タイトル:年越し闇鍋マスター:KINUTA

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/30 23:33

●オープニング本文


 ふらりと診療所までやってきた傭兵娘に、ミーチャがじろりと視線を向けた。

「なんだ、スーザン。もう退院してきたのか。航空事故に居合わせた上、キメラに撃たれたんじゃなかったのか、お前」

「ええ。でも歩き回れはするから大丈夫よ。病院にいると気が滅入るしね‥‥心底滅入ってくるのよ。何故人間は空を飛ぼうなんて思うのかしら。どうせいつか落ちるのに」

「‥‥また鬱っぽくなってるな。いいじゃねえか。死ななかったし、緊急着陸の手助けして成功させたし、結果としちゃ万々歳だ」

 スーザンは大きなため息をついた。そしてのろのろ言った。

「‥‥今年はなんだかろくなことがなかった気がするのよね‥‥もしかして祟られてるんじゃないかしら私。仮にそうだとして何が原因かしら‥‥」

「原因はバグアだ。そしてあいつらに祟られてんのはお前だけじゃねえ人類全体だ心配するな。しかし浮き沈み激しい奴だなお前も」

 くさしながらミーチャは、ひとまずこの娘の意気を上げさせるにはどうしたらいいか考える。

「一つ忘年会にでも出てみたらどうだ。くさくさが晴れるかも知れんぞ。まあお前は未成年だから、酒は飲めんが‥‥割といろんな連中が来るらしいぜ。後闇鍋大会があるとか。面白いんじゃないのか? そういうの」

 言ってたところで彼の兄弟、ペーチャがやってきた。

「やあ、ミー‥‥おや、スーザンさんお久しぶり。どうしたんです、さえない顔して」

「‥‥いえ、たいしたことじゃないです」

「まあまあそう言わずに、話してみてくださいよ」

「ペーチャ、あまりつつくな。またナーバスになってんだから、こいつは。そんで何しに来たんだお前」

 割って入ったミーチャに手渡されたのは、一枚のディスク。

「いや、このゲームソフトあげようかと思ってさ。サンプル品として提携会社からもらったんだけどね、面白くなかったから」

「お前は自分でも面白くないものを他人によこすのか」

「まあまあ、そう言わずに。ぼくには難易度が低すぎたってだけの話だから。内容はね、テロリストになって破壊活動するってものでね。要人を襲ったり車を爆破したり、汽車を転覆させたり、後は航空機を撃墜したり。犠牲者数が多いほど点数が上が」

 台詞の途中だがペーチャは黙り込んだ。スーザンから脇腹に一発めり込まされて。
 笑顔を消し冷や汗をだらだらかいて声も出せずうずくまる彼を無視し、スーザンは会話を続行させる。

「そうね‥‥行こうかしら、忘年会」

「おお、そうしろ。気晴らしして来い‥‥で、ペーチャ。変な音したが、あばらいっちまったか? もしかして」


●参加者一覧

/ リゼット・ランドルフ(ga5171) / k(ga9027) / 最上 憐 (gb0002) / 七市 一信(gb5015) / ミレーユ・ヴァレリー(gc8153) / 氷群 槍治(gc8482) / 柳双(gc8497

●リプレイ本文


 大衆居酒屋「のんべ」。

 今、座敷の一室では、ささやかながら忘年会が行われようとしていた。
 参加メンバーはスーザン・高橋、リゼット・ランドルフ(ga5171)、k(ga9027)、最上 憐 (gb0002)、七市 一信(gb5015)、ミレーユ・ヴァレリー(gc8153)、氷群 槍治(gc8482)柳双(gc8497)――以上8名である。
 真ん中に置いてある大鍋を囲み、皆真剣な顔だ。なんとなればこれから、闇鍋を行うので。
 めいめい自分のもってきたものの正体は分からぬよう、きっちり袋に包んで隠しているが、中でも憐のはひときわ異彩を放っていた――大きさで。
 なにはなくとも着ぐるみパンダ男一信は、芸人として場を盛り上げにかかる。

