●リプレイ本文
ドクター・ウェスト(
ga0241)の操るKV――スレイヤー・ナイトフォーゲルF−104――は、どぎつい日光が照らす砂漠の空を飛んでいた。
眼下には黄色い砂を巻き上げ移動して行く超巨大な人影。
その姿を機体内モニタで確認した彼は、手早く分析を始めた。
「反応がパターン化しているね〜。自律型のようだね〜」
無邪気にきょろちゃんを引きずり倒し放り投げたり転がしたり、基本動作にレパートリーがなさそうだ。ただ前を見て進んで行く。
「可愛らしいゴーレムね‥‥手加減はしないけれど‥‥暴れぶりからすると‥‥人型の方が悪い子みたいね‥‥」
KV――ナイトフォーゲルPT−100ラスヴィエートにいるGretchen(
gc7621)からの声を聞きつつ、ウェストは今一度、ゴーレムの正面からの姿を確かめた。
「砂漠の真ん中で巨大なマスコットと戦闘とは、ずいぶんシュールだね〜」
誰もが知らないはずがない永遠の6歳。その名を、ペ子。
元オタク気質ゆえウェストは、あれをゾウのSATOちゃんと戦わせたらどうなるのだろうかと、ちらり夢想したりした。
SATOちゃんには鼻がある分、あるいは有利だろうか。
「バグアは‥‥何がしたいのでしょうね‥‥」
終夜・無月(
ga3084)はKV――ナイトフォーゲルXF−08Bミカガミ『月牙極式』の操縦席でポツリと漏らした。
現在彼はかなりの負傷を負っており、服の下に包帯を巻き、鎮静剤を投与している状態なのだが、その身を支える大事な気力がつい抜けそうになる。
「そうだよね、みかがみ君。ウケを狙うにしてもこういう方向はナシだと思うんだ」
KV――ナイトフォーゲルH−223B改『イクシオン』に搭乗している夢守 ルキア(
gb9436)が、通信無線から聞こえてきた呟きに応じた。
彼女はサングラスをかけ、片方の目にアイパッチを貼っている。ペ子が怪光線を放って目潰しをしてくる件についての対策だ。むろんなるたけ受けないように注意はするものの、万が一と言うことがある。あらゆる手を事前に打っておくにしくはない。
「‥‥見れば見るほど、どういう意図で作られたんか分からへんゴーレムやね。せやけど、退治せえへんと多くの人に迷惑が掛かりますさかい、きっちり退治させて貰います。ほな明星はん、一番手頼みますえ」
月見里 由香里(
gc6651)はKV――ナイトフォーゲルH−163『貪狼』の中から、先行している同僚に呼びかける。
今回はサイズLLな相手。接近戦の前に遠方攻撃で力をそいでおきたいところだ。
「了解。なんにしても思う存分戦えるのはありがたいです。遠慮なく行きますよ。しかしきょろちゃん、まだいたんですね‥‥前はナッツとキャラメルでしたが‥‥」
天・明星(
ga2984)はKV――ナイトフォーゲルHF−041−GrExa天『天衝』操縦席にて、ちょこぼーるを食べていた。もちろん現在目の前にいるのと同じいちご味である。
きょろがラクガキ足を掴まれズルズル引きずられていく姿がほろ苦い。かつての戦闘の際の(さほどではない)勇姿と比べて、なんという落ちぶれた扱いを受けているのだきょろちゃんよ。
というかなんだあの凶悪ペ子ちゃんは。バグアの製作陣にはお菓子会社関係者でもいるのか。
「こんなゴーレム作って‥‥不●家に怒られてください! 失礼です!」
『天衝』が低空飛行に切り替わった。
高速の翼がうなりを上げペ子の周囲を旋回する。
ペ子は接近してきたKVを警戒してか、きょろを改めて肩に構え直し、顎にパンチを食らわしてちょこ弾を吐き出させた。
しかし、素早さでは『天衝』が上だ。砲弾は砂の上に着弾し空しく爆発した。
ペ子は後ろ臑に攻撃を受け、危うく前のめりになった。
きょろほどではないにしても頭部が極端に大きいデザイン。バランスは悪い。ウェストはそう見る。
「二足歩行の場合腰部に負担がかかっているはずだがね〜」
ペ子はきょろの使い方を変えた。足首を持ち周囲に向かってぶんぶん振り回し始めた。近づかせまいという戦法であるらしい。至近距離を飛び回る相手に対しこれは、バズーカより格段に効果がある。
「なるほど、なかなか考えますね‥‥気を引き締めて行きますよ!」
明星はいったん離れ、振り回されるきょろちゃんの軌道の透き間を確かめ、ペ子の足元目がけ突っ込んだ。
瞬間、ぺ子の両目が尋常でない光線ビームを発射した。
「っとお!」
間一髪のところで『天衝』は再び上昇、目潰しを免れた。
