タイトル:冬の貢物マスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/24 03:28

●オープニング本文



 そろそろ年の瀬。
 年の瀬といえばお歳暮。
 お歳暮といえば実家関係。
 そんなわけでレオポールは頭を悩ませている。
 とても怖いパンダなビーストマン舅エドワードが、今年になってふいに帰ってくるまでは簡単だったのだ。一番安いクッキーの詰め合わせを送るだけでよかったのだから。
 しかしもうそうもいくまい。もっと高価な貢物を持っていかなければ絶対承知しないだろう。

「なにがいいかな」

 デパートのお歳暮売り場をうろうろしながら犬男は考える。
 無難なところでサラダ油かな、ビールかな、酒かな、コーヒーかな、茶葉かな。
 ハムとか鮭とかもあるよな。イクラとか、数の子とかも捨てがたい。

「どうも分かんねえな‥‥」

 決められないまま帰宅した彼は、妻メリーが実家の母に電話しているのを聞いた。

「あら、お父さん、お気に入りの竹棒が壊れてしまったの‥‥それは困ったわねえ」

 竹棒というのはエドワードが使っている鍛錬器具。ぶっとい竹を組み合わせて作った巨大ヌンチャクである。
 とりあえず送ったらある程度喜ばれる品物を見つけたので、レオポールはすっかり気が楽になった。
 竹林へ明日竹を取りに行っとこう。
 お気楽に考えていたところ携帯電話が鳴った。
 受けてみると傭兵仲間から。
 内容は、任務の数合わせに来てくれないかというものだった。



 ビュンビュンビュン。

 空気が唸り千切れる。
 目の前にいるのは触手状の根っこを駆使し、地上を歩き回っている太い竹の群れ。体から生えている枝は長く柔らかにしなり、鞭のように振り回され続けている。
 これがまあ早い早い。そして多い多い。叩かれずに接近するなど不可能っぽい。

「いててててて! なんだよ近づけねえよ!」

 敵を見ているのか見ていないのか定かでないが竹たちは一心に、束になって前進していく。
 行く手になにがあろうが知ったことではない。鞭で叩いて追い払うか、あるいは破壊するのみだ。
 どこからともなく現れた彼らは刈り入れの終わった田んぼを驀進、目下農道を経由しじりじり町に向けて接近中である。



●参加者一覧

門鞍将司(ga4266
29歳・♂・ER
緑川 めぐみ(ga8223
15歳・♀・ER
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
ノエル・アーカレイド(gb9437
20歳・♀・ER
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
楊 雪花(gc7252
17歳・♀・HD
坂上 透(gc8191
10歳・♀・FC

●リプレイ本文

 レオポールが逃げ戻ってきた。キャンキャン鳴いて。
 シクル・ハーツ(gc1986)は、ひとまず彼に挨拶をする。

「あ、レオポールさん、久しぶりだね。毛の長さも元に戻ったんだね。尻尾もフサフサ」

 レオポールは敵から見えないよう田んぼの土手に伏せをし、ぱたぱた尻尾を振る。

「おう。なんとかな‥‥」

 門鞍将司(ga4266)も引き続き挨拶を。

「やあ、息子さんの絵日記以来ですねぇ、レオポールさん。お歳暮はお付き合いをするうえでは欠かせないものですよぉ。それがお舅さんでしたらなおさらですぅ。竹棒をお渡しできるように頑張りましょうねぇ」

「‥‥うん。そうしようかと思ったけど、別に竹棒じゃなくてもいい気がしてきた‥‥」

 春夏秋冬 立花(gc3009)は弱音満載のレオポールをまじまじ眺めた。
 この男、聞きしに勝る類い稀なヘタレ。なんだか指導意欲が湧いてくる。

「はじめまして。戦わないんですか?」

 コリーは顔を持ち上げた。

「そうしようかな」

 聞き捨てならない言葉が発された気もするがスルーし、おだて作戦を続行する。

「話は聞いていますよ、レオポールさん。覚えています? 初めは敵の前に立つこともできませんでした‥‥それから前に立てるようになって、そして今は戦えるようになりましたね。凄い進歩です。よっ! 一等賞!」

 レオポールは単純なので、褒められるといい気になる。

「次は自分の力で戦って倒す番です! 貴方なら出来ます!」

「そっかな」

「そうですとも! GO! レオポール!」

 彼は再び剣を持って竹軍団に近づいた。
 振り回される鞭の射程外から腕を伸ばしてなんとかつつこうとし、鼻先を打たれ、また大急ぎですっこんで帰ってくる。

「私を含め、あなたより一回りも小さい女の子が戦っているんですよ? 自分の子供たちに顔向けは出来るんですか――」

 延々立花から怒られる姿を冷静に眺めているのは、 最上 憐(gb0002)。
 巨大タケノコがいないのが残念至極な彼女であるが、気落ちはしないこととする。クリスマスツリーにする為の樹として、あの竹は格好の獲物。長くて枝が沢山ある。適度に切り残して倒せば、飾り物も十分ぶら下げられるであろう。

