●リプレイ本文
放映と同時にカオスな大論争を巻き起こした、「名犬レオ」最終回。
これはそれを収録したDVDの再生映像である。
●特典メイキング映像その1
撮影現場に着くなり月読井草(
gc4439)は、恐れげもない放言をかます。
「その名犬レオつーの? 一回も観たことないんだけど」
終夜・無月(
ga3084)と夢守 ルキア(
gb9436)から練成治療を受け、少し元気を取り戻し尻尾をはたはた振るレオにも、格別コメントはない。根っからの猫派なので。
「傷、大丈夫? 直ぐに治ると思うケド」
でも自分に出演依頼が回ってきたとなると話は別だ。
「あたし前から監督の大ファンでした! 起用してくれてありがとうございます!」
出演に意欲を燃やしているのは彼女だけではない。
「ついに我も女優デビューじゃ!」
坂上 透(
gc8191)もこの通り、ほくそ笑んでいる。
春夏秋冬 立花(
gc3009)は、早くも自分から役を申請していた。
「あのー、私、ナレーションがしたいです」
その間UNKNOWN(
ga4276)は、スタッフの間を回り、何やら交渉している。小声の台詞がとぎれとぎれに聞こえてくる。
「監督は慕われているようだね? それなら‥‥撮影所の一室を借りよう まあ、賄という事で簡単に‥‥」
さて、何を企んでいるのやら。
「やっぱり悪の組織とか鉄板だって、アークは思うの。秘密結社とかさ、首領とか」
「異議なしネ。それではこちらも鉄板小悪党を演じるのコトヨ。ナニ、ワタシが噛んだからにはもう安心、必ず伝説と呼ばれる最終回になるヨ」
良い意味でだろうか悪い意味でだろうか。
アーク・ウイング(
gb4432)に片目を瞑って見せる楊 雪花(
gc7252)の姿に漠然と思わないでない無月は、ともあれ主役となるはずであるレオポールの肩を叩く。
「相変わらずの巻き込まれ体質ですね‥‥まぁ‥頑張りましょう‥‥」
「お、おお‥‥何だお前、印象が変わったなあ。そういや上級クラスに入ったんだったか」
「ええ、一応。それはそれとして、どうなりますかね、レオ変貌の辻褄合わせは」
そこの考察には、雪花、ルキア、井草が参加する。
「シンプルニ、元から犬人間だたけど隠蔽してたということでよくないカ?」
「いや、主人思いで、アケミちゃんを守りたくて、言葉をかわしたくて、ヒトの姿になったトカ、理由をつけたほうがいいよ」
「ていうか大体、犬の気持ちなんて分かんないよ。マリリンに逢いたかったんじゃねーの?」
●本編 名犬レオ最終話「おかえり、レオ」
ナレーション(以下ナ):それはあるヒーロー。レオポール‥‥いや、妖怪レオポールの話である。
ザワザワとガヤ声が入る。
ナ:え? ヒーローで合ってるって? まぁ、大して変わらない気がするので訂正しないでおく。
どこかからツッコミが入る。
ナ:(無視)
とことこ神社の階段を上って行くコリー犬レオの前に、突如淡い光に包まれた謎の少年?が出てくる。
宝石のあしらわれた杖を持ち、全身をそれっぽいローブで包んでいる。
『魔法の国の王子様ルキア』とテロップが入る。
「やあ、きみかい? 魔法の国から私を呼んだのは‥‥」
ナ:‥‥一体これはどういう流れなのでしょう。
レオは相手の顔をじっと見てワン、と吠える。
「強い願いを感じたんだ。願いの重さに、ヒトも動物も関係ない。そうでしょう? 願いは力になる」
またワンと吠え、キューンと鼻を鳴らす。
「きみの思い、きみの望み、叶えてあげよう――ヒトになって、大好きなヒトのところへ」
ルキアは杖を大きく振るう。そこから虹色の光の粉が溢れて、レオに降り注ぐ。光の粉が消えた後そこに出現したのは服を着た――
「わあい、人間だ人間だ」
――全身毛でふさふさの、犬人間だった。
ナ:なんでだよ!
