐ走るのも容易ではない。

「さて、鬼さんこちら、音鳴る方へー、と」

 移動手段をもたない紫電は追いつけそうに無い分を他メンバーに任せ、それらの殲滅に全力を注ぐこととした。よろけているところを「紫苑」で弾き、転倒したところ「蛍火」や「壱式」を使って切り刻んでいく。

「ほらほら、群れから逸れたらすぐに狼に食べられちゃうよー?」

 蘭も、まず接近出来るものから倒して行く。

「ええい、ちょこまかせんと往生しいや!」

「ぐほう!」

「なんや、どしたんや薫さん!」

「い、いえ、ターボかけて腹に直撃してきて。でも大丈夫です!」

 薫は胸に飛び込んできたタイヤを押さえ付け、至近距離から狙撃する。ホイールの中央目がけて。
 火花が散り、タイヤはただのタイヤに戻った。



 金色の中型1、普通の中型3、それから大型3。小型は放置してよし。そう見て取った住吉は、素早くバイクに跨がった。

「ババン、バン、ババン♪ ババン、バン、ババン♪ ‥‥と、やっぱりバイクに乗りながらのショットガン撃ちはロマン溢れますね〜♪」

 どこかで聞いたようなメロディを口ずさむ彼女は、タイヤの群れを追い始めた。
 どうやら引き続きジャンクションから一般道に降りたがっているようだ。エヴァが弾幕を張り阻止してくれているものの、明らかに突破を図ろうとしている。
 そんなことになろうものなら、また新たにどれだけ事故が増えることか。

「エヴァ様、範囲攻撃行きますから注意してください!」

「あ、りょうかーい!」

 エヴァがタイヤの群れから飛び離れ距離を取ったところに、桁違いの暴風が駆け抜ける。
 軸が傾くタイヤは危うく横倒しとなりかけ――驚異的な復元力で体勢を立て直し、転倒から免れる。

「ほっほう、タイヤだけでもなかなかやるもんですね。だがこれはどうか」

 それを見た住吉は貫通弾を装填し、銃口を金色ホイールへ向けた。

「ふふふ、コイツの弾頭は通常に非ず‥‥ですね♪」

 引き金が引かれる。
 破壊されたのは金色ではなかった。それを守ろうとするかのように飛び出してきた別の中型タイヤだった。
 突破は容易でないと悟ったか、残ったタイヤはお互いの幅を縮めて一丸となり逆走し始める。

「おっと、どこに行くつもりだ?」

 その前にウィリーを利かせて走り込んできたのは、京夜のバイク。後ろにユウを、ハンドルの前にクリスティンを乗せながら、ちっとも負担ではないかのように操縦している。

「ユウ達の前に立ちはだかろうなんて100年早いんだカラっ」

 ユウは「ヴァルハラ」で、銀色タイヤを狙撃し始める。
 中型2つが失速し脱落。
 後ろに引き返すこともならずというのか、残ったタイヤはなお速度を上げ、正面から向かってきた。

「振り落とされないように、しっかり掴まってろ」

 京夜は避けず正面から向かい、曲芸的に擦りぬけた。クリスはすれ違いざま「ワルキューレ」をかざし、大型1つを断ち切った。

「必殺! 両断剣ですのー!!」

 残るは大型タイヤ2つと金色タイヤだけ。
 小型タイヤ及び中型の脱落組は、ここに至るまでに全て、薫たちによって破壊されている。
 それでも防御のためには合体した方がいいと考えたか、金のタイヤは両側に大型のタイヤを装着し、一体となって走りだす。
 これは、もう少し早くやるべき行動だった。何しろこの段階においては、既に全員の手が空いている。総攻撃されるのは必至だ。
 もっともそうなるように全員が動いたのだから、当然の結果ではあるかもしれない。

「おーっと、まあお待ちなさい」

 住吉が右の大タイヤを狙撃すれば。

「お仕置きからは逃れられないのだっ☆」

 ユウが左の大タイヤを狙撃し。

「これが司令塔かな? 金色のタイヤって趣味が悪いなぁ‥‥」

 紫電の弾丸が中央タイヤ部分に食い込む。転倒したそこに。

「倒し終わったら、タイヤ回収やろか? これ、どないせぇっちゅうねん。粗大ゴミにならんやろし」

「バイバイ。車輪のお化けさん」

「さ、こっからどう変形するのか見物だな」

「交通法規はしっかり守らないとな」

 蘭、エヴァ、薫、バイクから降りた京夜がこぞって接近してきては、助かるはずなどないというもので。
 タイヤメンは多分、叫びたかったに違いない。だけどメン形態ではないから、そんなこと出来ないんであった。



 戦いすんで周囲の安全確認をした後、薫は改めて周囲の先輩方に挨拶する。

「みなさん、お疲れ様でした! おかげで実戦を知ることができました!」

 住吉はそれに対し、笑顔で手を振る。

「いやいや、たいしたことはないですよ。こちらも協力していただき助かりました。これからも任務が重なりましたら、よろしくお願いします」

「そうそう、お互い様や薫さん。ところでこれ、ホンマにどないしたもんかな。やっぱ粗大ゴミ?」

「確かに‥‥動力部のホイールは研究所行きとしても、タイヤはいらないかなあ」

 小が20、中が6、大が3。倒して積み上げたタイヤを前に、蘭と紫電が首を傾ける。

「なんだか勿体ない気がしますね、エヴァねーさま」

「そうね、再利用の方法ってないのかな」

「京夜おにーちゃん、なにかないかなあ」

 クリスティン、エヴァ、ユウといった女の子たちからこぞって知恵を請われ、兄貴分として京夜も大いに悩む。
 合体したらおよそ4メートル。捨てるにしてもかさばりすぎて惜しい気はするが、さりとて何かに使えるかというと。
 考えあぐねているところ、見知らぬ大型トラックがやってきた。

「あの、すいません。もしよろしければこのタイヤを私共のところで、引き取らせていただけませんか。あ、私この近辺にある市の福祉課職員なのですが」

 市の職員が何故。
 皆は思ったが、別に断る理由もないため、そのまま引き渡した。



 後日、タイヤメンは再度組み立てられ復活した。児童公園の遊び道具として。
 当該任務に赴いた傭兵たちはその消息を知り納得するとともに、なんとなく心和む思いがしたのであった。