「竹をツリーですか〜、モミの木ではなくて〜」

 首を傾げるノエル・アーカレイド(gb9437)に憐は、自信を持って断言した。

「‥‥ん。竹も。モミの木も。似た様なモノ。カレーと。シチュー位は。似てる」

 ノエルはその論に些か納得出来なかったが、追求しないこととした。まず重要なのはキメラ退治だ。
 見ている限り、鞭はともかく進行速度は一定で、しかもかなり遅い。

「なかなかにシュールな光景ですが〜、あまりのんびりとはしていられませんね〜」

 呟いて彼女は、竹軍団の側面へ移動して行く。
 一方坂上 透(gc8191)は現場に来て以降、ずっとやる気を起こしていなかった。お歳暮というキーワードに釣られて来てみたら面白くもない竹がいるだけなので、すっかりくさってしまったのである。

「キメラの相手は嫌じゃ、お腹が空くであろう。竹なんぞ狩っても、まったく腹の足しにならん。誰ぞ我をデパ地下に連れて行け、デパ地下に。美味しいものを買ってこい‥‥お腹が空いた‥‥何か食べ物‥‥」

 腹の虫の命ずるままじたばたする透に救いの手を差し伸べたのは、意外な事に楊 雪花(gc7252)だった。

「うーン。デパ地下じゃなくて暗黒街のお店なら連れて行てあげられるのだガ、透サンにはちと早いネ。そんなわけでこの豚マンあげようかネ。デパ地下じゃなくてワタシのお手製だけド」

 かく述べ、どこに隠していたか分からない熱々の豚マンを出し、与える。
 透はたちまち彼女になついた。食べ物をくれる人=いい人という公式は、彼女のうちで揺るぎない。

「おぉ仏様じゃ‥‥」

「その通りヨ。ワタシは日々、世の善男善女をあらゆる手立てでニルヴァーナへ導かんと努力してるネ」

 雪花はもう一つ豚マンを出し、憐へも勧めにかかった。

「最上サンもどうネ。勇気と元気とその他のモノが湧いてくるかも知れない薬草が入テ、美味なるコトヨ」

 ちらっと危険な要素が台詞に入っていたが、鉄の胃袋には恐るるに足らずと思ったか、すんなり受け取りすんなり食べた。
 竹はとにかく遅いので、傭兵たちがこうしてあれこれしている間も、あまり進んでない。
 とまれ二回も叩かれたレオポールはすっかり脅えてしまい、後衛に回りたいとか泣き言を口走り。

「レオポールさん、逃げないでくださいね? あなたがキメラを倒さないでどうするんですか。逃げ出すようなことをしたらエドワードさんに言いつけますよ。いいんですか?」

 温厚な将司にまでこう言われる始末。

「どうしてそういう情のないこと言うんだよお」

 さほど温厚ではない緑川 めぐみ(ga8223)は、べそをかいているコリーのふさふさな襟毛をつかみ、叱咤した。

「さあ、レオポールさん、お仕事ですよ。きちんと仕事しないと呪歌で動けなくして前線に放り込みますよ。嫌なら獣の皮膚でも使って装甲固めて前進してとっとと終わらせる!」

「ヤダヤダ! 大体お前ずるいぞ! 自分は目茶苦茶重装甲じゃんか!」

「準備してこないのが悪いんです! 地面にしがみつくんじゃありませんみっともない!」

 こんな場合のレオポールはとても粘り強い。憐も手伝おうと寄って来て、尻尾を引っ張りてがら元気づける。

「‥‥ん。死にはしない。レオポール。気合いを見せる時だよ。突撃とか。特攻とか。玉砕とか」

「言葉変えても死ぬだろ全部!」

「‥‥ん。肉は。沢山。叩くと。美味しくなる。レオポールも。美味しくなるかもよ?」

「それ励ましでもなんでもねえ‥‥」

 そこに雪花が近づいて来た。
 彼女はレオポールを庇う気か、めぐみたちの前に立ちはだかり首を振る。

「皆レオポールを虐待してはいけないのコトヨ。犬は褒めて伸ばさないト」

 レオポールは尻尾を千切れるばかりに振り倒し、目をキラキラ輝かせる。

「‥‥お前‥‥色々怪しいけどたまにはいい奴なのか!」

 雪花もキラキラした笑みで返す。

「フフ、そウ、ワタシは天から堕ちた飛べないエンジェル‥‥そう思てくれて間違いないネ。実はレオポールのためにお歳暮を用意したネ。日頃お世話になてるお礼にと思てネ。このジャーキーセットがそうヨ!」