ウェストはロケットランチャーをペ子の広い顔面目がけ撃ち込みにかかる。
「とにかく閃光装置を壊してしまおう〜。多少足が速くとも、コノ程度なら当ててみせる〜!」
ルキアも彼に続いた。『イクシオン』のアルゴスシステムを起動させ、波長装置とレーダーの結果統合を開始する。
「負担かけちゃうケド、頼むね、イクシオン」
彼女はペ子よりもまず、武器と化しているきょろの方に狙いをつけた。あれが使えなくなれば、ペ子の攻撃範囲は一気に狭まるはずだと。
振り回されているゴーレムの足元目がけ――つまりペ子の手元ということにもなるのだが――十式高性能長距離バルカンを解き放った。
砂漠のど真ん中に大音響が響く。
きょろが宙を舞う。解放された遠心力を一身に受けて。さっきから振り回されすぎた細すぎる足が、この追加攻撃に耐えられず千切れたのだ。
例によって顔は無表情だったが、ぎょろ目は明らかに上下左右回っていた。
遠く彼は飛び、そして。
ボスーン
「おおう!」
歩行形態のため、皆より少し遅れて現場に着いた銀華弓煎(
gb5700)のKV――ナイトフォーゲルEF−006の付近に落下した。
砂に頭から突き刺さり、突っ立っている。
「‥‥犬神家? いやまあいいけど‥‥なんていうか、あれだよね。まさしく、言葉に出来ない、だよね」
隠密陸戦にこだわる彼は、今回KVをデザートカラーにしていた。そんなことをしても一面の砂漠では隠れる場所がないのだが、その辺は別に構わないらしい。
彼は今飛んできたこのきょろと、向こうで一斉爆撃を受けているペ子を遠い目で眺め、錆びた笑いを浮かべた。
実際もう笑うしかない。こんな連中のせいで死傷者が多数出たとか言われては。
「なんぼなんでも浮かばれないよな、これは‥‥どっちみち攻めてくるなら真剣にデザインを検討しろよバグア!」
姿のない相手に対し憤りつつ弓煎は考える。この変なバズーカをここで潰しておくべきかどうかと。
数秒の逡巡の末、結局後回しにするとした。こうなってたら、こいつは絶対逃げられないと踏んで。
●
『天衝機』のソードウィングがペ子の右足にぶつかり、膝に土をつけさせる。
「入った!」
明星は上空へ急上昇。ロケットランチャーを撃って撃って撃ちまくる。
それが終了したのを見計らい、今度は由香里の『貪狼』がロケット弾を発射する。
もうもうと上がる黒煙と砂煙。その中からペ子は再度立ち上がる。あちこち塗装が剥げ、機械部分が剥き出しになっていたが、まだ十分戦えるらしく、飛び交う機体に対し両腕を振り上げてきた。
先程のドクターによる集中攻撃により、右目のビームは威力を落としていた。だが、左はまだ健在で、頭を振り回し乱射している。
一瞬かすめただけでかなりの光量が目に入り、視力を大幅に奪う。
「まぶしいな本当に!」
目を狙っているだけあって、ルキアにはそれがいきやすい。
ペ子はこうるさく近くを飛ぶ『イクシオン』の機体をわし掴もうと手を伸ばす。
彼女は前もっての準備が他人より念入りだったので、不本意な高度上昇をせずともよかった。バルカンで牽制しながらアイパッチを外し、見え辛くなってきた分をフォローしながら急接近する。
かくしてペ子の顔、というより白熱の光目がけて重機関砲を打ち込む。サングラス越しとはいえやはり直視は危険なほどで、正直涙が止まらなくなりそうだ。
しかしやっただけの甲斐はあった。ダメージが大きかったかペ子は顔を押さえ、攻撃の手が止まる。
無月の声が無線を通じて全機に響いた。
「皆さん、離れてください! フレア弾、プラズマ弾の爆撃を行います!」
巻き添えを食わないよう、ウェスト、明星、ルキア、由香里、Gretchenは空域を離脱する。
弓煎は一時停止し、姿勢を低くする。
「まぁ‥‥何はともあれ一切の容赦も情けも無く根絶やしますか‥‥」
無月の引き締まった口元にはうっすらと、自負の笑みが浮かんでいる。
「炎と雷の二重奏‥‥御堪能あれ‥‥」
言葉どおり桁違いの炎と雷が入り乱れ、荒れ狂い、ペ子を余すところなく包んだ。
砂が焼け焦げ、溶け、固まる。巨大な呻きのような機械のきしみ音が、爆撃の轟音に入り交じる。あまりの熱量に蒸気が立ちのぼり景色を揺らがせた。
ペ子は塗装を半分以上どろどろに溶かし、カバーの剥げたターミネーターへと変貌した。もはやこうなるとかわいいと呼べる要素はどこにもない。
「ますます見れた顔じゃなくなったな‥‥」
