タイトル:松茸BOMBマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/15 22:18

●オープニング本文


 少し時期はズレるかもしれないけど、ここはさる松茸山。今が絶好の狩りシーズン。
 今年は特に生り年なのか、あっちの松の根元にも、こっちの松の根元にもニョキニョキ大豊作。だから例年以上にツアー客を呼べると、山主もホクホクしていた。
 かくしてうれしく迎えた解禁日、悲劇は起きる。
 一番乗りのツアー客が山に入って数分後、あっちでもこっちでも爆発音が響いたのだ。

「なっ、なんだ!?」

 大急ぎで様子見に行けば、複数の客が顔を押さえて倒れていた。傍らに黒煙のくすぶる中。
 事情を聞いてみるに、松茸を引き抜こうとしたらいきなり破裂したとのこと。
 死人は出なかったが、顔に火傷などした負傷者多数。
 調べてみると松茸型をしたキメラが紛れ込んでいることが判明した。それが爆発したのだ。
 さあこうなると危なくて一般客など呼べない。とにもかくにも偽物を完全に除かなくては。



「と、いうわけで、傭兵さま限定松茸狩りを行います! キメラ茸ともどもどしどし狩っていって下さい!」

 松茸の名につられてきた傭兵たちは、早速山に入っていく。キメラ退治をしようと、そして本日一日を松茸色に染めようと。

「お持ち帰りされる際は、お買い上げ願います! その代わりこの敷地内でいただかれる場合は無料といたします!」



●参加者一覧

漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
ルディ・ローラン(gc6655
10歳・♂・HA
月隠 朔夜(gc7397
18歳・♀・AA
坂上 透(gc8191
10歳・♀・FC

●リプレイ本文

 天高く馬肥ゆる秋晴れ。
 バスから降りた月隠 朔夜(gc7397)は、のんびり松茸山を見上げた。

「キメラ退治の松茸狩りですよ〜」

 そう、今回の任務は報酬と食べ放題を兼ねそなえた一粒で二度おいしいもの。
 その旨みを存分に味わおうと最上 憐 (gb0002)は、貸し出してもらったカゴを背に、トングを手に、準備万端の装いだ。

「‥‥ん。食べ放題。食べ放題。眼に映るモノ。全て。食べ放題。心躍るね」

 大きな保冷バッグを持ってきているUNKNOWN(ga4276)は開口一番、同行者に以下の提案をしてきた。

「どうだろう、集合ポイントと時間を先に決めておくのは。俺としては川縁の平らな場所がいいだろうと思うんだが。そこに魚の罠も仕掛ける予定だからな」

「それ、いいね。どうせ分散しなきゃいけないんだし」

 早速賛成したのは、ルディ・ローラン(gc6655)。大きなリュックを背負い、キノコ図鑑を手にしている。本人曰く「だって毒当たったら怖いじゃん」とのこと。
 それはそれとして北欧出身の彼は、松茸なるものにあまり馴染みがない。

「日本の秋の味覚の代表なんだっけ。そんな美味いの?」

 赤宮 リア(ga9958)が大きく頷く。

「おいしいですよ。松茸って実家ではよく食べましたけど、自分で採るのは初めてなので楽しみです♪」

 彼女は浮き浮きしている。夫の漸 王零(ga2930)が同行しているということもあり、半分デートしている気持ちなのだ。

「トラップ型とは言え久しぶりの生身戦なんだから無理しない様にな」

 そんな気遣いの言葉に、頬を染めて返す。

「大丈夫ですよ、王零さん――いえ、アナタ♪」

 あつあつぶりを前にシクル・ハーツ(gc1986)はちょっと照れてしまい、視線を外す。

「な、なんか狙う対象が、すごいピンポイントなキメラだよね‥‥」

 外した先に見えるのは猛々しさなど欠片もない、おまんじゅう型の山。緊張感を醸し出すのも難しい。

「確かにのう。しかし我々にとっては好都合。キメラが発生したからこそ、ツアー客のオバサン軍団に根こそぎ搾取されてしまう前に、存分美味を独り占め出来る」

 足元を見ると、しゃがみこんだ坂上 透(gc8191)が持参してきた七輪の火を起こそうとしている。
 誓っていいが彼女は今回、キメラ狩りをしようと思っていない。あなた取る人私食べる人の原則を貫こうという所存。
 朔夜は山の入り口にそびえる「松茸山ファーム」の看板を眺め、しきりと不審がっている。

