タイトル:エビカニ合戦マスター:KINUTA

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/01 01:50

●オープニング本文


 その日本海を臨む港町には、有名な料理屋が2軒あった。両方全国に展開しているチェーン店の本店だ。

 1軒はカニ料理専門店『カニ満腹』
 もう1軒はエビ料理専門店『エビ放題』

 この2店舗は大通りに向かい合って店舗を構え、毎日しのぎを削りあっていた。当然経営者の仲は悪い。

「へっ。エビなんか食ってるやつの気が知れねえぜ! あんなもん胴以外食うところねえじゃねえか!」

「はっ。カニなんか注文するやつの気が知れないな! あんなもん足以外ほとんど身がないじゃないか!」

「なんだとコラ。カニはな、鍋に出来るんだよ。カニ鍋ってジャンルがあるんだよ。エビ鍋なんてねえじゃねえか、おう?」

「うるせえよ。鍋しかねえんだろカニはよ。カニフライとかあるか? あん? カニドリアとかカニグラタンとかあるか? お?」

「カニクリームコロッケ忘れてんのかボケェ」

 まあ、くだらないといえばくだらない、そして根の深い争いだ。
 このようにして港町は全体がカニ派とエビ派に分かれ、日々いさかいを続けていた。
 そんなある日、この町に危機が訪れた。海から巨大な2匹のキメラ――全長10メートルの大物――が出現したのである。
 その姿、1匹はまごうかたなくカニ。もう1匹はエビ‥‥。

「うわあああああ、もう駄目だー!」

 誰もが恐れおののいた。
 が、しかし。海から顔を出したこのキメラたち、どういうわけだかお互い顔を見合わせるや否や、浅瀬でドカバシ殴り合い、大喧嘩を始めた。
 海が沸き立ち、地が揺れる。
 岸辺から悲鳴が消え、声援が湧き起こり始める。

「負けるなカニー!」

「行け、エビー!」


●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
田村庇昌志(gc7411
20歳・♂・HG
ピエール・アルタニアン(gc8617
20歳・♂・FT

●リプレイ本文

 ナイトフォーゲル『RN/SS−001Deリヴァイアサン』――愛称『超!ド!級!未来勇者号!』の中、ジリオン・L・C(gc1321)は高笑いしていた。

「ククク、愚か者どもめェ!! 勝つのは俺様!! 勇者である俺様の勇者パーティー御一行様にかかればこれしきのこと!」

 彼のテンションの高さはいつものことである。だからもう、誰も突っ込みを入れない。
 ナイトフォーゲル『A‐1ロングボウ』――愛称『ヴォードフォックス』の田村庇昌志(gc7411)は、ULTで目にしてきたキメラの画を瞼に浮かべていた。

「‥‥エビとカニかぁ‥‥あ、あかんよだれ出てもうた」

 キメラに食欲をそそられているのは彼だけでない。
 ナイトフォーゲル『XN−01改ナイチンゲール』――愛称『オホソラ』に乗る最上 憐(gb0002)も同様だ。

「‥‥ん。エビとカニ。食べ放題と聞いて。参上。参上」

 彼女の中ではすでに、キメラ=食料ということになっている。
 敵の体格はおおよそ10メートルに及ぶ。多少戦闘で損傷したとしても、食する部分は残るだろう。
 期待しながら現場にたどり着いたところ、そこには、風変わりな光景が広がっていた。

「‥‥あの2体、どつきあってるな‥‥」

 ターゲットである巨大エビと巨大カニが、町への進攻そっちのけに殴り合っている。
 岸辺ではやじ馬が二手に分かれ、それぞれ「エビ」「カニ」の旗を振り応援している。

「そこだ、いけ、エビ野郎をカニ挟みするんだ!」

「負けるな、一頭身にアッパー食わしたれ!」

 一体これはなんだろう。
 思った終夜・無月(ga3084)はナイトフォーゲル『XF−08Bミカガミ』――愛称『白皇 月牙極式』のコクピットで、今一度依頼内容を見返してみた。
 そして、この町でもとからエビ派カニ派が相克しあっていることを確認する。
 無線で憐が話しかけてきた。

