●リプレイ本文
「人の居住区まで大型を深入りさせるとは、なんてことを‥‥」
インデースの運転席には旭(
ga6764)。彼の隣にはセツナ・オオトリ(
gb9539)がいる。
「一体ではなく、複数ということでしたね‥‥」
救助を急がなければならない――はっきりしているのはそこだけ。役場に避難していると伝えてきた住民たちは、それ以上詳細な情報を送ることがままならない状態に置かれているらしいのだ。
近在の行政機関から、この村についてのざっとした地図は入手出来たものの‥‥。
バイクで先行している蒼唯 雛菊(
gc4693)は前方を睨み、深呼吸する。幾度となく己を戒める。
(落ち着け、熱くなるな、取り乱すな‥‥)
視界に集落群が入ってきた。家屋の高さを越えるものが歩いている。その姿の奇妙なこと。デフォルメされているが、すっぱだかの人間そのものだ。
ジーザリオに乗るリゼット・ランドルフ(
ga5171)が眉をひそめる。耕作地に転がっている死体を見つけて。
「既に被害者が多数いるようですね‥‥」
どれもこれも噛んだものを吐き出したといった具合で、一見しただけでは個人の識別が出来そうもない。
リズィー・ヴェクサー(
gc6599)は不快感を覚え、口元を押さえる。声には出さず、己に言い聞かせる。
(だけど、まだ生きている人達が居る。それを全員、救い出す)
運転席の大神 哉目(
gc7784)が、ぼそりと言った。
「面倒だけど、自分の手の届く範囲くらいは助けてみせる」
応じるようにリゼットは呟く。
「これ以上、被害を広げない為にも頑張りましょう‥‥皆さん、それでは私たちは、生存者の誘導に向かいます」
避難誘導を受け持つ彼女らは、攻撃を受け持つ他の班から離れ、脇道にそれて行く。
エイミー・H・メイヤー(
gb5994)が操縦するジーザリオはそれを横目に、バイク、そしてインデースの後方につく。
「放送機材が使えればいいんだがな‥‥」
街区に入ると、あちこち瓦礫が散乱していた。巨人が破壊した跡であるらしい。地面の陥没も見受けられる。
それを避けるため多少時間をロスしたが、幸い巨人は動きがのろい――遠目に見てもそうだったが、近くにしてなお確信が抱ける。裸の背を向け歩いていた奴、7メートル級1体に、たちまち追いついた。
気配に気づき巨人が振り向く。
エイミーの隣にいたトゥリム(
gc6022)は、眼を鋭くさせた。
「あんな巨人、情けをかける気にもなれないですね」
そいつは人間を咥え、噛みながら歩いていた。
逆さまにぶら下がったその人は、無造作に吐き出され落下し地面に叩きつけられても、悲鳴一つ上げなかった――すでに上半身だけとなっていたのだ。
雛菊は腸が煮え返るほど怒りを覚える。家族を殺された時の光景、有無を言わさず何もかもを奪い取られた記憶が、脳裏に蘇ってきて。
「許さない‥‥潰してやる‥‥絶対に‥‥!」
バイクから降り彼女は、「氷牙」を握り締める。近づいてきたものをもっとよく見ようと緩慢にかがんでくる相手に、歩み寄ろうとする。
「待った!」
それを止めたのは旭だ。彼は雛菊の肩をつかみ、引き戻す。
「きみはエイミー班と一緒に、役場の方へ行ってください。向こうには、もっと巨人が集まっているはずです。ここは僕らが始末しますよ」
瞬きほどの逡巡をへた後、雛菊は歯を食いしばり、バイクに戻った。アクセルをふかし発進する。エイミー班も続く。
巨人はそちらに気をとられ、手を伸ばそうとした。
その指がこわばり止まる。セツナが「紫電」でショックを与えたのだ。
旭の大声がそこに加わる。
「こっちだ、うすのろっ!」
巨人は通り過ぎて行った車両よりも、彼らへと意識を転じた。醜く顔をしかめながら。
