タイトル:ぼくらのモエたんマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/27 23:59

●オープニング本文




 スーザン・高橋は非常に困っていた。
 目の前にいるむさくるしい集団がこぞってバグア兵器をかばうからである。
 ここは某屋内イベント会場。先ほどまでアニメ関係のイベントが行われていた。
 彼女はその方面に詳しくないのでよく分からないが、大人の子供たちの間で今現在最も熱く滾っているジャンル「プリピュア萌!」だとかなんだとか。
 とにかくあんまり運動とかしなさそうな年齢のハッキリしない男たちがお目目をうるうるさせた美少女の周りに円陣を組んでいる。

「やめろお、モエたんは悪くない!」

「モエたんを壊すなあ!」

 すごく邪魔。狙いがつけられないのでどいて欲しい。
 思いながら彼女はメガホンで呼びかける。

「いえあの、それバグア兵器なんですよ! 危険ですから離れてください!」

 そういうと円陣の中にいたモエたんがわっと顔を伏せて泣き出した。
 絶対嘘泣きだ。ゴーレムなんだから。

「‥‥モエは、モエはみんなと仲良くしたいだけなのに!」

 だがその嘘泣きは絶大な効果をもたらした。オタクたちは口々にスーザンを罵倒する。

「うるさい、あっちに行けブス!」

「三次元女に用はない!」

「三次元女は毛穴があるから醜い!」

 あいつら一緒に撃ってやろうか。
 心にちらり殺意が芽生えるがそこは我慢するスーザン。
 とにかくあのバグア兵器をほうって置く訳にいかない。あの少女型ゴーレムはさっきからずっと陰湿な攻撃を行い続けている。間断なく体内で一酸化炭素を発生させ、撒き散らしているのだ。だけならさっさと破壊すればいいが、ああやって周囲の人間を巻き込もうとするのである。

「みんな、モエを守って?」

「ああっ、守るよモエたん、命に代えても!」

「守る、君はボクらの天使だよ。でもなんだか息苦しいな!」

「心臓がどきどきするよ、モエたん!」

「これが恋なんだね、モエたん!」

 いくらオタクといってもあの反応、絶対普通ではない。
 中毒で頭がやられつつあるのか、それともあのロボットがなんらか暗示をかけているのか。
 詳細が不明なのだが、とにかくもう時間はなさそうだ。円陣の何人かが、夢見たまま倒れていっている。

「‥‥仕方ないですね。直にあの人たちを引っぺがさないと」


●参加者一覧

鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD
楊 雪花(gc7252
17歳・♀・HD
村雨 狼騎(gc8089
15歳・♀・DG

●リプレイ本文

 イベント会場にはモエたんを守るため50人のヲタが集まっている。

「これは‥‥凄い状況ですね‥‥いったい僕らはどうすれば良いんでしょうか、スーザン君‥‥」

 彼らは途方に暮れる鐘依 透(ga6282)の呟きはもとより、邪悪なリア世界からの声に耳を貸さず、一酸化炭素に蝕まれた異様に血色のいいピンク色の顔で息を弾ませている。
 モエたんの癒し電波に脳内浄化され、頭痛耳なり吐き気などの症状をほとんど自覚する事なく天国へ直行する準備は出来ていた。
 数人がパラダイスを夢見ながら満面の笑みを浮かべ、その意識を今! 宇宙意志に拡散させようとしている!
 世知辛い一般社会からの蔑みという十字架を担う二次元の戦士よ。汝の求める因果地平のヴァルハラには萌え萌えな戦乙女たちが待つであろう。
 ――ヲタクよ、逝ってよし!

「‥‥雪花、なんだそれは」

「いヤ、見るからに面白い状況だたかラ、即興でナレーションしてみたのコトヨ」

 犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)に向けアハハと屈託なく笑う楊 雪花(gc7252)は、 さて、と話を切り替えた。