「さてさて、お立会い、闇鍋の具材をもったか皆の衆、年忘れじゃーー! 宴じゃーー!!」

 おおー、と合いの手が打たれ、拍手が起きる。それに引き続き憐が、不穏な発言をする。

「‥‥ん。パンダの人を。見てると。パンダは。どんな味が。するのか。気になって来る」

 冗談なのかと思いきや、目が割と本気。

「‥‥ん。パンダの人は。鍋に。入らないの? 入らないの?」

「‥‥はっはっは、この鍋じゃ小さくて俺の体は入らないぜ」

「‥‥ん。バラバラに。したら。入る。かもよ」

「おいおい、怖いことは言いっこなしにしてくれお嬢ちゃん。パンダは世界で守らなきゃいけない貴重でキュートな生き物だぞ‥‥食べちゃったら偉い人に怒られるから止めてね?」

 じいと見つめてくる少女へささやかに脅えつつ、一信は言い聞かせる。
 彼を見ている恋人kの発言は、しょっぱい。

「誰が、七市さん‥‥いえ、パンダを、食べるの、でしょうね」

 まあこのしょっぱさが愛情表現なのであるが。
 彼らの会話が続いている間リゼットは、隣席のスーザンへこっそり尋ねる。

「闇鍋って、実は初めてなんですけど‥‥えと‥‥。一応、鍋料理でいいんですよね?」

「確かそうですよ。煮て食べられるものならなんでもよかったはずで‥‥まあ、意外性を競う罰ゲーム的要素もあるにはあるんですけど。私が高校生のとき学園祭でやった奴は、ガムとかチョコとか辛子とか、普通に入ってましたね」

 同じく闇鍋初参加のミレーユは、ふくよか体型を寄りかかる憐から慕われつつ、のんびりしたほほ笑みを浮かべた。

「せっかくの大晦日です。楽しいパーティになればいいですね」

 そこは誰しもが思うところだ。
 誰にとっても大変だったこの一年、なろうことなら愉快に笑って締めくくりたい。

「よっし、そんじゃ電気消すぜ。その間に、めいめい具材を投入すること!」

 一信が宣言し、天井の明かりがパッと消された。
 真っ暗な中、kが先頭切って具材を投入する。

「ああ、皆さん、パンダの、肉なんて、入れてないから、安心して、食べて、ください。なんとか、条約に、ひっかかる、ことは、ありません」

 続いては憐。どぼんと大きめの物を入れ込む。

「‥‥ん。食べ応えが。ありそうなのを。持って来た」

 気のせいか、鍋のはずなのに香ばしい匂いがしてきた。不審がるべきかどうか分からないまま、氷群が続く。

「じゃ、次俺な。大したもんじゃねえけどよ、量だけはあるぜ」

 それから、柳双。

「では、僕も。この季節おいしいものですよ」

 次に一信。

「俺は季節とか関係ないが、これは焼くのはもちろん煮てもいけると思うぜ」

 リゼットは彼の後。

「奇遇ですね。私のも、焼いても煮てもいけるものですよ」

 彼女の後はスーザン。

「あ、私のもそうかも」

 そして、最後にミレーユ。

「では、トリは私で。たくさん焼いて持ってきてますから、みなさんたんとお食べくださいましね」

 雑多な具材へ完全に熱が通ると思われるまでの間、皆は世間話など行い時間を潰した。
 リゼットはスーザンの体調伺いをする。

「スーザンさん、ケガの具合はいかがでしょうか‥‥? 前回の依頼のとき、かなりの深手だったみたいだったから、気になって‥‥」

「ああ、そこはもう大丈夫ですよ、リゼットさん。早期退院が認められたくらいですから‥‥傷もほとんど塞がりましたし。変な覚醒の反動で、数日どん底まで落ち込んでただけで。今もちょっと鬱っぽいけどでも心配いりませんよ。二度と笑顔になれそうもないっていうほどの心境じゃないですから。うふ♪」