(いつも通りだ。全て‥‥狩り尽くす)
「いい子だ。‥‥来いよ、僕が相手してやる」
●
避難誘導班はなるべく静かな運転を心掛け、崩れた屋内や建物の影など探索。要救護者を発見、治療して行く。と同時に、役場へ向かおうとしている人間を見つけ、押し止どめる。
「駄目です、向こうはすでに巨人が群れています。村の外れに一時避難していてください」
骨折したり内蔵が損傷したりし身動きのままならないものは車両に乗せ、そうでない人には歩いてもらう。
とにかく巨人から少しでも距離を取ることが大事だ。先程見た印象、そして村人たちから直接得た話による感触では、あの敵は頭が悪い。おまけに目も、さほどよくない。聴覚を頼りに行動しているらしい。
(‥‥それなら図体がでかくても、やれそうだ)
哉目はひとまずその情報を、全班に伝える。
助けが来たというので気が緩んだのか、避難している中の幼女が大声で泣き叫び始めた。その子の母親は何とか杖をついて歩いていたものの、出血が多かったのか今やぐったりし、制止の声も出ない有り様だ。
慌てて哉目は幼女を止めにかかる。つられて他の子数人もぐずりだしていたのだ。これで巨人が引き寄せられてきたら目も当てられない。
「もう大丈夫、私達があんな奴ら全部やっつけるからさ!」
座り込んで目線を同じくし、笑って元気づける。リズィーも脇からそれに加わる。
「そうだにゃ、このボクとガオガオとリゼにゃがいれば、巨人なんて怖がる事なしっ。ささ、気にしないでにゃ〜☆」
幼女はどうにか泣きやんだ。
引き続き救助者と共に、隠れながら動く。道中徹底的に敵を避けまくりながら。
村の建物は全体に低く、巨人は大きい。立って歩いているのなら、遠目からでもどこにいるか、大体分かる――恐怖に負けず直視出来ていればの話だが。
しかしそれをやりこなしているリゼットらにしても、特別大きい1体には危機感を覚える。
「あの個体‥‥9メートルはありますよ‥‥」
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役場は完全に巨人に囲まれていた。
5メートルが2体、7メートルが1体はりついて、窓から手を突っ込んでいる。猿が箱の中のお菓子を取る要領だ。後は右左に揺れながら9メートルが1体接近中。
もはや避難場所が避難場所として機能していない。一カ所に固まったのが、仇となってしまっている。
周辺には、避難し遅れたとおぼしき人の残骸が散らばっていた。
「建物からヤツラを引き剥がす! これ以上好き勝手やられてたまるものか!」
音に反応するとは、先程連絡であったとおり。叫ぶ雛菊が盛大にエンジンを吹かし、エイミーがクラクションを鳴らすや、巨人たちは鈍い動きで目を向けて来た。
トゥリムはその機を逃さず、「M−121ガトリング砲」を最も近くにいた5メートル級1体にあびせかけた。
裸の体に銃弾が食い込む。巨人がうめき声を発する。同時に撃たれた箇所が盛り上がり、見る間に修復されていく。
エイミーは重ねてそこへ「シエルクライン」を浴びせ、苦々しく評した。
「自己再生能力が高いらしいな」
巨人が憤怒を浮かべて窓から手を抜き、後ろに向き直る。大股で目標に接近してくる。落ちていた遺体をぶちぶち踏み付けて。
「どいつもこいつもアホ面だな」
吐き捨て、雛菊は近づいて行く。
「‥‥氷の牙を‥‥赤く染めろ‥‥」
大きな手が彼女の上から振り下ろされ、轟音を立てる。
が、そのとき当人は、すでに背後に回り込んでいた。
「いかに大きな体格だろと、今の私を止められると思うな!」
足の腱目がけ、「氷牙」を叩き込む。
