タイトル:コリーSOSマスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/03 22:15

●オープニング本文



 コリー男のレオポールはすごく悩んでいた。
 ちらと真下を見れば千尋の谷。急流がごうごうと流れている。
 絶対落ちたくはない。
 そのためには現在しかと全身で掴まっている手がかりを離すべきではない。

 彼が頼っているものは、大縄のごときぶっとい巨大な蛇キメラ。胴回り2メートル、長さは15メートルほどあるだろうか。大蛇と呼ぶにふさわしい太り気味な体格だ。
 しかしそいつは今頭を下にし、縄みたいにぶらぶら揺れている。尻尾の先だけ崩れた橋に巻きつけているが、大部分宙に垂らしてしまい、そこから先身動きが取れない状態だ。
 体勢を立て直そうと恐るべき腹筋力で先ほどまでもがいていたのだが、ミシミシミシッという不吉な音が尻尾の方からしてきたので、このキメラ、急遽動くのを止めた。
 暴れると落ちる。落ちると危険。その程度の理解力はあるもようだ。そこから先どうしたらいいかまで考えることが出来なくても。
 何故両者はこうなったか。
 それはこの蛇が人間を食べに冬山のペンションに降りてきたからであり、レオポールが珍しく「オレがやる!」と飛び出したはいいが、大きさによるプレッシャーに負け逃げ回り、痛み気味だったこの橋まで誘導してしまったからである。
 谷底からの風は容赦なく冷たい。
 レオポールは救援を求めるため、遠吠えを始めた。
 その頃ペンションでは。

「おおおい! もう1匹いたぞおお!」

 先ほどと全く同じ大きさの大蛇が出現、アタックを仕掛けようとしていた。
 とにかくこちらから先に処理しなければならない。初手のキメラと共にどこぞへ走り去っていったレオポールには、そのまましばらく鳴いていてもらおう。
 同行していた傭兵仲間たちは、たった今そう決めた。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
フェンダー(gc6778
10歳・♀・ER
楊 雪花(gc7252
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

 太り気味な蛇が身をくねらせ、斜面を下ってくる。

「‥‥ん。見付けた。巨大だから。分かり易いね」

 最上 憐(gb0002)が言う通りだ。大きさもさることながら、薄雪の積もる山肌に鮮やかな緑色の体をしているとあっては、目立たざるを得ない。
 フェンダー(gc6778)は即刻断じる。

「蛇キメラ‥‥もふれそうにないからとっとと倒してしまうのじゃ」

 ドクター・ウェスト(ga0241)は、学術的探求心に駆られている模様だ。

「コノ気候でも活動できる元変温動物である蛇のキメラ、おそらくFFが関係しているのだろうね〜」

 楊 雪花(gc7252)の場合商魂が燃やされている。

「退治ついでに温血蛇ゲトして漢方薬にするヨ。これは儲かるに違いないネ!」

 ところで最初に出た蛇を連れ、いずこへともなく疾走して行ったレオポールの遠吠えが続いている。数分応答がなければ諦めるかなと思ったが、止む気配が無し。
 終夜・無月(ga3084)はやれやれと頭を振る。

「成長したなと感心したのですが‥‥」

 彼はバイクを持ち出した。助けに行かなければならないようだと。

「勢いがいいのは出だしだけだったか‥‥しょうのない男だ。まあ、新車の試運転といこうか」

 評するエイミー・H・メイヤー(gb5994)も、持ち込みバイクを引き出しにかかる。

「しかし寒いのう‥‥こういうときにはもふるのが一番じゃ」

 フェンダーは肩をすぼめ、暖房をきかせた自車ジーザリオにそそくさ乗り込んだ。ぬかりなくフカフカ毛布等暖房が設置されている運転席に腰を下ろす。
 雪花はペンションから借りてきたロープを肩にしてバイク形態のAU−KVに跨がり、アクセルをふかす。以下の台詞に続けて。

「総長居ねえけどよォ! ビッとしてっからよォ! 喧嘩なら何時でも相手になってやんよ!」

 バイク3台とジーザリオ1台が去って行くのを眺め、ウェストはやや不服そうだ。

「落ちたところで死にはしないだろう〜」

「‥‥ん。そうかも。でも。レオポールの。ことだから。思いも。よらぬ。ところに。流れて行ったら。困る」

「‥‥まあ、それはあるかね〜。そういや近くに滝があったか〜」

 来る途中の地形を思い出しつつウェストは、「機械剣α」を準備する。周囲への影響を考え今回は、「エネルギーガン」はお休みだ。
 憐は、窓から不安そうに見ている宿泊客たちへ呼びかける。