懐から魔法書を出し読み返したルキア、額をこつんと杖で叩く。
「ごめん。ちょっと呪文が足りないところがあったみたいだね。だからもう一度‥‥」
しかしレオは聞く耳持たず階段目がけて駆け出して行く。こんなことを叫びながら。
「あっ、ジャーキーの匂いだ、ジャーキーの匂いだ!」
そして転げ落ちる。キャーンという悲鳴とともに。
見下ろすルキア、自嘲じみた笑いを浮かべる。
「うーん‥‥私の力量不足かな。あ、そうだ。こんなところでいつまでも、ぼやぼやしてられないや。騎士のみかがみ君に見つかって連れ戻されちゃう」
言いながら自分で自分に魔法をかける。ドロンという音。煙とともに姿が消えた。
ナ:こうして犬人間になるのと引き換えにレオは、賢さを少し失った。
道を歩いたり自転車に乗ったり、ヒッチハイクをしたり、猫とケンカしたり、靴屋の店先から靴をくわえていって怒られたり、バス停で地図を広げたりするレオの映像――その端々にサングラスをかけた怪しげな3人組が映りこんでいる。
<場面転換>
平和そうな小学校の校舎。教室内。帰りの会にて。
ナ:さて、そのころアケミちゃんはというと。
「アケミさん、今日も洗ってない犬の匂いがしますわね」
「月読ちゃん、今日もスカートに猫の毛玉がついてるね」
「はっ、レオはアケミのことなんて忘れてるに違いないですわ。犬なんて知能指数低いですもの」
「ううん、犬はお利口さんよ。災害救助も出来ない猫とかいう獣なんかと一緒にしないで」
ナ:お金持ちの猫好き同級生月読相手に、犬好きとして引けない熾烈な争いを繰り広げていた。
「はいそこ、先生の話に注目! 大事な連絡事項じゃぞ!」
2人を注意する教壇の透。背が足りないので椅子を重ね、その上に立つ。
『ちびっこ先生、透ちゃん』とテロップが入る。
「最近、校門付近に犬の格好で間抜け面した変質者がウロウロしていると噂になっておる。おぬしら重々気をつけて下校し、見かけたら警察にひゃくとーばんするのじゃぞ」
「「はーい」」
元気よく答える子供たち。
その中でアケミはもしやというような顔をして、窓から外を眺める。
視点が門前にいるレオに切り替わる。
「アケミちゃん、アケミちゃーん」
わおわお吠えていると、通りすがりの少女アークから、携帯電話で通報される。
「もしもし、あやしい犬の人が今、はなぞの小学校前にいるんですが‥‥」
パトカーが早速来たので、逃げ出すレオポール。
「なんだよもお、オレあやしくないよおお」
その姿を電信柱の陰から見送るのは、サングラス姿の雪花、そして手下二人。
『中華マフィア雪花。手下ホッソー&フットー』とテロップが入る。
「フフフ、あのレオを手に入れれば私たち大金持ちだよ」
「姐さん、それって確実なんですかい?」
「お馬鹿だねえ。あんな生物めったにいないよ。いい見世物になること間違いないじゃないか。とにかくアケミちゃん籠絡作戦開始さ」
「あの姐さん、そのアケミちゃん今、裏門から先生の車に乗って出て行きましたよ」
「何だって、早く追うんだよ!」
<場面転換>
馬のマークがついた赤いイタリア製スポーツカーが、数々の改造車をぶっちぎって峠下りをしている。
軽快なユーロビートが響く車内。運転席に透、助手席にアケミ、後部席に月読。
「我を越えるものは、この峠にもおらんらしいのう。ところで何故におぬしも乗っておるのかのう月読。我が送るとしたのはアケミちゃんだけだったはずじゃが」
「当然ですわ。あたしこそヤバイほど可愛いんだから‥‥べ、別にアケミがどうとかじゃないんだからね!?」