 彼女が出してきたのはどう見てもペット用ジャーキーセットだったが、レオポールは気にならないようだった。なお尻尾を振り立てている。

「おお、ありがとな。家の土産にするぜ」

「喜んでもらて嬉しいヨ。さァ遠慮なくどうゾ‥‥おおと手が滑タ!」

 雪花がジャーキーを投げた。理想的なフォームで。それは放物線を描き、竹林の足元に落ちる。

「最高級! 国産! 和牛ジャーキーだたのに! ごめんネ、レオポール‥‥」

 雪花の小芝居を待たずレオポールは駆け出していた。落ちてきた袋に興味を示さずのろのろ接近してくる竹林系キメラの群れに、自ら飛び込んで行く。叫び声を上げて。

「ジャーキー!」

 こっちには竹も十分反応した。寄ってたかってスライディングしてきた異物をしばき倒す。

「あひゃああああ!」

 あまりに分かりやすいレオポールの行動に、シクルと立花はそっと涙を拭った。
 まあそれはそれとして竹の注意がそれたのをいいことに、全員攻撃態勢に入る。



 ノエルが竹の群れに向け「ヘスペリデス」での遠距離攻撃を行った。
 憐はその反対側から「ガトリング」での射撃を始める。
 激しい炸裂音が響き、火花が散る。だが竹はなぎ倒されなかった。鞭の手を駆使し、飛んでくるものを弾いたのである。衝撃で手の鞭が何本も千切れたが、本体は目立つほど損傷していない。
 硝煙の立ち込める中、ジャーキー袋を抱えたレオポールはやっと集中攻撃を免れ、ほうほうの態で這い出してきた。

「おまえらオレを殺す気かああ」

 あちこち毛が擦り切れ泣き濡れている犬男に、将司が素早く練成治療を施す。ジャーキー袋を取り上げて。

「これは預かっておいてあげますから。協力し甲斐がなくなるようなことはしないでくださいね」

 他の接近組と一緒にレオポールの武器も強化してやった後、彼は迫る竹軍団に向かい、弱体を仕掛けた。

「なるほど、確かに速いな。迂闊に近づけなさそうだ‥‥ならば、近づかなければいいだけの話‥‥!」

 射程外からシクルが「風鳥」で切りかかった。
 暴風の如く叩きつけてくる援護射撃を背景にし、まるで剣舞をするよう、鞭を相手に白刃を振るう。彼女に降りかかる打撃はいくつか当たり、いくつか千切れる。
 その姿を前に、めぐみが犬男をせかす。

「地味に痛いですが、その程度で根を挙げていては問題ですよ。もっと凄いキメラと戦った経験あるのでしょう?」

「ねえよ‥‥こんなでけえ集団となんてねえよ‥‥」

 しおれているレオポールの肩を叩いたのは、雪花だ。

「そういや確かに大型キメラ集団相手にしたことはなかたかネ。でも気を取り直して牙を剥き出しながら回転突撃しようカ。奥羽の犬は皆これやてるのことネ」

「実在しねえよあんな超犬軍団! そしてオレは犬じゃねえ!」

 何の説得力もなくワンワン吠えるレオポール。
 立花はそんな彼に対して、よきアドバイスをする。「ダンタリオン」でシクルの援護をしながら。

「相手の射程に入ったら相手の攻撃は必ず当たります。つまり、言い換えれば、そこを攻撃したら必ずこっちの攻撃も当たるんです!」

 彼女は巧みに竹の射程内に近づき、「凄皇弐式」をかざした。鞭が届くか届かないかの刹那、一閃。
 こうやって徐々に向こうとの距離を縮めていけば、攻撃を回避しつつ本体にたどり着けるという、理屈では正しい――レオポールにも飲み込みやすい考えだった。

「あ、なるほど!」

 なので彼は早速立花の真似をする。
 ただこれは、竹が直立したままでいるとすればの話である。
 本物の竹がそうであるように、このキメラもしなるのだ。しなってくれば鞭との距離が縮まってしまい、やはり叩かれる。というか叩かれた。特にレオポールは往復で。

「駄目じゃんかよお」

「どうしてだろう? 目から汗が止まらない‥‥ええと‥‥まあ、とにかく、痛みを伴わない戦いはないということですよ!」

 立花は群れの中に突っ込んだ。「機械剣α」を手にしためぐみも、「ティルフィング」を構えた雪花も、飛び込む。
 こうなってはレオポールも逃げるわけにいかない。キャンキャン言いながら、鞭の嵐の中へ入って行くしかない。
 その姿を見、遠距離攻撃を一通り終えた面々が、近距離攻撃に切り替える。

