●リプレイ本文
「『キメラの標本が一堂に会しているこの宇宙船の腹部には、』」
単位取得のため「宇宙科学こども博物館」にやってきた斑鳩・南雲(
gb2816)は、話題の宇宙船入場行列に並びつつ、レポートを書いている。
「『ノストロモ号』とロゴが入っています‥‥と」
前側にいるフェンダー(
gc6778)は愚痴っていた。
「商店街のくじで当たって来たはいいが‥‥まるで子供だましなのじゃ、我の灰色の脳細胞には物足りぬのう」
そんな彼女の右横から、ジェーン・ジェリア(
gc6575)が親指を立て、太鼓判を押す。
「そんなことないって、ここ、超面白いんだよ! 超常連のあたしが言うんだから間違いないって!」
「しかし宇宙船とか、見飽きた感があるでなあ‥‥ところで何故2枚あるのかのう‥‥2回来るのかのう」
未使用チケットをいじくりまわすフェンダーの斜め前方には、狭間 久志(
ga9021)と腕を組み、デレちゃっているキョーコ・クルック(
ga4770)の姿が。
「きょうは、いっぱい楽しもうね♪」
「そうだな。この後にプラネタリウムも行こうか」
左横には、カメラをいじっているD‐58(
gc7846)の姿がある。
「宇宙船に興味がおありかの?」
「あ、はい。まあ私というより知り合いがなんですけど‥‥とても好きですね。可能なら内部も撮りたいところです」
ちょうど同じころ館内では、楊 雪花(
gc7252)が売り込みをかけていた。
「館長、安くしとくからサー買てヨー。エイリアンの卵剥製1ダース」
「いや、あのね、この前もそれだっただろう。そんなに同じものばかりいらんよ」
「ならプレデターの卵とでもすればヨロシ。現に前ワタシ持ち込んできた化石、ナウマン象のウンチだたのに、今展示されてる説明文見たら恐竜の卵ダタヨ」
「人聞きの悪いこと言わないでくれたまえ! あれは見事に丸かったから展示スタッフが誤解して‥‥」
「シー。声が大きいのコトヨ。お客さん聞こえて子供達の夢壊すの良くないヨ。デ、30万から始めていいかナ?」
雪花のあきん道にスキなし。と言いたいところだが、今回はそうでもなかった。
「グッドタイミング」
冷たい声に振り向くと、瓜生 巴(
ga5119)の冷徹な顔。
額に銃口がめり込んでくる。
「館長サン、下がってくれ。こいつバグアだ」
ガチで来ている。即座に察した雪花は、両手を上に首を振った。
「ノーバグア、ノーバグア。ワタシ善良な商人ネ」
「否定するところがあやしい。間違いなくバグアだ」
「じゃ肯定したらどうなるネ」
「もちろん認めたんだから疑い無くバグアだ」
「冤罪がどやて作られるかよくワカタヨ。コレは不当逮捕ネ! 国家権力の陰謀ヨ! 弁護士呼ぶヨ、弁護士!」
口では負けないとばかり騒ぎ立てる雪花。
声に通りすがりの氷室美優(
gc8537)が足を止め、首を傾げる。
「あの人たち、どうしたんだろ‥‥」
しかし、長く観察しているわけにはいかなかった。ほどなくして騒ぎが起きたからだ。悲鳴とともに人波が逆流してくる。
「!? 一体何が‥‥」
彼女はとるものもとりあえず、急いで現場に向かう。
それとすれ違うように、館長の元へ色を失ったスタッフが駆けつけてくる。
「大変です、展示していた卵からエイリアンが孵りましたあ!」
「な、なにいいい!」
雪花は一瞬沈黙し、勢いをつけ方向転換、こちらも現場に向けて走りだした。ここで逃げたら最高に立場が悪くなることは分かり切っていたので。
「既に売買契約成立後だかラ管理責任はそちら側にあるヨロシ。だけド――だけどワタシはあえて戦ウ、未来の為ニ!」