「なるほどツンデレか‥‥おおっと、邪魔者は消えな!」
横にせってきた改造車に体当たりし、引っ繰り返した透。助手席でため息をついているアケミに聞く。
「で、どうした、気分がすぐれんみたいじゃが」
「はい‥‥レオのことなんです。最近このあたりに出没する怪人って、もしかしてあの子じゃないかと思って」
「バッカじゃない。レオは犬だったでしょうが。それがなんで立って歩いてるのよ」
「うん、きっと月読ちゃんには理解出来ないほど純粋な理由があるんだよ」
ナ:よいこのみんな、展開についてこれてるかな? さて、こんな美少女が画面に出ないのも番組として損失なので、今から私も画面に出ることとしよう。
車の窓の外、急に人影が入り込んでくる。
それは全力疾走する立花の姿。
「くけー!」
美少女にあるまじき奇声を放つ彼女について透は視線を向けず、アクセルを踏み込んでひき離す。
「ちょっと、今の何ですの?」
「ん? 何のことじゃ月読。我にはさっぱり何も見えなかったがのう」
後ろから悲しげな鳴き声が聞こえてきた。
はっとアケミは振り向く。
そこにはヒイヒイ言いながら車を追いかけて走っている、レオの姿が。
「アケミちゃーん」
「レオ、やっぱりレオね。レオー。こっちよー」
「アケミちゃーん」
「レオー」
「アケっ‥‥ちょっと、止ま、止まれって! 追いつけねえだろ!」
弱音を吐くレオに透が一喝。
「情けないことを言うな! 根性で追い上げてこい!」
ナ:そうだ、行け! レオポール! この話は全て君の手に掛かっている! ほかのみんなは頼れない!
「無茶苦茶だろ!」
と言いつつレオは速度を上げ、ボンネットに飛び乗ってきた。後ろから爆走してきたカブトムシ型ビックリドッキリメカにあおられる形で。
メカの背中から身を乗り出し、雪花が呼びかけてくる。
「おーいアケミちゃん。急で悪いけど話があるのよー」
アケミ、窓を開けて応える。
「あの、どちらさまですか?」
「ああ、私はレオを引き取らせてほしいだけの善人さ。いやいや、これはお嬢ちゃんの為を思って言ってるのよ? レオは危険な二足歩行疾患に侵されている‥‥早いところ隔離しなければ大変なことになるの。無論ただでとは言わないよ、ちゃんとお金も払うから。1000万。どうかな?」
猫なで声の雪花に、アケミはきっぱり言う。言い過ぎるほどに。
「いやです。おばさんあやしいもの」
「何だとこの小娘! もう一遍言ってみナ!」
雪花が素に戻る。メカの側面から車に向け、砲撃が食らわされてきた。
絶体絶命。思われた矢先飛んでくる弾丸を弾く女性?が出現、割り込んでくる。
「やれやれ、こちらの世界はいつも喧噪が絶えないですね。しかしまあ、王子の撒いた種ですから、臣下として刈り取るのが義務というもの‥‥」
『王子ルキアを探しに来た魔法騎士、みかがみ』とテロップが入る。
「くっ、邪魔が入ったようだネ。ええい、グズグズしてないでブルーウォ‥‥じゃないレオをお寄越し! お前達! やっておしまい!」
メカは車輪を引っ込め、ロボ体型に変形した。レオをむんずとつかみ、キャンキャン鳴かせぶら下げたまま逃走を図る。
今度は車が追いかける番。
「なにするの、レオを返してー!」
アケミの涙ながらの叫び。
騎士みかがみは猛スピードで走る車上に立ち、封印された聖剣の布と鎖を周囲に舞わせ、その力を解き放つ。
綺羅をまとった無数の狼が出現し、メカの行く手を塞ぐ。
騎士が宙を舞う。聖剣がロボの頭部から一直線、唐竹割りに切りこむ。
ドオオオンン!