「それにしても‥‥松茸は人工で作れないのに不思議です‥‥一体どんな培養方法を確立したんでしょう」

「そうだね‥‥っていうか、本当にキメラってなんでもありだよね」

 元々は自生している場所を囲い込んだだけのようだが、どうしてバグアはその無駄にレベルの高い科学技術を世のため人のために使ってくれないのか。人類の敵に願ってみても無駄とはいえ、ルディは心底惜しい気がする。
 ともあれ生えてしまったものはしょうがないから除去しなくては。
 リアは皆に、ざっとした区域分担をしようと持ちかけた。

「そうしたら取りこぼしが少なくなるかと思うのですよ」

 反対意見はない。
 参加者たちは看板のマップと案内パンフレットを今一度確かめ、大まかな担当を決めた。

「では、スタート。狩りを楽しもう、か」

 UNKNOWNの開始合図とともに、各々狩りに向かう。



「‥‥ん。あっちから。食べられそうな。モノの気配」

 憐は、目視と匂いを頼りに分け入っていく。赤松の落ち葉を踏みながら、地に目をこらし出っ張りを探す。
 山はきちんと手入れされているので林間が込み合っておらず、ものが見えやすい。
 ほどなくして彼女は松茸の群棲を見つけた。

「‥‥ん。早速。発見」

 接近して行き周囲を回るように、トングでちょんちょん小突いていく。

「‥‥ん。本物。本物。本物。‥‥偽物。切り取って。採取。採取」

 紛れ込んでいた奴は鎌で傘の部分を切り取り、引き抜き、カゴに入れて行く。本物の回収は後回し。そっちはいくらでも仲間が採取してくれるだろうと思ったので。
 だが、それ以外に食べられそうなものはその場できっちり回収して行く。ひとまず、頭上にぶら下がっていたアケビなどを。

「‥‥ん。これは。おやつ。おやつ」

 中の実を指でほじくって食しているところ、爆発音が聞こえた。誰か引っ掛かったかなと、彼女は首を傾げる。

「‥‥ん。何か。真っ赤な。茸とか。紫の。茸が。ある。カラフルだけど。危険な匂い。止めておこう」



「あのー、大丈夫−?」

 ルディが声をかけるのも無理はない。UNKNOWNときたら真偽おかまいなしで、手当たり次第松茸を引っこ抜いているのだ。

「ああ、大丈夫だ」

 当然爆発に巻き込まれているのだが、彼はそれらを全て無視。変わらぬペースで引っこ抜きまくっている。

「‥‥FF判定すればいいんじゃないかな」

「その手間が惜しくてな。なに、この程度大したものじゃない。爆竹ほどにもならんよ」

 言ってるそばからまた爆発。
 巻き込まれる気のないルディはさっさと離れ、自分だけで狩りに向かう。

「んー‥‥きのこのこのこ超きのこ‥‥確か松茸って湿気を嫌うから、日当たり良くて風通しのいいところに生えるんだっけ‥‥大体アカマツから20mの範囲内に生えるはず」

 テレビで聞き知った生態を繰り返し呟きながら、目を皿にして地面を探る。
 ほどなくして彼も、目立たない色の一群を発見した。

「あったー! ‥‥けどまだキメラかわかんないんだよね」

 近づき、アーミーナイフを傘に押し当ててみる。解除方法が分かるのだからわざわざダメージを受けなくていい、というのが堅実な彼の考えだ。

「FFのない松茸はただの松茸だ、そうじゃない松茸は良く訓練されたキメラだー‥‥っと」

 1、2、3、4‥‥赤くなった。従ってこれはキメラである。刈り取るべし。



「さて‥‥食欲の秋とはいったものだが‥‥」

 バグアも季節の行事に随分敏感なものだ。
 思いながらリアと探索を続ける王零は、不審な松茸を見つけた。本物に紛れて同化工作している奴が大部分のようだが、中には間違ってしまうのもいるらしい。赤松の幹から直接生えてしまっている。

「うん、これはないな」

 迷いなく「苦無」で傘を切り取り、引っこ抜く。
 リアはといえば彼から少し離れたところで、地面に生えた松茸をレイピアでつつき回り、選別作業をしている。

「一つでも狩り残しがあったら、皆さんが安心して狩れませんからね‥‥」

 無論、本物は抜かりなく収穫だ。
 そうしているところ彼女は、本日一番と思われる逸品を発見した。
 FFが発生しない。本物だ。それにしても何という立派さ。太さといい長さといい間違いのない傑物だ。