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「デュランダル」でアキレス腱を切り込まれた巨人は、倒れた。だが、傷口がすぐ塞がっていく。
セツナは悔しげに言う。
「‥‥再生能力? あまり手間取れないのに!」
入ってきた連絡によると、役場はすでに囲まれている。避難させようにも逃げ場がない。だから、早く合流しなければならないのに。
つい焦ってくるセツナは、旭が不敵な笑みを漏らしたのを見る。
「‥‥なら、斬り取るまでっ!」
痛覚はあるのか再生した巨人は一層荒れ狂い、腕を振り回し始めた。近くの家屋がぺしゃんこに潰れていく。
旭が腰にした「シーザーハンズ」から、鉤の着いたワイヤーを、巨人の首筋目がけて射出した。
肉に鉤が食い込み、高速でワイヤーが巻き取られるのと同時に体が運ばれる。
移動の速度も利用し、彼は、「デュランダル」を深く首に突き刺した。脊髄を狙ったのだ。目論みは当たり、体の自由を奪われた巨人は、大きな体を再度倒れ込ませる。家を巻き添えにして。
肉が泡立つ前に旭は、後頭部を削ぎ落とす。
セツナは息を飲んで推移を見守った。再生は――しない。
「いくら大きくて力が強くても‥‥弱点がわかれば関係ないよ!」
彼は無線でその旨、全員に通達する。
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「了解‥‥というわけだ。きれいな死に方が出来ると思うなよ」
連絡を受けた雛菊は、仰向けに倒れた巨人の顔を、特に柔らかい目から攻撃し始めた。
長大な「氷牙」の刃は眼窩を抜け、更に内部深く食い込む。熱い血を噴出し巨体は沈黙した。
もう1体の5メートルと7メートルはすでに役場に注目するのを止め、危害を加えてくる彼女らに意識を向けている。後ろから近づいてくる9メートルも。
トゥリムは呼び笛を吹き続け、向こう側の注意がそれないようにしている。
エイミーもまた大声を出していた。これは敵を引き付ける効果を狙ってだけのことではない。
「役場の方! 可能なら広場方面のスピーカーに限定して放送を流してください! キメラは音に集まります! そうすればここから遠ざけられます! まだ避難出来てない方々にも、次のことを知らせてください――」
既に巨人は集まっており、入り口は塞がれてしまっている。役場に入り込むのは難しい。ために苦肉の策として、内部協力を要請しているのだ。とにかく巨人を遠ざけて始末しなければ、どうにもならない。
避難誘導を終え駆けつけて来た班もそこはすぐ理解した。哉目も一緒になって呼びかける。
「この声がする方から静かに離れてくださーい!! 今からこの声の方に巨人を集めてぶっ倒しますのでー!! と伝えてほしいんですがー!!」
中の人間は聞いているだろうか。やるべきことをしてくれるだろうか。
果てしなく長く感じる沈黙の数秒後、遠方からサイレンが鳴り始めた。アナウンスも始まる。
『村民の皆様、お知らせ致します。ただ今緊急事態発生、緊急事態発生。危険な場合は無理に避難せず、物音を立てず救援を待たれてください‥‥巨人は広場に移動して行くとのことです。巨人は広場に移動して行くとのことです‥‥』
2人は、もとい傭兵たちは皆ほっとした。悲惨な光景が目の前に広がっているが、なお。住民が敵に対抗する気持ちを失っていないと確認出来て。
巨人は大きな音に首を持ち上げ、それがどこから来ているのか探っているようだ。
興味が途切れないようにするためエイミーらは、挑発攻撃を繰り返しながら、役場敷地から引きずり出そうと試みる。
1体の退治を終えた旭班も、合流してくる。
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「さあ、こっちです! よそ見しないで!」