「来るなりご機嫌悪そうネ、犬彦サン」

「当たり前だ。バグアの兵器だと聞いて来てみれば‥‥なんだこの醜悪な連中は‥‥やつらの相手をしろと‥‥?」

 うんざりした犬彦の耳に、屑どもの鳴き声が聞こえてくる。

「帰れ三次元女ども! ムダ毛が生えるくせに!」

「現実の女なんかどいつもこいつも雌犬だ、顔も心も口も汚い!」

「モエたんに寄るな、モエたんが汚れる!」

 人間としてこれ以上は出来ないほどの蔑みを浮かべた真顔で、彼女は言った。

「煩い豚共がよくほえる‥‥養豚場に送り返してやろうか、クール便の着払いで。バラして詰め直せば小包に入るだろう。おい女、あれは殺してしまっても構わんよな」

 スーザンも冷たく平静な真顔で返す。メガホンを足元に投げて。

「そうね。ただ惜しいことに、彼らアレでも人間なのよね。私たちが手を直に下すと面倒よ。ここは思い切り人目があるし」

「そうか。じゃあいっそのこと一酸化炭素中毒で全員倒れるまで待つか。そうすれば楽に運び出せるぞ」

「あら、それとってもいい考えね」

 けっこう本気が入ってそうな会話を、透が慌てて止めに入る。適度にアニメやゲームを楽しめる程度のライトユーザーとして、同性として、目の前のヲタクたちがちょっとだけ不憫であったのだ。

「待ってください二人とも、いくら何でも見殺しは駄目ですよ」

 村雨 狼騎(gc8089)もまた彼らを擁護する。

「そうだよ、ヲタにもミミズやオケラやアメンボと一緒で生きる権利はあるんだから、一応は助けないとね! ケガしても職務上の不可抗力として!」

 まあ、彼女のは少しあやしいが。
 そこに雪花が余裕たっぷりで、ち、ち、ちと人差し指を振った。

「皆心配せずともヨロシ。私に秘策があるネ」

 彼女曰く、ここにいるヲタたちにはまだ付け入るすきがあるらしい。

「真に解脱したマイスター級の人間ハ、三次元云々を口に出すことは無いモノヨ。ああやて騒いでるトコからするにニ、彼らはまだその段階にまで至らない甘チャン‥‥この雪花サンの灰色ブレインそしてこのシャブもといお薬あれば無問題ヨ!」

 彼女が自慢げにかざした注射器に何が入っているのかあえて尋ねるものはいなかった。
 ひとまず透は先に扉や窓を全て開け放ち、換気扇を動かすために走りだす。
 会場は広いから充満する事はまずないと思うが、念のため。もしかしたら円陣周辺の濃度も少しは薄らぐか知れない。
 ヲタクたちは意気軒昂に叫びまくっている。

「みんな、モエを守って?」

「ああっ、守るよモエたん、心配しないで!」

「君の魅力に、なんだか立ちくらみがしてきたよ!」

「酸っぱい愛が込み上げてくるよ!」

 台詞からするに、刻一刻症状が悪化している。



「怪奇の事件はバグアの仕業っ! ボクのエミタからほとばしる、怒りの電流を見せてやるっ!!」

 右手を垂直に上げ時計回しに円を描き、狼騎はポーズを決めた。

「行くぞボクの相棒、真紅の可変バイク『電迅ガローガー』! 久遠ヶ‥‥じゃない、カンパ何とか学園から颯爽登場っ」

 一部異世界からの引用があったが無視し、AU−KVとの合体儀式を続行する。

『説明しよう! 村雨 狼騎に内蔵されたエミタから発生する高エネルギー、通称【怒りの電流】が覚醒時に発動。一瞬だが全身を紅の電撃が包むのだ!』

 どこからかナレーションが聞こえてきた。と思ったら狼騎が一人二役で喋っていた。器用な子だ。
 紅の電撃に包まれた彼女は、拳を天に突き上げる。

「滾る紅い稲妻は、燃える怒りの紅い色! 人々の心を操り平和を乱す、卑劣な悪魔の所業!! このボクと正義の戦士、電迅ガローガーが許さないぞっ!!!」

 赤い稲妻が一瞬狼のような姿になって猛り、会場の天井目がけ一目散に駆け上がっていく。視覚効果はばっちりだ。

「立ち上がれ、紅の鉄人! チェーンジッ! シュートだ、ガローガー!! 人機一体、ボクとお前は熱い絆の兄弟なんだ!」

 彼女がそうしている間に、当然他のメンバーはヲタク折伏に動いていた。
 まず倒れてそのままな人間を透が素早く引きずり出し、窓際まで運んで行く。
 別に努力はいらなかった。相手は気絶しているし、倒れている仲間に対してヲタは気にかけていないし。
 彼らにとって大事なのは、あくまでもモエたんなのだ。モエたんこそが神なのだ。
 そういう輩をどのように攻略するか。
 雪花はそのミッションに早速挑んだ。円陣にいる猫背のひょろひょろした青年を二人選びだし引きずり出す。