「‥‥ん。ペンションから。引き離すから。しっかりと。戸締まりして。避難してて」

 それから先手必勝とばかり「ハーメルン」を手に、蛇に向かって駆けて行く。機先を制するのはもちろんだが、蛇の接近速度が割と遅かったので。寒いのに待ってやることもない。

「おや、こちらを向いたね〜。蛇は本来ものがよく見えない生き物でね〜ピット器官によって周囲の様子を知るのだよ〜」

 ウェストは蘊蓄語りが楽しそうだ。憐からほとんど反応は返ってきていなくとも。



「うーン、このままどの位耐えられるか見てみたい気モ‥‥」

 雪花が思わず口走ってしまうほど、事態は面白いことになっていた。
 まん中からバックリいってしかもなお湾曲しつつある橋の中間で、にっちもさっちもいかず虚空に垂れ下がっている大蛇。
 その喉元に、同じくにっちもさっちもいかぬ様でしがみついている犬人間。
 なんだか漫画みたい。

「ネー、レオポール、どんな状況からその状態に持ち込んだか教えてくれるかナー?」

 両手をメガホンにして尋ねる雪花に、キャンキャン声が返ってきた。

「今はどうでもいいじゃねえかよそんなこと! 早くなんとかしてくれよ!」

 フェンダーも彼女の真似をし呼びかけてみる。

「待つのじゃ、我はもふるために寒い中ここに来たのだ。まずはもう一度車内で手を温める時間がいるでのう」

「おまっ‥‥助ける気ねえだろ!」

 レオポールの声に交じり、軋みが響く。

「終夜氏‥‥どうやらこの橋、蛇の重みに長くは耐えられないようだな」

「そうですねエイミーさん。まあ元から傷んではいたようです。ほら、あそこの橋げた腐ってますよ」

「冷静に観察してる場合じゃね‥‥また傾いたあああ!」

 谷の底は泡立つ急流。流れが速いうえあちこち尖った大岩が点在している。

「ま、ワタシが行こうカ。レオポールとはそこそこ付き合い長いしネ。じゃあ皆、ロープしかり持ててヨ」

 雪花は腰に命綱をくくりつけ、救出に向かうこととする。キメラの尻尾を引っ張り引き戻すことで、レオポールもいっしょくたに吊り上げようという作戦だ。
 一歩足を踏み込んだ彼女は仲間の方を振り向き、優しく微笑んだ。

「ワタシが死んだら雪花軒の電気消しといてほしいヨ‥‥遺骨はそウ、黄砂の季節にゴビ砂漠から撒いて欲しいネ。そうすればワタシはきと千の風になテ再びこの地ニ」

「不安になるような小芝居止めろよ」

「ハハハ。馬鹿だナーレオポール冗談だてバ。大体戦場によくあるようニ、落ちた先槍が仕込んであるとかではないネ。能力者なら死なないヨ。大怪我はあるかも知れないけド。レオポール‥‥君は何処に落ちたイ?」

「だから止めろよ!」

 レオポールをいじりたおしながら雪花は、不安定な橋の上を行き、蛇の尻尾を捕まえ肩に担ぐ。

「落ちても恨むでないよレオポール。んじゃマ、よこらセー」

 ロープを持ちながら橋の様子を観察していたエイミーは、次の瞬間叫んだ。

「待て雪花嬢! そこで踏ん張るのはまずい!」

 同時に雪花が足の力を入れたところから、ミキミキミキっと傾いだ。
 中華娘はそのままの姿勢で動きを止める。
 フェンダーがしかつめらしく呟く。

「んむ。あれじゃ、橋の上できばるのではなく、こっちから引っ張るほうがよさそうじゃのう」

 ロープは急遽ジーザリオの尻にくくりつけられた。フェンダーはゆっくり慎重に、アクセルを踏み込む。無月とエイミーも人力で引く。
 ずりずり蛇とレオポールが持ち上がってきた。
 やれこれで一安心。かと思いきや危険が去ったらしいと認識したらしい蛇が、尻尾を捕まえている雪花目がけ体をくねらせ、噛み付こうとしてくる。