うそぶく弓煎は最大速度でゴーレムの死角へ回り込む。着陸する仲間たちを援護するために。
かつてペ子だったものと言いたくなる姿に変貌したペ子は、ぎろりと接近してくるKVを睨み、足を持ち上げた。踏み潰す気なのだ。
「お前に足りねーものは! 武装・知能・協調性! そして何よりもっ!」
持ち上げた側と反対の左軸足目がけ、弓煎は機杭「白竜」をたたき込む。
「オリジナリティーが‥‥足りないと思うんだ?」
金属の関節から火花が散り巨体が傾いだ。ギギギと音を立てて。
ルキアがブーステッドソードで破損箇所目がけて切り込む。
「私、格闘戦って初めてかも!」
左膝から下が外れた。
ペ子が傾いた側に手をつき這う姿勢をとった。そしてそのまま突進して行く。突き刺さったきょろの方へ。この期に及んで武器を取り戻すつもりだ。
由香里の『貪狼』は、ツングースカで弾幕掃射を行い、援護を担当。併せて電子支援を行うとともに、着弾地点の位置確認も実行、仲間の攻撃効率を上げることに努めた。
「うちの貪狼は戦力的には微妙やから、こういう細かいとこで皆さんの脚をひっぱらんようにせなあきませんわな」
Gretchenがペ子の背後から右足目がけ、アサトライフルを撃ち込んだ。
「その大きさで‥‥足を痛めるのは辛いでしょう?」
ペ子はまだ動く。両足がきかなくなっても、掃射によって塗装の損傷が止まるところなく続き、金属のはずなのだが、まるで腐った人体を思わせる有り様になっても。
「人型兵器って‥‥攻撃を読みやすい気がするわよね‥‥」
アルデバランを構えGretchenは、続けて移動手段となっている腕を狙う。
ウェストも弱そうな関節部分へ、ブーステッドソードで切りつけた。
ペ子は残っている腕を振り回し払おうとするが、ここまで来た以上既に勝敗は決している。
ドオン
突然地が揺れる。
何事かと皆が目を向けてみれば、きょろが宙高く飛び上がり落ちるところだった。
砂中で口から弾を発射し、突き刺さっていた状態から脱したのだ。
彼はもう戦う気がないらしかった。たださえ不安定な足はなくなって使えないので横倒しになり、転がって逃げて行く。
「あっ!? こら待て待て待てい!」
「待ちなさいきょろちゃん!」
「逃げちゃ駄目、破壊されて!」
弓煎と明星、そしてルキアが後を追う。
Gretchenはどうしようか一瞬迷ったが、ウェストたちとともにペ子の破壊を行う方を優先させた。
「見えなくなるまでに片を付ければいいわけでしょう?」
「ええ。向こうには3人も行けば十分ですよ。とにかく先に、このゴーレムを沈黙させましょう」
無月は雪村を振るい、彼女とともに、次々ゴーレムの機動力をそいで行く。
最後にペ子の頭部、巨大な骸骨のようになったその眉間目がけ、ウエストが止めの一撃を食わす。
「バ〜ニシング、ナッコォ〜!」
拳が中までめり込み静電気が走り、頭上部が吹き飛んだ。
「派手な壊れ方ですねえ」
つい感心する無月は、背後にもう1つ爆発音が上がるのを聞いた。
きょろも向こうで破壊された模様だ。煙が上がっている。
何故かドクロマーク型をしているのが気になるが、まあ、任務完了に変わりはなし。
●
「どうだい、目の具合は」
「うーん、まだチカチカします。これどのくらいで治まりますかね、デューク君」
「そうだねえ〜ルキア君は特に浴びていたから、多分後半日くらいは続くと思うよ〜目薬入れておきたまえ〜」
言ってからウェストは、ぺ子の残骸によじ登り始めた。いつも通りあれこれ採集するつもりらしい。
「それにしても大きかったわあ。普段出てくる大型と比べても、段違いどす」
「そうね。しかしどうしてこのサイズで人型に拘りたがるのかしら。負担もかかるのに」
「それはやっぱり、人型がロマンだからだろ」
由香里とGretchenに弓煎は、男の子としての意見を述べている。
無月は体のこともあり、KVの影で静かに休んでいた。
彼の前では明星が、砂漠に向け手を合わせている。その顔は不安そうだった。
「どうしたんです?」
「いや‥‥倒してからこういうのもなんですが、今回倒したのはペ子ちゃんでしたよね」
「ええ」
「だったらボーイフレンドのポ子もいるのではとか思ってしまって‥‥」
「そんな、まさか‥‥」
無月は言いよどんだ。なんだか自分もふと不安になってきて。
「‥‥ないと思いますよ、多分」
そろそろ昼下がりも過ぎようとしている砂漠に、一陣の風が吹き抜ける‥‥。