「さぁそこの貴男チョトこち来て来テモエたんの秘密知りたくないかナー?」

 選抜の理由は彼らが外側にいたことと、脂ぎってないからまだしも触りやすそうだということだけ。

「な、なんだ、寄るな触るな、モエたんの敵め!」

「三次元になど用はない!」

 彼らは最初いきり立っていた。しかし雪花が胸を押し付けるように小さく囁きなだめ始めると、急に勢いを失った。

「そうだネ、モエたんは悪くないネ。スーザンサンは年増だかラ嫉妬してるのヨ」

 やはりこいつら解脱し切れてない。

「ちょっと、私まだ10代よ!」

 スーザンから苦情を言われつつ確信を抱く雪花は、後ろ手にしている注射器が満タンなのを確かめ、言葉を継ぐ。

「そう、モエたんは悪い悪いバグアに利用されてるだけのコトネ‥‥」

「おお。分かってくれるのか女!」

「そうだ、モエたんは悪くないんだ!」

 理解を得たと思ったヲタに向け彼女は、急転直下伏せ字だらけの作り話を始めた。

「しかシ、そんなバグアの奴らガ整備の為と称しテ、モエたんを抵抗出来ないよう×××、×××や××を×××した上内部機器を検査するんだと×××を××シ、あまつさえ×××なことまでやてるのヨ! そんな一部始終をデジカメ撮影しデータ保存、DVDに焼き増しする鬼畜ぶりヨ!」

 一気に言い切った後チャイナ娘は神業的な早さで2人の首筋に注射針を刺し、未知の薬品を注入し終えた。それからウソ泣きを入れる。

「可哀想ニ‥‥整備の度に天使のモエたん身も心もボロボロヨ‥‥」

 ヲタたちはよろめき、モエたんに向けて叫んだ。

「モ、モエたん、本当なのかい!」

 モエたんは頭がよくないし話を聞いてもいない。登録されている言葉を再度口にするだけだ。

「みんな、モエを守って?」

 聞きようによって肯定と取れなくもない。薬が回ってきているヲタたちにはなおそう聞こえる。

「おまけに奴らはそれでも飽き足らず、貴方達を人質にしテ、嫌がるモエたんに寄ってたかって×××なことや×××なことをさせるつもりネ! そんなことされたらモエたんの心が本当に壊れてしまウ! モエたんを助けるためと思てチョトの間離れててと皆に伝えてくれないかナー?」

(‥‥ここまで言ってバグアから名誉棄損の苦情来ないかな‥‥)

 捕縛用の縄を持って後ろからこっそり集団に近づいて行く透は、雪花の華麗なる嘘八百に汗をかく。
 とにかく放されるやヲタたちは、急いで仲間の元に戻り伝言を行った。
 外側において動揺が広がる。スクラムが崩れた。そのことに内側が激しく反発する。

「騙されるな、作り話だ! 奴らこそがモエたんを破壊しようとしているんだ!」

「洗脳工作だ!」

「なんだと、お前達はモエたんが壊れてしまってもいいのか!」

「黙れ、三次元の意見に惑わされるカスはこのサークルから出て行け!」

 ヲタたちの間で誰の得にもならぬ争いが起こった。
 仲裁するふりをして、狼騎が割りこむ。

「落ち着いて、とにかく冷静に考えようよ!」

 スキル竜の尾を発動させ、モエたんの毒電波を中和出来ないかと試みたのだ。

「そもそもお前は最初から考えがなってない! モエたんの魅力は妹属性にあるんだ!」

「違う、そんなものはゴミだ! 彼女は彼女単体で愛でられるべき存在なんだ! 兄の存在なんてクソくらえだ! 彼女の魅力は彼女自身のボケキャラにある!」

「‥‥モエは、モエはみんなと仲良くしたいだけなのに!」

 が、あんまり効いてなさそうだった。
 仕方ないので急遽実力行使に切り替える。

「あのね、そういうことは別のところで議論して」

 端にいた奴のみぞおちに一発入れ、倒す。
 些事に付き合わされた責任をどう取ってくれると最初から苛ついていた犬彦も、議論を待たず反対側から排除を始めた。

「‥‥おいそこの手前にいるメガネの奴‥‥いや殆どメガネか‥‥よしよしちょっとこい、そして眼を閉じてろ」

 言ってはいるが相手が目を瞑るまで待っちゃいない。手加減も、まあ、あんまりしていないんじゃないだろうか。
 デコピンを受けたヲタがひねりを加えて空中回転しメガネと分離、ズシャアアと床に叩きつけられ沈黙する。

