タイトル:人型キメラマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/09 00:28

●オープニング本文



 東北のとある町。
 新年早々住民は不安に怯えていた。深夜この近辺に、謎の生物が徘徊するとの噂が立っていたのだ。
 異様に離れた足跡が雪の上に残っていた、監視カメラにおかしな影が映っていた。実際に遭遇した。
 数え切れないほどの報告を前に、警察機関も動いた。半信半疑に夜中の張り込みを行い、そして――確かにその存在を確認した。



 巡査は呼びかけに応じて集まってくれた傭兵たちへ、自筆の絵を示して見せた。

「キメラだとは思うのです。こういう生物が自然にいるとはちょっと考えられませんで‥‥とにかく妙な形なのです」

 レオポールは犬鼻を近づけ絵を眺め、疑わしげに述べる。

「絵が下手なのは分かるけどよ、いくらなんでも省略しすぎじゃねえか?」

「いや実際こうなんです」

 巡査は力説したが、誰も信じなかった。
 なにしろその絵は「人」という字としか言いようがない代物なんである。

 ‥‥まあ、多分人型をしたキメラであるのだろう。

 思う一行は、それが出現するという街角へ張り込んだ。
 時刻は夜の10時。付近住民は奇怪生物に遭遇するのを恐れて家に閉じこもっている。
 と、さくさく雪を踏む音が聞こえた。複数。
 その姿を物陰から確認した皆は、あっと驚く。
 列を作って歩いてきたのはまさしく、「人」としか表現できない形のキメラだった。
 なんというか、こう‥‥下半身だけが歩いているといった感じ。それが4体いる。

「気持ち悪‥‥」

 レオポールはぐんなり尻尾を下げて言った。
 その呟きが聞こえたのかどうなのか、キメラ隊は急に向きを変え、傭兵たちが隠れているところに向かってきた。
 そしてレオポールを蹴っ飛ばした。
 キャーンという犬の声が、夜も更けた町に響き渡る。


●参加者一覧

門鞍将司(ga4266
29歳・♂・ER
御法川 沙雪華(gb5322
19歳・♀・JG
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
蒼唯 雛菊(gc4693
15歳・♀・AA
フェンダー(gc6778
10歳・♀・ER
楊 雪花(gc7252
17歳・♀・HD
エリーゼ・アレクシア(gc8446
14歳・♀・PN

●リプレイ本文


「きゃあああ! 寄るな触るな当たるなUMA!」

 キメラの注意が、あのレオポール1人に向いているのは有り難い。

「シュールな光景だ‥‥バグアのセンスは分からないな」

 思いながらエイミー・H・メイヤー(gb5994)は、待機させていたジーザリオの運転席に滑り込んだ。

「UMA‥‥ですか? 今年は午年ではなく‥‥辰年だったかと思いましたが‥‥」

 後部座席に御法川 沙雪華(gb5322)が乗り込み、驀進して行くキメラへの感想を漏らす。

「‥‥それにしましても‥‥シンプルなデザインと申しましょうか‥‥手抜きとも、言えますね。バグアも予算が色々と厳しいのでしょうか‥‥世知辛い世の中ですね」

 バイク形態の「パイドロス」に跨がった楊 雪花(gc7252)が、軽く応じる。

「仕方ないヨ。なんたて不景気だからネ。きとバグアも1%の富裕層にはなれなかたに違いないヨ」

 助手席の蒼唯 雛菊(gc4693)が扉を閉めるや否や、ジーザリオが発進した。先発したバイクを追うように。
 寒い季節だが車両の窓は全て開いている。キメラに誘導攻撃を仕掛けるためだ。
 事前に町の地図は入手し、開けた場所への道順もしっかり把握している。とりあえずここから最短の距離にある市民公園へ向かうよう仕向けたい。

「この場で叩き斬りたいところだけど‥‥まだ少し我慢してあげるですの」

 呟き、雛菊は「フリージア」を車窓から突き出し狙いを定める。いかに姿形が変だろうが、キメラはキメラ。家族を殺した憎い敵だ。
 沙雪華もまた「百花繚乱」を構える。
 レオポールの横に回り込んだ雪花は、併走しながら喝を入れる。新年暴走族のノリで。