「‥‥ん。全速力で。突撃。強行突破して。一気に。倒す」

 憐は「ハーメルン」をきらめかせ援護のため、鞭を重点的に刈りとる。多少打撃を食らっても、怯むことなく。

「遠くから攻撃していてはらちが明かないようでしたら〜、思い切って近付かないとですね〜」

 ノエルも「セレスタイン」で側面から切りかかる。
 腕の千切れた透き間を見計らい胴体へ刃を入れると、悲鳴も上げず倒れたまま動かなくなった。割と簡単に再起不能となってしまうようだ。
 シクルは一旦離れ、「風鳥」から「電上動」に持ち替えて弾頭矢を、竹の足元目がけ矢継ぎ早に打ち出した。触手が損傷し進行が止まる。
 地味に叩かれ続けるのに段々腹が立ってきためぐみは、頭上から降り落ちてくる鞭の群れを睨み、こう言い放った。

「ふふふ‥‥面倒ですね。電波増幅発動、消えなさい。ここは貴方の居場所ではありません」

 防御のことは脇に置き、一気に胴体目がけて切り込む。
 彼女によっても、また他の人間によっても、竹が次々中途から胴切にされていく。
 が、困ったことにそれが動きの邪魔になってきた。キメラにとってもそうだろうが人間にとっても。残り後2本なのだが。

「うーン、どうするカ。一旦倒れたの撤去するカ?」

 実はまだ戦闘参加していなかった透が、ここでようやく豚マンを食べ終わり、腰を上げる。

「しかし竹ごときに手こずりおって‥‥見ていられん。ここは我も働いてやるとするかの」

 彼女の獲物は小さな体に不釣り合いな巨斧「ベオウルフ」。
 その大きさは竹の射程距離どころか彼女の身長を越えている。

「‥‥おぬしら少し下がっておれ‥‥よっこいしょ!」

 剛力により残りの竹は、一気に刈られた。
 そして下敷きになったレオポールが鳴いた。



 レオポールの家の居間。そこでは何故かこの季節に流しそうめんが行われていた。家庭用のそうめん流しキットでだが。
 その麺をたれにつけすすり、透が胸を反らしている。ジャーキーを噛んでいるレオポールの隣で。

「何を隠そう、竹から生まれたかぐや姫とは我のことじゃ、存分にちやほやしてかまわんぞ、もてなしせい」

「気にするなメリー。単に空想癖が強いガキなんだいだだだ! 毛を引っ張るな!」

 テーブルには他にシクルが作った竹羊羹が並んでいる。後はメリーが作ったお握りだの空揚げだの。
 将司が贈呈品を差し出している。

「奥さん、おもてなし有り難うございますぅ。青竹踏みを作りましたのでぇ、どうぞエドワードさんにプレゼントしますぅ。これでいつまでも元気でいてくださいねぇ」

「まあ、ありがとうございます。父も喜びますわ。こちらこそいつもレオポールがお世話になりまして」

 庭先ではついでということで、憐がお持ち帰り用のキメラ竹を飾り付けている。ノエル、立花と一緒に。

「‥‥ん。ツリーに。短冊を吊すと。天の川から。サンタが。獅子舞に乗って。プレゼントを届けて。くれると聞いた」

「それは賑やかで楽しそうですね〜」

「国籍不明になってるけどね‥‥」

 シクルはレオポールの子供たちと並んで自作羊羹を食べながら、雪花の愚痴を聞く。

「あー只の竹でどうやて儲けるのか思いつかないヨ。やぱし青竹踏み程度かナ」

 向こうで奥さん相手にめぐみが話しているのも聞こえてくる。

「竹ですか、日本では鬼教官とか、体育の先生が持つ竹刀のイメージですよねー。あれって防具なしで喰らうと結構きついらしいですよー。まあ、喉笛に突きさえ繰り出さなければ死なないそうですけど」

 耳を敏感に反応させているレオポールは、あちこち毛並みが擦り切れているけど、禿げてはいない。よかったなとシクルは、彼のために思ってやる。

「日本に竹刀作りの名人が居ますから、後ほど、お養父さまへの進呈品にさせてもらいますわ」

「そこに落とすのかよ! 止めろよこれ以上メリーの親父の戦闘力を上げるのは!」

 なんだか平和だ。

「‥‥あのさレオポール今ふと思たのだガ、パンダのお舅さんへのお歳暮だたらメリーさんと何を送るか一緒に相談すれば良かたんじゃないノ?」

 見上げれば空に赤い星が、相変わらず浮いたままだが。