「よしっ、次おまえ。なに直ぐ終わる、痛みを感じる暇もなく眠れるから安心しろ」

 雪花も聞き分けの悪いヲタの首筋目がけ、注射針を刺している。

「はいはイ、下がててネー」

 刺された相手は不自然にがくがく頷き離れて行き、10歩も行かずに倒れた。
 何が入っているのか非常に心配だ。
 思いながら透は次々出てくる負傷者をスーザンとともに回収、現場の隅に連れて行く。危なそうなのは、そのまま救急隊員に渡す。意識のある奴は簡単に引っ括って、風通しの良さそうなところへ転がしておく。

「手荒で本当にすみません‥‥少しだけ我慢を‥‥」

「うわあああ、モエたん、モエたんがあああ!」

「静かにしてください、あなた達のためなんですから」

「うるせえ年増ババア! お前なんかに12歳未満を愛するオレたちの気持ちがあぎゃあああごめんなさいごめんなさい!」

 救助者がスーザンのブーツで顔を踏みにじられている。
 あんまり同情する気が起きない透は、遠い目を窓から見える青空に向けた。

「洗脳かなこれ‥‥厄介だよなぁ‥‥本当」

 さてこのようにして50人のヲタたちは千切っては投げ千切っては投げの勢いで処理され、最後に2人が残るだけとなった。
 困ったことに彼ら、モエたんにがしとくっついている。

「他の誰が騙されてもオレたちは騙されんぞ!」

「そうとも! 我々のヲタ魂を甘く見るなよ!」

 このままゴーレムと共に「ガブリエル」のサビにしてやろうか。
 9割方本気で思う犬彦を制し、雪花は挑む。彼らのヲタ魂を彼女お得意の流言蜚語で挫いてやろうと。挫かないまでも動揺させて引きはがす隙を作ろうと。

「業界の人に聞いたけど清純で売ってるモエたん? あの子裏では相当なビ●チだってヨ。脚本サンや監督さんや声優サンに体で媚売てコネを掴んでるトカー。そういやこの前スポンサーのFサンの車に同乗してるの見たヨ、深夜の銀座デ。その前は出演者のOサントー? 全くあの子皆と仲良しさんみたいネー」

(‥‥製作会社から営業妨害で訴えられないかな‥‥ていうかすでにアニメキャラの話じゃないですよこれ‥‥)

 はらはらする透。
 しかしヲタたちは不敵に含み笑いを漏らした。そして高らかに言った。

「くくく。何かと思えばそんな情報か。残念だが我々はそんなものではびくともしない。何故なら‥‥我々はむしろモエたんがそうであれかしと願っているヒトだからだ!」

「ふふふ。そう、オレたちはモエたんがバグアに汚されることを恐れはしない‥‥むしろそれを見て楽しみたいのさ! 無理矢理あれこれされるモエたんの姿にこそモエなのだ!」

「そうとも、そしてあげく心を壊しビッ●に走るモエたん‥‥素晴らしくモエモエるシチュだ‥‥というかそのバグアDVDどこに行ったら買えるのかな。はあはあ。想像するだけで興奮しますな」

「そうだな。うへへへへ」

 雪花が珍しく表情を変え半歩後ずさった。彼女さえもこの暗黒エナジーは正直きつかったらしい。
 他のメンバーに至ってはむろんドン引きだ。スーザンなど秒速で至近距離からライフルを放とうとし、透からすんでのところで阻止されていた。
 だが、悪は尽きるもの。

「力尽くで排除するヨ! どーせ期が変われば次の作品に移るような奴らヨ気にすることないネ!」

 最後のヲタたちは雪花の注射と狼騎の裏拳と犬彦のデコピンとスーザンのブーツ蹴りによって危険なバグア兵器から引きはがされ、透の縄でぐるぐる巻にされ、はるか彼方へ投げられた。
 確実にやり過ぎているのだが、誰も突っ込まない。
 で、モエたんはいうと、狼騎により外に引き出された後、透の「ティルフィング」、犬彦の「ガブリエル」、雪花の「ティルフィング」によって爆破処理が行われた。
 特に犬彦の攻撃は、

「どいつもこいつも‥‥こんな玩具でぎゃあぎゃあ騒ぐな!」

 バグア兵器以外への怒りも交えてすさまじいものだった。

 ドオォオオオオオン!

 かくしてモエたん大爆発。
 その時ヲタたちの悲痛な叫びは天を焦がさんばかりに響き渡り、地の埃を揺るがした。

「「いやあああああああ!!」」



 正義は勝つ。それが今回の任務における結論である。