「‥‥ん。これは。人間の。根源的。争いだね。ところで皆。エビ派カニ派。どっち?」

「俺はどちらでもないかな‥‥共に良い所が在るんだけど‥‥」

 彼と同様に庇昌志もまた、中立を主張する。

「俺もやな。うまかったらどっちでもええやん」

 ジリオンはカニ派として力説を始める。

「諸君! カニは好きか! 俺様は好きだ! 温泉地で食べるカニ刺しには震えすら覚えた!!」

 と思ったら続けてこう言い始めた。

「諸君! 海老は、好きか!! 俺様は、好きだ! 初めて食べた海老フライの触感を覚えているか!」

「どっちなんやジリオン」

「うむ、どちらかに決めるのは愚か者の論理だ! ならば俺様は両方を選ぶぞ!! 勇者だからなぁ!」

 察するに、ノンポリということらしい。
 対しナイトフォーゲル『S−02リヴァティー』――愛称『リベルテ・ムスクテール』のピエール・アルタニアン(gc8617)は、傭兵となって初めての戦闘という点に血沸き肉踊っているのか、やたら熱く己の意見を主張した。

「個人的にはエビ派だが、この際そんなことは関係ない! エビやカニの堪能も楽しみだが、まずはこのキメラどもを倒してからだ!」

 真っ当な正論を吐いた後彼は、手持ちの『KVソナーブイ』を2機海上に設置し始めた。今の調子ならどちらかが倒れるまで向かってきそうにもないが――まあ、念のため。
 憐はとりあえずギャラリーへ呼びかけ、退かせる。

「‥‥ん。皆。下がって。下がって。見世物では。ないよ」

 その間もエビはシャコパンチを炸裂させ、カニは巨大ハサミをグーにして振り回し、自分たちだけの世界に入り込んでいた。
 ブイの設置が完了したのを見計らい、傭兵たちは行動を開始する。

「俺たちも混ぜやがれ!」

 まず庇昌志が『KP−06ミサイルポッド』で、小型ミサイルを射出する。
 刺激でエビとカニは初めて殴り合いをさておき、突き出た目を相手以外に向けた。
 そのときにはもう、真の敵が浅瀬を走り接近してきている。
 『ロンゴミニアト』を構えた無月。
 『ユニコーンズホーン』を構えたピエール。
 そして。

「海老とカニィ!! 俺様の栄養源になるのだ!」

 『高分子レーザークロー』を突き出した腕を振り回しているジリオンが。




 憐はキメラが上陸してきた場合に備え、町側に陣取り警戒を行うとする。前衛は残り3人に任せて。
 そのついでに搭乗口を開き、下に呼びかける。とある提案をしようと。
 町でしのぎを削り合っている「エビ放題」「カニ満腹」の経営者はすぐ見つけられた。両者派閥の中心におり、手製の旗を振り回していたからだ。
 その顔、それぞれカニとエビによく似ている。

「‥‥ん。食べ物の。影響かな」

 呟いてから彼女は、さっさと本題に入る。

「‥‥ん。口で。争うより。料理の。味で。勝負する方が。建設的だよ? そこで。私は。エビカニグルメ祭りイベントを。行うことを。推奨する」

 原料はあのキメラ。
 あれをそれぞれの店で調理し参加者や町の人達に振る舞って、どちらがおいしいか決めてもらうのだ。
 言葉だけでは水掛け論にしかならない。結果を出して勝敗を決すればすっきりする。

「‥‥ん。皆に。振る舞って。味で勝負。料理店なら。料理で。勝負が。一番」

 彼女のこの提案に、エビ店長とカニ店長は、あまり乗り気で無さそうだった。そんなことするまでもない、と。

「全体の売上は当グループが勝っているんだ。これこそエビがカニより皆様に愛されている証拠だ」

「株価はこっちのグループの方が方が勝っている! 大体売上が勝るのは当たり前だ。そっちは店舗を水増しし、薄利多売でやっているんだから。だがクオリティを求めるうちはそんなことはしない。一店一店の売上でいけば間違いなくうちが勝つ!」