「押忍! レオポール総長お待ちしてました!」

「おお雪花! いいところに来た!」

 レオポールは彼女が近づいてくるや否や、座席の後部に同乗しようとするが、蛇行運転で避けられた。

「おいこら! 乗せろよ! 何で避けるんだよ!」

 雪花はバイクの後ろにくくりつけた『婆愚悪上等』の旗を抜き、相手に投げ渡す。

「皆総長に地獄の底まで付いて行く覚悟ッス! チャラいキメラを締めてやってくださいッス! 今日のレオ総長は何時にも増して輝いてるッス!」

 うっかり受け取ってしまったレオポールは、それを肩に担ぎながら跳ぶ。危うく踏まれそうになりかけて。

「答えになってねえよ!」

 恐怖を糧に加速するレオポール。
 とはいえ一応頭は働いているのか、広い道を選択して走り続ける。そんな彼に雪花はイイ笑顔を送った。

「男の中の男ッス! 自分も皆も総長のカッコイイとこをもっと見たいッス! 先頭張ってキメラの囮になるなんてマジパネェッス! まさか総長なら怖いとかシャバ僧くせえこと言わないと信じてるッス(やると言わないとパンダさんに話がいくヨ)!」

「最後の二重音声は何だ!?」

 多車線に出たところでジーザリオもまた加速し、キメラ隊の横に出る。
 エイミーは前方から視線を離さぬまま、助手席に呼びかけた。

「雛菊嬢。これから接近するから、アマブル氏の回収を頼む。そろそろ潰されそうだ」

 雛菊は頷き、扉を開く。
 ひいひい言っていたレオポールの脇に接近するや、彼を掴まえ後部座席引きずり込む。

「えいやあ!」

「あだだだだだ! 毛を持つなあ!」

 掴まれた襟毛が危うく抜けそうになったが、回収されて一安心――と言う間もなく、レオポールには運転席のエイミーから「シエルクライン」が回されてきた。

「足を良く狙って引き金を引けばいいだけだ、BMなら視力も良いんじゃないのか?」

「え‥‥オレ遠距離攻撃はちょっと‥‥範囲外っていうか‥‥」

 謹んで事情を申し上げても、バックミラーに映るエイミーの表情は全く変化しなかった。

「車載カメラが回っているぞ、狙撃を決めたらうまく編集してお子さん達とお義父様に雄姿をお見せしよう――年の初めからお義父様の雷くらいたくないだろう?」

 なぜ皆が嫁の舅をダシにオレを脅すのか。
 意気阻喪しそうな犬男に、微笑みながら沙雪華が、自覚のない止めをさす。

「レオポールさん‥‥可愛いお子さまのためにも、頑張って働いて、稼ぎを得ないといけませんね。きっと、とてもお強いのでしょうね‥‥頼りにしています」

 レオポールは渋々後部座席から銃を構え、顔を出す。
 雛菊が先にキメラへ、「フリージア」をお見舞いする。先頭のキメラは挑発に乗り、目標を車に切り替え追い始めた。
 沙雪華も足元を狙い矢を放つ。
 1体がつんのめりかけ、転倒を防止するため思い切り大股で反対側の足をつき滑らせた。
 股を開き過ぎつってしまったか、そいつは「人」と「一」の形をシャクトリムシのように繰り返し、横向きになって追いかけてくる。

「あり得ない動きをやめろお!」

 レオポールの弾はどうやらあまり効いていないようだ。へこへこ移動が止まらない。
 エイミーは車両無線で別場所にいた待機班に、公園へ移動するよう要請した。
 フェンダー(gc6778)がそれに応じる。

『OK、こちら了解じゃ。では先に公園に行っておくでな。しっかり頼むぞよ』

 彼女に続け門鞍将司(ga4266)は、以下の励ましを行う。

『レオポールさんも大変ですがぁ、頑張って倒してくださいねぇ。嫌だと言ったり尻尾巻いて逃げ出したらぁ、お義父さんに包み隠さずすべて報告しますからねぇ』

 どうしてかレオポールは、一際かしましく吠えだした。



 捜索班からの連絡を受け、公園広場に先回りしていたシクル・ハーツ(gc1986)は、近づいてくる一団を目で追いかける。
 遠吠えとキャンキャン声を聞けば、レオポールは相変わらずだなと分かるが、車両とバイクの後についてくる4体のあれ――。

「‥‥文字通り、人型だな‥‥」

 将司は額に手をかざし、シクルにのんびり同意。

「ですねぇ。人の字型とは珍しいですねぇ」

 フェンダーは納得顔で、ぽんと手を打つ。実物を見てやっと、「人型」の意味がつかめたのだ。

「そうか漢字で人っていう意味なのじゃな。しかしあれだったら、我でも作れそうな気がするのう」

 エリーゼ・アレクシア(gc8446)は別のところが気になった。口元に手を当て、考え込む。

「切ったり貼ったりしたら「人」という字以外にもなるのでしょうか?」

 とりあえず2つ並んでくっつけたら「从」になってくれる。
 頑張れば「仄」も作れるかもしれない。3体寄れば「囚」もいけるのでは。他にもいろいろバリェーションが生まれそう。
 といっても、それを詮索するのは後回し。
 先頭切って広場に滑り込んできた雪花はAU−KVを身に纏い、「ティルフィング」を手にする。