巴はその後に続いていった。館長にとって不安になる一言を残して。
「‥‥保険、かけてますよね?」
●
「ひどいよひどいよ、映画じゃ1匹しかいなかったじゃんかあ!」
多勢に無勢、絶対的にレオポールの分が悪い。
素早く飛び動き、長い爪で引っ掻く。1匹が剣の刃先に噛み付き動きを止めた。もう1匹が背後から飛びつき頭を齧ろうとする。
武器を手放しすんでのところで逃げた彼は、毛も真っ白に涙と鼻を垂らしていた。
「もう戦線放棄していいよね! オレここまですごく頑張ったもん!」
その叫びが通じたか、やっと救援が来た。
まずは、キョーコ、久志のカップル。
「せっかくこれから、べたべたしようと思ってたのにっ!」
「‥‥キョーコ、いろいろ駄々漏れになってるぞ」
彼の言葉にむくれ顔の(マスクをつけているので分かりにくいが)彼女は応える。
「あたしがこいつら引きつけるから、久志は卵の奴をっ! おまえらの相手は、こっちだっ!」
久志は素早く目を走らせ、ケースに未孵化の奴が入っているのを確認する。
「似たようなのが後6つ‥‥先に潰す!」
3匹のキメラが、キョーコ目がけ急接近して行く。
キョーコは「ツインブレイド」で爪牙を弾き、「スコル」で巻き付いてくる尾を蹴り弾く。が、全て防御することは出来なかった。腕や足の皮膚が裂け、血の筋が生まれる。
その間久志は、「ソルデス」でケースを狙撃していた。
穴が空き、人工羊水が勢いをつけて漏れ出す。だが、割れるまでに至ったのは2ケースに留まった。特別に強化されたガラスらしい。
素早く彼は、「月詠」に持ち替える。
D‐58は、「ロートブラウ」を手に、キョーコが担当している以外のエイリアンに取り掛かる。
「加勢します!」
上から顎下に一閃入れ、返す刃で首の継ぎ目を凪ぐ。
エイリアンから黄色い血が噴き出した。強い酸性を帯びているらしく、飛び散った床から軽く煙が上がった。
彼女は急いで飛びすさる。
「敵性体の脆弱部位を確認‥‥外しません」
一人ごちかけたところで、はっと腰から下げたカメラに視線を戻した。
なんということだろう。今の血液がかかってしまい、レンズと本体が変色してしまっている――多分、内部にも入り込んだ。データはおしゃかだ。
「‥‥‥‥許しません、ズタズタに切り刻みます‥‥!」
静かな鬼の形相になる彼女を、レオポールは応援する。吠えて。
そして尻尾を垂らしたまま後方に引き下がろうとしかけたところで、フェンダーと鉢合わせしてしまう。
「お、そこに見えるはレオポール‥‥とエイリアン? 何かの催し物かや‥‥休日も働くとはえらいのう。しかしリアルに動くのう、本物みたいじゃ」
「だから本物だよ!」
力説も終わらぬうち彼は、走ってきた雪花にハイタッチされ、無茶を言われる。
「ハイ! 義によテ助太刀に来たよレオポール! 是非囮になてほしいネ、その隙にワタシが関節に斬り込むかラ!」
「冗談やめてくれ! 見ろよ、オレボロボロで武器も取られて‥‥」
「やり遂げればパンダにも胸を張れるのコトヨ。さあ行くヨロシ!」
泣けそうなレオポールだが泣いてる暇などない。手空きのエイリアンが、脱出して行く人の流れに向かっていくのだ。
「わおおおおおん」
犬男はもうやけくそで、走り回る。
「パワーローダ‥‥もとい、ミカエルぅー着ッ装ッ! 若草の騎士、斑鳩南雲見参!」
キメ台詞と共に滑り込んできた南雲が、「コメットナックル」のグーで殴り一般人から敵を遠ざける。
「うわっ! やっぱり酸吐いたあ!」
格納庫内を一瞥するなり状況を察した美優は、迎撃している仲間に言う。
「じゃあ誘導に回るから、フォローお願い」