ロボ、木っ端みじんに吹き飛ぶ。
煙に巻かれながら三人乗りの自転車で、雪花一味が逃げて行く。集まってきたパトカーに追われ、捨て台詞を吐きながら。
「月のない夜に気をつけるがいいネ!」
アケミは急いで車から降り、爆発に巻き込まれ焦げたレオに駆け寄る。
「レオ、死なないでえ!」
「いや‥‥死んでないけどよ‥‥」
「本当? よかった、よく帰ってきたね、レオ! うちは貧乏だけど、これまで通り一緒に暮らそうね!」
そこで月読が、本当に急なことを言い始める。
「アケミさん‥‥うちの家の犬の世話係に、貴女の失業真っ盛りなお父様を雇ってあげるわ」
「どうしたの月読ちゃん、熱でもあるの?」
「い・い・え。貴女がしょぼくれてるとこっちまで暗い気分になるからよ。べっ別にアケミさんのことなんて私は何とも‥‥でもお友達になってあげてもよくってよ」
「あれ、もとから友達じゃなかったっけ?」
「‥‥何よっ、ばかっ!」
微笑ましき触れ合いに騎士はほほ笑み、先生はうんうん頷いている。
「アケミちゃん、人生とは残酷なものじゃ。きっとこれから楽しいことも悲しいこともあるじゃろう、これから起こるどんなスリルやショックやサスペンスな出来事も目を背けるでないぞ‥‥」
言っているところ、にわかに曇ってきた。
雨も降らぬに稲妻が光り、巨大なバグアの顔っぽい紋章が空一面浮かび上がる。
「ふははははは。我は秘密結社バグーアの首領、デスアークなり。地球に住む人間どもに告げる。これより我らバグーアがお前たちを支配する。無駄な抵抗はやめることだ」
一方的宣言が終わった後、天気は元に戻る。
騎士みかがみ、思わせぶりに呟く。
「まさか‥‥奴は‥‥あの‥‥」
いつ現場に来たのか分からない王子ルキアが続ける。
「ダークマター使い、デスアーク! まさか現世に潜んでいたとは!」
へばってるレオ、ぼやく。
「‥‥最終話に盛り過ぎ‥‥」
NG映像とともに、ED曲流れ出す。よく聞いてみたら広東語。
ナ:待て! 感動と言うスローガンで、この話の着地としては正しいのだろうか!
ナレーションに突っ込みが入らぬまま、終了。
●メイキング特典映像その2
監督お疲れさまの立食パーティーが行われている。
「うう、みんな有りがとうな! 抜き打ち打ち上げなんて泣かせるじゃねえかこのやろう!」
UNKNOWNが腕によりをかけ作った47都道府県〜北海道のちゃんちゃん焼きから沖縄のヒラヤーチーまで〜名物料理がずらり。
それ全て、レオがこれまでの放映で巡った地の名産品。
「お疲れさん。機会があれば、見せて貰う、よ」
ウェストコートとズボン、コードバンの黒皮靴と共皮の革手袋という上質服を着こなしている彼は、タバコを口に、レオぬいぐるみを膝に、帰ってきた面々をねぎらう。
シーザーサラダをもしょもしょ食べる立花は、満足げ。
「まぁ、中々楽しかったですねー。レオポールさんはどうでした?」
「どうもこうも、火薬の量絶対多すぎるだろ」
犬ケーキを食うレオポールは不服そう。ここみちゃんにわしられながら。
「UNセンセ、相変わらず三つ星だね。で、私の演技力なら、いつでも貸すよ?」
スタッフにそう言ってルキアは、オムレツを口に、肉を探す。
酒、ジュース、飲み物がたくさん。感極まった監督はラッパ飲みを始め、たちまち酔っ払い、今度こそ局の偉いさんのかつらを全部はいでやると走りだしそうになる。
UNKNOWNがその首筋に一発入れ、寝かせる。
無月はすっかりなついてきたレオの頭をなでる。
「ん? ‥‥如何かしましたか‥‥」
雪花、井草、透、アークの論評を最後に。
「しかしこれだけヤチマタ後、2がどうなるかだネ」
「そりゃ間違いなく特撮。伏線回収せざるを得ないじゃん」
「じゃのう」
「炎上しないといいですけどね、本当に」
映像終了。