「人が支え合てるなんて信じたらダメのコトヨ!」

 滑り込んできたジーザリオからは、エイミー、沙雪華、雛菊、レオポールが飛び出してくる。
 覚醒した将司は彼らに駆け寄って、練成強化を施した。

「誘導した皆さん、もうひと頑張りお願いします」

 地響きを上げ「人」が接近してくる。
 傭兵たちは前もっての打ち合わせどおり、合流した後、即ペアを作って戦闘態勢に入る。
 シクルはフェンダーと、エイミーはエリーゼと、雛菊は沙雪華と、雪花は将司、レオポールと組み戦いに挑む。
 4班はキメラに連携をさせないよう、広場の端々に散る。



「さてと‥‥爆ぜてもらおうか」

 覚醒した雛菊は人キメラに吐き捨てた。がらりと口調を変えて。
 相手の蹴りを避けるばかりでなく、時折受けながら、力と間合いを計る。
 沙雪華は遠距離武器である「百花繚乱」を駆使し、彼女の後方支援に当たった。
 人間であれば急所と思われるアキレス腱や関節を攻めたいところなのだが――困ったことにこの人型キメラ、てっぺんからつま先まで繋ぎ目というものがはっきりしない。
 とりあえず一番太い下部分を狙い、何本か撃ち込む。
 動きが鈍った間に雛菊は、大剣「氷河」で攻め込んだ。
 大きな歩幅を駆使しキメラは、彼女を踏み蹴飛ばそうとするも、なかなかうまくいかない。二足歩行体形というのは、どうしても動きのパターンが限られてくるのだ。
 だがこいつには、そこを補って余りある柔軟さがあった。いきなり片方の足を地面に突き刺し、軸にして回るという芸をやり始める。
 雛菊は「氷河」を回転の正面に持ってきて、仁王立ちになる。
 直後彼女の体に猛速度の衝撃が加わった。剣を支えた姿勢のままで、1メートルはずり下がる。
 だが、切れた片足も宙に舞った。
 「人」は「卜」となりバランスを崩し地に倒れる。

「さて、その足でどうするのか見せてみな‥‥」

 無様にばたばたするそれ目がけ、彼女は刃を振り下ろす。

「あ、でも待たないけどね絶対」

 「人」はザクザク切り離され、「彡」になった。



 「スパークマシンα」で人の字を近づけぬようにしながら、将司は注意深く距離を計り、前衛を受け持っている人々の助けとなるよう、練成弱体を仕掛ける。

「おとと! これしか武器ないんです、私。お願いですから、非力な私のところに来ないでくださいね。来るならヘタレなレオポールさんのところに来てくださいね?」

 当のレオポールは必死になって引き付け役をしているので、この暴言は聞こえていないらしい。返答がないまま走り続ける。

「‥‥人という字は絶対支えあてないヨ。片方が寄りかかてるんだてバ! 所詮この世の99%は支え寄りかかられる方‥‥あ、もちワタシは寄り掛かる方希望ヨ?」

 「ティルフィング」を手にして呟く雪花は、雛菊から片足を切られたキメラが沈没するのを横目にし、笑む。

「なるほド、ああいう手もあるわけだネ‥‥来るがいいヨ、長い棒に短い棒。人という字が支え合てる形という甘チャンな幻想、この雪花サンが吹き飛ばしてあげるのコトヨ」

 彼女の前のキメラは同僚と同じ轍を踏まなかった。いきなり引っ繰り返り、頭側(?)を地面に突き刺す。Vとなった姿で両足を開き、回転し始めた。
 攻撃範囲が先程より明らかに広がる戦法だ。
 が、このやり方には致命的な弱点があった。両足を使っているので、片足よりなお場から移動が困難となり、上からの攻撃に対処出来ないのである。
 雪花は、それに気づかないほど間抜けではない。