「おおおい何やってんだ! 馬鹿なのかお前落ちるだろ止めろ!」

 レオポールの制止など無論聞くワケない蛇だったが、フェンダーの歌であえなくしびれる。

「寒いのじゃ〜手間をかけさせるな〜お前もバッグにしてやろうかや〜♪」

 一度持ち上がった巨体が落下した衝撃で、洒落ではないが、橋が端から崩れ落ちる。
 無月が瞬時に、最大の強力を発揮する。
 雪花、蛇、それから最後にレオポールは岸まで無事引きずり戻された。
 フェンダーはすぐさま車から飛び降り、重ねて呪歌を口ずさむ。

「バックはバックでもサンドバックなのじゃ〜そーれボコボコなのじゃ〜おわったらもふもふタイムじゃ〜♪」



「‥‥ん。迂闊に。近寄ると。捕まる。ちょっと。様子見」

 憐は両目を細め、「ハーメルン」の血を振り払う。
 この蛇図体が大きいだけに攻撃を当てるのは簡単だが、止めについて、ちと問題が発生している。

「‥‥ん。というか。ウェスト。巻かれ。てるよ」

「おお、分かっているよ〜。どうやらベースは、締め殺しタイプの蛇のようだね〜」

 ウェストが近寄り過ぎて抱き込まれてしまっているのだ。今攻撃すると彼もちょっとばかし切ってしまいそうな気配。
 離れるのをもう少し待とうか。思っているとウェスト本人から、こんな言葉が飛び出した。

「我々はバグアと戦うための地球の武器だ、ソンナことを気にしてどうする〜」

 激しい締め付けに合いながらウェストは、幾度も蛇の体にレーザーブレードを突き立てる。呼吸困難になりそうな圧力も、バグアへの憎悪を微塵も挫かせることは出来ない。
 巻き込んだ内側から加えられる刺激に蛇は、とうとう力を緩めた。どうも良い食べ物ではないと理解したので、逃げるつもりなのだ。切れた尾部から血の這い跡をつけながら。
 憐は、それにたちまち追いついた。

「‥‥ん。埒が明かない。面倒くさい。一気に。頭を潰す」

 「ハーメルン」が軽く空気を切り唸りを上げる。頭部が離れた。

「一体でも多くのバグアを倒すためには、メンテナンスは必要だからね〜」

 そのまま彼女は、自分で自分の治療をしているウェストに先んじ、ペンションへ戻る。

「‥‥ん。とりあえず。蛇は。倒して来たので。安心だよ」

 退治報告のため。それから食のため。

「‥‥ん。レオポールの。ツケで。食べ物。どんどん。作って」



「ああ助かった。ありがとな。そんじゃオレはこれで」

 引き上げただけでは終わらない。きちんと退治して帰らなければ。
 というわけでエイミーは、這い上がってきたレオポールの両肩をがっちり掴む。逃げられないように。

「先日カサトキン氏のお宅でお子さん達にお会いしたよ」

「え? あ、あ、そういやあいつらからそんなこと聞いたような」

「レオン君はアマブル氏に似ずしっかりしたお子さんだな。きっと”奥様”の教育が良いんだろうな。アマブル氏が逃げ出したと聞いたらきっとガッカリされるだろうなぁ‥‥」

「‥‥」

「いやいや何も泣くことはないぞ。さあ戦おう未来のために」

 ぴすぴす鼻を鳴らすコリーの背を押し前衛に立たせ、自身は中衛に回る。実を言うと、蛇はあまり好きではないので。
 フェンダーの歌のせいで動きを鈍らせている蛇は、大急ぎで体を反転させる。逃げるつもりだ。
 無月が回り込み頭を押さえ付けると、胴体が体を巻き取り締めようとしてくる。
 彼は力だけでその包囲をこじ開けた。
 エイミーのペイント弾で目潰しを食らった蛇の、平たい頭部の真ん中に、重い拳が入る。
 平たい頭蓋が潰れ、鼻と口、目から血が吹き出す。