リゼットは「クリムゾンローズ」での射撃を繰り返しながら、巨人たちを広場まで誘導する。
5メートル一体、7メートル一体。そして、最も問題だと思える9メートルが一体。弱点とされる頭部は、はるか上――下から射撃してもあれでは、満足な効果が得られそうにない。やはり一旦倒さなければ。
村の広場へまず入って来たのは、9メートル級。最も歩幅があるだけに、追いついてくるのがも最も早い。
視線を完全に人間へ向け、背をかがめ、臑下まである手を伸ばしてくる。
トゥリムは「ライオットシールド」を構え、「クルメタルP−56」をぶっ放した。巨人の指が吹き飛ぶ。
巨人はわめき、痛さで横なぎに腕を払う。シールドで防御をとったものの、彼女は吹き飛ばされた。
リゼットがその隙に踝を狙い、「獅子牡丹」で切りつける。
リズィーも動きを弱めるため、「ビスクドール」を作動させる。
「頑張って、メリッサ!」
巨人は背後に、尻餅をつくようにして倒れてくる。
「わわっ!」
巻き込まれないため彼女らは離脱する。
巨人は崩れかけた家屋を背にして立ち上がろうとする。駄々っ子のように体をよじり、手をばたばたさせて。瓦礫が舞い上がり、地響きが起きる。
広場備えつけのスピーカーが倒された。
「私の得意なことを教えてやろうか。それは肉を削ぐことだ!」
雛菊は大人しくさせるため、巨人の足関節を重ねて攻撃する。そうしないとすぐ再生してきてしまうので。
旭がワイヤーを射出した。彼は巨人の額に鉤をかけ勢いつけて上昇、相手が反撃する暇を与えず、「デュランダル」で、一気に首を輪切りにする。
7メートル級にはエイミーが、「シエルクライン」によって先制攻撃を仕掛ける。相手の体の前面に穴を空けひるませ、続いて足を狙う。
しかし他2体も同時に暴れているので、なかなかうまく狙えない。9メートルが落として来る瓦礫を避け、いったん退く。
切られた箇所の修復がまだ終わらぬまま、巨人は膝をつき、這い這いする姿勢で動き回る。人間目がけて手を伸ばしてくる。
セツナは「莫邪宝剣」を使用し、その手を払いのける。
哉目は「輝嵐」で膝裏を狙い、殴り抜けた。這い這いが停止したところで相手の前方に回り、左右の目にダガーを1本ずつ突き立てる。
「面倒臭い、寝てろッ!!」
巨人は咆哮を上げ目を押さえた。
壊れた盾を捨て戻ってきたトゥリムが、至近距離から頭部に「クルメタルP−56」の弾丸を撃ち込む。巨人は大きく痙攣しびくびくのたうつ。止めはエイミーの「蛍火」がする。
最後に残った5メートル級は、サイレンが聞こえなくなったのが原因か、注意が散漫になってきていた。広場に背を向ける。それを呼び戻すため、リゼットが尻目がけ「クリムゾンローズ」を放つ。
痛みを覚えた巨人はものすごい形相で振り向く。走り寄って(それでも遅いが)くる。
リズィーが脇からメリッサで、援護射撃を行う。
相手の勢いが一瞬緩まったそこに、「獅子牡丹」が足払いをかけた。
巨体が顔から転ぶ。
その背に駆け上がり雛菊が、頭部を目茶苦茶に切り刻む。もはや顔だと分からなくなるように。噛み砕かれた人間と同じ姿になるように。
巨人は全て撃滅された。
大きく肩を揺らしているセツナのもとに、リゼットが歩み寄る。
何も言わぬ彼女の顔を見、しばらく間を置いてから、彼は言った。
「大丈夫です‥‥能力者になると決めたときに、こんなひどい状況を垣間見ることもあるって事は、覚悟してましたから‥‥でもボクは皆の力になれるようにって決めたんです」
「‥‥そう」
彼の肩をリゼットは、優しく叩く。
トゥリムが静かに言うのが聞こえてきた。
「それでは、亡くなった方を回収してから帰りましょうか。最後の一仕事として‥‥」