「そ、そうですか。あまり無理されませんように‥‥」

「うん。可能な限りそうしようと思うわ‥‥墜落死とかしない限り‥‥」

 会場に来た際声をかけたときもそうだったけど、この方まだ少し情緒不安定なのかしら。
 案じながらミレーユは、おっとり首を傾げる。

「ところで、もう煮えたのでしょうかねえ」

 憐が具材を投下した時発生した――鍋以外の何物でもないはずなのに、完全な焼き肉としか思えない香り――が、ますます強くなってきている。

「そう、ですね、不可思議な、匂いが、気掛かりでは、ありますが」

 kの言葉で、いつの間にか進行役となっている一信が、鍋の蓋を取る。

「もういいと思うぜ。そんじゃ早いもの取りといきますか!」

 着ぐるみなので手掴みしても熱くならないのが便利だ。

「‥‥ん。闇鍋。何が。当たるか。楽しみ」

 憐以下一同は箸を取り出し、思い思いに鍋の中を突いた。

「よし、もうそのまま動かすな。取り替えっこなしだかんな。電気点けるぞ!」

 声とともに、部屋がパッと明るくなる。



「‥‥ん。何か。予想外に。マトモな。感じの。モノ。ばかりだね」

 憐のコメントはあまり妥当と思えない。リゼットはそう思った。

「‥‥」

 彼女が掴んでいたのは一信の持ち込み品、パンダ焼き。人間が食べられるものではある。あるがどうなのか。悔恨が脳裏を過るが取ってしまったものは仕方ない。口に運ぶ。
 外皮部分は水分を含みべちゃべちゃで、中のあんこはあつあつ。
 鍋汁のだしと合わさって味はすこぶる微妙だった。咀嚼した後黙ってドリンクを飲む程度に。



「‥‥」

 kも微妙な顔をしていた。
 苦手なものではないし食べられないものでもないのだが、はなはだつまらない気分にさせられているのだ。何故なら掴んだのが自分自身の持ち込み品、ジャガイモだったから。

「‥‥ん。コレは。何かな。とりあえず。食してみる。‥‥良く分からないけど。美味。はんぺんと。湯葉の。中間のような。食感」

 ミレーユの持ち込み品、砂糖抜きのクレープ皮を食している憐を横目に、そこはかとなく不機嫌になる。
 首を巡らせ恋人を見ると、彼は、段違いにとんでもないものを引き当てていた。



「‥‥何これ」

「‥‥ん。それは。私が。持参した。マグロの頭? かもしれないモノ」

 持ち込んできた当人の憐から正体を明かされても、一信は、全く納得いかない。

「いや‥‥マグロってこんな匂いじゃないよね? ていうか断ち割って中がみっちり隅々まで肉ってどういうこと? これだと脳とか神経とか入る余地ないよね? なんか怖いよ?」

「‥‥ん。大丈夫。匂いと。気配は。危険な。感じは。しない。安心して」

 1ミリも安心出来ない。

「笹ばかり、食べているから、美味しいものを、引き当て、られないのです。これからは、筍を、食べてください」

 kの言葉が耳に痛い。
 しかし一信は勇をふるって食べることにした。

「‥‥ん。残したら。ダメだよ。ちゃんと。食べないと。強引に。口に。ねじ込むよ」

 憐から脅されたからではない。未知なるネタを相手に芸人根性が燃え立ったのだ。
 恐怖心を乗り越え彼は、マグロの肉を箸でほじり出し食した、そして雷に打たれたように固まった。