それから避難誘導を始める。ジェーンとともに。
「押さないで押さないでー! 落ち着いて避難してー!」
巴が外側から壁を切り出口を増やしているが、恐怖にせかされている群衆はなかなかスムーズに進めない。
「出ても立ち止まらないで! 足元に気をつけて! はぐれても別の出口から出てるかもしれない! 相手もあなたを探してると思って!」
フェンダーがすかさず歌で、なだめにかかった。
「仕方ないのう。我も避難に回るかの‥‥能力者の〜お兄さん〜お姉さんが〜何とかしてくれるのじゃ〜♪ 落ち着いて〜逃げれば〜安全なのじゃ〜♪」
彼女らに導かれ、人々はなんとか秩序を維持し、出て行く。
●
ガラスケース残り4つのうち3つまでが破壊された。卵から孵化した幼虫が床の上を転げ回り、痙攣して動かなくなる。 残るのは後1つ――だが、壊すのが少し遅くエイリアンが生まれてしまった。
「ちっ」
久志は一旦ケースから離れ、キョーコのもとへ戻る。
キョーコはエイリアンと間合いを取り対峙しあっていたが、久志が近づいてきたのを見るや、わざと態勢を崩す。
与しやすしと見たエイリアンが床を蹴り、一気に距離を縮める。
敵の意識の間隙を縫い、背後から「月詠」が襲いかかる。
「打ち合わせなしでこの連携。ホント、よく出来たカノジョだよ」
覚醒によって生じた大気の歪みを利用するため久志は、あえて至近距離を維持する。攻撃を確実に受け流しながら、ペースを自分にもって行く。
「思ったより速い‥‥! けど、理性と頭脳が足りないな」
足首、膝、腰、肘、腕の付け根。甲殻の透き間に次々打撃を加え、最後に首へ。
1匹倒れた。
「あたしたちのコンビネーションを見せてあげようよっ♪」
即次の個体へ行く。キョーコとともに。
レオポールは涎でベトベトになり転がっていた剣を、何とか取り戻した。だがすることは変わりない。走り回るだけだ。
犬の姿が目立つのか動きに気を引かれるのか、エイリアンが率先して追いかける。
その背後から南雲とD‐58、雪花が攻める。
「輝け‥‥もっと輝け! ミカエル、爆熱彗星拳!」
南雲は不自然に長い後頭部へ「コメットナックル」での一撃を入れる。関節でないから大きくダメージを与えはしないが、相手の注意を乱すにはいい方法だった。
それに気をとられた隙に、D‐58の「ロートブラウ」と雪花の「ティルフィング」が弱点を潰していく。
1体倒れた。
「ここは通行止め、外を当たれ」
出口に陣取っている巴は、近づいてきたエイリアンに「カブロイアM2007」での乱射を浴びせ、退かせてから切り込んだ。
鞭のように振り回される腕が頭上を掠める。「機械剣α」がそれを打つ。雪花たちが間を置かず援護に回る。
また1体沈む。
キョーコらの組も新たに1匹の喉を切り裂き、殺す。
これで場に残ったのは3匹――のはずだ。
だがガラスケースの上を飛び越え間を擦り抜け、絶え間無く動き回っているその数は。
「ム? 気のせいかネ、2匹しかいないようナ‥‥」
●
ジェーン、美優、フェンダーは避難者に同行していた。
美優は泣き出した子供などを慰めている。
ジェーンはフェンダーと先行、わきに空いている通風孔を一々確かめ回る。
「かくれんぼされると大変になるから、先回りするんだよー」
ああいう手合いは狭くて暗いところをひそひそ動くのが好きなはず――そんな彼女の先入観は間違っていなかった。フェンダーが早速、何ほどかの気配を感じ取ったのだ。
「空気の密度が変わったぞえ‥‥奴は‥‥奴は間違いなくこのブロックのどこかに‥‥」
フェンダーがそう言った途端天井の金網が外れ、エイリアンが逆さに顔を出してきた。
ギシャアアアアアア!