「人という字を下から切り裂いて「一」の字にしてやるヨ。ニンゲンはどこまでいても一人と知らしめるためニ!」

 彼女は勢いよく跳ぶ。そしてVの付け根の真上から刃を振り下ろす。
 かくして「人」は――支え合えない「八」となる。

「おお、すんだか」

 はるか先で停止したレオポールが、ほっと一息つきかける。
 その背後から、重い足音が迫ってきた。



「シエルクライン」の制圧射撃によってキメラは、前進を止めた。
 隙を縫ってエリーゼは「トニトルス」による攻撃を始める。

「とりあえず斬りましょう! 前後はっきりしませんけど!」

 長い足に捕まらないように彼女は、切りつけては離れ、切りつけては離れを繰り返す。万一にも逃げられないよう、周囲へ円を描くようにして。
 高さ即歩幅。攻撃範囲は大きく油断は出来ない。
 ただ、構造が簡単な分だけ攻撃のパターンは大体予想がつけられる。時折トリッキーなことを仕出かすとしても。
 エイミーはエリーゼの攻撃している反対方向から射撃を加え、相手の意識を集中させまいとする。片足にペイント弾を発射し色をつけ、それを目当てに射撃での集中攻撃。
 エリーゼもまた彼女に習い、目標となっている側の足を狙って傷つける。
 「人」は損傷した足をかばい、「卩」になる。
 エイミーは「蛍火」を抜き、襲いかかった。

「もらった!」

 彼女の刃がまず片方の足をそぐ。
 続けてエリーゼがもう片方の足を切り落とす。
 2人が通り過ぎた後そこには、「介」という字が出来ていた。

「中身には何が入ってるんでしょうか?」

 エリーゼが切り口を覗いてみると、生硬いぶよぶよしたものが詰まっている。どうやら、これでもスライムの一種らしい。



「レオポール、正面を頼む!」

 シクルから言われるまでもなく、レオポールはキメラから追い立てられていた。例のへこへこした奴に。

「なんでオレに来るんだよおお!」

 残念ながらそこは分からない。キメラのどこに目があるのか知れないのと同様に。
 どうもこいつは視覚ではなく、嗅覚とか触覚とかそういったもので対象を判断しているらしい。
 となれば通常の意味での死角はないということだ。

(いや、しかし、意識の死角というものは存在している)

 思いながらシクルは、キメラを追う。

「レオポール殿、我の妙なる美声で力を得、なお一層走るがいいぞよ。わんこが冬に喜び駆け回るのは、神の摂理であるからのう」

 フェンダーはいっとう離れたところから、軽快な歌声を響かせている。
 動きを遅くしてきたキメラの背後に回り込んだシクルが、片足目がけ「風鳥」を打ち込んだ。
 傷口が割れ、中身の半固体がどろりと顔を出す。
 キメラは痛んでいない足を地に突き刺し、全速力で切れかけた足を振り回す。
 シクルは初撃を避けた。同じ足が一周して戻って来たところ、回転方向に逆らい剣を立てる。

「貰った!」

 切れていた足が飛ばされてしまった。
 短くなった足を支えに体を曲げ、キメラは姿勢を立て直そうとする。
 シクルはそれを真横から切り裂いた。
 かくして「丱」が出来上がる。
 剣を収めた彼女は、容赦なく踏まれくたびれた毛玉になっているレオポールに、駆け寄った。

「大丈夫‥‥? レオポールさん‥‥−あ、蹴られた所が禿げてる‥‥」

 言った途端相手が急にがばっと顔を上げたので、くすっと笑う。

「ふふ、冗談だよ」

「脅かすなよもおお!」

 元の糸目に戻った将司が白い息を吐いて近づいて来る。

「さて、住民の皆さんにぃ、安心してくださいとお伝えしましょうかぁ」

 肩をすくめる雪花も。

「いやはや、柄にもなく熱くなてしまタ。あの字見ると何故か落ち着かないんだよネ。そしてレオポール、禿げを恐れることはないネ。雪花軒にはいつでも各種増毛剤揃えてるかラ」

「禿げてねえ!」

 ワンワンやる彼の上には、フェンダーが座り込んでいた。もしゃもしゃ毛を撫でてみたりしながら。

「たくさん暴れたらおなかがすいたのう‥‥だれぞ食べるものは持って無いかの?」

「あ、携帯食にきんつば持ってきているのですけどぉ、食べますかぁ?」

「おお、かたじけない門鞍殿。かわゆいシスターに善を施したそなたには、近々神の恩寵が与えられるであろう」



 後日、将司のもとにはエイミーの車載カメラからとったキメラの写真が送られてきた。
 それを一瞥した呉服屋の店員は、確かにUMAだと納得をしてくれた――車の後部ガラス越しにぼやけて判然としない人キメラではなく、くっきり写りこんでいる犬人間について。