「わぁ‥‥これは大きいです♪」

 感嘆の声を発した彼女は、何故か急に黙ってしまった。続いて恥じらいながら赤面する。

「どうしたリア? それはちゃんとした松茸だろう?」

 不審に思った王零が寄ってきて呼びかける。

「あっ! いえ‥‥な‥‥何でもありませんよ?」

 リアはびっくりしたように声を上ずらせ、大松茸を引き抜き、カゴに入れた。
 王零は彼女の言動を特に追求せず、また自分の仕事に戻った。
 離れたところから散発的な爆発音が聞こえてくる。

(あれはUNKNOWNの担当区域からじゃないか‥‥?)

 そうやって気をそらしていたのが悪かったか、傘を切る刃先が滑り、指先を少し切ってしまう。

「っ!」

 今度はリアが慌てて駆け寄ってきた。

「この位ならば、こうすればすぐに治りますよ♪」

 彼女はぱくりと傷ついた指を咥える。
 王零は照れながらも厚意を受ける。
 しかし1分経過し2分経過視してきたところで、段々吸い方がこう――まといつくというか――変な具合になってきた。

「ん‥‥と‥‥リ、リア?」

 声をかけたところで、リアはやっと我に返る。

「ご‥‥ゴメンなさい‥‥今日の私‥‥ちょっと変ですね。」

「‥‥いや‥‥」

 変な気分になりかけたのは自分も一緒とは、王零もさすがに言えなかった。



 シクルは地道に作業を続けていた。
 松茸を見つけたら小石を軽く投げFF確認。偽物だったら刀で傘を切断、不発処理。

「‥‥また偽物か。一体どれだけいるんだ?」

 側では透が七輪の上に網を置きスタンバイしている。先程シクルから貰った野苺を食べながら。

「我の分も忘れるでないぞ。松茸は炭火焼きにして食べるが一番じゃ」

 半眼になってシクルは言った。

「手伝ったらどうだ」

 それに対して透が駄々をこねてきた。

「もし万に一つでも爆発してプリティーチャーミングな我が怪我でもしたらきっちり責任を取ってもらうが良いかの?」

 偽物でも食べさせてやろうか。傘がなければ爆発しないのだから、ある程度大丈夫なんじゃないだろうか。
 思っていたところ、UNKNOWNがやってきた。
 どこでどうしたものか松茸以外マイタケ、サクラシメジ、ホンシメジ、カラスタケにハナビラタケ、アカヤマドリ、ナメタケといった多様な食用キノコばかりでなく、ヤマイモ、キクイモ、ユリネ、サルナシ、アケビ、ヤマブドウ‥‥とにかく雑多な山の幸を手に入れ、あまつさえ仕留めた猪を引きずっている。
 まるでマタギだ。

「これから先に川で料理をしておくが、来るか?」

 透が一も二もなく同行して行ったのは言うまでもない。お陰でシクルは、滞りなく作業を続行出来た。

「本物‥‥だが、まだ小さいな」

 とにかく根気よく1つずつ調べていく。
 しばし過ぎた所で、隣の担当区域にいる朔夜の独り言が聞こえてきた。

「松茸発見です‥‥FFが発生したら偽物だから‥‥武器で触ってみますか〜‥‥FFが発生しない‥‥本物の松茸ですね」

 どうやら向こうもこちらと同じで、偽物探索を終えつつあるらしい。

「あ、シクルさん。そっちはすみましたか〜?」

「ああ、もう少しだ。だが終わった後、もう一度区域を回ってチェックしておこうかと思う」

 何しろ一体いくつばらまかれているか分からないのだ。バグアに聞ければよいけれども、無理だし。



「松茸って食べるの初めて‥‥わぁ、良い香りだね。それじゃあ、頂きます。」

 シクルが手を合わせる河原では、炭火焼き、土瓶蒸し、炊き込みご飯の松茸づくしのみならず、焼き魚あり、バーベキューあり、シシ鍋もあり、みそ汁もあり、山菜揚げもありの大盤振る舞い。
 松茸を割きながら炙り酒と併せて楽しんでいるUNKNOWNが、三ツ星シェフとしての腕を、存分に振るってくれたのである。
 ちなみに王零が作った松茸カレーは、食事開始2分後に消えた。カレーに目がない憐から、あっと言う間に飲みほされて。