その口にジェーンは間髪入れず、「アラスカ454」を打ち込んだ。
「あたしの楽しみを邪魔したのはお前だなぁっ!」
エイリアンは急いで身を引く。そうはさせじとジェーンは「血桜」に持ち替え、相手の長い腕の付け根目がけて切り込んだ。
酸の血が飛び散り、煙を上げる。異形がバランスを崩し落ちてくる。
「展示物の一つにして、施設の偉い人に褒められて、無料パスポート貰ってやる!」
野望を口にジェーンは、そのまま戦闘に入る。
フェンダーがすぐさま呪歌による援護を行った。
「ああ〜我はフェンダー〜お茶目でかわいいシスター〜みんなのアイドル〜♪」
美優は急遽避難者を別の通路へ逃し、加勢に入った。狭い通路内で2人掛かりになるのは難しそうなので、こちらも「シャドウオーブ」による援護に留める。
片方残った腕を振り回しエイリアンは善戦したが、動きが鈍っているのが響く。戦闘はそう長引きしなかった。
●
「「ダブル・ブーストキーック!!」」
キョーコたちのW飛び蹴りで留めをさされたエイリアンが、首を付け根からもがれ四散する。
「あたし達に‥‥」
「敵なし! ‥‥なんて言ったら不遜過ぎるか?」
もう1匹もD‐58組が切り伏せている。
これで格納庫内にいた6匹全てが処分された。気掛かりなのは行方不明の1匹――しかしそれも戻ってきた誘導組から、無事処理したとの報告を得た。
ミッションは終了だ。
「久志とキョーコの愛の力で、楽勝だね」
美優の茶化しなどものともせず、2人は早速お互いをいたわりあっている。
「破傷風にでもなったらどうするのさっ」
「いや、どう考えてもキョーコの方が擦傷多いから‥‥」
彼らをよそに南雲は、エイリアンの残骸を前にレポートを書いている。
「『かくしてエイリアンは‥‥』待てよ。バグアは元々エイリアンだよね? つまり、えーと、キメラもエイリアンだから、今回のアレはエイリアンエイリアン?」
観念の森に踏み迷った彼女の足元では、ケースから出され半ばからびてしまった卵を、ジェーンとフェンダーがつついている。
「あ、まだ水分残ってる」
「お、何か生きのいたまg」
瞬間卵が開き、未知的生物がフェンダーの顔に張り付いた。
ジェーンは驚愕の声を上げる。
「いたんだ、フェイスハガー!」
「もがもがもががg!? 離れんか気色悪いわあ!」
幸いそれは本人の手によりすぐ剥がされた。既に死んでいて、残っていた神経が刺激に反応しただけだったのだ。
「ええい、我の美貌によだれがついてしもうたではないか‥‥今回の貸しは300もふもふじゃレオポール!」
八つ当たりながら彼女は、転がっている犬の尻尾で顔を拭く。
彼は精根尽きており、真っ白なぼろ雑巾と化していた。今しばらく動けそうにない。
「さてト、万事解決ネ。ではワタシはこれデ」
帰りかけた雪花の肩を、巴ががしりと掴む。
「疑い晴れてませんよ」
「何のコトネ。ワタシこの後山にマンドラゴラ取りにいかねばならぬのコトヨ」
「それは警察に行った後でするべきですね」
「イヤイヤ違うネお巡りサン。エイリアンの卵持てたのあの犬ヨ。ワタシ見たヨ。彼がエイリアンに恍惚とした視線を向けるのヲ。完全生物だと褒めたたえるのヲ」
「その説明、取調官相手にどうぞ。私はこれから現場聞きこみをしなければなりませんので聞いている暇ないんです」
ごまかせないと見た雪花は、瞬時にAU−KVをバイク体型に変じ、スピンをきかせ逃走した。
「それでは皆サン、再見! さらばネとっつあん!」
「誰がとっつあんだ! 待てえ!」
追いかけて行く巴。
D‐58はカメラを手に、ふうと切なげな息をついた。
「新しいの、買わないと‥‥」