「なにをう。てめえのところはろくにメニューが作れないから販売網を広げられないだけじゃねえか!」

 キメラそっくりにつかみ合いを始めるいい大人たち。
 憐は聞こえよがしなため息をついた。肩をすくめて。

「‥‥ん。エビ派も。カニ派も。口だけは。一丁前の。根性無しなの? きっと。どっちも。やると。負けると。思ってるんだね?」

 この言葉は、エビカニ両陣営に火をつけた。

「馬鹿を言うな! 足しか取り柄のない連中に負けるはずがない!」

「そうだ! 身しか取り柄のない連中など恐れるに足らん!」

 盛り上がりに内心ほくそ笑みながら憐は、太陽の逆光を背景に、高みからビシっと指を突き付けた。

「‥‥ん。なら。行動で。信念を示して」

 そんなドラマが繰り広げられている間、浅瀬では戦闘が始められている。



 無月はエビ、ピエールはカニへと向かって行く。

「行くで‥‥もってっけー!」

 庇昌志による援護を背にしながら。

「力での争いは更なる力で潰される‥‥その無常さを訓えよう」

 『ロンゴミニアト』はまず、エビの捕脚を捕らえた。見ている限りエビキメラ最大の武器はそこだ。
 食べることを目指しているメンバーがいるので、なるべく身は傷つけぬよう注意しつつ、一息に右、そして左の捕脚を攻撃する。
 先端部分に仕込まれた火薬が爆発し、その部分が吹き飛んだ。

「二体のキメラは己の誇りを賭けて争いあっている。ならば彼らの戦いに割り込む俺自身も誇りを持って闘うべきだ!」

 『ユニコーンズホーン』が、カニの振りかぶってきた上腕目がけ突き出される。堅い甲殻を槍が貫き破壊する。
 大鋏が片方取れて、本当のシオマネキになった。
 怒っているのかカニは、口から大量の泡を噴いた。そして、横向きになる。ピエール目がけ突進するためだ。
 まだ無事な方の左上腕を突きだしているさまは、なんとなく、フェンシングでもしているみたいに見える。

「その勝負なら負ける気がしないな!」

 武器を無くした相手なら優位と見、ジリオンがエビに殴り掛かかった。背後から。

「うおぉぉぉぉっ! 勇者っ! パアアアアアンチ!!」

 エビはというと、その騒がしい物音を受け反射的に、後方へ飛び下がった。
 習性だから仕方ないが、ジリオンは不意を衝かれ弾き飛ばされる。
 その先には、KVを人型に変形させ参戦してきた庇昌志が。

「ちっ、懐にっ! ――チェストォォォォォォォォ!!」

 彼はとっさに受けの姿勢を取る。
 転びそうになるもなんとか持ち直した。その間に無月が、『雪村』の二刀流に持ち替え、長く堅い髭、脚を、次々跳ね飛ばして行く。

「‥‥気ぃぬいたらあかんな‥‥」

 姿勢を戻した庇昌志はすぐカニに意識を向け、『ガトリング砲』を浴びせた。
 こちら脚も手もまだ残っているので優先すべきと判断したのだ。

「狙いを定めて‥‥ファイヤ!」

 『ユニコーンズホーン』とさしでやりあっていたカニは相手の武器をうまく挟みこんでいたが、衝撃でうつ伏せに倒れ、うっかり手を離してしまった。
 起き上がった時には上腕の付け根に、真っすぐ刃先が食い込んできた。残っていた大鋏も取れる。
 カニに必要なのは主に手足。
 それの損傷を最大限に押さえるため、庇昌志は幅広い背中目がけ再度砲撃を行う。

「そこっ! 当たれっ!」

 カニの背中がへこんだ。次いでジリオンがチョップをたたき込む。背後から。

「勇者チョオオオップ!」

 『ユニコーンズホーン』が、深々目と目の間へ差し込まれた。
 カニは泡をふき、ばったり倒れる。
 一方エビは、攻撃手段を全て失いつつも体中の筋肉で跳ね、浅瀬を転げ回り、港付近へ近寄って行く。
 攻撃の意図は無さそうだがこれはこれで危険。
 というわけで憐は、 人々をも少し後ろに下がらせた。

「‥‥ん。キメラが。来そう。危ないので。避難して」

 『グレートザンバー』を手に、一気に接近する。

「‥‥ん。食べ放題の。為に。一刀両断で。成仏して貰う」

 無月の手により抵抗手段を失ったエビは、もはやまな板の上の鯉。どこを狙えばいいか、それはもうはっきりしている。
 長大な刃が首の部分に食い込み、そのまますんなり下へ落ちた。
 身はほとんど無傷だ。