「馬鹿な! ギョウザの味だと!?」



 スーザンの持ち込み品、カニ足を当てた柳双と、リゼットの持ち込み品、モチを当てた槍治とは、パンダの叫びを耳にひそひそ囁き交わす。

「‥‥マグロじゃないな」

「‥‥絶対違うね。憐さん、あれどこで買ってきたの?」

「‥‥ん。あやしい。ものでは。ないよ。近所の食材店で。訳あり品で。激安」

 しれりと返す憐は早くもクレープを完食してしまい、食べ残す人はいないかと周囲をうかがっている。

「‥‥ん。余ったのは。私が。処理するよ? まだまだ。食べられる」

 柳双の持ち込み品、大量のしらたきを引き当てたミレーユは、ひもじそうな少女に分配を申し出る。

「私には多いようなので。よろしければ少し食べられますか?」

 槍治の持ち込み品、大量の白菜を取ってしまったスーザンも、こう申し出る。

「あ、私のもどう? さすがに多過ぎるし」

 だがkはジャガイモをキープした。

「非常に、心苦しいのですが、私のは、お二方のように、いやがおうでも、一人で消費しなくては、ならないものでも、ありませんので」

 そして、ギョウザ味のマグロに奮闘している一信へ声をかける。

「犯駄さん、はい、アーンして」

 当然彼は乗った。

「はーいレンさん」

 瞬間、着ぐるみの口から奥にあるのどちんこ目がけ思いきりノンストップで、煮え切ったジャガイモが押し込まれる。

「あっづあっづあっづうううううう!!」

 座敷を転がるパンダ。
 恋人同士のほほえましい交流だが目下見ている限りでは、誰もうらやましいと思えなかった。



 闇鍋を片付けた後、場は普通の鍋に移行した。一信が口直し用の具材と鍋スープの元を買ってきてくれていたのだ。
 リゼットの差入れ、ヨーグルト入りのレアチーズケーキも合間に食された。
 改めての宴が落ち着いた後、憐は空いた鍋にどっさり煮込みうどんを入れる。スーザンに驚愕されながら。

「‥‥ん。最後は。やっぱり。うどんとか。ご飯を投入して。シメにしたいね」

「まだ食べるの憐ちゃん。すごいわねえ‥‥私もう一杯で入らないわ」

 お腹は十分膨れている。後は喉を潤すだけ。というわけでkは、ちびちび冷酒をたしなんでいる。
 側にはパンダこと一信。

「レンさんや、楽しんでるかい? ちょっと騒がしかったかね?」

 おどける彼に彼女は冷たい目を向け、くさす。

「暖かい鍋に、美味しい、お酒。なのに、隣に、パンダ。風情の、欠片も、ないですね。面白く、ないし、情緒もない‥‥だから、オンリーワン、なのですかね」

 とはいえこれは、心を許しているから。
 理解していればこそ一信も、次のように言える。

「‥‥ここまで、長かったけど、ありがとね、付き合ってくれて レンさんの好みの男になれるまで、がんばるよ」

 返事はない。ほんのり色づいた横顔が答えだ。
 その時鈍い鐘の音が、かすかに聞こえてきた。

「‥‥あら、除夜の鐘ですわね。もうそんな時間なんだわ。眠くないかしら、憐さん?」

 ミレーユの気遣いに、憐が大きくかぶりを振る。

「‥‥ん。全く。問題、なし。でも。もう早く。片付けようか」

 瀑布が逆流する勢いでうどんを吸収し、口元を紙ナプキンで拭い。

「‥‥ん。闇鍋。予想より。美味だった。私は。このまま。初詣の。屋台を。食べ歩きに。出発するね」

 キラリと眼を輝かせ底無し胃袋の命ずるまま、いち早く場を辞して行く。

「憐さん、子供一人の夜歩きは危ないですよ」

 柳双が注意するも、取り合わない。

「‥‥ん。心配。なし。私は。傭兵だから」

 そそくさ座敷から降りて靴を履き、まだ見ぬ屋台に向けて一目散。

「しょーがねえな。俺らも行くか。近いよな、神社」

「そうだね。ついでだから初詣でしておこうか」

 柳双と槍治は憐を追いかけるように出て行く。
 リゼットと、ミレーユと、スーザンも。

「私たちも行きましょうか。もうすぐ新年になりますし」

「そうですね。折角ですもの」

「あーもう、来年こそはいい年を頼みたいわ‥‥」

 お開きになった場で最後に残ったのは、一信とk。

「‥‥俺たちも行こうか、レンさん。今年の健康、爆笑、安全を祈願しないと」

「犯駄さん、鍋の準備、と片付け、はアナタの、仕事です」

「あ、うんまあそれはやるけどさ。終わったら一緒に行こう?」

「‥‥いいです、よ。お願いなんて、気休めです、けどね」



 除夜の鐘も鳴り終わる。神社の境内は人でぎっしり。
 リンゴ飴をしこたま買い込んでいる憐を、柳双と槍治が監督している。
 スーザンは財布を探り、賽銭にいかほど出そうか思案中。
 リゼットはミレーユに、参拝の仕方を教えている。
 彼らから少し離れkと一信は、周辺の賑わいを眺めていた。

 午前零時を回る。
 どこからともなくわき起こる、「明けましておめでとう」の声。


 謹賀新年。
 今年こそ、よき年になりますように。