「なるべく革に傷はつけないで欲しいネ!」

 これ以上の損傷が出ないうちにと、雪花が「デュランダル」で喉元を切り裂いた。
 ぐたりとなった長い体は力を失い、地に伸び切る。
 その間レオポールも一応戦ってはいた――尻尾方面と。怖くて前に回れなかったのだ。蛇が倒された後もまだ尻尾をつついている。
 そんな彼に雪花は、協力要請をした。

「ちょとレオポール、尻尾丸めてないで手伝てヨー」

「手伝えって、何を」

「解体ヨ解体。この見事な蛇革を大自然に還らせてどうするノ。コレは世のブランド好き婦女子を喜ばせるため存在するんだかラ、根こそぎ剥いで持って帰らないト、人道に対する罪のコトヨ」

「ヤダ。爬虫類とか苦手なんだよオレ」

 あっさり首を振るレオポールに、彼女は続けた。イイ笑顔で。

「パンダは苦手でないノ?」

 コリーの襟毛がぶわっと逆立った。寝た耳の先が細かく震えている。

「蛇に挑んで返り討ちに遭たとカ知れたら半殺しだナー。娘と孫と連れて帰ちゃうナー。二度と会わせてもらえないナー」

 ここまで来ると嫌々ながらも手伝うしかない。雪花がちょんぎった胴体から革を剥ぎ回る。背中に張り付いたフェンダーからもふられながら。

「おおう、ういやつ。もふいのう、もふいのう」

 エイミーは解体が苦手なので、引き気味に離れているだけだ。
 無月はレオポールの様子をつくづく眺め、何事か考えている様子である。



 ペンションのレストラン。
 憐は『山賊の豪快シシ鍋セット大』を食していた。
 5人前はあるだろうその鍋をねだりに、彼女の脇からフェンダーが顔を出している。

「分けてくれんかのう。カワイイカワイイ我のお願いを聞けば主様の御利益でいいことがあるかもしれんぞ、カレーのルーが若干多くなるとかな」

「‥‥ん。出来れば。ご飯と。福神漬けも。カモン。それは。ともかく。食べたいなら。頼めば。いい。レオポールの。ツケにして」

「む、その手があったか。では早速我も何ぞ頼もう」

 彼女は席につき、メニューを見る。

「シチューパイなどいいのう。後はビーフストロガノフと、若鶏と冬野菜の包み焼きと‥‥」

 あれやこれやもくろむ彼女の後ろから、雪花とエイミーが声をかける。

「デザートも揃てるヨ。このチーズケーキなんかおいしそうだよネ。後はスフレとカ、タルトとカ」

「お店の一押しはこれだそうだ。あたしが今聞いたところによると」

「おお、雪原のふわふわ極みクリームロールとな! よし、これも頼もうかのツケで。おーい、そこなるお姉さん」

 窓の外では彼女らに向け、悲壮な顔のコリーが叫んでいる。

「止めろお前ら、オレの今回の稼ぎを無にするのかあ!」

 次の瞬間、彼は横から来た衝撃に吹き飛ばされ、並んだ雪だるまの行列に頭から突っ込む。
 跳び起きてきゃんきゃん逃げ回る所を追いかけているのは、無月だ。

「ある意味で一度死んでみよう‥‥」

 親切にも彼は、レオポール相手に戦闘訓練をしてやっているのだ。バグアの依り代かとまごう殺気をまとって。彼の家族のため、キメラを相手にした方がマシと言う思いを身に染みさせ、大抵の敵とは戦える様にするというのが狙い。
 絶対当てないが当たれば本気で死ぬ攻撃を連発している。

「きゃあああ! 人殺し犬殺しいいい!」

 サプリメントを齧りながら、外でキメラの骸相手に分析作業を行うウェストは、そちらに顔を向けないまま注意する。

「こっちに来ないようにね〜。サンプル採集してるから〜」

 窓から外を眺めるエイミーは、紅茶を飲みながら言う。

「まあ‥‥ひとまずへたばったら回収くらいはするから、存分やるといいアマブル氏」

 フェンダーも外に手を振り励ます。

「頑張るのじゃぞレオポール殿。いざとなったら歌で回復させてやるでのう。『ひまわりの種は以外と栄養あるのじゃ〜ラララ♪』‥‥うむ、我の作詞の才能が恐ろしい、目指せミリオンじゃ」

 聞こえてるかどうか、微妙だけど。