「なんかもう松茸づくしだね。ほら食べようぜ」」

 ルディは松茸の炊き込みご飯を取り分ける。
 入っている松茸はけして細切れではない。どれも厚切りだ。小さいものは丸ごと入っていたりする。
 透は早速それを取り、一番に食した。

「ふむ‥‥美味じゃ。やや小ぶりではあるが、おぬしのソレとコレはどちらが大きいかの」

 外見に似合わずオヤジ発言をかます彼女は、仲良く大松茸が焼けるのを待っている王零夫妻にも矛先を向けた。

「お若いの、今巷でナウなヤングに馬鹿ウケの炭火焼松茸はどうじゃ。べっぴんさんは先っぽからくわえて食べるのが良いぞ。阿呆なオス共にはさぞ美味しそうに見えておるじゃろう」

「止めろって透。さっきからセクハラだぞ。飲んでるのか」

 止めに入るルディに、彼女はふんと鼻を鳴らす。

「なんの、酔ってなどおらん。朔夜ではあるまいし」

 名指しを受けた朔夜はテーブルに突っ伏していた。
 といって彼女も別に飲んでいるわけではない。周囲に置かれた地酒の匂いだけでめろめろになってしまっているのだ。

「ふにゅ‥‥ヒック‥‥うぅ‥‥人前でイチャイチャなんて出来ないですよ‥‥見せつけないでくらさいよお‥‥」

 松茸とイワナのホイル焼きを食べつつ泣きぬれている。どうやら泣き上戸‥‥もとい泣き下戸であるもようだ。

「何だか眠いです‥‥すぴー」

 あげく寝てしまった。
 その間も子供組はなんだかだ姦しい。

「ルディ、ルディと言ったか‥‥おぬし良い奴じゃの。バーベキューの串、取ってくれんかの」

「はいはい。ほらこっちもう焼けてるね。これは大丈夫」

「そちらの小兎はちぃっとばかし味わって食べたらどうじゃ‥‥鍋を湯水のように飲み込みおって‥‥」

「‥‥ん。これが。私の。食し方。2人共。沢山。食べている? 沢山食べないと。身長が。伸びないよ? 私は。沢山食べて。2メートル位を。目指してる」

「2メートル? すごい目標だなあ」

「バスケ選手並じゃのう。まあおぬしのエネルギー摂取量からするに、とっくの昔にそうなっていておかしくない気もするが」

 わいわいやっているところ、シクルが焼きたてのケーキを持ってやってきた。
 彼女、料理の腕は壊滅的だが、菓子作りの腕は確かなのである。

「みんな、これもついでに食べる? 野苺のと、山栗のと‥‥松茸入れて焼いてみたのもあるんだけど」

「‥‥ほう、なかなか大胆な試みじゃな」

「‥‥ん。とにかく。いただく。お腹に。余地。アリアリ。デザートは。別腹」

 王零とリアの松茸も焼けた。
 リアはそれを二つに分け、まず王零に食べさせた。

「おいしい?」

「ああ。リアもどうぞ」

 相手から食べさせて貰った彼女は、一言漏らした。

「おいしい‥‥」

 何とも言えない色っぽさを漂わせながら。



 松茸狩りの帰り。
 王零は取ったものをいくらか買い込んでいくことにした。感謝と応援の印に。

「ごちそうさま。久しぶりに秋らしい食事ができてよかったよ。これからもがんばってくれ」

「おお、お気遣いありがとうございます」

 山主は好意に喜び、大いに割り引きしてくれた。
 そこでシクルが、一応、と前置きして言う。

「念のためにこれからも暫くの間、取る前にチェックはして貰った方がいいかもしれないね。ツアー会社や管理元には注意するように呼びかけしていただけるといいかと」

「はい、分かりました。前以てご確認くださるよう周知徹底致します」

 透も言う。

「のう山主よ。いくら素晴らしい松茸山でもキメラ騒ぎがあったとなれば、イメージダウンは免れん。そこで我が松茸狩りをする様を広告として使ってみろ。ちびっこから大きなお兄さん、果てはお爺さんお婆さんまで、老若男女にウケること間違いなしじゃ。何なら透ちゃんブランドの松茸として販売してもかまわん。その代わり人には言えない饅頭の箱詰めはたっぷりはずんで‥‥」

 だが途中でルディから引っ張られ、バスに連れ戻されていく。

「何をする、まだ我のビジネス話が終わっておらんぞ!」

「いいから、もう帰る時間だよ。皆待ってるんだから」



 かくして松茸狩りの一日は、満腹のうちに幕を閉じたのであった。