「よぉーし‥‥やったで」

 庇昌志はうれしげに膝を叩く。殻をはぐだけで完全なエビフライとなる姿に化した、大型キメラを前に。



「はい、こちら現在エビカニグルメ祭りが行われております会場から中継です」

 にこやかな女子アナがカメラを引き連れ、街頭撮影をしている。

「それでは今から店内潜入を‥‥」

 笑顔で言いかけたところ、突如画面に変な奴が飛び込んできた。

「とーぅ! 俺様は! ジリオン! ラヴ! クラフトゥ!‥‥‥‥未来の勇者だ!」

「‥‥ええと、現地の方でしょうか。早速お話を聞いてみましょう。どうです、今回のイベントは」

 怪しい男は質問に答えず、手にしたふかしたてのエビまんとカニまんを貪り食う。カメラに鼻を近づけんばかりにして。

「ぬふほ! もえははの‥‥ブハァ。俺様の胃袋が満ちる! 満ちるぞ‥‥クク、美味だ。これこそ勇者の贅沢‥‥なんだ!? 羨ましいのか、やらんぞ! やら‥‥」

「はい、それではいったんスタジオにお返しします」

 表情を変えず女子アナ一行は逃げて行く。
 はた迷惑にもジリオンは追いかけて行く。

「おいこらどこに行く! まてー! こらー! この勇者を映さんでどうするか!」

 彼らが入り損ねた『エビ放題』の店内では、憐が、テーブル一つ占領している料理群を胃袋へ収めていた。
 エビフライ・パスタ・お好み焼き・グラタン・クリームコロッケ・ロールキャベツ・ハンバーグ・天丼・かき揚げ・シーフードカレー・エビチリ・チャーハン・水餃子・春巻・八宝菜・マリネ・ちらし寿司・天麩羅‥‥‥和洋中より取りみどりだ。

「‥‥ん。おかわり。凄く。おかわり。全力で。おかわり。料理人の。意地を。見せて」

 ピエールは、彼女がそれらをきりなく体内へ投入していくのを眺める。
 彼はフランス風に小エビのクリーム煮パイ添えなど食べているのだが、見ているだけでお腹一杯になってしまい、お代わりを頼む気になれそうもない。
 ひとまずこの勝負、町の更なる活性化には繋がったようだ。が、和解の切っ掛けになるかどうかはよく分からない。町のあちこちに投票箱を置いて、張り合っていることだし。自分はどっちに投じたらいいものか。

「‥‥ん。まあ。私は。両方に。票を。投じておくよ」

「なるほど。そういう手もありますか。ところでまだ召し上がるんですか、憐さん」

「‥‥ん。材料は。たっぷり。ある。食べ放題は。私が。満腹になるか。材料が無くなるまで。終わらないよ」



 ところ変わって『カニ満腹』。

「いやぁー一仕事した時の飯はうまいものやな!」

 庇昌志はカニ釜飯を堪能している。
 店内のお品書きに目を通してみれば、刺身・焼きガニ・カニ鍋・ゆでガニ・カニグラタン・カニクリームコロッケ・パスタ・寿司‥‥等々、まだまだ食べたいものが盛りだくさん。

「しかしあれや、エビカニで被るメニューて、結構あるわな」

「そうですね。実を言えば味や食感や、どっちも似てるんだと思いますよ。まあちょっと食べてみてください」

 言いながら無月は彼の前に、手製創作料理の皿を出す。
 それは中華風あんかけ団子だった。食べてみると、プリプリした白身がおいしい。

「これ、どっちだと思います?」

 庇昌志は考えたが、すぐ降参した。

「いや、わからへんわ。どっちなん」

 無月がそれを見て、おかしそうに笑う。

「どっちも入ってるんですよ。さっき両方の支持者の人に食べてもらったんですが、分からない人、結構多かったですね。だから、その程度のことなんです」

 一瞬気を抜かれたような顔をした庇昌志は、やがて相手以上に笑いだした。さよか、と言いながら。

「俺はカニもエビもどーんといけるクチやねん。ほなおかわりちょーだーい」